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米景気・金利見通しの修正続く
  • MRA外国為替レポート

2024年1月22日号

◆先週の市場総括


先週は米国の強い経済指標が相次ぎ早期利下げ期待が後退。米長期金利が上昇。ドル円相場は145円近辺で始まり週末には148円台半ばまで上昇した。

ユーロ円相場も158円台半ばから161円台後半に上昇。市場のリスク選好が強まるなかドル高というより円安が強まった。

米国株は週後半にかけて堅調。早期利下げ観測の後退、長期金利上昇は重石となったが、企業業績への期待、景気堅調持続との見方が支えとなった。

日経平均は急騰のあと36,000円の大台近辺では利益確定売りに押され上値の重い値動き。ただ下げは限定的。海外勢や個人投資家の買いは旺盛との見方は根強い。

月曜日の東京市場日経平均が6営業日続伸。上昇幅は一時+400円超となり36,000円の大台に乗せた。海外勢が先物中心に買い。個人投資家からも新NISA導入による投資意欲の高まりで買い意欲が旺盛だった。引けは前週末比+324円高の35,901円。

ドル円相場は144円90銭で始まり早々に145円20銭に上昇。その後も堅調で欧州市場では145円80銭~90銭に上昇した。NY市場は株式債券市場が休場のため145円80銭近辺でもみ合い引け。ユーロ円相場は158円60銭で始まり堅調に推移。

欧州市場では159円40銭近辺でもみ合い。その後一時80銭まで上昇し引けは159円60銭近辺。ユーロドル相場は1.0950で始まり終始小動き。午後は1.0960~70でもみ合いも上値重く、欧米市場の引けは1.0950。

米国市場はキング牧師誕生日で休場。

火曜日の東京市場では日経平均が7営業日ぶりに反落。連日の急騰でテクニカルに買われ過ぎのシグナルが出るなか高値警戒感が強まり利益確定売りが優勢。一時▲300円安。引けは▲282円安の35,619円。

ドル円相場は米長期金利上昇に支えられ引き続き堅調。145円80銭で始まり午後は146円ちょうど~20銭で推移。欧州市場に入ると146円80銭まで上昇した。

米国市場で弱い指標を受けて一時146円30銭に下落したがすぐに持ち直し。147円20銭~30銭でもみ合い引けた。

ユーロ円相場は上値の重い値動き。ユーロドル相場の軟調に押された。ユーロドル相場は1.0950で始まり終始軟調で欧州市場では1.0870~90で推移。

ユーロ円相場は159円60銭で始まり20銭台に下落したあと40銭~60銭で上下動。欧州市場では159円30銭に下落した。ただ米国市場終盤にかけては円が全面安となり160円ちょうど~10銭で引けた。

米国で発表されたNY連銀製造業景気指数(1月)は前月▲14.5から▲3への改善予想に反して▲43.7へ大きく悪化した。

一方、FRBウォラー理事は、インフレが高止まりしない限り今年利下げを開始することは可能、としつつも、実際に利下げは慎重かつ計画的に行う、利下げは過去のように急速に行う必要はない、と述べた。これを受けて米長期金利は上昇。米10年債利回りは4.063%へ、2年債は4.226%へ。

米国株は弱めの指標と長期金利上昇を受けて上値の重い値動き。NYダウは前日比▲231ドル安の37,361ドル。ナスダックは▲28ドル安の14,944ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が乱高下。引けは前日比▲141円安の35,487円。ただ朝方は前日の米国半導体株高、円安を受けて大幅上昇し一時+600円超急騰。しかし昼前から反転急落しマイナス圏に沈んだ。

上海取引所が日経平均連動ETFの取引を一時停止と報じられたことが嫌気された面も。

発表された中国の経済指標は総じて景気軟調を示した。10-12月期GDPは前期比+1.0%と前期+1.3%から減速。12月の小売売上高は前年同月比+7.4%と前月+10.1%から減速、鉱工業生産は+6.6%から+6.8%へやや加速、固定資産投資は+2.9%から+3.0%へやや加速。失業率は5.0%から5.1%へ上昇した。

