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さらなるドル高円安リスクの検証
  • MRA外国為替レポート

2024年2月26日号

◆先週の市場総括


先週は週央に公表されたFOMC議事要旨が注目材料だったが、内容は概ね想定通りで市場の反応は鈍かった。

インフレ警戒姿勢が維持され利下げが早過ぎることがリスクとの認識が大半。ただ市場はすでに利下げ開始を6月まで後ろ倒ししておりあらたな金利上昇要因とはならず。米長期金利は高止まりつつ上下動。ドル円相場は150円台を維持してもみ合い引けた。

米国株はNYダウが史上最高値を更新。注目されたエヌビディア社の決算が市場予想をさらに上回る良好な内容だったことが株式市場全体を押し上げた。日経平均も半導体関連を中心に幅広い銘柄が買われて39,000円台をつけ、バブル期の最高値を上抜けて史上最高値を更新した。

月曜日の東京市場では日経平均が小幅反落。前週末の米国株安の流れを受けて、半導体関連株中心に利益確定売りに押された。一時▲200円安。グロース株が売られた一方、銀行・商社など大型バリュー株には買いが入り下支えされた。引けは▲16円安の38,470円。

為替市場は小動き。米国市場は祝日で休場、指標の発表もなく材料難。ドル円相場は150円20銭で始まり149円90銭に下落すると欧州市場にかけて149円90銭~150円ちょうどで小動きもみ合い。

ユーロドル相場も1.0770~90で小動き横ばい。ユーロ円相場は161円90銭で始まり60銭に下落したあとは50銭~70銭中心に上下動。その後はやや円安に振れて、ドル円相場は150円10銭に戻し、ユーロ円相場は161円80銭~90銭。ユーロドル相場は1.0780で引けた。

火曜日の東京市場では日経平均が小幅続落。米国市場が休場で手掛かり難のなか幅広い銘柄が利益確定売りに押された。一方押し目買いも入り下支え。引けは前日比▲106円安の38,363円。

ドル円相場は150円10銭で始まり底固く推移し夕刻は40銭。欧州市場に入ると一転して軟調。米国市場では米長期金利低下に押されて149円70銭に下落した。その後引けにかけて持ち直し150円ちょうど近辺で取引を終えた。

ユーロ円相場は161円80銭~90銭でもみ合いのあと欧州市場にかけて上昇して162円10銭~30銭で上下。米国市場はやや下落して162円ちょうど~20銭。ユーロドル相場は1.0780で始まり60近辺に下落したあと、欧州市場では1.0840へ上昇。その後は反落して引けは1.0810。

米長期金利は上昇一服。10年債は4.273%へ、2年債は4.605%へ低下した。

3連休明けの米国株は下落。注目のエヌビディア社は決算発表を前に好決算期待との裏腹に警戒感から利益確定売りで大幅安。他の主力株にも利益確定売りが広がった。一方好決算銘柄には買い。NYダウは前週末比▲64ドル安の38,563ドル。ナスダックは▲144ドル安の15,630ドル。

米国の景気先行指数(1月)は前月比▲0.4%と予想▲0.3%を下回り前月▲0.1%から悪化が加速。発表元は米国の成長率は第2四半期から第3四半期にかけてゼロ近傍に低下する、とした。

水曜日の東京市場では日経平均が続落。前日の米国株が下落。エヌビディア株が決算発表前に不透明感からひとまず手仕舞いが入り大幅安となったことが重石。半導体関連株中心に売りが優勢となった。引けは▲101円安の38,262円。

ドル円相場は150円ちょうど近辺でもみ合い横ばい。欧州市場では150円20銭に上昇したが150円割れに下落するなど多少上下したが方向感なく推移。米国市場では150円40銭に上昇し引けは20銭~30銭。

FOMC議事要旨であらためてタカ派姿勢が確認され米長期金利がやや上昇したことがドルの支えとなった。

ユーロ円相場は162円10銭近辺でもみ合い。欧州市場では30銭に上昇したあと162円ちょうど近辺に押されてもみ合い。米国市場では162円60銭に上昇しもみ合い引け。ユーロドル相場は1.0810近辺で小動きもみ合い。欧州市場では1.08ちょうど近辺から1.0820に小幅上昇して引けた。

