米CPI高騰とロシア不安で高安まちまち
- MRA商品市場レポート
2022年2月14日 第2133号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「米CPI高騰とロシア不安で高安まちまち」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はまちまちとなった。これまで上昇してきたその他農産品が売られ、非鉄金属が下落、エネルギーの影響が大きく、ロシアの影響を受ける穀物セクターが物色され、安全資産の貴金属が物色された。
昨日は2つの重要なテーマ、インフレとロシア情勢が両方顕在化した。
米CPIはエネルギー価格の前年比上昇が続き、特に重油の価格が上昇している。また、ガス音上昇も続いている。
一方、半導体不足の影響で新車が売れない一方で、中古車・トラックの価格が上昇しており、構造的な消費者物価上昇の構造が解消していない。このため、3月のFOMCはかなりタカ派な内容になることが予想される。これが株価下落・リスク資産売りの要因となる。
その一方で、報道ベースであるが米国がウクライナからの48時間以内の退去を指示、ロシアもウクライナからの退避を指示するなど見かけ上の緊張は極めて高くなっている。この結果、原油やロシア由来の貴金属、農産品などの供給不安を強め、価格を押し上げることになった。
この状況においても戦争はない、というのがメインシナリオであるが、既にプーチン大統領が「GO」サインを出せば即時に攻撃が出来る状況にあることは変わりは無い。この場合、多くの軍事評論家のコメントを引けば恐らくキエフも短時間で陥落することになるだろう。
しかしその後、各地でゲリラ戦が展開されると予想され、ウクライナ情勢はかなり泥沼になると懸念され、周辺諸国に難民もあふれ、欧州経済は大混乱に陥ることになるだろう。
そのコストを本当にプーチンが払うつもりがあるのか、脱炭素で化石燃料を増産をするつもりがない米国がこれに対してどのように対応するのか。極めて政治的な判断が相場を左右する状況になってきた。
【本日の見通し】
週明け月曜日は予定されている統計で重要なものがそれほどなく、ロシアを巡る欧米首脳の発言や、この週末に予定されている米露首脳電話会談の内容によって神経質な推移になると予想される。
ただ、今回のことは短期的にはいくつかの商品で供給不足をもたらすが、それによって経済活動が阻害されること、欧州景気が悪化することが予想されることから戦争は景気にプラスではなく、マイナスに作用する可能性の方が遙かに高いと考えられ、ロシアもその悪影響を免れない。
【昨日のトピックス】
木曜日に発表された中国のファイナンス関連統計は、強弱まちまちな内容だった。
李克強指標にも数えられる人民元建て新規融資は前年比+11.2%の39,800億元(前月▲9.8%の11,318億元)とプラス圏に回復、統計発表以来の最高水準となった。昨年末から始った金融緩和の効果が出始めたためと考えられる。
また、マネーサプライもM2が前年比+9.8%の243兆1,000億元(前月+9.0%の238兆2,900億元)と前月から伸びが加速。中国国内企業全体の債務残高も320兆1,000億元(314兆1,000億元)と増加しており、企業活動が回復していることを確認する内容。
しかし、M1は前年比▲1.9%の61兆3,900億元(+3.5%の64兆7,400億元)と前月から減速している。M1は現金通貨と金融機関が保有する預金通貨(要求払い預金)を足し合わせたものであるが、OECD製造業PMIに6ヵ月先行する指標として注目されているもので、M2よりも説明力が高い。
このことを考えるとまだ中国国内の企業活動は完全に回復している訳ではなく、規模や業種によってバラツキがある可能性があることを示唆している。
月末発表のPMIの重要性がより高まることになろう。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。
・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
◆昨日のセクター別動向と見通し
---≪エネルギー≫---
【昨日の原油市場と見通し】
原油価格は続伸した。米国がウクライナからの48時間以内の脱出を呼びかけ、ロシアもこれに対して在ウクライナのロシア人に出国を促すなど、北京オリンピック開催期間中の戦闘開始の懸念が強まったことが背景。
ロシア問題は原油市場においては供給途絶問題と同義であり、実際に軍事行動が起きた時に、1.物理的にウクライナ経由のパイプラインが使えない、2.同盟国のベラルーシ経由のパイプラインが使えない、3.ロシアに対して欧米が経済制裁を行い、SWIFTから排除して実質的に決済が出来ない、といった非常に広範にわたる供給面での制約が発生する。
ロシアがウクライナに軍事侵攻すれば、多くの軍事評論家が指摘するように数日でキエフが陥落し、数日で戦闘行為が終るのかもしれない。
しかし、イラク戦争しかり、リビア・シリアの内戦しかり、一旦戦闘状態に陥った国が正常に機能するようになるには1年2年といった単位では不可能である。イランに対する制裁もトランプ政権時代から行われておりまだ解除されていない。
このように、今回の事態が数年単位で国際的な原油・ガスの需給バランスに大きな影響を及ぼすことになる可能性があるため、その場合、原油やガスの価格見通しの前提や脱炭素の実施が本当に可能なのか、といったことも焦点になってくる。
個別の材料としては、この週末にかけてはOPECとIEAが月報を発表している。OPECはほぼ見通しを据え置いたが、IEAは中国の需要上方修正を主因に、大幅にCall on OPECを押し上げている。当然であるが軍事行動リスクは織り込まれていない。
週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しいが、この週末行われる米露首脳電話会談の結果を受けて神経質な推移に。基本、テンションの緩和が見られないためここで売りを入れるのは総じて買越しの投機筋のみであり、その他はショートの買い戻し圧力が先行するため高値維持の公算。
