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リスク回避と景気対策~円相場のシナリオ
  • MRA外国為替レポート

2019年8月26日号

◆先週の市場総括


先週のドル円相場は106円40銭近辺で始まり、その後は106円台半ばを中心に上下動。週末のパウエル議長の発言を見極めようと姿勢が強かった。

それに先んじて発表されたFOMC議事録やFRB当局者の発言からは追加利下げに慎重な姿勢がみられたことでドルは底固い値動き。米長期金利は低下一服。10年債利回りは1.6%近辺で推移した。

ECB議事録では積極的な緩和策が議論されていたこともあり、ユーロドル相場は1.11近辺でもみ合いの後、ややユーロ安ドル高。そうしたなか週末に中国が対米報復関税を発表。これに対して米国が直ちに対抗措置を発表し、先般決定した対中関税の税率を引き上げることとした。

これを嫌気して市場ではリスク回避が一気に高まった。米国株は大幅下落。米長期金利は低下。米10年債利回りは1.53%に。為替市場では円が全面高。ドル円相場は105円30銭に急落して40銭近辺で週末の取引を終えた。

ユーロ円相場は週前半118円近辺で推移したが週末は117円40銭近辺に下落して引け。

月曜日の東京市場は106円40銭中心に上下、その後は30銭~40銭でもみ合い。ユーロ円相場は118円ちょうどを中心に上下動。ユーロドル相場は1.11近辺で小動き。

日経平均は前週末に米国株がしっかりでドル円相場も底固かったことから20,600円で高寄り。その後は上値を抑えられたが20,500円台半ばで引けた。

週末に中国人民銀行が金利改革を発表し企業の借り入れコスト低下が図られるとの思惑が高まって中国株が堅調に推移した。

海外市場に入ると、ドイツではシュルツ財務相が景気悪化時の財政出動の可能性に言及。各国の景気刺激策への期待が高まるなか、欧米長期金利が上昇し株価は堅調に推移した。米国がファーウェイ社への制裁発動を90日間猶予したことも一助に。

米10年債利回りは1.60%に上昇。ドル円相場は106円60銭中心にもみ合い。ユーロドル相場はややユーロ安ドル高に振れて1.1080。ユーロ円相場は118円台に乗せて推移。ボストン連銀総裁は引き続き追加利下げに反対の姿勢を示した。

火曜日の東京市場の為替市場は小動き。ドル円相場は106円60銭近辺で、ユーロ円相場は118円10銭近辺で、ユーロドル相場は1.1080台で、それぞれもみ合い横ばい。

日経平均は20,600円台で小幅高寄り、その後は底固い展開。20,600円台半ばでもみ合い引け。米・中・独の景気対策への期待も支えに。

中国では人民銀行が銀行貸し出しに関する新たな基準金利の公表を開始した。

海外市場に入るとイタリアの政局不安からリスク回避が高まった。イタリアのコンテ首相が辞意を表明、連立政権が崩壊。市場のリスク選好に冷や水を浴びせた。

ユーロ円相場は117円60銭に下落。ドル円相場も下落して106円20銭~40銭で上下。全般的にやや円高となった。

米国株は下落、米長期金利は低下して10年債利回りは1.55%。ユーロはその後反発してユーロドル相場は1.11ちょうど近辺、ユーロ円相場は118円ちょうど近辺。ドル円相場は106円20銭で引けた。

水曜日の東京市場のドル円相場は106円20銭で始まり昼には上昇して50銭中心にもみ合い。ユーロ円相場も117円90銭から118円20銭中心のもみ合いに。全般的にやや円安となった。

日経平均は20,500円近辺に安寄りとなったが堅調で、20,600円近辺でもみ合い引け。引き続き中国政府の景気下支えに対する期待がリスク選好を支えた。

海外市場に入ると米国株が上昇。NYダウは200ドルを超えて上昇。小売業の決算が良好、個人消費の強さが再確認され株価は全面高となった。

公表されたFOMC議事録(7月30日・31日開催分)が公表され積極的な利下げ観測が後退。米長期金利はやや上昇。2年債利回りは1.58%、10年債利回りは1.59%。

これに支えられてドルが小幅上昇。ドル円相場は106円60銭、ユーロドル相場は1.1080台。

トランプ大統領は、中国との交渉はうまくいっている、パウエル議長は利下げすべき、と従来の主張を繰り返した。FOMC議事録では一段と積極的な利下げについて議論されたが、利下げは景気サイクル中盤での政策調整であり、利下げサイクル入りではないことを確認。追加緩和が続くような印象を与えないことで一致したことが明らかになった。

