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クロス円相場最高値、円全面安、非鉄金属価格急騰
  • MRA外国為替レポート

2024年5月27日号

◆先週の市場総括


先週は週初からFRB当局者から利下げに慎重な発言が相次いだ。公表された4月30日・5月1日開催のFOMC議事要旨では利下げ遅延、利上げに言及するタカ派の発言が再確認された。

その後強いPMI景況感指数を受けて利下げ先送り懸念が台頭し米長期金利が上昇。ただ週末には期待インフレ率が下方修正されて上昇一服。ドル円相場は底固く推移し週初の155円台後半から157円ちょうど近辺に上昇して引け。

ユーロ円相場は169円ちょうど近辺で始まり堅調。週末には170円台半ばへ上昇した。国内長期金利も上昇したが総じて円が全面安。米国株は上値の重い値動き。日本株も39,000円台に定着できず。

月曜日の東京市場では日経平均が上昇し1ヵ月ぶりに39,000円の大台を回復した。上げ幅は一時+600円超。先物中心に海外勢から見直し買いが入った。NYダウが4万ドルの大台に乗せ欧州株も堅調に推移するなか欧米株対比で出遅れが意識された。引けは+282円高の39,069円。

ドル円相場は155円60銭で始まり底固く推移。155円台後半で上下動。米国市場に入るとFRB当局者のタカ派発言を受けて156円20銭に上昇しそのまま引けた。

アトランタ連銀総裁は、物価目標達成に向けた確信まで時間がかかる、利下げを開始しても政策金利は過去10年慣れ親しんできたより高い水準で落ち着く、と述べた。

バー副議長は、年初来のインフレ指標は期待外れ、金融引き締めが効果を発揮し続けるにはもう少し時間がかかる、金利水準は現状維持で様子見に十分、とした。

ジェファーソン副議長は、インフレ指標が沈静化を示していることは喜ばしいが目標に向けた持続可能な軌道に戻ったか判断は時期尚早、と述べた。米10年債利回りは4.447%、2年債は4.852%へそれぞれ上昇した。

ユーロ円相場は169円10銭で始まり60銭に上昇。その後は169円台前半で上下動。米国市場では70銭に上昇したあと169円台後半で上下して引けはやや押して169円40銭。

ユーロドル相場は1.0870~80で小動き横ばい。欧米市場でも概ね同水準で推移して引けは1.0860。米国株はまちまち。

NYダウは前週末に4万ドルの大台を達成したあと利益確定売りに押された。引けは▲196ドル安の39,806ドル。ハイテク株は堅調でナスダックは+108ドル高の16,794ドル。

火曜日の東京市場では日経平均が反落。米ハイテク株の堅調を受けて朝方は+200円超上昇したが、国内長期金利の上昇、円金利先高観が上値を抑えた。日本国債10年新発債利回りは0.98%と11年ぶりの高水準となった。

ドル円相場は156円20銭で始まり堅調。午後にかけて40円~50銭で推移した。その後は反落し夕刻は156円ちょうど近辺。欧州市場では40銭に反発したが、米国市場では円買い戻しが進み155円80銭台まで下落したが反発して156円20銭近辺でもみ合い引け。

FRBウォラー理事は、利下げを開始する前に数か月確認が必要、10-12月に利下げが適切、と述べた。

ユーロ円相場はドル円相場と同様の値動きで169円台を上下。169円70銭で始まり80銭~90銭台でもみ合い。夕刻に50銭近辺に下落したが欧州市場では90銭に反発。米国市場では20銭台に下落したあと反発して50銭~60銭で引けた。

ユーロドル相場は動意薄。1.0860近辺で小動きもみ合い。欧米市場でも概ね同水準で引けは1.0850~60。

米国株は小幅上昇。ナスダック、S&P500、は史上最高値を更新した。米景気、企業業績への楽観が支え。一方で短期的相場過熱感、利下げ慎重発言が上値を抑制した。NYダウは+66ドル高の39,782ドル、ナスダックは+37ドル高の16,832ドルで引け。