中期的にはOPECプラスの供給能力への懸念、気温低下に伴う季節的な需要増加が続いているため高値を維持すると考える。
足下、原油100ドル超えの可能性が指摘されている。リーマン・ショック前後の100ドル超えの時は、投資銀行が油田や製油所、タンカーの現物に投資銀行が投資を行ない、エネルギー「現物」資産の「ロングポジション」を有している状態だったが、その状態で調査部門は「株価よりも割安だ」「供給が間に合わない」というロジックで100ドル、200ドル、といった予想を発表しており、既視感がある。
このときと市場環境が異なるため同列には議論できないが、足下の需給がタイトであることは事実であり、この数ヵ月で供給が間に合うとは考え難いため、2月~3月は原油価格は弊社が想定している以上に強含むと予想され、仮にウクライナ問題が顕在化すれば100ドル原油も短期的には有り得る話。
ただし、春先にかけては米金融引き締めのペースが加速する可能性が高く、景気の減速と季節要因で価格は調整するというのがメインシナリオ。
期間の長い中期的(来年の春以降)には、ウィズコロナの進捗で行動制限が解除され、輸送燃料需要(特に航空機向けの需要)が回復することからやはり上昇に転じると見ている。
より長期的な観点では、脱炭素が継続するとの前提に立ち、「脱炭素による供給制限と、消費者側の脱炭素の動きは特にエネルギー需要のドライバーである新興国では遅々として進まない可能性が高いこと」を考えると、水準を切り上げていく展開が予想される。
需要の構造はそう簡単には変わらない、ということだ。問題はこの長期にわたる価格上昇を、消費者側が本当に許容できるかどうかだろう。
【見通しの固有リスク】
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、供給が逼迫した場合(価格上昇要因)。また、この制裁や軍事的な対立がエネルギー全体の需給構造の変化をもたらし、西側諸国が恒常的な供給不足に陥る場合(場合によると米国が脱炭素を諦め、化石燃料に傾斜する可能性も)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格下落要因)。
・OPECプラスの増産ペースの遅れないしは上流部門投資不足による供給不足。あるいは上流部門投資をしてこなかった結果、思った増産ができない場合(価格上昇要因)。
価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。
・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合(価格下落要因)。
・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。
1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合
2.中東以外の産油国の生産者の破綻
3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合
4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)
なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。
【石炭市場のまとめと見通し】
豪州石炭スワップ先物価格は上昇し、240ドルを上回った。ロシア・ウクライナの緊張が緩和せず、ガス供給が不充分な中で石炭調達が加速している状況。
欧州排出権価格の上昇を見るに、「石炭+排出権」の取引が加速しているとみられ、欧州の石炭調達意欲が旺盛とみられる。
また、インド・中国の燃料炭在庫は低く、中国6大電力会社の石炭在庫日数も17日と過去5年の最低水準。中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は急騰し、過去5年レンジを上回っている。
週明け月曜日の石炭価格は、ロシア情勢不安を背景としたガス供給不足で石炭調達意欲が旺盛であるとみられることから高値を維持すると予想。もはや欧州は脱炭素、といっている場合ではない。
中期的には、春先に向けて暖房向けの需要が減少して下落した後、再び上昇に転じるとみているが、ラニーニャ現象が夏頃まで継続する見通しの中、豪州が洪水のシーズンに入ることもあって、この下落余地が限定される可能性はある。
さらに、ロシア・ウクライナ情勢が悪化すればガス供給が実質的に困難になるため代替燃料としての石炭ヘの期待が高まることも構造的な価格要因となる。
また、オリンピック・パラリンピックが終了した後、工場向けの需要増加が見込まれる中国勢の買い圧力が強まることも、春先の価格下落余地を限定するリスクがある。
中国政府主導による石炭増産は、冬が本格化するなかで、主要生産地が中国北部であることを考えると思った通りの増産ができるとは考え難い。
しかし、12月の生産は3億8,467万トンと(前月3億7,084万トン)と過去最高水準となった。
その結果、12月の中国の石炭輸入は前年比▲20.8%の3,095万トン(前月+198.1%の3,505万2,000トン)と急速に減速している。
しかし、寒さが厳しくなる1~2月の増産有無、オリンピック・パラリンピックが終了すれば工場の稼働は再開するため、「豪州の洪水シーズン中の、中国の工場稼働再開」は価格上昇リスクを高めるとみている。
【見通しの固有リスク】
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、供給が逼迫した場合(価格上昇要因)。
また、この制裁や軍事的な対立がエネルギー全体の需給構造の変化をもたらし、西側諸国が恒常的な供給不足に陥る場合(場合によると米国が脱炭素を諦め、化石燃料に傾斜する可能性も)。
・今冬はラニーニャ発生が厳冬リスクを高めているが、懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・Nord Stream2の稼働が停止され、天然ガス価格が上昇する場合(上昇要因)。