発表された米国の中古住宅販売(7月)は季節調整済み年率換算で542万戸(前月は527万戸)と強めだった。

木曜日の東京市場のドル円相場は106円60銭近辺で始まり上値重くじりじりとドル安円高に。夕刻には30銭~40銭中心にもみ合い。ユーロ円相場は118円20銭で始まり117円80銭に下落するとその後は118円を挟んで上下。

日経平均は20,700円台前半で高寄りも下落し、後場は20,600円近辺でもみ合い引けは20,600円台前半。

注目は各国当局者などを集めてこの日から始まるジャクソンホールシンポジウムに。欧州ではECB理事会議事要旨(7月25日開催分)が公表された。利下げと資産買い入れの組み合わせに効果があるとして検討していたことが明らかになった。

米国ではFRB当局者の発言が相次いだ。フィラデルフィア連銀総裁は、政策金利は現時点で中立、当面は現状水準で様子見を、と発言。カンサスシティ連銀総裁は、金利水準はほぼ均衡、現状水準での維持に前向き、今後景気悪化の証拠がなければ利下げは必要ない、と述べた。

これに対してダラス連銀総裁は、追加利下げは避けたいが柔軟なスタンス、と発言した。ややタカ派的な発言を受けて米長期金利は小幅上昇。2年債利回り、10年債利回り、ともに1.61%。ドル円相場は106円60銭に上昇した。

発表されたPMI景況感指数(8月)は、欧州では前月から改善。ドイツ製造業は43.2から43.6へ。ただ8か月連続で景況感の分かれ目である50割れ。一方米国では製造業PMIが49.9と前月の50.4から悪化してこの間で初めて50を割り込んだ。

米国株はまちまち。ドル円相場は106円40銭近辺で引け。ユーロ円相場は118円ちょうど近辺。ユーロドル相場は1.1080。

金曜日の東京市場のドル円相場は106円40銭で始まり底固く106円60銭台に上昇。ユーロ円相場は117円90銭で始まり118円ちょうど近辺で上下した。ユーロドル相場は1.1080で始まりユーロ安ドル高。1.1060台。

日経平均は20,600円近辺で寄り付き、小じっかり。20,700円近辺でもみ合い引けた。

夕刻にかけてドルはなお堅調。ドル円相場は106円70銭に、ユーロドル相場は1.1050台へ。海外市場では引き続きFRB当局者の発言が相次いだ。

クリーブランド連銀総裁は、下方リスクには留意しているが現状では何も変更しないことを主張。ダラス連銀総裁は、米経済の下押し要因は金融政策ではなく通商や移民問題、との認識を示した。

セントルイス連銀総裁は、9月のFOMCで0.50%の利下げについて活発な議論となろう、と述べた。

注目されたパウエル議長は、米経済は望ましい状況にあるものの著しいリスクに直面している、通商政策を巡る不確実性は世界経済の減速や米国における製造業、設備投資の弱さの一因となっているようだ、力強い労働市場と対称的な2%の目標に近いインフレを伴う景気拡大の維持に向け適切に行動する、先月のFOMC以降の出来事が多かった、と述べた。

追加利下げのニュアンスは示したが市場の期待からは外れず市場の反応は限定的だった。

一方、米中貿易摩擦を巡る状況は悪化。中国が対米報復関税を発表。米国の追加関税の発動に合わせて9月には大豆と原油に、12月には自動車に対し、総額750億ドル相当の米製品への関税上乗せを公表した。

これに対してトランプ政権は対抗措置を検討することを表明。米中貿易摩擦の悪化を嫌気して市場ではリスク回避が強まり米国株は大幅下落。NYダウは600ドル超の急落。米長期金利は低下して、2年債利回り、10年債利回りはともに1.53%。

ドル円相場は105円30銭に急落して引けは105円40銭。ユーロ円相場は117円40銭近辺に下落してもみ合い引け。ドルは対ユーロでも下落してユーロドル相場は1.1140台にユーロ高ドル安が進んだ。

明らかになった米国の対抗措置は、すでに決定している対中関税について、現行の2,500億ドルについて10月1日から25%を30%に、今後導入を決めている3,000億ドルについて10%から15%に、それぞれ引き上げる、という内容。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米中貿易摩擦への懸念、株価動向

