政治動向と市場リスクの高まり
- MRA外国為替レポート
2025年10月20日号
◆先週の市場総括
先週は月曜日の東京市場が休場。前週末にトランプ大統領が中国に対して大幅上乗せ関税を課すとして米国株が大幅安となったあとを受けて始まった。米国市場ではトランプ大統領が前言撤回、リスク回避は緩和した。
一方、国内では政局混迷のまま連休明け。火曜日の東京市場では日経平均が▲1,200円を超える大幅続落。ドル円相場は上値重く151円台で推移する時間が多くなった。トランプ大統領は株価急落をうけて対中強硬姿勢を緩和。
日本では水曜日に日本維新の会が自民党と連立協議を開始。高市首相実現の可能性が高まったとして日本株は急反発した。ただ木曜日には米地銀の不良債権への懸念が台頭し株価を下押し。リスク回避が強まり日本株も週末に大幅安となった。
FRB当局者から10月利下げ支持の発言が相次いだこともあり米長期金利は低下。ドル円相場は149円台前半まで下落。その後米国の地銀不安や米中摩擦懸念が後退して米国株が持ち直し、リスク回避が緩和し長期金利が反発。ドル円相場は150円台半ばへ持ち直して引けた。
月曜日の東京市場は祝日で休場。アジア時間の為替市場は小動き。ドル円相場は151円80銭で始まり152円ちょうどを挟んでもみ合い上下動。欧州時間に入ると152円30銭~40銭に上昇したが上値重く152円ちょうどに押し戻されると米国市場では30銭近辺でもみ合いそのまま引けた。
ユーロドル相場は1.1610で始まり1.16ちょうどを挟んでもみ合い横ばい小動き。午後から欧州時間にかけてじり安。米国市場では1.1560~80でもみ合い引けは1.1570。
ユーロ円相場は176円40銭で始まり20銭に下落したあと90銭に反発。しかしすぐに反落して欧州市場では175円90銭台まで下落した。米国市場では持ち直したが176円20銭近辺で小動きもみ合い引けた。
米国株は主要3指数がそろって大幅反発。トランプ大統領がSNS投稿で、中国については心配いらない、すべてうまくいく、と記した。またベッセント財務長官は、米中首脳会談は予定通り開催される、と述べた。
これを受けて米中摩擦への懸念が緩和。NY債券・外為市場が休場で市場参加者が少ないなか大きく上昇した。NYダウは前週末比+587ドル高の46,067ドル、ナスダックは+490ドル高の22,694ドルで引けた。
火曜日の東京市場では日経平均が大幅続落。金曜日の引け後に公明党の連立政権離脱が明らかになり、政局混迷を嫌気。いわゆる高市トレードが解消された。午後には一時前週末比▲1,400円安と急落。米中対立懸念も下げを加速した。
中国商務省はこの日、韓国造船大手の子会社米企業との取引を禁止した。引けは▲1,241円安の46,847円。
ドル円相場は上値の重い展開。152円30円で始まり60銭へ上昇したものの昼頃から東証引けにかけて151円60銭へ下落。欧州市場では152円ちょうど~20銭でもみ合ったが米国市場では軟調。引けは151円60銭~80銭。
ユーロ円相場は176円20銭で始まり40銭に上昇したものの下落に転じて夕刻には175円40銭まで下落。その後は175円台後半で上下し米国市場では持ち直し176円20銭近辺でもみ合い引けた。
ユーロドル相場は1.1570で始まり1.15台後半で底固く推移。しかし欧州市場に入ると1.1540へ下落し1.15台半ばでもみ合い。米国市場では持ち直し1.16ちょうど~1.1610でもみ合い引けた。
FRBパウエル議長は、雇用物価見通しは前回会合から大きく変化していない、雇用への警戒感は高まっている、バランスシートの縮小停止も検討、と述べた。
ボウマン副議長は、年内あと2回の利下げを見込む、と述べた。米長期金利は小幅低下。10年債は4.03%、2年債は3.48%。
米国株はまちまち。乱高下。NYダウは▲600ドル安から+400ドル高に振れるなど値幅は1,000ドルに達した。米中対立があらたに意識されたこと、半導体業界の競争激化、などが下押し要因。
一方、追加緩和期待が強まったことは支え。金融決算で業績良好、強気な見通しが相次ぎ金融株が堅調。NYダウは結局+202ドル高の46,270ドルで引け。一方ナスダックは▲172ドル安の22,521ドルで引けた。VIX指数は20.81へ上昇。
水曜日の東京市場では日経平均が反発し大幅高。午後には上げ幅が一時+900円に達した。ハイテク株がけん引。オランダ半導体製造装置大手ASML社が決算で受注が市場予想を大きく上回ったことを示したことが材料。政局不安で株式先物を売っていた海外勢が買い戻した。