・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念(価格の上昇要因。これは既に顕在化)。
【天然ガス・LNG市場のまとめと見通し】
欧州天然ガス価格は上昇。ウクライナ情勢が悪化しており、戦闘が起きる可能性が意識されている。
仏独の原発の稼働率は低下しており、引き続き冬場の電力供給状況は不安定。ただ、ロシアからのガス供給が止まったままであれば、稼働率を上昇させることは欧州にとっては重要な選択肢となる。
米国天然ガスは続落。米国の気温見通しが例年を大きく上回る見通しであることが材料。
JKMは小幅に下落。日本政府のガス放出報道などで一旦需給が緩和するとの期待が高まっているため。ただあくまで影響は軽微なものに止まり、欧州のガス供給不安を背景に価格は高いままだろう。
1月16日現在、エネルギー庁の調べでは電力会社のLNG在庫は201万トンとされ、仮に今回3隻程度を融通するとなると在庫の10%程度に該当することになるが、これだけでは供給不足にはならないと見られる。
ただ、恒常的に欧州にガスを融通するならば、逆に日本のスポット調達圧力が恒常的に高まることになるため、厳冬・猛所の現物ショートのリスクは全くないとはいえない。
スエズ東西のフレートも低水準での推移が続いている。つまり、フレートレートのみでは足元の現物需給環境を判断するのが難しい状況。
週明け月曜日は週末の米露首脳会談などの様子にもよるが、恒常的な供給不足を背景に高値維持の公算。
天然ガス価格はロシア情勢に大きな進捗がなく、高値でのもみ合い継続。
中期的にガス価格は、冬場の終了に伴う季節的な需要減少から価格は下落すると考えているが、ウクライナ情勢が緊迫し、実際にロシアからの供給が恒常的に制限されれば水準は切り上がることになる。
また一昨年の猛暑から始まる欧州の天然ガス在庫の減少は危機的な状態にあり、今のままだと今年の夏が普通の夏になったとしても十分なガスが確保できない可能性は高く、2022年~2023年前反のTTFやJKM価格を高止まりさせている。
仮にノルドストリーム2が予定通り夏頃に稼働を始めれば、供給の安定で2023年は危機を脱する、というのが希望的観測も含めたメインシナリオではある。
この状況を打破するためには、恐らく(ドイツ・オーストリアなどを除き)原発をクリーンエネルギーと位置づける国が増加すると考えられる。なお、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年レンジの下限である。
LNGの最大輸入国となった中国だが、12月の中国の天然ガス生産は前年比+2.6%の1,356万2,000トン(前月+5.2%の1,253万トン)と増加、過去5年レンジを上回っているが増加ペースは鈍化した。※1立方メートル0.7067トンとしてトンベースとした数値(JAPEXのHP掲載の数字を参照)。
12月の中国の天然ガス輸入は前年比+3.7%の1,165万トン(前月+16.9%の1,073万トン)と過去5年レンジを上回っているが輸入ペースは鈍化している。
12月の中国のLNG輸入は前年比+0.5%の762万8,875トン(前月+4.4%の690万1,275トン)と過去5年レンジを上回っているが水準は減少している。
中国はパイプライン経由での天然ガスは主にトルクメニスタンから行っているが、「シベリアの力」パイプラインが開通して以降、ロシアからの調達も増加している。
ロシアの中国向け輸出は増加していた。そもそもシベリアの力経由での輸出は2021年で85億立方メートルに増加させる見込みだが、輸出の増加は契約通りとするロシアの主張に沿っている。
12月までの輸出が106億6,400万立方メートルであり(天然ガス1トン=1,415立方メートルとして弊社算出)、この計画を上回ったことになる。
ガス調達は、天然ガス生産→天然ガス輸入→LNG輸入の優先順位と考えられるが、天然ガス生産の増加、ロシアからの輸入増加(シベリアの力2)により、LNGの輸入需要が低下する可能性がある。
しかし、環境面からCoal to Gasを進める可能性が高いため、顕著にスポットLNG需要が減少するというわけではないだろう。
【見通しの固有リスク】
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、供給が逼迫した場合(価格上昇要因)。
また、この制裁や軍事的な対立がエネルギー全体の需給構造の変化をもたらし、西側諸国が恒常的な供給不足に陥る場合(場合によると米国が脱炭素を諦め、化石燃料に傾斜する可能性も)。
・ラニーニャ現象による厳冬の影響が価格上昇をもたらしているが、予想に反して冬場が早く終了したり暖冬になったりする場合(価格下落要因)。
・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。
・Nord Stream2が稼働して欧州のガス需給が緩和した場合(価格下落要因)。
・石炭と同様、「化石燃料であること」を理由に上流部門投資が制限される、あるいは原油生産減少による随伴ガス供給が減少する場合(構造的な価格上昇要因)。
・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念(価格上昇要因)。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
WTIはロングが480,560枚(前週比 ▲7,046枚)ショートが117,177枚(▲1,525枚)ネットロングは363,383枚(▲5,521枚)
Brentはロングが299,624枚(前週比▲3,514枚)ショートが76,727枚(+3,180枚)ネットロングは222,897枚(▲6,694枚)
---≪工業金属≫---
【昨日の非鉄金属市場と見通し】
LME非鉄金属価格は大幅にげらくした。前日の反動ということもあるが、ウクライナ・ロシア情勢不安が高まる中で欧州の景気減速懸念が強まったことや、米CPIが市場予想を上回り金融引き締めバイアスが加速する、との見方が強まったことが要因となった。
