新年の円相場を巡るリスク点検
- MRA外国為替レポート
2026年1月5日号
◆年末年始の市場総括
12月22日月曜日から26日金曜日の週は、クリスマス休暇を前に次第に市場参加者が少なくなり流動性が低下するなか、為替市場では円売りの手仕舞い、円買戻しが優勢となった。
ドル円相場は、週初は157円台後半で始まり24日には155円台半ばへ下落。ユーロ円相場は184円台後半から183円台半ばへ下落した。
片山財務相が円安牽制発言を繰り返したことも休暇前の手仕舞いを後押ししたとみられる。
米国の経済指標は7-9月期GDPの確報こそ強かったが過去データとみられ、消費者信頼感指数(12月)が弱めだったことから米国では利下げ期待が維持された。
株式市場では市場参加者が少なく動意薄。そうしたなかNYダウは史上最高値を更新した。利下げ期待は下支え要因。AI関連銘柄の底固さもみられたが上値を追う勢いは鈍かった。
25日には植田総裁が講演し、利上げ継続の意欲を示した。市場では春闘次第で4月の利上げ環境も整うとの見方が台頭。4月までに4割程度、6月までには7割程度が利上げを見込んでいる。日本株は年末高期待も支えに底固く、日経平均は5万円の大台を維持して横ばい。
12月29日月曜日から年末年始を挟んだ新年2日金曜日までの週は、年末に向けては各市場動意薄。29日には日銀金融政策決定会合(12月18日・19日開催分)の主な意見が公表された。
9人の委員が今後も適切なタイミングで利上げが必要とし、2026年以降も利上げを継続すべきとした。1人は、実質金利は群を抜いて世界最低水準とし、中立金利までまだかなりの距離があり数か月に1回のペースで利上げすべきと主張した。
この日はNY市場で銀価格が急落。つれて貴金属全般が下落した。つれてリスク回避的な市場心理が強まり米国株は軟調。年末にかけて下落した。
日経平均は米国株安に抑制されつつ5万円の大台を維持して大納会を終えた。
30日にはFOMC議事要旨(12月9日・10日開催分)が公表された。ほとんどの参加者はインフレ率が見通し通りに鈍化すれば追加利下げが適切になるとみていた。
一方、数人は当面据え置きが良いとみており、2名が利下げに反対。政策金利予測の数値をみると据え置き支持がほかにもいたことがわかっている。
30日までは円安一服。ドル円相場は156円台半ばから155円台後半に下落する場面もあり概ね156円台前半が中心の値動き。ただ年末にかけては157円台をうかがう展開となった。
ユーロ円相場は184円台前半から183円台半ばに下落しつつ184円ちょうど近辺。米長期金利はクリスマス休暇前とほぼ変わらず。年末の10年債は4.177%、2年債は3.475%。
日本の10年国債利回りは新年度予算原案の規模が大きかったことで財政悪化への警戒感が高まり上昇基調。30日は2.06%台をつけた。
元旦休場明けの2日金曜日、週末の海外市場では円安は一服。ドル円相場は157円ちょうどでは上値重く156円台後半で上下し156円80銭近辺で引け。ユーロ円相場は184円ちょうどを挟んで上下し引けた。
米国株はまちまち。ダウは堅調も、ハイテク株は伸び悩んだ。新年の米国経済の見通しへの楽観から景気敏感株を中心に買い直された。米長期金利は小幅上昇。10年債は4.193%。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
今週は重要指標の発表が多い。追加利下げに追い風となるか、逆風となるか。
月曜日 ISM製造業景気指数(12月、予想48.4、前月48.2) アトランタ連銀GDPNow(10-12月期、予想3.0%)
火曜日 PMIサービス業景況感指数(12月改定値)
水曜日 ADP雇用報告(12月、雇用者数前月比、予想+48千人、前月▲32千人) ISM非製造業景気指数(12月、予想52.3、前月52.6) 雇用動態調査(JOLTS求人数、予想7,726千人、前月7,670千人) 製造業新規受注(10月、前月比、予想▲1.0%、前月+0.2%)
木曜日 チャレンジャー社調査人員削減数(12月、前月71,321人) 週間新規失業保険申請件数 貿易収支(10月、予想▲528億ドル、前月594億ドル)