ドル円相場は底固く推移。147円20銭で始まり147円台前半で上下したあと夕刻に148円手前まで上昇。欧州市場では147円台後半で上下。米国市場では強い経済指標を受けて148円50銭へ上昇し引けは148円10銭。

ユーロドル相場は終始迫りレンジで推移。東京市場では1.0880で始まり60~80で上下、米国市場で一時1.0840台に下落したが引けは1.0880。

ユーロ円相場は160円10銭で始まり160円台前半で上下。夕刻から欧州市場では160円80銭に上昇。その後は160円台後半で上下して米国市場では160円ちょうど~20銭で推移して引けた。

米国の小売売上高(12月)は前月比+0.6%と前月+0.3%から加速して予想+0.4%を上回った。鉱工業生産(同)は+0.1%と前月+0.2%からやや減速したが予想▲0.1%を上回った。

米長期金利は上昇。10年債は4.11%、2年債は4.36%へ。

ベージュブック(地区連銀経済報告)では11月中旬以降の米国経済活動はほぼ横ばい、年末商戦・消費動向は堅調で成長見通しを改善した、と記された。米国株は個人消費の堅調を受けて早期利下げ期待が後退、長期金利が上昇したことが重石となり下落。

一方、景気悪化回避、ソフトランディング期待が支えとなった。NYダウは▲94ドル安の37,266ドル、ナスダックは▲88ドル安の14,855ドル。

木曜日の東京市場では日経平均がわずかながら3営業日続落。過熱感から利益確定売りが優勢。円安が輸出関連を支え、海外勢はなお先物に買い。引けは前日比▲11円安の35,466円。

ドル円相場は上値の重い値動き。148円10銭で始まり下落して夕刻から欧州市場では147円70銭~148円ちょうどでもみ合い。米国市場に入ると強めの雇用関連指標を受けて米長期金利が上昇しドルを押し上げ。148円30銭に上昇し148円ちょうど~30銭で上下して148円10銭近辺で取引を終えた。

住宅着工件数(12月)は季節調整済み年率換算で1,460千戸と前月1,560千戸から減少したものの予想1,410千戸より強め。週次失業保険新規申請件数は187千件と前週202千件から減少し雇用情勢の底固さを示した。

米10年債利回りは4.142%へ、2年債は4.354%へ上昇。

ユーロドル相場は1.0880で始まり欧州市場朝方は1.0910に上昇したが米国市場では1.0850~70に反落して推移した。ユーロ円相場は東京市場で161円20銭~30銭中心に推移し、夕刻から欧州市場では160円台後半で上下。米国市場では持ち直して161円10銭で引け。

公表されたECB理事会議事要旨(12月会合)では、市場の早期利下げ期待に応じないことが重要、市場動向が金融環境を過度に緩和しインフレ沈静化を阻害する怖れがある、とされた。

米国株は堅調。NYダウは4営業日ぶりに反発。TSMC社の業績見通しが良好なことなどでハイテク株が堅調。全般に業績期待が支えとなった。一方で長期金利上昇は重石。NYダウは前日比+201ドル高の37,468ドル、ナスダックは+200ドル高の15,055ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反発。90年2月以来33年11ヵ月ぶりの高値引け。米国株高を受けてハイテク半導体株が堅調。一時36,000円を超えたが引けは+497円高の35,963円。

発表された日本の消費者物価指数(CPI、前年同月比)は、前月+2.8%から+2.6%に低下。除く生鮮食品では+2.5%から+2.3%に低下、除く生鮮食品・エネルギーでは+3.8%から+3.7%に小幅低下した。

ドル円相場は148円10銭で始まり堅調。15時には148円80銭まで上昇した。一方、欧州市場に入ると円買い戻しが優勢となり147円80銭に下落。ユーロ円相場も同様の値動き。161円10銭で始まり夕刻には161円80銭に上昇。欧州市場では一転して160円80銭に下落した。