公表された1月のFOMC議事要旨では、物価目標の達成に向けてより強い自信を得るまで利下げは適切ではない、とされ、大半のメンバーは早く動きすぎることがリスク、と述べていた。米10年債利回りは4.318%へ、2年債は4.666%へ上昇。

米国株はまちまち。ダウはFOMC議事録でタカ派姿勢が再確認されたことで朝方一時▲200ドル超下落。ただその後は持ち直し+48ドル高の38,612ドルで引け。エヌビディア株に利益確定売りが嵩んだことでハイテク株の重石に。ナスダックは▲49ドル安の15,580ドル。

木曜日の東京市場では日経平均が急騰。39,000円の大台乗せ。バブル期の最高値を抜けて史上最高値で引けた。

朝方発表された米国のエヌビディア社の決算が市場予想を大幅に上回る好決算。市場の強気を煽るかたちとなり半導体関連を中心に買われ、幅広い銘柄に買いが広がった。引けは前日比+836円高の39,098円。

ドル円相場は150円30銭で始まり40銭近辺でもみ合い。欧州市場にかけては150円ちょうど近辺に下落したが反発。米国市場では150円60銭台に上昇し40銭~60銭でもみ合い引けは150円50銭。

ユーロ円相場は堅調。162円60銭で始まり90銭に上昇し70銭~90銭上下。欧州市場では163円40銭台に上昇したがすぐに反落して162円ちょうど近辺から162円70銭へ下落した。米国市場では162円90銭近辺でもみ合い引け。

ユーロドル相場は1.0820で始まりもみ合い。欧州市場に入ると1.0890へ上昇したがすぐに反落し1.08ちょうど近辺で推移。米国市場の引けは1.0820。

米国株は大幅高。前日引け後に発表されたエヌビディア社の良好な決算を受けて同社株が+16%の大幅高。ハイテク株、半導体関連株に買いが広がった。

またソフトランディング期待も支え。NYダウは前日比+456ドル高の39,069ドルで引け。初めて39,000ドル台に乗せて史上最高値を更新。ナスダックは+460ドル高の16,041ドルで引けた。

米長期金利は上昇。10年債利回りは4.331%、2年債は4.714%。

発表されたPMI景況感指数は強弱まちまち。ユーロ圏製造業は前月46.6から46.1へ悪化、サービス業は48.4から50.0へ改善。米国の製造業は50.7から51.5へ改善した一方、サービス業は52.5から51.3へ悪化。総合指数は52.0から51.4へ小幅悪化した。

米国の週次の失業保険申請件数は、新規申請が213千件から201千件に減少。継続受給件数は1,889千件から1,862千件へ減少し労働市場の底固さを示した。シカゴ全米活動指数は前月+0.02から▲0.30へ悪化。

金曜日の東京市場は祝日で休場。為替市場は総じて小動き。ドル円相場はアジア時間に150円50銭で始まり40銭~50銭でもみ合い欧州市場では80銭手前まで上昇したが米国市場では反落して30銭~50銭で上下して引けは150円50銭。

ユーロドル相場も小動き横ばい。アジア市場では1.0820~30でもみ合い、欧州市場で一時1.0840に上昇したが反落し米国市場では20~30でもみ合い引けは1.0820。

ユーロ円相場は162円90銭で始まり欧州市場にかけてじり高、163円20銭に上昇。しかし米国市場では162円70銭に反落して引けは162円90銭。米長期金利は小幅低下。10年債は4.248%、2年債は4.688%。

米国株はまちまち。ハイテク株は利益確定売りに押された。一方、相対的に出遅れ感のあった景気敏感株、ディフェンシブ株が買われた。NYダウは連日の史上最高値更新。+62ドル高の39,131ドル、ナスダックは▲44ドル安の15,996ドルで引けた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

