主要国の金融政策~山場の6月
- MRA外国為替レポート
2024年6月10日号
◆先週の市場総括
先週は米国で重要な経済指標の発表が相次いだ。ISM製造業景気指数や雇用動態調査、ADP雇用報告などが景気悪化・雇用情勢の緩和を示したことで利下げ前倒し期待が強まった。
米長期金利は低下。ドル円相場は週初157円台前半で始まったが週央には154円台に下落。しかしISM非製造業景気指数、さらに週末の雇用統計が予想より強く、利下げ期待が後退。米長期金利が反発。ドルは全面高となりドル円相場は一時157円をつけて週末は156円70銭台で引けた。
ユーロドル相場は週央に1.09台に上昇したが週末は1.08ちょうどに反落。
米国株は利下げ期待と景気悪化の狭間で上下し方向感ない値動き。日経平均も38,000円台の上下が続いた。なおカナダ中銀が政策金利を5.00%から4.75%へ、欧州中銀が中銀預金金利を4.00%から3.75%へ、それぞれ0.25%引き下げた。
月曜日の東京市場では日経平均が続伸。前週末の米国株、NYダウが4営業日ぶりに反発し大幅高。経済指標でインフレ懸念が後退し米長期金利が低下したことが支え。
週明けの日本株は朝方からバリュー株中心に買い優勢。日経平均は一時前週末比+500円超上昇した。ただ39,000円接近では利益確定売りに押された。引けは+435円高の38,923円。
ドル円相場は157円20銭~30銭で始まり底固く40銭近辺で推移。ただ欧州市場に入ると円買い戻しが強まった。米重要指標やECB会合を前にポジション調整が強まったとみられる。米国市場朝方にかけて156円70銭~90銭まで下落。
注目の米ISM製造業景気指数(5月)は前月49.2から49.6への改善予想に反して48.7へ悪化。米長期金利は低下。ドルは全面安。ドル円相場は156円割れまで下落した。その後はやや持ち直したが引けは156円10銭近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.0850近辺でもみ合い横ばい。欧州市場では1.0830に下落していたが米ISM指数を受けて1.0880へユーロ高ドル安。引けにかけてさらに堅調で1.0910で取引を終えた。
ユーロ円相場は170円60銭~70銭台で始まり80銭台に上昇。ただ欧州市場に入ると円買い戻しを受けて169円80銭へ下落した。その後は170円を挟んで上下動し、引けにかけてやや戻して170円20銭~30銭。
米ISM景気指数の内訳では雇用が48.6から51.3へ改善したが、新規受注が49.1から45.4へ大きく悪化、価格判断が60.9から57.0へ低下した。米10年債利回りは4.392%へ、2年債は4.812%へ低下。
米国株はまちまち。市場では利下げ期待が強まり、9月、12月、年内2回の利下げを織り込んで長期金利が低下したが、景気減速懸念が重石となった。景気敏感株や消費関連株が売られた。ハイテクはしっかり。雇用関連指標が相次いで発表されることから手控えも。NYダウは前週末の大幅高の反動もあり一時▲400ドル超下落。引けは▲115ドル安の38,571ドル。ナスダックは+93ドル高の16,828ドル。
火曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反落。39,000円接近で上値が重いなか円高が重石となり利益確定売りが優勢。引けは▲85円安の38,837円。ドル円相場は156円10銭で始まり40銭台に上昇。しかしその後は上値重く午後に入ると円買い戻しが強まった。
前週の内田副総裁に続き、この日は永見野副総裁もタカ派的な発言を行ったことから6月会合での金融政策変更、引き締めへの地ならしとの受け止めが広がった。
欧州市場にかけてドル円相場は154円70銭に下落。その後155円を挟んで上下したが、米国市場でも雇用減速を示す指標を受けて米長期金利が低下したことから154円60銭割れに下落した。引けはやや持ち直して154円90銭近辺。
ユーロ円相場も170円20銭で始まり60銭~70銭で上下していたが欧州市場では168円10銭まで急落。その後は10銭~70銭で上下し引けは168円50銭。
ユーロドル相場は1.0910で始まりもみ合い。欧州市場に入るとユーロ円相場の下落に押されて1.0860へ下落した。米国市場ではやや反発して1.0880で引け。