というよりは、年初から買いを入れていた投機筋が、「今後の見通しがよく分からない」ことを材料に、一旦利益確定の売りを入れたためと整理するのが適切だろうか。
週明け月曜日も、ロシア情勢不安を背景とするエネルギーや一部の金属供給不安が価格を下支えするが、米国の金融引き締め加速観測を背景に総じて軟調な推移になると考える。
さらに下落があるとするとウクライナ情勢の緩和だが、状況は悪化している。また各国中央銀行が金融引き締めをしすぎてしまい、経済がオーバーキルとなるケースがこれに当たるが、現時点ではリスクシナリオの位置づけ。
足下、欧州の電力供給問題は解消しておらず、各地で発生する悪天候や天災の影響で、多くの鉱物資源の生産・出荷に影響が出ており、かつ、ゼロコロナを標榜し、オリンピック・パラリンピック中の中国は、積極的にロックダウンを行っていることから、再び供給懸念が強まっている。
中国の発電量を見ると、12月は前年比▲0.6%の7,234億kwhと前月の前年比+1.9%の6,540億kwhから減少、一方で電力消費は前年比+26.1%の8,156億kwh(前月+3.9%の6,718kwhh)と伸びは加速しており、発電量を上回っている。
同時同量の原則があるため両者は同じ数値であるべきだが、統計の集計方法によるものと考えられる。
しかし、需給はタイトな状態が続いているといえ、本格的に電力依存の高い精錬品の生産が回復している感じはない。そのため、精錬品の価格は高止まりすると見る。
中期的には、ロシアに対する制裁はリスク要因と整理すると、米国の急速な利上げとそれに追随する新興国の利上げで一旦調整し、その後、経済対策の効果(米国のインフラ投資や、中国の金融緩和など)の影響、脱炭素向けの資源需要の増加で上昇に転じると予想される。
米バイデン政権は8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資を実施の計画で、主に以下の分野に資金が配分される。
道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドル。
長期的にはインドの人口ボーナス期入り、まだ脱炭素の流れが続いていること、省エネや脱炭素の流れに変わりがないこと、世界的な資源国の「資源ナショナリズムの流れ」を受けて、供給面・需要面の制限から価格が上昇するという見通しを変更する必要はないと考えている。
【2022年LME金属需給見通し】
銅 生産 26,328千トン(26,351千トン) 需要 26,739千トン(26,782千トン) 需給 ▲411千トン(▲432千トン)
亜鉛 生産 14,137千トン(14,293千トン) 需要 14,377千トン(14,423千トン) 需給 ▲241千トン(▲130千トン)
鉛 生産 12,426千トン(12,437千トン) 需要 12,473千トン(12,463千トン) 需給 ▲48千トン(▲26千トン)
アルミ 生産 69,003千トン(68,782千トン) 需要 70,441千トン(70,116千トン) 需給 ▲1,438千トン(▲1,334千トン)
ニッケル 生産 2,846千トン(2,927千トン) 需要 2,939千トン(2,960千トン) 需給 ▲93千トン(▲33千トン)
錫 生産 423千トン(413千トン) 需要 426千トン(428千トン) 需給 ▲3千トン(▲5千トン)
※カッコ内は修正前予想。
【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】
・ウクライナ問題を巡り、ロシアが欧米から制裁を受けてニッケルやアルミなど、同国への供給依存が高い商品の供給が逼迫する場合(価格の上昇要因)。
対立が厳しくなれば、恒常的にロシアからの現物が西側諸国に輸出されなくなる可能性もあるため、ロシア情勢不安は小さなリスクではない。
・中国不動産セクターの調整が長びき、中国の不動産バブルがはじける場合(価格下落要因)。
・ロジスティクスに障害が残る中、非鉄金属の偏在が現物プレミアムを押し上げるリスク(欧米で顕在化)。
・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。
・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。
・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。
・チリやペルーを始めとする鉱産国で資源ナショナリズムの流れが強まっていること、あるいは対欧米政策で「後部資源大国」である中国が特定資源の供給を制限する場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。
・環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。
【投機筋のポジション動向】
・LME投機筋買い越し金額 前週比+0.9%の345億ドル(前週 342億ドル)・LME投機筋買い越し数量 前週比▲1.0%の6,644.0千トン(前週 6,709.3千トン)
【昨日の鉄鋼原料市場と見通し】
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格はほぼ変わらず、上海鉄鋼製品先物は上昇した。
中国東部の生産者が鉄鋼製品価格を引き上げたことで鉄鋼原料価格が上昇した。ニワトリ卵の状態だが、現在の原材料価格では鉄鋼生産者の利益が確保出来ないため、製品価格を見直ししたとみられる。
この結果、回帰分析による鉄鉱石価格は150ドル、原料炭価格は211ドル程度が推定値となる。足下、原料炭価格が遙かに高いがこれは供給面の制限によるものでありしばらく続くと見られる。
週明け月曜日も鉄鋼製品価格の上昇と供給制限を背景に、鉄鉱石・原料炭とも高値水準を維持の公算。
週次の鉄鋼製品在庫は前週比+410万7,000トンの1,625万2,000トン(過去5年平均 1,549万6,000トン)と急増し、例年を大きく上回った。
