投機主導の急速な円安、歯止めかからず
- MRA外国為替レポート
2024年4月29日号
◆先週の市場総括
先週は週末にかけて急速に円安が進んだ。米国の経済指標はPMI景況感指数やGDPが弱めだったものの、物価関連指標が強い数字となり長期金利を押し上げた。2年債は5%ちょうど近辺へ、10年債は4.7%へ。
そうしたなか注目の日銀金融政策決定会合では、円安に対する懸念が特段表明されず、緩和的な金融政策を継続する、とされ、植田総裁が追加利上げに慎重ととれる発言をしたことで週末に一気に円安が加速した。
ドル円相場は週初に154円台半ばで始まり水曜日の欧米市場で155円台に乗せていたが、金曜日の日銀会合や植田総裁会見を受けて、海外市場にかけて158円30銭台まで一気にドル高円安が進んだ。
ユーロ円相場も164円80銭から週末には169円30銭へ、5円ほど円安が進んだ。
株式市場では個別決算に反応する動き。米国ではNYダウは月曜引けと金曜引けが同水準。ナスダックは上昇。日経平均は極めて値動きの荒い展開。
水曜日に38,500円近辺に急騰したが木曜日には37,600円台に急反落。週末は37,900円台。円安はさほど株価押し上げ材料とならなかった。
月曜日の東京市場では日経平均が上昇。前週末の大幅下落の反動で自律反発狙いの買いが支え一時+400円超上昇。ただ週末の米ハイテク株安は重石。主要ハイテク株が下落。引けは上げ幅を縮めて前週末比+370円高の37,438円。
ドル円相場は154円60銭で始まり早朝に50銭に下落したがすぐ反発。その後もじり高でもみ合いながら午後には70銭台へ上昇。欧米市場でも底固く推移して80銭台へじり高。34年振りのドル高円安。引けは154円80銭台。
米長期金利は週末よりやや低下したが、中東情勢をめぐる過度な警戒化が緩和、リスク回避が後退し円売りを促した。
ユーロドル相場は1.0660近辺でもみ合い。午後から欧州市場にかけては1.0620台に下落。一方、米国市場では1.0650~60に持ち直して引けた。ユーロ円相場はドル円相場がじり高ながら動きが鈍いなかユーロドル相場と同様の値動き。164円80銭で始まり165円ちょうどへじり高。
欧州市場では164円40銭に下落したが米国市場では164円90銭~165円ちょうどに持ち直して引けた。
米長期金利は前週の上昇のあと持ち高調整でやや低下。10年債は4.61%、2年債は4.97%。
米国株は上昇。イスラエル、イラン、ともに報復のエスカレートを回避する慎重な姿勢とみられることから中東懸念が後退。リスク回避が緩和して持ち直した。
一方、決算発表が続くことで内容見極めとなった。NYダウは前週末比+253ドル高の38,239ドル。ナスダックは+169ドル高の15,451ドル。
発表されたシカゴ連銀全米活動指数(3月)は前月0.09から0.15へ3ヵ月連続で上昇し、直近2か月はプラス圏となった。ユーロ圏消費者信頼感指数(4月速報)は前月▲14.9から▲14.4への改善予想に届かず▲14.7。
火曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸。中東情勢への警戒感が和らぎ米国株が堅調に推移したことで買い優勢。国内金利上昇で銀行株には買い。決算発表が続くことで様子見姿勢も強かった。引けは前日比+113円高の37,552円。
ドル円相場は154円80銭台で始まりもみ合い横ばい。欧米市場では60銭~80銭で上下して米国市場引けは154円80銭近辺。ユーロドル相場は1.0650で始まりもみ合い。欧州市場に入ると1.0690に上昇しその後も底固く1.07ちょうど近辺でもみ合い引けた。
発表されたPMI景況感指数(4月速報)は、ユーロ圏製造業が前月46.1から45.6へ低下、サービス業が51.5から52.9へ上昇し、総合指数は50.3から51.4へ上昇した。ドイツでは製造業が41.9から42.2へ、サービス業が50.1から53.3へいずれも上昇した。
ユーロ円相場は東京市場で164円90銭近辺でもみ合いのあと夕刻に60銭台に下落したが、欧州市場では165円60銭に上昇。その後165円割れに下落したものの反発し165円70銭近辺で引けた。
米国のPMIは製造業が51.9から49.9へ悪化して景況感の分かれ目である50割れ。サービス業も51.7から50.9へ低下した。米長期金利は小幅低下。10年債は4.601%、2年債は4.912%。
