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景気懸念台頭も株価底固くリスク回避強まらず
  • MRA外国為替レポート

2019年10月7日号

◆先週の市場総括


先週は米国の経済指標に弱い数字が続いたことで景気後退懸念が再燃。リスク回避が強まるなか週央から株価が大きく調整。米長期金利は大きく低下した。

景況感の分かれ目である50を回復すると期待されたISM製造業景気指数(9月)が47.8と前月からさらに悪化。さらに水曜日にはADP雇用報告(9月)が予想を下回る雇用者の伸びを示し、さらに木曜日にはISM非製造業景気指数(9月)が52.6に悪化して予想を下回った。

NYダウは3日間で一時1,000ドルを超える下げ。米2年債利回りは利下げ織り込みを強めて1.4%割れに低下。10年債利回りも前週末の1.7%近辺から1.5%台前半に。

ドル円相場は108円近辺で始まったが木曜日の海外市場では一時106円台半ばに下落した。ユーロ円相場も118円近辺から117円台前半に下落。

週末に発表された米雇用統計は、非農業部門雇用者数は単月では予想よりやや増加が少なかったが前月分の上方修正も合わせるとまずまず。失業率は3.5%と50年ぶりの低水準となった。

景気失速懸念はやや後退し市場は落ち着きを取り戻し株価は続伸。米長期金利は低下一服。ドル円相場は107円ちょうど近辺で引けた。

月曜日の東京市場のドル円相場は108円ちょうど近辺で始まり、海外市場にかけても火曜日以降の重要指標の発表を前に小動きだった。ユーロは海外市場にかけて軟調。ユーロ円相場は118円10銭~20銭で始まり東京市場で118円ちょうど近辺に小幅安。その後海外では一時117円60銭に下落した。

ユーロドル相場も1.0930~40で始まり1.0890に下落。ドイツの消費者物価指数が弱かったことでユーロが下落した。

日経平均は21,800円近辺で小幅安スタート、その後は小動きもみ合い、後場に一時21,700円に下落したが持ち直し引けは21,750円近辺。

中国で発表されたPMI景況感指数(9月)は製造業が49.8と前月49.5からやや持ち直した。民間調査の財新・製造業PMIも51.4と前月50.4から落ち直し。

一方、米国で発表されたシカゴ購買部協会景気指数(9月)は47.1と前月50.4から悪化。ダラス連銀製造業活動指数(同)も1.5と前月2.7から悪化して弱めだった。

米長期金利は小幅低下し、2年債利回りは1.62%、10年債利回りは1.68%。ただ米国株は上昇。

ナバロ大統領補佐官が、中国株の上場廃止検討との報道は誤り、としたことで、先週末の下げを取り戻した。ユーロはその後反発してユーロドル相場は1.090、ユーロ円相場は117円90台。

火曜日の東京市場のドル円相場は108円ちょうど近辺で始まり底固く、20銭~30銭でもみ合い、夕刻には108円40銭に上昇。ユーロ円相場も117円80銭~90銭で推移した後に118円10銭に上昇してもみ合い。ユーロドル相場はややユーロ安ドル高が進み1.088~89で推移した。ドルが総じて底固い値動き。

朝方発表された日銀短観では業況判断が軒並み下方修正されたが事前予想よりも悪化しなかった。大企業・製造業の現状判断は7から5に、非製造業は23から21へ小幅悪化にとどまった。

海外市場に入ると発表された米ISM製造業景気指数(9月)が予想に反して悪い数字となり、米株安、米長期金利低下、ドル安となった。景況感の分かれ目である50の回復が期待されていたが47.8と前月49.1からさらに悪化してリーマンショック以来の低水準に。雇用指数も47.4から46.3へ悪化、新規受注は47.2から47.3とほぼ横ばい。

米長期金利は大きく低下して2年債利回りは1.55%、10年債利回りは1.64%に。

米国株は業績懸念から大幅安となりNYダウは300ドル近い下げ。ドル円相場は108円40銭近辺から107円70銭近辺に下落してそのまま引け。ユーロドル相場は1.089を割っていたが1.093~94に反発した。ユーロ円相場は117円70銭~80銭に小幅下落してもみ合い。

水曜日の東京市場のドル円相場は107円70銭で始まり底固く、80銭~90銭に上昇。しかし夕刻には60銭~70銭でのもみ合いとなった。ユーロ円相場も117円80銭近辺から一時118円を回復したが夕刻には117円50銭中心の上下に。ユーロドル相場は1.093~94でもみ合いの後夕刻には1.090近辺に下落した。

