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スタグフレーション懸念から景気インフレとも鈍化へ
  • MRA外国為替レポート

2024年5月20日号

◆先週の市場総括


先週は週央にかけて円買い戻しが進んだ。月曜日に日銀が国債買い入れオペを減額したことで金融引き締め観測が強まった。

その後、注目された米国のCPIの上昇率が予想より低く、また小売売上高が消費減退を示したことで、利下げ期待が強まり、米長期金利が低下しドル安、円買い戻しを促した。

ドル円相場は週初に155円台後半で始まり一時153円台後半に下落。ただその後は円が売り戻されて週末は155円台後半。日銀が木曜日に定例国債買い入れオペで減額しなかったことに反応した。

米長期金利は週初に比べ週末は小幅低下。指標は景気鈍化・インフレ鈍化を示したがFRB当局者からは利下げに慎重な発言も続きさほど低下しなかった。

米国株は堅調。NYダウは週末に史上初の4万ドルの大台に乗せて引けた。日経平均は底固く推移。米国株堅調と円高一服が支え。決算発表は一巡。好業績期待が根強いなかで、あらためて大きく上昇する材料とはならなかった。

月曜日の東京市場では日経平均が小幅下落。この日、日銀が国債買い入れ額を前回買い入れ額から▲500億円減額し4,250億円としたことで、金融正常化を前倒しするとの観測が強まった。

10年債利回りが0.94%に上昇。これを受けて一時▲200円超下落。不動産株が下落した。一方金融株は堅調。引けは前週末比▲49円安の38,179円。

ドル円相場は155円70銭で始まり朝方90銭台に上昇したが、日銀のオペを受けて50銭に下落。ただすぐに反発して夕刻から欧州市場にかけては80銭中心にもみ合い推移。

米国市場に入るとNY連銀調査で期待インフレ率が上昇したことを受けてドルが上昇。円が全面安。156円20銭~30銭で推移して引けた。

ユーロ円相場は167円70銭で始まり朝方90銭台に上昇したが50銭に反落。その後すぐに戻して夕刻から欧州市場にかけてじり高。米国市場では168円60銭近辺まで上昇して引け。

ユーロドル相場は1.0770でもみ合い小動き。欧州市場では一時1.08台に上昇したが米国市場では上値重く引けは1.0790近辺。

NY連銀調査の期待インフレ率(1年)は前月3.0%から3.26%に上昇し2023年11月以来の水準に戻した。一方3年は2.90%から2.78%に低下。米10年債利回りはやや低下して4.488%。2年債は4.865%。

米国株はまちまち。期待インフレ率上昇、当局者のタカ派発言で利益確定売りが上値を抑えた。NYダウは9営業日ぶりに下落し前週末比▲81ドル安の39,431ドル。ナスダックは+47ドル高の16,388ドル。

FRBジェファーソン副議長は、インフレ率が目標の2%に向けて低下していることが明確になるまで政策金利を制限的な水準とすることが適切、と利下げに消極的な意見を述べた。

火曜日の東京市場では日経平均が反発。前日に米ハイテク株が堅調だったことで値がさ株が買われ上げ幅は一時+300円近くに達した。円安も輸出関連の支え。一方、円長期金利上昇は重石となった。引けは前日比+176円高の38,356円。

ドル円相場は156円20銭で始まりやや上昇して40銭~50銭でもみ合い。欧州市場では30銭近辺で上値重く推移していたが米国市場に入ると生産者物価指数(PPI)の発表を受けて乱高下。80銭に上昇後に30銭割れ。引けにかけては40銭~50銭でもみ合い引けた。

PPI(4月)は前月比が+0.5%に加速したが前月が+0.2%から▲0.1%に低下。コア指数も当月は+0.5%だったが前月が▲0.1%に下方修正された。前年同月比は総合が+2.2%、コア指数が+2.4%。

ユーロ円相場は168円60銭で始まり70銭~80銭で推移。欧州市場から米国市場にかけて上昇し169円30銭へ。引けは169円20銭。

欧州で発表されたドイツZEW企業景況感指数(5月)は期待指数が前月42.9から47.1へ予想を上回って改善した。ユーロ圏全体および中国景気の悪化歯止めで景気回復期待が強まった。

