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日米金融政策決定会合のリスクバイアス
  • MRA外国為替レポート

2024年3月18日号

◆先週の市場総括


先週はドル円相場が反発。前週は日銀のマイナス金利解除等政策変更を織り込むかたちで円高が進んだが、先週は米国の利下げ先送り懸念、米長期金利の上昇、さらには日銀の政策修正が織り込み済みとなるなかドル円相場は反発上昇した。

米国で発表された物価指標(CPI、PPI)がいずれも強めとなり、利上げ先送り懸念が強まった。

週初は146円台後半を中心に上下したがその後は週末にかけてじり高。149円台に乗せて引け。ユーロ円相場も161円ちょうど近辺で始まり週末は162円台半ば。

米国株は週後半に利下げ先送り懸念やFOMCへの警戒感が強まって上値が重く軟調。日経平均は売り買い交錯。38,000円台後半を中心に方向感なく推移した。

月曜日の東京市場では日経平均が大幅下落。週末の米国半導体株安で値がさ半導体関連株が大幅安。上昇過熱のあとで利益確定売りが嵩んだ。

ドル安円高で輸出関連株が幅広く売られ、海外勢の先物売りで午後には下げ幅が拡大。一時前週末比▲1,100円を超える急落。その後持ち直したが引けは▲868円安の38,820円。

ドル円相場は147円10銭で始まり朝方146円60銭割れに下落。午後は持ち直したが上値重く146円90銭~147円10銭で上下もみ合い。ユーロ円相場も160円90銭で始まり40銭に下落。その後持ち直し160円70銭~90銭で上下横ばい。

欧州市場に入ると再び円高に振れ、ドル円相場は146円50銭、ユーロ円相場は160円20銭台に下落。ただ米国市場では円高一服。ドル円相場は米長期金利の上昇に支えられ147円近辺で上下して引けた。

米10年債利回りは4.098%へ、2年債は4.538%へ上昇。翌日のCPIへの警戒感が強まった。

ユーロ円相場は160円40銭~60銭で上下し引けは160円50銭。ユーロドル相場は東京市場から欧州市場にかけては1.0940近辺で小動きもみ合い横ばい。米国市場で1.0920へやや下落し引けは1.0930。

米国株はまちまち。CPI発表前に売買手控え。ハイテク株には引き続き売り。一方、ディフェンシブ銘柄、消費関連銘柄に買い。ナスダックは前週末比▲65ドル安の16,019ドル。NYダウは+46ドル高の38,769ドル。

火曜日の東京市場では日経平均が小幅続落。米ハイテク株軟調を受けて売り先行。一時▲500円超下落。前日の急落でも日銀がETF買いに動かなかったこともやや失望材料に。ただ円高一服で輸出関連に押し目買い。25日移動平均近くに下落したことでテクニカルに買いも入った。

ドル円相場は147円ちょうどで始まり朝方146円60銭に下落。しかし早々に反発して147円40銭を中心に欧州市場にかけてもみ合い。米国市場では147円10銭に下落したあとやや強めの米CPIを受けて瞬間的に148円20銭に急反発。その後はじり安で引けは147円60銭。

ユーロ円相場は160円50銭で始まり30銭に下落したが反発して161円20銭、夕刻には40銭まで上昇。ただその後はユーロの強弱に上下動。160円90銭に下落したあと161円50銭に反発し161円台前半でもみ合って161円30銭で引け。

ユーロドル相場は東京市場から欧州市場にかけて動意薄、1.0930~40で小動き横ばい。米国市場ではCPIを受けたドル高で1.09ちょうどまで下落したがその後はじり高。引けは1.0930。

米国の消費者物価指数(CPI、2月)は、総合指数が前年同月比+3.2%と前月+3.1%から上昇率がやや加速し予想を上回った。コア指数は+3.9%から+3.8%へ上昇率が鈍化したが予想+3.7%までは低下せず。やや強めの数字に米長期金利が上昇。10年債は4.153%へ、2年債は4.584%へ。

米国株は上昇。長期金利上昇は重石になったものの、このところ下げていた半導体関連が反発。全体を牽引した。ナスダックは前日比+246ドル高の16,265ドル。NYダウは+235ドル高の39,005ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が3営業日続落。午前中に明らかになった春闘の回答を受け、日銀の政策修正観測が強まった。一時前日比▲300円安。

その後持ち直したが海外勢の利益確定売り、国内年金基金のリバランスの売り、などが重石となったとみられる。引けは前日比▲101円安の38,695円。

この日は春闘の大企業の集中回答日で、結果は満額回答が相次ぎ要求を超える回答もみられた。日銀植田総裁は午後の参議院予算委員会で、春闘の動向は大きなポイント、金融政策はその他データやヒアリングも含め総合的に点検したうえで適切に判断する、と述べ政策修正に関する明言は避けた。

