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日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(35)電力の調達単価と燃料市場価格』
  • 大崎将行
  • 新聞掲載
  • Web掲載
  • 日刊工業新聞

電力の調達単価と燃料市場価格

最長9カ月のタイムラグ

燃料費調整制度で契約(燃調契約)している電力コストの従量単価については、火力発電燃料価格の変動分が燃調単価を通じて料金単価に反映されるが、燃料市場価格の変動が実際に料金単価に反映されるまで最長9カ月のタイムラグがある。電力コストの計画予算の策定やリスク管理をきめ細かく行う上では、このタイムラグのメカニズムを理解しておくことは必須である。

【要因は3つ】

タイムラグの要因は3点ある。1点目は燃調単価が電力購入月の3―5カ月前の発電燃料の貿易統計の平均価格を参照して決定することだ。この時点ですでに最大5カ月のタイムラグが生じる。

2点目は、発電燃料の構成要素の一つである液化天然ガス(LNG)の輸入価格に起因する。日本に輸入されるLNGは長期契約の比率が高く、その調達価格は3カ月前の原油の貿易統計価格を参照して決定されることが多い。1点目の要因と併せるとこの二つの要因で、原油の貿易価格に対して最大8カ月のタイムラグとなる。

3点目は、日本に輸入される原油の値決め構造にある。産油国での船積み時点で燃料市場価格を基準に値決めされた原油は、約1カ月弱の輸送期間を経て日本に到着する。ここで原油の貿易統計価格と燃料市場価格との間には1カ月のタイムラグが生じる。この三つの要因が重なりあうことで、電力コストの従量単価は燃料市場価格との間に最長9カ月のタイムラグが発生する。

【事前の備え】

契約している電力会社の電源構成によって、このタイムラグの長さは異なるが、昨年来、右肩上がりに上昇を続けている燃料市場価格の動向を踏まえると、今後の市場動向にかかわらず、現在から9カ月先の年末まで従量単価が上昇し続けることは既定路線だ。

この状況をあらかじめ想定し、事前に備えを講じていた企業にとっては、この従量単価の上昇による日常業務や計画収支に対する影響は皆無だろう。リスク管理がうまく機能したと言える。

【危機へと変貌】

問題はそうでない企業だ。それらの企業にとって、今やるべきことは2つしかない。1つはリスクから危機へと変貌した「従量単価の上昇」というダメージをいかに小さくするかという危機処理。もう一つは、今後、同じ危機を生み出さないための将来に向けた備え(リスク管理)だ。

企業活動では一度の失敗は許されても、そこから何も学ばずに同じ失敗を何度も繰り返すことは決して許されない。経営者でも担当者でも、その点に違いはない。(隔週木曜日に掲載)

◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行

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