市場の早期利下げ期待が後退しFRB当局と同様に6月が主流に。今後の注目はその利下げタイミングを揺り動かす強弱材料。

今週はとくにFRBがインフレ指標として最も重視する個人消費支出・価格指数とISM製造業景気指数に注目。

月曜日 新築住宅販売(1月、季節調整済み年率換算、予想680千戸、前月664千戸) ダラス連銀製造業活動指数(2月)

火曜日 耐久財受注(1月、前月比、予想▲5.0%、前月0.0%) ケースシラー住宅価格指数(12月、前年同月比、前月+5.4%) リッチモンド連銀製造業指数(2月、前月▲15) 消費者信頼感指数(2月、予想114.8、前月114.8)

水曜日 GDP(10-12月期改定値)

木曜日 米週間新規失業保険申請件数 個人所得・消費支出(1月、前月比、予想+0.5%・+0.2%、前月+0.3%・+0.7%) 消費支出価格指数(同、前年同月比、予想+2.4%、前月+2.6%、コア指数、予想+2.8%、前月+2.9%) シカゴ購買部協会景気指数(2月、前月46.0)

金曜日 ISM製造業景気指数(2月、予想79.6、前月79.0) ミシガン大学消費者信頼感(2月確報、速報79.6、前月79.0) 期待インフレ率

2.日本の経済指標

日銀は政策の非連続性を排除するためにマイナス金利解除後も緩和的な政策が続くと述べ市場とコミュニケーションをとっている。今週は日銀の判断に影響する物価指標に注目。

火曜日には消費者物価指数が発表される。前月から上昇率は鈍化するものの除く生鮮食品・エネルギーでは3%台の上昇率を維持。日銀に政策修正を促す材料になるか。

火曜日 消費者物価指数(CPI、1月、前年同月比、総合指数、予想+1.9%、前月+2.6%、除く生鮮食品・エネルギー、予想+3.3%、前月+3.7%)

木曜日 鉱工業生産(1月速報、前月比、予想▲7.0%、前月+1.4%)

金曜日 失業率(1月、予想2.4%で前月と変わらず) 有効求人倍率

3.欧州の経済指標

欧州ではECBもラガルド総裁ほかが早期利下げに慎重姿勢を示しているが、一方で早期利下げを主張する中銀総裁も散見される。欧州でも今週は物価指標の発表があり注目。

水曜日 ユーロ圏消費者信頼感(2月確報、速報▲15.5) 経済信頼感(2月、前月96.2)

金曜日 消費者物価指数(CPI、2月、前年同月比、前月+2.8%、コア指数、同+3.3%)

ほか、水曜日~金曜日に米国で地区連銀総裁らの発言が相次ぐ。

水曜日にG20財務相・中央銀行総裁会議、週末3月1日金曜日に米国で第一段階のつなぎ予算期限。それまでにあらたな予算案がまとまらなければ政府機関閉鎖リスクが台頭する可能性に留意。

◆今週のMRA's Eye


さらなるドル高円安リスクの検証

先週のドル円相場は150円台で定着し底固い値動きとなった。公表されたFOMC議事要旨(1月開催分)では、あらためて大半のメンバーが早過ぎる利下げのリスクを指摘していたことが確認され米長期金利を支えた。

経済指標も強めのなお数字が多い。PMI景況感指数は製造業、サービス業、ともに51ポイント台と景況感の分かれ目50を上回っている。

失業保険申請件数はやや減少し雇用はなお底固さを示す。FRB当局者からも利下げに慎重な発言が散見される。

これによりこのところ市場の早期利下げ期待は後退。3月にも利下げとの予想は現時点で6月会合まで後退した。それにともなって年内の利下げ回数も4回ないし5回まで減少している。

現時点で市場予測がFRBの見通しと一致し、ギャップがなくなったことから、そのギャップが解消する過程で生じるリスクは解消した。市場がFRB予測に擦り寄る過程で長期金利が上昇し水準が修正された。それに伴いドル円相場もドル高方向に水準調整を終えている。

米国要因によるさらなるドル高円安リスクは、FRBの予測そのものが一段とタカ派に振れるケース。現時点で6月に利下げ開始、年内利下げは3回としている予測が、利下げ開始が夏以降へ、利下げが2回以下となる場合。景気物価動向が上振れするかにかかっている。

