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米景気減速・インフレ鈍化とリスク選好~円相場へのインパクト
  • MRA外国為替レポート

2024年7月8日号

◆先週の市場総括


先週は円安が一段と進行。ドル円相場は一時162円をつけ、ユーロ円相場はユーロ発足以来の高値を更新し174円台に上昇した。米大統領候補者討論会でトランプ前大統領が優勢との見方からインフレ期待が強まり米長期金利を押し上げた。

欧州の政治情勢変化による財政拡張観測も欧州長期金利押上げ要因に。日銀のさらなる金融正常化観測が強まったが内外金利差が容易に縮小しないとの見方が円安を支えた。一方、米国の経済指標は弱めの数字が続き、利下げ観測が強まって長期金利上昇から低下に転じた。

週末の雇用統計は労働市場の緩和を示し利下げ観測が強まった。ドル円相場は160円80銭近辺に下落して引け。一方、ユーロ円相場は高値圏で推移し174円台前半で引け。

米国株はハイテク株が堅調。ナスダック、S&P500指数は週末に史上最高値を更新。日経平均も物色が広がり金曜日には一時41,100円をつけて取引時間中の史上最高値を更新した。

月曜日の東京市場では日経平均が小幅高。発表された日銀短観で大企業・製造業の業況判断DIが小幅ながら改善して横ばい予想を上回った。円安も支え。ただ4万円の大台を前に、イベントも控え上値追いも慎重だった。引けは前週末比+47円高の39,631円。

日銀短観は大企業製造業の現況判断DIが前回11から13へ、先行き判断が11から14へ改善。一方、非製造業は現況が34から33へ小幅悪化、先行きは27で変わらず。

中国の財新製造業PMI(6月)は前月51.7から51.8へ小幅改善した。

フランス総選挙は想定通り右派が躍進したが予想よりも票が伸びずに過半数に至らず一定の安心感をもたらした。

ドル円相場は160円80銭で始まり上昇して161円ちょうどを挟んで上下。夕刻から欧米市場にかけてさらに上昇して161円40銭へ。

発表された米国のISM製造業景気指数が弱かったことから161円ちょうどに下落したがすぐに反発して70銭台に上昇し、引けにかけては161円40銭~50銭でもみ合い。ユーロドル相場は1.0730で始まり夕刻から欧州市場では1.0750~70台で上下した。米国市場では下落して1.0720も引けは1.0740。

ユーロ円相場は172円70銭で始まり夕刻から欧州市場にかけては173円40銭まで上昇して10銭~40銭で上下。米国市場ではさらに173円60銭台に上昇したあと引けは173円30銭。ユーロ発足以来の高値を更新した。

発表された欧州のPMI製造業景況感指数(6月改定値)はユーロ圏が速報45.6から45.8へ、ドイツが43.4から43.5へ小幅上方修正された。ドイツCPI(6月速報)は前年同月比+2.2%と前月+2.4%から小幅低下した。

米国のISM製造業景気指数(6月)は前月48.7から49.2への改善予想に反して48.5へ悪化。雇用判断は51.1から49.3へ、価格判断は57.0から52.1へそれぞれ低下した。PMI製造業6月改定値は速報51.7から51.6へわずかながら下方修正。

米長期金利はトランプ大統領候補が討論会の結果優勢とみられたことでインフレ懸念から上昇。10年債利回りは一時4.49%に上昇し4.468%。2年債は4.76%。米国株は小幅高。

ISM景気指数が弱く上値を抑制したが、下半期取引初日で資金流入期待から堅調。NYダウは前週末比+50ドル高の39,169ドル、ナスダックは+146ドル高の17,879ドルで引けた。

火曜日の東京市場では日経平均が大幅上昇。円安で輸出関連株が買われたほか、バリュー株が上昇、長期金利上昇で銀行株にも買い。短期筋が先物買いを活発化させた。引けは前日比+443円高の40,074円。4万円の大台を回復した。

ドル円相場は底固いながらも小動き。161円40銭~50銭で始まり午後から欧州市場、米国市場朝方にかけて60銭~70銭で小動きもみ合い推移。パウエル議長の発言で一時161円20銭台に下落したがすぐに60銭に反発し引けは161円40銭近辺。

ユーロ円相場は173円30銭台で始まり50銭近辺を中心にもみ合い推移。欧州市場では173円10銭近辺にやや下落したが底固く、米国市場にかけてじり高となり引けは173円50銭近辺。