ユーロドル相場は1.0870~90で小動きほぼ横ばい。米国市場ではドル円相場は円安に振れ148円50銭に上昇したがその後は148円台前半で上下して引けは148円10銭台。米国市場でドル円相場は148円50銭に上昇したが引けにかけては反落して148円ちょうど~10銭台。

ユーロ円相場は堅調。161円50銭に上昇して引け。ユーロドル相場は横ばいもみ合いで1.09ちょうど近辺で引け。

米10年債利回りは一時4.19%に上昇したが反転低下して4.13%。2年債は4.389%にやや上昇して引け。

ミシガン大学消費者信頼感指数(1月速報)は78.8と前月69.7から大きく改善しソフトランディング期待が高まった。

米国株は堅調。景気敏感株がしっかり。ハイテク株、半導体関連株も連日で買われた。NYダウは前日比+395ドル高の37,863ドル。ナスダックは+255ドル高の15,310ドル。

シカゴ連銀総裁は、インフレ沈静化が続けば政策金利決定に考慮する必要がある、としつつ、何ら約束することはできない、と市場の期待を牽制した。

◆今週の3つの注目ポイント


1.日銀金融政策決定会合、植田総裁会見

月曜日・火曜日の2日間にわたり日銀金融政策決定会合が開催される。結果判明は火曜日の昼頃。15時半から植田総裁が会見を行う。

マイナス金利解除観測は年末から強まっていたが、年初の震災で先送りとの見方が強まった。

一方で春闘の賃上げ率は今年も高い水準となりそうだ。震災による政策への影響が実際にあるのかどうか。賃金交渉のニュアンスからマイナス金利解除に向けた判断がさらに一歩前進したかどうか。植田総裁の会見ともども注目される。円安に歯止めがかかるか。

2.米国の経済指標

最近の経済指標は足元の米国景気の底固さを示している。市場ではソフトランディング期待が強まり、早期利下げ観測が後退。今週の指標はそうした最近の見方をなお支えるか。あるいは強気な見方が一服、長期金利上昇が止まるか。

月曜日 景気先行指数(12月、前年同月比、予想▲0.3%、前月▲0.5%)

火曜日 リッチモンド連銀製造業指数(1月、前月▲11)

水曜日 PMI景況感指数(1月速報、製造業、予想47.7、前月47.9、サービス業、予想51.0、前月51.4)

木曜日 GDP(10-12月期速報、前期比年率、予想+2.0%、前期+4.9%、個人消費、同、予想+2.4%、前期+3.1%) 耐久財受注(12月、除く輸送機器、前月比、予想+0.2%、前月+0.5%)

金曜日 個人所得・消費支出(12月、予想+0.3%・+0.4%、前月+0.4%・+0.2%) 個人消費支出価格指数(前年同月比、予想+2.6%、前月+2.6%、除く食料品・エネルギー、予想+3.0%・+3.2%)

3.ECB理事会、ラガルド総裁会見

木曜日にECB理事会が開催され、ラガルド総裁が会見を行う。

先週公表された12月会合の議事要旨では、市場の早期利下げ期待を抑制する必要、市場動向で金融情勢が緩和的になりインフレ沈静化の妨げになるリスクが指摘された。

一方、当局者の一部には利下げに前向きな発言も散見される。足元でインフレの沈静化は続く一方、経済指標はやや悪化に歯止めがかかっているようだ。

利下げに向けた議論が前進するか。欧米間の景気・金融政策ギャップがドル・ユーロどちらに優位に働くことになるか。

◆今週のMRA's Eye


米景気・金利見通しの修正続く

先週、ドル円相場は148円台まで上昇。年末にかけてのドル安円高の揺り戻しがなお続いている。

年末にかけて強まり過ぎたFRBへの早期利下げ期待が剥落。低下していた米長期金利が上昇に転じたことが主因。

12月のFOMCで利下げの議論をしたとのパウエル議長発言、利下げを検討できる状況と示唆したウォラー理事の発言、などが市場の過度な期待を刺激した。しかし年明けからは市場の期待を抑制する当局者発言が相次いだ。

