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通商と政治の重要イベント~米中交渉・関税発動期限、イギリス総選挙
  • MRA外国為替レポート

2019年12月9日号

◆先週の市場総括


先週は米中通商交渉への期待感や警戒感、強弱まだら模様となった経済指標に振らされる展開となった。

週初には良好な中国の経済指標を受けてリスク選好が強い状態で始まり株価は堅調。ドル円相場は109円台半ばから後半で推移した。

しかし米国のISM製造業景気指数が予想外に弱い数字となり、またトランプ大統領が米中合意を急がないとコメントすると一転して不安感が広がり株価は大幅安。米10年債利回りは一時1.7%割れ。ドル円相場は108円台半ばに下落した。

その後は米中合意が近いとの報道からリスクマインドは支えられ株価は反発。米長期金利も上昇。ドル円相場は108円台後半での上下動。週末の雇用統計が極めて強い数字だったことから米国株は大きく上昇して週末の取引を終え、米10年債利回りは1.84%に上昇した。

ドル円相場は一時109円に迫ったが引けは108円60銭。日経平均は週初に23,300円近辺で始まり週央は23,100円近辺に低迷したが、週末には盛り返して23350円近辺で取引を終えた。

月曜日の東京市場のドル円相場は109円50銭で始まり堅調。60銭~70銭で推移。ユーロ円相場も120円70銭で始まり80銭~90銭でしっかり。全体的にやや円安となった。

日経平均は23,300円台後半で高寄りし23,550円近辺に上昇してもみ合い。週末に中国で発表となったPMI製造業景況感指数(11月)が景況感の分かれ目である50を回復したことを好感し市場のリスク選好が強まったかたちで週初の取引がスタートした。

午前中に発表された民間ベースの調査である中国・財新製造業PMI(11月)も51.8と前月51.7からわずかながらに改善し50を上回った状態を保った。しかし海外市場に入ると一転してリスクオフとなった。

発表された米国のISM製造業景気指数(11月)が48.1と予想49.5を下回り前月48.3から予想外の悪化。4か月連続で50を下回った。中国のPMIが改善していたことで良好な数字への期待感が高まっていたが裏切られたかたち。

またトランプ大統領がブラジル、アルゼンチンから輸入する鉄鋼・アルミニウムへ関税を賦課すると発言。通商政策への懸念が高まった。米国株は大幅安となりNYダウは前週末比270ドルの下落。ナスダックも100ドル下落。

ドル円相場は109円50銭近辺から109円割れに下落した。ユーロドル相場は1.1010割れから1.1080~90へユーロ高ドル安。全般的にドルが下落。ユーロ円相場は120円50銭から121円ちょうどに上昇していたが120円70銭台で取引を終えた。米長期金利は中国の指数を好感してやや上昇。10年債利回りは1.83%。

火曜日の東京市場のドル円相場は109円ちょうどで始まり午後には109円20銭に上昇。しかし夕方から海外にかけては円高が進んだ。ユーロ円相場は120円80銭で始まりもみ合い。

日経平均は23,200円で大幅安寄り。ただその後は持ち直して23,300円台前半で引けた。海外市場ではこの日もリスクオフの動き。米国株はこの日も大幅安。NYダウは大幅安で始まって一時前日比450ドル安まで下落したがその後は280ドル安に持ち直し。

トランプ大統領が、米中合意が大統領選挙以降にずれ込んでも構わない、交渉に期限はない、と長期戦の構えを示し、市場に懸念が広がった。

米長期金利も大きく低下。10年債利回りは一時1.7%割れ。引けは1.72%。2年債利回りは1.54%。ドル円相場はじり安となり108円50銭に下落。ユーロ円相場も120円30銭~40銭に下落してもみ合い。ユーロドル相場は1.1080~90で方向感なし。

