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米景気減速・インフレ上昇懸念で下落
  • MRA商品市場レポート

2023年5月15日 第2455号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米景気減速・インフレ上昇懸念で下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は、ほとんどの商品が下落した。米ミシガン大学消費者マインド指数での期待インフレ率が、12年振りの高い水準になったことで、米金融引締めが再びあるかもしれない、との見方が強まり株安・金利高・ドル高となったことが影響した。

上昇した商品は、これまで短期的に売られすぎていた非鉄金属の一角や、自国通貨安となったことで自国通貨建て商品に限られた。

米金融引締めは終了、これから年末に向けて3回ほど利下げがあると市場は織り込んでいたが、やはり粘着質なインフレの払拭は容易ではないことが確認された。ただ、今回の統計で気になるのが、景況感が悪化しているがインフレ懸念は高まっている点(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)。

また、インフレの抑制のみならず、G7参加を人質として米共和党がバイデン政権・民主党に対して債務上限問題の駆け引きを行っている点。

常識的に考えて、債務上限問題はギリギリ妥結すると考えられるものの、「政府機関のどこか1つぐらい、閉鎖される処まで放置しても大丈夫なのではないか?」という、薄弱な根拠から政治家が楽観している可能性はある。

しかし、共和党の下院議長が共和党内でも基盤が弱く、調整能力に欠けることを考えると政府機関の閉鎖とそれに伴う悪影響が顕在化して初めて「こうなるとは思わなかった」となるリスクはあるのではないか。

【本日の見通し】

週明け月曜日は、米金融引締めへの懸念、一向に進捗の気配が見えない債務上限問題を受けたリスク回避から、軟調な推移になる商品が目立つと考えられる。

ただ、短期的には売られすぎのものも多く、いったん買い戻しが入る商品も多いと考えられるが、上昇余地は限定されるだろう。

予定されている統計で注目は以下の通り。

・4月ニューヨーク連銀製造業景況感指数 市場予想 ▲4.0(前月 10.8)

【昨日のトピックス】

昨日発表されたミシガン大学消費者マインド指数は、総合指数が57.7(市場予想 63.0、前月 63.5)と大幅に減速した。

現況指数は64.5(67.5、68.2)と想定的に小幅な低下に止まったものの、先行指数が53.4(60.8、60.5)と大幅に減速したことが影響している。

注目すべきは、市場は「足下の景況感は減速も、先行きは改善」を期待していたがそれとは裏腹に、アンケート調査の結果は米個人が先行きの景気に悲観的になっていることを示唆している。

米国の消費者信頼感指数の代表は、ミシガン大学消費者マインド指数と、コンファレンスボード消費者信頼感指数の2つだが、コンファレンスボード消費者信頼感の方が「雇用環境」の指標の傾向が強い一方、ミシガン大学消費者マインド指数は消費の指標である。

足下、インフレの沈静化期待は高まっているものの、先日発表されたCPIは引き続き住宅が前年比+8.1%(前月+8.2%)と高止まり、自動車は▲0.3%(▲1.8%)とマイナス幅を縮小し始めている。

ISM製造業指数が底入れし、米国が想定よりも早い循環的な回復局面入りした可能性がある中で、まだモノやサービスの価格の上昇は続いていることから、FRBは政策金利の高止まりを維持せざるを得ず、消費環境が悪化する可能性が意識されていると考えられる。

また、注目すべきは5-10年の長期のインフレ期待が3.2%と12年ぶりの水準に達している点。消費者もインフレの沈静化は容易ではないと考え始めたと言える。結果、FRBはしばらくタカ派のスタンスを維持せざるを得ない。

この結果、下期の景気減速局面での下振れリスクがより高まることが懸念される。FOMCメンバーが主張する、「リセッションなきインフレ抑制」は本当に可能か、岐路に立たされているのではないか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続落した。米ミシガン大学消費者マインド指数が大幅に減速、景況感の悪化懸念が強まる一方で、期待インフレ率が12年振りの高水準となったことで、金融引締め継続が景気をさらに下押しするのでは、との懸念が強まったことが背景。

FRBは政策金利を高値維持するか、追加利上げを実施するかを選択せざるを得なくなっている。利下げはしばらくは封印だろう。そのため、先行きの下落リスクはむしろ高まっている。下期に掛けてノンバンクも含めた金融機関の経営環境の悪化、それに伴う信用収縮の懸念が指摘されている。

