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市場の織り込み、修正続く
  • MRA外国為替レポート

2024年2月12日号

◆先週の市場総括


先週はドル円相場が堅調に推移。148円台半ばで始まり一時147円台に下落する場面もあったが、週末にかけて149円台に乗せて引けた。ユーロ円相場も160円ちょうどで始まり一時159円台に下落したが週末は161円ちょうどに上昇。米国で発表された経済指標は景気の底固さを示した。

FRB当局者からは利下げに慎重な発言が続き、早期利下げ観測が後退して米長期金利が上昇。ドルを押し上げた。

一方、日銀の内田副総裁がマイナス金利解除後も緩和的な金融政策を続けると表明したことを材料に週末にかけて円が全面安となった。

米国株はAI需要への期待感からハイテク、半導体関連銘柄が大幅高。米株価指数はNYダウ、S&P500ともに史上最高値を更新。日経平均も値がさ半導体関連株が堅調。円安も下支え。決算良好な銘柄が買われ一時37,000円をつけるなどバブル後戻り高値を更新した。

月曜日の東京市場では日経平均が続伸。週末の米株高、円安を受け寄付き直後に+300円近く上昇。ただ値がさ半導体関連株が軟調。好決算銘柄はしっかり。引けは前週末比+196円高の36,354円。

ドル円相場は148円40銭で始まり早々に80銭に上昇したが40銭~50銭近辺でもみ合い小動き。その後、欧州市場から米国市場朝方にかけては148円台半ばで上下した。

米国市場では強いISM非製造業景気指数をうけて米長期金利が上昇。148円90銭へ上昇。その後は148円台後半で上下して引けは148円70銭。

ユーロ円相場は160円ちょうどで始まり30銭に上昇したが反落、軟調で夕刻は159円80銭近辺。その後も上値重く欧州市場から米国市場にかけてドル高ユーロ安に押され159円50銭に下落した。その後は159円70銭~80銭でもみ合い引け。

ユーロドル相場は1.0780で始まりもみ合い小動き。欧州市場から米国市場にかけて軟調、米国市場では1.0720へ下落。引けは1.0740。ドルは堅調でドルインデックスは104.50近辺に上昇した。

発表されたISM非製造業景気指数(1月)は53.4と前月50.6から改善して予想52.3を上回った。雇用指数が43.8から50.5へ、新規受注指数が52.8から55.0へ、それぞれ改善。価格判断指数は57.4から64.0へ上昇した。米長期金利は大きく上昇し、10年債は4.163%へ、2年債は4.478%へ。

米国株は下落。長期金利が大きく上昇したことが嫌気された。パウエル議長は利下げに慎重に対処できる、と発言した。また地銀の業績不安も重石。NYダウは一時▲430ドル下落して引けは▲274ドル安の38,380ドル。ナスダックは▲31ドル安の15,597ドル。

火曜日の東京市場では日経平均が反落。米国で早期利下げ観測が後退、米国株が下落し重石となった。一方良好な決算、業績期待は下支え。引けは▲193円安の36,160円。

ドル円相場は上値重く推移。148円70銭で始まり午後東証引け頃には148円40銭近辺に下落。欧州市場に入ると80銭近辺まで持ち直したが、米国市場では米長期金利が反転低下したことで147円80銭近辺まで大幅下落。148円手前でもみ合い147円90銭で引け。

ユーロ円相場は159円60銭~70銭でもみ合い。欧州市場で一時80銭台に強含んだが反転下落。米国市場では159円ちょうど近辺でもみ合い引けた。ユーロドル相場は1.0740で始まりもみ合い小動き。欧州市場では1.0760へ小幅上昇、1.0730へ反落、その後緩やかに持ち直して米国市場では1.0750で引けた。

米長期金利は低下。10年債は4.103%、2年債は4.409%。3年債入札が堅調で債券買いが利回りを押し下げた。

イエレン財務長官が商業用不動産を巡る懸念を表明。一部地銀の業績不安が広がった。米国株はソフトランディング期待が支え底固く推移。一方、半導体関連には利食い売りが嵩んだ。NYダウは前日比+141ドル高の38,521ドル。ナスダックは+11ドル高の15,609ドル。

