CONTENTSコンテンツ

リスク回避一服、リスク選好が継続
  • MRA外国為替レポート

2020年1月13日号

◆先週の市場総括


先週は米国とイランの軍事衝突への懸念が市場を左右。ただ双方とも全面的な軍事衝突は望んでおらず、これ以上の事態悪化・緊迫化は避けられる見通しとなったことから週末にかけてリスク選好が回復した。

米国株は木曜日に主要3指数がそろって史上最高値を更新。米10年債利回りは上昇して一時1.9%に迫った。円は軟調。ドル円相場はイランの攻撃で一時107円台後半に下落したが木曜日に109円台を回復。ユーロ円相場も120円台前半から121円台後半へ。

週末の米国の雇用統計がやや弱かったことから米国株は上昇一服となったが、ドル円相場は109円台半ばで引け。日経平均はイランの攻撃に一時23,000円を割ったが、その後は反発して週末は23,900円に迫り、23,850円近辺で引けた。

月曜日の東京市場は朝方一時円高にやや振れたものの、米・イラン対立の動静を見守る展開。ドル円相場は107円90銭で始まり80銭に下落したがその後は反発して108円ちょうど~10銭でもみ合い。ユーロ円相場は120円50銭近辺で始まり30銭に下落した後60銭~70銭で推移。

日経平均は大幅安となり23,200円でスタート。ただその後は23,200円中心にもみ合い引けた。海外市場に入るとひとまずリスク回避一巡で米国株は大幅安で寄り付いたがその後は大きく上昇して前週末比プラス。

米10年債利回りは1.81%に反発。リスク回避で買われていた円は反落。ドル円相場は108円50銭まで上昇して引けは40銭。ユーロ円相場は121円30銭~40銭に上昇した。ユーロドル相場はアジア時間に1.1160~70で推移していたが1.1190~1.1200に上昇。

火曜日の東京市場のドル円相場は108円40銭で始まり50銭に強含んだが夕刻は108円30銭。ユーロ円相場は121円40銭近辺でもみ合いの後121円ちょうどに下落。ユーロドル相場はやや軟調で1.1170へ下落した。

日経平均は23,300円で小幅高寄りの後は堅調。後場は23,500円台で上下動となり23,580円近辺で引け。米国株の上昇、円高一服が支えとなった。海外市場は引き続き落ち着いた値動き。

米国とイランが全面戦争に突入する可能性は低いとの見方が大勢となりリスク回避は一服した状態が続いた。

原油価格は上昇一服となり4営業日ぶりに反落してWTIは62.7ドル/バレル。ただ金はなお堅調。米国株は前日の上昇から反落。小幅安寄りの後はもみ合い。

NYダウは前日比▲120ドル。米10年債利回りは1.82%と前日からほぼ変わらず。為替市場ではドルがしっかり。

米国の貿易収支(11月)は▲430億ドルで3年ぶりの低水準。ISM非製造業景気指数(12月)は55.0と前月53.9から改善し、悪化した製造業指数とは対照的な動き。

ドル円相場は108円40銭~50銭のもみ合いから50銭~60銭のもみ合いとなり引け。ユーロドル相場は1.1140~50でもみ合い。ユーロ円相場は121円ちょうど近辺でもみ合い引けた。

水曜日の東京市場では日本時間早朝にイランがイラク国内の米軍駐留基地に弾道ミサイルで攻撃を行ったことで不安感が広がった。

ドル円相場は108円40銭~50銭から一時107円70銭割れ。ユーロ円相場は121円ちょうどから120円20銭割れに下落。ユーロドル相場は1.1150から1.1170に上昇。米10年債利回りは一時1.7%台前半に低下。

ただ米軍に死者がなかったことが明らかになると昼には懸念が一服。イランも米国側にさらなる攻撃がなければ報復しないとの意向を伝えており全面武力衝突は避けたいことが明らかになった。

米10年債利回りは昼には1.79%に反発しその後もじりじりと上昇。ドル円相場は108円40銭に反発してもみ合い。ユーロ円相場は120円80銭~90銭に戻してもみ合い。ユーロドル相場は1.1130に反落。

