日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(1)予算や利益どう守るのか』
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- 大崎将行
予算や利益どう守るのか
顕在化する“前”に考える
【価格影響に懸念】
先日、サウジアラビアの石油施設が攻撃を受け原油相場が急騰した。原油を原料として製造する石油製品や石油化学製品に対する今後の調達価格への影響が懸念される。当該商品の調達担当者の中には、サプライヤーとのタフな価格折衝や社内の仕切りレートの変更など悩ましい状況に直面する方もいるだろう。また2016年4月の電力小売りの全面自由化以降、コスト意識の高い企業では毎年入札を繰り返すなどして電気料金単価の引き下げを試みてきた。原油相場に連動する原油や液化天然ガス(LNG)の輸入価格にひもづいて変動する電気料金単価については、原油相場の上昇がこれら調達コスト対策の成果を帳消しにしてしまう可能性もある(※LNG輸入価格は現状、原油相場におおむね連動する)。自分たちはできる限りの調達コスト対策を行っている(はずな)のに、なぜこうした困り事に見舞われてしまうのか。こうした場合、往々にして調達コストの「リスク管理」という視点と対策が抜け落ちている場合が多い。
【起業のきっかけ】
私は高専、大学、大学院と一貫して機械工学を専攻した後、経営コンサルティング会社ならびに金融機関で市場リスクに関する業務を経て、調達コストの「リスク管理」専門のコンサルティング会社を10年に立ち上げた。現場で働く人たちの努力で生み出した貴重な利益を、「自助努力とは全く関係ない『市場価格リスク』で水泡に帰すことがあってはならない」という思いが起業のきっかけだ。創業以来、毎日、調達コストのリスクにお悩みの製造業や商社、電力・ガス会社のお客さまとともに調達コストのリスクと格闘している。本コラムではその格闘の成果を紹介する。
【原材料など焦点】
さて、話を冒頭の話題に戻そう。取り上げた事例はいずれも調達コストの「リスク管理」に分類される経営課題であり、リスクが顕在化する“前”に調達コストの「リスク管理」を“体系立てて”行っていれば困り事は回避できる。調達コストと言えば「いくら安くできるか?」という「削減」ばかりに目が行きがちだが、調達コストを変動させるさまざまなリスク要因から「どう予算や利益を守るのか?」という「リスク管理」についてはおざなりになりがちである。調達コストの「削減」と「リスク管理」は似て非なるお題である。お題が異なればその方法論や対策が異なることは当然であろう。次回以降、原材料や電力・ガスの調達コストの「リスク管理」を焦点に、その考え方や手法を順次説明する。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行