クリーブランド連銀総裁は、経済が予想通りに推移すれば利下げへの道が開かれる、としながらも、物価情勢は不透明、確証がないまま早急に利下げを実施するのは間違い、と慎重な姿勢を示した。

水曜日の東京市場では日経平均が小幅続落。米半導体株安、円安一服が重石。一時▲300円超下落した。ただ36,000円割れでは押し目買いも根強く下げ幅を縮小。業績好調なトヨタ、自社株買いを発表した三菱商事、などが上昇。主力銘柄に押し目買いが入った。引けは前日比▲40円安の36,119円。

ドル円相場は147円80銭~148円ちょうどでもみ合い。夕刻から欧州市場にかけて堅調となり148円20銭台に上昇。米国市場では147円60銭台に下落。

ミネアポリス連銀総裁が、今年は2、3回の利下げが適切、と述べたことに反応した。ただその後は反発、上下しながらじり高、148円台を回復し引けは148円20銭近辺。

ユーロドル相場は終始小動きもみ合い。1.0760近辺でもみ合い、欧米市場でも1.0760~80で推移し米国市場の引けは1.0770。

ユーロ円相場は159円ちょうどで始まり欧州市場にかけてじり高、159円70銭まで上昇した。米国市場では159円ちょうどに反落したがその後持ち直して引けは159円60銭。

FRB地区連銀総裁から利下げに慎重な発言が相次いだ。

ミネアポリス連銀総裁の発言は前向きととられたが、リッチモンド連銀総裁は、物価に不確実性があり忍耐強く対応すべき、と述べた。ボストン連銀総裁は、利下げ実施にはより多くの証拠が必要、とした。一方、米議会予算局は利下げ開始を4-6月期と予想した。

米国株は堅調。NYダウ、S&P500とも市場最高値を更新。景気の底固さ、良好な決算、業績堅調、が株価を押し上げた。この日はハイテク株が牽引。NYダウは前日比+156ドル高の38,677ドル。ナスダックは+147ドル高の15,756ドルで引け。米10年債利回りは4.111%とほぼ横ばい、2年債は4.430%に小幅上昇した。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅高。バブル後の最高値を更新し34年振りの高値をつけた。米国株上昇を受けて朝から値がさ株を中心に上昇。

さらに日銀内田副総裁がマイナス金利解除後も緩和的な金融環境を維持する、と述べたことに反応し急伸。一時前日比+800円高。引けは+743円高の36,863円。

ドル円相場は148円20銭近辺で始まり148円ちょうどに下落したが内田発言を受けて大きく円安が進んだ。欧州市場では148円90銭。米国市場では149円50銭まで上昇し20銭~30銭で引け。

ユーロ円相場は159円60銭で始まり終始右肩上がり、欧米市場を通じて上昇、急騰。161円ちょうど近辺で引けた。

ユーロドル相場は小動き。1.0770で始まり80近辺で推移。欧米市場で一時1.0740に下落したが引けは戻して1.0780。

米国株は小幅続伸。NYダウ、S&P500ともに連日の史上最高値更新。S&P500は一時初めて5,000ドルの大台に乗せた。AI関連が堅調。アーム社の株価が急騰。ただし利下げ期待の後退、長期金利上昇が重石となった。引けはNYダウが前日比+48ドル高の38,726ドル、ナスダックは+37ドル高の15,793ドル。

米10年債利回りは4.159%へ、2年債は4.462%へ上昇した。

週次の失業保険申請件数は新規申請が218千件へ、継続受給が1,871千件へ、ともに小幅減少。雇用の底固さを示した。

金曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸。米国株高を受けて買い先行。前日に急騰した米国アーム社の大株主であるソフトバンク株が急伸して指数を押し上げた。一時前日比+400円強上昇して37,000円の大台に乗せる場面もあった。ただ午後には利益確定売りに押されて反落。一部銘柄の上昇で全体的に強いといえない動き。引けは+34円高の36,897円。