景気のソフトランディングに成功すれば供給能力の制限から年後半か来年以降、急速に価格が上昇するシナリオ、金融引締め継続を背景に金融危機・信用収縮が発生してソフトランディングに失敗、価格が急落する、の両方のリスクに晒されている状態。

前者の場合、OPECプラスの減産や非OPECプラス諸国の上流部門投資が不充分であること(脱炭素に加えて、金利高の影響もある)から、2024年の価格上昇は弊社が想定しているよりも大きなものになる可能性はある。

後者の場合、供給能力の制限から思ったほど価格は下落せず、「スタグフレーション」となる可能性は高まっている。

4月の中国の原油輸入は前年比▲1.4%の4,240万7,000トン(前月+22.5%の5,230万8,000トン)と伸びが鈍化した。リオープンを受けて輸入が急増した先月の反動と、実際にリオープン後の最終消費の戻りが緩慢であることが影響したとみられる。

一方、石油製品は輸入が前年比+195.9%の438万トン(前月+110.0%の389万5,000トン)とこちらも大幅に加速、輸出は▲1.8%の375万トン(+33.9%の545万トン)と減速した。

直近のWTI投機筋のポジションは5月9日時点でWTIがロングが前週比+14,418枚、ショートが+12,635枚とネットロングが増加。

Brentは5月9日付けのCOTレポートで、ロングが+1,284枚、ショートは+26,378枚とネットロングが大幅に減少している。

いずれも新規にショートポジションが積み上がっており、利上げ打ち止めや仮にOPECプラス減産があればそのときの買い戻し圧力は大きくなっているといえる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。

現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続 産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 70-95ドル/75-100ドル

2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル

3.2.の状態で産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)
Brent 60-80ドル/70-90ドル

4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的には現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、米大統領選挙を受けた米政府の対応に依拠するためまだなんともいえないところ。

しかし、脱ロシアを継続する一方で、COP27で確認されたように脱炭素も継続、する見通しであるため当面供給面の制限は続き、原油価格は高止まり、ないしは自然エネルギー供給不足発生には高騰する可能性が高い。

Q223~Q423 需要の伸び減速・生産調整(→)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓)
Q124~Q224 需要減速底入れ・供給回復期(↑)Q324以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産)(↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

週明け月曜日は、さすがに割安感からの買い戻しが入ると考えているものの、景気減速とインフレによる引締め継続が示唆されていることから、戻りは弱いと考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は比較的大幅下落となった。価格下落によって石炭よりも価格が割安になっているものの、洋上LNG在庫(輸送中)の水準上昇や、景気の減速、気象状況の安定が価格を下押しした。

冬場に向けた在庫積増しが始まっているが、弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、過去5年平均比で需要を削減せず、過去5年の最高水準のガス消費量になったとしても、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は足りるとの結果になった。

逆に、過去5年平均よりも+5%程度需要が増加すれば、今年の冬も足りないことになる。

また、ロシアからの供給が停止した場合、需要を過去5年平均の水準から▲20%以上削減することが必要となる。

ただし昨年に比べれば景気が減速する可能性が高く、LNGのフローも確立されていること、ロシアも原油価格・ガス価格下落による財政状況の悪化が懸念されるため更なるガス供給の削減は常識的に考えて難しいことから、気温の低下(ないしは夏場のアジアの猛暑)がなければ、調達は昨年の冬に比べれば厳しくはないと予想される。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)

弊社のシミュレーションでは「欧州が完全に」ロシア産ガスを排除できるのは2027年頃。ロシアのLNGが第三国経由で欧州に流入することを想定した場合は2025年頃に脱ロシアが完了する。実際はこの中間で2026年頃に脱ロシア完了となるのではないか。

このことは、2026年以降のガス価格は(脱炭素によるガス田投資動向にもよるが)水準を切下げる可能性が高いことを示唆している。

3.4.は顕在化している。

5.は「凪」のシーズン。恐らく今年はエルニーニョ現象が発生するため夏は冷夏となる見通し。ただしエルニーニョ現象発生後はラニーニャ現象が発生することも多く、冬場のリスクは小さくはない。

