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金融引締め加速観測と原油急落で下落
  • MRA商品市場レポート

2022年8月31日 第2272号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「金融引締め加速観測と原油急落で下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は軒並み下落した。米経済統計が市場予想を上回る好調な内容だったことを受けて米国の金融引締め加速・長期化観測が逆に強まることとなり、株価が調整、ドル高が進行したことが材料となった。

また、イラクの暴動が収束したことで「OPECプラスでの減産以上の突発的な供給途絶」リスクが後退したことで原油価格が下落、期待インフレ率を押し下げたことも広くコモディティ価格の押し下げ要因となった。

ただし、景気の循環的な減速によってリスク資産価格が下落することは健全であり、逆に金融政策の変更期待を材料に景気減速局面下でも価格が上昇していくことは不自然である。

株などのある意味バーチャルなものであればそれもありえるが、商品の場合は供給に制限がなければ価格が下落するのはおかしなことではない。

【本日の見通し】

本日は、米国の金融引締めのパスが変更されて緩和する可能性が低下していることを考えると、多くのリスク資産価格に下押し圧力が掛る展開が予想される。

本日発表予定の統計では、中国のPMIに注目している。製造業PMIは小幅な改善が見込まれているが閾値の50は下回り、サービス業PMIはロックダウンの影響もあって小幅な減速が見込まれている。

8月中国製造業PMI 市場予想 49.2(前月49.0)サービス業PMI 52.3(53.8)

【昨日のトピックス】

昨日発表された米コンファレンスボード消費者信頼感は103.2と、市場予想の98.0、前月の95.3を大きく上回り、米国の消費が堅調であることを裏付ける内容となった。

少し細かく見て見ると、ビジネス環境も改善(16.3→19.3)しており、雇用も増加(15.1→17.4)しており、購買意欲も旺盛で、6ヵ月後の自動車購入は9.6(前月9.5)、住宅購入は5.4(4.5)となっている。

米国の金融引締めの影響はほとんど顕在化した感じがない。

しかし、期待指数と現況指数には大きな差があり、足下、現況指数が非常に高い水準を維持しているが、期待指数は低下しており、両者の差、即ち「今と将来の景況感格差」は悪い方に拡大している。

この格差はコロナショック後の格差とほぼ同じであり、今後、米国経済は厳しい状況に直面することが予想される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。武力衝突の激化懸念があったイラクにおいて、サドル師側が武力行使停止を勧告したため騒乱が鎮静化、OPECプラスの「意図せざる供給減少懸念」が後退したことが下落の切っ掛けとなったが、その後、米国のコンファレンスボード消費者信頼感指数が良好な内容だったため、金融引締め強化観測が台頭、リスク回避の動きが強まったことが材料となった。

現在の「原油価格の実力値」の指標である「BrentとUralの平均値」は90.69ドル(前日比▲5.28ドル)と低下、Brentの実力ベースとの価格乖離は8.6ドル。

ここで注目したいのは、Ural原油の上昇がこの数日顕著である点。価格が上昇するということは誰かがUral原油を購入していることを示唆している。欧州が積極的に購入していないとしても、足下の燃料不足から、第三国経由での購入が容認されつつある可能性を示唆している。

欧州はタイムリーに統計が出てこないが、恐らく中東やインドからの輸入が増加していると予想される。

DOEの見通しを元にすると、在庫水準の正常化が期待できるのが今年の9月~10月、そのタイミングでFRBが75bpの利上げを行うこと、QTも継続することから10月以降に水準を切下げる動きになると予想されるが、まだ明確に景気が減速している訳ではないため、10月頃までは供給不安が価格を押し上げやすい。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は3.の状態にある。しかし、エネルギー不足に喘ぐ欧州がロシア産原油を容認する動きがみられ始めており、4.に移行する可能性が出てきた。

この場合、BrentとUralのスプレッドが縮小することになり、Brent価格の下げ要因となる(逆にUralは上昇)。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこず、非OPECプラスも増産しない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-120ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 85-110ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 80-105ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び減速・供給制限継続・金融引締め継続(↓)  想定よりも早くリセッション入りした場合(↓↓) Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (→)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、追加材料に乏しいが、昨日の下落を受けて実需筋の安値拾いの買い(ヘッジ目的)が予想されるため、小幅に反発すると考える。