米国株は上昇。中東情勢はイラン、イスラエル、双方の抑制的スタンスが続き警戒感が緩和。PMIが弱めでインフレ加速懸念が後退。NYダウは一時+300ドル超上昇し引けは+263ドル高の38,503ドル。ナスダックは+245ドル高の15,696ドル。
米国の新築住宅販売(3月)は季節調整済み年率換算で693千戸と前月637千戸から増加。リッチモンド連銀製造業指数(4月)は前月▲11から▲7へ改善した。
水曜日の東京市場では日経平均は大幅高。中東情勢の落ち着き、米国PMIでインフレ加速懸念が和らぎ米国株が堅調。ドル高円安も支えとなった。
そうしたなか、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人、国民年金と厚生年金を管理運用)が5年に1度の運用比率見直し(2025年)で日本株の比率を高める、との見方が広まり海外勢を中心に思惑買いが広がった。引けは+907円高の38,460円。
ドル円相場は154円80銭で始まりじり高。夕刻から欧州市場では90銭近辺でもみ合い。その後155円10銭台に一段高。介入警戒感が漂うなかでも上値を試し30銭台に上昇してもみ合い引けは155円20銭近辺。
ユーロ円相場も欧米市場で円安。東京市場では165円60銭台から80銭近辺でのもみ合い。欧州市場では50銭~60銭で推移したがその後上昇して166円10銭へ。
ユーロドル相場は1.07で始まり欧州市場では1.0680~90でもみ合いとなったがその後は戻して1.07ちょうど近辺で引け。米長期金利は小幅上昇。10年債は4.645%、2年債は4.931%。
米国株はまちまち。朝方好決算銘柄を中心に上昇したが長期金利上昇が嫌気された。GDPやPCEの発表を控え、また大手ハイテク決算を翌日に控えていることで様子見姿勢も強かった。
木曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。前日の大幅高の反動で、利益確定売り、戻り売りが強かった。決算発表のうち円安でも業績が冴えない企業も散見され失望も。
この日から始まった日銀金融政策決定会合の結果を前に様子見、手仕舞いも嵩んだ。
為替市場ではさらに円安が進行。ドル円相場は155円20銭で始まり午後には70銭台に上昇。欧州市場では上昇が一服し20銭~70銭台で上下し米国市場では155円60銭近辺で引けた。
ユーロ円相場も166円ちょうど~10銭で始まり夕刻には167円ちょうどまで上昇。米国市場に入るとユーロ安ドル高に押されて166円ちょうどに急落したが、その後持ち直して引けは167円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は1.07ちょうどで始まりじり高。欧州市場では1.0730近辺で推移した。その後米GDPを受け1.0680に下落したが反発して引けは1.0730。
米国市場朝方に発表された1-3月期GDP速報は、前期比年率+1.6%と前期+3.4%から大きく減速。個人消費は+3.3%から+2.5%に減速して予想+2.6%をやや下回った。
一方個人消費デフレーターは前期比年率が前期の+2.0%から+3.7%に加速。景気減速とインフレ加速という組み合わせで株価には下落圧力。利下げ先送り、利上げの可能性を織り込んで米長期金利は上昇。10年債は4.704%へ、2年債は4.999%へ。米国株主要3指数はそろって下落。
金曜日の東京市場では日銀金融政策決定会合、その後の植田総裁会見を受けて投機主導で急速に円安が進んだ。
会合では予想通り政策金利は据え置かれ、展望レポートで引き続き緩和的な金融政策を継続すると記された。これらはある程度予想の範囲内だったが、植田総裁が会見で、今のところ円安が物価に大きな影響を及ぼしていない、との認識を示したことで追加利上げに慎重と受け止められた。
ドル円相場は155円60銭近辺で推移していたが、会合後に156円20銭へ上昇。その後一時156円ちょうどまで押したが夕刻には80銭。急速な利益確定売りで155円ちょうどまで下げる場面があったが急反発して欧州市場では156円90銭へ。
さらに米国市場で157円70銭に上昇し、引けにかけて一段高となって158円30銭台で引けた。
ユーロ円相場は167円ちょうどで始まり167円50銭に上昇、夕刻にはさらに168円ちょうどに上昇した。欧州市場では167円80銭~168円30銭で上下、米国市場では169円30銭まで大幅高となった。