為替市場は材料難のなか小動き、いずれも狭いレンジでもみ合い横ばい。ドル円相場は149円30銭で始まり東京市場から欧米市場を通じて149円20銭~50銭で小動き、引けは149円30銭近辺。

ユーロドル相場は1.0770~80でもみ合い、欧州市場で1.0760~90でやや振れ幅が大きくなったものの終始小動きで引けは1.0780と東京市場のオープンと変わらず。

ユーロ円相場も上昇一服。160円80銭~161円ちょうどでもみ合い。米国市場でも160円ちょうど~10銭でほぼ変わらず引けは161円ちょうど。米長期金利は小幅上昇。10年債利回りは4.19%、2年債は4.488%。

米国株はまちまち。引き続きAI関連需要への期待感からハイテク、半導体関連銘柄が買われた。一方、主力株の一部は利益確定売りに押された。NYダウは▲54ドル安の38,671ドル。S&P500は5,000ドルの大台に乗せたが小幅高、+28ドル高の5,026ドル。ナスダックは+196ドル高の15,990ドル。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

今週は物価動向、実体景気を示す指標、双方ともに発表される。

火曜日 消費者物価指数(CPI、1月、前年同月比、予想+2.9%、前月+3.4%、コア指数、予想+3.7%、前月+3.9%)

木曜日 NY連銀製造業景気指数(2月、予想▲10.0、前月▲43.7) 小売売上高(1月、前月比、予想+0.1%、前月+0.6%) 鉱工業生産(1月、前月比、予想+0.4%、前月+0.1%) 米週間新規失業保険申請件数

金曜日 生産者物価指数(PPI、1月、前年同月比、前月+1.0%、コア指数、前月+1.8%) 住宅着工件数(1月、季節調整済み年率換算、予想1,468千戸、前月1,460千戸) ミシガン大学消費者信頼感指数(1月、速報、予想80.0、前月79.0)

2.欧州の経済指標

ECBは市場の早期利下げ観測を牽制している。一方、景気懸念は強まったまま。中国景気低迷の影響も懸念される。指標はECBのスタンスを支持するか、景気懸念を強め再考を促すか。

火曜日 ZEWドイツ景況感指数(2月、期待指数、前月15.2) 同欧州景況感指数(前月22.7)

水曜日 ユーロ圏GDP(10-12月期改定値) 鉱工業生産(12月、前月比、前月▲0.3%、前年同月比、前月▲6.8%)

3.株価動向

先週は米国株がNYダウ、ナスダック、ともに史上最高値を更新して堅調に推移。日本株も日経平均がバブル後の戻り高値を更新して一時37,000円台をつけるなど34年ぶりの高値をつけた。一部半導体株、値がさ株が牽引役となっているとはいえ、リスク選好を支えるかたちとなった。

これがユーロ円相場などクロス円相場の上昇、全般的な円安をもたらした面もある。今週は米国での決算発表が一巡。株価上昇が一服し円安もひとまず一服となるか。

◆今週のMRA's Eye


市場の織り込み、修正続く

米国では引き続き早期利下げ観測が後退する流れが続いている。ISM非製造業景気指数(1月)が製造業に続いて予想外に強い数字となり、景気悪化懸念が後退した。PMI景況感指数も堅調で、総じて米国経済の底固さを示している。

雇用関連指標も雇用情勢がなお強く推移していることを示す。消費者信頼感も強く、消費も堅調のようだ。

インフレ率は低下してきたが足元で一服。原油価格の下げ止まり、サービス消費の堅調が支えているとみられる。景気堅調、インフレは落ち着き、という状況はFRBにとって理想的な状態。

現時点だけ考えれば金融政策の変更、利下げは急ぐ必要はなく、利上げはさらに考える必要がない状態だろう。仕事をする必要がない、といったところだ。こうした状況は市場にとってもベストな状況といえる。早期利下げ期待が後退しつつも、株価が堅調に推移するのも当然だ。