ただし、今晩発表予定の米石油統計は、▲1.0MBの原油在庫の減少が予想されているが、API統計では在庫は増加しており、予想外の増加になると見込まれ価格は最終的に下落するとみる。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は大幅に続落。欧州諸国のガス在庫の水準がキャパシティの8割に達しつつある中、ピークシーズン前の在庫の追加積増し需要が後退したことが価格を押し下げた。

在庫を積むスペースがなくなればスポット市場の価格が下落しても不思議はない。

この価格下落で、リスクマネジメントで先物やスワップを活用できる場合は、冬場の価格上昇リスク回避に動きやすくなったといえる(ただしこの場合でも、冬場のロシアと欧州の関係がどのようになるかは分からず、ロシアの供給が何らかの理由で再開して価格が急落するリスクは残存)。

なお、ロシアからの供給制限はこれから始まる予定であり、11月以降の需要期の気温や米国の供給動向も合わせて考えると、高値圏での推移が終了した、と考えるのは早計。

欧州は猛暑、渇水、渇水に伴うエネルギー輸送能力の低下、水力不足による冷却水の不足で原発の稼働が低下していること、風力低下などのエネルギー不足に喘いでおり、ロシアのガス供給停止は欧州域内に、「我々の生活を犠牲にしてまでロシアを制裁する必要はないのではないか」という世論を形成しやすい。

そのため、少なくともウクライナでの戦闘が続き、それに対する制裁が続く以上、ガスを「武器」として使い続ける可能性は極めて高い。

ここまでの報道を見るに、欧州のエネルギー問題が冬本番前に解決する可能性は限りなくゼロに近いように見える。ロシア軍事侵攻に対する制裁やパイプライン停止で、欧州天然ガス価格は345ユーロまで急騰した。

この水準を上抜けするにはさらなるパニックが必要と見られ、当面は345ユーロが上限として意識されることになるだろう。

なお、ロシア安全保障理事会でメドベージェフ副議長(議長はプーチン大統領)が欧州のガス価格が年末までにスポットで5,000ユーロ/1,000立方メートルに達する可能性がある、と発言している。TTFベースに換算すると474ユーロ/Mwh、JKMに換算すると137ドル/MMBtu。

これまで、ロシア政府のエネルギー価格見通しは大きく外れてきたことがないため、現在、タンクが一杯になりつつあって調達圧力が弱まっている(というよりは積み増すスペースがなくなる)ことで下落しているガス価格が、ピークシーズン中に上振れする可能性があることを示している。

さらに懸念すべきは、戦闘状態が長期化した場合、この欧州の発電燃料の恒久的な不足は数年にわたると予想される点だ。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

LNGの輸入は高水準だが、輸入キャパシティ一杯まで輸入が行われている国も多く、仮に本当にロシアのガス供給が停止した場合、ドイツはLNGでの輸入手段を持たないため2ヵ月半で在庫が尽きると予想され、欧州全体でも3ヵ月弱で在庫が枯渇すると見られる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。2.で石炭火力の使用を許可する方向に舵を切っているが、冬場に向けて決断が遅かったといわざるを得ないだろう。

また、域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

BASFは緊急時には原料用のガスを一般消費用に開放する方針も表明している。

こうなると恐らく原発を早期に稼働させる必要が出てくる。原発の稼働が仮に過去5年平均程度まで回復すれば、同国のガス発電のシェアを、机上の計算では半分に減らせることになる。

最早、この選択を排除して脱ロシアを考えることは相当厳しい状況にいるといえるのだが、足下、異常気象に伴う冷却水不足でこの選択も取れる状況ではなくなってきた。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの嫌がらせ(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、脱ロシア完了後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化している。再開予定は11月上旬から中旬。

