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  • MRA外国為替レポート

2024年7月1日号

◆先週の市場総括


先週は日本の当局から円安牽制発言があったものの、内外金利差が開いた状態がなお続くとの見方を背景に円安が一段と進行した。とくに内外金利差が拡大したわけではないが、金利差そのものが当面継続するとの見方が背景。

FRB当局者から早期利下げに慎重な発言が相次ぎ、9月利下げ期待がやや後退。米長期金利が底固くやや上昇したこともドル円相場を支えた。

ドル円相場は一時161円20銭をつけて週末の引けは161円80銭近辺。一方、円は対ユーロでも最安値を更新した。ユーロ円相場はユーロ発足以来の最高値172円台に到達。週末引けは172円40銭。ドル高というよりむしろ円全面安となった。

四半期末のフローが相場を左右し本邦輸入企業による外貨手当て、円売りが円安を加速させたともみられる。日本株は堅調に推移し39,000円台半ばで引け。AI需要への期待は根強く半導体関連は堅調、国内金利上昇観測から金融株も堅調。円安を受けて輸出関連株もしっかり。

月曜日の東京市場では日経平均が反発。円安ドル高で輸出関連株が上昇。一時前週末比+300円超上昇。ただ米ハイテク株の上値が重かったことで半導体関連株の重石となり伸び悩んだ。引けは前週末比+208円高の38,804円。

ドル円相場は159円70銭~80銭でもみ合い。欧州市場に入ると介入警戒感から一時158円80銭に下落した。ただすぐに反発して159円60銭へ。米国市場では70銭近辺で推移して引けは159円60銭。

ユーロ円相場は170円80銭で始まり171円をつけたあと60銭に反落。ただ夕刻にかけてはじり高となり171円20銭。介入警戒感による円買い戻しで一時170円30銭に下落したがすぐに反発して171円ちょうど~20銭で推移。

米国市場では20銭~40銭で上下して引けは171円30銭近辺。ユーロドル相場は1.0690で始まり欧州市場にかけてじり高。1.0740へ上昇。その後は1.0720~40でもみ合い引けは1.0730。

公表された日銀金融政策決定会合(6月)の主な意見では利上げに向けて前向きな発言がみられた。

欧州で発表されたドイツIFO企業景況感指数(6月)は前月89.3から88.6へ予想に反して低下し、ドイツ経済がなお停滞から抜け出せていないことを示した。

米長期金利は小幅低下。10年債は4.234%、2年債は4.727%。米国株はまちまち。下げていた景気敏感株、ディフェンシブ株が買われる一方、ハイテック株は下落。セクターローテーションの動き。ダウは一時+400ドル高のあと引けは+260ドル高の39,411ドル。ナスダックは▲192ドル安の17,496ドル。

火曜日の東京市場では日経平均が続伸。米国で景気敏感株・ディフェンシブ株が買われた流れで幅広い銘柄に買い。一時+400円超上昇。銀行・保険などバリュー株が上昇した。引けは+368円高の39,173円。

ドル円相場は終始小動き。159円60銭で始まり40銭中心でもみ合い。欧州市場に入ると一段上昇し米国市場にかけて159円70銭中心にもみ合い引けた。

ユーロ円相場は171円30銭で始まり朝方170円90銭に下落したがすぐに反発して171円10銭~30銭で推移。欧州市場では170円70銭台~171円ちょうどで上下し米国市場では171円ちょうど~10銭で推移して引けた。

ユーロドル相場は1.0730~40でもみ合い推移のあと、欧州市場では1.0690に下落。米国市場では反発して1.0710~20で推移して引けた。

米国で発表された経済指標は総じて弱かった。消費者信頼感指数(6月)は前月が102.0から101.3に下方修正され、当月は100.4に低下。リッチモンド連銀製造業景気指数(6月)は前月0から▲10へ悪化した。

米国株は景気減速感が強まったこと、一方でFRB当局者から利下げに慎重な発言が続いたことから警戒感が強まった。NYダウは前日比▲299ドル安の39,112ドル。ナスダックは逆に+220ドル高の17,717ドル。

米長期金利は上昇。10年債は4.248%、2年債は4.745%。この日発表されたカナダの消費者物価指数(CPI、5月)は前年同月比+2.9%と+2.6%への鈍化予想に反して前月+2.7%から上昇が加速。米長期金利の上昇圧力となった。

水曜日の東京市場では日経平均が続伸。米ハイテク株上昇、このところ下落していたエヌビディア株が反発、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)が上昇。日本株も半導体関連株が強まり全体を牽引した。引けは+493円高の39,667円。