ドル円相場は147円60銭で始まり10時頃に20銭近辺に下落。ただその後は反発、上昇して夕刻には60銭~80銭で上下動。欧州市場では148円ちょうどまで上昇し147円90銭~148円でもみ合い。

ユーロ円相場も同様に161円30銭で始まり160円90銭に下落したが反発。夕刻から欧州市場にかけて161円90銭台まで上昇した。

ユーロドル相場は1.0920~30で小動きもみ合い横ばい。欧州市場では1.0940近辺でもみ合い小動き。米国市場では長期金利の上昇が続いた。

10年債は4.19%近辺へ、2年債は4.632%へ上昇。

反発していたハイテク関連株は長期金利上昇を嫌気して下落。一方、ダウ銘柄にはソフトランディング期待を背景に景気敏感株を中心に上昇した銘柄が多かった。ナスダックは▲87ドル安の16,177ドル。NYダウは+37ドル高の39,043ドル。

ドル円相場は上値重く推移。147円50銭に下落したあと147円台後半で上下し引けは60銭台。ユーロ円相場は161円60銭~80銭でもみ合い引けは70銭。ユーロドル相場は引き続き小動きで引けは1.0950。

木曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反発。朝方は米ハイテク株安を受けて下落、一時▲300円近く下げた。一方、見直し買い、物色の広がりで支えられた。引けは+111円高の38,807円。

ドル円相場は147円60銭~70銭のもみ合いで始まり上昇して夕刻まで90銭近辺でもみ合い。欧州市場に入ると60銭に押し戻された。

ユーロ円相場は161円60銭~70銭で始まり90銭に上昇して70銭~90銭でもみ合い、その後欧州市場にかけてじり安。

ユーロドル相場は小動き。1.0950で始まり欧州市場にかけてやや下げて1.0940近辺でもみ合い。

米国市場で発表された生産者物価指数(PPI、2月)は前年同月比+1.6%と前月+0.9%から上昇率が加速し予想+1.1%を大きく上回った。コア指数でも前月の+2.0%のまま低下せず。

週次の失業保険申請件数も予想より強め。継続受給者数は前週の1,906千人から1,811千人に減少した。これらを受けて利下げ後ろ倒し懸念から長期金利が上昇。10年債利回りは一時4.3%を付け、つけ引けは4.292%。2年債は4.694%へ上昇。

ドルは上昇。ドル円相場は148円30銭に上昇してもみ合い引け。ユーロドル相場はユーロ安ドル高に振れて1.0880~90でもみ合い。ユーロ円相場は161円60銭台から10銭台に一時下落したあと乱高下。引けにかけては161円40銭近辺でもみ合い。

米国株は下落。根強いインフレ圧力が示される一方、小売の低調は嫌気された。小売売上高(2月)は前月の▲0.8%から+0.6%に増加に転じたが予想を下回り前月のマイナスをカバーできず。NYダウは一時▲300ドル超下落。引けは▲137ドル安の38,905ドル。ナスダックは▲49ドル安の16,128ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が反落。米利下げ後ろ倒し観測、米株安が重石。売りが優勢となりハイテク中心に下げた。ただ一方で中長期先高感が支え。円安ドル高に振れ輸出関連銘柄は買われた。

ドル円相場は148円30銭で始まり60銭に上昇。その後夕刻にかけて148円ちょうど近辺まで下落した。

この日は連合により春闘の一次回答の集計が発表され5%超と33年ぶりに高い賃上げ率が示された。これを受けて円買い戻しが進んだ。

ユーロ円相場も同様。161円40銭から60銭に上昇したが夕刻には161円ちょうど近辺に下落。しかし欧州市場に入ると材料出尽くしにより円は急反落。ドル円相場は上昇し148円70銭中心に上下。ユーロ円相場も162円10銭まで上昇した。

その後も円は軟調。米長期金利が続伸。米10年債は4.308%へ、2年債は4.732%へ。引き続き利下げ後ろ倒し懸念が押し上げた。ドル円相場は149円ちょうど~20銭でもみ合い、引けは149円10銭近辺。

ユーロ円相場はじり高、162円40銭近辺で引け。ユーロドル相場は東京市場で1.0880~90で始まり70~80で小安く推移したあと欧州市場では1.09ちょうど近辺に上昇。その後米国市場では1.0890中心に上下して引けた。