3.は欧州・日本で顕在化している状況で、4.のリスクも高まっている。

5.に関して欧州で記録的な熱波となっており、さらに厳しい状況に陥っている。さらに、渇水の影響で燃料が種別を問わず運べない、冷却水不足で原発も稼働率を下げざるを得ない、という事態も発生している。

現在、欧州は冷房設備を持たない地域も多く、これによって電力消費量が大幅に増加するということにはならない(逆に言えば、猛暑で亡くなる方も出てくる可能性がある、ということ)。やはり本番は冬である。

LNGのタンカーレートはスエズ以東が上昇、以西は横這いだった。

欧州は、ロシアの供給が回復しない中、LNGでの調達を急いでいたが、中国の渇水などの影響で極東地区も調達を急ぎ始めたことを示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物は下落。欧州ガス価格が急落したことで、欧州向けカーゴの輸出減速観測が強まったことが背景。

11月からFreeportが再稼働すれば価格の高い欧州向けの輸出が増加し、域内需給をタイト化させる可能性が高い。

なお、米DOEの見通しでは11月頃から原油の増産が始まるため、随伴ガスの増産も期待できるが、そもそも在庫水準の低さもあって影響は限定されよう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は大幅に下落。欧州のタンクが一杯になりつつある中、スポット調達の需要が一時的に減少したことが背景。

しかし、欧州で需要期が始まれば在庫は減少を始めるため、再びスポット調達を増やさなければならなくなる。ロシアの供給状況次第であるが、ロシアからの供給が制限された状態が続けば高値を維持すると予想され、再開されれば水準を大きく切下げる展開が予想される。

また、信頼できる供給者である豪州が、域内供給を優先するため冬場の供給が制限される可能性が出てきた。この場合。冬場に向けた日本の調達をそろそろ始めなければならず、需要期の価格には上昇圧力が掛かりやすい。

ただし、現在の価格水準では電力会社も上限価格に達するところが多く、販売電力価格の水準やフォーミュラを見直ししない限り、持続可能な価格とはいえない。現在、この上限価格は見直される流れとなり、これによって逆ざや発生による電量供給制限途絶のリスクは低下した

ただし、原燃料価格の上昇が転嫁された場合、企業業績の悪化、個人の場合は個人消費に影響を及ぼすことになろう。

構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクはこの状況においても上向きとなる。

中国の7月の天然ガス輸入は前年比▲6.9%の870万トン(前月▲14.6%の872万トン)と前年比での減少幅は縮小したが、過去5年平均を上回る水準を維持した。

中国の天然ガス生産は6月時点で+0.5%の173億立方メートル(前月+4.9%の177億立方メートル)と、伸びが鈍化している。今後、中国経済が経済対策の効果で回復する中では、JKM価格の上昇要因となり得る。

サハリン2はロシアの新会社と、これまでと同じ条件で契約を継続する方針と報じられている。これにより当面は調達への懸念が後退するが、時間稼ぎの策ともいえなくもない。

懸念としては、1.契約が不可能になった場合はスポット市場で調達せざるを得ず、その場合は調達コストが3倍~4倍に上昇し、コスト増加は1兆円/年を超えることになること、2.仮に契約が継続したとしても欧米からのメンテナンスのための部品がなければ、LNGプラントの稼働が困難になり、生産量が自然に減少してしまうこと、だろう。

8月21日時点の日本の発電用LNG在庫は246万トン(前年同月末243万トン、2017~2021年平均185万トン)と弊社の集計でも過去5年平均を上回り「足下の」在庫水準は潤沢になった。

しかしこれも欧州と同様で、冬場のフローの確保が重要になる。日本の場合長期契約の比率が高いため問題ないと考えるが、欧州・ロシア情勢次第でロシアが嫌がらせをしてくる可能性は排除できない。

