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さらに揺らぐ市場の米利下げ期待
  • MRA外国為替レポート

2025年9月29日号

◆先週の市場総括


先週はパウエルFRB議長の利下げに慎重な発言、強めの米経済指標を受けて利下げ期待が後退。米長期金利が上昇。ドルが堅調に推移した。

米2年債利回りは3.5%台後半から3.6%台後半へ。ドルインデックスは前週末の97台半ばから98台半ばへ上昇。ユーロドル相場は1.17台半ばから一時1.16台半ばへ下落した。

国内では総裁選の候補者による議論が本格化。いずれも財政拡張気味の政策を示唆。財政悪化懸念が燻り、日銀の利上げに慎重な姿勢とあいまって円安要因に。日米双方の要因が重なりドル円相場は148円ちょうど近辺で始まり週末にかけて150円近くまで上昇し引けは149円50銭近辺。

米国株は利下げ期待の後退で軟調。週末に過度なインフレ警戒が緩和してようやく下げ止まった。

日経平均は財政拡張期待、ドル高円安に支えられ、米国株の軟調にかかわらず底固い値動き。米株安に伴う海外勢の売りも入ったが、金曜日が配当権利付き売買最終日だったことで個人の押し目買いが支えた。木曜日に史上最高値を更新して45,754円で引けたあと、週末は45,300円台で取引を終えた。

月曜日の東京市場では日経平均が反発。9月18日以来の史上最高値更新。米国の利下げで景気が下支えられるとの期待から週末の米国株が堅調。史上最高値を更新。

それを受けて日経平均も一時前週末比+700円超値上がり。海外勢の買いが続いた。一方、国内勢には利益確定売りが目立った。引けは+447円高の45,493円。

為替市場は動意薄。ドル円相場は147円台後半の狭いレンジでの値動きに終始した。148円ちょうど近辺で始まり30銭~40銭で上下したが夕刻には反落して148円を挟んで上下。欧米市場では147円80銭~148円ちょうどで推移したあと引けは147円70銭近辺。

ユーロドル相場は底固く推移し次第に水準を切り上げた。1.740で始まり30近辺に下落したあと夕刻は1.1750台へ上昇。欧州市場ではさらに1.1770~90で上下し、米国市場では1.18ちょうど近辺で引けた。

ユーロ円相場は緩やかに上昇。173円70銭~80銭で始まり夕刻から欧州市場にかけては174円ちょうど近辺で推移。欧米市場では174円ちょうど~30銭で上下し引けは174円30銭。

米国株は前週末に続き史上最高値を更新。ハイテク株中心に上昇した一方、主力株の一部には利益確定売り、持ち高調整売りが入り上昇を抑制した。NYダウは前週末比+66ドル高の46,381ドル、ナスダックは+157ドル高の22,788ドル。米長期金利は小幅上昇。10年債は4.150%、2年債は3.605%。

火曜日の東京市場は祝日で休場。アジア時間のドル円相場は引き続き147円台後半での値動きに終始した。147円70銭近辺で始まりアジア時間から欧米市場にかけて横ばい上下動。引けは147円60銭。

ユーロドル相場は1.18近辺でもみ合い横ばい。1.18ちょうどで始まり夕刻は1.18を挟んで上下。引けは1.1810近辺。

ユーロ円相場は174円台前半で上下。174円30銭で始まり夕刻は20銭中心に上下。欧米市場では20銭~50銭で上下して引けは174円40銭。

発表されたPMI景況感指数(9月速報)は、ユーロ圏の製造業が前月50.7から50.8への小幅改善予想に反して49.5へ悪化。サービス業は前月50.5から横ばい予想に対して51.4へ改善した。

米国の製造業は53.0から51.5への悪化予想に対して52.0。サービス業は54.5から53.9へ悪化した。

リッチモンド連銀製造業指数(9月)は前月▲7から▲5へ小幅改善予想に対して▲17と大幅に悪化した。

FRBボウマン副議長は、雇用悪化への対応が遅れている可能性がある、と利下げが遅れている可能性を指摘。一方、パウエル議長は、次回会合での利下げに言及せず、インフレ上振れリスク、雇用下振れリスク、双方を指摘し、利下げを急ぎすぎるとリスクがある、とあらためて慎重な姿勢を示した。

