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日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(26)受渡時期による価格の違い』
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  • 大崎将行

受渡時期による価格の違い

原料の期間構造、無視できず

【「一物百価」】

普段の調達活動の中で案外見落としがちなのが、調達品の取引価格が「受渡(納入)の時期」で変わるという事実だ。これは調達品の製造コストの大半を占める原材料価格自体が受渡時期ごとに異なる価格で取引されていることに由来する。自社の調達品が上流であるほど、自社の調達品が汎用品であるほど、この傾向は強くなる。同一調達品でも、今から1カ月先と1年先の受渡の値決めを同時に行ってみると、供給者から提示される取引価格が異なるというのはざらにある。

原油や非鉄、貴金属等の調達品の原材料の多くは、取引形態(市場取引/相対取引)にかかわらず、受渡時期別に取引が行われており、短いところでは数営業日以内、長いところでは10年先の受渡を対象に受渡時期別に取引が行われている。また当然、実際にそこで取引されている価格は受渡時期によって異なる。今年の4月20日、米国産標準油種(WTI)原油先物の5月受渡が1バレル当たり-37・63ドル(終値ベース)と史上初のマイナス価格で取引された際でも、6月受渡が同20・43ドルで取引されていたことは記憶に新しい。普段、新聞やテレビ等で目にする原材料価格はあくまでも期近(受渡日が最短)の取引価格であるため、あたかも原材料価格は時間軸の観点から見た場合「一物一価」と誤解しがちだが、実際には「一物百価」であると言っても良いほど受渡時期別で取引価格が異なってくる。

【需給バランス】

受渡時期別の取引価格については、最短受渡の価格を基準に受渡時期までの金利と保管コストとコンビニエンスイールド(現物保有のメリット)を考慮して取引価格が決まる。といっても、これらを厳密に分解して積み上げた上で取引価格が決定するというよりは、その受渡時期を対象に取引したい買い手と売り手の需給バランスで取引価格が決定していくというイメージの方が実態に即している。

【「コンタンゴ」】

また受渡時期別に取引価格を並べたものを「価格の期間構造」と呼び、受渡時期が先にいくほど取引価格が高くなる状態を「コンタンゴ」、逆に受渡時期が先にいくほど取引価格が安くなる状態を「バックワーデーション」と呼ぶ。コンタンゴとバックワーデーションは数年周期で入れ替わり、原油価格で言えば過去15年で見ると、おおむね半々の割合で出現している。ちなみに直近の状況はコンタンゴだ。調達コストのリスク対策を考える上では当然のこと、調達コストの低減を追求していく上でも、原材料価格の期間構造は無視できない。(隔週木曜日に掲載)

◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行

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