過剰な早期利下げ期待の修正局面
- MRA外国為替レポート
2024年1月8日号
◆先週の市場総括
年末最終週、クリスマス休暇明けは目新しい材料を欠くなか持ち高調整の動きが中心となった。ドル円相場は週央まで142円台半ばで小動きとなったが、その後年末にかけては持ち高調整の円買い戻しが優勢となった。年末終値は141円ちょうど近辺。
ユーロ円相場は156円台後半から週央にかけて158円台半ばに上昇。ユーロ高ドル安・円安の流れ。ユーロドル相場も1.10ちょうど近辺から1.11台半ば近辺までユーロ高ドル安が進んだ。
その後年末にかけてはユーロ買い持ちの手仕舞いからドル高・円高。ユーロ円相場は155円台半ば近くまで下落して引け。ユーロドル相場は1.10台前半に下落して引けた。
米国では早期利下げ期待が根強く長期金利10年債利回りは一時3.7%台まで低下したが、週末にかけて上昇し引けは3.89%。
米国株は年末期末の残高保有のための買い(ウィンドー・ドレッシング)で底固かったが、一方で利益確定売りに上値を抑えられ小幅高。日経平均は堅調な米国株が支えとなり33,000円台後半に上昇したが、週末にかけては円高が重石となって33,400円台で年末の取引を終えた。
年が明けると年末までの米長期金利低下基調が一転。FOMC議事要旨や強めの米経済指標を受けて早期利下げ期待が後退。長期金利は上昇し10年債利回りは4%台に反発した。
米国株はソフトランディング期待が支えとなりつつも、早期利下げ期待の後退、長期金利反発が重石となり上値の重い展開。日本では元旦に震災が発生。日銀のマイナス金利解除が遅延するとの見方が台頭。年末まで円高が一転して円安に振れた。
ドル円相場は年末に141円ちょうど近辺で引けたが、年初週末はドル高円安基調が続き、週末には強い雇用統計を受けて146円近くまで上昇した。
日経平均は震災への懸念が上値を抑制した一方円安が下支え。33,300円台で引けた。
年初1日月曜日は内外市場が休場。
2日火曜日は東京市場が引き続き休場。アジア時間のドル円相場は140円80銭で始まり141円60銭台に上昇するとその後も底固く推移。
欧米市場では142円台に乗せ米国市場の引けは142円ちょうど近辺。ユーロ円相場も155円60銭で始まり上昇して156円ちょうど近辺でもみ合い。
欧米市場ではユーロ安ドル高に押され155円ちょうど近辺に下落したが下げもそこまで、引けは155円30銭近辺。ユーロドル相場は1.1040で始まり横ばい上下動。欧米市場では下落し1.0940近辺で引けた。
米国の長期金利は上昇。年末までの低下の反動で10年債は3.954%へ、2年債は4.324%へ。ドルを支えた。
米国株は年末までの上昇から一転して利益確定売りが優勢。金利上昇に敏感なハイテク株がとくに軟調となった。ナスダックは年末比▲245ドル安の14,165ドル。NYダウは+25ドル高の37,715ドル。
3日水曜日も東京市場は休場。ドル円相場は142円ちょうど近辺で上下横ばいだったが、欧米市場に入ると大きく円安に振れた。
震災の影響で日銀のマイナス金利解除が遅延する、少なくとも1月会合での政策変更はない、との見方が背景。米国では発表された経済指標が予想より強め。
また公表された12月のFOMC議事要旨で早期利下げに慎重な姿勢が示され、見通しには非常に高い不確実性がある、としつつ、高い金利が長期化する可能性、利上げが必要になる可能性にも言及。市場の早期利下げ期待が剥落、米長期金利を支え、ドルを押し上げた。
ドル円相場は米国市場で143円80銭まで上昇し引けは143円20銭。ユーロ円相場は155円30銭で始まり欧州市場にかけて156円20銭へ上昇。その後、ユーロ安ドル高に押されたものの156円80銭まで上昇して引けは40銭。
ユーロドル相場は1.0940で始まり1.0960近辺でもみ合い。米国市場ではドル高に押されて1.09割れに下落し引けは1.0920。
米国株は下落。早期利下げ期待の剥落、年末にかけての上昇ラリーの反動下落が続いた。NYダウは▲284ドル安の37,430ドル。ナスダックは▲173ドル安の14,592ドル。
米長期金利は上昇一服、前日よりやや低下したが底固く推移。10年債は3.9%、2年債は4.33%。
発表されたISM製造業景気指数(12月)は前月46.7から47.4に改善し予想47.2を上回った。ただし景況感の分かれ目である50を14ヵ月連続で下回った。
内訳では雇用指数が45.8から48.1に上昇。新規受注は48.3から47.1へ悪化。価格指数は49.9から45.2に低下。
4日木曜日は東京市場が連休明け。東京証券取引所では大発会。年初から続く米国株とくにハイテク株の調整、さらに震災の影響を警戒し、午前中に急落し年末比で一時▲770円ほどの大幅安となった。