FRBが利上げ局面を終了したことは1月のFOMC会合で明らかになった。しかし1月に入って以降続く市場の早期利下げ期待を牽制する姿勢が続いている。

先週も連銀総裁から利下げを急がない趣旨の発言が相次いだ。具体的に利下げに言及した発言も、年内に2回ないし3回の利下げが適切としている。これは12月会合で示されたメンバーの予測、利上げ打ち止め、2024年は利下げ0.25%×3回、に沿ったものだ。

市場は3月の利下げ開始、年内6回程度の利下げを織り込んでいたが、さすがにここにきて見通しを修正しつつある。3月利下げ期待は放棄。現状では5月初が半々程度。6月が本命となりつつある。

インフレ率が低下したことで政策金利からインフレ率を差し引いた実質政策金利は大きく上昇している。足元で景気は堅調だが、実質金利の上昇が景気抑制するリスクはある。FRBは少なくとも追加利上げをするつもりはないだろう。

足元の景気とくに消費を支えているのは物価の安定と株価の上昇とみられる。

インフレ鈍化で実質所得の減少が増加に転じ、また株高による資産効果も追い風になっているとみられる。

このうち株高については主要指数が史上最高値を更新するなか持続性するかどうか不透明だ。雇用が景気の遅行指数であることも考慮する必要がある。1月の雇用統計は極めて強い数字だったが、当局者から季節調整の不備や特殊要因による可能性もあり過大評価されているとの発言も。

当面は、市場の織り込み過ぎの修正が長期金利を支えるだろう。ただ過度な金利先安感の修正の範囲内。金利先高感へと逆転するわけではない。

中期的な金利シナリオが大きく修正されないのであれば、長期金利の上昇にも限界がある。10年債利回りは昨年末に3.8%割れまで低下していたが、足元では4.2%程度まで反発。これがさらに4.5%に近づく可能性は低いとみられる。

FRBメンバーの予測が上方修正されない限り、当面は4%台前半でもみ合い推移となりそうだ。

リスクは上下双方にある。下方リスクは注目されつつある商業用不動産に対する懸念。米国の地方銀行の商業用不動産融資への傾斜が与信コストの上昇、業績不安、経営不安を強める可能性がある。

金利先安感の後退、長期金利上昇は、さらに商業用不動産市場への逆風を再び強める可能性がある。

足元の株価動向はAI関連需要への期待でハイテク中心に堅調だが、実体景気や金融への不安が強まれば市場全体がリスク回避に傾く可能性がある。株価が調整すれば消費の下支えも弱まる。足元の好循環が崩れるリスクがある。

金融市場の安定あるいは景気下押しリスクへの対処から、予防的に利下げが早まる可能性がある。状況次第で利下げが年内に3回を超えることもありえよう。

逆に上方リスクは想定以上に景気堅調が続き、そこに外部からの物価上昇リスクが加わる場合。国際情勢に起因する資源価格の上昇、海運コストの上昇などが加われば、インフレ率が再び上昇、当局が警戒姿勢を強めて利下げをさらに先送りする可能性もある。

この場合は景気堅調もインフレリスクの高まり、長期金利の上昇、などから資産価格に下落圧力が強まる。市場のリスク回避姿勢が強まる可能性がある。

メインシナリオは、ドル高止まりの時間帯が1-3月期に留まらず、もう少し長期化する可能性が強まってきたとの見方に。

下方リスクに傾けば140円を試すタイミングが4?6月期に前倒しになる可能性。上方リスクに傾けば150円超えを試す可能性が生じるが、同時にリスク回避など下方リスクも強まって乱高下するとみられる。

大統領選挙の影響は、その結果も含めてまだ不透明。トランプ大統領となった場合は、景気物価状況にかかわらず自らの景気刺激的な政策を押し通す可能性があり、経済・市場にとって波乱要因になるとみられる。

景気刺激的という側面からはドル高要因となるが、貿易重視の姿勢からはドル安を志向しやすく市場はどう受け止めるか。なお分析を要し現時点での判断は時期尚早だ。


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