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囚人のジレンマ
  • ビジネスへのヒント
  • MRA商品市場レポート for MANAGEMENT(週末版)

【ビジネスへのヒント】第378号

遠藤課長「ウチ(A社)のライバルB社が値下げをしてきたな」
佐藤主任「そうですね、このタイミングで値下げをしてくるとは...何か対抗策はありますかね」
遠藤課長「差別化のしにくい商品だからな...やはりウチも値下げをするしかないか」

このテーマは、経済学ではよく採り上げられる「囚人のジレンマ」と言われている問題です。簡単に囚人のジレンマを説明すると、共犯者2名が警察に逮捕され警察から司法取引に関して以下の条件を与えられます(ただし、囚人同士は接触することができません)。その時に囚人はほかの囚人と強調して黙秘を続ける、あるいはほかの囚人を裏切って自白をする、のどちらを選ぶべきかという問題です。

(条件)
・2人とも黙秘した場合、2人とも懲役2年
・自分が自白し、相手が黙秘をした場合には、自白した囚人は懲役1年、黙秘した囚人は懲役15年(逆もあり)。
・2人とも自白した場合、懲役10年。

学問的には、「もし相手が黙秘をした場合、自分も黙秘すれば懲役は2年だが、自分が自白すれば1年、だから自白しよう」「もし相手が自白を選んだ場合、自分は黙秘すれば懲役は15年だが、自分も自白すれば10年で済む、だから自白しよう」という思考が働き、両社とも結局自白し懲役は10年になることになります。これを遠藤課長と佐藤主任の話に置き換えてみましょう。仮に市場規模が変わらず(使用数量が変わらず)、価格の20%値下げによってシェアが30%:70%になると仮定します。そうすると上の囚人の懲役は以下のように書き変わります(もちろん実際はここまで単純ではありません)。

・A社、B社とも価格を維持した場合、売上は10億円。
・A社が価格を維持し、B社が値下げをした場合には、A社の売上は6億円、B社の売上は11.2億円。
・A社、B社とも値下げを行った場合、売上は8億。

囚人のジレンマと同じであれば、結果的にA社、B社とも値下げを行い、売上は8億に減少する可能性が極めて高いといえます。ですので、先に値下げを実施した場合には多くの場合、値下げが追随して行われるようです(牛丼戦争もそうでしたね)。こういうときに何を考えればよいのでしょうか?ポイントは「その製品の値下げが継続的なものであるか、そうでないか」「値下げの原資はどこからきているのか」を見極めることです。値下げの原資はもし損を計上していないとするならば、固定費・変動費の削減、購買タイミングを計り、安い価格で購入する(先物取引の活用もあり得る)の2通りしか方法はありません。もしそれが、たまたま原材料を安い時に仕込むことができたことによる値下げであった場合には、その値下げは当然長続きしないことになりますし、固定費や変動費の削減によって対応したものなら、その値下げの効果は持続することになります。しかしいずれにしても市場価格を無視した値下げは、特殊なビジネスモデルを構築していない限り(あるいは損失覚悟の在庫一掃処分等をしない限り)、実施するのは難しいといえます。ですので、まずは慌てず、先方の値下げの意図するところが何なのかを、市場価格を分析することで探ってみることが大切です。

※過去に掲載したものを再掲しています。