内需株が堅調。国民民主党の玉木党首が首相となっても財政拡張路線は変わらないとの見方が支え。一方米中対立への懸念は重石となった。引けは前日比+825円高の47,762円。
ドル円相場は上値重く推移。151円80銭で始まり昼頃には151円ちょうどに下落。いったん反発したが東証引け頃には150円90銭へ。その後欧州市場では持ち直して米国市場朝方は強い米経済指標で151円70銭へ上昇。
ただ日米財務相会談やベッセント財務長官の発言を受けて151円ちょうどへ下落し、151円台前半で上下して151円ちょうどで引けた。
ユーロドル相場は1.1610で始まり徐々に水準を切り上げて夕刻は1.1640。米国市場にかけて1.1610へ押し戻されたが持ち直して引けは1.1650。
ユーロ円相場は176円20銭で始まり昼頃には175円50銭へ下落してもみ合い。欧州市場にかけては反発して167円20銭。その後は176円ちょうどを挟んで上下して引けは175円90銭近辺。
米国株はまちまち。NYダウは朝方前日のパウエル議長の発言を受けた利下げ期待に支えられて+400ドル高。しかし米中貿易摩擦へのあらたな懸念が重石。政府機関閉鎖も続き消費懸念が燻った。
そうしたなか金融株は良好な決算を受けて堅調。ハイテク株もなおしっかり。NYダウは前日比▲17ドル安の46,253ドル、ナスダックは+148ドル高の22,670ドルで引けた。
米長期金利は小動き。10年債は4.034%、2年債は3.497%。
発表されたNY連銀製造業景気指数(10月)は前月▲8.7から10.7へ大幅に改善し予想0.0を上回った。この日からG20財務相中央銀行総裁会議が始まった。日米財務相は個別会談。ベッセント財務長官は、日銀が適切に金融政策運営を継続すれば円相場は適正な水準に落ち着くだろう、と述べた。一部報道は、為替相場について協議した可能性がある、と報じた。
木曜日の東京市場では日経平均が大幅続伸。維新の会が自民党との連立方針を示したことで高市政権成立の可能性が高まったとの見方が強まった。政局不透明感が後退。主力株に買い。米国でFRBが金融緩和姿勢を明確にしていることも支え。
個別にはソフトバンク株が、傘下のイギリス半導体設計大手ARM社株急騰で大幅高となり指数を牽引した。引けは前日比+605円高の48,277円。
ドル円相場は151円ちょうどで始まり午前中の仲値近辺まで150円台後半で上下。その後は上昇して東証引けから欧州市場にかけては151円40銭近辺まで上昇した。ただその後は反落。米国で不良債権問題から地銀株が大幅安。米中対立懸念、政府機関閉鎖、なども重石。
FRB理事から10月利下げ支持の発言が相次いだことも手伝いリスク回避から米長期金利が低下。ドルを押し下げた。ドル円相場は150円20銭近辺まで下落して引けは150円40銭。
ユーロ円相場は175円70銭で始まり50銭に下落したあと夕刻は176円30銭へ持ち直し。ただその後は176円を挟んで大きく上下。米国市場では株安によるリスク回避から円が買い戻されて175円40銭台に下落し引けは175円80銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.1640~50で始まり70に上層したあと夕刻は1.1640~60。米国市場ではドル安により上昇して1.1680近辺でもみ合い引けた。
米国株は主要3指数がそろって大幅安。フィラデルフィア連銀製造業景気指数(10月)は前月23.2から▲12.8へ大幅悪化。NY連銀サービス業活動指数(10月)も前月▲19.4から▲23.6へさらに悪化した。いずれも活動縮小を示唆。
加えて地銀が保有する債権に疑義が生じて業績不安から地銀株が急落。信用リスクへの懸念が広がった。NYダウは▲301ドル安の45,952ドル、ナスダックは▲107ドル安の22,562ドル。
VIX指数は25.31ポイントへ上昇。市場の懸念、リスク回避が高まった。
FRBミラン理事、ウォラー理事は10月会合での利下げを支持。ミラン理事は0.50%を主張。米長期金利は低下。10年債は3.974%と4%を割り込み半年ぶりの低水準。2年債は3.422%に低下して3年ぶりの低水準をつけた。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。米地銀の信用不安による米株安が波及。幅広い銘柄が売られた。日本の銀行株にも売り、ドル円相場が149円台へ下落し輸出関連株が下落。リスク許容度が低下し換金売りも。海外投機筋は先物に売り。引けは前日比▲695円安の47,582円。