為替市場では円安が進んだ。ドル円相場は159円60銭~70銭で始まり80銭近辺で推移。欧州時間に入ると160円80銭まで上昇。米国市場では60銭~80銭で推移し引けは160円80銭。

ユーロ円相場は171円10銭で始まり30銭台に上昇したが夕刻から欧州市場にかけてユーロ安に押されて170円80銭に反落した。その後は底固く171円50銭に反発171円割れに押される場面もあったが底固く171円60銭~80銭で上下して引けた。ユーロ円相場はユーロ発足以来の高値。円の最安値。

ユーロドル相場は1.0720で始まり10近辺でもみ合い。欧州市場ではドル高を受けて1.0660台へ下落。米国市場では1.0680~90でもみ合い引けた。

米国株は小幅高。ハイテク株が上昇した一方、長期金利上昇は重石。複数のFRB高官から利下げに慎重な発言が続き9月利下げ期待は後退。ボウマン理事は、まだ利下げするのは適切ではなくインフレ再燃リスクがみられる、と述べた。

この日発表されたオーストラリアの消費者物価指数(CPI、5月)が前年同月比+4.0%と前月+3.6%から加速して予想を上回った。前日のカナダに続き豪州でもインフレ率が反発上昇したことも、利下げ期待の後退、米長期金利上昇を後押し。

10年債は4.329%、2年債は4.753%。

NYダウは前日比+15ドル高の39,127ドル、ナスダックは+87ドル高の17,805ドル。発表された新築住宅販売(5月、季節調整済み年率換算)は619千戸と前月634千戸から減少した。

木曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反落。前日まで3日間で1,000円ほど上昇していたことから短期的な過熱感が強まっており利益確定売りが優勢となった。値がさ株中心に売り。引けは前日比▲325円安の39,341円。

ドル円相場は160円80銭で始まり介入警戒感もあり上値重く下落して30銭~40銭で推移。ただその後欧州市場にかけては底固く30銭~60銭で上下、米国市場では160円80銭に上昇して引けは160円70銭近辺。

ユーロ円相場は171円70銭で始まり40銭~60銭で上下。その後欧州市場にかけて上昇し米国市場でも172円10銭中心に上下して引けた。ユーロ円相場はユーロ発足以来のユーロ高値・円安値を更新した。

ユーロドル相場は1.0680で始まり夕刻は1.0690中心に推移。欧州市場から米国市場にかけて1.0720台へ上昇し引けは1.07ちょうど~1.0710。

米国株は小幅上昇。米国債入札が堅調で長期金利が低下したことが支え。AI需要への期待は根強くハイテク株の一角が買われた。NYダウは前日比+36ドル高の39,164ドル、ナスダックは+53ドル高の17,858ドル。

米10年債利回りは4.286%、2年債は4.712%。

発表された米国の週次の失業保険新規申請件数は233千件と前週238千件からやや減少したが、継続受給件数は前週1,828千件から1,839千件に増加した。耐久財受注(5月)は除く輸送機器のコアが前月比▲0.1%と弱かった。アトランタ連銀総裁は、10-12月期に利下げする可能性が高い、と述べ、市場の9月利下げ期待が後退した。

金曜日の東京市場では日経平均が反発。半導体関連が上昇を牽引。円安で輸出関連株に買い。また国内に金利上昇圧力がかかるとの見方で金融株も買われた。引けは前日比+241円高の39,583円。

為替市場では四半期末の輸入企業による決済とみられる円売りで午前中にさらに円安が進んだ。ドル円相場は160円70銭で始まり161円20銭へ上昇。その後は下落して160円90銭~20銭、さらに160円80銭~161円ちょうど、とレンジを切り下げながらもみ合い。欧州市場に入ると160円20銭台まで下落した。

ただその後強めの米経済指標を受けて161円ちょうど近辺へ反発、160円80銭~161円ちょうどでもみ合い引けは160円80銭。

東京都区部のCPI(6月)は除く生鮮食品で前年同月比+2.1%と前月+1.9%から上昇加速。米国の個人所得・消費支出(5月)は前月比それぞれ+0.5%・+0.2%で予想に対し所得は強め、消費は弱めだった。

注目の消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前年同月比+2.6%と前月+2.7%から低下。コア指数でも+2.8%から+2.6%へ低下しインフレ率の低下基調を示した。

一方シカゴ購買部協会景気指数(6月)は前月35.4から47.4へ大幅に上昇。ミシガン大学消費者態度指数(6月確報)は速報65.6から68.2へ上方修正された。一方、期待インフレ率は1年が速報の3.3%から3.0%へ、5年-10年が3.1%から3.0%へ、それぞれ下方修正された。

