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悲観論から楽観論へ~リスクバイアスも変化
  • MRA外国為替レポート

2019年11月18日号

◆先週の市場総括


先週も引き続き米中交渉の行方に対する見方が相場を左右した。香港情勢の悪化や弱めの経済指標がやや重石。

前週末にトランプ大統領が合意に向けた動きに否定的な発言をしたことから週初から市場は警戒的なトーン。米長期金利は上昇一服から低下。10年債利回りは前週2%に迫っていたが1.8%台前半に低下。為替市場では円高が進んだ。

ドル円相場は109円20銭で始まったが、その後中国の弱い経済指標もあって木曜日には一時108円30銭に下落した。ユーロ円相場は120円40銭で始まり一時119円20銭台に。

日経平均は23,450円で始まったが円高を嫌気して23,100円台に下落。ただ米国株が引き続き底固く堅調に推移したこと、海外勢の買い戻しも支えになって下落幅は限定的だった。

その後週末には米中交渉の進展にポジティブな報道があったことでリスク選好が回復し株高・円安となった。日経平均は23,300円で引け。

ドル円相場は108円80銭に、ユーロ円相場は120円30銭に反発した。米長期金利の低下は一服。米国株は史上最高値を更新して高値引け。

月曜日の東京市場のドル円相場は109円20銭で始まりじり安となり109円割れ。ユーロ円相場も120円40銭で始まり10銭~20銭へ。前週末のトランプ大統領の発言、現時点で対中関税撤廃について合意していない、とのコメントでリスク選好が後退した流れのままやや円高が進んだ。

ユーロドル相場は1.1020で始まりもみ合いやや堅調、ユーロ高ドル安。

日経平均は23,450円近辺で寄付き23,350円近辺に下落してもみ合い。

海外市場では米国が退役軍人の日で米債市場が休場。米国株はトランプ発言に加え激化する香港暴動を嫌気してややリスク回避的な動きとなり下落してスタートしたがその後は持ち直し。全体として閑散のなかまちまちの動き、横ばい。

ドル円相場は108円90銭近辺に下落していたが反発して109円ちょうど~10銭で引け。ユーロ円相場は120円30銭近辺でもみ合い。ユーロドル相場は1.1030台で引けた。

この日イギリスでは、12月12日の総選挙においてブレグジット党が候補者を立てずに保守党に選挙協力するとしたことで、合意離脱に一歩前進したと受け止められた。

火曜日の東京市場のドル円相場は109円10銭近辺でもみ合い横ばいの後、夕方にかけて20銭台に上昇。ユーロ円相場は120円30銭から60銭に堅調。ユーロドル相場は1.1030台での推移となった。

日経平均は前日引値近辺、23,300円台前半で寄付き、23,350円近辺でもみ合い。その後は円安を支えに引けにかけて上昇して23,500円~23,550円で引け。

欧州時間に入るとユーロ円相場が一貫して軟調。NYの引けは120円ちょうどまで下落。つれてドル円相場もじり安となり109円ちょうど近辺で引け。ユーロは対ドルでも下落して1.1010近辺へ。

トランプ大統領は講演で、第一段階の合意は近いかもしれないが合意が得られなければ関税を引き上げる、と中国側をけん制。またFRBに対して利下げが不十分として従来の批判を繰り返した。

リスク選好が停滞・調整するなか株式市場はとくに大きく反応せずまちまちないし横ばい。米長期金利は前週末から小幅低下。10年債利回りは1.92%、2年債利回りは1.65%。

ドイツで発表されたZEW景況感指数(11月)は期待指数が▲2.1となおマイナスながらも予想を上回り前月▲22.8から大きく改善した。

水曜日の東京市場のドル円相場は109円ちょうど近辺で始まり底固く109円10銭台に上昇。ユーロドル相場は120円ちょうどから120円20銭近辺に。ユーロドル相場は1.1010中心に上下もみ合いとなった。

