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景気への懸念で軟調も緩和期待が支え
  • MRA商品市場レポート for PRO

2019年9月4日 第1599号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気への懸念で軟調も緩和期待が支え」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は米中対立の激化と、ISM製造業指数の悪化を受けて景気循環系商品価格には下押し圧力がかかり、貴金属やその他の農産品などの非景気循環銘柄が物色される流れとなった。

唯一好調を維持してきた米国経済も、製造業のマインドに悪化が見られ、市場の金融緩和観測が強まっている。恐らくトランプ大統領も、「FRBは▲1%以上の利下げをするべきだ」と、圧力を掛けると予想される。

【本日の価格見通し総括】

本日は夜間発表の米ベージュブックと、英国のブレグジットを巡る動向に注目が集まり、基本、リスク回避で軟調地合いとなるが、同時に金融緩和期待が高まるため、底堅い推移になると考える。

ベージュブックでは恐らく、雇用環境は良好だが、製造業セクター、農業セクターに減速がみられるといった内容になると考えられ、緩和期待を高めると予想される。

英議会動向も、リスク回避姿勢を高めることになるだろう。

ジョンソン首相は、EUに対して離脱期限の延期を求める法案を与野党が可決する見込みとなる中、仮にそれが可決されれば解散総選挙の手続きを始めるとした。

しかし、英議会解散には、1.下院の3分の2以上の賛成、2.内閣不信任案の可決、のいずれかが必要になり実際に解散となるかは不透明である。解散総選挙があるなら、2.の場合だろう。

仮に解散となれば、総選挙期間中にブレグジットの期限が到来するため、自動的に無秩序離脱となる。世界中どこでも、「首相になりたい、続けたい人間の政治ゲーム」に巻き込まれるのは国民だ。

【昨日の世界経済・市場動向のトピックス】

昨日発表された米ISM製造業指数は市場予想を大幅に下回る内容となり、好不況の閾値である50を下回った。この水準を付けるのは3年ぶりである。

特に落ち込みが顕著だったのが新規受注で47.2となった。新規受注はトレンド的には2017年末がピークで67.3をマークしていたが、ほぼ一貫して水準を切り下げている。この47.2を付けたのは2012年の欧州債務危機と、サブプライムショック~リーマンショック後しかない。いずれも「危機発生時」の水準である。

新規受注の落ち込みの動きを見ると、トランプ政権の政策が下押し圧力となったことは間違いないものの、トランプ減税の効果でマインド改善→その反動と利上げの影響、米中戦争の影響が下押しを加速、という感じであり「放っておけばよかった」というのが正直な印象だ。

しかし、景気の落ち込みが確認されたことから、9月の米利下げはほぼ確実だろう。問題は▲25bpなのか、▲50bpなのかということだ。恐らく9月は▲25bpの利下げを行い、またトランプ大統領にせっつかれる形で12月にもう1回▲25bpの利下げ、というのがメインシナリオではなかろうか。

上記の通り、金融・財政政策の効果は中長期的には中立であり、2020年に米大統領選挙をにらんで無茶をすれば、2021年の景気の減速は想定以上に大きなものになる可能性がある。

【景気循環銘柄共通の価格変動要因整理】

(マクロ要因)

・各国のPMI・ISMなどのマインド系指標再びの減速(価格下落要因)。

・世界景気の減速観測。IMFは2019年の経済見通しを引き下げ(+3.3%→+3.2%)ている。2020年は+3.5%(▲0.1%)に戻る楽観見通しであるが、米中交渉の決裂懸念など、引き続きリスクは下向きとしている。

・FRBの利下げの可能性が再び高まる。世界経済の悪化懸念を材料にFRBは利下げ方向に舵を切っている。

・景気減速を受けた、各国政府・中銀の財政政策・金融緩和は価格の上昇要因(Q219の中国GDPは前年比+6.2%、前期+6.4%と1992年の統計発表以来の低水準となり、減速懸念が再び意識されている)。

※一方、鉱工業生産や固定資産投資などは政府の対策の影響が徐々に顕在化している形。

・2018年からインドが人口ボーナス期入りしており、構造的な需要の増加が見込めることは中長期的な価格の上昇要因。

(特殊要因)

・米中通商交渉は、相互が制裁強化を決定、さらに関係が悪化した。今後仮に進捗があったとしても、通商協議の根本解決には複数年単位の時間が必要で、その間世界経済がさらに減速する場合(下落要因)。

・欧州の政治混乱(伊仏の対立、ポピュリズムの台頭、トルコと欧州の関係悪化、トルコの景気減速など)によるリスク回避の動きの強まり(下落要因)。

・中東情勢の悪化を受けた域内景気の混乱と、それを受けた欧州景気への悪影響拡大(下落要因)