水曜日の東京市場のドル円相場は108円50銭~60銭で上下。ユーロ円相場は120円40銭で始まり上値重く夕刻には120円10銭近辺に下落。

日経平均は23,100円近辺で大幅安寄り。ただその後はもみ合いとなって23,100円台前半でそのまま引けた。

海外市場に入るとこの日はリスク選好が回復し、米国株は反発して終日堅調。NYダウは前日比150ドル高。

ブルームバーグ社が、米国の米中協議関係者の話として、第一段階の合意が近く、15日より前に合意に達する可能性がある、と報じたことがきっかけ。米長期金利も反発上昇。10年債利回りは1.77%。2年債利回りは1.58%。

ドル円相場は108円70銭中心に上下した後、108円90銭近辺で引け。ユーロ円相場も120円80銭に上昇して引けは120円60銭台。ユーロドル相場は1.1110に上昇して1.1080で引け。

イギリス総選挙で保守党勝利の可能性が高い、と報じられポンドが上昇。連れてユーロも堅調。

発表された米国のISM非製造業景気指数(11月)は53.9と予想54.5を下回り前月54.7から悪化。ただし新規受注と雇用の判断は良好だった。またADP雇用報告(11月)でも雇用者数前月比が+67千人にとどまり、予想+138千人、前月+121千人、を大きく下回って雇用の伸びの鈍化を示した。ただこうした数字には反応薄だった。

木曜日の東京市場のドル円相場は108円80銭~90銭でもみ合い、一時109円を試したが上値重く行って来い。ユーロ円相場は120円60銭~70銭で上下。夕刻には80銭~90銭にやや堅調。

日経平均は米国株の反発、ドル円相場の持ち直しを受けて23,300円台で高寄り。その後は23,300円中心にもみ合い小動きとなってそのまま引けた。

海外市場では翌日に雇用統計を控えていることもあり全般に小動き。米国株は軟調から持ち直して前日比小幅高。米長期金利はやや上昇。10年債利回りは1.80%。2年債利回りは1.59%。

ドル円相場は108円70銭割れから108円80銭に戻して引け。ユーロ円相場は120円60銭から120円80銭に持ち直して引け。ユーロドル相場はじり高で1.1100~1.1110。

金曜日の東京市場のドル円相場は108円70銭~80銭で始まりじり安、夕刻には108円60銭近辺でもみ合い。ユーロ円相場も120円70銭台から120円40銭~50銭にじり安となった。

日経平均は23,350円近辺で小幅高寄り。一時400円を付ける場面もあったが23,350円近辺で上下してそのまま引けた。雇用統計を睨んで動きにくかった。

海外市場では米国株が大幅高、米長期金利が上昇。発表された米国の雇用統計(11月)は極めて強い内容だった。非農業部門雇用者数は前月比+266千人と予想+190千人を大きく上回り、前月も+128千人から+156千人へ大幅に上方修正された。

失業率は3.5%と前月3.6%から低下して1969年以来50年ぶりの低水準。平均時給は前年同月比+3.1%と予想+3.0%を上回り、前月も+3.0%から+3.2%へ上方修正された。

これを受けて米国株は大幅高寄りで始まりさらにじり高。NYダウは前日比+330ドルの大幅高で引け。米長期金利10年債利回りは1.84%へ、2年債利回りは1.62%へ上昇した。

発表直後にドルは上昇。ドル円相場は108円90銭、ユーロドル相場は1.1100近辺から1.1050割れへユーロ安ドル高。ただその後は調整してドル円相場は109円60銭、ユーロドル相場は1.1060近辺で引けた。

ユーロ円相場は振れが激しく120円70銭に上昇したのち120円ちょうど近辺に下落して取引を終えた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米中通商交渉、対中関税発動期限

いよいよ今週末、15日に米国による対中追加関税の発動期限を迎える。一部報道では、この日の前に米中通商交渉の第一段階合意が成立する可能性がある、との報道もあった。

一方でトランプ大統領は合意を急いでいないともコメントしている。今週中に合意がなるのか。あるいは合意に至らないまでも、最低限15日の対中関税発動の見送りが正式に発表となるか。

