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米長期金利上昇で株価調整、円買い戻し
  • MRA外国為替レポート

2024年11月18日号

◆先週の市場総括


先週はトランプ政権への期待と警戒、FRBの金融政策スタンスを巡る不透明感から市場が揺れた。新政権の入閣予定者が次々と明らかになると、対中強硬派が目立ち、インフレ圧力が強まるとの懸念からとくに長い期間の長期金利が上昇。

CPIは落ち着いた数字だったことで12月利下げ期待は強まったが、パウエル議長が利下げを急がない姿勢を示したこと、他のFRB当局者からも慎重な利下げを支持する発言が相次いだこと、経済指標に強めの数字が散見されたこと、などで一転して利下げ期待が後退。来年の利下げペースが想定より緩慢になるとの見方も台頭した。

10年債は一時4.5%台に上昇。米国株は週初こそ堅調に始まったが上値重く、週末にかけて大きく調整した。ドル円相場は152円台半ばで始まり木曜日には156円台に上昇したが週央には大きく下落して154円台前半で引け。

ユーロ円相場も週央に165円を試したものの週末に急落して162円台後半で引け。週末にかけて手仕舞いの円買い戻しが優勢となった。

ユーロドル相場は1.07近辺で始まり週央に一時1.05割れを試したが下げ一服。ドルインデックスは105ポイント台半ばで始まり107ポイントを試したが上昇一服。日経平均は米株堅調や円安に支えられ底固く推移したが39,000円台の上値の重さが意識された。

月曜日の東京市場では日経平均が小幅高。前週末の米国株高、円安ドル高が支えとなり、好決算銘柄に買いが集まった。一方トランプ政権の政策の好悪双方見極めが必要との見方も台頭し上値を抑制した。引けは前週末比+32円高の39,533円。

為替市場では円安が進んだ。ドル円相場は152円60銭で始まり午後には153円70銭へ上昇。欧州市場にかけては153円半ばを中心に上下し80銭台。欧米市場ではドルが堅調。153円台後半で上下して引けは153円70銭。

ユーロ円相場は163円60銭で始まり午後には164円60銭台。欧米市場ではユーロ安ドル高に押されて163円60銭に下落。その後は163円台後半で上下して引けは163円80銭。

ユーロドル相場は東京市場では1.0710~20でもみ合い横ばい。欧州市場から米国市場にかけて1.0640へ下落し引けは1.0660。

ドルインデックスは105.50ポイントに上昇。米債券市場は休場。

米国株は主要3指数がそろって上昇。S&P500は史上初の6,000ドル。前週末に3指数そろって史上最高値を更新した流れが継続。減税や規制緩和への期待が支えとなった。NYダウは前日比+304ドル高の44,293ドル、ナスダックは+11ドル高の19,298ドル、S&P500は6,001ドルで引け。

火曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反落。前場は米株高を支えに買い優勢も昼前から海外勢短期筋が売り。4万円の大台を前に失速。トランプ政権の人事で対中強硬派が相次ぎ入閣し、半導体対中輸出規制への警戒感が半導体関連株の重石となった。引けは前日比▲157円安の39,376円。

為替市場では円が一段安。ドル円相場は153円台後半~154円で上下。その後夕刻から欧州市場、米国市場にかけて一貫して上昇し154円90銭台へ。引けは154円60銭近辺でもみ合い引け。

ユーロ円相場は163円80銭で始まり164円ちょうどに上昇したあと163円20銭に反落したが、欧米市場では一貫して持ち直し164円20銭へ上昇してもみ合い引け。

ユーロドル相場は1.0660で始まりユーロ安基調。欧米市場では1.06台前半でもみ合い一時1.06割れ。引けは1.0620。トランプ政権で対中強硬派の採用が相次いだことで欧州では余波を懸念。欧州株は中国関連株を中心に大幅安。ドイツ連立政権の瓦解で政局不透明感が台頭したことも重石。

米国株は短期的過熱感から反落。利益確定売りに押された。所得減税恒久化や法人減税への期待が支える一方、移民政策や関税引き上げの悪影響も懸念された。長期金利上昇も重石。10年債は4.434%、2年債は4.340%。