日経平均は大幅安の23,200円で寄り付き一時は23,000円割れ。しかし後場には持ち直して23,300円に反発。引けは23,190円近辺。

海外市場に入ってもドル円相場は堅調で108円70銭中心にもみ合い。米国株は前日比横ばいで始まり堅調な値動き。その後行われたトランプ大統領の会見で市場には安心感が広がった。

トランプ大統領は声明を発表。挑発的なトーンは見られず抑制的で、イランに対して軍事力は行使したくない、と報復攻撃に否定的な見解を示した。

これを受けて株価は一段高。NYダウは前日比+160ドルで28,750ドル近辺。米10年債利回りは1.86%に上昇。

ドル円相場は109円20銭に上昇して引けは109円10銭台。ユーロ円相場は121円30銭に上昇して引けは121円10銭~20銭。ユーロドル相場は1.1110に小幅安。

原油価格WTIは60ドル割れに下落して59.60ドル。金相場も下落した。

この日発表された米国のADP雇用報告(12月)は雇用者数前月比が+202千人と予想+143千人を上回り、前月も+67千人から+124千人に上方修正され、雇用情勢が引き続き堅調なことが示された。

木曜日の東京市場では前日のリスク選好回復の流れを受けて株高・円安。日経平均は23,600円近辺で大幅高寄り。その後もじり高でとなり引けは前日比+535円の23,740円近辺。

ドル円相場は109円10銭で始まり20銭近辺でもみ合い夕刻には30銭近辺に上昇。ユーロ円相場も121円20銭から40銭に上昇しさらに50銭~60銭へ。

イランのハメネイ師は民兵・過激派に自制を呼びかけた。海外市場に入るとドルが一段高。米国株は続伸し全面高。主要3指数はそろって史上最高値を更新した。アップル社が中国でiPhoneの販売が好調とリリース。

米10年債利回りは一時1.9%に迫ったが30年債の入札が好調だったことから1.85%に低下して引け。ドル円相場は109円40銭~50銭で上下。ユーロ円相場は121円60銭中心にもみ合い。ユーロ円相場は1.1100~1.1110でもみ合い。

シカゴ連銀総裁は今年は政策金利の変更がない可能性がある、現行水準は景気支援に適切な水準、と述べた。

金曜日の東京市場のドル円相場は109円50銭で始まりじり高。ユーロドル相場は1.1100から1.1090へじり安。ドルが堅調。ユーロ円相場は121円60銭中心に上下。

日経平均は前日引値水準で始まり堅調。前場に一時23,900円をつけた。しかしその後は反落して後場は23,750円~23,800円でもみ合い引けにかけて上昇して23,850円で引け。

海外市場ではユーロがしっかり。円は軟調。ドル円相場は109円60銭~70銭で雇用統計の発表待ち。ユーロは対ドルで1.1120中心にもみ合い。ユーロ円相場は121円80銭中心にもみ合いとなった。

発表された米国の雇用統計(12月)は、非農業部門雇用者数・前月比が+145千人と予想+165千人をやや下回った。失業率は3.5%で前月と変わらず。平均時給は前年同月比+2.9%で前月+3.1%から上昇は鈍化。

ただ正社員希望でやむを得ずパートで就業している者もカウントした広義失業率U6は6.7%で1994年以来最低となった。

やや弱めの指標、さらに史上最高値更新後、かつ週末であることから株価は調整反落。NYダウは前日比▲133ドルの28,820ドル近辺で引け。

米10年債利回りはやや低下して1.82%。ドル円相場は109円50銭中心に上下して引けた。米国政府は対イラン追加制裁の内容を公表し、さらなる制裁強化の可能性を示した。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標、ベージュブック

先週、中東情勢緊迫化懸念が後退したことで、市場の注目は再びファンダメンタルズに回帰するとみられる。

火曜日 消費者物価指数(12月、前年同月比、コア、予想+2.3%、前月+2.3%)

水曜日 生産者物価指数(同、予想+1.3%、前月+1.3%)、NY連銀製造業活動指数(1月、予想3.6、前月3.5)

木曜日 小売売上高(12月、前月比、コア、予想+0.5%、前月+0.1%)、フィラデルフィア連銀製造業景気指数(1月、予想3.8、前月2.4)

