想定されるトランプリスクバイアス
- MRA外国為替レポート
2024年1月29日号
◆先週の市場総括
先週はドル高円安が一服。ドル円相場は概ね147円台を中心に横ばい上下動。ユーロは160円台を中心に159円台~161円台、ユーロドル相場も1.08台後半中心に、ともに方向感なく推移した。
週初の日銀金融政策決定会合では政策維持も景気物価見通しは上方修正、インフレ目標達成への確度が上がったとされた。植田総裁の会見も含め政策変更の地ならしを始めたとの印象。円安には歯止めがかかった。
米国の経済指標は、インフレ鈍化・消費良好・PMI景況感指数も強め、とソフトランディング期待を支持する内容。
米長期金利は底固く推移。10年債は4.1%台、2年債は4.3%台。米国株は決算発表・業績見通しを受けて個別銘柄で明暗が分かれたが概ね堅調。
木曜日のECB理事会では政策金利据え置き。市場の早期利下げ観測を牽制しつつも景気認識は弱めだった。
日経平均は36,000円台の大台での達成感から利益確定売りも相応に出て上値重く推移。
月曜日の東京市場では日経平均が大幅高。前週末比+583円高の36,546円で引け。終値ベースで36,000円台を回復した。前週末に米ハイテク株が上昇したことが心理的に支え。海外勢の買いも続いた。
ドル円相場は上値の重い展開。月曜日・火曜日に開催される日銀金融政策決定会合を前にポジション調整でやや円買い戻し優勢のなか方向感ない値動き。148円20銭台で始まり昼頃に147円70銭台に下落。
夕刻から欧州市場にかけては148円30銭に反発したが、米国市場では147円60銭台に下落。引けは戻して148円ちょうど近辺。
ユーロ円相場も同様の値動き。161円40銭で始まりやや下げて20銭中心に上下もみ合い。欧州市場では30銭~50銭で上下したあと米国市場では160円80銭に下落した。引けは161円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は1.0890で始まり方向感なく小動き横ばい、動意薄。欧州市場、米国市場では1.0880~1.09ちょうどで推移して引けは1.0880。
米国株は堅調。企業決算発表を受けて好業績銘柄が買われ、今後の決算発表に向けて好業績期待感が全体を支えた。NYダウは前週末比+138ドル高の38,001ドル。初の38,000ドルの大台に乗せて引けた。ナスダックは+49ドル高の15,360ドル。
米10年債利回りはやや低下して4.109%。2年債はやや上昇して4.393%。
火曜日の東京市場では日銀の金融政策決定会合2日目、結果および植田総裁会見が注目材料となった。昼頃に公表された結果は金融政策の現状維持。ただ展望レポートでは見通し実現の確度は引き続き少しずつ高まっている、とされた。
植田総裁は会見で、2%の物価目標が実現する確度は少しずつ高まっている、とあらためて述べた。賃上げに前向きな動きがみられる、中小企業の賃上げは大企業の動向から類推できる、とした。
春闘の結果は3月会合の前に判明することもあり、次回会合の前には入手判断する情報が増えると述べた。マイナス金利の解除はその後も視野に入れて判断。震災の影響は注視しつつも政策判断には大きく影響しないとのニュアンスの発言がみられた。
総裁は、市場に非連続なショックを生じないように政策変更は可能、と述べ、市場に十分に織り込ませながら政策変更を漸進的に行う方針を示唆した。総じて、今回の会合では政策変更への地ならしを行ったと受け止められた。
日経平均は米国株の堅調もあり朝方は一時+400円高に上昇した。しかし日銀会合の結果を受けて利益確定売りが優勢。引けは▲29円安の36,517円。
ドル円相場は148円10銭近辺でもみ合い。会合の結果、現状維持を受けて直後に148円50銭台に上昇したが、すぐに反落して147円90銭~148円20銭でもみ合い。その後、植田総裁の会見で円買い戻しが強まり一時147円割れに下落した。
ただその後欧米市場にかけては持ち直し米国市場では148円70銭へ。引けは148円30銭台。
ユーロ円相場も同様の値動き。161円ちょうどで始まり会合の結果を受けて一時161円70銭に上昇。その後161円10銭~50銭で上下して植田総裁会見で160円40銭に下落した。その後欧米市場では概ね160円台後半で上下動。引けは160円90銭近辺。
ユーロドル相場は1.0880で始まり欧米市場も含めて1.08台後半中心に上下。方向感なく推移して米国市場の引けは1.0860。
