日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(49)エネ価格高騰と来年度予算策定』
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エネ価格高騰と来年度予算策定
ルーティン回し続け対応を
世界的な需給の逼迫(ひっぱく)を背景にエネルギー価格の上昇が止まらない。原油価格(BRENT)はバレル当たり80ドルを超え、年初(同50ドル)比では約1・6倍。脱炭素で注目を浴びる石炭(豪州炭)については、トン当たり240ドルを超え、こちらは年初比で3倍になった。
さらに上をいくのは、欧州の天然ガス価格(TTF)で、メガワット時当たり100ユーロを超え、こちらは年初比で5倍を超える水準に達している。いずれのエネルギー価格も年初の段階ではリスクシナリオと位置付けられていた水準をはるかに超え、もはや「想定外」という領域に突入しているようにも思える。
下期に入り、多くの企業においては来年度の予算策定に着手するタイミングである。リスクシナリオが顕在化し、インフレ加速真っただ中という現状において、来年度の調達コストのリスク管理はどうすればよいのか。結論から言えば、現時点の価格水準を事実として受け入れ、粛々と調達コストのリスク管理の一連のルーティンを崩さず、回し続けるしかない。ルーティンとは、リスクの評価・把握、リスク許容度(計画予算)の設定、リスク対策(事前の備え)の設計・実施の3段階のことだ。
とはいえ、工夫の余地は残されている。リスク対策の内容の〝味付け〟を変えることは可能だ。例えば、通常、予算の承認とともに実施していた通期を通してのヘッジを上期のみのヘッジに期間を短縮するとか、計画調達数量の50%に対してヘッジしていたものを25%に引き下げるとか、リスク対策の内容に軽重をつけて対応していくことはあり得る。ただし、その場合もリスク対策そのものを取りやめてしまうということは得策でない。
「上がり過ぎた市場はいずれ元に戻るだろう」は、リスクの評価・把握ではなく、ただの〝願望〟に過ぎない。原油価格で言えば、60ドル、70ドル、80ドルと水準を切り上げる度に「いずれ50ドルに戻るはずだ」という願望の下、目の前の事実から目を背けて何も対策をしてこなかったから、今の苦境がある。価格が上がったら上がったなりの水準をスタート地点として、再度リスク対策に取り組まなければ、さらなる価格上昇から身を守ることはできない。
年初からみれば随分と高騰したエネルギー価格だが、来年度下がる保証はどこにもない。最たる悪手は願望に基づいた楽観シナリオを作って何も手を打たないことだ。そこまでくると、それはもはや業務を放棄しているに等しい。実はそうしたケースは決して少なくない。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行