ユーロドル相場は1.0740近辺で始まりじり安、夕刻から欧州市場にかけて1.0710へ小幅安。その後は下げ止まり1.0720~50で上下して引けは1.0750。

米国株は上昇。テスラ株が大幅高となりハイテク株全般に買いが波及した。長期金利低下も下支え。ナスダックは前日比+149ドル高の18,028ドル、NYダウは前日比+162ドル高の39,331ドルで引け。

米10年債利回りは4.438%へ、2年債は4.752%へ低下。

発表された雇用動態調査(5月、JOLTS求人件数)は8,140千件と予想より多かったが、前月が8,059千件から7,919千件に下方修正されたことで反応はまちまち。

パウエル議長は、PCEはかなりのインフレ鈍化進展を示し好ましい、としつつ、利下げに踏み切るにはさらに確証を得ることが必要、と述べた。

水曜日の東京市場では日経平均が大幅続伸。米ハイテク株、ナスダックが堅調。半導体関連に加え電子部品関連に物色が広がった。円安も支え。引けは前日比+506円高の40,580円。

ドル円相場は161円40銭で始まり60銭近辺に上昇してもみ合い。夕刻から欧州市場にかけて一段高となり162円ちょうどに上昇し161円80銭~162円で上下。米国市場に入ると弱い経済指標を受けて一時160円80銭に下落。その後反発して161円60銭~70銭で引け。

欧州のサービス業PMI(6月改定値)はユーロ圏が速報52.6から52.8へ上方修正、ドイツは53.5から53.1へ下方修正。米国は速報55.1から55.3へ上方修正された。

ADP雇用報告(6月)は雇用者数前月比が前月+157千人から+150千人に増加ペースが鈍化。週次の失業保険申請件数は新規が前週233千件から238千件へやや増加、継続受給も1,839千件から1,858千件へ増加した。

ISM非製造業景気指数(6月)は前月53.8から48.8へ悪化し4年振りの低水準。景況感の分かれ目である50を割り込んだ。雇用指数は47.1から46.1へ、新規受注指数は54.1から47.3へ悪化した。価格判断は58.1から56.3へ低下。

製造業新規受注(5月)は前月比▲0.5%と前月+0.7%から減少に転じた。

米長期金利は低下。10年債利回りは4.354%へ、2年債は4.707%へ。

ユーロドル相場は東京市場では1.0750で始まり小動き横ばいもみ合い。米国市場に入ると1.0810へユーロ高ドル安。その後は反落して引けは1.0780近辺。

ユーロ円相場は173円50銭で始まり夕刻から欧州市場にかけて上昇して174円30銭をつけ10銭~30銭近辺で上下動。米国市場に入ると一時50銭に上昇したあと173円80銭に反落したがその後は174円台前半で上下して引けは174円30銭。

米国株はまちまち。指標を受け長期金利が低下したことでハイテク株は支えられた。この日は祝日前で短縮取引。利益確定売りが上値を抑制した。NYダウは前日比▲23ドル安の39,308ドル。ナスダックは+159ドル高の18,188ドル。

6月11日・12日に開催されたFOMC議事要旨では、景気は減速基調、金利水準は適切、インフレ圧力の緩和を確認、インフレ低下の確固たる自信を得るも、さらなるデータが必要、とされた。

木曜日の東京市場では日経平均がバブル後高値、史上最高値を更新した。日本株全体に見直し買いが続き、主力株・値がさ株が買われた。国内金利先高観で金融・保険が強かった。引けは前日比+332円高の40,913円。

ドル円相場は161円60銭で始まり上値の重い展開。弱い米国の経済指標や米国市場が休日となるため手仕舞いのドル売り・円買い戻しが優勢となった。

朝方161円10銭台に下落したあと60銭近辺に持ち直し。しかし欧州市場早々から軟調となり161円割れに下落。その後は持ち直して引けは161円30銭近辺。

ユーロ円相場は174円30銭で始まり朝方174円割れに下落。その後は10銭~30銭で上下したが欧州市場で173円80銭に下落。引けは戻して174円40銭近辺。

ユーロドル相場は1.0780~90でもみ合い横ばい。欧州市場では1.08ちょうど近辺に上昇してもみ合い。引けは1.0810近辺。

米国市場は独立記念日で休場。公表されたECB理事会議事要旨では、長期的インフレ見通しは不確かでも利下げが遅れ景気悪化下振れリスクが拡大することに配慮して利下げを行った、とされた。