日銀の内田副総裁が講演。景気は一部に弱い動きがみられるが緩やかに回復、短観では日米関税合意で不透明感が後退し、製造業の一部の景況感が改善、企業の景況感は全体として良好な水準、経済物価見通しが実現すれば利上げ継続、と述べた。
ドル円相場は150円40銭で始まり夕刻には149円40銭近辺までドル安円高が進んだ。株安・リスク回避や日銀内田副総裁発言で早期利上げ観測が強まったことが背景。その後欧州市場では149円台後半で上下。米国市場に入ると150円60銭まで上昇した。
米地銀に対する不安が一服、株価上昇、リスク回避が緩和し米長期金利が上昇。ドルが持ち直した。その後は20銭台~60銭で上下して引けは150円60銭。
ユーロドル相場は1.1690で始まり緩やかに上昇し夕刻は1.1720台。その後欧州市場から米国市場にかけて1.1660へ反落。1.16台後半で上下して引けは1.1650。
ユーロ円相場は175円80銭で始まり175円台後半で上下。その後夕刻にかけては円高が進み174円80銭へ下落した。欧州市場では持ち直して175円台前半で上下。米国市場では175円70銭台へ上昇し175円台半ばで上下して引けは175円60銭。
米国株は反発。複数の米金融機関が寄付き前に決算で好業績を発表。地銀の不良債権問題は一部との見方で不安がひとまず一服。加えて米中対立への懸念が緩和。株価を押し上げた。
トランプ大統領は、対中関税大幅上乗せは持続可能ではない、米中首脳会談をAPECに際して予定通り行う予定、と述べた。NYダウは前日比+238ドル高の46,190ドル、ナスダックは+117ドル高の22,679ドル。米長期金利は上昇。10年債は4.013%、2年債は3.462%。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 日本の政治情勢
21日に首班指名選挙が実施される予定。日本維新の会が自民党との連立協議に踏み出したことで高市首相が指名される可能性が高まった。ただ閣僚を出すのか、閣外協力とするのか、によって連立の濃淡に違いが生じそうだ。
2党だけでは少数与党の状態は変わらず。政策は自民党が押し通すかたちにはなりにくい。
株式市場は高市首相誕生をはやして堅調となったが円安とはならず。リフレ政策をはやした円売りは沈静化している。維新は議員定数削減を要求しており、財政効率化を求めるスタンスは財政悪化懸念に一定の歯止めとなる。
野党の動向も含め、首班指名選挙と連立協議、政治情勢にはなお留意が必要だ。
2. 米国の予算協議、米中対立
米国ではなお政府機関の一部閉鎖が続いている。一時帰休から解雇へと拡大しており市場の懸念は広がっている。今週は民主党が何らかの合意に向けて動き始めるとの期待もあるがどうか。合意に至れば市場のリスクセンチメントは回復し、米景気懸念の緩和に寄与する可能性がある。
また米中貿易摩擦懸念は根強い。中国のレアアース輸出規制に対して高率の上乗せ関税で対抗するなどエスカレーションが懸念を強め、景気不安につながっている。
ただトランプ大統領は株価急落をみてまたしても態度を軟化。米中首脳会談は予定通り開催と語り、そこに向けてのブラフともとれる。市場心理の悪化に歯止めがかかるか、あるいは懸念が高まった状態が続くか。
3. PMI景況感指数
米国の経済指標は政府機関閉鎖の影響で発表がなお遅延しそうだ。そうしたなか金曜日に発表されるPMI景況感指数は注目される。製造業は不振、サービス業は粘り腰だが、その状況に変化はないか。
とくに米国のサービス業が堅調さを維持できているかに注目。ユーロ圏は製造業が前月49.8、サービス業が51.3、米国は製造業が52.0、サービス業が54.2。
ほか、金曜日には米国で遅れていたCPI(9月)が発表される予定。前年同月比、予想+3.1%と前月+2.9%から加速予想、コア、予想+3.1%で前月と不変。
◆今週のMRA's Eye
政治動向と市場リスクの高まり
日本では火曜日に予定されている首班指名選挙で高市政権が誕生する公算が大きくなった。ただ引き続き少数与党体制は変わらず。政策・法案は野党との協議が必要な状況が続くとみられる。