また株式はかなり高く評価されている、と株の買われすぎに言及した。

米国株は下落。パウエル議長の利下げに慎重な発言、株価割高発言、が重石。ハイテク中心に利益確定売りが下押した。NYダウは前日比▲88ドル安の46,292ドル、ナスダックは▲215ドル安の22,573ドル。米長期金利は低下。10年債は4.108%、2年債は3.590%。

水曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸。総裁選候補者の公開討論会が実施され、いずれも財政拡張を意識させたことがプラス材料と受け止められた。とくに有力とみられる小泉、高市、両候補とも消費減税に言及したことが好感された。

午後は売りに押され▲200円ほど下落する場面もあったが押し目買いが支え。引けは+136円高の45,630円。

為替市場ではドルが堅調。パウエル議長の利下げに慎重な発言を受けた流れが続いた。ドル円相場は147円60銭で始まり夕刻から欧米市場にかけて一貫して上昇。148円70銭~80銭でもみ合い、一時148円90銭をつけて引けは80銭。

ユーロドル相場は一貫してユーロ安ドル高。東京市場では1.1810で始まり欧米市場では1.17台前半に下落して1.1730~50でもみ合い引けは1.1740。

ユーロ円相場は方向感なくもみ合い横ばい。東京市場から米国市場朝方にかけては終始174円40銭~60銭でもみ合い、その後ややレンジを切り上げて70銭~80銭でもみ合い取引を終えた。

米長期金利は上昇。10年債は4.148%、2年債は3.606%。米国株は主要3指数がそろって下落。史上最高値更新で高値警戒感が漂うなか、パウエル発言や長期金利上昇が嫌気された。ハイテク中心に利益確定売りに押された。NYダウは▲171ドル安の46,121ドル、ナスダックは▲75ドル安の22,497ドル。

ドイツで発表されたIFO企業景況感指数(9月、期待指数)は前月89.0から87.7に悪化してユーロ安ドル高を促した。

木曜日の東京市場では日経平均が連日の史上最高値更新。ドル高円安が輸出関連株の支えとなった。過熱感による利益確定売りが下押し圧力となったが、一方で配当権利付き売買最終日を翌日に控え個人投資家の買いが支えた。引けは前日比+124円高の45,754円。

為替市場は朝方から欧州市場、さらに米国市場朝方にかけて小動き。ドル円相場は148円60銭~80銭の狭いレンジで終始もみ合い横ばい。ただ米国市場朝方に発表された経済指標が強く、利下げ期待が後退、米長期金利が上昇するとドル高に。ドル円相場は急伸し149円80銭~90銭でもみ合い引けは149円80銭。

ユーロドル相場は1.1740~50で小動きもみ合い横ばい。米国市場朝方に1.1650へユーロ安ドル高となり引けは1.1670。ドルインデックスは火曜日に97.25、前日に97.84、と上昇したあと98.47へ一段高。

ユーロ円相場は東京市場から欧米市場を通じて終始方向感なく横ばい上下動。174円60銭~80銭で推移し引けは174円80銭。

米長期金利はさらに上昇。10年債は4.175%、2年債は3.661%。

発表された米国のGDP(4‐6月期確報)は前期比年率で改定値+3.3%から+3.8%へ大幅に上方修正された。個人消費は+1.7%から+2.5%へ。

耐久財受注(8月)は前月比で前月▲2.8%から+2.9%へ予想以上に改善。週次の失業保険申請件数は、新規申請が前週231千件から218千件へ減少した。ただ継続受給者数は1,926千人と高止まり。

米国株は主要3指数がそろって3営業日続落。強い指標を受けてさらに利下げ期待が後退、長期金利が上昇したことを嫌気。とくにハイテク株の下げが目立った。NYダウは前日比▲173ドル安の45,947ドル、ナスダックは▲113ドル安の22,384ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が反落。米国で利下げ期待が後退し米国株が下落。それを受けて売り先行となり、先物主導、値がさ半導体関連株主導で下落した。