米10年債利回りは4.413%、2年債は4.830%へ小幅低下した。

水曜日の東京市場では日経平均が続落。円長期金利が一時1%に上昇。不動産株、高PER株が売られ、銀行・保険など金融関連株が堅調。エヌビディア社決算発表を前に様子見姿勢も強かった。引けは前日比▲329円安の38,618円。

発表された日本の通関統計(4月)は貿易収支が▲4,620億円の赤字と前月+3,660億円の黒字から赤字に転じ赤字幅は予想をやや上回った。

ドル円相場は156円10銭~20銭で始まり夕刻から欧州市場にかけてじり高。156円60銭に上昇。その後は30銭台に下落したが、米国市場では80銭台に上昇し引けは156円70銭。

公表された4月30日・5月1日に開催されたFOMCの議事要旨では、利下げ開始までの時間が想定より長引くとされ、また一部のメンバーが追加利上げに言及するなど、総じてタカ派的。CPI発表前かつ概ね想定通りの内容だったが強いインフレ警戒姿勢が意識された。

ユーロドル相場は東京市場で1.0850~60で始まりもみ合い。欧州市場では1.0820に下落して1.08台前半で推移し引けは1.0820近辺。ユーロ円相場は169円50銭で始まり午後に一時90銭に上昇。ただその後は反落して欧米市場では169円台後半で上下して引けは169円60銭。

米国株は下落。FOMC議事要旨で強いインフレ警戒姿勢が確認され、このところ最高値更新していた後で利益確定売りに押された。NYダウは前日比▲201ドル安、ナスダックは▲31ドル安で引け。

木曜日の東京市場では日経平均が大きく上昇。エヌビディア社の決算を好感しハイテク関連、半導体関連株に買い。日銀が国債買い入れオペの金額を維持したことも過度な引き締め懸念を緩和。一時+500円高。引けは+486円高の39,103円。

ドル円相場は東京市場から欧州市場にかけて156円60銭~80銭でもみ合い小動き。その後米国のPMI景況感指数が強い数字だったことから157円20銭に上昇。引けにかけてはやや押され156円90銭近辺で取引を終えた。

PMI景況感指数(5月速報)はユーロ圏製造業が前月45.7から46.6へ改善、サービス業が53.3で変わらず。一方米国では製造業が50.0から50.98へ改善。サービス業は51.3から54.8へ大幅に改善した。

週次の失業保険新規申請件数は前週222千件から215千件に減少。利下げ期待が後退し米長期金利は上昇。10年債は4.478%、2年債は4.939%。

米国株は大きく下落。インフレ率低下の鈍化懸念、利下げ先送り懸念で利益確定売りに押された。NYダウは前日比▲605ドル安の39,065ドル、ナスダックは▲65ドル安の16,736ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が反落。米国で早期利下げ期待が後退し長期金利が上昇、米国株が下落したことで半導体関連株を中心に持ち高調整の売りが先行。

さらに国内長期金利の上昇も止まらず10年債利回りが1%を超えたことも重石。一時▲700円超下落し引けは▲457円安の38,646円。

発表された日本の消費者物価指数(CPI、4月)は前年同月比で総合指数が+2.5%と前月+2.7%から低下したが予想+2.4%をやや上回った。

除く生鮮食品のコア指数は+2.6%から+2.2%へ、除く生鮮食品・エネルギーのコアコア指数は+2.9%から+2.4%に低下。ただいずれも2%の目標を上回る状況が続いている。

ドル円相場は小動き。156円90銭で始まり朝方157円10銭台に上昇し夕刻、欧州市場にかけて終始157円ちょうど~10銭で小動きもみ合い。米国市場ではインフレ懸念が後退したことでドルがやや売られ156円80銭に下落し引けは157円ちょうど近辺。