日経平均は23,400円台前半で安寄り、その後は300円~350円でもみ合い、引けは下げて23,300円割れ。米中交渉への警戒感がやや高まるなか香港情勢も嫌気され慎重な姿勢が勝った。

海外市場ではさらに円高が進み、ドル円相場は108円70銭~80銭近辺で上下、ユーロ円相場は119円70銭中心に上下。ユーロドル相場は横ばい。

ウォールストリートジャーナル紙が、米中交渉は農産物輸入の目標数値を巡り交渉が難航、と報じた。

米長期金利は小幅低下して10年債利回りは1.89%、2年債利回りは1.64%。ただ米国株は底固く、下落から持ち直して、NYダウ、S&P500指数ともに史上最高値を更新。

パウエル議長は議会証言で、経済が想定通りにいけば現在の金融政策の水準は適切、として利下げ停止・様子見を示唆。景気悪化時には財政政策での支援が必要、とも述べた。

発表された米国の消費者物価指数(10月)は前年同月比+1.8%と前月の+1.7%から小幅上昇。一方エネルギー価格と食料品を除いたコア指数は+2.3%と前月の+2.4%から上昇率は低下した。

木曜日の東京市場のドル円相場は108円80銭近辺で始まりじり安。夕刻には60銭~70銭で上下。ユーロ円相場も119円70銭~80銭でのもみ合いから一時50銭に下落した。

日経平均は23,300円割れの前日引値水準で寄り付いた後、下落して23,100円~200円で上下した。全体的にリスク選好が後退。発表された中国の10月の主要経済指標が弱かったことが嫌気された。

小売売上高は前年同月比+7.2%と予想および前月の+7.8%から大きく減速。工業生産も+4.7%と前月の+5.8%から大きく減速して5%を割り込んだ。

都市部固定資産投資は+5.2%と前月+5.4%から減速して1998年以降で最低に。景気悪化傾向に歯止めがかかっていない。ただかえって中国政府による景気対策への期待や米中交渉の進展期待がむしろ高まり、中国株が堅調となったことがリスク回避の高まりを抑制した。

海外市場ではさらに円高の動き。ドル円相場は108円30銭に下落、ユーロ円相場は上下しながら一時119円30銭を割り込んだ。ユーロドル相場は1.099に下落。

中国があらためて米国に関税撤廃を要求したことが交渉進展への懸念をあらたにした。米長期金利はさらに低下。10年債利回りは1.82%、2年債利回りは1.59%。一方米国株は引き続き底固くもみ合い。方向感なく横ばいとなった。

ドル円相場の引けは108円40銭台、ユーロ円相場は119円50銭近辺。ユーロドル相場は反発して1.1020近辺。

金曜日の東京市場では株高・円安の動き。朝方に米国・クドロー国家経済会議委員長が、第一段階の合意について米国側は現在毎日中国側と連絡をとっている、我々はとりまとめに近づいている、と報じられたことで期待感が回復した。

ドル円相場は108円40銭台から60銭近辺に上昇してもみ合い。ユーロ円相場は119円50銭から70銭近辺に上昇してもみ合い。ユーロドル相場は1.1020近辺でそのままもみ合い。

日経平均は前日引値水準の23,150円で始まり上昇して前場引け前には23,300円台後半に上昇。後場にかけてはやや押されて23,300円近辺でもみ合い引けた。

海外市場では米国株が堅調。高寄りした後もそのまま上昇して史上最高値を更新し高値引けとなった。

米長期金利は小幅反発。10年債利回りは1.84%、2年債利回りは1.61%。為替市場ではリスク選好の回復で円安・ドル軟調・ユーロ高。

ユーロ円相場は大きく上昇。右肩上がりの値動きで120円30銭に。引けは120円20銭台。ドル円相場は108円50銭からじり高となり80銭中心に上下動して引け。ユーロドル相場もじり高となり1.1050台でもみ合い引け。