発表された米国の雇用動態調査(JOLTS求人数、4月)は8,059千人と前月8,488千人から大幅に減少して予想を大きく下回り3年2か月ぶりの低水準。景気減速が意識された。
米10年債利回りは4.329%へ、2年債は4.774%へ低下。
米国株は労働需給の緩和を示す指標で利下げ遅延懸念が後退。長期金利低下が下支え。NYダウは前日比+140ドル高の38,711ドル、ナスダックは+28ドル高の16,857ドル。
原油価格WTI先物主限月は73.25ドルに5日続落。景気減速に加えOPECが10月から減産縮小を決定したことが重石。資源素材関連株の下落につながった。
水曜日の東京市場では日経平均が続落。フィラデルフィア半導体株指数が下落し半導体関連に売り。景気減速懸念から景気敏感株が売られた。また金利上昇を材料に買われてきた銀行株・保険株にも利食い売りが入った。引けは▲347円安の38,490円。
為替市場では円が売り戻された。ドル円相場は154円90銭で始まり朝方から上昇。夕刻から欧州市場にかけて一貫して上昇し156円30銭近辺へ。その後米国市場朝方にかけて155円70銭近辺へ反落したが、強めのISM非製造業景気指数を受けて156円50銭に上昇。その後は反落して引けは156円ちょうど近辺。
ユーロ円相場も168円50銭で始まり一貫して上昇。欧州市場では170円ちょうどをつけた。その後米国市場にかけては169円60銭~170円ちょうどの高値圏でもみ合い推移。引けは169円60銭近辺。
ユーロドル相場は1.0880近辺で横ばいもみ合い小動き。米国市場朝方は1.0890に上昇していたがISM指数を受けて1.0870へ反落。もみ合い引けた。
発表された欧州のサービス業PMI(5月改定値)はユーロ圏が速報53.3に対し53.2へやや下方修正、ドイツは速報53.9に対し54.2へ上昇修正された。
米国のサービス業PMIは54.8で速報と変わらず。ADP雇用報告(5月)は雇用者数前月比が+152千人増加と前月+188千人増(+192千人から下方修正)から伸びが鈍化して予想+180千人を大きく下回った。
ISM非製造業景気指数(5月)は前月49.4から53.8へ予想50.7を上回って改善。雇用判断は45.9から47.1へ改善したが50を割ったまま。新規受注は52.2から54.1へ改善。一方仕入価格判断は59.2から58.1へ低下した。
米長期金利は年内利下げが2回との見方が強まり低下基調。10年債利回りは2ヵ月ぶりの低水準で4.28%。2年債は4.724%。
米国株は堅調。AI関連需要拡大・業績期待から関連銘柄が大きく上昇した。エヌビディア株は5%超上昇。ハイテク株全体を牽引した。ナスダックは前日比+330ドル高の17,187ドル。NYダウは+96ドル高の38,807ドル。この日、カナダ中銀は政策金利を5.00%から4.75%へ0.25%引き下げた。引き締め局面から初めて利下げに転じ、G7では初めての利下げに踏み切った。
木曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反発。前日の米ハイテク株高を受けて半導体関連株が上昇。一時+500円超上昇した。ただ39,000円では上値重く利益確定売りが勝った。引けは+213円高の38,703円。
ドル円相場は156円ちょうどで始まり朝方155円40銭に下落し40銭~70銭で上下。その後欧州市場にかけて反発し156円40銭まで上昇した。欧米市場では155円90銭~156円40銭で上下し、米国市場終盤にかけては円が買い戻されて155円50銭近辺まで下落して引けた。
ユーロ円相場は169円60銭で始まり20銭に下落したが反発し欧州市場に入る頃には170円ちょうどを回復した。
ECB理事会では市場予想通り0.25%の利下げが決定された。利下げは4年9か月ぶり。ラガルド総裁はインフレ率の低下基調が続き調整利下げが必要と判断したとした。一方、先行きは不透明で、ECBはインフレ見通しを上方修正、追加利下げを急がないと慎重な姿勢を示した。
ユーロ円相場は欧米市場では170円を挟んで上下したが、米国市場では169円50銭近辺まで下落して引けた。
米国では週次の失業保険新規申請件数が前週の219千件から229千件に増加し労働需給の緩和を示した。1-3月期の単位労働コスト上昇率は下方修正され賃金インフレ圧力の緩和を示した。
米長期金利は概ね横ばい。10年債は4.29%、2年債は4.73%。