一方配当権利付き売買最終日となったことで個人投資家が高配当銘柄中心に買いが入り下値を支えた。引けはおよそ▲400円安の45,354円。

為替市場は小動き。ドル円相場は149円80銭で始まり60銭~90銭の狭いレンジで上下動横ばい。米国市場ではややレンジを切り下げて40銭~60銭で上下して引けは149円50銭近辺。

発表された米国の経済指標がインフレの落ち着きを示し利下げ期待がやや持ち直したことでドルが小幅下落した。

ユーロドル相場は東京市場では1.1670で始まりもみ合い小動き横ばい。欧州市場では1.1680から60へ下落したあと米国市場で1.17ちょうど近辺へユーロ高ドル安に振れて引けた。

ユーロ円相場は174円80銭近辺でもみ合い小動きのあと欧州市場で175円ちょうど近辺に上昇。その後は174円80銭~175円ちょうどで上下して引けは175円ちょうど近辺。

米長期金利はやや低下。

発表された米国の個人所得消費支出(8月)は、所得が前月比+0.4%、消費が+0.6%と堅調持続。注目の物価指標、PCEデフレーター(消費支出価格指数)は前年同月比+2.7%と前月+2.6%からやや加速したが予想通り。

最も重視されるコア指数は+2.9%で前月と不変。過度なインフレ懸念が緩和し利下げ期待が持ち直した。

10年債は4.178%と上昇一服。2年債は3.643%とやや低下。

米国株は主要3指数がそろって上昇。市場の過度なインフレ警戒感が緩和し利下げ期待が持ち直したことで反発した。NYダウは3営業日ぶりに上昇して+299ドル高の46,247ドル。ナスダックは+99ドル高の22,484ドル。

ミシガン大学消費者態度指数(9月確報)は55.1と速報55.4から下方修正された。

◆今週の3つの注目ポイント


1. 米国の経済指標

今週は重要指標の発表が相次ぐ。利下げ期待の強弱にどのように作用するか。とくに雇用関連指数に注目。

月曜日 ダラス連銀製造業活動指数(9月、前月▲1.8)

火曜日 ケースシラー住宅価格指数(7月、前年同月比、前月+2.1%) シカゴ購買部協会景気指数(9月、前月41.5) 雇用動態調査(JOLTS求人数、8月、前月7,181千人) 消費者信頼感指数(9月、コンファレンスボード、予想95.8、前月97.4)

水曜日 ADP雇用報告(9月、雇用者数前月比、予想+48千人、前月+54千人) ISM製造業景気指数(9月、予想49.2、前月48.7)

木曜日 チャレンジャー人員削減数(9月) 週次の失業保険申請件数 製造業新規受注(8月、前月比、予想▲0.1%、前月▲1.3%)

金曜日 雇用統計(9月、非農業部門雇用者数・前月比、予想+43千人、前月+22千人、失業率、予想4.3%で前月と変わらず) ISM非製造業景気指数(9月、予想52.0、前月52.0)

2. 日銀短観、植田総裁会見

水曜日に日銀短観が公表される。日銀の利上げ方針を後押しする内容となるか。

大企業製造業の現況判断DIは予想15、前回13、先行き判断DIは予想13、前回12。やや改善予想。非製造業の現状判断DIは予想33、前回34、先行き判断DIは予想28、前回27、とまちまちの予想。

金曜日には植田総裁が講演を行う。金融政策決定会合では利上げにやや慎重な姿勢を示したが、何らかの変化はみられるか。総裁選直前でなお様子見姿勢か。

3. 自民党総裁選挙直前

自民党総裁選の候補者が出揃い、政策論争が活発化してきた。今週末4日日曜日に投票日を迎えるが、各候補者の政策論争とともに、優劣が報じられ、市場心理に影響しそうだ。

各候補者の経済政策をみると、今のところ過激な内容はなく比較的穏健。いずれも財政拡張的ではありながら積極財政とまではいえず。金融政策への言及はみられずスタンスは不明のまま。