鉄鉱石港湾在庫は前週比+230万トンの1億5,635万トン(過去5年平均1億3,614万6,000トン)、在庫日数は30.2日(過去5年平均 29.7日)と数量ベース・日数ベースでも過去5年の最高水準を上回っており、需給は緩和した状態が続く。
原料炭は最大生産地区である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲15万トンの57万トンとなり、過去5年の最低水準である108万トンを下回り、過去と比較して需給はタイト化している。
在庫日数も2.1日と、過去5年の最低水準である4.2日を大きく下回り、対需要でも需給はタイトだ。
中期的には、オリンピック・パラリンピックの終了に伴う工場の増産が見込まれ、かつ、春先頃からプライムレート下げなどの影響で中国の需要が緩やかながら回復すると見込まれることから、再び高値余地を探る動きになると予想される。
オリ・パラの期間、北京市、天津市、河北省、山西省、山東省、河南省では粗鋼生産を▲30%以上削減、河北省唐山市は大気汚染物質の排出を▲40%以上削減、山西省は鉄鋼やアルミ、鋳造、セメントなどの建材生産を制限、河北省はセメント生産を制限する方針を打ち出している。
粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。
長期的な観点では供給が増加を上回り、現在の生産コストに近い水準である期先の価格(90ドル程度)まで水準を切下げる展開が予想されるが、中国に加えてインドが人口ボーナス期入りしているため、構造的な需要の増加が見込まれることから高値圏での維持を見込む。
特に原料炭は供給ソースが制限されるため高値を維持するだろう。
【見通しの固有リスク】
・中国の不動産セクター減速が、建材需要を減少させる可能性(鉄鋼製品価格の下落を通じて鉄鋼原料価格の下落要因)。
・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合(価格上昇要因)。
・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク(価格上昇要因)。
【工業金属関連の中国重要統計の評価】
◆製造業PMI
1月の製造業PMIは50.1(前月50.3)と再び減速した。生産が51.4(52.0)とやや回復したが、需要の指標である新規受注が49.3(49.7)と低迷、輸出向けが48.4(48.1)と回復していることを考えると、国内向けが減速した可能性が高い。
生産の回復は厳冬や燃料不足を背景とした生産の遅れを回復しようとする動き。ただ、購買量は50.2(50.8)と減少、購買価格も56.4(48.1)と急上昇しており卸価格も50.9(45.5)と上昇している。価格上昇が購買活動を全体的に押し下げていると考えられる。
需給状況の指標である新規受注在庫レシオは、完成品が1.027(1.025)、原材料が1.004(1.010)とほぼ水準は変わらず、需給環境に大きな変化はない。
しかし、原材料在庫レシオが1を割り込みかかっており、景気刺激などの対策による需要回復が無ければ、需給が緩和して価格が下落しやすい局面に入りつつあることは重要なポイントである。
PMI総合指数は悪化しているが、規模別に見ると特に中堅企業(51.3→50.3)、中小企業(46.5→46.0)の減速が顕著であり、改善(51.3→51.6)している大企業とはかなり趣が異なる。
結局、景気刺激などの一連の対策は国有企業中心の大企業がメリットを享受しているが、規模の小さい企業はその恩恵をまだ受けていないと考えられる。一連の対策の効果が出るには(出たとしても)まだ時間が掛ると予想される。
◆鉄鋼業PMI・建設業PMI
1月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は47.5(前月38.7)と2ヵ月連続で改善したが、50の閾値を割り込む状態が2020年6月から続いている。中国政府による住宅セクターの活動抑制の影響が続いていると考えられる。しかし回復は急速であり、長らく続いた鉄鋼セクターの調整が終盤にさしかかっている可能性がある。
サブインデックスの新規受注は回復(39.0→28.2→25.9→28.1→40.6)、輸出向け新規受注は今月、まだ詳細が発表されていないが、海外のPMIはドイツを除けば減速基調であることを考えると、国内向けの受注が増加した可能性があるとみている。結局、政策の影響が大きいのではないか。
在庫水準は完成品在庫36.78(前月31.8)、原材料在庫が36.6(35.2)と低いものの前月からは増加している。企業は需要の回復が不透明であり、中国政府がかなり強い決意で不動産セクターの加熱を沈静化させようとしていることもあり、在庫積増しには結果的に慎重になっているとみられる。
価格に対する説明力が高い新規受注・完成品レシオは1.11(前月0.88)と上昇、原材料レシオも1.11(前月0.80)と上昇、閾値の1を上回ったため、先行きの需給はタイト化が予想され、原料価格・鉄鋼製品価格とも緩やかに上昇圧力が掛ると見る。
中国の鉄鋼需要を牽引してきたのは建設セクターだが、1月の建設業PMIは55.4(前月56.3)と閾値の50は上回っているが、再び減速した。
しかし、この統計はコロナショックによるロックダウンが発生した2020年2月に26.6を付けた以外、統計発表開始から1度も閾値の50を下回っていない。どれだけ中国の不動産セクターが加熱していたかが分かるだろう。
2030年頃まではインフラ投資も含めた不動産開発は継続すると見られるが、逆に言えばあと8年程度でこれらの問題を解決する必要があるため、中国政府が不動産開発投資を抑制する方針はそう簡単には変わらないと予想される。
◆工業生産・固定資産投資・不動産投資
工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースでは+4.3%(前月+3.8%)とやや回復したが、1-12月累計で前年比+9.6%(1-11月期+10.1%)と伸びが鈍化しており、電力供給不足や不動産セクターの抑制によって工業活動が減速したと見られる。