日経平均は21,750円近辺で安寄り。ただその後はもみ合い、21,750円~800円で底固く、そのまま引けた。海外市場に入るとさらに米株安・長期金利低下、ドル安に。

発表されたADP雇用報告(9月)で雇用者数前月比が+135千人と予想+140千人を下回るとともに、前月の数字が+195千人から+157千人に大幅に下方修正された。

発表元が中小企業を中心に雇用に慎重な姿勢がみられるとし、今後の雇用情勢悪化への懸念が広がった。

米国株は大幅続落。ダウは500ドルの下げ。前日と合わせて800ドルの下げに。WTOがEUによるエアバスに対する補助金に関し米国に対EU報復関税を認めたことで米欧通商摩擦懸念が台頭したことも悪材料に。

米長期金利も低下。2年債利回りは1.48%に、10年債利回りは1.60%に。ドルは急落。ドル円相場は107円10銭~20銭でかろうじて107円を維持。ユーロドル相場は1.096に上昇、ユーロ高ドル安。ユーロ円相場は117円台半ばでもみ合い方向感はなかった。

木曜日の東京市場のドル円相場は107円20銭で始まり、海外市場のドル安円高の流れのままに一時107円ちょうどをつけた。ユーロ円相場も117円40銭台でのもみ合いから30銭割れに下落。

日経平均は21,400円近辺で大幅安寄りの後、続落して21,300円~350円でもみ合い、引けは21,350円近辺。

ドル円相場は夕刻にかけては持ち直し107円20銭~30銭、ユーロ円相場も117円40銭中心の推移となった。ドルは対ユーロで小幅反発。ユーロドル相場は1.094に下落した。

海外市場に入ると米経済指標への警戒感からやや円高の動き。ドル円相場は106円90銭をつけ107円ちょうど中心の上下に。ユーロ円相場も117円20銭~40銭での推移となった。

発表されたISM非製造業景気指数(9月)は52.6と前月の56.4から大きく悪化して予想55.0を下回った。雇用指数は53.1から50.4に、新規受注は60.3から53.7に大きく悪化。

業況指数が50を維持したことで、サービス業はゆるやかながら拡大を続けている、とされたが、市場では景気失速懸念が強まった。利下げ期待がさらに高まりあと2回の利下げを予想する見方が浮上。米2年債利回りは1.39%に大幅低下。10年債利回りも1.53%に低下した。

米国株は一時NYダウが200ドルの下げとなり、3日間の下げが1,000ドルに達したところで切り返し。年末商戦が好調との見方が伝えられ、また利下げ期待が強まったことも支えとなり、前日比上昇となった。

ドルはISM発表直後に急落。ドル円相場は107円10銭近辺から急落して106円50銭。ユーロドル相場も1.099にユーロ高ドル安。ただその後ドルはじりじりと持ち直し、ドル円相場は106円90銭近辺で引け。ユーロドル相場は1.097。ユーロ円相場は方向感なく117円20銭~30銭で取引を終えた。

金曜日の東京市場のドル円相場は米雇用統計の発表を控えて小動き。ただ警戒感は根強くややドル安。106円90銭で始まり106円70銭へじり安。

ユーロドル相場は1.097で始まり夕刻は1.099に小幅ユーロ高ドル安。ユーロ円相場は117円20銭近辺で方向感なくもみ合いとなった。日経平均はドル安円高を嫌気したものの米国株が堅調だったことから

21,300円近辺で小幅安寄り。その後はジリ高の展開で引けは21,400円台に戻した。

注目の米雇用統計(9月)は、非農業部門雇用者数・前月比が+130千人と予想+145千人を下回ったが、前月が+130千人から+168千人に上方修正されたことでまずまずの数字。失業率は3.5%と1969年12月以来、50年ぶりの低水準となった。

一方で平均時給は前年同月比+2.9%と前月+3.2%から上昇率が鈍化した。弱い数字が続いたことで景気失速懸念が強まっていたが、この結果でひとまず安心感が広がり米長期金利は下げ一服。10年債利回りは1.53%で前日と変わらず、2年債利回りは小幅上昇して1.41%。

株価は上昇。NYダウは前日比+370ドル。リスク回避に歯止めがかかった。ドル円相場は発表直後に107円10銭に上昇。ユーロドル相場も1.099から1.096へ小幅ドル高。ユーロ円相場は117円50銭に上昇した。ただその後は伸び悩み、ドル円相場の引けは106円90銭、ユーロ円相場は117円40銭。

パウエル議長はこの日発言し、失業率は半世紀ぶり低水準、インフレ率は目標の2%をやや下回った水準、米経済はいくらかのリスクを抱えているものの良好な状態にある、と述べた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米中通商閣僚級協議