ユーロドル相場は1.0730でもみ合いのあと欧州市場では1.0750へ小幅高。ただ米国市場では強めの米経済指標を受けて1.0680へ下落。引けは1.0690。
日経平均は堅調。日銀の政策現状維持で海外勢の買いが優勢。前日の大幅安で自律反発狙いの買いも入った。ただ円安はプラス、マイナス、双方あるとの見方で株価押し上げにはさほど寄与せず。引けは+306円高の37,934円。
米国株も堅調。決算発表で業績が良好な銘柄が買われた。マイクロソフト、アルファベット、などが買われたことで心理的な支え。他のハイテク株にも買いが波及した。
物価指標は強めだったが織り込み済みで反応は鈍く長期金利が低下しハイテク株の支えとなった。ナスダックは+316ドル高の15,927ドル。NYダウは+153ドル高の38,239ドル。
10年債利回りは4.667%、2年債は4.993%に小幅低下。
発表された米国の個人所得・消費支出(3月)は前月比+0.5%・+0.8%と引き続き強い数字。注目の個人消費支出指数(PCEデフレーター)は総合が前月+2.5%から+2.7%へ上昇。コア指数が+2.8%のまま高止まり。
ミシガン大学消費者信頼感指数(4月確報)は77.2と速報77.9から下方修正。期待インフレ率は1年が速報の3.1%から3.2%へ上方修正された。5年は速報の3.0%で変わらず。
◆今週の3つの注目ポイント
東京市場は月曜日、金曜日、が休場。欧州は大陸サイドが火曜日にメーデーで休場。
1.FOMC(米公開市場委員会)、パウエル議長会見
今週、火曜日・水曜日の2日間にわたりFOMCが開催され終了後にパウエル議長が定例会見を行う。今回政策変更は予想されていない。足元の物価動向の見方。
インフレ率上昇が一時的とみるか、当面はインフレ率低下せず高止まりとの見方に修正されたか。また利下げ先送り論の高まりがどの程度か。さらに利上げの可能性をどの程度みているのか。
今のところ、利下げは早くて9月、ないし11月。年内利下げは1回、との見方が市場の大勢。2回は少数派となってきた。
こうした市場の織り込み、利下げ遅延や利下げ回数の減少を、さらに上回るタカ派的な議論となるか。パウエル議長が明確にハト派スタンスを修正しタカ派に転じるか。
為替相場の反応、リスクバイアスはドル高。市場の織り込みが進んだことで予想の範囲内としてドル高がさほど進まないかどうか。
2.米国の経済指標
今週は重要指標が相次ぐ。景気堅調を示すか、あるいは景気減速とインフレの併存という好ましくない状況を示唆するか。
火曜日 雇用コスト指数(1-3月期、前期比、予想+1.0%、前期+0.9%) シカゴ購買部協会景気指数(4月、予想44.3、前月41.4) 消費者信頼感指数(4月、予想104.0、前月104.7)
水曜日 ADP雇用報告(4月、雇用者数前月比増減、予想+180千人、前月+184千人) 雇用動態調査(JOLTS、3月、求人数、予想8,690千人、前月8,756千人) ISM製造業景気指数(4月、予想50.1、前月50.3)
木曜日 週次失業保険申請件数 製造業受注(3月、前月比、予想+1.6%、前月+1.4%) 労働生産性(1-3月期、前期比、予想+0.7%、前期+3.2%) 労働コスト(同、前期比年率、予想+3.3%、前期+0.4%)
金曜日 ISM非製造業景気指数(4月、予想52.0、前月51.4) 雇用統計(4月、非農業部門雇用者数、前月比、予想+250千人、前月+303千人、平均時給、前年同月比、予想+4.0%、前月+4.1%)
3.欧州の経済指標
欧州の景気物価動向が足元の急激なユーロ高円安を支持する内容となるか。あるいはECBの6月利下げを支持する内容か。
月曜日 ユーロ圏諸飛車信頼感(4月確報、速報▲14.3) 経済信頼感(4月、予想96.7、前月96.3) ドイツCPI(4月速報、前年同月比、予想+2.3%、前月+2.2%)
火曜日 ユーロ圏CPI(4月、前年同月比、コア指数、予想+2.6%、前月+2.9%) GDP(1-3月期速報、前期比、予想+0.1%、前期+0.0%) ドイツGDP(同、予想+0.1%、前期▲0.3%)
木曜日 製造業PMI(4月改定値)
ほか、急速に進む円安に対して介入が実施されるか。決算を受けた株価動向がどうか。
◆今週のMRA's Eye
投機主導の急速な円安、歯止めかからず
週末の欧米市場でドル円相場は158円30銭まで急騰して高値引け。ユーロ円相場も169円30銭へ急騰し170円に迫っている。
