日米ともに政治・与野党協議に注目~不安定化する為替市場
- MRA外国為替レポート
2025年10月6日号
◆先週の市場総括
先週は米国では予算協議の不調で政府機関一時閉鎖のリスクが高まるなか重要指標の発表が注目された。日本では自民党総裁選の行方が関心材料。週初から政府機関閉鎖の可能性が高いとの警戒感、日銀野口理事が利上げに前向きな発言をしたことで株安円高に振れた。
ドル円相場は149円台半ばで始まったが148円台へ。その後は米国の経済指標に弱い数字が続き利下げ期待の高まりとともに147円台へ下落した。
米政府機関の一部閉鎖が確定し、さらにADP雇用報告が弱かったことで146円台へ続落。ただ株価堅調、リスク選好の持ち直しで円高には歯止め。週末の引けは147円台半ば。
株価は堅調。米国株は利下げ期待に支えられNYダウが連日の史上最高値更新。ハイテク株は割高感に押される場面もあったが底固く推移した。
日経平均は週末にかけて買われ史上最高値を更新し45,700円台で引け。米ハイテク株の堅調、AI関連銘柄が幅広く買われて指数を押し上げた。
月曜日の東京市場では日経平均が下落。中間配当権利落ち要因が▲300円ほど。下げ幅は一時▲400円超。米国の重要指標発表を控え、また10月1日に始まる新年度のつなぎ予算の成否が不透明ななか、利益確定売りが優勢となった。
日銀が10月会合で利上げに踏み切るとの見方が強まり、米予算への不安とあいまってドル安円高が進んだことも重石となった。引けは▲311円安の45,043円。
日銀の野口理事が、政策金利調整の必要性がこれまで以上に高まりつつある、と述べた。ドル円相場は149円50銭で始まり夕刻にかけて148円50銭までドル安円高が進んだ。
欧州市場では148円80銭へ反発したが上値重く、米国市場では148円60銭近辺でもみ合い引けた。
ユーロ円相場は175円ちょうどで始まり174円50銭近辺に下落してもみ合ったあと夕刻にかけて一段安。174円ちょうどまで下落した。欧州市場に入ると反発し174円60銭に上昇したが、米国市場にかけて反落し20銭~30銭でもみ合い引けた。
ユーロドル相場は東京市場では1.17ちょうど近辺で始まり夕刻は1.1730近辺でもみ合い。欧州市場では1.1710~20で推移したあと1.1750へ上昇。米国市場の引けは1.1730。
米国株は上昇。つなぎ予算の成立期限が翌日に迫るなか不安感が下押しダウは一時下落。ただ利下げ継続期待が支え。NYダウは前週末比+68ドル高の46,316ドル、ナスダックは+107ドル高の22,591ドル。
米長期金利は低下。10年債は4.140%、2年債は3.622%。
発表されたダラス連銀製造業活動指数(9月)は前月▲1.8から▲8.7へ大幅悪化となった。
セントルイス連銀総裁は、政策金利は緩やかな引き締めから中立の間にある、インフレは今後2~3四半期上昇するリスクがある、慎重な対応が必要、と述べた。
火曜日の東京市場では日経平均が小幅続落。9月末で機関投資家の持ち高調整売りに押された。ここまで上昇をけん引してきた半導体関連銘柄の下げが目立った。
一方、押し目買いも支え。日銀の早期利上げ観測で銀行株が堅調。日銀金融政策決定会合の議事要旨で利上げに前向きな意見が目立った。引けは前日比▲111円安の44,932円。
ドル円相場は上値の重い展開。148円60銭で始まり朝方80銭に上昇したもののその後は夕刻にかけて下落し147円80銭近辺へ。欧米市場では一時148円台を回復したが上値重く、米国市場では147円60銭台~147円で上下し引けは147円90銭近辺。
ユーロ円相場も174円30銭近辺で始まり下落して夕刻は173円70銭~90銭で推移。米国市場朝方には173円40銭近辺へ続落。その後は下げ止まり引けは173円50銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.1730で始まり1.17台前半で上下して夕刻は1.1760。欧米市場でもほぼ同じレンジで上下して引けは1.1740。
米国株は小幅高。史上最高値を更新。製薬株の上昇が支え。政府機関の一部閉鎖懸念が重石、弱い経済指標、消費者心理の悪化も懸念されたが、引き続き利下げ期待が支えとなった。NYダウは前日比+81ドル高の46,397ドル、ナスダックは+68ドル高の22,660ドル。
米長期金利はまちまち。10年債はやや上昇して4.156%、2年債は3.614%に小幅低下。