金曜日 住宅着工(12月、季節調整済み年率換算、予想1,380千戸、前月1,365千戸)、鉱工業生産(12月、前月比、予想▲0.1 %、前月+1.1%)、ミシガン大学消費者信頼感指数(1月、予想99.3、前月99.3)

また水曜日にはベージュブック(米地区連銀経済報告)が公表され、定性的な景気判断が示される。

2.ECB理事会議事要旨、ラガルド総裁会見

木曜日にECB理事会議事要旨が公表され、またラガルド総裁の発言がある。欧州経済の動向、先行き判断、リスク認識、今後の政策バイアスについて、いかなる議論がされていたのかあらためて明らかになると同時に、ラガルド総裁がどのような認識、方向感、政策変化ないし維持を想定しているのか。

3.中国の経済指標

米中通商交渉は15日水曜日に第一段階の合意署名の予定。この間、中国政府は引き続き景気てこ入れ策を実施している。そうしたなか経済指標に景気好転の兆しが明確に表れるか。

火曜日 貿易収支(12月)

金曜日 小売売上高(12月、前年同月比、予想+7.9%、前月+8.0%)、鉱工業生産(同、予想+5.9%、前月+6.2%)、都市部固定資産投資(同、予想+5.2%、前月+5.2%)、GDP(10-12月期、前年同期比、予想+6.0%。前期+6.0%)

また今週は米国で12月期決算発表が相次ぎ株価への影響も注目される。

◆今週のMRA's Eye


リスク回避一服、リスク選好が継続

米国とイランによる本格的な軍事衝突は回避される見込みとなり、中東情勢の緊迫化を懸念するリスク回避は短期的・一時的な反応で終わりそうだ。すでに米国株は史上最高値を更新し、年初の最初の営業日に示した上昇モメンタム、市場の株先高期待に沿った動きを取り戻している。

今後も突発的・偶発的・予期せぬ事態、例えばイランの民兵組織などによるゲリラ的な対米攻撃が生じる可能性もある。ただ両政府が本格的な軍事対立を避けるという基本線が揺るがなければ、本格的なリスク回避に陥り、あるいはリスク回避が長期化する可能性は低いだろう。

今回のような地政学的リスクの影響を図る鍵は、その影響が世界経済や国際金融市場に悪影響を及ぼすかどうか。とくに中東情勢緊迫化の影響は、原油価格の上昇、急騰、高騰が長期化し、その悪影響が先進国経済・世界経済に悪影響を及ぼすかどうかにかかっている。

原油価格の急騰は、原油消費国から産油国への所得移転を意味する。先進国や非産油新興国ないし石油輸入国の経済がどれほど悪影響を受けるか。内需の減退がどれほどとなるか、その連鎖で世界景気の悪化がどれほどとなるか、がポイント。

原油価格の急騰も90ドル~100ドル近辺が続くとなると消費に悪影響が生じる可能性があり、内需主導の景気拡大に水を差しかねない。今回、ひとまず60ドル近辺で落ち着きつつあることは安堵できる材料だ。

また中東情勢緊迫化、原油価格高騰の長期化した場合でも、リスク回避=円高とのストーリーは成り立ちにくい。

中東産原油に大きく依存する日本経済がもっともダメージを受けやすい。原油輸入に困難を来すのであれば「オイルショック」となる深刻な事態となる可能性があり、量的に確保できても価格急騰なら輸入金額は大きく跳ね上がり、貿易収支は赤字化し、赤字幅は大きく拡大するだろう。

2011年の東日本大震災の後、原子力発電が全面停止となり火力発電への依存が大きく高まり、エネルギー輸入が急拡大したため、日本の貿易収支は大幅な赤字に落ち込んだ。

2012年から大きく円安に振れたが、黒田総裁が主導した異次元緩和のみならず、こうした貿易収支の大幅悪化が円安圧力を増していたベースがあったことも大きい。

需要サイドからの原油価格高騰は、その背景にある世界経済の好調さが日本の輸出・景気を支えていると考えられる。

しかし供給サイドからの原油価格高騰は日本の貿易収支の悪化を招き円安のベースとなる。そもそも中東緊迫化のリスク回避では円高が進みにくい要因だ。

また米国は産油国であり、国内のシェールオイル生産量が増加していること、原油の中東依存が低下していることは、相対的にドルの優位性を増している。

かつて、有事のドル買い、という言葉があったが、現在は、円とドル、スイスフランがリスク回避で買われる通貨となっている。そうしたなか中東緊迫化・原油価格急騰は、このなかから円が脱落し、ドルが相対的な優位性を強める事象となる。