・英国のEU離脱が無秩序なものになるリスク。ジョンソン首相は英議会の休会を決定、ハードブレグジットはほぼメインシナリオに。また、EUにブレグジットの影響が波及するリスク(下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(下落要因)。

・日韓対立によるハイテク分野の市場混乱や、極東地区の地政学的リスクの高まり(下落要因)。

(投機・投資要因)

・米利下げ観測の高まりで長短金利逆転状況が解消し、金融株を中心に株が上昇、リスクテイク再開で景気循環系商品価格にプラスの影響を与える場合。

◆昨日の商品市場(個別)の総括


---≪エネルギー≫---

【原油市場動向総括】

原油相場は下落後上昇した。欧州情勢が混乱していることや中国の統計悪化、米中協議が全く進展していないことから売り圧力が強まったが、ISM製造業指数が市場予想を大幅に下回る内容となったため、むしろ「金融緩和・景気テコ入れ期待」が高まり、引けにかけては水準を切り上げて引けた。

【原油価格見通し】

原油価格は、景気減速懸念が強まっていることが実需面で価格を下押しするものの、各国の経済対策や金融緩和観測が価格を下支えすると考えられるため、現状水準でのもみ合いになると考える。

市場の注目は世界的な金融緩和動向に移っており、相場は金融相場に差し掛かっていると見ている。今後は結果的に金融政策の価格への影響が大きくなり、価格への影響が無視できなくなると予想。

イラン問題の終息は、イラン・米国とも自身から歩み寄って解決するとは考えにくく、第三者の仲介が必要と考えられる。

ある意味予想通りだが、仏マクロン大統領が米・イランの橋渡しに意欲を見せている。そもそもトランプ大統領はイラン攻撃に反対とみられ、一部報道は安倍首相にも仲介を打診したとも報じている。時機を見て両国の会談が開催されることになるだろう。

イラン問題の終息は供給懸念を後退させ、価格の下落要因となるが現状それほど供給リスクが織り込まれているわけではないため、むしろこの問題の解決が域内景気の安定につながると判断され、価格の上昇要因となるとみている。

【石炭市場動向総括】

石炭先物市場は小幅に続伸した。割安感や石炭輸入制限観測を受けて安値拾いの買いが入った模様。

【石炭価格見通し】

石炭価格はピークシーズンの終了と天然ガス価格の下落で低水準を維持する見込みだが、中国政府が下期の石炭輸入を控える方針とみられることから駆け込み需要が予想され、底堅い推移になると考える。

足元、バルチック海運指数が再び上昇しているが、これは石炭輸入の制限前の駆け込み需要が顕在化しているためと考えられる。通常は冬場が輸入の最盛期であるが、年後半には低下に転じよう。

7月の中国石炭生産が同じ時期の過去5年の最高となる3,289万トンに達し、中国の国内供給も増加、中国政府は年間の石炭輸入量を2億8,000万トンに制限する目標を掲げている。

【価格変動要因の整理】

(マクロ要因)

・景気が減速する中でのOPECプラスの減産継続は、その効果が限定されはするものの、足元の価格下落を受けてOPECプラスの協調減産は2020年3月まで継続される予定で、一定の下支え効果をもたらす見込み。

・産油国の財政悪化による上流投資部門投資の減速は、インドなどの新興国需要顕在化時の価格上昇要因。

・EV普及による需要の伸び鈍化を、軽量化目的の樹脂向け需要増加が相殺(世界の需要が減少を始めるのは2050年頃からか)。

・世界的な石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。価格上昇要因(石炭)。

・中国の石炭港湾在庫が増加に転じていることは、冬場の在庫減少を取り戻すための在庫積み増しの動きが強まっているためと考えられる(石炭)。

・競合燃料であるLNG価格が供給過剰で低迷していることは、石炭価格の下落要因に。

(特殊要因)

・米国とイランの関係はこの20年で最悪の状態。両国の国力を減ずる戦争のリスクは依然低いとみるが、現状では開戦の可能性も完全に否定できない状態。

・米朝首脳会談が開催されたが、制裁は継続する見込みであり北朝鮮炭の供給制限も継続されることは、価格の上昇要因(石炭)。

(投機・投資要因)

・WTIはロングが減少、ショートが増加している。景気の先行き懸念と米石油統計で原油生産が増加したことが影響したと考えられる。

Brentはロング・ショートとも増加したが、ロングの増加が顕著だった。域内景気の先行き懸念は根強いが、ECBの金融緩和観測などが期待需要を高めたとみられる。

・直近の投機筋のポジションは、WTIはロングが513,465枚(前週比 ▲15,504枚)、ショートが121,815枚(+7,481枚)、ネットロングは391,650枚(▲22,985枚)、Brentが312,137枚(前週比+15,018枚)、ショートが88,016枚(+11,096枚)、ネットロングは224,121枚(+3,922枚)