ユーロドル相場は1.0780~90でもみ合いのあと欧米市場で高下しつつユーロ高ドル安。1.0820近辺に上昇しもみ合い引けた。

米国株は主要3指数がいずれも上昇。ナスダックは史上最高値を更新。半導体関連株の上昇が支え。インフレへの過度な警戒が弱まり長期金利が低下したことが支え。10年債利回りは4.443%、2年債は4.816%。

NYダウは前日比+126ドル高の39,558ドル、ナスダックは+122ドル高の16,511ドルで引けた。

パウエル議長は、インフレ率低下まで辛抱強く待つ必要がある、次の政策変更が利上げになる可能性は低い、と従来と同様の発言。サービスインフレは必ずしも2%を目指す必要はない、と述べた。

水曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸。米ハイテク株高を支えに半導体の一角に買いが入り朝方は+450円以上上昇。

しかし後場に上げ幅を縮めた。米国のCPI発表を前に様子見も。日銀の金融引き締めが早まるとの観測も重石となった。引けは前日比+29円高の38,385円。

ドル円相場は156円40銭台で始まり50銭台でもみ合い。夕刻は20銭~40銭で上下した。欧州市場ではCPI発表を前に円買い戻しが強まり一時155円60銭に下落。

注目の米CPI(4月)は、総合指数が前月比+0.3%と前月+04%から減速し予想通り。前年同月比は+3.5%から+3.4%に低下した。コア指数は前月比が+0.3%と前月+0.4%から減速、前年同月比は+3.8%から+3.6%に低下して3年振りの低い上昇率となった。

小売売上高(4月)は前月比+0.0%と前月+0.6%から減速。除く自動車関連でも+0.9%から+0.2%に伸びが鈍化した。

NY連銀製造業景気指数(5月)は前月▲14.3から▲9.5への改善予想に反して▲15.6に悪化した。

これらを受けてドル円相場は155円90瀬から154円70銭台に下落。その後155円80銭に反発したが154円80銭割れに反落してもみ合い引けた。

ユーロドル相場は東京時間では1.0820~30で小動き横ばい。米国市場では1.0870へユーロ高ドル安に振れ、早々に1.0830に押し戻されたがその後も堅調。引けは1.0880。

ユーロ円相場は東京市場では169円20銭で始まり10銭~40銭で上下動横ばい。欧州市場に入ると168円50銭に下落。米国市場では168円10銭へもう一段下落した。その後は168円台半ばを中心に上下動し引けは168円40銭~50銭。

米長期金利は低下。10年債は4.343%、2年債は4.725%。CPI鈍化、小売悪化で利下げ期待が強まった。

米国株はこれを好感して主要3指数がいずれも上昇。ハイテクが堅調。NYダウは前日比+349ドル高の39,908ドル。ナスダックは+231ドル高の16,742ドル。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅高。米国のCPIが低め、小売売上高が弱く、利下げ期待が高まって長期金利が低下し米国株が堅調。これを受けてアジア株全般に堅調。円高は輸出関連株の重石になったが全般にしっかり。前日比+534円高の38,920円で引けた。

発表された日本のGDP(1-3月期)は前期比年率▲2.0%と前期+0.4からマイナス成長に転じた。個人消費は前期比▲0.7%と前期▲0.4%からさらにマイナス幅が拡大した。

為替市場では円高一服。海外市場にかけて円売り戻し、円安の流れが続いた。ドル円相場は154円80銭で始まり、前日の弱めの米経済指標、米長期金利低下を受けたドル安円高の流れが続き、朝方153円60銭に下落した。

ただその後は154円30銭に反発し153円90銭~154円ちょうどでもみ合い。夕刻から欧州市場にかけて154円80銭まで上昇した。米国市場に入ると一段高。155円50銭に上昇し引けは40銭近辺。

ユーロ円相場も168円40銭~50銭で始まり朝方167円30銭に下落したがその後は円安。167円90銭に上昇し40銭~60銭で推移したあと欧州市場では168円20銭近辺で推移。米国市場ではさらに円安に振れて168円80銭近辺で引けた。

ユーロドル相場は概ね横ばい。東京市場では1.0880~90で始まり欧州市場から米国市場にかけて1.0860~70で推移して引けた。

米国で発表された輸入物価指数(4月)は前月比+0.9%、前年同月比+1.1%と前月+0.4%から上昇加速した。

住宅着工件数(4月)は季節調整済み年率換算で1,360千戸と前月1,321千戸から小幅増加。フィラデルフィア連銀製造業景気指数(5月)は前月15.5から4.5に悪化した。