発表されたシカゴ購買部協会景気指数(9月)は前月41.5から43.5への改善予想に反して40.6へ悪化。雇用動態調査(JOLTS求人数、8月)は前月7,181千人から7,227千人にやや増加したが低水準で推移。消費者信頼感指数(9月)は前月97.4から96への小幅悪化予想以上に悪化して94.2。
水曜日の東京市場では日経平均が大幅続落。寄り付きで▲400円以上下落した。期初の利益確定売りが続き値がさ株、半導体関連株が下げを主導した。朝方発表された日銀短観(9月調査)はほぼ予想通り景況感は維持された。
日銀の利上げを妨げる内容ではなかったが、一方で関税の悪影響も垣間見られ、利上げを加速するほどの強さはなかった。午後には米政府機関閉鎖が重石。引けは前日比▲381円安の44,550円。
為替市場では午後に大きく円高が進んだ。ドル円相場は147円90銭で始まり短観発表後に一時148円20銭へ上昇。ただすぐに押し戻され147円90銭~148円ちょうどで推移。午後に入ると米政府機関の一部閉鎖が確定。急速に円高が進み夕刻は147円ちょうど~30銭。
さらに米国市場朝方には弱い米経済指標を受けて146円60銭近辺へ続落した。その後は146円台後半で上下したあと147円ちょうど~20銭で上下し147円10銭近辺で引けた。
ユーロ円相場は東京市場で173円50銭~60銭で始まり90銭に上昇したあと反落して60銭~70銭。午後には急落して夕刻は172円80銭~173円ちょうど。米国市場では続落して172円40銭~60銭で上下もみ合いとなり引けは172円40銭。
ユーロドル相場は底固く推移した。1.1730~40でもみ合いのあと、午後には1.1780へユーロ高ドル安。ただその後はユーロ安円高に押されて反落し1.1710。米国市場では1.17台半ばを挟んで上下し引けは1.1730と東京市場朝方とほぼ変わらず。
米国株は主要3指数がそろって続伸。ヘルスケアや公益などディフェンシブが支え。政府機関が一部閉鎖されたが長期化しないとの楽観が優勢。弱い経済指標を受けて利下げ観測が強まったことが支えとなった。NYダウは前日比+43ドル高の46,441ドル。ナスダックは+95ドル高の22,755ドル。
米長期金利は低下。10年債は4.10%。2年債は3.536%。
ADP雇用報告(9月)は雇用者数前月比が+50千人程度の増加予想に反して▲32千人減少。前月分も+54千人増加から▲3千人減少に下方修正された。
ISM製造業景気指数(9月)は前月48.7から49.1へやや改善したがほぼ予想通りで、引き続き景況感の分かれ目である50を下回った。雇用指数は43.8から45.3へ改善したが50を割ったまま。新規受注は51.4から48.9へ悪化した。
木曜日の東京市場では日経平均が5営業部ぶりに反発。一時+570円超上昇。米利下げ観測が強まり米国株が堅調。半導体関連が軒並み買われた。一方、利益確定売りに押される場面も。
米政府機関一部閉鎖でドル安円高懸念が強まり輸出関連の重石。日銀の利上げが遅れるとの見方が銀行株の重石となった。引けは前日比+385円高の44,936円。
ドル円相場は147円10銭で始まり朝方30銭に上昇したが反落。その後は夕刻まで147円ちょうど~30銭で上下動を繰り返した。欧州市場に入ると円高に振れ146円60銭~70銭で推移したが、米国市場にかけては147円50銭近辺に反発し引けは147円20銭。ユーロ円相場も同様の値動き。
172円40銭で始まり50銭~80銭で上下動し一時90銭。欧州市場では下落して172円30銭~40銭で推移した。その後は底固く172円台半ばを中心に上下して引けは172円50銭近辺。
ユーロドル相場は動意薄。1.1720~40でもみ合い小動き。夕刻から欧州市場では1.1750近辺で小動き。米国市場では1.1680に下落したが反発して引けは1.1720。
米国株は堅調。NYダウは5営業日続伸し連日の史上最高値更新。追加利下げ観測が引き続き支えとなった。金利低下で割高感が和らぐとの見方からハイテクとくにAI関連銘柄への買いが続いた。
政府機関一部閉鎖の懸念はさほど高まらず。長期化しないとの楽観が主流。米長期金利は前日とほぼ変わらず。10年債は4.087%、2年債は3.539%。
なお週次の失業保険申請件数は発表が延期。雇用統計も発表延期が確定的となった。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅高。9月25日以来6営業日ぶりに史上最高値を更新した。AI関連、半導体関連への買いに拍車がかかった。
米国のハイテク株堅調に加え、オープンAIと日立製作所がパートナー契約を結んだとの報を好感。日銀の利上げ継続スタンスも、植田総裁の発言に新味がなく、株価を抑制するには至らず。引けは前日比+832円高の45,269円。