先週末金曜日に、にわかに米中貿易摩擦への懸念が強まった。米中間で再び関税報復合戦の様相を呈したことで市場全体のムードがリスク回避に傾き、週明けの市場もそうした心理が払しょくされないままとなりそうだ。

株価がさらに下押すのか。防衛的なトレードが一巡しつつあったところで、再びリスク回避が強まったが、さらなる株式保有の引き下げにつながる展開となるのか。米中間の動きは改善するべくもないが、市場のリスク回避行動がさらに深まるのかどうか、株価動向を物差しとして、観測する必要がある。

2.米国の経済指標

米国経済は雇用消費を軸になお堅調さを維持しているが、企業部門の弱さは当局も気にするところ。弱気に傾いた市場心理、不安感の背中を押すか、あるいはある程度の安心感をもたらすか。

月曜日 耐久財受注(7月、前月比、予想+1.1%、前月+2.0%)

火曜日 ケースシラー住宅価格指数(6月)、リッチモンド連銀製造業指数(8月、予想▲1、前月▲12)、消費者信頼感指数(同、予想130.0、前月135.7)

木曜日 GDP(4-6月期改定値)

金曜日 個人所得・消費支出(7月)、シカゴ購買部協会景気指数(8月)、ミシガン大学消費者信頼感指数(8月・確報)

3.欧州の経済指標

欧州景気の悪化が経済指標でも顕在化。これを受けてECBは9月に金融緩和を決定する可能性が高まっている。直近のPMIではやや改善の兆しがみられたが、今週の指標が金融緩和を決定づける弱さを示すか。

月曜日 ドイツIFO景況感指数(8月)火曜日にドイツGDP(4-6月期、改定値)

水曜日 ドイツGfk消費者信頼感調査(9月)

木曜日 ドイツ消費者物価指数(8月)、失業率(同)、ユーロ圏消費者信頼感指数(8月)

金曜日 ユーロ圏消費者物価指数(8月)、ドイツ小売売上高(7月)

◆今週のMRA's Eye


リスク回避と景気対策~円相場のシナリオ

先週末、米中通商摩擦がさらに悪化したことから、ひとまず落ち着きをみせ始めていた市場のリスク回避がまたしても強まった。景気悪化リスクがさらに高まったとみて長期金利は低下。株価は下落。為替市場では円買いが進みドル円相場は105円台前半に下落した。

9月は12日の理事会でECBが金融緩和に動くことが確実視され、FRBも17日・18日のFOMCで追加利下げを決めることが確実とみられている。

利下げは十分に織り込まれているという点では、利下げ実施により大きくドル安円高、ユーロ安円高が進む可能性は小さいとみられるが、とはいえ円安となる理由はそれ以上に乏しい。

利下げを前に、あえてドル買い円売り、ユーロ買い円売り、に動く市場参加者は少なく、目先、少なくとも短期的に、投機筋は円買いを仕掛けやすい。

これに対してリスク回避をテーマとしたトレードが一巡した気配もあり、円高にブレーキがかかっていたのが先週初の状態。しかし中国が対米報復関税の実施に動き、これに対して米国がさらに対抗したことから、リスク回避による円買いが力を得るかたちとなった。

ファンダメンタルズ、金融政策、それぞれの方向感、さらにグローバルなリスク回避の蔓延、など、円高を想起させる材料が積み上がった。投機筋はかねてから円買い・円高を仕掛けたがっていたが、それを勇気づけ、一段とその背中を押す状況となっている。

投機筋の円ロング戦略は当面続きそうだ。米中摩擦を主要因とする米国景気の減速、世界経済の悪化懸念、それを背景とする米欧を中心とする金融緩和、が材料。

米欧の金融緩和、長期金利低下。日本は金融緩和に限界があり、米欧と日本の金融政策格差は縮小して円高方向に。株価軟調でリスク回避基調が続くとなれば円買いムードが続き、心理的に円売りには動きにくいということだろう。

目先の9月のFOMCにおいても、利下げ実施が確実であることはもちろん、積極的な利下げなら金利面からドル売り(円買い)、利下げに慎重なら株価が軟調となりリスク回避が強まることで円買い、と、どちらに転んでも円買いとの見方が強まっているようだ。

それは円買いを仕掛ける投機筋の都合のよい考え方といえるが、とはいえ、円売り・円安に動く材料に乏しいのも事実だ。9月のECBそしてFOMCが終わるまでは円高に動きやすい状況が続こう。