市場は最低限、追加関税の発動見送りと合意に向けた協議継続を織り込んでおり、それが裏切られればネガティブショックが発生する可能性がある。

逆に合意がなったとしても内容次第。既存の関税の段階的撤廃まで踏み込めるかどうか。そうでなければ織り込み済みでポジティブな反応は限定的となる可能性がある。

2.FOMC、米国の経済指標

今週10日火曜日・11日水曜日の両日にわたりFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。結果は日本時間12日木曜日未明4:00に公表。またパウエル議長の会見も行われる。

今回、政策変更は想定されていない。しばらく様子見、政策据え置きとの見方が大勢。

一方景気判断についてはどうか。ISM景気指数や雇用統計を受けてバイアスは下方リスク、持ち直し期待、いずれに傾いているか。また今週は物価指標が発表される。

水曜日に消費者物価指数(11月、前年同月比、予想+2.0%、前月+1.8%)、木曜日に生産者物価指数(同、予想+1.3%、前月+1.1%)。さらに年末商戦を迎えるなか11月の小売売上高も発表される(前月比、予想+0.4%、前月+0.3%)。

3.ECB理事会

今週木曜日、ラガルド新総裁になってから初めてのECB理事会が開催される。金融緩和にはすでに限界感も漂うなか、どのような考え方を示すか。ECB内部では金融緩和積極派と慎重派の意見対立が目立つが、追加緩和を見送ることを含めて調整を図るか。

なお今週12日木曜日にはイギリスで総選挙が実施される。このところの事前予想通り保守党が勝利すれば、現在EUとの間で合意した離脱案にて、粛々と離脱に向かうこととなり、合意なき離脱・混乱は回避されることとなる。

◆今週のMRA's Eye


通商と政治の重要イベント~米中交渉・関税発動期限、イギリス総選挙

今週はイベントが盛り沢山だ。最大の関心事は対中追加関税が発動されるのか否か。週末15日が発動予定日となっており、今週中には結論、発動ないし延期、または撤回、の判断が示されることになろう。

交渉は閣僚級協議などで進んでいるようだが、トランプ大統領からは、合意は大統領選挙の後でもよい、と中国側をけん制する発言もみられる。ただ、市場ではトランプ発言は交渉戦術の一環であり、最終的には合意する、ないし合意したい、のが本音だろうとの見方が大勢。

また最悪、合意が今週中に間に合わなかったとしても、15日の関税発動は延期されるとみられている。

中国側はすでに米国産農畜産物の輸入拡大を図るための準備を進めているとの報道もある。香港人権・民主主義法案の成立で中国側が激しく抗議しているが、対抗策は通商問題とは次元を異にするものだった。そこにも米中通商第一段階合意の可能性が高いとみるのは自然だ。

まず関税が発動されれば大きなネガティブサプライズ。発動されなかったとして、単なる延期なのか、追加関税の賦課そのものがなくなる撤廃なのか。これは第一段階の合意内容次第だろう。

合意内容にどのように盛り込まれるのか。あるいは合意そのものが先送り、継続交渉となり単なる延期に留まるのか。

後者であれば一定の安心感や期待は残るが、不透明感は継続することとなり、ある程度のネガティブインパクトはあろう。

一方、合意内容に米国側が納得し、追加関税そのものを撤廃し話を今後蒸し返さないという確約となれば、通商摩擦の悪化に明確に歯止めが、この間長きにわたる交渉のなかで初めてかかったことになる。これはポジティブにとらえられるだろう。

ただし市場の期待値とはさほど乖離しないことから反応は小さくなりそうだ。注目は、さらに既存の関税撤廃の方向感まで描き出せるかどうか。これがなれば、市場の期待を大きく上回ることになる。米中通商摩擦のV字改善がイメージされることからリスク選好は後押しされそうだ。

もうひとつのイベントとしては、12日木曜日に実施予定のイギリスの総選挙がある。現時点で可能性が高いのは、ジョンソン首相が率いる保守党が勝利し議会下院の過半数を押さえ、すでにEUとの間で合意している離脱協定案がイギリス議会でも承認。

合意なき離脱が回避され1月末をもって秩序を保って離脱するというシナリオだ。現在の市場はこれを織り込んでいる。

ポンドは12月に入ってから一段高となり、対ドルでは1.30を前にした足踏み状態から一気に1.3台に乗せてきた。9月末には1.22近辺だったところからみれば大幅高だ。