米国株はまちまち。企業決算発表が相次ぎ業績見通しを受けて明暗が分かれた。ハイテク株は堅調。NYダウは3M社の大幅安に押されて▲96ドル安の37,905ドル。ナスダックは+65ドル高の15,425ドル。米10年債利回りは4.132%へ小幅上昇、2年債は4.372%で概ね変わらず。
水曜日の東京市場では日経平均が下落。NYダウの下落は心理的な重石。日銀の政策変更が近いとの見方が強まり、海外勢からの利益確定売りが強まった。一方、半導体関連株は堅調で下支え。引けは前日比▲291円安の36,226円。
発表された12月の通関統計では貿易収支が前月▲7,800億円弱の赤字から600億円程度の黒字に。予想を上回る改善となった。為替市場では円買い戻しの動きが優勢。ドル円相場は148円30銭台で始まり下落して147円80銭~148円ちょうどでもみ合い、夕刻から欧州市場にかけて一段安となり147円50銭近辺でもみ合った。
米国市場に入るとさらに下落して146円60銭台へ。その後は強い米国の経済指標、米長期金利の上昇を受けて反発し147円50銭で引けた。
ユーロ円相場は161円で始まり160円50銭に下落し160円60銭~70銭でもみ合い。米国市場にかけて160円ちょうど近辺まで続落した。その後は持ち直し引けは160円50銭。
ユーロドル相場は1.0850~60で推移し欧州市場にかけて1.0910へ上昇。米国市場では1.0930へ一段高となったあと反落して1.0890近辺で取引を終えた。
発表されたPMI景況感指数(1月速報)は、ユーロ圏は製造業が46.6と前月44.4から予想より強めに改善。サービス業は前月49.3から48.4へ予想より弱めに悪化した。
米国のPMIは製造業・サービス業とも前月から改善し予想より良好な数字となった。製造業は47.9から50.3へ、サービス業は51.4から52.9へ。早期利下げ期待は後退し米長期金利は上昇。10年債は4.182%へ。2年債は4.381%へ。
米国株はまちまち。長期金利上昇は重石。一方半導体関連株、ハイテク株は引き続き堅調。マイクロソフト社の株式時価総額は3兆ドルに乗せた。NYダウは前日比▲99ドル安の37,806ドル、ナスダックは+55ドル高の15,481ドル。
木曜日の東京市場では日経平均が小幅高、+9円高の36,236円で引け。米ハイテク株高が支えとなり半導体関連銘柄を中心に買われた。午前中には過熱感から利益確定売りが強まり一時▲300円超下落したが、36,000円割れでは底固かった。
ドル円相場はもみ合い横ばい。147円50銭で始まり60銭~80銭で上下。欧州市場では50銭~70銭。ユーロ円相場は160円50銭で始まり夕刻にかけ緩やかに90銭に上昇し、60銭~90銭で上下。
この日はECB理事会が開催され政策金利は4.50%で据え置き。ラガルド総裁は会見で利下げの議論は時期尚早とした。ただ景気見通しには弱気な発言が多く、会合後にユーロは下落。ユーロドル相場は1.0880~90で小動きもみ合いから1.0830へ下落。引けは1.0850。
ユーロ円相場はECB会合後に159円80銭へ1円ほど下げた。その後は下げ一服でもみ合い、160円10銭に戻して引け。
発表されたドイツIFO企業景況感指数(1月)は前月86.4から小幅改善予想に反し85.2へ悪化。発表元は、ドイツ経済はなおリセッションから脱していない、とした。
ドル円相場も連れて147円10銭に下落したがその後は持ち直し。147円70銭~90銭で推移し引けは147円60銭。
発表された米国のGDP(10-12月期)はやや強め。前期比年率は+3.3%と予想+2.0%を上回った。個人消費は同+2.8%。一方、個人消費価格指数は前期比年率+2.0%と前期と変わらず物価安定を示した。
米長期金利は小幅低下。10年債は4.126%、2年債は4.315%。米国株は上昇。GDPが強い数字だったことでソフトランディング期待が高まった。
引き続き個別決算で明暗。IBMが大幅高の一方、テスラは大幅安。NYダウは前日比+242ドル高の38,049ドル、ナスダックは+28ドル高の15,510ドル。
他の米国指標は、耐久財受注(12月、除く輸送機器)が前月比+0.6%と前月+0.5%に続き高水準を維持。一方、週次の失業保険申請件数は新規が214千件と前週187千件から予想以上に増加、継続受給も同様に1,883千件と前週1,806千件から増加した。シカゴ連銀全米活動指数(12月)は▲0.15と前月0.01から悪化した。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。昨年12月21日以来の大幅下落。▲485円安の35,751円で引け。大台の36,000円割れで引け。米インテル社の業績見通しが冴えなかったことで半導体関連株中心に利益確定売りが嵩んで一時は▲500円下落した。
