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日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(41)リスク対策実施による副次的効果』
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  • 大崎将行

リスク対策実施による副次的効果

全ての業務スムーズに回る

調達コストのリスク管理において“事前の値決め”や“ヘッジ”といった対策を実施する主目的は、調達コストのリスク要因が顕在化した際にでも、計画予算を守るために事前に「調達コストのリスクを低減させておく」ということに他ならない。ただ、実際のところは、それ以外の副次的効果も決して小さくはない。

【予算修正が減る】

一つ目は、予算の修正作業が格段に減ることだ。調達コストのリスクを低減させれば当然ながら調達コストが予算を上回る局面は減少し、予算の修正作業も併せて減ることになる。修正作業自体は、企画部門や他部門との折衝、調整が不可避な作業であり、これら手間暇のかかる業務が削減される効果は大きい。

また、調達コストのリスク対策を翌期、再来期にまで期間を延ばして適用すれば、将来の調達コストの予見性が一段と高まり、確度の高い予算の計画が可能となる。これも予算の修正作業を抑制させる効果を持つ。

【値動きから解放】

二つ目は、リスク対策の実施により、日々の市場価格の値動きから解放されることだ。これにより、今まで相場動向のチェックに費やしていた時間を他の仕事に振り分けられる。調達の仕事はコスト管理だけではなく、品質管理やロジスティクスの手配など、やらねばならない業務は山ほどある。働き方改革により業務時間の短縮・効率化が叫ばれている昨今においては、面倒な業務プロセスが一つ減るだけでも担当者としては非常に助かる。

また、精神的な安定を手に入れられることも大きい。相場が大きく変動する局面では、夜も安心して眠れないという話をよく聞くが、そのようなストレスから解放されることは精神衛生上、非常に重要なことだ。顧客にリスク対策の効果をヒアリングすると、精神的な安定やストレスからの解放を真っ先に挙げられる顧客が多い。

【好循環“創出”】

最後の三つ目は、こうした効果が複合的に重なり合うことで創出される業務上の好循環だ。リスク対策の実施により、時間的な余裕や精神的な余裕が生まれることで、業務上のミスや抜け漏れが大幅に減少する。突発的な緊急事項にも難なく対応できる。全ての業務がスムーズに回る好循環を手に入れることができる。

リスク対策はリスク管理における要であり、当然ながら主目的は「調達コストのリスクの低減」にあるのだが、ここで挙げた副次的効果については実務担当者へのメリットも大きい。どちらかというと経営上の意義が意識されがちなリスク対策だが、実務サイドの意義も無視できない。(隔週木曜日に掲載)

◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行

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