CONTENTSコンテンツ

揺れる米欧の景況感・インフレ見通し
  • MRA外国為替レポート

2024年6月3日号

◆先週の市場総括


先週は内外で長期金利が上昇。米国ではFRB当局者からタカ派発言が続いた。欧州ではインフレ率が反発。欧米長期金利が上昇。日本でも早期利上げ観測が強まり10年債利回りが1.1%台に上昇した。

ただ米国景気には減速懸念も強まった。GDP(1-3月期改定値)は速報から下方修正され、個人消費など最終需要の陰りを示した。デフレーターの上昇率もやや下方修正。週末の個人所得消費出も伸びが鈍化。PCEデフレーターは予想通り前月と変わらず。インフレ懸念、利下げ先送り懸念が後退し長期金利上昇は一服した。

米国株は軟調に推移したあと週末にようやく反発。日経平均も同様。ドル円相場は156円台後半から157円台前半で推移した。5月の為替介入実勢が公表され9.7兆円と判明。

月曜日の東京市場では日経平均が反発。週末の米国株が上昇、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)が史上最高値を更新。それを受けて主力ハイテク株が買われた。

また日銀の追加引き締め観測から国内10年債利回りが1.025%に上昇。銀行株・保険株を押し上げた。引けは前週末比+253円高の38,900円。

ドル円相場は157円ちょうどで始まり上値の重い展開。ロンドン市場、NY市場が休場のため動意薄。156円台後半でもみ合い横ばい。156円90銭で引けた。ユーロ円相場は170円30銭で始まり170円ちょうどに下落したあと夕刻から欧州市場にかけて50銭に持ち直し。その後は170円台前半でもみ合い横ばい。

ユーロドル相場は1.0850で始まり終始横ばいもみ合い引けは1.0860。ドイツのIFO景況感指数(5月)は期待指数が89.3で前月と変わらず。90.0への改善予想に届かず。

火曜日の東京市場では日経平均が小幅下落。前日の米国市場が休場。国内長期金利上昇を受けて半導体関連株の一角が売られた。一方、銀行株には買い。引けは前日比▲44円安の38,855円。

ドル円相場は156円90銭で始まり午後に60銭近辺へ下落。しかし東証引け後、欧州市場に入り上昇に転じ157円ちょうどに戻した。その後は60銭に下落したが米国市場に入ると長期金利上昇を受けて反発し156円90銭近辺で推移。

さらに上昇し157円20銭近辺で引けた。ミネアポリス連銀総裁は、利下げにはインフレ率低下があと数か月続く必要がある、低下しなければ利上げも選択肢、とタカ派発言。

消費者信頼感指数(5月)が102.0と前月97.0から大きく上昇し予想を上回る強い数字となった。

米国債2年債、5年債の入札が不調。長期金利は上昇し10年債は4.55%、2年債は4.98%。

ユーロ円相場は170円30銭で始まりじり高。欧州市場では170円60銭~70銭近辺で推移。米国市場ではユーロドル相場が軟調となり上値重く引けは170円70銭近辺。

ユーロドル相場は総じて小動き。1.0860で始まり欧州市場では70~80にやや強含み推移。しかし米国市場ではドルが堅調となり1.0860に押されて引けた。

3連休明けの米国株はまちまち。利下げ遅延観測、長期金利上昇が重石となりNYダウは下落。前週末比▲216ドル安の38,852ドル。ナスダックはハイテク株が堅調で上昇。+99ドル高の17,019ドル。

その他経済指標は、ケースシラー住宅価格指数(3月)は前年同月比+7.4%と前月+7.3%からやや上昇。ダラス連銀製造業活動指数(5月)は前月▲14.5から▲19.4へ悪化した。

水曜日の東京市場では日経平均が続落。国内長期金利が上昇し金利上昇の影響を受けやすい高PBR銘柄、ハイテク株、半導体株が売られ全般に軟調。一方金融株は堅調だった。引けは▲298円安の38,556円。

