日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(7)リスクへの“手の打ち方”』
- 日刊工業新聞
- 大崎将行
- 新聞掲載
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リスクへの“手の打ち方”
まず責任者・目的明確に
【具体化する】
前回は調達コストのリスク管理に対する心得として「調達コストのリスクが顕在化する前提で、調達コストのリスクが顕在化しても困らないよう“あらかじめ手を打つ”」について述べた。今回からは“どう手を打つのか”という“手の打ち方”の話を進める。
“あらかじめ手を打つ”にしても、顕在化するかもしれない調達コストのリスクの“正体”と、顕在化した場合に“誰が/何で困るのか(リスク管理の目的)”“そもそもどの程度顕在化すると困るのか(リスク許容度)”が具体化されていなければ、手の打ちようがない。
【しっかり知る】
“彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず”は孫子の格言だが、調達コストのリスク管理にも、まさにこの言葉が当てはまる。とかくリスク管理というと、そのリスク対策の手法など細部に目が行きがちになるが、むしろリスク管理の成功のカギは、彼(調達コストのリスクの正体)、己(リスク管理の目的やリスク許容度)について、しっかり知る(明確化する)ところにあると言っても過言ではない。
【選択肢に影響】
まず初めにやるべきことは“己”を知るところからである。とりわけ“誰が/何のために”調達コストのリスク管理を行うのかをクリアにすることである。ここで言う「誰か」とは調達コストのリスク管理の「責任者」を指す。誰の責任の元、何のためにこの調達コストのリスク管理が進められていくのかを、会社として明確にすることにほかならない。
というのも「原材料Aの調達担当者」が「(担当者の責任の元)原材料Aの予算を守るため」に調達コストのリスク管理を行うのと、「事業部長」が「(事業部長の責任の元)事業部の計画利益を守るため」に調達コストのリスク管理を行うのとでは、このリスク管理に関わるべき(巻き込むべき)メンバーも変われば、取り得るリスク許容度やリスク対策の選択肢も大きく異なってくる。
実際のリスク管理のもろもろの実務については責任者から任された調達部門の担当者が担うにしても、責任者と目的が決定しなければ、具体的な実務には取りかかれない。加えて、リスク対策の実施においては高度かつ即時(タイムリー)な経営判断が求められる場合も少なくない。
これらがなおざりになることで、責任の所在が曖昧となり、判断が遅れ致命傷になり得る場合もある。後に続く実務の流れを円滑にし、成功に導くための最初にして最も重要なプロセス、それが調達コストのリスク管理の「責任者」と「目的」の明確化である。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行