水曜日の東京市場では日経平均が大幅続落。関税引き上げへの警戒感から輸出関連株が押された。長期金利上昇も嫌気。引けは▲654円安の38,721円。

為替市場では円がじり安。ドル円相場は154円60銭近辺で始まり80銭台に上昇。その後押し戻される場面もあったが底固く欧州市場では155円20銭台に上昇した。その後米国市場ではCPIが予想通りだったことで利下げ継続との見方が強まり154円40銭割れに反落。ただすぐに反発して引けは155円50銭。

ユーロ円相場は164円20銭近辺で始まり欧州市場にかけて堅調に推移して164円80銭。米国市場ではドル安円高に押されて163円60銭に反落したが持ち直し164円台前半で上下して引けは164円20銭。

ユーロドル相場は1.0610~30でもみ合い上下動。欧州市場では1.0640に上昇したが米国市場では下落して1.0560~90で上下して引けは1.0560。

ドルインデックスは106.50ポイント近辺に上昇して引け。米長期金利はまちまち、引き続き期間の長い金利が上昇。10年債は4.456%に上昇した一方、2年債はやや低下して4.279%。

発表された米消費者物価指数(CPI、10月)は前年同月比+2.6%と前月+2.4%から上昇加速、コア指数は+3.3%と前月と同水準。市場の織り込む12月利下げ確率は80%。

米国株はまちまち。CPIが利下げ方針を変えるほど強くなかったとの見方が支え。一方、短期的過熱感は引き続き重石。NYダウは前日比+47ドル高の43,958ドル、ナスダックは▲50ドル安の19,230ドル。

木曜日の東京市場では日経平均が3営業日続落。朝方は円安を受けた短期筋の買いで+300円ほど上昇したが39,000円台の上値が重くその後は利益確定売りが嵩んだ。企業決算は総じてやや期待外れの銘柄が多く上昇力を削いだ。

金利上昇を受け銀行株は強い。引けは前日比▲185円安の38,335円。

ドル円相場は155円50銭で始まり午後には一段高。156円10銭に上昇しその後欧州市場では155円70銭に反落したが156円20銭台に上昇。その後も155円50銭に反落したが持ち直し156円台前半でもみ合い引けは156円30銭。

パウエル議長の発言で利下げ期待が後退し、インフレ懸念から米金利先高感が強まったことがドルを押し上げた。

ユーロ円相場は164円20銭で始まり40銭~60銭で上下。欧州市場にかけてはユーロ安ドル高に押されて163円80銭に下落。その後米国市場では大きく反発し165円ちょうど近辺に上昇し引けは164円50銭近辺。

ユーロドル相場は1.0560近辺で始まり小動きもみ合いながら上値重く、欧州市場に入ると1.05ちょうど近辺に下落。米国市場では1.0550に反発したが反落して引けは1.0530近辺。

ドルインデックスは107ポイント目前まで続伸した。米国株は下落。トランプラリー一服の流れが続いた。パウエル議長が利下げを急ぐ必要がないと発言。年内利下げ期待が後退し主力株の重石となった。

NYダウは前日比▲207ドル安の43,750ドル、ナスダックは▲123ドル安の19,107ドル。

米生産者物価指数(PPI、10月)は、前年同月比+2.4%と前月+1.9%から上昇加速、コア指数も+2.9%から+3.1%へ上昇加速した。

失業保険新規申請件数は前週の+221千人から+217千人へ減少し雇用市場の底固さを示した。米長期金利はまちまち。10年債は4.439%へやや低下、2年債は4.340%へやや上昇した。

金曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反発。パウエル議長の発言を受けた円安ドル高の進行で輸出関連に買い。半導体関連株も買われた。

ドル円相場は156円30銭で始まり70銭台へ続伸したあと30銭~50銭で上下動。その後欧州市場、米国市場では週末のポジション調整で円買い戻しが優勢となった。欧州市場では155円30銭に下落して20銭~60銭で上下。

