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日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(61)コスト・リスク削減を』
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  • 大崎将行

コスト・リスク削減を

過不足ないリスク対策

2021年度の決算発表も大方でそろった。終わった期の業績は概ね好調な企業が多かった印象だ。ただ、22年度今期については原材料価格やエネルギー価格の高止まりや見通しの難しさを理由に多くの企業が慎重な業績予想に徹していた感は否めない。ここまで原材料やエネルギー価格のリスクが大きくなると、確度の高い業績予想を投資家に伝えること自体が難しい。とは言え、度重なる業績予想の修正や、市況変動を言い訳にした業績予想の非開示は、株主や投資家に対して責任のある態度とは言えないだろう。かつてない程、調達コストのリスク管理とその説明が企業側に問われていることは間違いない。

このような話をすると、「市況変動に伴うコストの増加については、使用部材や設計の変更ならびに間接費の削減等のコスト対策にて引き続き対応していく」という反論を頂く機会も多い。それ自体は全く否定もしないし、やり続けた方がいい施策である。ただ懸念材料としては市況変動リスクが大きい環境下だと、折角のコスト対策が無駄になってしまう可能性が高まることだ。図に示す通り、コスト対策によるコスト削減効果が市況変動リスクよりも十分大きい環境下であれば市況の上振れリスクが顕在化しても調達コストの削減は実現できる。しかし、現在のような市況変動リスクが大きい環境下の場合、市況の上振れリスクが顕在化すると、苦労して取り組んだコスト対策が水の泡になる可能性が高い。これでは経営や株主に説明がつかない。

では、どうすればよいのか。話は至ってシンプルだ。コスト削減と並行してリスク削減に取り組むことだ。本コラムで数年にわたって説明してきている通り、調達コストのリスク管理により、実質的に市況変動リスクが小さい環境を自ら作りだすことだ。これは決して原価低減活動を否定するものでもなく相反するものでもない。むしろ折角のコスト対策を無駄にせず生かすためにも、コスト対策と並行して調達コストのリスク対策に取り組んでいくべきだ。市況変動のリスクがかつてないほど高まり、インフレが恒常化しそうな現在、株主や投資家が企業側に求めていることは、「調達コストの市況変動リスクを定量化し、コミットした収支を実現する為に過不足ないリスク対策を実施する」という一連のリスク管理の実行による業績予想の担保と納得感のある説明だ。(隔週木曜日に掲載)

◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行

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調達コストのリスク管理(62)2つのメッセージ<最終回>