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日銀が政策修正・利上げに向け地ならしか
  • MRA外国為替レポート

2024年3月4日号

◆先週の市場総括


先週は木曜日までは米国のPCE消費支出価格指数の上振れリスク、インフレ警戒感、利下げ後ろ倒しリスクが意識され日米とも株価が史上最高値圏で上値重くもみ合い。

しかし結果は前月からやや上昇率が鈍化しインフレの落ち着きを示し米長期金利が低下。

米国株がハイテク株中心に上昇すると日経平均は週末に40,000円の大台に迫る急騰。39,900円台で引けた。

ドル円相場は米国のインフレ警戒感や債券入札による供給増で米長期金利がやや上昇圧力を受けるなか、150円台半ばを中心に底固く上下。ただ日銀当局者から政策修正に前向きな発言が散見され、また神田財務官が投機的な円売りを牽制したことが円買い戻しを誘い150円を割る場面もあった。

しかし週末には植田総裁が、物価目標達成が見通せるに至っていない、と発言したことで円は下落し150円台後半へ。

しかし週末に発表されたISM製造業景気指数やミシガン大学消費者信頼感指数など重要指標に弱い数字が散見されドルが下落。ドル円相場は150円ちょうど近辺で引けた。

月曜日、3連休明けの東京市場では日経平均が前週木曜日に続き続伸して史上最高値を連日の更新。週末の米国株が堅調でリスク選好が支え。半導体関連株には利食い売りが入り上昇を抑制したが物色対象が広がった。引けは+135円高の39,233円。

ドル円相場は150円50銭で始まり底固く推移。30銭~50銭で上下したあと欧州市場に入ると60銭近辺で上下。米国市場では欧米長期金利の上昇に支えられ150円80銭まで上昇した。引けは70銭近辺。

ユーロ円相場も堅調。162円90銭で始まり早々に60銭に下落したが80銭近辺でもみ合い。欧州市場にかけて上昇し米国市場では163円40銭~60銭で上下した。引けは163円50銭。

ユーロドル相場は1.0820で始まり小動き。欧州市場では1.0860に上昇し米国市場では1.0840~50でもみ合い引けた。

米長期金利は2年債入札、5年債入札が不調。供給増加で債券価格は下落、金利を押し上げた。10年債利回りは4.281%へ、2年債は4.729%へ上昇。

米国株は史上最高値更新のあと利益確定売りが優勢。長期金利上昇も重石。NYダウは前週末比▲62ドル安の39,069ドル、ナスダックは▲20ドル安の15,976ドル、小幅下落して引けた。

欧州ではギリシャ中銀総裁が早期利下げに慎重な姿勢を示し、ECBラガルド総裁も、ディスインフレを予想するもインフレ目標2%達成の証拠が必要と述べ、長期金利上昇を後押し。

米国の経済指標は、新築住宅販売(1月)が季節調整済み年率換算で661千戸と前月651千戸から増加したが予想680千戸を下回った。ダラス連銀製造業活動指数(2月)は▲11.3と前月▲27.4から改善した。

火曜日の東京市場では日経平均がわずかながら上昇し史上最高値を更新。米半導体関連堅調が支え、値がさ株がしっかり。一時39,400円台へ上昇した。

朝方発表された日本の消費者物価指数CPIが予想より強く銀行株が堅調。ただ午後は利益確定売りが全体的に強まり下落。引けは+5円高の39,239円。

CPI(1月)は前年同月比+2.2%と前月+2.6%から低下したものの予想+1.9%を上回った。除く生鮮食品ベースでは+2.0%と+2.3%から鈍化したが予想+1.8%より強く、除く生鮮食品・エネルギーベースでは+3.5%と+3.7%から鈍化したが予想+3.3%を上回った。

これにより日銀の政策修正が早まるとの見方が強まり、円長期金利が上昇。ドル円相場は150円70銭で始まりCPIを受けて円高に振れて50銭に下落。さらに40銭近辺で推移して欧州市場に入ると150円10銭近辺まで下落した。ただその後は持ち直し。

米国市場では150円30銭~60銭で上下して50銭で引け。米国の経済指標は総じて弱めだったがFRBボウマン理事が、あらためて利下げに慎重なスタンスを示したことがドルを支えた。

ユーロ円相場は163円50銭で始まり下落して20銭~30銭で推移。欧州市場では162円90銭に下落した。その後は162円90銭~163円20銭で上下。米国市場では20銭~40銭で推移して引けは163円20銭。