8月15日-21日のLNGトレードは677万トンと、先週の701万トンから大幅に減少した。スポット取引のシェアは28%(前週22%)と上昇している。

スポット需要の減少は、日中台韓・南アジアの輸入が+40万トンの増加となったことが、欧州の減少(主にスペイン)▲20万トンを相殺した。

ターム契約は▲60万トンの減少。南アジアの輸入が▲40万トン、日中台韓の輸入が▲30万トン減少したことが影響した。

本日は、欧州の在庫積増しの進捗で足下の調達圧力が弱まっていることから、TTF・JKMとも下押し圧力が強まる展開を予想。

ただし、根本的な「フローの供給制限」状態に変わりはないため、高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の数値を使用している。 1トン=1,360立方メートル 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップは小幅に下落した。欧州のガス調達圧力が在庫の積み上がりで「目先」緩和したことが材料となった。

ガスほどEUの石炭火力の比率は高くないため、影響がまだ限定されいている状況。IEAの推計では、2020年時点で発電に占めるEUのガス火力の比率が21.9%であるのに対して、石炭火力の比率は12.7%である。

現在、石炭市場で弊社が気にしているのは天然ガスと同様、「期先の価格上昇を市場が容認し始める」場合である。この場合現在300ドル程度の2023年~2024年ゾーンが100ドル程度上昇することにある。

ただ、上述の通り欧州にとって石炭はガスほど規模が大きくないため、このシナリオはリスク要因、と整理するべきものだろう。

石炭火力の比率が上昇しているエネルギー最大消費国のドイツだが、自国の石炭を増産する意思は今のところなく、輸入に頼る可能性は高い。

ただし日中台韓印欧の石炭輸入は増加していない。これは需要が低迷しているというよりも、供給面の問題と考えられる。

7月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比▲22.1%の2,352万3,000トン(前月▲33.1%の1,898万2,000トン)と急回復した。

7月の中国の石炭生産は、前年比+18.6%の3億7,266万トン、1,202万トン/日(前月+17.4%の3億7,931万トン・1,264万トン/日)と、生産は前年比では高い水準を維持したが、海外からの輸入がほぼ不用になる政府目標(1,260万トン/日)は下回った。

中国の国内生産増加で輸入需要が減少していたが、ロックダウン解除や夏の気温上昇を受けて発電向けの需要が増加したためと考えられる。まだ中国の主力熱源は石炭である。

現在は中国国内と海上輸送炭市場は分離しているが、中国が経済対策を実行し、冬場のリスク回避姿勢を強めた場合、海上輸送炭市場に影響を及ぼす可能性は高い。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

現在、ロシア炭を西側諸国が使うことは(建前上)できないため、いわゆるコストカーブの「低価格帯」がごっそり抜け落ちた形となっている。そのため、ロシアを抜いた需給バランスが豪州炭価格を押し上げている状況。

期先の価格をみるに、年初の限界生産コストは125ドル程度だったが、これが250ドル程度まで上昇してしまった。これが解消するには需要の減少か、鉱山生産の増加が必要条件となる。

恐らく景気が減速するなかで石炭需要も減少が見込まれるものの、「脱ロシア」を進める中では高カロリー炭の需要は継続する見込みであり、かつ、欧州は石炭活用に舵を切っていること、欧州がこれまで行ってきた脱石炭への強制的な取組みにより、供給能力は制限されていることから、下がっても250ドル程度が基準となってしまう。

需給ファンダメンタルズの前提条件が変わってしまった、ということだ。

仮にロシアへの制裁が解除されれば、下落時の価格は250ドルではなく、125ドル程度になるが、当面それは見込み難い。

異常気象に伴う事故も多く、少なくとも今年の冬のピークシーズンの間は流動性リスクが高い状態が続きそうだ。

本日も発電燃料の供給制限状況に変わりはないが、ガス在庫積増しの進捗でガス価格が調整しているため、石炭価格も若干調整圧力が強まる展開を予想。

ただし、中国が経済対策強化に乗り出す可能性はあり、その場合、中国が海上輸送炭市場に再参入してくる可能性はあるため冬場のリスクはまだ上向き。

その後は天候状況とロシアとの対立状況によるが、基本は景気減速とラニーニャ現象収束(期待)を受けた需要の減少で下落すると見ているが、現在の供給環境に大きな変化が期待できない中、下落余地も限定されると考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。先週のジャクソン・ホールシンポジウムでのパウエル議長のタカ派発言の後、月曜日がLME休場だったため、この間の下落を受けて水準を切下げた。