ドル円相場は157円20銭~40銭でもみ合いのあと夕刻に一時157円割れ。欧州市場では157円20銭近辺で推移。米国市場では米長期金利上昇を受けてドルが堅調。ドル円相場は157円60銭~70銭に上昇しもみ合い引けた。

ユーロドル相場は1.0860で始まり小動き。欧州市場では1.0830~60で上下した。米国市場に入るとユーロ安ドル高に振れて1.08ちょうど近辺に下落して引け。

ユーロ円相場は170円70銭で始まりもみ合い夕刻に一時20銭近辺に下落。しかしその後は下げ止まり20銭~70銭台で上下。米国市場では170円20銭~30銭で推移し引けた。

発表されたドイツのCPI(5月)は前年同月比+2.4%と5か月ぶりに上昇。コア指数は+3.0%。欧州金利先安感が後退した。

米国ではベージュブック(地区連銀経済報告)が公表された。経済は拡大を続けた、としつつ、値上げを受けた買い控えが広がり値下げで販促する動きもみられた、とした。雇用に消極的な動きもみられるとの報告もあった。

インフレ懸念、利下げ先送り観測を背景に米国債入札の不調が続き米長期金利は上昇。10年債は4.615%、2年債は4.976%。

米国株は下落。利下げ期待の後退、長期金利上昇が重石。NYダウは前日比▲411ドル安の38,411ドル、ナスダックは▲99ドル安の16,920ドルで引け。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅続落。下げ幅は一時▲900円超に及んだ。米利下げ先送り観測、米長期金利上昇、国内長期金利も上昇し10年債が1.1%台に。高PER銘柄、ハイテク株に逆風となり先高感が後退した。引けは戻したが▲502円安の38,054円で引け。

ドル円相場は157円60銭で始まり夕刻にかけて円買い戻し、下落が続いた。東証引け後には156円50銭台まで下落。

その後欧州市場では反発して157円台を回復したが上値重く米国市場の朝方には一転して強まった米景気減速懸念、米長期金利低下を受けて156円40銭割れまで下落した。その後は持ち直し引けは156円80銭近辺。

米国のGDP(1-3月期改定値)は前期比年率が速報+1.6%から+1.3%に下方修正。個人消費も+2.5%から+2.0%に下方修正された。個人消費デフレーターは速報の+3.7%から+3.6%に下方修正。景気減速懸念が強まった。

米長期金利は低下。10年債は4.548%、2年債は4.929%。ユーロドル相場は東京市場では小動き。1.08ちょうど近辺でもみ合い夕刻は1.0790。欧州市場から米国市場にかけてはじり高となり1.0840近辺に上昇し引けは1.0830。

ユーロ円相場も東京市場では円買い戻しで下落。170円20銭で始まり夕刻は169円ちょうど近辺。欧州市場では反発して169円70銭~80銭で推移。米国市場では一時40銭に下落したが反発。引けは169円80銭近辺。

米国株は続落。景気減速懸念が重石となった。NYダウは前日比▲330ドル安の38,111ドル。ナスダックは▲183ドル安の16,737ドルで引け。

金曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反発。3日続落で▲800円超下落したあと自律反発狙いの買いが支えた。国内長期金利上昇一服も支え。MSCI組み入れ銘柄入れ替えの思惑売買は一方的な売りにならず。引けは+433円高の38,487円。

発表された東京都区部CPI(5月、除く生産食品)は前年同月比+1.9%と前月+1.6%から予想通り上昇加速。

中国のPMI景況感指数(5月)は製造業が前月50.4から49.5へ低下して50割れ、サービス業が51.2からわずかに低下して51.1でいずれも予想を下回った。

ドル円相場は156円80銭で始まり157円に上昇したが60銭に反落。夕刻から欧州市場にかけては上昇して157円30銭近辺で推移した。米国市場に入ると経済指標でインフレ懸念が後退し長期金利が低下。ドル円相場は156円60銭まで下落した。