金曜日 雇用統計(12月、非農業部門雇用者数前月比、予想+55千人、前月+64千人、失業率、予想4.5%、前月4.6%、平均時給、前年同月比、予想+3.6%、前月+3.5%) ミシガン大学消費者態度指数(1月速報、予想53.5、前月52.9) ミシガン大学期待インフレ率(1年、前月4.2%、5年、前月3.2%)
2.欧州の経済指標
ECBは利下げ打ち止めを明確にし、次の一手は利上げとの見方も強まりつつある。インフレ鈍化や景況感悪化がそうした見方を弱めるか。ひいては最高値圏にあるユーロ円相場の動向にブレーキをかけるか。
火曜日 PMIサービス業景況感指数(12月改定値、ユーロ圏、速報52.6、ドイツ、同52.6) ドイツCPI(12月速報、前年同月比、予想+2.0%、前月+2.3%)
水曜日 ドイツ小売売上高(11月、前年同月比、予想+0.1%、前月+1.3%) ユーロ圏CPI(12月、前年同月比、予想+2.0%、前月+2.1%、コア、予想+2.4%前月と変わらず)
3.日本の来年度予算、長期金利動向
日本では通常国会が1月23日に召集予定となっている。来年度予算の審議が始まるが、すでに伝えられるところでは総額122兆円にのぼる過去最大規模となると報じられている。
本格論戦は国会開催後となるが、その前に、同案をめぐって市場がどのように受け止め反応するか。すでに年末にかけて10年国債利回りはじりじりと上昇。円も再び軟調な値動きとなっている。その流れが加速するリスクに、年初早々留意する必要がある。
◆今週のMRA's Eye
新年の円相場を巡るリスク点検
昨年12月に日銀は追加利上げを実施し政策金利を0.75%へ引き上げた。ただ年末年始の為替相場動向をみると、利上げによる円安修正効果はさほど大きくないようだ。要因は内外にわたりいくつか考えられる。
まず日本サイドでは、金融政策動向、景気物価動向、などは円安を加速させる状況にはない。
一方、対外収支動向は足元で円安を加速する円需給となってはいないが今後の動向にはやや注意が必要。さらに財政政策に関して足元で市場のセンチメントが円安に傾きやすい点には引き続き留意が必要だ。
景気物価動向をみれば、当面の景気は底固く推移しそうだ。
12月の短観をみるかぎり、企業の景況感は悪くない。原油価格の安定、その他資源価格の上昇一服、円安の一服はコスト面から企業心理にはプラスだ。消費動向には物価高の悪影響もみられるが節約疲れもみえる。
またインフレ率が次第に落ち着きはじめており、この点は消費の下支え要因となりそうだ。
今後の留意点としては、中国との関係悪化によるインバウンドを通じた景気への悪影響がどの程度か。ここまでのところはさほど大きな影響はみられないが、当面はやや注意して見守る必要がある。
利上げが景気にマイナスとの見方もあるが、日銀内での意見のとおり、実質金利は大幅にマイナスであり景気刺激的な水準にある。むしろ長期金利上昇の影響がどうか。
この点、企業の債務負担に与える影響は、借入は短期金利ベースが過半であること、全体としてみれば企業部門が潤沢な資金を有していることから、景気に対する悪影響はさほどではないだろう。
対外収支動向は、足元では貿易収支は均衡、赤字と黒字の双方が散見される状況で円の需給は均衡している。
サービス収支は赤字が定着しているが平均すれば月次で▲3千億円程度で大幅な円安要因とはいえない。ただ旅行収支の大幅黒字が他のサービス収支赤字を補っている状況。中国からの観光客減少が今後どの程度収支を悪化させるかだが、円安を加速させるほどのインパクトにはならないのではないか。
対外証券投資は昨年末にかけて株価上昇とともに再び増加がみられた。新年早々はNISAの投資枠利用が活発になりやすく、株価動向、リスク選好が強まるなかでは対外証券投資が増加しやすく留意は必要だ。
ただ昨年ほどの株価急騰は見込みにくく、1年を通じてみればリスク選好が加速する状況にはならないのではないか。
一方、機関投資家については円債利回りの上昇が国内債志向を強め対外証券投資を鈍化させる可能性がある。これは円安を抑制する方向に働こう。
ドル買い円売りのキャリートレードも、短期金利差の縮小でリスクとリターンがさらに見合わなくなっていくとみられ、円売りを抑制する要因となりそうだ。
金融政策については、日銀は昨年末に利上げを継続する姿勢を明確にした。一時は12月利上げが危ぶまれたものの、政権は円安警戒姿勢とあいまって利上げ容認姿勢に転じた。