株式市場は自公連立解消および政権交代の不透明感から高市トレードが反転し急落したが一転して息を吹き返した。ただし、日本維新の会との連立ないしは閣外協力となることから、マクロ政策としての財政拡張・金融緩和、いわゆるリフレ政策は単純に期待できなくなったとみられる。
もともと維新は政府の効率化、財政効率化、歳出見直しをかかげていた。リフレ政策のうち少なくとも財政拡張政策には一線を画し距離を置いてきた。すでに自民党に対して議員定数削減を申し入れ、自民党は応じる構えだ。
高市総裁にしても、財政健全化が重要とのスタンスは維持している。責任ある積極財政、という言葉はわかりにくく、積極財政だけをとれば財政拡張となるが、責任あるとなれば野放図な財政支出は行わないことになる。
維新が連立を組むことで財政悪化懸念による円安リスクは低下したとみてよさそうだ。
もとより高市総裁はデフレ下のリフレ政策を蒸し返すつもりはないようだ。物価高対策と成長戦略を重視。物価高対策の範囲内での減税、ないし課税所得最低限の引き上げなどの財政支出となりそうだ。
もうひとつはアベノミクスのやり残し、成長戦略への注力。こちらは政府が種銭を出して民間とともに必要な成長投資を促進するというものだろう。
いずれにしても、財政支出拡大で景気を浮揚させるというマクロ政策をとる局面ではない。市場の「高市トレード」はマクロ政策からミクロ政策へ。手放しのリフレ期待からあらたな局面に入ったといってよい。
円相場にとって財政が大きなリスク要因とならなくなったとなると、再び注目は日銀の金融政策に移る。
この間の植田総裁、内田副総裁、ほか日銀当局者の発言はいずれも利上げに前向きだ。すでに9月会合では2名が利上げを主張して現状維持に反対票を投じている。景気物価認識はこれまでの予測通りに推移しており、追加利上げのオンラインにあることを示唆。日銀短観は良好との認識だ。
日銀は金融正常化の過程にあり、実質金利が大幅にマイナスとなっている超金融緩和状態をさらに修正しようとしている。政治からは利上げという方向感に待ったがかかりやすいが、インフレ、その背景にある円安、さらにはそれをとがめる米トランプ政権、が利上げを促す。
ここにきて市場では日銀による早期利上げ観測が持ち直している。12月が本命とみられるが、10月の可能性も皆無ではない。ベッセント財務長官は、日銀が適切な金融政策を続ければ円相場は適正な水準に落ち着くだろう、と述べた。以前は日銀の利上げの遅れを指摘することもあった。
27日にはトランプ大統領が来日する。利上げ阻止は、純粋に経済政策的にも、対米外交面でも、とりえない。政局が落ち着き、日銀が緩やかに利上げを継続する姿勢が明確となり、さらに利上げが実施されれば、緩やかに円高が進む可能性は高くなる。
米国でも政治の季節となる。クリスマスシーズンが視野に入り始めるなか、いつまでも予算協議が決着せず政府閉鎖が続くか。
共和党・民主党双方が相手方の責任として対立が長引く構図がどこで幕引きとなるか。
タイミングとしてはそろそろと思われるが、そのきっかけがつかめない。何がトリガーとなり解決に動き始めるか。トランプ政権は対外交渉で強硬姿勢を示して条件闘争に持ち込みその後に緩和するという喧嘩のやり方を続けてきた。
しかし国内で民主党相手となるとそうした戦術が通用しない可能性がある。さらに長期化すれば景気、雇用や消費に悪影響が顕在化するだろう。政府機関の閉鎖で経済実態がつかみにくくなっていることはさらに問題だ。
さらに対中関税の大幅上乗せもボディブローのように効く可能性もある。FRBの利下げが不十分となる潜在的リスクがある。
そうした状況に市場の不安が高まれば、まずは株式市場が調整局面に陥ろう。
株式市場はここまで利下げ期待による金融相場の要素と、AI分野の成長期待による半導体ハイテク全体への期待、で押し上げられてきた。過剰な期待で株価が金利退避で割高となっていることは明確。期待値に実際の企業の成長が追い付かない、実現が難しいとなったときが最もリスクが高い。
ただそれ以外にもトリガーはあろう。先週の地銀の不良債権懸念、金融不安は好例だ。幸い地銀全体のリスクではないとの認識で金融不安に陥って株式市場がパニックになることはなかった。ただ複合的にリスク回避が強まることはありえよう。
この場合はドル金利先安観、米長期金利低下、リスク回避・株安、いずれもドル円相場の下押し要因となるので留意が必要だ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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