米国市場では株価下落と並行して153円80銭台まで下落して引けは154円30銭近辺。

ユーロ円相場は164円50銭で始まり164円80銭~165円ちょうど近辺でもみ合い。その後夕刻から欧州市場では164円ちょうど近辺へ下落した。米国市場では164円50銭に反発したがその後は大幅安。162円40銭まで下落して引けは162円70銭。

ユーロドル相場は東京市場では1.0530~40で小動きもみ合い推移。欧州市場では1.0590へ上昇。その後米国市場にかけては1.05台前半を中心に上下して引けは1.0540。

ドルインデックスは上昇一服。引けは106.75ポイント。

米国株は大幅安。強めの経済指標を受けて金利先高観が強まり長期金利が上昇したことが株価を圧迫した。とくに金利に敏感なハイテク株が大幅安。ナスダックは前日比▲427ドル安の18,680ドル。NYダウは▲305ドル安の43,444ドル。

小売売上高(10月)は前月比+0.4%と強めだったが、除く自動車では+0.1%と弱め。 NY連銀製造業景気指数(11月)は前月▲11.0から31.2へ大きく改善した。鉱工業生産(10月)は前月比▲0.3%と前月▲0.3%に続き減少。設備稼働率は77.1%へ低下した。

◆今週の3つの注目ポイント


1. 米長期金利と株価動向

先週末は長期金利上昇に耐えきれず米国株は下落した。トランプトレード(株高、金利上昇、ドル高)に変調の兆しがみえたが、今週はまた仕切り直しで株高が続くか。先週末にはリスク選好が後退する動きがみえたがどうか。

為替市場で進んでいた円安はリスク回避により一服したが、株価動向、市場のリスクセンチメントに左右される度合いが強まっている。

株高なら円弱含み、株価調整なら円安が修正されるとみられる。経済指標は小粒なものが多い。住宅着工や中古住宅販売。そしてPMIが景気堅調を示すか。FRBの金融政策への期待を左右するほどではないとみられるが当局者発言には留意。

2. PMI景況感指数

週末にPMI景況感指数(11月速報)が発表される。

ユーロ圏製造業 予想 46.0(前月46.0と変わらず) サービス業 予想 52.0(前月51.6)。独製造業 予想 43.1(前月43.0)、サービス業 予想 51.9(前月51.6)英製造業 予想 50.1(前月49.9)、サービス業 予想 52.3(前月52.0)米製造業 予想 48.8(前月48.5)、サービス業 予想 55.3(前月55.0)

先月は、米国の景況感が相対的に良好であることを示したが今月はどうか。さらに米国の優位性が確認されるか。欧州の景況感が予想外に悪化しないか。ユーロドル相場、ひいては上昇しているドルインデックスが続伸するか、逆に一服、調整するか。

3. 日本の経済指標

日銀が12月会合で利上げに踏み切るとの見方が強まっている。それを裏付ける材料に注目。

月曜日に10月の日銀金融政策決定月会合の主な意見が公表される。同会合では利上げの判断に時間的余裕があるとの文言が削除された。国内政治動向によって利上げがむずかしいとの見方があったが、再び利上げ時期が目前にあるとの見方が強まった。議論はどうだったか。

また金曜日に消費者物価指数(10月)が発表される。総合指数前年同月比は前月+2.5%から+2.3%へ、除く生鮮食品は+2.4%から+2.2%へ、低下するとみられているが、除く生鮮食品・エネルギー価格は+2.1%から+2.2%へ上昇すると予想されている。

いずれも2%を超える状況が続き利上げをあとおしするか。ほか水曜日に通関統計(10月)が発表される。貿易赤字は引き続き5千億円を下回る状況が続く見込み。

◆今週のMRA's Eye


米長期金利上昇で株価調整、円買い戻し

先週末にかけて米国株は調整。トランプトレードの綻びが垣間見えた。米国株は今週も調整が続くのか、あるいは底固く堅調さは維持されるのか。

今のところ、大統領選直前からの急騰に比べれば調整幅は軽微だが、ここで踏みとどまるのか。急騰する前には不透明感から大きく調整していたが、現状、その調整が始まるピーク近辺にある。