今週10日木曜日・11日金曜日の両日にわたり米中通商閣僚級協議が開催される。このところ米中ともに関税適用の見送り、延期など歩み寄りの姿勢がみえたが、一方で米国サイドでは対中投資制限を検討する動きもみえる。

今回は何らかの前進がみられ、市場心理あるいは企業心理に好影響をもたらすか。

米国は国内景気の堅調さを背景に強気の交渉スタンスを続けてきたとみられるが、足元の経済指標の悪化で柔軟な姿勢への転換はあるか。

2.FOMC議事録、パウエル議長発言

先週のISM景気指数は製造業・非製造業ともに大きく悪化し、企業部門の疲弊が垣間見られた。市場ではあと2回の利下げが視野に入ったとの見方も強まっている。

今週は水曜日(日本時間木曜日未明3:00)に9月のFOMC議事録が公表される。この会合では利下げが実施されたが、さらなる利下げについてどのような意見がみられたか。一方、その後の弱い経済指標によって直近のスタンスは緩和に傾いたか。

今週はパウエル議長の発言も予定されている(日本時間9日水曜日未明2:50、および同23:30)。景気下方リスクの認識を強めているか、追加利下げへの前向き度合いはどうか。

3.ドイツ経済指標、ECB議事要旨

ECBドラギ総裁は景気物価見通しに慎重な姿勢を強調。ECBは9月に金融緩和を実施したが、物価の低迷、デフレ圧力から追加緩和を排除せず、また金融政策の限界から財政出動も要請している。

今週はドイツで製造業受注、鉱工業生産が発表され、また木曜日にはECB議事録が公表される。危機意識を再確認できるか。一方で、量的緩和に対する中核国の反対はどうか。

◆今週のMRA's Eye


景気懸念台頭も株価底固くリスク回避強まらず

先週発表された米国の経済指標は弱い数字が続き、景気失速・後退懸念がにわかに高まった。ISM景気指数は製造業、非製造業ともに悪化し、とくに製造業は景況感の分かれ目である50を回復するとの予想に反してさらに悪化し、金融危機以来の低水準となった。

また雇用指数は製造業、非製造業双方で悪化して、非製造業でも50.4と50割れ目前に低下した。

ADP雇用報告では雇用者数増加幅の前月分が大きく下方修正され、発表元が、中小企業中心に雇用に慎重な姿勢がうかがわれる、とコメント。企業の景況感悪化が雇用に拡大するとの懸念が広がった。米国経済は企業部門とくに製造業の苦戦が続くなか、雇用情勢が良好で個人消費を中心に堅調を維持している、との見方から、懸念がありながらも底流での安心感が維持されてきた。そこにここいくつかの指標が疑念を投げかけることとなった。

もっとも週末に発表された雇用統計では、雇用者数前月比はまずまず良好な数字となった。9月は136千人の増加、前月8月は130千人増加から168千人増加に上方修正された。

また労働参加率が63.2%で維持されたなか、失業率が3.7%から3.5%に低下。およそ50年ぶりの低水準となった。これだけ失業率が低いなかでは、そもそも大幅な雇用者数増加は見込みにくく、100千人増加程度でも良好な雇用情勢を示しているとされる。

一方で平均時給の上昇率が前年同月比3.2%から2.9%に低下してインフレ圧力が弱いことも示された。雇用情勢が良好でインフレ圧力がない、という組み合わせは、当局にとっては安心すべき状況だろう。

一連の弱い企業景況感で利下げ期待が高まっている。あと1回の利下げは確実となったようにみられるが、にわかに台頭した2回利下げについては微妙だ。

市場の利下げ織り込みが強まったことで2年債利回りは大きく低下した。景気後退のシグナルともみられる2年債と10年債に利回り格差、逆イールドはすでに解消しており、週末には1.41%と1.53%となって、利回り格差は+0.1%以上に拡大した。額面通りに解釈すれば景気後退リスクはむしろ弱まったということになる。

市場にとってリスク回避がどれだけ強まるかが重要だ。今年年初から続いている投資スタンスだが、リスク選好が弱まればキャピタルゲイン志向が後退し利回り志向が強まる。

グローバルに「利回りつぶし」が続いているが、その流れはなおしばらく続きそうだ。矛盾するようだが、この点がむしろリスク回避の強まりを抑制している面もある。

市場でリスク回避が強まる、加速するパターンは、リスク回避が株価の下落をもたらし、それが時価総額を減少させて投資家の体力を奪い、またVIX指数に代表されるボラティリティ(予想変動率)指数の上昇がリスク資産評価を悪化させ、リスク回避を高める、という悪循環によってもたらされる。