米国株は下落。利下げ後ろ倒し懸念、利下げペースが緩慢になるとの懸念、長期金利のさらなる上昇が嫌気され、とくにハイテク株の重石となった。NYダウは前日比▲190ドル安の38,714ドル、ナスダックは▲155ドル安の15,973ドル。

NY連銀製造業活動指数(3月)は前月▲2.4から▲20.9へ予想▲8.0を大きく下回り悪化。鉱工業生産(2月)は前月比+0.1%とやや予想0.0%を上回ったが前月分が大きく下方修正され▲0.5%に。設備稼働率は前月が78.3%に下方修正され当月も同率。

ミシガン大学消費者態度指数(3月速報)は前月76.9から77.5への改善予想に反して76.5へ悪化した。

◆今週の3つの注目ポイント


1.日銀金融政策決定会合、植田総裁会見

今週は18日月曜日・19日火曜日の2日間にわたり日銀が金融政策決定会合を開催する。先週から植田総裁の国会証言やその他高官の発言から、今回号でのマイナス金利解除実施が織り込まれてきた。

週末16日には日経新聞がマイナス金利解除、イールドカーブ・コントロールの撤廃、ETFやREITの購入終了などが決定される見込み、と報じた。

引き続き緩和的な金融政策を続ける、との発言もあり、市場はその後の利上げを非常に緩慢と予想しているが、いかなるパスが示されるか。今後も利上げを継続する方向感が示されるか。あるいは慎重なトーンが維持されるか。

政策変更は織り込み済みで円高への反応は限定的とみられるが、逆にさらに円売りが強まるハト派的な内容となるか。

2.FOMC、パウエル議長会見19日火曜日・20日水曜日の2日間にわたりFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催される。今回は政策金利変更は見送りとなることはほぼ間違いないが、注目は景気・物価・政策金利に関するメンバーの予測。直近の予測は12月会合で示されたもので、利下げのタイミングは年央、利下げの回数は年内3回という内容だった。

早期利下げを織り込んでいた市場予測はFRB予測に擦り寄った。ただ、このところ利下げに慎重なタカ派的な発言が散見され、また物価指標が強めの数字だったことから、むしろ利下げ後ろ倒し懸念、年内利下げ回数の減少が懸念されている。

メンバー予測の中心値が上振れ、さらに米長期金利を押し上げ、さらに一段のドル高を招くか。市場の懸念と予測の振れの距離に注目。

3.欧米のPMI景況感指数

欧米ではインフレ鈍化がペースダウンし金融当局が利下げに慎重になるとの見方が強まっている。一方、いくつかの景況感指数では鈍化がみられることで、当初の見方通り年央利下げとの見方もなお過半。このところ底固く推移してきたPMI景況感指数は木曜日に3月分が発表となるが、引き続き強めか、あるいは軟化するか。

ユーロ圏は製造業が予想47.0、前月46.5、サービス業が予想50.5、前月50.2。米国は製造業が予想51.8、前月52.2、サービス業が予想52.0、前月52.3とやや鈍化が予想されている。

ほか、月曜日には中国で主要経済指標が発表され小売・生産のさらなる鈍化が示されるか。日本では木曜日に貿易収支(2月)、金曜日に消費者物価指数(CPI、2月)が発表される。

◆今週のMRA's Eye


日米金融政策決定会合のリスクバイアス

今週は週初に日米で金融政策決定会合が開催される。リスクバイアスを市場予測と当局のスタンスのギャップとみれば、日銀の金融政策決定会合は、すでに今会合での政策変更の詳細予測記事が日経新聞に報じられていることから、大きなギャップはなさそうだ。

一方、FOMCはかなりの不透明感が残る。当局スタンスがタカ派に振れる可能性があり、市場もそれを懸念しつつあるが半信半疑。仮にタカ派に振れた場合に市場の金利予測が修正され長期金利が上昇、短期的にドル高に振れるリスクがありそうだ。

日銀は今週の会合でマイナス金利を解除、無担保オーバーナイト金利の誘導目標を0.0%~0.1%に設定すると観測記事で報じられた。

春闘の賃上げ回答が軒並み満額回答ないし要求を上回る回答となり、日銀が政策判断で重視するとし続けてきた賃上げ率が5%台に乗せたことから、マイナス金利解除の条件が整った。

インフレ率も一時に比べやや鈍化しているがコア指数では3%台で高止まりを続けている。政策変更に十分な状況。加えてイールドカーブ・コントロールの撤廃も想定されている。またETFやREITの購入終了も決定されるという。

足元で長期金利、10年債利回りは日銀が目途としてきた1%を下回って安定して推移している。米長期金利は高止まりしているものの上昇トレンドは一服しており、海外金利からの上昇圧力は後退。解除することによる急騰リスクがないことは撤廃を後押しする。