アベノミクスへの回帰が想定されていた高市候補の政策も、消費減税に前向きだが、金融正常化にあからさまに反対するスタンスは影を潜めている。政策のさらなる具体的な内容、スタンス、各候補者の優劣に注目が集まろう。

◆今週のMRA's Eye


さらに揺らぐ市場の米利下げ期待

FRBは9月のFOMC会合で0.25%の利下げを実施したものの、あくまで雇用悪化に備えた予防的利下げ、調整利下げとのニュアンスを示した。メンバーの政策金利予測はわずかに下方修正されたのみ。景気物価見通しはやや上方修正された。

パウエル議長は雇用悪化リスクに軸足を移しつつも、インフレリスクが残っているとのスタンス。景気悪化に対する本格的な利下げ局面入りを期待した市場の見方ははしごを外されたかたち。

そうした流れで先週を迎えたが、パウエル議長は引き続き利下げに慎重なスタンスを示した。10月の会合での追加利下げには言及せず。インフレの上振れリスク、雇用の下振れリスク、双方が残るとし、利下げを急ぎすぎるのはリスクがあると述べた。

市場の大幅な利下げ期待が揺らぐなか、4‐6月期のGDP確報値が大幅に上方修正され、動揺を大きくしたようだ。夏前までの過去データであり、夏以降の雇用悪化は反映しないため、本来はさほど材料視すべきではない。

週次の失業保険申請件数もやや減少したのみ、継続需給は高止まりしている。にもかかわらず米長期金利は大きく上昇した。

こうした動きは、結果として市場の利下げ期待が強すぎたことを示している。

市場の強い利下げ期待が修正され、ドル金利先安観が後退。それにともないドル先安観も緩和した。市場のマインドはFRBの慎重な利下げスタンスに寄り添った。

今後を展望すれば、これで市場の利下げ期待がさらに修正され、ドルが上昇するリスクは軽減された。仮にそのリスクがあるとすれば、景気が持ち直し、雇用が堅調さを取り戻す場合だが、その可能性は低そうだ。

企業業績は生産性向上でコスト上昇をカバーして維持される可能性があるが、その裏側で雇用の悪化は続きそうだ。消費者心理が持ち直し、個人消費が活発化する可能性は低いとみられる。逆に、雇用悪化がさらに続くようなら、市場の利下げ期待が再燃する可能性がある。

現時点で年内利下げは9月会合のメンバー予測通りあと2回、0.50%が市場の見方の大勢だろう。あるいは1回となる可能性も懸念としては生じたようだ。大幅利下げを見込む向きはほぼなくなった。

12月会合までの利下げ、さらに同会合で再び示されるメンバー予測の変化がドル安の強弱を決めそうだ。

来週は重要な経済指標の発表が相次ぐ。とくに雇用関連指標は引き続き重要。市場心理を再び利下げ期待に引き戻すか。先週、ボウマン副議長は雇用悪化への対応が遅れている可能性がある、と述べた。

週末には断固たる利下げが必要との考えを示した。一方でFOMCメンバーのなかには利下げが必要ないとの見方もあり、意見に大きな乖離が生じている。このことは、メンバーの予測中央値が大きくぶれるリスクを示している。

円サイドの状況をみれば、総裁選が円安要因とされてきた。財政拡張政策による財政悪化、日銀への利上げ抑制が強まる、との財政金融政策のリスクバイアスが背景。

ここまでに候補者が表明した政策をみれば、財政金融政策面では大きな相違がみられない。最も過激な政策が想定されていた高市候補の政策も、アベノミクスへの回帰を想定させるものではなかった。

その意味では総選挙でどの候補が次期首相になっても、とりあえずは短期的に大きな影響はなさそうだ。

問題はその後。実際にどのような政策が打ち出されるか。とくに高市候補の場合は、積極財政や金融緩和維持への意欲を表に出さず、就任後に実現させる可能性がある。

その場合は円売りが強まる可能性があり留意が必要だろう。一方、小泉候補の場合は円相場への影響は不鮮明。可能性は低いが他の候補の場合は円安懸念が後退するという点で、円安に歯止めがかかりそうだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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