加えて、先週にかけて発表された米国の経済指標には強めの数字が多い。1月初に発表された12月の雇用統計を始めとして、直近の週次の失業保険申請件数は、いずれも雇用需給がさほど緩んでいないことを示している。

また米国経済の過半を占める個人消費の動向について、先週発表された12月の小売売上高は年末商戦が好調だったことを示した。現段階で3月の利下げの可能性はかなり後退したとみられる。

一方、こうした米国経済見通しの修正、米長期金利の反発、にも関わらず、ドル独歩高というよりも円安が進んでいる。

ユーロ円相場は再び161円台に乗せてきた。欧州においても早期利下げ期待が後退していることが要因だ。12月に開催されたECB理事会の議事要旨が公表されたが、市場の早期利下げ期待に迎合しないことが重要、と記された。市場動向、長期金利の低下、株高、リスク選好、クレジットスプレッドの縮小、などで金融環境が緩和し、インフレ沈静化を阻害することを懸念している、との意向が示された。

この間、ラガルド総裁からは利下げ検討に前向きな発言がみられた。米国の早期利下げ観測とともに欧州でも同時ないし米国より早く、利上げに動くのではないかとの期待は高まっていた。

これが米国での早期利下げ期待後退と同時に、欧州でも早期利下げ期待の後退を招き、結果的にドル、ユーロ、双方に対して円安となったとみられる。

加えて、日銀がマイナス金利解除に躊躇するとの見方が強まったことも背景。ひとまず円買い戻しは停止、売り戻す動きが強まった。

株価は米国株を筆頭に堅調。とくに日本株は急騰。新NISA制度の開始により個人投資家からの株式市場への資金流入が強まったため、との見方も多かったが、統計数字でみればむしろ海外勢の日本株買いが旺盛だったようだ。

日本株は米国株に対して出遅れており、ドル金利急騰、日銀の超低金利維持のもと金利対比でなお相対的な割安感がある。東証のPBR改善・改革要請への期待も根強い。

東西対立からサプライチェーンの見直し、とくに半導体生産供給における日本企業への期待が強まっていることもあろう。

中国経済・企業への不安感から、中国株式市場から日本株への資金シフト、アジア株のなかでの日本株の比率を高める動きも寄与しているとみられる。

こうした動きは、マネーフローからみれば日本株買い・円買いにつながるはずだが、依然として為替リスクをヘッジ、円売りヘッジをする日本株買いが主流となれば円相場には中立だ。

とくにドル資金ベースであれば円売りドル買いの為替リスクヘッジをすれば短期金利差を手に入れることが可能。日本株の株式益回り+日米短期金利差5%は非常に魅力的だろう。よほど円高予測が確実にならない限り、円買い戻し、為替ヘッジの解消に至らず。

年末にかけては円高期待が強まった面もあったとみられるが、年初からは短期的に方針転換を迫られた可能性がある。

既存の為替ヘッジつき日本株投資を積み上げている海外投資家にとっては、日経平均の急騰、保有する日本株の時価総額の急増は、その分、追加的な円売りヘッジを積み上げる必要に迫られる。

米国景気への楽観、米国株の堅調、日本株の押し上げ、とあいまって、円全面安に寄与したとみられる。

問題はこの先。雇用や小売りなどの経済指標は過去データ。企業業績や雇用スタンスがこの先どうかが重要。ベージュブックでは雇用情勢の緩和や企業の雇用慎重化スタンスが報告されている。これらが景気見通しや株価にマイナスに働く可能性には留意が必要

米国では早期利下げ期待は修正を余儀なくされているが、次の一手が利下げであることは変わらない。中期的には金利低下方向で、そのなかでの調整局面が現状。当面は140円台後半を中心に横ばい上下動となりそうだ。

ただ、4月以降はレンジを140円台前半に切り下げることになろう。今年1年間で5回の利下げは1月時点で正当化されなくとも、4月時点でその後の1年間で5回の利下げが正当化される状況になる可能性はある。

一方、利下げ開始がさらに先延ばしになる可能性も皆無ではない。この場合は一段のドル安円高というより、ドル高止まりが想定より長期化するということになろう。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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