不動産開発投資は1-12月期累計で前年比+4.4%の14兆7,602億元(1-11月期+6.0%の13兆7,314億元)と減速している。中国政府による不動産市場加熱抑制は継続していると見られる。
ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+4.9%(+5.2%)と減速。公的セクターの伸び鈍化は所与(+3.0%→+2.9%)だが、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+7.0%(+7.7%)と減速していることの影響は小さくない。
とは言え、ソフトランディングを目指す中国政府の対策(不動産規制緩和・預金準備率引き下げ)の影響で減速は数ヵ月後に底入れするだろう。
電力供給の制限やオリ・パラの開催を考えると、回復は3月以降になると見る。
◆自動車販売
2021年の中国全国乗用車市場情報連合会が発表した2021年の自動車総販売台数は前年比+4.5%の2,050万台、そのうちEVは244万台となっている。
なお、EV戦略に慎重なスタンスだったトヨタ自動車が2030年までにEV車を350万台/年販売する方針。モーターやバッテリーを組み込んだ自動車を販売トップのトヨタがEVに舵を切った場合、他社も追随する可能性。
◆貿易統計
(銅)
12月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比+15.0%の58万9,000トン(前月▲9.1%の51万402トン)と過去5年レンジを上回り輸入が増加した。
国内の電力供給不足による生産制限を受けて輸入が増加したとみられる。
一方、銅精鉱の輸入は前年比+9.6%の206万トン(前月+19.6%の218万8,000トン)と高い水準を維持している。TCが高止まりする中、上海在庫が著しく少なく季節的には2月~3月にかけてが在庫の積み増し時期に当たるため、それに備える動きと考えられる。
エネルギー不足の影響で輸入の伸びが減速していたが、中国政府の対策推進によりやや国内生産が回復した可能性はある。
中国の大規模銅製錬事業者の12月の稼働率は96.0%と前月唐は回復しているが、同じ時期の過去5年平均は下回っている。
12月の銅スクラップの輸入は前年比+38.4%の16万1,619トン(前月+76.6%の16万4,652トン)。
(鉄鋼製品・鉄鋼原料)
12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲26.9%の100万1,000トン(前月▲23.0%の142万4,000トン)と減速。
12月の中国粗鋼生産は前年比+2.3%の8,619万トン(前月▲25.1%の6,931万トン10月▲24.5%の7,158万トン、9月▲21.2%の7,375万トン、8月▲13.2%の8,324万トン、7月▲8.4%の8,679万トン、6月+1.5%の9,388万トン、5月+6.6%の9,945万トン)と急回復。
燃料供給の回復や、1~3月のオリ・パラ期間中の稼働停止を見込んだ前倒し生産が進んだため。
12月の鉄鋼製品の輸出は前年比+3.6%の502万6,450トン(前月▲0.9%の436万1,000トン)と前月からやや回復したが、それでも過去5年の最低水準であり国内供給を優先させていることが窺える。
12月の鉄鉱石の輸入は前年比▲11.0%の8,607万トン(前月+7.0%の1億496万トン)と急減速した。鉄鉱石の港湾在庫が積み上がり、かつ、1~3月のオリ・パラ期間中の製鉄所の稼働が低下することを見込んだ前倒し調達が一巡したためと考えられる。ほぼこれまでの予想通り。
12月の中国の原料炭輸入は前年比+109.7%の748万7,956トン(前月+108.0%の774万1,656トン)と減速も高い水準を維持。豪州からの輸入は272万5,682トン(前月267万793トン)と高い水準を維持した。
---≪貴金属≫---
【昨日の貴金属市場と見通し】
昨日の貴金属セクターは上昇した。米CPIが市場予想を上回る内容となり、米国の利上げが想定よりも早く進み、景気にマイナスと判断されたこと、ロシア情勢不安を背景に株価が調整、それを受けて米国債が安全資産として物色されやすくなり米金利が軒並み低下したこと、原油価格上昇による期待インフレ率の上昇が同時に発生したため。
結果、金の基準価格は1,506ドルと+10ドル上昇、リスク・プレミアムは353ドルと+17ドルの上昇となった。
銀価格は金価格の上昇を受けて金銀レシオを維持しつつ上昇、投機的な色彩が強いプラチナは株安で相殺されて小幅高、パラジウムはロシア懸念の高まりで大幅な上昇となった。
週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しいが、ロシア情勢不安を背景とする原油上昇やインフレ懸念、逆にそれによって景気が悪化する、ないしは安全資産需要で債券が物色される可能性が高いことから高値を維持する見込み。恐らく銀、PGMも同様の展開となろう。
中期的に金価格は、地政学的リスクの高まりでリスク・プレミアムが上昇しており、安全資産需要の高まりでしばらくの間、高値で推移すると予想される。
また、今年は食品価格の高騰をはじめとするインフレの懸念が強いため、現在懸念されているロシア・ウクライナ以外にも地政学的リスクが顕在化する可能性が高い。
しかし長期的には米国の利上げに伴う名目金利の上昇と、インフレ懸念の沈静化にともなう実質金利の上昇を受けて水準を切り下げるというのがメインシナリオとなる。
供給懸念を背景とするインフレは時間経過と共に沈静化し、今の水準を維持するとは考え難い。
リスク・プレミアムは5年平均で188ドルであり、地政学的リスクが後退した場合、金価格が100ドル以上、下落する余地があることを示唆している。
以上を勘案すると、結局の所、金価格は当面1,700ドル~1,800ドルをコア・レンジとする推移が予想される。
銀価格は金価格が高止まりすることから同様に高い水準での推移が予想される。金銀レシオを80倍とすれば、コアレンジは21.25~22.50ドル、ということになる。