金曜日の東京市場では日経平均が一時41,100円台の取引時間中の史上最高値をつけた。ただ引けは前日比▲1円安の40,869円。百貨店株が軒並み上昇、防衛関連にも買いが広がるなど物色が広がった。

ただ米雇用統計を控え、大幅上昇後の週末でもあり伸び悩んだ。

為替市場でもポジション調整の動きで円安一服。ドル円相場は161円30銭~40銭で始まり昼頃には160円50銭台に下落。その後、欧州市場から米国市場朝方にかけては160円60銭~90銭で上下した。

米雇用統計は労働市場の緩和を示した。発表直後は160円30銭台に下落したあと161円30銭近辺に反発するなど乱高下。その後161円割れに反落して160円70銭~90銭近辺で上下して引けは160円80銭。

6月の米雇用統計は非農業部門雇用者数前月比増減が+206千人、前月が+272千人から+218千人へ大幅下方修正。3ヵ月平均は+200千人割れに減少。失業率は前月4.0%から4.1%へ小幅上昇。平均時給は前年同月比+3.9%と前月+4.1%から上昇率が低下して3年振りの水準まで低下した。

総じて労働市場の緩和を示し利下げ観測が強まり、市場が織り込む9月利下げ確率は7割から8割程度に上昇した。米長期金利は低下。10年債は4.278%、2年債は4.606%へ。

ドルは対ユーロでも軟調。ユーロドル相場は東京市場では1.0810近辺でもみ合い、底固く推移して欧州市場は1.0830。米国市場の引けは1.0840近辺。ユーロ円相場は174円40銭で始まり173円80銭に下落。その後は持ち直して欧州市場では174円を挟んでもみ合い。米国市場では174円ちょうど~30銭で推移して引け。概ね横ばい推移となった。

米国株は堅調。利下げ観測が強まり長期金利が低下したことが支えとなった。ハイテク株がしっかり。ナスダック、S&P500指数が史上最高値を更新した。ただ休日と週末の谷間で商いは低調だった。ナスダックは前日比+164ドル高の18,352ドル。NYダウは+67ドル高の39,375ドル。

同日に発表されたカナダの雇用統計(6月)では、新規雇用者数は前月+26.7千人から▲1.4千人と減少に転じ、失業率は前月6.2%から6.4%に上昇した。

◆今週の3つの注目ポイント


1. パウエル議長議会証言

今週、パウエル議長は半期に1度の議会証言を行う。火曜日に上院銀行委員会で、水曜日に下院金融サービス委員会で証言。最近のデータは雇用減速、インフレ鈍化を示しており、これらを受けてFOMC時点のニュアンスに比べて、利下げに前向きな姿勢がみられるか。

ほかシカゴ連銀総裁、ボウマン理事が水曜日に、アトランタ連銀総裁やセントルイス連銀総裁が木曜日に発言の機会がある。景気物価動向の評価や利下げに傾いたかが注目される。

2.米国の経済指標

今週は物価統計に注目。さらにインフレ鈍化が確認されるか。

木曜日 消費者物価指数(6月、CPI、前年同月比、総合指数、予想+3.1%、前月+3.3%、コア指数、予想+3.4%、前月+3.4%)

金曜日 生産者物価指数(同、総合指数、予想+2.3%、前月+2.2%、コア指数、予想+2.5%、前月+2.3%)

ほか、木曜日に週次の失業保険申請件数が発表されるが雇用緩和傾向がみられるか。金曜日にミシガン大学消費者態度指数(7月速報、予想68.2、前月68.2)が発表される。期待インフレ率が落ち着きを示すかにも注目。

3.日本の経済指標

月曜日に国際収支(5月)が発表される。すでに発表されている通関統計から貿易収支は赤字幅が前月から拡大し1兆2千億円弱の赤字が予想されている。一方、経常収支は黒字が増加すると見込まれている。

旅行収支の動向、デジタル赤字を表象するその他サービス収支の動向はどうか。

月曜日にはまた景気ウォッチャー調査(6月)が発表となる。現状判断は前月45.7から46.1へ、先行判断は46.3から46.5へ、ともにやや改善すると予想されている。

木曜日には機械受注(5月)が発表される。前年同月比は予想+7.1%へ前月+0.7%から加速が予想されている。総じて日銀の金融政策のさらなる正常化、利上げや国債購入減額の判断の支障とならないかが注目点。