米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも低下している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス価格は期近が上昇した。ベイカーヒューズリグ稼働数で、ガスリグの稼働数が大幅に減少したことで、供給への懸念が強まったことから割安感を背景に買いが入った。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物期近は全ゾーンほぼパラレルに低下した。アジアの一大ガス輸入国である中国の景気が停滞、国内生産も増加して輸入需要が抑制される中、欧州ガス価格が下落したことが材料となった。

4月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+11.0%の898万トン(+11.2%の887万トン)と先月とほぼ同じ前年比水準を維持したが、それでも過去5年の最高水準は下回っている。

まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産が増加しリオープンの動きが緩慢であるため、輸入が手控えられたと考えられる。また、石炭輸入が高水準なこともガス輸入の減少に影響した可能性も否定できない。

3月のLNG輸入は前年比+15.9%の536万3,000トン(前月+7.1%の652万トン)と高い水準を維持した。

3月のパイプラインベースの輸入は前年比+4.6%の351万トン(▲7.1%の345万トン)とこちらも輸入は増加した。

中国国内の天然ガス生産は3月は±0.0%の1,448万5,000トン(1-2月累計+7.0%の2,926万5,000トン)と過去5年の最高水準となった。

3月の中国の電力消費量は前年比+6.1%の7,369億kwh(前月+11.5%の6,950億kwh)と伸びが減速した。回復はしているもののそのペースは緩慢と見られる。

天然ガス輸入量は、国内生産が増加しているものの増加しており、同国の経済活動が徐々に再開していることを示唆するもの。ただしペントアップ需要がどの程度継続するかは、現時点ではまだ不透明である。

中国国内の渇水による水力発電の停滞観測から、ガスや石炭などの代替燃料の需要は今後も旺盛とみられ、景気減速下でも需要は底堅いと予想される。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦。

サハリン2は、欧米の圧力による輸入禁止よりも、欧米企業がメンテナンスから撤退していることによる中長期的な供給途絶のリスクの方が大きいだろう。

5月7日時点の日本の発電用LNG在庫は225万トン(前年同月末211万トン、2018~2022年平均249万6,500トン)と過去5年平均を下回り、5月の最低水準である223万1,100トンに近接しており、在庫は急速に減少している。

ロシア問題が継続する以上、今年の夏以降の調達懸念が払拭されている訳ではなく、先物の期先の価格は高値を維持すると予想される。

また、今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

週明け月曜日は、欧州・アジアのガス価格は週末の下げが大きかったことから、割安感からの買いが入ると予想する。ただ、基本は現状の水準が大きく変化するような材料がないため、小動きとなろう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル=46MMBtu 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物はほぼ全ゾーンパラレルに上昇した。この数日の下落が大きかったことで、割安感からの買い戻しが入ったとみられる。API2石炭はTTF価格の下落もあって水準を切下げた。

現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は130ドル、±1標準偏差で60~200ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。

しかし、期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度であることを考えると、実際は150~200ドルが説明可能なレンジか。

2023年~2024年は例年と同じ気象見通し(ということは昨冬が暖冬だったため、今冬は昨冬よりも寒い)であることを考えると、年後半に向けて価格上昇リスクは小さくないとみる。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

そろそろ夏場を意識した調達が本格化する。そして今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏にある可能性があり、南アジアでは既に記録的な熱波が観測されている地域も多い。そのため、北半球の夏場に向けた日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。

4月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+72.7%の4,067万6,000トン(前月+150.7%の4,116万5,000トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準となった。

昨年のロシアの軍事侵攻による物流の停滞から輸入は減少していたため発射台が低かったこともあるが、中国のリオープンと豪州に対する制裁解除、中国南部の渇水の影響で高水準の輸入が続いている。やはり、この国の発電燃料は石炭なのだ。

国別の輸入内訳がまだ公表されていないため詳細が不明だが、豪州に対する制裁を解除しており、今後も輸入は増加が予想される。

3月の中国の石炭生産は、前年比+5.4%の4億1,900万トン、1,351万トン/日(1-2月+6.9%の7億3,400万トン、1,245万トン/日)と伸びが減速している。

海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)を下回っているが、豪州炭の輸入再開の影響でその必要性が低下したこと、発電需要の伸び鈍化が影響したと考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