ドル円相場は底固く推移。147円60銭~80銭で上下したあと80銭近辺で夕刻までもみ合い。欧州市場では148円10銭に上昇したが米国市場では147円70銭近辺に反落してもみ合い。
ただその後発表された米国の経済指標が良好な内容だったことで米長期金利が上昇。ドルが堅調、円が軟調。ドル円相場は148円20銭に上昇して引けは10銭近辺。
ユーロ円相場は東京市場で160円ちょうど~20銭で上下し、夕刻、欧州市場早々に159円80銭台に下落。ただその後米国市場にかけて上昇しそのまま160円70銭~90銭でもみ合い引けた。
ユーロドル相場は1.0840~50でもみ合い夕刻に1.0810に下落したが欧州市場では1.0870に反発。その後米国市場ではドル堅調に押されて1.0850台で引けた。
米国で発表された個人所得・消費支出(12月)は、所得が前月比+0.3%と予想通り、消費支出は+0.7%と予想を上回る堅調を示した。
一方、消費支出価格指数(PCEデフレーター)は総合が+2.6%と前月と変わらず、除く食料品・エネルギーは+2.9%と前月+3.2%から低下し予想を下回った。消費堅調・インフレ鈍化、と、理想的な組み合わせとなり市場のソフトランディング期待を支えた。
米10年債利回りは4.139%、2年債は4.357%、と小幅上昇。
米国株はインフレ鈍化を好感。NYダウは史上最高値を更新し、+60ドル高の38,109ドルで引け。ナスダックはインテル社の業績見通しが冴えなかったこともあり▲55ドル安の15,455ドルで引けた。
◆今週の3つの注目ポイント
1.FOMC(連邦公開市場委員会)、パウエル議長会見
火曜日・水曜日の2日間、FOMCが開催される。結果公表は日本時間木曜日未明4:00。その後4:30からパウエル議長が定例会見を行う。
今回の会合では政策変更は見込まれていない。
足元でインフレ低下ペースが鈍化。経済指標は景気・雇用の底固さを示している。利下げに向けてどのような議論がなされるか。
12月の雇用統計やISM景気指数など重要指標の発表直前でもあり判断は難しいとみられる。市場の早期利下げ期待は剥落しつつあるが、利上げ開始時期について年央とのメンバー予測から前後に動くニュアンスは示されるか。それに伴う市場の反応はどうか。
2.米国の経済指標
最近の経済指標はインフレ鈍化・景気は底固いとの理想的な状態を示している。市場ではソフトランディング期待が高まっているが、そうした見方を引き続き支持するか。企業の景況感、雇用情勢に著変ないか。
火曜日 消費者信頼感指数(1月、予想111.6、前月110.7) 雇用動態調査(JOLTS)求人件数(12月、前月8,790千件)
水曜日 ADP雇用報告(12月、雇用者数前月比増減、予想+135千人、前月+164千人) 雇用コスト指数(10-12月期、前期比、予想+1.0%、前期+1.1%) シカゴ購買部協会景気指数(1月、予想48.1、前期46.9)
木曜日 PMI製造業指数(1月)改定値 ISM製造業景気指数(1月、予想47.3、前月47.4)
金曜日 雇用統計(1月、非農業部門雇用者数前月比、予想+168千人、前月+216千人、失業率、予想3.8%、前月3.7%、平均時給・前年同月比、予想+4.1%、前月+4.1%) ミシガン大学消費者信頼感指数(1月確報)
3.日銀金融政策決定会合(1月)主な意見
水曜日に1月22日・23日に開催された日銀金融政策決定会合の主な意見が公表される。同会合では景気物価見通しが上方修正され、また見通しの確度、物価目標達成の可能性が高まったとされた。
植田総裁の会見内容も含め、市場はマイナス金利解除に向けて一歩前進、地ならしが進んでいると受け止めた。会合でどのような意見が表明されたか。マイナス金利解除に向けて、積極・慎重いずれの意見が大勢だったか。
◆今週のMRA's Eye
想定されるトランプリスクバイアス
共和党大統領候補者争いでトランプ氏が緒戦で2連勝。共和党候補者となることが確実となってきた。現職・民主党バイデン大統領vs共和党トランプ候補では、保守岩盤支持層を固めたトランプ氏が優勢とみられ、次期大統領がトランプ氏となる可能性がかなり高まったようにみえる。
それを踏まえて、ある程度、大統領選挙でトランプ氏が当選した場合のリスク、ないりリスクバイアスの傾きについて、現時点で不透明ながら、様々な可能性を想定しておくことも必要だろう。
市場への影響は、心理的な影響、政策による経済を通じた具体的かつ比較的直接的な影響、国際情勢への影響を通じた間接的な影響、などが想定される。