植田総裁は、経済物価情勢の改善に応じて金利を引き上げていく、として金融正常化スタンスを明確にしたが従来の発言と変わらず。
ドル円相場は内外市場を通じて147円台で方向感なく推移。東京市場では147円20銭で始まり60銭~80銭でもみ合いのあと午後から夕刻、欧州市場にかけて147円20銭~30銭へ押し戻された。
米国市場では指標を受けて147円台前半で上下したが流れは出ず引けは147円50銭近辺。
ユーロドル相場は小動き横ばい。東京市場では1.1720近辺で小動きもみ合いのあと欧州市場から米国市場にかけて終始1.1740近辺でもみ合い引けた。
ユーロ円相場は172円50銭で始まり朝方173円20銭に上昇したが夕刻から欧州市場にかけてじり安。172円80銭~90銭に押した。米国市場では173円20銭台に上昇。その後は173円ちょうど~20銭でもみ合い引けた。
米国株はまちまち。NYダウは6営業日続伸し4営業日連続で史上最高値を更新した。一時+500 ドル超上昇して47,000ドルの大台に乗せた。利下げ期待を支えに先高観は根強く、出遅れていたディフェンシブ銘柄が買われた。
一方でハイテク株には割高感から利益確定売り。NYダウの引けは+238ドル高の46,758ドル、ナスダックは▲63ドル安の22,780ドル。
米長期金利は上昇。10年債は4.124%、2年債は3.576%。
雇用統計は発表延期。ISM非製造業景気指数(9月)は前月52.0から変わらずの予想に反して50.0へ悪化。雇用指数は46.5から47.2へ改善したものの50割れのまま。新規受注指数は56.0から50.4へ悪化した。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 自民党高市総裁誕生、植田総裁会見、日本の経済指標
4日土曜日に実施された自民党総裁選挙で高市氏が勝利。財政金融政策が再び注目される。財政拡張・金融緩和のアベノミクスへの回帰スタンスがどの程度か。とくに日銀の金融政策への関与がどの程度強まるのか。
今週は8日水曜日に植田総裁が会見を行う。高市政権誕生をどの程度意識したかたちとなるのか。
市場では利上げが遅延するとの思惑が強まるなか、利上げに慎重なニュアンスが感じられただけで円安に反応する可能性があり留意を要する。
一方、金融政策の判断材料となる材料も多い。
月曜日には日銀支店長会議。地域経済報告(さくらレポート)が公表される。火曜日には家計調査、景気動向指数、水曜日には国際収支(8月)、景気ウォッチャー調査、金曜日には貸出・預金動向、企業物価指数が発表される。
2. FOMC議事要旨、FRB当局者発言
水曜日に9月のFOMC議事要旨が公表される。同会合では0.25%の利下げが実施され、メンバーの成長率・雇用・物価・政策金利予測が公表された。
ミラン理事が0.50%の利下げ実施を主張して反対票を投じたものの、なお利下げに慎重なメンバーも相応に存在。政策金利予測の中央値は年内あと0.50%の利下げを示唆するが、利下げなしから積極的な利下げまで意見が大きく割れている。
どのような議論がなされたか。メンバーの注目材料と利下げに向けた軸足、リスクバランスがどうか、どう変化しそうか。当局者の発言ともども注目される。
3. 米国予算与野党協議、政府機関一部閉鎖の動向
米国では与野党の予算協議が不調。決着しないまま政府機関の一部閉鎖に陥った。雇用統計など重要指標が発表延期となり、政策判断に支障を生じる状況に。
また政府職員の解雇も始まっており、政府支出全般の停止ともども、今後の景気への悪影響が懸念される。市場は短期的な閉鎖にとどまると楽観しているだけに、今週も協議の不調が続けば市場が動揺するリスクもあり留意を要する。
◆今週のMRA's Eye
日米ともに政治・与野党協議に注目~不安定化する為替市場
日米ともに政治が市場の注目材料となっている。政治の世界では一寸先は闇といわれ、どのように転ぶかわからない。政治が材料となった場合の市場は、良きにつけ悪しきにつけ、不安定化し動揺しやすいので留意が必要だ。
米国では与野党の予算協議が難航し、ついに政府機関の一部閉鎖に陥った。ただ市場は今のところ楽観している。従来も閉鎖が生じたもののそう長くは続かなかった。それを理由に問題視していない。
リスクがあるとすれば、与野党の対立が先鋭化したまま、今週も全く歩み寄りの気配がみられない場合だろう。
政府支出が最低限必要な分野以外で停止することで、景気には悪影響が次第に強まるとの懸念が台頭する可能性がある。すでに政府職員の解雇も始まっている。次第に景気・雇用に下押し要因が顕在化するとみられる。