米国株は翌日の雇用統計発表を前に様子見姿勢が強かった。NYダウは前日比+78ドル高の38,886ドル、ナスダックは前日の大幅高の反動で上値重く▲14ドル安の17,173ドルで引け。
金曜日の東京市場では日経平均が小幅安。雇用統計の発表前で動意薄。引けは前日比▲19円安の38,683円。
東京市場の為替相場は雇用統計発表前で総じて動意薄。ドル円相場は155円60銭で始まり70銭~90銭近辺でもみ合い。夕刻はやや押して40銭~60銭で推移した。
ユーロドル相場は1.0890~1.09ちょうど近辺で小動きもみ合い。ユーロ円相場は169円50銭で始まり80銭に上昇したが夕刻には169円ちょうどに反落して米国市場朝方は169円80銭に上昇。
注目の米雇用統計(5月)は予想を上回る強い内容だった。
非農業部門雇用者数・前月比は+272千人と予想+185千人を大きく上回った。平均時給は前月比+0.4%と前月+0.2%から上昇加速。前年同月比は+4.1%と+3.9%から上昇が加速した。
一方失業率は3.9%から4.0%へ上昇。強い数字を受けて利下げ期待は後退。9月利下げは五分五分との見方に後退し、11月利下げが主流となり、年内利下げは2回が後退し1回との見方が有力に。
米長期金利は上昇。10年債は4.433%へ、2年債は4.889%へ。それぞれ0.15%程度上昇した。
ドル円相場は157円台へ急騰。ただその後は押して156円50銭~70銭で推移し引けは156円70銭台。ユーロドル相場は1.09ちょうどから1.08ちょうど近辺へ急速にユーロ安ドル高となり引け。ユーロ円相場は169円80銭に上昇していたがユーロ安ドル高に押されて169円30銭近辺で引けた。
米国株は小幅安。総じて労働市場の堅調さが示され長期金利上昇による下押し圧力と景気懸念の後退による下支えが交錯。NYダウは▲87ドル安の38,798ドル、ナスダックは▲40ドル安の17,133ドルで引け
◆今週の3つの注目ポイント
1.FOMC(米連邦公開市場委員会)、パウエル議長会見
火曜日・水曜日の2日間、FOMCが開催される。結果は日本時間木曜日未明3:00に公表。終了後にパウエル議長が定例会見を行う(同3:30)。今会合では政策変更、利下げは予想されていない。
今回はメンバーの予測値が発表される。
景気物価見通しは上下いずれに修正されるか。また政策金利予測は今後の利下げペースをどのように描くか。市場は年内2回の利下げを織り込んでいるが、それよりもタカ派的な見通しとなるか。
最近の景気悪化を示す指標、雇用情勢の緩和を示す指標をどのように解釈しているか。利下げにやや傾いたか。パウエル議長の会見のニュアンスも注目される。
2.米国の経済指標
今週はとくに物価指標に注目。
水曜日 消費者物価指数(CPI、5月、前月比、予想+0.1%、前月+0.3%、前年同月比、予想+3.4%、前月+3.4%、コア指数、前月比、予想+0.3%、前月+0.3%、前年同月比、予想+3.5%、前月+3.6%)
木曜日 生産者物価指数(PPI、同、前月比、予想+0.1%、前月+0.5%、コア、予想+0.3%、前月+0.5%)
その他、木曜日には週次の失業保険申請件数、金曜日にミシガン大学消費者信頼感指数(6月速報、予想73.0、前月69.1)が発表される。
3.日銀金融政策決定会合、植田総裁会見
木曜日・金曜日の2日間、日銀金融政策決定会合が開催される。結果は金曜日の昼頃に公表。15時半から植田総裁が定例会見を行う。今会合では何らかの政策変更、利上げないし国債購入額の減額などが決定される可能性があるとの見方もある。
市場の織り込みは五分五分。7月会合での政策変更にむけた地ならしとなるか。あるいは実際に変更するか。このところ一部のメンバーからハト派的な見解もみられ、政策バイアスは引き締め方向ながら、具体的なペースや変更は不透明。
◆今週のMRA's Eye
主要国の金融政策~山場の6月
先週、ECBが予想通りに利下げに踏み切った。中銀預金金利は4.00%から3.75%へ。主要政策金利、1週間のレポ金利は4.50%から4.25%へ。4年9か月ぶりの利下げとなった。欧州のインフレ率はここまで順調に低下しており、直近5月のCPIは総合指数で前年同月比+2.6%、コア指数で+2.9%となっている。
中銀預金金利との逆転幅は1%超。レポ金利では1.5%超。実質金利は大きくプラス幅を拡大。利上げ停止後にインフレ率低下によって実質金利は上昇し引き締め効果が強まってきた。順調なインフレ率の低下と実質金利の上昇による引き締め、さらに景気悪化懸念で利下げは既定路線ではあった。
