日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(48)持続可能な経営に向けたリスク対策』
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- 大崎将行
持続可能な経営に向けたリスク対策
予算策定契機 事前の備えを
世界的に資源・エネルギー価格のインフレ基調が止まらない。コロナ禍からの正常化に伴う需要の増加はもとより、脱炭素化の流れを起点とした供給サイドの制約の影響も大きい。この世界的な潮流は中長期的に続いていく可能性が高い。今年度の調達コストに目を移すと、既にリスクが顕在化し、通期の収支に対するダメージをいかに最小化するかという"鎮火作業“で手いっぱいの企業も多いのではないだろうか。現実として収支悪化に伴うリストラや業務撤退など、暗いニュースも散見される。
調達コストのリスクが顕在化する都度、目の前の鎮火作業に追われ、場合によってはリストラや業務撤退などの最悪の事態を招いている現状は、持続可能な経営や業務運営とは到底言い難い。一言で言えば悪循環そのものである。では、この悪循環をどのようにして好循環に切り替えるのか。
そのカギは「リスク対策(事前の備え)の配備」にある。いつ顕在化するか分からないリスクに対しては、先手でリスク対策を講じて、リスク対策が常に配備された状態を構築しておくことが最も有効な手段となる。こうすることで、リスクが顕在化した際においても、事前に配備されていたリスク対策が発動し、顕在化したリスクから日常の業務運営が守られる。
当然ながら、結果として収支への影響も限定的となる。例えるならパソコンのバックグラウンドでウイルスや外部からの攻撃に常に目を光らせてくれているセキュリティーソフトのようなイメージだ。備えあれば憂いなし。持続可能な経営や業務運営といった好循環は、リスク対策(事前の備え)の配備から生まれる。
リスク対策を配備するには、調達コストのリスク管理の手順を踏む必要がある。具体的には、リスク要因を洗い出し、そのリスク要因が顕在化した際の影響を把握する。そのリスクの影響度に対するリスク許容度(計画予算)を設定する。そのリスク許容度に応じたリスク対策を設計・実施する、という流れとなる。10月に入り多くの企業では来年度の予算策定に着手するタイミングであろう。目先は今後のリスク対策よりも今年度をどのように着地させるかといった復旧作業が急務であるものの、リスクに対する意識が高まった今回の予算策定を一つの契機と捉え、持続可能な好循環の経営を目指したリスク対策の配備を考えてみるのはどうだろうか。来年度以降も必ず調達コストのリスクの顕在化は訪れるからだ。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行