週明け月曜日は、ガスにも割安感からの買いが入ると予想されることから、堅調な推移を予想。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場はまちまち。ここ数日の下落が大きかった事から投機の対象となりやすい銅やアルミは上昇、流動性が低いニッケルは大幅な上昇となった。

基本、最大消費国である中国の経済活動の戻りが鈍い中、米金融引締め状態が継続される見通しであることが、非鉄金属価格を押し下げている。現物の需給だけで非鉄金属市場動向は語ることができないため、市場のセンチメントを織り込むことが見通しを考える上では重要な局面になっている。

COTレポート(+CFTCのCME銅売買動向)による、ファンド筋の売買動向は、数量に換算したベースで2020年6月19日以来、初めてネット売り越しに転じた。

2020年6月はまさにコロナ危機時だったが、このときは大幅な財政出動や金融緩和が行われ、物流の停滞やコロナの影響による鉱山生産減少が意識され始めたタイミングであり、この後、ネット買越しは増加して価格は上昇している。

しかし今回は、金融引締め継続、財政も削減、物流停滞は解消し、鉱山生産も回復していることから、2020年とは逆の動きになる可能性は低くない。やはり構造的な脱炭素向けの需要増加が期待され、景気が底入れするとみられる2024年以降までは上値は重いのではないか。

年初に期待されていたような中国の需要の大幅な回復が価格を支える、というよりは減速が見込まれていた米国の景気が、FRBの期待していないタイミングで底入れし、かつ、今月でFOMCでの利上げは終了するとの期待感が、リスク選好の買い戻しを誘いやすい状況ではある。

しかし、最大消費国である中国の景況感は良いとは言えず、4月の中国製造業PMIは49.2(市場予想 51.4、前月 51.9)と市場予想、前月とも下回り、中国のペントアップ需要の顕在化が一巡した可能性があることを示唆する内容となった。

中国製造業PMIは新規受注、生産、雇用、納期(調整項目)、在庫の主要5指標を元に算出されているが、前月からの変化による「寄与度」を見ると、新規受注のマイナス寄与度(▲1.44)が大きく、次いで、生産(▲1.10)、雇用(▲0.18)の寄与度が大きかった。

景気回復局面では新規受注が生産を促し、雇用に繋がるという過程を経ることが多いが今回は明確に新規受注に減速がみられ、今回の回復がペントアップ需要の顕在化による一時的なものである可能性が高まった。

実際、輸出向け新規受注の減少が▲2.8に止まる一方、新規受注全体では▲4.8となっており、輸入も48.9(前月50.9)と▲2.0の低下となっており「国内の新規受注が低迷」していることを示唆している。

需給状況の指標である新規受注在庫レシオは完成品が0.988(1.083)、原材料が1.019(1.110)と両方とも低下しているが、完成品は閾値の1を下回っている。生産が減少しているにもかかわらず完成品在庫の水準は49.4(49.5)と小幅にしか調整していない。いわゆる「意図せざる在庫積増し局面」にあるとみられる。規模別の製造業PMIも全ての規模で閾値の50を下回っており、やはり世界景気の減速を受けて景況感は減速する可能性が高いと見るべきだろう。

4月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲12.5%の40万7,293トン(前月▲19.0%の40万8,174トン)と過去5年の最低水準を下回った。

一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+11.8%の210万2,572トン(▲7.5%の202万1,293トン)と過去5年の最高水準で推移している。

3月の中国の精錬銅生産は+10.8%の104万5,000トン(1-2月+14.3%の194万5,000トン)と過去5年の最高水準を上回っている。

精錬品の輸入減少や銅精鉱の輸入減少は調達面の問題(在庫の低さ)を背景とするものである可能性が高く、製品生産が増加していることから、ペントアップ需要の顕在化が起きているものと見られる。

3月の銅スクラップの輸入は前年比+18.4%の17万7,571トン(前月+58.3%の17万3,825トン)と過去5年平均を上回っている。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

早ければ2023年後半から、こうした構造的な需要増加が顕在化する可能性があると見ている。

価格上昇にキャップがかかるとすれば、「脱炭素向け需要の過熱で価格が高騰し、脱炭素シフトが経済的な不利益をもたらす場合」「資源が足りなくなる場合」が逆説的だが有り得るシナリオ。