米国で発表された耐久財受注(4月)は除く輸送機器で前月比+0.4%と前月+0.2%から加速して設備投資の堅調さを示した。

一方、ミシガン大学消費者信頼感指数(5月確報)は速報67.4から69.1へ上方修正されたが、期待インフレ率が下方修正された。

1年が3.5%から3.3%へ、5年が3.1%から3.0%へ。米長期金利は上昇一服。10年債は4.467%、2年債は4.948%。

ユーロドル相場は東京市場では1.0810近辺でもみ合い小動き横ばい。欧州市場から米国市場にかけて上昇し1.0850中心にもみ合い引けた。ユーロ円相場は169円70銭~90銭でもみ合い横ばいのあと欧州市場から米国市場にかけ170円50銭に上昇。その後はやや押して170円20銭~30銭でもみ合い引けた。

米国株は期待インフレ率低下で安心感に支えられハイテク株中心に持ち直し。ただ3連休前で持ち高調整売りが上値を抑制した。NYダウは前日比+4ドル高の39,069ドル、ナスダックは+184ドル高の16,920ドルで取引を終えた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

引き続き景気物価指標に利下げ見通しが左右され米長期金利を上下する展開が続く。

火曜日 消費者信頼感指数(3月、予想96.0、前月97.0) ダラス連銀製造業活動指数(5月、前月▲14.5)

水曜日 リッチモンド連銀製造業指数(5月、前月▲7)

木曜日 GDP(1-3月期改定値、前期比年率、予想+1.2%、速報+1.6%) 週次の失業保険申請件数

金曜日 個人所得・消費支出(4月、予想+0.3%・+0.3%、前月+0.5%・+0.8%) 消費支出価格指数(同、総合、予想+2.7%で前月と不変、コア、予想+2.8%で前月と不変) シカゴ購買部協会景気指数(5月、予想40.4、前月37.9)

2.ベージュブック(地区連銀経済報告)

水曜日にベージュブックが公表される。前回のFOMCの後、雇用統計やCPI、さらにPMI景況感指数などを受けて、米国の景気物価見通しは上下に振れている。

こうした計数とは別に、定性的な景気物価状況がどのように判断されているか。利下げ時期について何等かの示唆、影響が生じる内容となるか。

ハト派、タカ派、いずれの見解を支持する内容となっているかで米長期金利動向、さらにはドル円相場を上下する。

3.欧州の経済指標

ECBの利下げはほぼ6月が確実とみられているが、その後の利下げペースは不透明だ。このところPMI景況感指数が持ち直すなど一部景気悪化に歯止めがかかる気配もみられるが、物価動向も含め利下げスタンスに影響するか。

再び170円台に乗せたユーロ円相場の上昇に歯止めがかかるか、さらに堅調に推移して円全面安を加速させるか。

月曜日 ドイツIFO景況感指数(5月、期待指数、予想90.0、前月89.4)

金曜日 ユーロ圏CPI(5月、前年同月比、予想+2.6%、前月+2.4%、コア指数、同、予想+2.8%、前月+2.7%)

◆今週のMRA's Eye


クロス円相場最高値、円全面安、非鉄金属価格急騰

政府による円買い介入実施、日銀による利上げ前倒し観測の台頭、国内長期金利の上昇、にもかかわらず、円安が止まらない。米国で利下げが遅延する可能性があらためて意識され、米国の長短金利が高止まりを続けていることが要因として指摘されている。

ただ日米長期金利差が縮小しているにもかかわらず、それに逆行してドル高円安に動いている。

さらに際立つのは、ドル円相場のみならずユーロ円相場などドル以外に対する円の下落。豪ドル円相場なども含め、いわゆるクロス円相場でも足元で円安が進んでいる。むしろ金利差との乖離はクロス円相場の方が際立つ。ユーロ円相場は再び170円の大台に乗せた。

シカゴ通貨先物のポジション動向をみると、先週火曜日時点の円ポジションは再び円売りが増加。介入後は円買い戻しの動きもみられたが、早くも円売りを積み増す方向に動いている。