しかしその後は中期的な堅調見通しに支えられ下げ幅を縮め引けは▲175円安の33,288円。
為替市場では引き続き円安基調。ドル円相場は143円20銭で始まり朝方142円80銭台に下落したが、その後は夕刻にかけドル高円安が進み143円80銭台へ。
欧州市場では一時143円20銭に下落したが米国市場にかけて144円20銭へ。さらに強い米国のADP雇用報告を受けて144円80銭まで上昇した。
米国市場引けは144円60銭近辺。ユーロ円相場でも大幅に円安が進んだ。東京市場では156円40銭で始まり夕刻には157円20銭。欧州市場で156円60銭に反落したが米国市場では158円60銭に上昇。引けは158円30銭近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.0920~30で推移し欧州市場では1.0970へ上昇。ただその後はドル高に押されて上値重く引けは1.0950。
発表された米国のADP雇用報告(12月)は前月比+164千人と前月+103千人増から加速し予想+100千人を上回った。週次の失業保険新規申請件数は前週218千件から202千件に減少。総じて雇用の底固さが示された。
米10年債利回りは一時4%に乗せるなど上昇基調で引けは3.998%。2年債は4.385%。米国株はまちまち。早期利下げ期待の後退、長期金利の反発を嫌気してハイテク関連の上値が重かった。NYダウは前日比+10ドル高の37,440ドル。ナスダックは▲81ドル安の14,510ドル。
5日金曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに小幅反発。円安ドル高が支え。一時前日比+270円高。ただ雇用統計前に手控え姿勢が強く、利益確定売りに上げ幅を縮めた。引けは+89円高の33,377円。
ドル円相場は144円60銭で始まり70銭~90銭で推移。東証引け後には145円40銭近くまで上昇。欧州市場では144円90銭~145円40銭で上下し雇用統計前は145円10銭近辺。
米国市場では米経済指標の強弱で乱高下。注目の雇用統計は予想より強め。これを受けて146円ちょうど近辺まで急騰した。ただすぐに145円ちょうど~20銭近辺に反落。
続くISM非製造業景気指数が予想より悪く、逆に143円80銭近辺まで急落した。その後は144円80銭近辺まで反発して引けは144円60銭。
ユーロドル相場は1.0950で始まり夕刻まで緩やかに下落して1.09ちょうど近辺。その後、雇用統計にはさほどドル高に振れず。ISM指数に反応して1.10ちょうど近辺までユーロ高ドル安に振れた。ただ引けにかけてはドルが持ち直し1.0940で取引を終えた、
ユーロ円相場は内外市場を通じて方向感なく上下動。東京市場では158円30銭で始まり欧州市場にかけて158円台半ばを中心に上下。雇用統計で159円ちょうど近辺に急騰したがその後158円ちょうど近辺に反落。引けは158円20銭。
米国の雇用統計(12月)は非農業部門雇用者数前月比が+216千人と前月+173千人(+199千人から下方修正)から増加。失業率は3.7%から3.8%へ小幅上昇予想に対し3.7%で変わらず。平均時給上昇率(前年同月比)は前月+4.0%から+4.1%に小幅加速した。
ISM非製造業景気指数(12月)は景況感指数が前月52.7から50.6へ予想以上に悪化。雇用指数は50.7から43.3へ大きく低下。新規受注は55.5から52.8へ悪化。価格指数は58.3から57.4へ低下した。総じて弱い数字。
米10年債利回りは雇用統計を受けて4.10%へ上昇したがISM指数を受けて3.96%に低下、引けは持ち直し4.05%。2年債は4.393%に上昇。
米国株はソフトランディング期待が支えも早期利下げ期待が後退し上値を抑制された。NYダウは前日比+25ドル高の37,466ドル、ナスダックは+13ドル高の14,524ドル。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
今週は物価指標に注目。さらにインフレ沈静化が進んでいることが示されると予想されている。木曜日には週次の失業保険申請件数が発表され雇用の底固さを示すか。
木曜日 消費者物価指数(12月、前年同月比、予想+3.2%、前月+3.1%、コア指数、同、予想+3.8%、前月+4.0%)
金曜日 生産者物価指数(同、予想+1.3%、前月+0.9%、コア指数、同、予想+1.9%、前月+2.0%)
2.欧州の経済指標
このところの欧州の経済指標は、景気悪化懸念に反してやや良好な数字も散見される。欧州でも早期利下げ期待が後退するか。