週明け月曜日は、やはり割安感からの買い戻しが優勢になると考えるが、「米景気減速、でも金利は高止まり」観測からファイナンシャルな面で上値は抑えられると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は小幅に下落宇、上海鉄筋先物は下落した。

中国の経済統計に弱いものが目立つ中、鉄鋼製品価格には下押し圧力が掛ったが、同時に鉄鋼原料在庫の水準も低いことから一定の在庫積増し需要が認められ、まだ高い水準を維持している。

疑似鉄鋼原料価格を元に鉄鋼製品との回帰を行うと、この数年の原料炭取得の困難さから有意な相関関係は喪失しているが、直近1年のデータを元にすると、概ね現在の鉄鋼原料価格と鉄鋼製品の価格はこの回帰直線上に位置する。

恐らく、鉄鋼原料の供給問題はそれほど意識されていないため、鉄鋼製品価格が鉄鋼原料価格変動のカギを握るが、少なくとも鉄鋼製品の最終需要は強くないため総じて下押し圧力が掛りやすいと考えている。

週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲45万9,000トンの1,411万4,000トン(過去5年平均 1,553万4,000トン)と減少、徐々に過去5年平均に水準は近づいている。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲90万トンの1億2,830万トン(過去5年平均 1億3,654万6,000トン)、在庫日数は24.7日(▲0.2日、過去5年平均29.3日)。在庫は日数ベースでも、数量ベースでも鉄鉱石在庫の水準は低い。

主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+12万トンの145万トン(163万2,000トン)、在庫日数は+0.4日の5.2日(過去5年平均 6.6日)とこちらも、日数ベースでも、数量ベースでもタイトな状態だが、徐々に緩和してきている。

4月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が45.0(前月48.4)と減速した。新規受注の落ち込みが特に顕著(50.2→39.9)だが、輸出新規受注は55.5(42.1)と増加していることを勘案すると、国内需要が急速に減少している可能性があることを示唆。

実際、中国の棒鋼先物価格は4月末時点で前年比▲29.4%(前月末▲19.1%)と低下しており、前月比ベースでも下落している。各調査レポートでも指摘されているように、「価格を下げないと売れない」状況にあると考えられる。

鉄鋼製品の需給の指標となる新規受注完成品レシオは0.87(1.13))と大幅に低下、原材料レシオも1.02(1.31)と急低下しており、鉄鋼原料・製品需給とも急速に緩和。

これまでの需要は政府のテコ入れによるものと考えられるが、それが剥落している状況。やはり更なる不動産バブルの発生は容認できないという視点では、これまでの需要回復は持続可能ではないといえる。

とはいえ、中国の建設業PMIは63.9(65.6)と減速してはいるものの、非常に高水準を維持しており、恐らく不動産在庫の削減は進むと期待されるため当面、回復感は持続すると考えられる。

4月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲39.1%の58万4,930トン(前月▲32.6%の68万1,840トン(前月▲33.7%の63万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

4月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+59.3%の793万2,430トン(前月+59.7%の789万トン)と過去5年レンジを上回る高い水準を維持している。

3月の中国粗鋼生産は前年比+8.4%の9,573万トン(前月+6.8%の8,437万8,000トン)と回復し、過去5年レンジを上回った。

国内の粗鋼生産を増加させ、輸入を減らし輸出に回していることが窺える。銅などは国内の需要がペントアップ需要の顕在化で増加していると考えられるものの、鉄鋼製品に関してはこの数字の上ではむしろ輸出増加で国内需要、不動産セクターの回復が遅れていることを示唆している。

中期的にも世界的な景気減速局面入りを背景に、下落に転じるとの見方は、現時点で変更の必要はないだろう。

週明け月曜日は、中国の経済活動の戻りが鈍いことに変わりはなく、米国の景気失速への懸念から鉄鋼製品先物も低調であり、水準を切下げる展開を予想。

◆貴金属

昨日の金価格は実質金利が上昇して基準価格が低下したが、政策金利高止まり観測を背景にリスク・プレミアムが再び上昇したことで下げ幅を削った。銀は金価格の下落に連れた。PGMは金高・株安で下落。

現在、期間1年の米国債CDSは177bpと過去最高水準まで上昇している。今のところ民主党・共和党の間で全く妥協は見られない。

金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが上昇しているが、上昇要因の主なところは、以下の通り。