株価の下押し圧力となったのは米長期金利の上昇だ。

10年債利回りは一時4.5%台まで上昇した。パウエル議長が慎重に利下げを進める姿勢をあらためて示したことで利下げ期待も後退。

12月のFOMC会合での利下げ織り込みは、先週のCPI発表時点では8割程度あったが、パウエル発言のあとでは五分五分程度に。さらに来年の利下げペースが当初予想されたより緩慢になるとの見方が強まっている。PPIの上昇が金利先高懸念に拍車をかけた。

米長期金利上昇にはトランプ政権の人事に影響された面も大きいのではないか。

国務長官に対中強硬派のルビオ氏が就任する予定となり、関税引き上げへの懸念は一段と強まっている。

株式市場は個人所得減税の恒久化や法人減税への期待で堅調に推移してきたが、関税引き上げや移民規制強化のインフレ圧力を懸念し始め、またそれに伴う長期金利の上昇がボディーブローのように効き始めたとみられる。

幸い、足元の経済指標はさほど悪くないが、インフレや長期金利上昇は景気にマイナス。減税効果が相殺される可能性がある。大統領選挙後の高揚感は一服。期待ばかりではなく懸念も気にし始めたようにみえる。

トランプトレードは、米株高、米長期金利上昇、ドル高、の組み合わせ。株高は景気拡大加速が大前提。米長期金利上昇はインフレ圧力や利下げペースの緩和あるいは停止が前提となる。

ドル高は米金利見通しの変化、米長期金利上昇に支えられる。ただ長期金利上昇とドル高は企業業績にマイナスとなり株価上昇と相容れない。

とくに景気刺激策の企業業績への押し上げ効果は未だにないなか、長期金利上昇とドル高が先行している。株価調整は期待先行の株高が限界に近くなってきたことを示している可能性がある。

ドルは米金利見通しの変化に応じて急上昇してきた。ドルインデックスは9月末時点で101ポイント近辺だったが、先週は107ポイント近辺まで上昇した。さらに円は株高に示されるリスク選好の高まりで再び売られた。

日米金利差が縮小しにくいとの見方や、依然として、政治的な圧力で日銀が利上げをしにくいのではないか、との見方も円安を支えた可能性がある。

ただドル高円安の加速は米長期金利上昇や金利水準から乖離して進んできたようにみえる。リスク選好による円売りが勝っていたともみえる。

シカゴ通貨先物の投機筋の円ポジションはさらに売り越しが拡大して65千枚程度まで拡大した。9月27日時点では66千枚の買い越しであり180度スタンスが転換。トランプトレードのなかで円売りが加速している。

ドル高円安は米長期金利上昇と米株高、リスク選好に支えられてきた。ただ米長期金利上昇が株価調整を招いたことで円安にブレーキがかかった。

トランプトレードによる米長期金利上昇と米株高の両立が難しくなってきた。期待感より現実を見極めようという動きが強まってきたことが、結果的にドル高円安にブレーキをかける要因となってきたとみられる。

トランプトレードを囃して行けるところまで行く、ドル高円安を試す、という動きが転機を迎えた可能性に留意したい。

今後は日銀の動きも鍵になる。10月の金融政策決定会合では、少数与党となったことで利上げが難しくなった、との市場の見方に反し、利上げ判断に時間的余裕がある、とのこれまでの認識を改めた。利上げにむしろ前向きな姿勢を示している。

12月会合で利上げ実施が確実となれば円安にブレーキをかける要因ともなる。ドル金利先安感は後退しているため大幅なドル安円高に振れる可能性は少ないが、少なくとも期待先行、トランプトレードによるドル高円安は一服しそうだ。

当面は150円台前半での推移となり、サンクスギビングからクリスマスにかけての休暇シーズン入り、あるいはファンドの決算や企業決算が相次ぐ11月末から年末にかけては、150円を試す可能性は相応にありそうだ。

円ポジションが売り越しに傾いているなかでは短期リスクは円高サイドとなる。一方、ドル高円安のまま推移する可能性としては、12月のFOMCにおける利下げ見送り、メンバーの政策金利予測の上方修正、さらにトランプ政権の政策への期待感から来年もドル高円安が続くとの期待感が支えとなるケース。155円から再び上値を試すリスクも排除はできない。


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