基本的には前回の就任時と同様、持論のアメリカ第一主義を主軸にポピュリズム的な政策スタンスとなるだろう。
現時点で想定されているトランプ氏の政策のいくつかは以下のように想定される。総じて景気拡張的・インフレ的な政策となりそうだ。
財政政策は拡張的になるリスクがある。前回のトランプ政権は所得税減税を実施し財政赤字は拡大した。2025年に失効する減税策は延長ないし恒久化される可能性が高い。あらたな財政支出増加ではないが拡張状態が続く。
35%から21%への法人税減税も実施されたが、こちらはさらなる減税は見送りか。金持ち・富裕層・企業優遇ではなく、中間層に配慮した路線となる可能性が高いとみられている。
前回の当選直後の演説では、道路を造ろう、橋を造ろう、と述べた。不透明感の解消もあるが、この発言の直後にドル安円高からドル高円安へ急転換した。
金融政策は政権の埒外だが、当然ながら利下げ圧力を強める可能性がある。こちらは事態が複雑になりそうだ。
ようやくインフレ沈静化が定着し目標に着地しつつあるが、財政拡張など景気刺激的な政策に傾けばむしろFRBは利下げに慎重になるだろう。利下げ鈍化となれば金利面からはドルを下支える可能性がある。あるいはドル金利先安感の後退、先高感に転換する可能性もある。
財政政策と金融政策に摩擦が生じ、政権とFRBの対立が激しくなる可能性がある。こうした対立は株式市場にとってマイナス要因となりそうだ。
利下げ期待の剥落とともにリスク回避が強まる可能性がある。この視点からみると必ずしもドル高円安とはいえない。中期的にはハードランディングになる可能性。またドル円相場は大きく乱高下する可能性がある。
貿易政策については関税を用いて米国企業に優位に働くように動く可能性がある。対中政策でも強硬路線を貫き、再び関税引き上げなど貿易摩擦を強めることとなりそうだ。
米国企業にとってはプラスとなりうるが、サプライチェーンの見直し、コスト上昇などがインフレ圧力となる可能性がある。
気候変動やエネルギー問題への取り組みもインフレ的になりうる。おそらくパリ協定から再び離脱。脱炭素政策に逆行することになるだろう。石油・ガスの使用規制を緩和することになりそうだ。これによりエネルギー価格には上昇圧力がかかる可能性がある。
移民問題については、現時点ですでに大量に流入していることが問題となり始めている。再び移民を制限する可能性が高い。これにより間接的には労働人口の伸びが下がり、インフレ圧力が高まる可能性がある。
国際情勢への影響が間接的に市場に及ぼす影響も見逃せない。米国第一主義により、基本的には対外不干渉主義に傾くことが想定される。すでに米議会においてウクライナ問題に対する関与は引き気味に傾いているが、トランプ政権では一段とその色彩が強まるだろう。
ウクライナおよびEUが戦争続行不可能とみて停戦に動けば、戦時から戦後復興へとフェーズは移行。資源価格には上昇圧力がかかるだろう。
パレスチナ問題も悪化する可能性がある。トランプ政権はバイデン政権以上にイスラエル寄りになる可能性がある。また中東への関与を低下させようというトランプ政権のスタンスとあいまって、中東地域が不安定となる可能性がある。原油価格には上昇圧力となりうるだろう。
これらが示唆する円相場への影響は双方ある。資源価格上昇は日本経済にとってマイナスに働く。
貿易収支は再び悪化し赤字拡大で円安圧力が増す可能性がある。一方、グローバル金融市場がリスク回避に傾いた場合、株安・円高に働く可能性もある。
市場心理面でみれば、大統領選挙前には不透明感からリスクポジションを抑制する動きが強まる可能性がある。株価には下落圧力、投機ポジションには手仕舞い、結果的に円買い戻しが強まる可能性がある。
また漠たるトランプ政権に対する不安感は、当選後もリスクマインドにマイナスに働く可能性がある。すでに記したような政策面からの影響は、新大統領が打ち出す政策を受けてから。
選挙後は先読みした反応が生じるだろうが、本格的な相場への影響は来年の就任後か。
総じて、想定される政策面ではドル安円高に歯止めをかけ、あるいはドルを支え、ドル高に寄与する方向にリスクバイアスが傾くか。
一方、市場心理面では、不透明感・不安感はリスク回避・株安などを通じて円高に働く可能性がある。
いずれにしても、相場への影響は秋以降、とくに来年に入ってからということになる。今は様々な影響、シナリオを描いて心づもりをしておく段階だ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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