長期的には自動車や家電製品のハイテク化の中で接点部品としての需要(電線やはんだなど)増加で、電子製品向けの需要が増加し、金銀レシオは過去5年平均程度の65倍程度を目指す(工業活動が回復する)ことになるだろう。この場合は、26.15~27.70がコアレンジとなると予想される。
プラチナ・パラジウムは恐らく半導体供給不足が2023年まで長びくことが予想されるため、しばらくの間は供給過剰を背景に投機の動きが価格を左右することになる。
逆説的だが、現在、ウクライナ問題でロシアヘの制裁懸念が強まっているが、まだ供給が制限されていないものの(供給過剰に変わりはないものの)買いが入りやすくなるといったイメージ。
長期的にはEVヘのシフトで需要が減少して価格が下落する、との見方があるが、新興国の自動車が全てEVとなる可能性は低い。
実際、車での移動が大半である米国が充電ステーションを整備してまでEVに舵を100%切るとは考え難く、来年の中間選挙で脱炭素を進める民主党が苦戦することはほぼ必定であることを考えると、一定のガソリン車需要は残る(あるいは減少ペースが脱炭素派が期待するほどのものではない)可能性を排除しない。
【見通しの固有リスク】
・ウクライナ問題を巡って欧米諸国がロシアの鉱山会社に対して制裁を科し、供給減少が起きる場合(価格上昇リスク)。
仮にこれが恒常的な制裁になった場合、マテリアルフローが変化する可能性も(価格上昇リスク)。
・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。
南アフリカ政はEskomの一部石炭火力に対する温室効果ガス排出規制を免除する申し出を棄却したことで、同国の3分1の電力供給16,000MWの供給が困難になる可能性。
・米国をはじめとする先進諸国が金融引き締め方向に舵を切っており、アフリカや中南米、東南アジア、東欧など新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。
・世界的なEVシフト加速による、PGM需要の激減。
ただし、環境重視型社会へのシフトが加速、「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは、金はロングが279,559枚(前週比 +3,565枚)、ショートが92,853枚(▲10,999枚)、ネットロングは186,706枚(+14,564枚)、銀が56,905枚(▲3,818枚)、ショートが37,606枚(▲999枚)、ネットロングは19,299枚(▲2,819枚)
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
プラチナはロングが28,134枚(前週比 ▲37枚)ショートが16,375枚(+2,785枚)、ネットロングは11,759枚(▲2,822枚)
パラジウムが1,911枚(▲261枚)、ショートが3,141枚(▲23枚)ネットロングは▲1,230枚(▲238枚)
---≪農産品≫---
【昨日の穀物市場と見通し】
シカゴ穀物市場は上昇した。ロシア・ウクライナ情勢不安を背景とする穀物供給不安に加え、ラニーニャ現象発生に伴う南米の減産見通しが価格を押し上げた。ファンダメンタルズは買い材料が多く、ドルが米雇用統計を受けて上昇したものの水準を切り上げる動きとなった。
月曜日の穀物市場もロシア情勢不安と南米の減産観測で高値を維持すると予想する。
中期的にもシカゴ穀物価格は堅調な推移になると考える。冬場のラニーニャ現象が冬で終了せず、北半球の重要な生育期である夏場まで継続する見通しが示されていることや、脱炭素進捗に伴う代替エネルギー需要が高まること、ロシアとウクライナの対立を背景にした供給制限懸念などが材料。
12月の中国の大豆輸入は前年比+17.9%の887万トン(前月▲10.6%の857万トン)と過去5年平均を上回った。
中国の大豆港湾在庫は過去5年レンジの最高水準は下回っているが、高い水準を維持しており、以前ほど需給は逼迫していない。
Locust Watchではサバクトビバッタの発生が落着いていることが確認されている。恐らく今のままだと大規模なバッタ発生リスクはそれほど大きくなさそうだ。
https://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/DL520map_pg1e.jpg
【見通しの固有リスク】
・ラニーニャ現象継続による投機筋の買い圧力の強まり(価格の上昇要因)。
・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。
・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。
【米農務省需給報告データ】
・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)
・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)
・2月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 177.0Bu/エーカー(NA、177.0)大豆 51.4Bu/エーカー(NA、51.2)小麦 44.3Bu/エーカー(NA、44.3)
・2月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 151億1,500万Bu(NA、151億1,500万Bu)大豆 44億3,500万Bu(NA、44億3,500万Bu)小麦 16億4,600万Bu(NA、16億4,600万Bu)
・2月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 24億2,500万Bu(NA、24億2,500万Bu)大豆 20億5,000万Bu(NA、20億5,000万Bu)小麦 8億1,000Bu(NA、8億2,500万Bu)
・2月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 15億4,000万Bu(14億9,819万Bu、15億4,000万Bu)大豆 3億2,500万Bu(3億1,567万Bu、3億5,000万Bu)小麦 6億4,800万Bu(6億3,381万Bu、6億2,800万Bu)