豪ドルは103円50銭。かつては円と同様に低金利安全通貨とみられていたスイスフランはコロナ前、2020年前半までは110円近辺で安定的に推移していた。それが2021年から上昇基調をたどり徐々に加速。そして昨年夏に160円台へ。
そして先週木曜日、金曜日の2日間で170円から173円に急騰した。
為替市場全体を見渡せば明らかにドル高ではなく円全面安。ドル円相場の動向だけに注目して米国の景気が強くインフレ率がなかなか下がらない、利下げが先遅れされているためドル高円安が進んでいる、という説明はあたらない。
円安の動きは急だが、ベースラインには日銀の金融政策がある。異次元の金融緩和策はすべて撤廃されたもののなおゼロ金利だ。
結局のところ、コロナ禍のあとの世界的に急速なインフレが進むなか、なおも日本政府日銀はデフレ脱却を標ぼう。海外の中央銀行が急速に利上げするなか異次元の金融緩和を継続しすぎたことが背景だ。
このところ、日本経済の問題点、弱さも指摘される。
その観点では確かに日本の金利が相対的に低金利とならざるを得ない面もある。しかし、たとえば欧州経済と比べてそれほど劣るとも思えない。
つまるところ、グローバルな景気物価動向とあまりにも異なる金融政策を継続し過ぎたこと、その修正に時間がかかること、そこをつかれたかたちだ。
通貨高と通貨安、明らかに危険でコントロールができないのは通貨安。また円安を是とする見方はなお多いが、通貨価値が高いことは基本的に好ましい。
輸出主導の経済であれば円安はプラスだが、日本はすでに貿易サービス収支の赤字が定着している。輸入超過の国にとってはある程度の通貨高が好ましい。とくに通貨安でも輸出が伸びない、黒字になりにくい状況ではなおさらだ。
ただ為替相場は好ましい方向に動きてくれず、むしろ好ましくない方向に加速するリスクがある。日米金利差、とくに日欧金利差はここまでの円安を示唆してはいない。
しかし世の大勢が円安・円弱との見方に定着し、ファンダメンタルズに相応な範囲をはるかに超えて円安が進むというリスクが顕在化した。
構造要因にせよ循環要因にせよ、これほど急速な円安を説明するのは難しい。日本経済の動向や貿易サービス収支の動向ではここまで短期的かつ大幅な円安にはならない。
日本の投資家の外貨資産志向も強まってはいるが、これが円急落につながるほどの動きにもなっていない。円の価値はさらに下落する、円は売っておけば儲かる、という見方が定着し、蔓延したことで、様々な経済主体の円先安感、円安不安が煽られた。
それも踏まえて投機的円売りが急拡大して円安をもたらしたとみられる。こうなってくると、容易には円安に歯止めがかからない。
例えていえば、緩やかな流れが次第に勢いを増し、大河の流れのようになったようなもの。ここまで至ってしまうと、日本の当局が円買い介入を実施しても、大河に棹差すようなもので、流されるだけだろう。
問題は、海外勢、投機筋のみならず、日本人の間でも円は弱い通貨、円を持っていてもだめだ、との認識が定着し広まってしまったことだ。
自国民が自国通貨安に不安を覚えることが最も危険な状態。そこに至るまで政府日銀が円安ないし異次元の金融政策を放置してしまったことにある。一方で、今さら日銀が円安に過剰反応して急速に利上げに動くのも好ましくない。
実際に金融政策をどうするかはともかく、緩和的な金融政策を維持する、という文言を削除するのが第一歩だろう。
結局のところ市場が円に売り飽きる、円の再評価に至る、値動きとして金利差を相殺する以上に円高に動き円買い戻しが促される、とならなければ円高への修正が生じないリスクが高まった。
ドル円相場はともかくユーロ円相場が170円というのは明らかに過剰な円安だ。ユーロドル相場は1.05~1.10とファンダメンタルズと相応ないしユーロ高ドル安気味で、極めて適正な水準で推移している。
それに比べた過剰な円安の是正をいかにして図るのか。あるいはこの程度の円安なら構わないと認識しているのか。円安牽制は政治的なリップサービスなのか、あるいは問題だと思っていても何も打つ手がないのか。
引き続き日本政府日銀が市場に試される状況、円安がどこまで行けるのか試す展開となりそうだ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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