米国の金融引締め観測に加え、原油価格の下落による期待インフレ率の低下がいわゆるインフレ・トレードの巻き戻しを誘発したこと、ドル高の進行、中国の洪水が材料となった。

中国四川省の電力停止が解除され、工場稼働の期待が高まったが今度は豪雨で洪水が発生、この降雨は10日間は続くとされており、再び工業活動・生産活動停滞への懸念が強まったことが鉄鋼製品価格を押し下げた。

なお、洪水被害が懸念される四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

この下落でLME銅3ヵ月先渡しは回復していた50日移動平均線を割り込んだ。鉛、アルミ、ニッケル、スズも同様に50日移動平均線を下回っており、テクニカルにこの水準が上値として意識されている状況。

亜鉛は欧州の電力供給不足がボディ・ブローのように効いており、その他の非鉄金属よりも高い水準で推移していたが、こちらも200日移動平均線を割り込んだ。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。

短期的には、米金融引締め長期化観測が強まっていること、中国の電力不足やロックダウン、洪水の影響、中国政府の経済対策期待の綱引きで、現状水準でもみ合うと考えられる。

短期的に非鉄金属価格が上昇するには、

1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)

2.株価が上昇すること

3.期待インフレ率が上昇すること

が必要となるが、現在、1.が洪水の影響長期化で再び黄色信号が点り、2.3.も満たされておらず、価格には下向きの圧力が掛っている状況。

ただし、景気と関係なく実施される公共投資の効果は年内は有効、とみている。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ223~Q323あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わなかった場合(自然体の場合)、景気後退入りはQ323からとなるため、Q323~Q423が景気の底になる可能性も否定しない。

この場合はQ124~Q224に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

2023年は最大消費国である中国で「財政の崖」が発生するリスクがあるため、いずれにしても2023年の価格のリスクは下向きである。

長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドの「W人口ボーナス期」入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

恐らく来年後半から再び長期的な上昇トレンドに入ることになると予想している。

ただしその価格上昇の発射台となる価格が、例えば銅で6,000ドル台になるのか、7,000ドル台になるのかは、今年から来年に掛けての中国の景気減速度合いに依拠するため、まだなんともいえない。

中国製造業PMIの説明力が高かった2010年~2019年までのデータを用いた回帰分析の結果は、現在の銅価格の上限は7,500ドル程度、下限が5,300ドルであることを示唆している。

しかし、現在のような大規模な物流・電力供給不足が発生していなかった時期のデータの分析結果であり、これを考慮すると、9,300ドル、7,000ドルがレンジとなる。

本日は、米国の金融引締めが強まる見通しとなっていること、中国の経済活動が異常気象の影響で停止しているところがあることから、調整売りが続くと予想される。

しかし、中国政府の経済対策効果ヘの期待が価格を支えるため、結局はレンジワークになろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は大幅に下落した。

中国四川省の電力停止が解除され、工場稼働の期待が高まったが今度は豪雨で洪水が発生、この降雨は10日間は続くとされており、再び工業活動・生産活動停滞への懸念が強まったことが鉄鋼製品価格を押し下げた。

なお、洪水被害が懸念される四川省はGDP規模で、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省に次ぐ中国第5番目の省。重慶市は上海市、北京市に次ぐ中国3番目の都市(いずれも2021年実績ベースであり、影響は小さくない。

鉄鋼原料価格は鉄鋼製品価格の下落を受けて調整。鉄鋼製品価格から推定される鉄鉱石価格の推計値は111.5ドル、原料炭は182ドルとなっている。

今後、秋の党大会に向けて中国は政治のシーズンとなる。中国政府による景気刺激策が鉄鋼需要を押し上げ、鉄鉱石価格も押し上げると考えられるが、中国中央政府・地方政府とも、不動産市場の減速によって土地使用権の売却による財源が大幅に減少していることから、対策を実施したとしても余地は限られるだろう。

ただし、中国政府は不動産業を救済するよりは信用不安の拡大にならないよう、金融機関の支援(資本注入)を優先すると考えられ、リーマン・ショックのような信用不安の連鎖的な拡大リスクは大きくない(影響が全くないことはない)。