月曜日 ユーロ圏経済信頼感(12月、予想94.2、前月93.8)
小売売上高(11月、前年同月比、予想▲1.5%、前月▲1.2%)
ドイツ製造業新規受注(11月、前年同月比、予想▲3.4%、前月▲7.3%)
火曜日 ドイツ鉱工業生産(11月、前年同月比、予想▲4.0%、前月▲3.5%)
3.日本の経済指標
震災によりマイナス金利解除が遅延するとの見方が強まるなか、肝心の物価動向はどうか。
火曜日 都区部消費者物価指数(12月、コア指数、前年同月比、予想+2.1%、前月+2.3%)
金曜日 国際収支(11月)
円を巡る需給はどうか。経常収支は前月2兆5,800億円の黒字からやや黒字が減少し2兆3,850億円の予想。
貿易収支は前月▲4,700億円の赤字から▲5,300億円にやや拡大する予想。ほか旅行収支はインバウンドの堅調で黒字拡大基調が示されるか。
◆今週のMRA's Eye
過剰な早期利下げ期待の修正局面
年末までの米長期金利低下が年初に一転し長期金利は上昇に転じた。市場では3月にも利下げ開始との見方が強まっていたが、やや後ろ倒しに修正されている。
市場の早期利下げ期待に火をつけたのが12月のFOMC。メンバーの政策金利予測が9月時点から0.50%下方修正されたこと、パウエル議長が利下げ実施時期について議論したと述べたこと、が直接的な要因だ。
しかしその後、当局者からは利下げ検討は時期尚早との発言が相次いだ。そして先週公表された12月FOMCの議事要旨ではメンバーが早期利下げに慎重な姿勢を示していたことが明らかに。
高い金利が長期化する可能性が指摘され、さらには追加利上げの可能性も排除されていなかった。これにより市場の早期利下げ期待が大きく揺らぎ、長期金利の反発、揺り戻しが生じている。
FRBの次の一手が利上げではなく利下げであるのはほぼ確実だろう。
インフレ率は着実に低下しており、さらなる引き締めの必要性がなくなってきたことは明らかだ。問題は、現在の政策金利が景気を悪化させすぎないか、に移っている。
巡航速度の経済成長に対して適切な政策金利水準はどのレベルなのか。景気に影響を与えるのは実質金利。インフレ率の急騰に遅れ急激に利上げが実施された。
その後インフレ率が急低下するなか利上げは昨年7月を最後に打ち止めとなった。利上げ打ち止めでもインフレ率が急速に低下したことから実質金利はなお急激に上昇。引き締め効果が強まっている。
インフレ率低下に逆行してさらに追加利上げを実施、実質金利をさらに引き上げれば景気下押し圧力が強まる。
利下げ時期を左右するのは、もはやインフレ動向ではなく景気動向、雇用情勢だろう。適切な金利水準が何%か、短期的にも長期的にも、FRBは手探りのようだ。景気悪化度合いを逐一チェックしながら慎重に引き締め解除を実施していくことになる。
景気悪化がどの程度なのか。景気後退に陥らずソフトランディングで済むのか。雇用情勢は鍵を握るが雇用は景気の遅行指標のため、金融政策の修正を雇用情勢が明らかに悪化するまで待てば後手に回る可能性がある。
したがってわずかな悪化の兆し、悪化のペースが速まる気配がみえれば、躊躇なく調整利下げが実施される可能性が高い。
景気浮揚のための積極的な金融政策転換・金融緩和ではなく、実質金利の上昇が続いて引き締め過ぎとなっていることの解消・調整利下げだ。FRBのスタンスから3月利下げは織り込み過ぎだが、一方、全く非現実的な予測でもない。
雇用統計では失業率はなお大きく上昇していない。
非農業部門雇用者数の増加ペースも巡航速度で200千人程度が維持されている。なお悪い数字ではない。一方、雇用の背景にはるのは企業の景況感や雇用スタンスだ。
ISM景気指数でみれば、製造業は低迷が続いている。これまで堅調とされてきた非製造業でも景気指数が50.6と景況感の分かれ目である50割れ目前まで悪化した。
さらに雇用指数は43.3と大きく悪化。雇用堅調の鍵はサービス業の堅調、サービス業における雇用の底固さだった。雇用統計ではまだ顕在化していないものの、ISM非製造業景気指数の弱さは先行指標として気に留める必要がある。
ドル金利の大きな流れは低下方向だろう。ただ利下げを早々織り込んで低下した長期金利には確かに足元でさらに低下する余地が少ない。
FF金利と10年債利回りの逆転幅は1.6%に達して80年代以降で最大。となれば、実際にFF金利が低下しなければ、さらに10年債利回りが大きく低下するのは難しそうだ。
ドル円相場の上値は次第に重くなるとしても、1-3月期はなお140円~145円で推移。140円割れは4月以降となりそうだ。
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