ユーロドル相場は小動き。1.0850で始まり小動き横ばい。欧米市場でも1.0840~60の狭いレンジで推移し引けは1.0850近辺。

米長期金利はまちまち。10年債は4.309%へ上昇、2年債は4.703%へ低下した。米国株はまちまち。

NYダウは▲96ドル安の38,972ドル。ナスダックは+59ドル高の16,035ドル。

発表された耐久財受注(1月)は前月比▲6.1%と前月0.0%から大きく伸びが鈍化。消費者信頼感指数(2月)は前月114.8から106.7へ悪化。リッチモンド連銀製造業指数は▲15から▲5に改善したがマイナスに留まった。

水曜日の東京市場では日経平均が小幅ながら4営業日ぶりに反落。一時▲160円安。短期的過熱感と中長期的先高感が交錯。値がさ株には利食い売りが入った。ただ半導体関連には堅調な銘柄も。引けは▲31円安の39,208円。

ドル円相場は150円50銭で始まり40銭に下落したあと夕刻から欧州市場にかけて堅調80銭に上昇した。米国市場にかけては60銭~80銭で上下し70銭近辺でもみ合い引け。

ユーロ円相場は163円20銭で始まり163円ちょうど~20銭で上下したあと欧州市場に入るとユーロ安に押され162円80銭に下落。ただ米国市場では163円40銭を回復しもみ合い引けは163円30銭。

ユーロドル相場は1.0850で始まりじり安、欧州市場では1.08ちょうど近辺。米国市場に入ると持ち直し1.0840近辺で引けた。

米長期金利は小幅低下。10年債は4.269%、2年債は4.648%。

米国株は小幅安。NYダウは3営業日続落、▲23ドル安の38,949ドル。ナスダックは▲87ドル安の15,947ドル。

今週発表されるPCE(消費支出価格指数)が市場予想を上回りインフレ鈍化が捗々しくないことを示すリスクへの警戒感で、持ち高調整売りがやや優勢になったとみられる。

木曜日の東京市場では、神田財務官の発言、日銀高田審議委員の発言を受けて円高が進んだ。神田財務官は、円相場の過度な変動は望ましくない、適切に対応するため緊張感をもってみている、と述べ、第一段の口先介入を行った。

また昼前に日銀の高田審議委員が、2%の物価目標が見通せるようになってきた、と述べ、3月会合にもマイナス金利解除との見方が強まった。

ドル円相場は150円70銭から149円70銭近辺へ1円ほど下落。その後は下げ止まり149円台後半でもみ合い上下動。高田委員は午後に、どんどん利上げできる状況にはない、と植田総裁と同様の発言をしたことで円金利先高感は抑制された。

ユーロ円相場も163円30銭から162円20銭へ下落。20銭~40銭でもみ合いのあと欧州市場では一時162円ちょうどに迫った。

日経平均は小幅安。米株安で値がさ株に売りが嵩み一時▲300円安。円高を受けて輸出関連株も押された。ただ午後には下げ幅を縮め、引けは▲41円安の39,166円。

ドル円相場は欧州市場で持ち直し150円ちょうど~10銭近辺でもみ合い。その後、米国市場で発表された経済指標を受けて149円20銭台に下落した。ただその後は持ち直し150円ちょうど近辺でもみ合い引け。

発表された米国の週次の失業保険申請件数は、新規申請が215千件と前週203千件から増加、継続受給者数も前週1,862千件から1,905千件へ増加した。

個人所得・消費支出(1月)は前月比+1.0%・+0.2%と、所得は前月+0.3%から加速、支出は+0.7%から減速。注目のPCE消費支出価格指数は前年同月比+2.4%と前月+2.6%から伸びが鈍化、コア指数で+2.8%と前月+2.9%から鈍化した。

シカゴ購買部協会景気指数(2月)は44.0と前月46.0から改善予想に反して悪化した。

ユーロ円相場は欧州市場で162円70銭に上昇したあと米国市場でドル安円高に連れて161円70銭に下落。引けは162円ちょうど近辺。

ユーロドル相場は東京市場では1.0840近辺で小動き横ばい。欧州市場では1.0820~50で上下したあと米国市場で1.08ちょうど近辺に下落して引け。

米長期金利は低下。10年債は4.256%、2年債は4.627%。

米国株は上昇。インフレに対する過度な警戒感、利下げ後ろ倒し懸念が後退。支えとなった。NYダウは前日比+47ドル高の38,996ドル、ナスダックは+144ドル高の16,091ドルで引け。

金曜日の東京市場では日経平均が大幅高。米国のインフレ落ち着き、利下げスタンス継続、ソフトランディング期待、などを背景とする米ハイテク株を中心とする株高を受けて、半導体関連株が牽引して上昇。物色は様々な銘柄に広がり全面高。一時39,990円台をつけた。引けは+744円高の39,910円。