市場では今後の利下げについて、9月、12月、と四半期に1回のペースで利下げを想定している。ただ足元でインフレ鈍化が停滞、景況感に持ち直しの気配もみられ不透明感は増している。
ラガルド総裁は今後の利下げに慎重な姿勢を示した。ECBは今年および来年のインフレ予測をそれぞれ2.5%、2.2%とし、3月時点の予測からいずれも0.2%ずつ上方修正した。2025年でもインフレ目標の2%には達しないとの予測だ。
利下げ局面に入ったことは明言したものの利下げペースは緩慢、各会合での利下げというより、市場の予測する3ヵ月に1回程度のペースとなりそうだ。
ECBに先立ち、先週水曜日にはカナダ中銀がG7で初めて利下げに踏み切った。政策金利を5.00%から4.75%へ引き下げ。今後について、市場は各会合での利下げを想定しているがどうか。
カナダは米国の隣国であり国境を接し、幾多の企業が米国向け輸出拠点を設けており、経済全体・景気物価の連動性も高い。カナダ中銀が利下げに踏み切ったことは、米国FRBにとっても利下げの条件が整いつつある証左といえるかもしれない。
確かに、ここにきて米国の経済指標は景気悪化や雇用鈍化をさらに明確に示しつつあるようにみえる。カナダが追加利下げに踏み切るようなら、FRBの利下げが一段と現実味を増しているシグナルと捉えられる可能性がある。
カナダ中銀、欧州中銀、が先週利下げを実施。スイス中銀はそれに先立ちすでに実施済。イギリス中銀は5月9日の会合で政策金利を5.25%で据え置いたが、利下げを求める反対票が2票あり、7対2で現状維持となった。
インフレ率の低下が鈍っていることから、利下げにはもう少し時間がかかりそうだ。
次回6月20日の会合では現状維持との見方が大勢。ただ利下げの可能性は3割~4割程度見込まれている。その次、8月1日の会合での利下げ確率は7割程度織り込まれている。市場の大勢は8月との見方のようだ。イギリス中銀の利下げまで整えば、FRBの利下げ実施に向けた「包囲網」が整う。
今週は火曜日・水曜日の2日間、FOMCが開催される。タカ派からは利上げの可能性を仄めかす発言もみられたが、その後の経済指標はタカ派には追い風となっていない。
インフレ率は上昇せず鈍化の停滞に留まっている。傍らで雇用情勢は、雇用統計こそ予想より強かったもののその他の指標は弱く強弱まちまち。企業の景況感はなおまちまちで大きく悪化はしていないが、受注は弱まっており、最終需要の鈍化から価格転嫁が難しくなっているようだ。
パウエル議長はこれまでも利上げの可能性に否定的だったが、最近の経済指標はその見方を後押ししている。少なくとも追加利上げをする状況にはない。
焦点は利下げ開始のタイミングの議論に収斂した。今会合での注目はメンバーの予測、とくに政策金利の予測。3月会合での予測では年内3回の利下げが示唆されていた。
しかし今回の予測では減少が予想される。すでに市場では9月利下げを五分五分、11月利下げ開始が主流、年内利下げは1回との見方まで期待を後退させている。FOMCメンバーの予測がこれを追認する程度、確実に1回のみとなるか。さらによりタカ派、年内利下げ見送りとまでなるかがポイントだろう。
声明文や会見で、利下げ開始に向けた姿勢がみられるか。次回のFOMCは7月末。8月のジャクソンホール・シンポジウムで利下げを明言し9月に実施との見方も根強いがどうか。
欧州やカナダの利下げ開始、追加利下げが実施されている可能性もあり、「FRB包囲網」ができあがってはいる。しかし米国のみ孤高の高金利政策をなお長期化するか。
こうした流れのなかで日銀がどう動くか。今週の会合で何らかの政策変更、利上げないし国債購入の減額があるか。拙速な利上げは望ましくないとの意見もあるが、世界的なインフレ、国内物価の上昇のなかで、超金融緩和策を維持し、結果的に超円安を招いていることをどう評価、配慮するか。
またしても慎重姿勢を維持した場合、失望感から円安に振れる可能性もある。ただ米国を除く他の中銀に利下げの動きが明確になってきたことが、円全面安の進捗には歯止めをかけそうだ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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