ポジション面でみれば、中東情勢緊迫化に限らず、リスクイベントによる手仕舞いは常に生じる。年末にかけて拡大していた投機筋の円売りは円高リスクが増していることを示していた。

ただしシカゴ通貨先物のポジション量をみる限り、そのボリュームは過去のピークの半分程度。1年前の12月は10万枚を超える売り越しが積み上がっていたが、この年末12月は5万枚に満たなかった。

それでも年末・年初の手仕舞いや中東情勢緊迫化による円買い戻しは円高をもたらしたが、直近、1月7日火曜日時点の売り越しは1万2千枚まで減少。その後先週末にかけて再びリスク選好とともに売り越しが拡大した可能性はあるが、短期的な円高リスクは相当程度後退しているとみてよい。

こうした事情もありドル円相場は早くも109円台半ばを回復した。ただ昨年末の状況に戻ったに過ぎない。ここからは、米国の企業景況感、とくに製造業の景況感が持ち直すかどうかにかかっている。

ISM製造業景気指数は47台まで落ち込んだ。市場では持ち直し期待が強く、あるいは持ち直すことを前提にリスク選好に傾いているとみられる。

米10年債利回りは中東情勢緊迫化で一時1.7%台まで低下したが、昨年末に少なくとも底打ちを明確にし、さらに緩やかながらも上昇に転じつつある流れが再開するかどうか。

ここからのドル円相場、メインシナリオである極めて緩慢なドル高円安は、経済指標による景況感回復の裏付けを待ちながら、なお一進一退を続けそうだ。現時点では108円台は底固く、110円では上値が重いという状況まで。そこから上値はなお時間がかかりそうだ。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :109.45(▲0.07)
ユーロ :121.65(+0.02)
英ポンド :143.042(▲0.07)
豪ドル :75.536(+0.42)
カナダドル :83.874(▲0.01)
スイスフラン :112.542(+0.01)
ブラジルレアル :26.724(▲0.04)
中国人民元 :15.841(+0.04)
韓国ウォン(日本円=100) :9.445(+0.00)

【対ドルレート】
ユーロ :1.1121(+0.002)
英ポンド :1.3064(▲0.000)
豪ドル :0.6901(+0.004)
カナダドル :1.305(▲0.001)
スイスフラン :0.9726(▲0.001)
ブラジルレアル :4.0979(+0.009)
中国人民元 :6.9192(▲0.013)
韓国ウォン :1161.5(+2.40)

【主要国政策金利】
米国 :1.75
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :1.82(▲0.03)
米2年債 :1.57(▲0.01)
日本10年債利回り :0.00(▲0.01)
日本2年債利回り :0.00(+0.01)
独10年債利回り :▲0.20(▲0.02)
独2年債利回り :▲0.60(▲0.01)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :28,823.77(▲133.13)
NASDAQ :9,178.86(▲24.57)
S&P500 :3,265.35(▲9.35)
日経平均株価 :23,850.57(+110.70)
ドイツ DAX :13,483.31(▲11.75)
インド センセックス :41,599.72(+147.37)
中国上海総合 :3,092.29(▲2.59)
ブラジル ボベスパ :115,503.40(▲443.70)
英国FT250 :21,566.67(▲76.40)
ビットコイン :8043.69(+256.85)

【主要商品価格】
WTI :59.04(▲0.52)
Brent :64.98(▲0.39)
米ガソリン :165.96(+0.69)
米灯油 :192.84(▲2.17)

金 :1562.34(+10.02)
銀 :18.12(+0.21)
プラチナ :979.21(+12.18)
パラジウム :2118.71(+5.63)
銅 :6184.00(▲2:27C)
アルミニウム :1798.00(▲2:26.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :935.00(+1.25)
シカゴ とうもろこし :385.75(+2.50)
シカゴ小麦 :564.50(+2.25)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。