週次の失業保険新規申請件数は前週231千件から222千件にやや減少。鉱工業生産(4月)は前月比0.0%と前月+0.4%から鈍化。設備稼働率は前月78.5%から78.4%に小幅鈍化。

米国株は小幅下落。NYダウは一時4万ドルの大台に初めて乗せたが利益確定売りに押された。引けは前日比▲38ドル安の39,869ドル。ナスダックは▲44ドル安の16,698ドル。

米10年債利回りは4.375%、2年債は4.795%にそれぞれ小幅上昇した。NY連銀総裁は、CPI上昇率低下はポジティブな進展だが利下げは尚早、確信はすぐには得られない、と述べた。

金曜日の東京市場では日経平均は4営業日ぶりに反落。米国株が軟調。週末の利益確定売りに押されて一時▲380円安。

ただ日銀が定例の国債買いオペで減額懸念があったところ予想通りの金額で実施したことから安心感が広がった。後場に下げ幅を縮小。引けは前日比▲132円安の38,787円。

ドル円相場は155円40銭で始まり午前中に80銭近辺に上昇。日銀が定例の国債買い入れオペで減額しなかったことを材料に円が売られた。

その後は70銭~90銭近辺でもみ合い。夕刻から欧州市場では155円90銭でもみ合い。米国市場では一時20銭台に下落したがその後は堅調。引けは155円60銭~70銭。

ユーロ円相場は168円80銭~90銭で始まり169円30銭に上昇。10銭~30銭で上下動。夕刻から欧州市場にかけてはやや押されて168円80銭~169円ちょうどで推移。米国市場にかけては持ち直して169円20銭~30銭で推移して引けた。

ユーロドル相場は横ばい。1.0870で始まり上値重くもみ合い推移。欧州市場では1.0840近辺で推移。米国市場では1.0870近辺に戻してもみ合い引けた。

米長期金利は上昇。10年債は4.424%、2年債は4.827%。

米国株はまちまち。インフレ鈍化、利下げ期待、ソフトランディング期待などが支えとなり、NYダウは引けにかけて上昇し、史上初の4万ドル台で引けた。前日比+134ドル高の40,003ドル。主力ハイテク株は利益確定売りに押されナスダックは▲12ドル安の16,685ドル。

◆今週の3つの注目ポイント


1.FOMC議事要旨

水曜日に4月30日・5月1日の両日にわたり開催されたFOMCの議事要旨が公表される。同会合では声明文でインフレ鈍化の進捗が不足しているとされ、年内利下げの可能性が高いとの文言が削除された。

一方、パウエル議長が会見で、早期の利下げは難しいとしつつも追加利上げの可能性は低い、と述べた。

タカ派とハト派のバランスはどのようになっていたか。その後の経済指標で景気悪化・インフレ鈍化がみられているだけに、内容がタカ派に傾いていなければ長期金利を抑制しそうだ。

2.米国の経済指標

最近の米国の経済指標は景気悪化、インフレも鈍化、と利下げの条件が整いつつあるようにみえる。今週の指標はどうか。

水曜日 中古住宅販売(4月、季節調整済み年率換算、予想416万戸、前月419万戸)

木曜日 PMI景況感指数(5月速報、製造業、前月50.0、サービス業、前月51.3)
 週次の失業保険申請件数

金曜日 耐久財受注(4月、前月比、予想+0.3%、前月+2.6%)
 ミシガン大学消費者信頼感指数(5月確報、速報67.4)

3.日本の経済指標

水曜日に通関統計(4月)が発表される。貿易収支は季節調整前で前月3,660億円の黒字に対し▲1,000億円程度の赤字と予想されている。ほぼ収支トントンでの推移が続いているとみられるが予想通りか。またこの日は機械受注(3月)も公表される。

金曜日には消費者物価指数(4月)が発表される。日銀の次なる引き締めの後押しとなるか。総合指数は前月比で予想+2.4%、前月+2.7%。除く生鮮食品(コア)は同、限月が+2.6%、除く生鮮食品・エネルギー(コアコア)は前月+2.9%。