1.ドル決済停止などの米国の将来的な制裁を反米国・第三国が意識し始めたこと

2.ロシアの戦争長期化を受けて台湾などの軍事侵攻への懸念が強まったこと

3.米金融引締め継続による企業破綻・新興国破綻懸念

4.米国の債務上限問題を受けた格下げないしはデフォルト懸念

4.に関しては6月15日の米連邦税収が無事終了するまでは、債務上限問題や米国債の格下げ懸念がつきまとう。現在の金価格はこのリスクを織り込んでいると考えられ、6月15日のXデーを無事乗り切ることができれば、このプレミアムが剥落して水準を切下げるのではないか。

ただし、目先は6月1日が資金枯渇日とされており、そこまでに合意する必要が出てきた。

各国政府・中央銀行の金準備の積み上げがどの程度金価格を押し上げるかは、データの即時性がないため分析が難しいが、仮にETFと同じインパクトがあると仮定すれば、100トンの積み上げで40ドル程度の価格上昇要因となる。

ちなみに、2021年末から今年1月までの各国の金準備の増加は、IMFデータを元にすれば先進国が45トン、新興国が337トンであり政府・中央銀行の金準備積増しは382トンとなる。これだけで156ドル程度の価格押し上げ要因。

なお、WGCは2022年の政府・中央銀行の金購入が1,136トンだったとしている。これを基準にすれば454ドルの価格上昇要因となる。

基準価格をざっくり1,000ドルとし、各国当局の金準備積み上げは「原則売却されない」と仮定すると、金価格の「発射台」はIMFベースであれば1,156ドル、WGCベースでは1,454ドルとなる。

簡単な要素分析で現在の信用リスクが550ドル程度であるため、IMFベースであれば1,706ドル、WGCベースでは2,004ドル程度となる。現在の価格水準は主ねこのIMFベースの価格となっている。

恐らく信用リスク分は上述のXデーを過ぎれば剥落するため、過去5年平均程度である330ドル程度までの下落があるとすれば、▲220ドル程度の下落要因となる。年後半の金価格の目線は1,785ドル程度、ということになろうか。

なお、実質金利が上昇する中で、金価格には下押し圧力が掛かりやすいため、年末に向けて水準を切下げるという見通しは維持の方針。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの下限まで低下していたが、再び上限を目指す動きとなっている。景気の先行きへの懸念が強まっていることが背景。

仮にボリンジャーバンドの上限に達するならば、21ドル程度までの下落余地があることになるが、現在は50日移動平均線でサポートされており、仮に金価格の調整があれば比較的大きな下落となる可能性が出てきた。

実際、銀のチャートはダブルトップを形成していたため、テクニカルには売りが入りやすい地合。

週明け月曜日は、米景気減速も政策金利は高止まりするとみられる中で、実質金利は上昇するが、リスク・プレミアムの上昇が下落を抑制、高止まりするとみる。

ただし銀はテクニカルに売られやすい状況にあり、50日移動平均線を維持できなければ大幅な下落となる可能性。PGMは株安で軟調だろう。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。米需給報告で小麦の在庫見通しが大幅に下方修正されたことで小麦が上昇、トウモロコシは連れ高。大豆は在庫増加を受けて水準を切下げた。

・5月米単収見通し 実績(市場予想、前月)トウモロコシ 181.5Bu/エーカー(180.81Bu/エーカー、173.3Bu/エーカー)大豆 52.0Bu/エーカー(51.9Bu/エーカー、49.5Bu/エーカー)小麦 44.74Bu/エーカー(NA、46.5Bu/エーカー)

・5月米生産見通し 実績(市場予想、前月)トウモロコシ 152億6,500万Bu(151億3,996万Bu、137億3,000万Bu)大豆 45億1,000万Bu(44億9,630万Bu、42億7,600万Bu)小麦 16億5,900万Bu(18億1,152万Bu、16億5,000万Bu)

・5月米輸出見通し 実績(市場予想、前月)トウモロコシ 21億Bu(NA、18億5,000万Bu)大豆 19億7,500万Bu(NA、20億1,500万Bu)小麦 7億2,500万Bu(NA、7億7,500万Bu)

・5月米在庫見通し 実績(市場予想/前月)トウモロコシ 22億2,200万Bu(21億530万Bu、13億4,200万Bu)大豆 3億3,500万Bu(2億9,244万Bu、2億1,000万Bu)小麦 5億5,600万Bu(6億774万Bu、5億9,800万Bu)