日銀内部では利上げ継続で意見は一致しており焦点は利上げのペースに。インフレ率を差し引いた実質政策金利が先進国のなかで突出してマイナスであることを指摘する委員もいる。
12月会合では中立金利の水準についてあらたな見解は示されなかった。ただなおかなりの距離があるとの発言からは、従来示してきた1%~2.5%のレンジについて、下限が1.5%程度まで上昇しているニュアンスは感じられた。
市場では次の利上げについて、春闘の結果を受けて3月ないし4月との見方も4割程度ある。6月までに利上げとの見方は7割に達している。
従来のペースであれば半年に1回となり年末には1.25%に達している可能性がある。ただインフレ率が2%で安定的となるなら、将来的には2%まで引き上げられる可能性も視野には入ろう。
総裁は、政策金利は本来、中立金利をセンターに景気物価動向に応じて上下すべきと述べている。どの程度の幅で循環変動するかによるが、例えば2%が中心であれば1%~3%という幅での変動もありえないことではない。それまでにはなお距離があるが、まずは中立金利まで手探りで金融政策を調整していくことになりそうだ。
懸念が残るのが財政政策だ。高市政権は昨年末に大型の補正予算を策定した。さらに新年度予算も122兆円と過去最大規模の予算を原案として検討しているという。海外勢からはこの点について懸念する見方が根強い。
マクロ経済政策の観点からは、景気刺激策によりインフレが再燃するのではないかとの見方。それによって利上げによる政策金利上昇が相殺され実質金利が大幅なマイナスにとどまったままとなるとの懸念がある。
ただインフレが再燃するかどうかは不透明だ。
現在のインフレ率は米国よりは低く、欧州よりやや高い程度。インフレ率そのものが円安を加速させるほど有意な内外格差を生じてはいない。
この点は円安の材料として囃されている面が大きいのではないか。当面は通常国会で大型の来年度予算審議が始まり注目を集めることになる。投機筋の円売り材料となる可能性には留意は必要だろう。
財政悪化については長期金利への上昇圧力、債券価格の下落圧力としても懸念されている。財政悪化が破綻的な状況となるかは、債務拡大のペースが名目成長率を上回る拡散的な状況となるかが鍵。
デフレ状況での債務拡大は大きなリスクだが、仮にインフレ率が2%で安定するならリスクは軽減される。
10年国債利回りは2%を超えてきた。ただインフレ率より低かった状況が不自然であり長期金利はようやく正常化したといえる。2.5%まで上昇しても緩やかなペースであれば問題ないだろう。
現在の米10年国債利回りが4.2%程度。日本の財政に対する信認が保たれる前提で、為替リスクをとって米国債投資をするよりも、日本国債への投資が選択される可能性は高まる。日銀の利上げによる短期金利の上昇とあいまった、これが円安に次第に歯止めをかける要因となりそうだ。
円安修正、円高を阻む海外要因にも目配りは必要だ。米国経済は今年後半には底固さを増すとみられる。これまでの利下げ、今後の追加利下げによる累積的な景気刺激効果、年央以降に期待される減税効果、などが要因だ。
年後半にFRBが利下げを休止する可能性が高まる。これは次第に円高の流れが緩和する要因となる。一方、FRB議長の後退など人事要因で利下げが加速するリスクもある。とくに雇用鈍化とともにインフレ圧力の緩和が確認されれば、利下げ慎重派が利下げ容認に回る可能性がある。
一方、欧州ではECBが利下げ打ち止め姿勢を明確にしている点がユーロ円相場の底固さを増し円安修正、円高を阻む要因となっている。
市場では次の一手が利上げとの見方もあり、今年は微妙ながら、来年には利上げとの見方が台頭している。
実際に欧州景気が堅調に推移するか。この点、中心であるドイツ経済が盤石な状態ではなく、なお弱さが散見されることから利上げを織り込むのは時期尚早だろう。
次の一手を利上げと織り込むなか、リスクとしては、追加利下げの可能性が台頭する場合。欧米ともに追加利下げに動く状況となれば、日銀の利上げとあいまって円安修正が明確となる可能性もある。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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