ポンド円相場は140円ちょうど近辺のもみ合いが長引いていたが、先週末は142円台に上昇した。したがって、保守党勝利・合意離脱が確定しても、ここからさらなるポジティブ要因の上乗せとはならなそうだ。

可能性は低いながらも、労働党が善戦して保守党が過半数を得られずに「ハングパーラメント(宙づり議会)」となるリスクもある。この場合は再度国民投票を実施するなど、混迷が長引くことになる。

イギリス経済にはマイナスとなり、また、保守党勝利や合意離脱を織り込んでいる市場は梯子を外されることになる。

一定のネガティブ要因、リスク回避要因となり、欧州通貨の対円相場は大きく下落するリスクがある。一方で欧州通貨安の反面でドルにとってはポジティブ要因となるだろう。

気になるのが、投機筋の円売りポジションがさらに増加していること。先週火曜日時点のシカゴ通貨先物の投機ポジションは48千枚の円売り越しとなり、前週の35千枚から一段と増加した。

先週末にかけて円高が進んだのは、こうしたポジションの一部解消による可能性がある。ただなおも短期リスクが円高サイドであることは不変。

今週の一連のイベントがどのようにこなされるのか。一方、いずれも楽観できる方向に向かえば、さらなるリスク選好、円売り再開でやや円安に振れる可能性があるが、ポジションがピークの半ばに到達しようというなか、ここからの円安はペースダウンが想定される。

米国の雇用統計は極めて堅調だったが肝心のISM景気指数が弱かった。これもドル高円安を当面抑制する要因となりそうだ。米中交渉が合意、ISM景気指数が好転、と双方のピースが整えば、110円を再び窺う展開もありうる。ただ年内まで残された時間は少なく指標も先になることから実現は難しいだろう。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :108.58(▲0.18)
ユーロ :120.18(▲0.59)
英ポンド :142.689(▲0.40)
豪ドル :74.272(▲0.05)
カナダドル :81.912(▲0.64)
スイスフラン :109.608(▲0.55)
ブラジルレアル :26.22(+0.24)
中国人民元 :15.453(+0.02)
韓国ウォン(日本円=100) :9.152(+0.00)

【対ドルレート】
ユーロ :1.106(▲0.004)
英ポンド :1.314(▲0.002)
豪ドル :0.6841(+0.001)
カナダドル :1.3255(+0.008)
スイスフラン :0.9909(+0.004)
ブラジルレアル :4.1389(▲0.049)
中国人民元 :7.0349(▲0.010)
韓国ウォン :1189.79(▲0.49)

【主要国政策金利】
米国 :1.75
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :1.84(+0.03)
米2年債 :1.61(+0.02)
日本10年債利回り :▲0.01(+0.02)
日本2年債利回り :▲0.01(+0.02)
独10年債利回り :▲0.29(+0.01)
独2年債利回り :▲0.63(▲0.00)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :28,015.06(+337.27)
NASDAQ :8,656.53(+85.83)
S&P500 :3,145.91(+28.48)
日経平均株価 :23,354.40(+54.31)
ドイツ DAX :13,166.58(+111.78)
インド センセックス :40,445.15(▲334.44)
中国上海総合 :2,912.01(+12.55)
ブラジル ボベスパ :111,125.80(+503.50)
英国FT250 :20,933.03(+225.70)
ビットコイン :7469.48(+89.83)

【主要商品価格】
WTI :59.20(+0.77)
Brent :64.39(+1.00)
米ガソリン :164.74(+2.63)
米灯油 :195.21(+1.91)

金 :1460.17(▲15.83)
銀 :16.58(▲0.39)
プラチナ :896.72(▲1.47)
パラジウム :1879.95(+5.18)
銅 :5900.00(+15:32.5C)
アルミニウム :1741.00(▲7:9.5B)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :889.50(+5.25)
シカゴ とうもろこし :366.50(+1.00)
シカゴ小麦 :532.50(+0.50)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。