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日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(14)想定乖離リスク』
  • 大崎将行
  • 新聞掲載
  • Web掲載
  • 日刊工業新聞

想定乖離リスク

具体的数値として認識

【機能不全にも】

前回は「調達コストのリスクの見積もり」における構成要素の一つである「想定コスト(メインシナリオ)」の見積もり方について述べた。今回はもう一つの構成要素である「想定乖離(かいり)幅(リスク)」について説明する。

想定乖離幅を見積もる意義は、事前に想定した期間ごとに「どの程度の確率で/どの程度のリスクが起こり得るのか」を具体的数値として認識することにある。リスク評価全般に通じることだが、この想定乖離幅の見積もりについても自分たちの「思惑」や「願望」を入れ込み、リスクを過小に見積もると、リスク管理自体が機能しなくなる恐れがある。

【影響度を勘案】

はじめに取り組むことは、事前に整理した「“発生確率の低・中”のリスク要因」をその需給バランスへの影響度を勘案しながら想定乖離幅に変換することだ。「想定コスト」の見積もり同様、「■■リスクが顕在化すれば、1キログラム当たりプラス▲▲円」という具合に、過去に当該リスク要因や類似のリスク要因が顕在化した際の調達コストへの影響を参考にしながら、想定乖離幅を試算していく。その際、次の二つの傾向を意識しながら作成すると見積もりの精度が向上する。一つは「発生確率が低くなるほど、リスクが大きくなる」こと、もう一つは「同じ発生確率であれば、期間が長くなるほどリスクが大きくなること」である。

この手法は感覚的にも分かりやすく、簡便に求められる一方、リスク要因が複合的に発生した際や事前に洗い出しきれていないリスク要因が顕在化した際には、リスクを過小評価してしまうという弱点もある。それを補う手法として、調達コストの過去の価格推移や需給バランスに影響を与える要因を変数として数理モデルを構築してシミュレーションし発生確率別に将来の調達コストのリスクを求めるやり方もある。

【異なる評価】

ただ、この手法にしても、取り扱うデータの種類や数、モデリング次第でリスク評価が異なってくるため、分析の組み立てや結果の解釈に一定の統計学に対する知識と慣れが必要となる。この「調達コストのリスクの見積もり」の悩ましさは正にこの部分で、「これでリスク評価すれば十分」という扱いやすく王道的な手法が存在していないところにある。よって理想として幾つかの手法による評価を組み合わせて多面的にリスクを把握することではあるが、まずは簡便な手法でリスクを具体的な数値で把握することに注力し、それから徐々に評価手法の引き出しを増やしていきたい。(隔週木曜日に掲載 ※次回掲載予定:5/7)

◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行

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