その後、ロンドン市場夕刻の資本取引に係る為替相場確定時間(ロンドン・フィキシング、日本時間24時)にかけドル買い需要でドルが上昇。157円20銭~30銭で推移して引けた。

日本時間19時に発表された5月の為替介入実績は9.7兆円で単月としては過去最大。

米国の個人所得・消費支出(4月)は前月比+0.3%・+0.2%。インフレ勘案後の実質消費支出は同▲0.1%の減少と前月+0.4%から急減速となった。消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前年同月比+2.7%で前月と変わらず。コア指数も+2.8%で横ばい。

シカゴ購買部協会景気指数(5月)は前月37.9から40ポイントへの回復予想に反して35.4に悪化した。

米長期金利は低下。10年債利回りは一時4.48%に低下して引けは4.50%。2年債は4.877%に低下。

ユーロ円相場は169円80銭~90銭で始まり170円ちょうど近辺に上昇したあと反落。169円50銭割れ。その後は欧州市場にかけて170円台半ばまで上昇して50銭~70銭で推移。

発表されたユーロ圏CPI(5月)は前月+2.4%から+2.6%へ加速。コア指数も+2.7%から+2.9%に加速した。米国市場に入るとドル安円高に押されて170円20銭に下落。引けは戻して170円50銭~60銭。

ユーロドル相場は東京市場では1.0830で始まり1.0810に下落したあと欧州市場から米国市場にかけて上昇して1.0880。その後反落して1.0850で引けた。

米国株はインフレ懸念後退、長期金利低下を受けて主力株への買いが広がった。ただハイテク株は軟調。NYダウは前日比+574ドル高の38,686ドル。ナスダックは▲2ドル安の16,735ドル。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

今週は重要指標が相次ぐ。景気減速をさらに確認することになるか。雇用情勢の軟化を示すか。

月曜日 PMI景況感指数・製造業5月改定値(速報50.9) ISM製造業景気指数(5月、予想49.7、前月49.2)

火曜日 雇用動態調査(JOLTS求人数、4月、前月8,488千人) 製造業新規受注(4月、前月比、予想+0.7%、前月+1.6%)

水曜日 PMI景況感指数・サービス業5月改定値(速報54.8) ADP雇用報告(5月、雇用者数前月比、予想+180千人、前月+192千人) ISM非製造業景気指数(5月、予想50.7、前月49.4)

木曜日 週次の失業保険申請件数

金曜日 雇用統計(5月、非農業部門雇用者数前月比、予想+185千人、前月+175千人、失業率、予想3.9%で前月比不変、平均時給、前月比、予想+0.3%、前月+0.2%)

2.ECB理事会、ラガルド総裁会見

木曜日にECB理事会が開催され終了後にラガルド総裁が定例会見を行う。今会合では政策金利を▲0.25%引き下げると予想されている。中銀預金金利は4.0%から3.75%へ、1週間レポ金利は4.50%から4.25%へ。

焦点は今後の利下げペース。ラガルド総裁がどのようなガイダンスを示すか。市場では次回は9月との見方が大勢。

3.欧州の経済指標

ECBの利下げが確実視されるなか、欧州では景気悪化懸念がやや後退しており、インフレ率も直近ではやや反発。利下げペースに影響するか。

月曜日 PMI景況感指数・製造業5月改定値(速報47.4)

水曜日 同・サービス業(速報53.3)

木曜日 ドイツ製造業新規受注(4月、前月比、予測+0.6%、前月▲0.4%) ユーロ圏小売売上高(4月、前月比、予測+0.2%、前月+0.8%)

金曜日 ドイツ鉱工業生産(4月、前月比、予測+0.1%、前月▲0.4%) ユーロ圏GDP(1-3月期確報、前期比、速報+0.3%)

ほか、中国では財新PMIが発表される。米国ではFOMC(11日・12日開催)を前にブラックアウト(発言禁止期間)に入るため当局者からのコメントはない。

◆今週のMRA's Eye


揺れる米欧の景況感・インフレ見通し

米国の景気物価見通しは1週間のうちでも指標次第で上下に振れている。景気は底固いのか、悪化の兆しがより強まっているのか。インフレ率は下げ止まりが続いているのか、 低下基調継続のなかでの中休みなのか。