FRBは、景気が底固さをみせても、インフレが鈍化しさえすれば利下げを厭わないスタンスのようだ。当局が重視する消費支出価格指数は、コア指数ベースで直近前年同月比2.9%まで低下している。

FF金利は5.5%で、両者の差である実質FF金利は2.6%で2007年秋以来の高水準。2022年初のマイナス5%から一気に8%弱上昇し急激な引き締めとなっている。

少数派ではあるが、FRBメンバーには急速な引き締めによる景気悪化へのリスクを指摘する意見もある。

こうしたことから、リスクは利下げがさらに遅延する可能性で、その場合はドル高円安が進行するというより、ドル高止まりが長期化するということになる。

メインシナリオは利下げが見込まれる6月まではドル円相場が高止まり、その後緩やかにドル安円高に振れて年末に140円程度。リスクシナリオはさらに高止まりが長期化しドル安円高が遅延ないしペースが鈍化するとのリスクになる。

155円方向へ一段のドル高円安が進むケースは、FRBの次の一手が利上げかもしれない、というところまで強気の見方に修正される場合だろう。

円サイドの要因をみると、日銀の政策修正に対する慎重姿勢を市場があらためて織り込み円安が進んだ。

シカゴ通貨先物のポジションで投機筋の動向をみると、足元で急速に円売りが拡大。過去最高水準近くまで円売りが積み上がっている。ポジション面ではさらなる円売りの積み上げは難しく見え、さらなる円安進行へのエンジンが弱まっているようだ。

肝心の日銀の政策スタンスについても、市場はややハト派に織り込み過ぎのようにみえる。

植田総裁は国会答弁でデフレ脱却を明言した。マイナス金利解除は時間の問題で3月にも実施される可能性はあろう。市場の注目は次の一手だが、そこに慎重との見方が大勢となっている。

緩和的な金融政策が続く、と述べて、市場の急速な利上げ織り込みを牽制、非連続的な金利変動を抑制するコミュニケーションを行ったことを過大評価しているリスクがある。

消費者物価上昇率は2%近傍。除く生鮮食品・エネルギーベースでは3%台にある。実質政策金利は大幅にマイナスで、考え方によれば1%まで利上げしても緩和的だ。

日銀の金融政策を巡ってはやや上振れリスクを孕んでいるようにみえる。この点も円安を抑制する要因。やや円高に作用する要因と考えられる。

ドル高円安が進む他の可能性は、リスク選好・株高のさらなる継続・加速、景気刺激的な環境への転換、日本の対外収支の悪化、など。

リスク選好・株高については、日米ともに主要株価指数が史上最高値を更新するなか、さらに上昇が加速する可能性は次第に低下したと考えるのが妥当だろう。

海外投資家は日本株投資をさらに積極化しているようだ。保有する日本株の時価総額が急増しそれに伴って円売りヘッジも積み増し、それが円安につながっているとみられる。株価上昇ペースが一服すれば円売りも一服しよう。

また日銀の政策スタンスに対する見方が変化すれば、円買い戻しにつながる可能性がある。

円売りが増大しているだけに、円買い戻しリスクはここ1年程で最も大きいとみえる。

景気刺激的な環境への転換については、第一のリスクは米国の財政政策、あるいはその予測・期待。トランプ氏が次期大統領に当選する可能性が高まったとの見方に傾けば、そうした見方が強まる可能性がある。

実際には11月の大統領選挙、および1月の就任のあとに影響が生ずることになるが、市場の反応が前倒しとなる可能性がある。財政政策の変化はFRBの利下げスタンスにも抑止的な影響を及ぼす可能性がある。

またウクライナ情勢の変化は日本の収支に影響する可能性がある。停戦による復興へと大きく舵が切られれば、復興需要が国際的な商品・資源需給を引き締める可能性がある。

価格上昇が再び日本の収支を悪化するリスクがあり、この場合は再び円安圧力が増すことになる。このケースはなお実現が予測できないが、リスクシナリオとして念頭においておく必要はあろう。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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