株価下落に歯止めがかかるかどうかが重要なポイントだ。この点、米国株が割高か割安かが重要になる。

現在、米国株の利回り、PERの逆数である株式益回りは十分に高い。S&P500でみて5%台。FF金利が2%を下回り、また10年債利回りが1.5%台まで低下した状況では十分に高い利回りだ。企業収益が減益とならない限り魅力的な利回りといえる。

利回り志向が強まるなかでも、すでに債券利回りが大きく低下しているために、これが株価の下支えとなる状況だ。

その結果、リスク回避が株価下落とともにスパイラル的に悪化する状況は回避されやすい。ちなみに日経平均の株式益回りは6%台半ば。ゼロ金利のなかで非常に高く、日本株がこの間底固さを示しているのは頷ける。

リスク回避への歯止めが維持されるかどうかの鍵は企業業績だ。米国では間もなく7-9月期決算の発表となる。ここでの業績見通しは重要。そこに減益予想が増えるようなら、リスク回避が深化する可能性があるので注意を要する。

一方で、米中通商交渉閣僚級協議で何らかの進展の兆しが見えるようなら、企業の景況感改善への期待が広がる可能性もあろう。

ドル円相場が105円を割るシナリオは、リスク回避がスパイラル的に深化するケースだが、現時点ではそれはサブシナリオだ。米国景気はなお堅調さを失っておらず、雇用情勢は良好。インフレ圧力の後退で利下げの可能性はさらに強まったが、むしろリスク選好を支えることとなる。

逆に米中交渉に進展がみられれば、再びリスク選好が回復し108円台に戻す可能性もあろう。ただリスク選好回復のケースではドル円相場よりもクロス円相場での円安が大きくなりそうだ。

ユーロ円相場の変動は引き続きドル円相場よりも相対的には大きくなりそうだ。

ただ欧州景気全般への懸念、ECBによるマイナス金利深掘り、あるいはイギリスの離脱問題もあり、欧州通貨全般はなお弱含みだろう。

高金利通貨や資源国通貨が上昇に転ずるかが米中交渉ないし米国株の動向により明確に左右される。ドルに対して軟調が続いており、また欧州通貨が軟調ななかドルそのものの堅調も続いているが、その流れが反転する可能性も全くは排除できない。

その場合にはドル円相場もドル高円安に振れるが、相対的には上昇ペースは鈍ることになろう。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :106.94(+0.02)
ユーロ :117.39(+0.17)
英ポンド :131.886(+0.05)
豪ドル :72.385(+0.31)
カナダドル :80.316(+0.15)
スイスフラン :107.382(+0.36)
ブラジルレアル :26.3553(+0.17)
中国人民元 :14.952(+0.01)
韓国ウォン(日本円=100) :8.968(+0.07)

【対ドルレート】
ユーロ :1.0979(+0.001)
英ポンド :1.2331(▲0.000)
豪ドル :0.6771(+0.003)
カナダドル :1.3314(▲0.002)
スイスフラン :0.9958(▲0.003)
ブラジルレアル :4.0568(▲0.025)
中国人民元 :休場( - )
韓国ウォン :1196.56(▲8.57)

【主要国政策金利】
米国 :2.00
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :1.53(▲0.01)
米2年債 :1.40(+0.01)
日本10年債利回り :▲0.21(▲0.02)
日本2年債利回り :▲0.21(+0.01)
独10年債利回り :▲0.59(+0.00)
独2年債利回り :▲0.78(+0.00)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :26,573.72(+372.68)
NASDAQ :7,982.47(+110.21)
S&P500 :2,952.01(+41.38)
日経平均株価 :21,410.20(+68.46)
ドイツ DAX :12,012.81(+87.56)
インド センセックス :37,673.31(▲433.56)
中国上海総合 :休場( - )
ブラジル ボベスパ :102,551.30(+1,035.30)
英国FT250 :19,480.37(+132.21)
ビットコイン :8170.58(+9.25)

【主要商品価格】
WTI :52.81(+0.36)
Brent :58.44(+0.73)
米ガソリン :157.34(+1.75)
米灯油 :189.45(+1.85)

金 :1504.66(▲0.53)
銀 :17.55(▲0.01)
プラチナ :880.02(▲8.62)
パラジウム :1667.47(+8.73)
銅 :5635.00(▲22:36C)
アルミニウム :1715.50(+5:14C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :916.25(+4.50)
シカゴ とうもろこし :384.75(▲4.00)
シカゴ小麦 :490.50(+1.75)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。