発表されたNY連銀製造業景気指数(11月)は2.90と予想および前月の4.0から悪化。小売売上高(10月)は前月比+0.3%と前月の▲0.3%から持ち直し。鉱工業生産(同)は▲0.8%と前月▲0.4%に続くマイナスで弱かった。設備稼働率も76.7%と前月77.5%から低下した。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米中通商合意の進展・内容

引き続き市場の最大の関心事は米中通商交渉の行方にあり、これに関する情報に左右されそうだ。中国側からは前向きな発言、あるいは関税撤廃に向けた要求などが散見され、交渉合意を望んでいる気配は伺える。

一方米国側からの情報は錯そう。慎重な発言がみられる一方で合意に向けた動き、進展を示唆する発言もあった。主として米国側からの情報に左右されることとなりそうだが、合意内容に関する情報が得られるか。

2.FOMC議事録

水曜日にFOMC議事録(10月29日・30日開催分)が公表される(公表は日本時間木曜日未明4:00)。FRBはこの会合で追加利下げを実施。ただ様子見姿勢に転じることを示唆した。

FRB内での意見は割れていたが、利下げ推進派にも一旦は様子見とすることが適切との意見もみられる。今回の議論および判断の詳細がどのようなものか。景気認識あるいは今後の金融政策のバイアスに関して何らかの示唆が得られるか。

3.米国の経済指標

米国経済は雇用・消費を中心に堅調とみられるが、一方で中国景気の動向はなお悪化が続いている。そうした影響が引き続き米国経済に悪影響を及ぼしていないか。底固い内需に変調はみられないか。

火曜日 住宅着工(10月、季節調整済み年率換算、予想1,300千戸、前月1,256千戸)

木曜日 フィラデルフィア連銀製造業景気指数(11月、予想7.2、前月5.6)、中古住宅販売(10月、季節調整済み年率換算、予想550万戸、前月538万戸)

金曜日 PMI景況感指数(11月、製造業、予想50.7、前月51.3)

◆今週のMRA's Eye


悲観論から楽観論へ~リスクバイアスも変化

先週も米中通商交渉に関する情報に市場は左右された。最大の関心事は、今回の第一弾合意に新たな関税賦課の見送りのみならず、既存の関税について徐々に撤廃する方向感が含まれるか。

中国は撤廃を切望しており、米国は慎重な姿勢を崩していない、との印象。トランプ政権の内外では賛否があるようだ。景気悪化に歯止めがかからない中国側が撤廃を切望しているのは間違いない。

この機に乗じてトランプ政権が交渉を優位に進めるために、あえて慎重な姿勢をとり、あるいはそうした発言を流してけん制するという戦略をとるのは理解できる。

米国側の情報は、大統領選挙に向けて景気・株価を良好に維持したいという本音を隠しながら、交渉上の観点から慎重・強硬姿勢をとっている、と割り切る見方も可能だろう。ただ匙加減を間違えば交渉が決裂するリスクもあり、引き続き警戒は必要だ。

市場参加者は様々な情報に暗中模索するしかないが、相場動向あるいはリスクサイドをみるうえでは、楽観・悲観、どちらに傾いているかが重要となる。

とくに現実の状況に比べてどちらに傾いているか。たとえば楽観的な状況に対して、市場がキャッチアップできていないのか、先走っているのか、相対的な位置関係がリスクバイアスの傾きとなる。

今年夏場までは、米中通商摩擦を背景に景気後退を織り込んだトレードが主流となっていた。足元の米国景気は堅調だったが、FRBがダウンサイドリスクを意識して数次にわたり利下げを実施するなか、市場も景気後退リスクを意識。

あるいは当局に先んじて景気後退を意識して債券など安全資産への資金流入が活発化した。

景気悪化のみならず利下げそのものも過剰に織り込んで、リスク回避トレード、が主流となった。

現実よりも先んじて悲観的な状況を織り込み過ぎ、そうした状況では相場は楽観サイドに振れた場合のリスクが大きくなり、株価は上昇サイド、為替市場では円安サイドのリスクがむしろ高まる。