・12月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 116億738万Bu(116億4,700万Bu、12億3,500万Bu)大豆 31億4,900万Bu(31億2,781万Bu、2億5,700万Bu)小麦 13億9,000万Bu(14億1,496万Bu、17億7,400万Bu)
・2月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,090万ha(2,098万ha、2,094万ha)大豆 4,059万ha(4,054万ha、4,040万ha)
・2月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ 1億1,400万トン(1億1,327万トン、1億1,500万トン) 単収 5,376kg/ha(5,457kg/ha、5,391kg/ha)大豆 1億2,547万トン(1億3,018万トン、1億4,050万トン) 単収 3,091kg/ha(3,213kg/ha、3,478kg/ha)
【投機筋のポジション動向】
・直近の投機筋のポジションは以下の通り。
トウモロコシはロングが519,855枚(前週比 ▲27,741枚)、ショートが100,253枚(+7,877枚)ネットロングは419,602枚(▲35,618枚)
大豆はロングが255,224枚(+19,252枚)、ショートが45,494枚(+2,895枚)ネットロングは209,730枚(+16,357枚)
小麦はロングが103,885枚(▲1,542枚)、ショートが107,463枚(+2,386枚)ネットロングは▲3,578枚(▲3,928枚)
◆本日のMRA's Eye
「小麦価格急騰の懸念」
ラニーニャ減少に伴う供給への懸念を背景に水準を切り上げてきた小麦価格であるが、昨年11月から始った米国のテーパリングとそれに伴うドル高基調などを背景に小幅に水準を切下げている。
しかしそれでも価格の絶対水準はこの20年でみても高い。この20年を俯瞰すると小麦価格は2006年~2008年、2010年~2011年、2012年、そして2016年~2018年、2020年~2022年が大きく価格が上昇した局面だ。
いずれも基本的には異常気象の発生による供給減少によるものであり、特に2000年以降はラニーニャ減少が発生した年に小麦が不作となって価格が上昇していることが分かる。
2006年後半から始った小麦価格高騰は、豪州が2年連続の干ばつとなったこと、欧州全域での気温上昇による不作、東欧諸国での気温上昇といった異常気象が各地で頻発したことが背景にある。
この頃はそれほど意識されていなかったが、この時期もラニーニャ現象が発生している。
これに伴う実需のショートの買い戻しが価格押し上げの切っ掛けとなったが、同時に米国でトウモロコシ由来のエタノール需要が増加、リーマン・ショック前のコモディティ投資バブルのなかで(実需に比べれば規模は小さいものの)投機の買いが入ったことも小麦価格上昇に寄与している。
ただしこの価格高騰の中で「食品に用いるものへの投機取引はいかがか」という声が高まり、インデックスファンドなどへの投資規制が行われ、リーマン・ショックに伴うエネルギー需要の減少観測とエルニーニョ現象の発生が重なり、価格高騰は沈静化した。
しかしその後、2010年~2011年に再び小麦価格は上昇する。わずか1年の「休息期間」の後にラニーニャ現象が再度発生、ロシアの不作とそれに伴う禁輸措置が影響したためだ。
また一大生産国である豪州が100年に1度の大干ばつに見舞われたことも小麦供給への懸念を高めた。
このとき、市場参加者の動きは実需のショートが減少し、規模はかなり小さいが投機のロングが増加する、といった動きが見られ、価格を押し上げた。
そしてその結果、穀物価格高騰を切っ掛けとしてアラブの春が発生、中東・北アフリカ地域の治安が不安定化して原油価格が高騰するといった影響もあった。
このように、食品価格の高騰は治安の不安定化に繋がり、かつ、世界中に同時に影響を及ぼすためある意味米国の利上げなどと影響が似る。
そしてその後、10年近く小麦価格は安定するが、実は2016年頃から始ったラニーニャ現象は、2019年の短い間のエルニーニョ現象発生を挟んではいるが現在まで継続している。
2020年にはロシア・ウクライナが小麦の輸出制限を実施、直近でも両国の他、アルゼンチンなども小麦輸出に制限を掛ける方針であり、徐々に国際市場の需給逼迫への懸念が強まっている状況だ。もしこの状態でロシア・ウクライナが戦闘状態になった場合、両国から小麦が円滑に輸出出来るとは考え難い。
仮に米国がロシアに対してSWIFTから排除するなどの措置を行った場合、その影響は小さいとはいえない。「Wheat is weed(小麦は雑草)」と言われるほど病害に強く、比較的どこでも生産が可能な主食であるが、この2ヵ国の2021-2022年の輸出市場でのシェアは各々16.9%、11.6%であることを考えると、仮に両国から全く小麦が出なくなった場合価格上昇は不可避といえる。
現在、実需のショート・ロングはほぼ過去5年平均程度であるが、ゼロではないため実需のショート買い戻し余力はある。
その一方で投機のロングは過去5年の最低水準を下回っている。リーマン・ショック後は投機の規制もあってどちらかと言うと実需・投機の両要因で相場が動くことが多い。
直近の米需給報告でも価格に対する説明力が高い需給率(需要÷供給)も、世界全体で78.4%(前年77.7%)、シカゴ小麦市場がある米国では75.0%(71.4%)と、ロシアとウクライナの軍事衝突を考慮しないベースでの需給バランスもタイトでありイベントリスク発生時の買い余力は大きい。
この場合、他の地域の地政学的リスクも高めることになるため、ロシアとウクライナの軍事衝突リスクは小さくないといえるだろう。
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