一方、現在の景気悪化懸念の元凶は、間違いなく、政治・外交・通商問題だ。金融当局は理由如何にかかわらず景気悪化のリスクがあれば対応せざるをえないが、政治の責任を金融政策にばかり押し付けるかたちとなっているのも事実。

そろそろ金融当局者としては政府の責任を問い、適切な対応を求めたいところだろう。関税が実質的な増税だとすれば、そのマイナス効果を財政政策で埋め合わせるのが本来だ。

トランプ政権としては次第に景気持ち直しが必要となってくる。思い通りにFRBが金融緩和に動かないとすれば、自ら財政出動で何とかするしかないだろう。

欧州ではECBが限界的な状況で最後のカードともいえる総合的な追加緩和を実施しようとしている。加えて健全財政の維持に固執するドイツ政府が、財政支出を匂わせ始めた。

景気悪化懸念・リスク回避とこれに対する対策としての米欧の金融緩和の組み合わせは、ドル安円高、ユーロ安円高をもたらす。

しかし同じ景気対策・リスク回避の緩和でも、財政拡大となれば為替への影響は180度転換する。理論的には、金融緩和は通貨安要因だが、財政拡大は通貨高要因だ。

日本は10月に消費税率引き上げ予定であり、額面通りにみれば財政は緊縮方向。もちろん短期的には景気対策で埋め合わせするはずだが、財政政策の方向は緊縮方向との見方となる。

これに対して米欧が財政拡大となれば長期金利の流れは変化して上昇に転ずる可能性が大きい。財政拡大がリスク選好の回復を伴えば、一段とそうした状況となる。

当面は景気悪化・リスク回避・欧米の金融緩和、がテーマで円高となりやすい。しかし財政政策による対応、減税や景気対策が打ち出されればリスク回避が緩和。下がり過ぎた米欧の長期金利が上昇する可能性がある。

それに米中の摩擦緩和が加わればなおさらだ。こうしたリスクシナリオはなお先で、年末・年初にかけて現出するかどうかだ。

足元で世界景気の後退やトレンドとしての米利下げ局面や円高局面入りしたわけではないとすれば、ドル円相場は引き続き105円~108円のレンジ中心の動き。

さらなるリスク回避、投機主導による円高であれば一時的。リスクシナリオとして、追って流れが逆転してドル高円安方向に可能性を徐々にみておく方がよいのではないか。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :105.43(▲1.01)
ユーロ :117.48(▲0.46)
英ポンド :129.516(▲0.88)
豪ドル :71.193(▲0.72)
カナダドル :79.355(▲0.66)
スイスフラン :108.15(▲0.05)
ブラジルレアル :25.5666(▲0.58)
中国人民元 :14.879(▲0.15)
韓国ウォン(日本円=100) :8.679(▲0.11)

【対ドルレート】
ユーロ :1.1143(+0.006)
英ポンド :1.2285(+0.003)
豪ドル :0.6755(▲0.000)
カナダドル :1.3286(▲0.002)
スイスフラン :0.9749(▲0.009)
ブラジルレアル :4.1233(+0.052)
中国人民元 :7.0956(+0.009)
韓国ウォン :1210.69(+3.42)

【主要国政策金利】
米国 :2.25
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :1.53(▲0.08)
米2年債 :1.53(▲0.09)
日本10年債利回り :▲0.23(+0.01)
日本2年債利回り :▲0.23(+0.01)
独10年債利回り :▲0.68(▲0.03)
独2年債利回り :▲0.89(▲0.03)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :25,628.90(▲623.34)
NASDAQ  :7,751.77(▲239.62)
S&P500 :2,847.11(▲75.84)
日経平均株価 :20,710.91(+82.90)
ドイツ DAX :11,611.51(▲135.53)
インド センセックス :36,701.16(+228.23)
中国上海総合 :2,897.43(+13.99)
ブラジル ボベスパ :97,667.50(▲2,343.80)
英国FT250 :19,236.13(+30.81)
ビットコイン :10356.88(+174.12)

【主要商品価格】
WTI :53.90(▲1.45)
Brent :59.10(▲0.82)
米ガソリン :164.39(▲2.36)
米灯油 :181.04(▲3.09)

金 :1526.39(+28.33)
銀 :17.42(+0.38)
プラチナ :857.53(▲0.75)
パラジウム :1462.81(▲25.42)
銅 :5698.00(+8:23C)
アルミニウム :1770.00(+4:24C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セト
ル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :843.25(▲12.75)
シカゴ とうもろこし :359.75(▲3.50)
シカゴ小麦 :475.25(+8.00)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。