円売りは介入前のピーク18万枚程度から12万枚台に減少していたが14万枚強にリバウンド。国内の外為証拠金取引でも、介入実施前は、シカゴ通貨先物のポジションとは異なり、逆にドル売り円買いがドル買い円売りを上回り、円高方向に賭けるポジションとなっていた。

しかし介入実施後に状況は一転。ドル買い円売りがドル売り円買いを上回ってきた。介入実施後に内外投機取引の円売りはむしろ強まった。

目を商品市況に転じれば、足元で銅やニッケルなど非鉄金属の高騰が際立つ。米国景気のソフトランディング期待が続くなか、不動産問題を先送りする見通しの中国景気も循環的には底入れの気配。

そこに鉱山の閉鎖や輸送面での支障など個別の供給懸念が重なったことで投機的な買いが非鉄金属で強まっているとみられている。投機筋はこの四半期は非鉄金属(鉄鋼製品・原料は除く)を投資対象と見た可能性がある。

こうした投機的取引の活発化はリスク選好の強まりが背景にあるとみられる。米国景気への楽観、ソフトランディング期待、はリスク選好を強めている。

米国株は主要3指数が史上最高値を更新。株式益回り(1株利益/株価=PERの逆数)は株価上昇により低下。長期金利10年債利回りが上昇後高止まりしているため、両者を対比したイールドスプレッドは株式が歴史的な割高水準にあることを示している。

また低格付け社債の上乗せ金利は縮小。企業業績に対する楽観、あるいは市場全体の楽観的なスタンス、リスク選好の強まりを示している。

逆にNYダウが4万ドルの大台に達するなど、米国株の高値試しにひとまず達成感が生じていることで、他の市場に上値追いの動きが拡散している可能性がある。

投機的な動きを支える一因は金融当局の緩和姿勢だ。FRBがなお利下げに慎重姿勢を示し高金利を長期間維持するスタンスを変えていない。5%超という政策金利水準を踏まえれば、ドルをファンディング通貨として投機的なポジションをとるにはリスクがある。

ユーロも4%台で米国に比べれば相対的に低いが、長期的にみれば高水準だ。

そうしたなか、追加利上げ姿勢を示しているとはいえ、円金利はなおゼロ近傍。投機的なポジションの源泉として円を調達通貨とするのは理に適う。

特にコモディティは金利のつかない資産であり、そこでの買い持ちをドルで賄えば金利差が常に逆風となる。そこで円売り・円ファンディングをかませれば、ともにゼロ金利でリスクが軽減される。商品市況の上昇と円安の同時進行は金利差の点からみれば連動すべくして動いているともいえそうだ。

また商品市況と円相場には、商品市況が上昇すれば日本の輸入金額が増加し、対外収支が悪化して需給面で円安圧力がかかる、という相関性も想起される。投機的なポジションが重視するシナリオによるトレンド強化が生じやすい。

こうした状況に変化が生じるか。投機的な円売りと非鉄金属買いがともに沈静化する、あるいは相乗的に逆転する局面はくるのか。ファンディングコストの面では、日米欧で金融政策に跛行性が生じても内外金利差が大きく縮小しないことから、状況を変化させるのは容易ではない。

米国景気悪化・インフレ鈍化による利下げ開始は、ドル円相場のトレンド変化を想起させるが十分ではない可能性がある。ソフトランディング期待が維持される限りリスク選好が揺るがないためだ。

逆に商品市況そのものが上値追いに手詰まりとなれば、日銀の金融引き締め姿勢と相まって、円買い戻しが活発化する可能性がある。

あるいは、何らかのイベントリスク、株価急落、市場の混乱、などでポジションが手仕舞われるか。リスク回避イベントが生じれば、リスクポジションが様々な市場に広がっていることから、円買い戻しのインパクトは従来よりも大きいだろう。

ただ発生するか否かは予測困難だ。「通常の」予測範囲内においては、株式や低格付け社債、商品、など様々なリスク資産価格の上昇が手詰まりになったところで、円安も反転する、というのがもっとも生じやすいシナリオだろう。


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