ドル円相場は150円ちょうどで始まり上昇し30銭~40銭でもみ合い。欧州市場に入ると一時70銭近辺に一段高。ユーロ円相場は162円ちょうどで始まり上昇して30銭~40銭でもみ合い、欧州市場に入ると一時163円ちょうど近辺に上昇した。

植田日銀総裁がG20後の記者会見で、2%の物価目標達成はまだ見通せるに至っていない、と発言し、前日までの政策変更織り込みが後退。円安が進んだ。

ユーロドル相場は小動き。1.08ちょうどで始まり1.0810~20で推移した。欧州市場ではその後円が買い戻されユーロ円相場は162円40銭へ、ドル円相場は150円30銭へ下落。

ただ欧米のPMI景況感指数が改定値で上方修正されともに反発。162円90銭、150円70銭へ上昇した。

PMI景況感指数2月改定値はユーロ圏が速報46.1から46.5へ、米国が51.5から52.5へ。

ユーロ圏消費者物価指数(2月)は前年同月比+2.6%と前月+2.8%から上昇鈍化、コア指数も+3.3%から+3.1%に鈍化した。

その後米国市場では予想外に弱い経済指標を受けてドルが反落した。

ISM製造業景気指数(2月)は前月49.1から47.8へ予想外に悪化。内訳も、新規受注指数は52.5から49.2へ、雇用指数は47.1から45.9へ、悪化した。

ミシガン大学消費者信頼感(2月)確報は速報79.6から76.9へ下方修正された。米長期金利は低下。10年債利回りは4.186%へ、2年債は4.533%へ。

ドル円相場は150円10銭近辺へ急落。そのまま10銭~20銭でもみ合い引けは150円10銭。

ユーロドル相場は1.08ちょうどから1.0850へ上昇し、1.0840近辺でもみ合い引け。ユーロ円相場は162円60銭に下落し70銭近辺でもみ合い引けた。

米国株は上昇。長期金利低下で大型ハイテク株に買いが入り指数を押し上げた。その他はまちまち。ナスダックは前日比+183ドル高の16,274ドル。NYダウは+90ドル高の39,087ドル。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

今週は重要指標の発表が相次ぎ、週末の雇用統計がとくに注目される。利下げ時期の予想をどれほど前後させるか。

火曜日 製造業新規受注(1月、前月比、前月+0.2%) ISM非製造業景気指数(2月、予想53.3、前月53.4)

水曜日 ADP雇用報告(2月、雇用者数前月比、前月+107千人) JOLT求人件数(雇用動態調査、1月、前月9,026千人)

木曜日 週次の失業保険申請件数 貿易収支(1月)

金曜日 雇用統計(2月、非農業部門雇用者数前月比、予想+188千人、前月+353千人、失業率、予想3.7%で前月不変、平均時給、前年同月比、前月+4.5%)

2.ベージュブック(地区連銀経済報告)、パウエル議長発言

水曜日にベージュブックが公表される(日本時間木曜日未明4:00)。3月のFOMCの議論のたたき台となる景気物価動向がとりまとめられる。

足元で強めの経済指標みられ、またインフレ鈍化一服で利下げ期待が後退した。現在の状況をどのように定性的に判断しているか。利下げのタイミング、年央との見方を左右する内容となるか。

また同水曜日にはパウエル議長が下院で、木曜日に上院で、議会証言を行う。政策スタンスをあらためて確認する機会となる。

3.ECB理事会、ラガルド総裁会見

欧州では木曜日にECB理事会が開催され、終了後にラガルド総裁が定例会見を行う。このところ周縁国の中銀総裁らからも早期利下げに警戒的な発言が散見される。

インフレ鈍化に一服感も生じているが、景気悪化懸念も根強く、どのような判断がされるか。欧州に関しては市場の利下げ期待がなおECBよりやや先行した状態にあるが、市場の期待を後退させるなど当局の見方と一致させるような内容となるか。

ほか、中国では火曜日から全人代が開催、木曜日に貿易収支、週末土曜日に物価指標が発表される。中国懸念が強まるか一服するか。

日本では、火曜日に都区部CPI(2月)が発表され日銀の政策スタンスへの影響が注目される。また金曜日に国際収支(1月)が発表される。

◆今週のMRA's Eye


日銀が政策修正・利上げに向け地ならしか

先週火曜日に、植田総裁と親しいとされる吉川洋日銀参与が、異次元の金融緩和を続ける状況にない、早々に正常化すべき、と発言。

同日に発表された消費者物価指数(1月)は強めの数字。総合指数・前年同月比は前月の+2.6%から+2.2%へ上昇率が鈍化したが、予想+1.9%を上回り2%を超えた状況が続いた。