週明け月曜日は、価格に影響が大きい原油価格が、米金融引締め観測で低迷するとみられ、軟調推移を予想。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・債務上限問題を契機とする、米国債のデフォルトないしは格下げリスク(ほとんどの商品価格の下落要因に)。

・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは結局顕在化した)

新興国の破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに。

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

そこに至らないまでも、NATO加盟国に対する攻撃に対して報復の経済制裁、それに対するカウンター報復が発生した場合(景気の下押し要因)。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化を受けたブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

---------------------------------------◆本日のMRA's Eye---------------------------------------

「ロシアの原油・石油・石炭製品輸出はさほど減少せず」

ロシアのウクライナに対する軍事侵攻を受けて、欧米は原油・石油製品を始めとする化石燃料価格に上限を設定する制裁を行った。

欧米諸国のロシアに対する制裁は、恐らくロシアがウクライナから軍を撤退し、かつ、プーチン大統領が二度とウクライナを手に入れようとする野心を捨てない限り、解除される事はないだろう。

しかし、この制裁が行われていてもロシアの原油・石油製品・ガスの輸出はさほど減少していない。

ロシアは開戦以降、原油輸出関連統計の発表を突如取りやめたため、実際にどの程度の原油が生産され、輸出されているかを把握するのは困難である。そのため、輸入国の貿易統計(金額ベース)を元に、輸出量指数(輸入金額を該当月の原油月間平均価格で割ったもの)を算出した。

なお、EU27ヵ国、中国、米国、韓国、日本、インド、英国、トルコ、スイス、ノルウェーのデータを集計すると2019年のロシアの輸出入の76%を占めるため、正確な数字ではないが、原油・石油製品・ガスのフローがどのように変化したかを把握することは可能だ。

これによると、EU27ヵ国向けの輸出は明確に減少しているものの、インドや中国向けの販売増加で輸出数量が維持されている事が分る。つまり、欧米の制裁は余りロシアの輸出数量に大きな影響を与えていない、といえる。

これまで、制裁が続けばロシアが油田や製油所のメンテナンスに必要な部材や技術を欧米から入手できなくなり、原油生産や石油製品生産に支障が出る、との見方が多くの調査会社のほぼコンセンサスとなっていたが、この第三国向けの貿易が成立していることを考えると、完全に抜け穴を塞ぐことは困難であり、生産の急激な減少の可能性は実は低くないのかもしれない。

ただし、引き続き上記の理由で物理的に生産が減少する、というのは比較的蓋然性が高いと考えられるリスクシナリオだ。この場合は原油・石油製品ともに価格は上昇することになろう。

なお、輸出数量は確保できているが、価格の下落もあってロシアの財政状況は極めて厳しい状態が続いている。やはり戦費拡大による再出の増加と、化石燃料価格の下落による歳入の減少は、ボディブローのようにロシアの財政を悪化させている。

今のところロシア国民は我慢しているだろうが、正体不明のドローンがクレムリンを攻撃したり、反政府行動が増加していることを勘案すると場合によるとロシアで政変が起きる可能性はあるだろう。

一方、原油・石油製品輸入の大半をロシアに依存してきた欧州の、石油製品(LPG、ガソリン、ジェット燃料、ガスオイル、ディーゼル、重油)の輸入量の推移を見ると、直近データが2022年末までの物になるが、ロシア開戦前から過去5年の最低水準まで低下していたが、2022年12月にかけて過去5年平均を回復するに至った。

このことは「ロシア以外の地域からの石油製品輸入が増加していること」を示唆している(第三国を通じてロシア産の石油製品が欧州に流入している可能性も)。

輸入の回復とともに欧州のディーゼルやジェット燃料などの中間留分在庫は増加を始めており、クラック・スプレッドも急速に縮小している。

輸入の回復もあるが、インフレが沈静化しておらず、ECBの金融引締めも長期化する見通しであり、景気の減速が継続していることが需要も減じている可能性がある。

以上を勘案すると年後半に掛けて、原油・石油製品の需給が緩和し、価格の下押し圧力が強まると予想される。恐らく価格の上昇は、気温の低下があれば話は別だが、景気が底入れすると期待されるQ124以降になるのではないか。


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