ほか、火曜日にラガルドECB総裁、ベイリーBOE総裁、の発言機会があり利下げにどれほど前向きな発言がなされるか。

◆今週のMRA's Eye


スタグフレーション懸念から景気インフレとも鈍化へ

最近の米経済指標は景気鈍化とインフレ高止まりないしインフレリスク再燃というスタグフレーションリスクを懸念させる内容が多かった。しかし先週の指標は景況感や消費動向、雇用情勢の一段の悪化とインフレ鈍化を示しそうした懸念が後退。これによりFRBの金融政策は利下げに向けて一歩前進したとみられる。

スタグフレーションでは、景気重視のハト派とインフレ重視のタカ派の意見が対立。政策判断は極めて困難になる。

足元の景気悪化がさほど強くなければ、政策判断はインフレ抑止に傾き、利下げ先送り、場合によっては再利上げも視野に入る。結果として景気は急激に悪化するリスクが高まる。また金融市場は極めて不安定になる。

一方、景気悪化・インフレ鈍化という通常の組み合わせとなれば、タカ派は矛を収め利下げのタイミングを具体的に探ることになる。

パウエル議長は先般のFOMC後の会見で、次の一手が利上げとなる可能性を否定した。コロナ禍以降、その回復局面も含め、景気物価動向そして金融政策がFRBの予測通りにいかないことが多く信頼度は低下していた。利下げに慎重なのもそのためだろう。ただようやく利下げの条件が整ってきたようだ。金融市場、リスク選好は回復している。

為替市場では金融政策重視の売買が続く。とくに米国景気が底固いことを前提に、インフレ高止まり、それを懸念するFRBの金融政策スタンスが為替相場のドライバーとなってきた。

その後は景気の底固さが揺らぎスタグフレーション懸念へ。インフレ鈍化が捗々しくないこと、再利上げの懸念が台頭するなどで米長期金利が上昇。ドルは買われ、その裏側で円が売られた。

ただ景気悪化がさらに懸念される状況となり、インフレ鈍化が加わった。

ここに至って米長期金利は上昇一服、低下に転じた。利下げ期待は、一時は年内見送りとまで後退したが、足元で年内2回まで復活したようだ。それも踏まえて市場はソフトランディングを期待している。景気の悪い知らせは良いニュースという解釈だ。

金利だけが材料ならドル安円高になるはずだが反応は鈍い。ソフトランディング期待から米国株が堅調。NYダウが史上最高値を更新する展開。市場の落ち着き、リスク選好が回復するなか、なお高水準の内外金利差を背景に円高はさほど進んでいない。

しかし今後、米国で景気悪化を示す指標、インフレ鈍化を示す指標が続けば、年内から来年に向けての利下げ期待がさらに強まる。米長期金利は一段低下するとみられる。

加えて日銀が金融引き締め、追加利上げないし国債購入の減額による量的引き締めに動けば、一段とドル円相場の上値は重くなるだろう。

なおも市場心理には円安バイアスがかかったままだ。

円高に振れてもすぐに円安に回帰する値動きと、円安心理がスパイラル的に強化され、容易には崩れる気配がない。そうした心理にショックを与え、円売りポジションの手仕舞いを促すほどの値動きとなり、それが逆スパイラルとなって大きく円高が生じるにはなお材料と時間を要する。

値動きの面で鍵となるのは152円を割るかどうか。

政府・通貨当局は150円超え、152円近辺を目途に円安牽制発言を強めて、一種の壁を作ってきた。日銀の緩和継続姿勢もあり、その壁をドル高円安方向に破ったことで瞬間的に160円をつけるまで一気に円安が進んだ。

ユーロ円相場も170円台に乗せた。円安心理が強固になるなか、8兆円~9兆円の円買い介入を実施。

ただ今のところ効果は捗々しくなく、円安の勢いを止める程度だ。しかし需給効果は市場から消え去るわけではない。介入による円買いの反対側に円売りがあり介入を吸収している。

米国で景気悪化・インフレ鈍化の流れが強まってきたことで、底流で、潜在的に、円買い戻しが生じるリスク、円売りポジションの脆弱性が増しているとみたほうがよさそうだ。

ここからまず6月にはECBが、さらにBOEが利下げを実施するとみられる。逆に日銀は引き締めに動くとの見方が強まっている。となると、円独歩安を支える材料は一段と弱まる。

なおも米金利高止まりでドル独歩高が続く可能性があるが、米国で利下げが現実になればそれも緩和する。10-12月期になれば、ドル円相場のレンジは下方修正され150円割れが視野に入るというのがメインシナリオだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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