ただ雇用統計など政府が公表する経済指標もまた発表が延期となった。実態を把握するには民間部門の調査に頼るしかない。こうしたことも不透明感の要因となる。
雇用関連では雇用統計のほか、週次の失業保険申請件数の発表も停止した。雇用者数の動向についてはADP雇用報告が最も雇用統計の代替として有効だが、先週に発表された9月の数字は極めて弱い数字だった。8月、9月、と2か月連続で雇用者数は前月比で3万人あまり減少している。
企業サイドからみた場合でも、雇用動態調査(JOLTS求人数)において求人数は前月からやや増加したものの低迷を続けている。
ISM製造業景気指数(9月)の内訳の雇用指数は前月43.8から45.3へ小幅改善したが50割れのまま。非製造業でも同様に46.5から47.2へ小幅改善したが50を割っている。
コンファレンスボードが発表する消費者態度指数(9月)は前月97.4から95.8へ悪化予想を下回り94.2まで悪化した。
雇用に対する不安が高まり、給与増加を望んだ転職を控え、現職にとどまろうという保守的な姿勢が強まっている。こうした流れに、政府機関の閉鎖、政府支出の減少が、下押し圧力とならないか。
FRB内ではなおインフレリスクを睨んで利下げに反対する意見も多い。しかしインフレか雇用かのリスクバランスが雇用に傾く可能性がある。
市場では弱い経済指標を受けて利下げ期待が強まり、すでに10月のFOMCで利下げが実施されるのは確実とみられている。株式市場では金融緩和観測の強まりが株価を押し上げた。
リスク選好は今のところ崩れていない。しかし政府機関閉鎖が長期化しないとの楽観が臨界点を超えるリスクが次第に高まる。この場合、株価が大幅調整、リスク選好が急速に低下、ドル安および円高が生じるリスクがある。
どのタイミングでそうした事態となるのか、不透明ながらも、留意し続ける必要がある。
一方、日本でも政治が市場の材料となった。自民党総裁選が終わり、高市政権が誕生することとなったことで、漠然とした注目点、市場に影響するポイントが具体化することになる。
今のところ、穏健保守をベースに、軍事・経済双方からの国家安全保障をどう実現するのか、が注目点だろう。そのうえで、少数与党として、野党との協調がどう実現し政策がどの程度実行に移されていくかが焦点となる。
マクロでみれば、財政金融政策のスタンスはどうか。アベノミクスへの回帰がどの程度かが最大の注目点となる。
今のところ、財政健全化は必要、一方、日銀とはしっかり協議し、財政金融政策ともに政府が責任を持つと述べている。日銀に金融緩和継続を求める姿勢は以前から変わらないようだ。
総じて、高市政権の誕生による各市場の反応は、株高、債券安、円安、とみられる。
アベノミクスの匂い、リフレ政策への傾斜を期待し、株式市場は全般に強気となりそうだ。個別に掲げる政策の恩恵を受ける銘柄、AI半導体関連や防衛関連などがけん引する可能性がある。
一方、財政拡張を懸念し、財政リスクプレミアムが拡大することで、国債は超長期債・長期債を中心に売られる可能性が高い。すでに日銀の国債購入は停止し、保有資産をどのように減少するかに動いている。こうした状況ではなおさら、債券安・長期金利上昇との反応が想定されよう。
一方、金融緩和へのこだわり、金融正常化の途上にある日銀への利上げ抑止圧力が強まるとの見方から、短期債は安定、ないしやや金利低下する可能性がある。
円金利先高観感の後退は円安につながるだろう。ドル円相場は米国側の要因もありつつ、150円に近づき、あるいは150円を上抜けるリスクも幾分かはあろう。
これらは実際に与野党協議がどうなるか、現実的にどのような落としどころとなるのか、具体的な行動がどうか、などによる。
経済政策がそれほど先鋭的なものにならない可能性もある。とくに極端な財政拡張・金融緩和を打ち出した場合、円債・円相場のダメージは大きくなりかねない。
その場合は、足元でも最も重視される物価問題への対処に逆風となる。日本株にもダメージがおよびトリプル安となるリスクすらある。そうしたことを踏まえれば経済政策は穏健になりそうだ。
ただ高市氏に適切なマクロ経済政策ブレーンがいないともいわれるなか、足元で打ち出しているスタンス、ヘッドラインに市場が反応し、各市場のリスクバイアスが強まる可能性には留意が必要だろう。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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