ユーロ円相場もドル円相場と同様の値動き。172円10銭で始まり朝方40銭に上昇。その後は上値重く172円ちょうど~20銭でもみ合いのあと、欧州市場では171円40銭台に下落した。ただ米国市場では急反発して172円40銭近辺でもみ合いそのまま引け。

ユーロドル相場は1.07ちょうど近辺で始まり上値重くもみ合い。ただ欧州市場では1.07中心に底固く上下し米国市場では一時1.0720台に上昇して引けは1.0710近辺。

米国株は下落。前日の決算を受けてナイキ株が急落して全体を押し下げた。機関投資家による四半期末・半期末のリバランス、持ち高調整の売りも入ったとみられる。次週7月4日木曜日が独立記念日で休場となるため長期休暇をとる向きもあり売りが嵩んだ。

午後に長期金利が上昇したことも重石。10年債は4.392%へ、2年債は4.749%へ上昇した。

◆今週の3つの注目ポイント


7月4日木曜日は独立記念日で米国市場が休場。谷間の金曜日は重要指標の発表があるが、ロングウィークエンドをとる市場参加者も想定され、取引の薄いなか荒れ相場となるリスクに留意。

またそうした市場環境だけに円買い介入が実施される可能性も一応意識する必要があるか。

1.米国の経済指標

今週は重要な経済指標が相次ぐ。このところ米国では設備投資や消費の実数値、雇用に鈍化がみられる。企業景況感のみ良好だが、今週の数字が総じて米国景気の底固さ・悪化いずれを示すか。

月曜日 ISM製造業景気指数(6月、予想49.2、前月48.7) PMI(6月製造業改定値、速報51.7)

火曜日 雇用動態調査(5月、JOLTS求人件数、予想7,864千件、前月8,059千件)

水曜日 ISM非製造業景気指数(6月、予想52.5、前月53.8) PMI(6月サービス業改定値、速報55.1) ADP雇用報告(6月、雇用者数前月比、予想+158千人、前月+152千人) 製造業新規受注(5月、前月比、予想+0.3%、前月+0.7%) 週間新規失業保険申請件数

金曜日 雇用統計(6月、非農業部門雇用者数前月比、予想+188千人、前月+272千人、失業率、予想、前月4.0%と変わらず、平均時給、前年同月比、予想+3.9%、前月+4.1%)

2.FOMC議事要旨、ECB理事会議事要旨

今週は米欧の直近の金融政策決定会合の議事要旨が公表される。あらためて利下げスタンスの強弱が確認される。水曜日にFOMC議事要旨が公表される。

同会合ではメンバーの予測で年来利下げが1回ないし2回と減少。タカ派、ハト派、議論にいかなる変化があったか、利下げを阻む要因、景気物価判断はどうか。

木曜日にはECB理事会議事要旨(6月6日開催)が公表される。同会合では利下げが実施された。ただ今後の利下げについて慎重な発言もみられた。

利下げ継続にどれほど前向きなスタンスか。これに先立って、月曜日にはパウエル議長の、火曜日にはラガルド総裁の、それぞれ発言機会がある。最新のデータも踏まえていかなるスタンスの発言がみられるか。

3.日銀短観

月曜日に日銀短観が発表される。業況判断DIはほぼ横ばいと予想されている。大企業製造業は現状判断DIが予想11、前回11、先行き判断が予想10、前回11。非製造業の現況判断が予想33、前回34、先行き判断が予想28、前回27。受注や価格判断も注目される。日銀の追加利上げ・国債購入減額を後押しする材料となるか。

◆今週のMRA's Eye


景気物価リスクと金融政策バイアス

このところ経済指標はまだら模様。景気は減速基調にあるとみられるが、明確な悪化基調に入りつつあるのか、底固さを維持しているのか、なお判断が難しい。

物価動向についても、インフレ率が低下基調にあるのか、停滞から再び上昇するリスクを孕むのか、判断がつきにくい。

ここまで欧米ほか先進国の中央銀行はインフレ抑制を主眼に金融引き締めを強化してきたが、景気減速が十分でなく、また景気が底固く推移しているとみて、足元でインフレ低下が捗々しくなくなっていることで利下げに躊躇するスタンスがみられる。

ハト派は景気減速が明確になってくるリスクをみつつ、インフレは中期的に沈静化傾向を続けているとみて利下げに前向き。しかしタカ派は景気が底固いとみており、インフレ低下が停滞していることや再燃リスクがあることから利下げに否定的だ。