ただ足元ではそれが逆転しつつある。米中交渉の進展、追加関税の見送りのみならず、既存の関税の段階的撤廃の方向感が出てきたことで、市場は楽観論に傾きつつある。

景気悪化懸念は完全には払しょくされていないが、製造業の持ち直し期待は高まっている。米中通商交渉は第一段階の合意内容が明確にならないなか、関税撤廃の方向を織り込みつつあるようだ。

部分的には、市場が現実に先行して楽観サイドに傾いているようにみえる。景気重視の政策への期待が安心感をもたらしている部分もある。

米国の株価指数は最高値を更新。中国の経済指標は弱いものの中国株は堅調。米10年債利回りは2%に迫るなど底打ち反転の兆し。昨年末からの金利低下トレンドを上抜けた。

為替市場ではシカゴ通貨先物の投機ポジションで円売りが増加。景気後退懸念・米10年債の2%割れで円ロング(円買い)に傾いていたが、長期金利の底打ちを機にポジション動向が逆転。

直近では円ショート(円売り)が35千枚まで増加した。ドル円相場も一時109円台半ばをつけ110円を窺う展開となった。

ただ景気持ち直しはまだ経済指標に明確には表れていない。米中交渉の行方は未定で市場が期待する関税撤廃の方向感が合意されるかは不透明だ。現実の流れが楽観サイドに向かっている蓋然性は高い。

大きな相場の流れはリスク回避からリスク選好へと変化しつつある。ただ現時点では悲観論の後退から中立的な状況に戻した程度で、市場は実際の状況変化に先んじて楽観論に傾いた状態となりつつあるようにみえる。

中期的な状況変化は緩やかとみられ、劇的な好転までは見込みにくいなか、過剰な楽観に傾いて短期的には逆にダウンサイドのリスクが増した状況が続きそうだ。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :108.8(+0.38)
ユーロ :120.21(+0.72)
英ポンド :140.318(+0.65)
豪ドル :74.188(+0.61)
カナダドル :82.275(+0.43)
スイスフラン :109.924(+0.20)
ブラジルレアル :25.9266(+0.08)
中国人民元 :15.515(+0.04)
韓国ウォン(日本円=100) :9.348(+0.08)

【対ドルレート】
ユーロ :1.1051(+0.003)
英ポンド :1.2897(+0.002)
豪ドル :0.6817(+0.003)
カナダドル :1.3223(▲0.003)
スイスフラン :0.99(+0.002)
ブラジルレアル :休場( - )
中国人民元 :7.0094(▲0.011)
韓国ウォン :1167.14(▲2.66)

【主要国政策金利】
米国 :1.75
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :1.83(+0.01)
米2年債 :1.61(+0.02)
日本10年債利回り :▲0.07(▲0.00)
日本2年債利回り :▲0.07(+0.00)
独10年債利回り :▲0.33(+0.02)
独2年債利回り :▲0.63(+0.01)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :28,004.89(+222.93)
NASDAQ :8,540.83(+61.81)
S&P500 :3,120.46(+23.83)
日経平均株価 :23,303.32(+161.77)
ドイツ DAX :13,241.75(+61.52)
インド センセックス :40,356.69(+70.21)
中国上海総合 :2,891.34(▲18.53)
ブラジル ボベスパ :休場( - )
英国FT250 :20,404.40(+172.60)
ビットコイン :8453.89(▲197.26)

【主要商品価格】
WTI :57.72(+0.95)
Brent :63.30(+1.02)
米ガソリン :163.50(+1.92)
米灯油 :194.80(+3.01)

金 :1468.21(▲3.19)
銀 :16.96(▲0.07)
プラチナ :890.60(+9.38)
パラジウム :1711.15(▲28.04)
銅 :5835.00(▲19:23C)
アルミニウム :1745.00(▲14:4C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :918.25(+18.00)
シカゴ とうもろこし :371.25(▲4.50)
シカゴ小麦 :502.75(▲5.00)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。