除く生鮮食品ベース(いわゆるコア)では前月+2.3%から+2.0%へ低下したが予想+1.8%より高め。最も重要とされる変動の大きい生鮮食品とエネルギー価格を除くベース(いわゆるコア・コア)では前月+3.7%から+3.5%に低下したが予想+3.3%を上回り高水準が続いた。

木曜日には高田審議委員が、2%の物価目標の実現が見通せるようになってきた、と述べた。これによりマイナス金利解除やそれに続く利上げが視野に入ったと市場は受け止め。3月会合でのマイナス金利解除もありうるとの見方が強まった。

ドル円相場は1円ほど円高に振れて149円70銭まで下落。同日に、神田財務官が、過度な為替変動は好ましくない、適切に対応するため緊張感をもって市場を注視している、と述べて市場の介入警戒感を高めたことも円買い戻しを誘った。

もっとも高田委員は同日午後に、どんどん利上げできる状況ではない、と発言を微調整し従来の植田総裁、内田副総裁の発言に同調。さらに、

金曜日に植田日銀総裁が、2%の物価目標達成はまだ見通せるに至っていない、と先の高田委員の発言を否定するような内容を発言。市場の円金利先高感、円高は一服している。

日銀の政策修正への思惑は、この先も投機的な円売りの動向を左右し円相場を上下。円売りが積み上がった現状から、円買い戻しにより円売りを減少させその結果円高に振れるか、そのまま高水準の円売りを継続することが可能とみて円の安値圏での推移が継続するか。

すでにマイナス金利の解除は所与。そのタイミングについても賃金交渉の動向を十分に見極めたあとの4月会合との見方が大勢となっていた。

焦点は今年、あるいはその先まで含めてどの程度まで政策金利の修正、利上げが進むか。当面は年内どこまで利上げが実施されるのか。利上げのペースはどうかにかかる。

そこに消費者物価指数やいくつかの政策修正に前向きな発言で3月会合での利上げの可能性が強まったとの見方、さらに今年の利上げが数次にわたるとの見方も台頭した。市場は昨年末にかけて早期利上げ観測を強めたが、その後の植田総裁発言などを受けて見方を修正しハト派に同調した。

ただここにきてその見方が揺さぶられている。

今のところ日銀のスタンス、政策修正を巡る市場の予測を支配しているキーワードは総裁・副総裁による、マイナス金利解除後も緩和的な金融政策を継続する、という発言。

あるいは、どんどん利上げを実施する状況ではない、非連続的な状況をもたらさないようにする、という文言が手掛かり。

金融政策の手法としては、黒田総裁のもとでともすると市場を揺さぶるサプライズ的な政策運営が続いたのとは正反対に、植田総裁のもとでは市場に十分に政策変更を織り込ませるスタイルに180度転換したことは確実。

一方、解釈があいまいとなるのは、緩和的な金融政策を継続する、との文言。緩和的というのが絶対的な金利水準なのか、景気物価動向と比較して相対的な金利水準なのか、いずれの見方をとるかで政策金利予想は大きく異なる。

前者であれば、マイナス金利解除後の利上げが簡単には見込みにくいということになる。

後者であれば、仮に景気が底固くインフレ率が2%近くなら、1%程度までは利上げしてもなお緩和的ということになる。

どんどん利上げ、という言葉が各会合による連続的な利上げを意味するのであれば、四半期に1回程度の利上げは、どんどん利上げ、には該当しない。ただ曖昧で解釈が分かれる。

今は市場も日銀も落としどころを巡って手探り状態だ。

FRBと異なり、委員による政策金利予測は示されていないことから市場はコンセンサスを得にくい。

日銀からの発信もあいまいで様々に解釈の余地があり、市場参加者の見方そのものが振れやすい。そうしたバッファーは必要だが、それは、非連続的な変化が生じないようにする、との考え方とやや相容れない面もある。

市場の見方は、今はハト派に傾いているようにみえる。

投機的な円売りは過去最高水準で推移。とすれば、リスクはタカ派サイドに修正されるリスクか。

ここからさらに見方がハト派に傾き、さらに投機的な円売りが加速するリスクはやや低くなったようにみえる。ドル円相場の中期的なリスクは米国景気要因では上下双方同程度か。ノーランディングか、ソフトランディングないし想定よりも景気悪化が速まるか。

一方、日銀要因では、市場のコンセンサスと当局の見方のギャップが計測は難しいものの、全体としてハト派に傾いていることからやや円高サイドに優勢か。

あとは株価動向や内外資本移動、ベースとなる貿易収支の動向の影響を加えてみる必要があるが、ここは一段と円安が加速する状況は示してはいない。

当面のドル円相場は145円~150円を中心とする高止まりもみ合い、その後は緩やかにレンジをドル安円高方向に切り下げとのメインシナリオを大きく揺るがす証左はさほどない。


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