米国の状況をみるとPMIやISM景況感指数など企業の景況感が持ち直し、あるいは底固く推移している。

一方、雇用情勢は緩和しつつある。失業保険申請件数は増加基調。ADP雇用報告では雇用者数の増加ペースが鈍化。JOLTS求人数は減少傾向にある。

企業の景況感が底固く推移しているのに対し、それが雇用増には結びつかず、逆に慎重な姿勢が強まっているようにみえる。

ただ直近の雇用統計においては非農業部門雇用者数の増加数は想定よりも強い数字となった。今週はこれら指標の最新の数字が発表となる。強めの方向に振れるか、弱い数字に振れるか。所得の伸びの鈍化、インフレ率下げ止まり、のなかで消費者のマインド、実際の消費動向にも翳りがみえる。

消費の鈍化が、雇用所得の弱さかからくるのか、インフレ率の低下が捗々しくないこと、物価の高止まりによるものなのか。いずれの要因が大きいかが政策判断を左右。利下げに向けた議論の中心はインフレ動向だが、景況感や雇用情勢、所得消費の変化が気になるところだ。

インフレ動向は、米国においては、インフレ率低下一服あるいは反発するとの懸念は、直近の指標によりひとまず沈静化した。

CPIは上昇率がわずかながら低下。消費支出価格指数(PCEデフレーター)も上昇率が鈍化した。PCEは総合指数、コア指数ともになお2.6%とFRBの目標2.0%までやや距離があるが、次回2.5%以下に低下するようなら、他の経済指標とも総合的に判断して、利下げに向けた判断の後押しとなりそうだ。

米国では輸入物価や生産者物価など川上の物価上昇率が反発している。ただ最終需要が鈍化していることから価格転嫁が難しく消費者物価の上昇に結び付いていないというのが現状。

川上の物価上昇が沈静化すれば、消費者物価の低下につながる可能性もある。川上の物価上昇については資源価格・原油価格がやや持ち直していることもあるが、海運市況が上昇していることも一因だろう。

コンテナ運賃やバルチック海運指数は上昇。これらは中東情勢不安によってスエズ運河経由から喜望峰回りへと航路変更され公開日数が増加。実質的に船腹数の減少をもたらし海運市況を逼迫させていることも一因だろう。

その運賃上昇効果が一巡し、あるいは景気減速によって需要が緩和、さらには中東情勢が一服するかもインフレ鈍化をもたらす要因であり注目しておきたいところ。

欧州でもCPIは今週発表される6月の速報が総合指数で2.5%へ、コア指数で2.8%へ、それぞれ前月から0.1%ポイント低下すると予想されている。ECBは利下げに慎重な姿勢を示しているが、9月の追加利下げに向けた追い風となるか注目される。

一方、米欧以外でインフレ率が足元で加速している点はやや気がかりだ。

先週発表されたカナダのCPI(5月)は前月+2.7%から+2.9%へ上昇が加速した。豪州でも+3.6%から+4.0%へ加速。カナダはG7のなかで先陣を切って利下げを開始しただけに、追加利下げの判断が揺らぐか。

豪州では直近の政策決定会合で利下げではなく利上げを議論したことが明らかになった。副総裁はCPIだけが判断材料ではない、インフレは平たんではないが低下している、と述べているが、利下げに向けた議論が進むかどうか。

先週の米欧長期金利を支える要因となっただけに、今週の欧米の経済指標が上昇圧力、市場の懸念を沈静化するか。

そうしたなか米大統領候補者討論会はあらたなインフレリスクにつながる可能性がある。

討論の内容はともかく、印象として、トランプが7割ほど、バイデンが3割ほど、という優劣判断となった。

トランプ大統領となれば、政策はインフレを強める方向に働くリスクがある。対中関税引き上げは輸入コストを高め物価上昇につながる。不法移民の制限は当然ながら、移民そのものにブレーキがかかるようなら雇用需給が引き締まり賃金インフレをもたらす可能性がある。

また景気刺激的な財政政策をとるようならインフレ圧力となる。金融政策については利下げを強要し、またドル安を好感する方向だが、実現する術は大統領にはない。

そうしたリスクが意識されれば、米国の長期金利の低下を妨げる要因となりそうだ。

これは金利面ではドルを支える可能性がある。一方、金融市場にとっては波乱材料となりそうだ。リスク回避が強まり株価が急落するリスクもある。この面では投機ポジションの手仕舞いで円買い戻しにつながる。総じて荒れ相場となる点には留意が必要だ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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