とくに長期金利は市場の金利予測を反映しやすいことから、現時点で想定されている政策変更であれば大きく上昇する可能性は低そうだ。

国債買い入れは維持される見込みだが、これはすでに保有してきた大量の国債が順次償還することから、継続しなければ保有国債の減少すなわち市場からの資金吸収、量的引き締めとなってしまうことから当然か。

ETFやREITの購入はすでに実施されていなかった。先週初の日経平均1,000円以上の急落局面でもETF購入は見送られた。株価が急騰し堅調に推移しており、また不動産価格が高騰し問題視もされるなかで、日銀がETFやREITの購入を停止するのは当然。現状で価格を下支えし、あるいは価格上昇を促すようなオペレーションは望ましくないだろう。

そもそも、こうしたリスク資産を購入することは単なる資金供給から一歩踏み込んだ措置。信用市場や市場のリスク選好に極端な悪化が生じて金融機能に支障が生じている場合に実施されるもの。今はそうした状況になく終了は妥当で、市場の想定の範囲内だ。

リスクがあるとすれば、その後の金融政策、利上げのパスをどのようなかたちで示唆するか。植田総裁や内田副総裁は、マイナス金利解除後も緩和的な金融政策を維持する、と表明してきた。またどんどん利上げをする状況にない、とも述べている。

マイナス金利を解除しても政策金利はインフレ率をはるかに下回る極めて緩和的な水準。1%程度利上げしてもなおインフレ率を下回り実質金利はマイナスのまま。利上げの余地は大きい。

なお不透明なのは利上げのペースで、ここからはそれを巡る市場の予測と当局のスタンスの攻防、ギャップの動向がリスクバイアスの根源となる。この点、非連続性を避けるとしていることから、今後も情報発信によって市場とコミュニケーションをとりつつ、市場の織り込み・予測をコントロールしていくことになろう。

少なくとも黒田総裁のサプライズ的な政策運用とは真逆の、十分な織り込みをさせて後追いで政策変更するスタイル。ギャップの急速な解消によるリスクが抑制された状況が続きそうだ。

これに対してFRBの政策運営には今後もリスクがつきまとう。

まず政策決定の前提となる米国の景気物価動向が予測しにくい。FRBは5.5%まで急速に利上げを実施。二桁まで高騰していたインフレ率は、当局が重視する消費支出価格指数のコアベースで3%以下に低下。実質政策金利は2.5%を超えるまで急騰し急速な引き締めとなっている。

その景気抑制効果がまだ顕在化していないのはなぜか。

雇用情勢の引き締まりや株価高騰による消費下支え効果などが指摘されている。これがどこまで続くのか。そろそろ引き締めの手綱を緩めても良いのではないか。足元でなお景気が底固く推移しているなか、インフレ鈍化がペースダウンしており、利下げはなお時期尚早ではないか。ハト派、タカ派、で意見が割れるのは当然だ。

当局内でも意見が割れるなか、市場の予測は不安定にならざるを得ない。

予測不能性や当局と市場の見方のギャップが生じやすい状況が続き、ギャップが拡大しやすくリスクは上下双方に高いままだ。

足元では、市場はFOMCで政策判断がタカ派サイドに振れるのではないか、と疑心暗鬼になっている。FF金利のメンバー予測が上方修正されるかが焦点。

平均値であることから、タカ派の見方がさらに利下げに慎重な姿勢に振れれば、利下げ開始の後ろ倒しやその後の利下げペースの鈍化につながる。

市場はようやく早期利下げ観測・期待を放棄。12月のFOMCで示された当局の予測に擦り寄った。その後の強い物価指標を受け、さらに市場の不安は高まり、さらに逆サイド、タカ派サイドに振れて12月時点のFOMC予測より高めの金利推移を懸念し始めた。

ただまだ市場は疑心暗鬼。パウエル議長の発言が年央利下げを否定するものではなかったことが拠り所。結果を受け年央利下げに向けた安心感が回復するか、逆に利下げ期待がさらに後退するか。金利のリスクバイアス、ドルのリスクバイアスは上下双方に同程度のようだ。

結果として目先のドル円相場のリスクバイアスは上下双方。ただ次の一手が、日銀が追加利上げ、FRBがいよいよ利下げ、であることには変化はない。中期的なリスクバイアスはなおドル安円高方向のまま。FRBが実際に利下げに踏み切るまでは疑心暗鬼が続き、なお4月~6月期は145円~150円を中心としたもみ合いとのメインシナリオに変更はない。


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