基本は鉄鋼製品価格で説明可能なブレーク・イーブン価格程度までの下落はあろうが、相場がオーバーシュートすることも多いため、その場合、期先の価格が参考になる。足下、鉄鉱石では80ドル程度、原料炭は230ドル程度となる。

本日は、中国の洪水で重慶市と四川省の経済活動が停滞すると見られており、鉄鋼製品価格、鉄鋼原料価格とも水準を切下げると考える。しかし、中国政府の公共投資への期待が期待需要を支えるため、高い水準を維持。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。原油価格がイラクの暴動終結を材料に下落に転じ、期待インフレ率が低下したことを材料に実質金利が上昇したことが影響した。

銀価格は金価格の下落を受けて連れ安。金以上に下落した。プラチナは銀価格の下落を受けて水準を同様に切下げ、パラジウムは株価の下落もあって最も水準を切下げた。

金の基準価格は前日比▲7ドルの1,150ドル、リスク・プレミアムは▲6ドルの573ドル。

仮に過去5年平均程度への回帰があるとすれば240ドル程度が現在の平均であるため、あと▲340ドル程度の下落余地があることになり、金価格は1,450ドル程度までの下落余地が有ることになる。

クレジットリスクヘの懸念が後退するのは利上げが打ち止めとなる来年4月以降であり、さらに政策金利の高値維持は続くと予想されるため、クレジットリスクが意識され、リスク・プレミアムを高値に維持する可能性も否定できない。

銀価格はバイデン大統領が太陽光パネル計画を発表する前の水準まで低下しており、今後、コロナ前の15~20ドルのレンジに戻る可能性があったが、

1.太陽光パネルの設置は歳入歳出法(インフレ抑制法)成立で今後も増えること(2030年までに9億5,000万枚の太陽光パネル設置)

2.IOTの進捗によって銀の需要は構造的な増加が続くと考えられること

からレンジは18~23ドル程度まで切り上がったと見られる。

とはいえ、金のリスク・プレミアムが剥落し、過去5年平均程度まで収れんすると今から▲340ドル程度の下げ余地があるため、銀価格を▲3.6ドル程度押し下げると考えられる。

この場合、銀の下値は15ドル程度であり、「何かあった場合」の下値は若干切り下がった。

本日もやや軟調ながらも高値維持と考える。本日はダラス連銀、アトランタ連銀総裁の講演が予定されているが恐らくタカ派で間違いがない。

しかし金融引締め(+QT)による金利上昇が、金融引締めによる景気減速と相殺されて結局中立、一方でエネルギー価格は景況感から水準を切下げやすい一方で、OPECプラスの減産が価格を支えていることから、結局現状水準でもみ合いか。

銀・プラチナは金に連れ安、パラジウムは株の調整も見込まれるためやはり下落へ。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。米金融引締め観測やドル高、エネルギー価格の下落を受けたトウモロコシ価格の下落で。

米農務省は2023年の米国産農産品の輸出見通しを発表したが、小麦は増加、トウモロコシ・大豆は横這いが見込まれている。

トウモロコシ 前年比▲0.8%の6,150万トン(2022年6,200万トン)大豆 ▲0.3%の5,860万トン(5,880万トン)小麦 +9.9%の2,230万トン(2,030万トン)

秋~冬にかけてのラニーニャ現象の発生もあり、さらに、夏場~冬場のラニーニャ現象発生はアラビア半島周辺に降雨をもたらし、バッタの大量越冬を可能にするため、2023年にかけて穀物供給リスクが来年まで継続する可能性があること、ロシア・ウクライナの穀物輸出が継続する保証はないことから、中・長期的なリスクは引き続き上向きと考えている。

本日は、エネルギー価格の調整や米金融引締め加速・長期化観測を背景に軟調な推移を予想。ただし中期的には需給面で上昇見通しであり、下げ余地も限定されると考える。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

それに伴う各地での暴動発生。

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオ)。

台湾有事の発生(リスク資産価格の下落要因)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。


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