その結果、早期利下げ期待と利下げ先送り懸念が交錯し、米長期金利は高止まりのなか上下動を繰り返している。

米国の企業景況感を示す経済指標はまちまちだ。PMI景況感指数は持ち直しを示した。一方、様々な連銀の調査による最新の景況感指数は悪化している。

今週はISM景況感指数が発表される。製造業は49.2から49.7へ、非製造業は49.4から50.7への改善が予想されている。ただ雇用指数はいずれも前月が48.6、45.9、と50割れ。雇用に慎重な姿勢も伺える。

消費者は慎重な姿勢を強めているようだ。消費は伸びが鈍化。最新の実質消費は前月比マイナスに鈍化した。雇用情勢の軟化やインフレが消費者の警戒感を強めているようだ。

ベージュブックでは値上げが難しくなっており、一部はむしろ値下げで販促を促していると指摘された。仕入価格判断は川上の物価上昇を受けて上昇しているが、需要の弱さから価格転嫁が難しくなっているとされた。

輸入物価や生産者物価など川上から物価上昇圧力がかかっているものの消費者物価には反映されにくく、インフレ率の反発、上昇に歯止めをかけている。消費支出価格指数(PCEデフレーター)は上昇が抑制されている。

インフレ率に占める住宅・家賃の上昇率が高く、全体を押し上げている。この場合、確かに消費者の財布のひもは固くなる。需要の強さ、消費の強さがインフレ率を押し上げているのではなく、住宅関連支出の増加が消費を圧迫する姿が浮かぶ。ここに雇用の鈍化が重なれば景気悪化が強まる可能性がある。

タカ派は高金利据え置き、利下げ先送りを主張している。

住宅関連の物価抑制には安易な金利低下に反対するのも頷ける。一方、長期金利が高く借り換えが滞っているために住宅供給に支障を来し、ひいては価格上昇につながっている面もある。

雇用にさらに翳りがみえれば、FRB内で利下げの議論が強まる可能性がある。現時点では利下げは9月ないし11月との見方が有力。指標次第で利下げのタイミングが早まり、利上げの可能性は少ないとみられる。

来週のISM景気指数や雇用統計は極めて重要。ドル金利感を左右し、当面のドル円相場の方向感を決定づけよう。

米国で景気悪化懸念が台頭しているのと対照的に、欧州では景気悪化懸念がやや後退している。PMI景況感指数は持ち直している。

インフレ率は低下基調にあったが足元で反発。景気悪化懸念のなかインフレ率が順調に低下してきた流れに変調もみられる。

ECBは6月の金融政策決定会合での利下げを明確にしてきた。ただその後の利下げペースについては不透明になっている。

今週の会合では、これまでの発言通り利下げは実施されるとみられるが、まずは足元の変化をどう認識し、また実際に利下げが実施されるのかを見極める必要がある。そのうえで今後の利下げペースについて何らかの示唆があるか。ラガルド総裁が会見で何を語るのかが注目される。

足元でなお円安が続いている。ドル円相場は156円~157円で推移し高止まり。それ以上に円安が目立つのがユーロ円相場で170円台に乗せてきた。ユーロ円相場の上昇には利下げ見通しが不透明になっていることも背景にあろう。

円安基調が転換するには、まず日銀が利上げに動くこと、さらに欧州が利下げ、さらに米国が利下げを実施すること。ここまで揃う必要があろう。

さらに円安修正のペース、円高のペースは、金利の変化スピードも重要だ。現状では円高への動きは緩慢とみざるをえない。

円高ペースが速まる条件は、金融市場ないし経済において何等かのショックが生じるか、あるいは欧米の利下げが早まるほどの景気悪化が顕在化するか。今のところこのケースはリスクシナリオにとどまる。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について