その他、水曜日に中国で生産者物価・消費者物価(6月)が発表となる。引き続き需給の緩和やデフレ圧力を示すか。

◆今週のMRA's Eye


米景気減速・インフレ鈍化とリスク選好~円相場へのインパクト

このところの米国の経済指標は景気減速、雇用緩和、インフレ鈍化、を示している。先週末にかけて利下げ観測が強まり、市場の9月利下げ織り込みは8割程度まで高まった。米国景気は底固く、インフレ鈍化は停滞している、との見方が利下げ遅延の背景だったが、足元で変化がみられる。

5月の雇用統計は予想以上に強く、非農業部門雇用者数増加が前月比+275千人と予想を上回る大幅増加。インフレ低下の停滞懸念とあいまって利下げ遅延との見方を後押ししていた。

ただ他の雇用関連指標は労働市場の緩和を示しており、雇用統計のみが雇用堅調を示していたことで、雇用堅調との見方には疑義もあった。そうしたなか先週末に発表された6月の雇用統計では、非農業部門雇用者数増加幅の前月分が+272千人から+218千人へ大きく下方修正された。

さらに6月分は+206千人増へ減少。3ヵ月平均が+200千人を下回ってきた。これは2010年以降コロナ禍前までの平均値にほぼ一致。ADP雇用報告では前月比雇用者数増加が+150千人と3ヵ月連続で減少した。

コロナ対策としての財政金融政策による強力な景気刺激策、コロナ禍からのリバウンドによる景気過熱、雇用市場の過熱が解消した。現状の政策金利が景気に対して抑制的で、雇用需給の緩和を通じてインフレを抑制するのに十分なことを示したかたち。

企業の景況感にも翳りがみえる。5月のISM景気指数が強かったことも利下げ遅延観測を強めていたが、先週発表された6月のISM指数は一転して悪化。製造業は48.5と景況感の分かれ目である50を下回ったまま鈍化。非製造業も一転して50割れ、48.8へ大きく悪化して4年振りの低水準となった。

雇用判断はいずれも50を割っている。価格判断は50を上回っているものの前月から低下した。受注判断は製造業が持ち直したものの49.3で50を下回ったまま。非製造業では前月の54.1から47.3へ大きく悪化してこちらも50を割り込んだ。

6月のFOMCではなお利上げの可能性を主張する意見もあったようだ。しかしその後のデータはインフレ圧力の緩和を示している。消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前年同月比+2.6%まで低下。目標の2.0%までまだ距離はあるが、パウエル議長は好ましい数字と述べている。

直近のFOMCではインフレ低下の確固たる自信を得るにはさらなるデータが必要、とのスタンスだった。最近のデータは利下げに追い風だが、さらに今週の物価指標が利下げに向けた前向きな議論につながるか。あらためてパウエル議長が議会証言でインフレ鈍化の進展を認めるか。

こうした状況は米国の長期金利の低下を促している。大統領選挙でトランプ前大統領が優勢との見方が、金融為替市場で「インフレトレード」、長期金利上昇とドル高にかける動きがみられた。

しかしそうした将来リスクをみつつも、再び景気減速・雇用緩和・インフレ鈍化を重視するトレードに戻った。

株式市場は適度な景気減速やインフレ鈍化を好感。利下げ観測が強まり長期金利が低下したことを追い風に、ハイテク株中心に株価は堅調。ナスダックとS&P500指数は史上最高値を更新した。日本株も堅調。日経平均は週末に41,100円台と取引時間中のバブル後最高値を更新した。株価動向が示すとおり市場のリスク選好は強まっている。

金利動向からは内外金利差、とくに日米金利差の縮小がドル高円安にブレーキをかけそうだ。ドル円相場は162円まで上昇したが週末は160円台後半に反落。これで円全面安にブレーキがかかり、さらに円高方向に修正することが期待されるが、リスク選好の強まり、株高が円高にブレーキをかけそうだ。

直近の弱い米経済指標、米長期金利低下、で、ドルには下落圧力はかかるが、米国株堅調・リスク選好・日本株堅調は円の下落要因に。ユーロ円相場は史上最高値174円に達しているが、それが下落に転じるか。

米国株は景気敏感株に陰りもみえる。ここからは景気悪化・インフレ鈍化・金利低下・株価軟調となれば、次第に円高に水準をシフトすると想定される。ただそれにはもう少し時間がかかりそうだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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