---≪LME非鉄金属≫---

【非鉄金属市場動向総括】

LME非鉄金属価格は下落後上昇した。中国の製造業PMIの悪化や米中交渉の難航を受けて軟調に推移していたが、米国時間に発表されたISM製造業指数が大幅な悪化となり、むしろ金融緩和期待が高まったことが引けにかけて価格を押し上げる形となった。

ニッケル・錫はインドネシアの禁輸問題を受けて大幅に上昇していたが、景気の減速観測の強まりが価格を下押しした。

【非鉄金属価格見通し】

非鉄金属価格は、中国の製造業PMIが市場予想を上回る減速となったこと、米国のISM製造業指数も50を下回ったこと、中国が米国をWTOに提訴したことで両国の対立が深まるとの見方が強まっていること、英国の無秩序離脱の可能性、を受けて総じて下押し圧力がかかると予想される。

引き続き、世界の景気が(主に循環的に)下りのエスカレーターに乗っている状況。

この状況下、市場は景気悪化に伴う経済対策や金融緩和期待を強めており徐々に金融相場入りする可能性が高まっていることは価格を下支え~押し上げることになると見る。

しかし、ニッケルと錫(場合によってはボーキサイトを通じてアルミも)に関しては、インドネシアの輸出規制が2020年1月から開始される方針が示されたことで、急速に供給懸念が強まっているため、これらの金属には上昇圧力がかかることになるだろう。

ニッケルは2014年の規制開始後に着けた21,000ドルが1つのターゲットになるが、景気への懸念が強いため仮にここまでの上昇があっても一時的なものにとどまると考える。

再び持続的な上昇に転じるのは、中国の公共投資が顕在化する年後半か、インド需要が顕在化すると期待される2020年の春以降と見る。

【価格変動要因の整理】

(マクロ要因)

・最大消費国である中国の製造業PMIは回復したものの閾値の50を下回り、大企業・中堅企業の景況感は悪化している(中小企業の景況感は金融緩和効果で若干改善)。新規受注/完成品在庫レシオにも低下圧力がかかっており、非鉄金属価格の下落要因に。

・1-7月期の中国工業生産は前年比+5.8%(1-6月期+6.0%)、7月+4.8%(前月+6.3%)と減速(フロー需要の減速=価格下落要因)。

・1-7月期の中国固定資産投資は前年比+5.7%の34兆8,892億元(1-6月期+5.8%の29兆9,100億元)、公的 +7.1%(+6.9%)、民間 +5.4%(+5.7%)とやはり減速。民間セクターの減速の影響は大きい(ストック需要の減速=価格下落要因)

・1-7月期中国不動産開発投資は前年比+10.6%の7兆2,843億元(1-6月期+10.9%の6兆1,609億元)と高い水準を維持してはいるが、やはり減速傾向が強く、特に建材であるアルミや配電に用いられる銅の下落要因に。

・環境規制の強化で特殊需要が増加する(軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルトなど)

・中国の環境規制強化に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・亜鉛の精錬キャパシティ不足に伴う需給のタイト化。一方鉱山生産は再開しており、亜鉛精鉱需給は緩和、TCも高止まり。

・環境規制強化・米制裁の影響による石炭価格上昇が、中国の非鉄金属製造コストを高止まりさせる場合。

・インドをはじめとする新興国の構造的な需要増加(中長期的な要因)。

(特殊要因)

・中国政府が地方政府に債券発行枠の増枠を促し、シャドーバンキングを含むアンダーグラウンドな資金調達を認めてでも公共投資を進める方針を示したことは、需要面で価格の上昇要因に。

・銅の生産減少観測(環境問題によるインド、露天掘りから地下生産に変更するインドネシア)、ヴァーレの尾鉱ダム事故の影響による供給減少(アルミやニッケルなどに波及する可能性)。

ハイドロのアルノルテ アルミナ精錬所の問題に象徴されるように、広く非鉄金属を含む鉱物セクターは、環境問題への高まりから供給が政府命令で急に停止してしまう可能性は低くない。

インドネシアのニッケル未処理鉱石禁輸措置再開の可能性(2022年とされていたが、2019年12月に実施の予定)。

・インドとパキスタンの対立が武力衝突に発展し、インドが人口ボーナス期の成長メリットを生かせない場合(下落要因)

・LME指定倉庫在庫の減少が、LMEの倉庫運営ルール変更に伴う保管場所変更の取引の影響である場合、ルールが見直された際に再度、LME指定倉庫在庫が急増する可能性(下落要因)。

(投機・投資要因)

・8月23日付のLMEポジションは、まちまち。銅はロング・ショートとも減少したが、ロングの調整幅が大きくネット売り越し幅を拡大。

亜鉛はロング・ショートとも減少したがショートの減少が大きく、ネット買い越し幅を拡大した。

アルミはロング・ショートとも減少したが、ロングの積み増し圧力が強く、ネットロングは増加。

ニッケル・鉛はロングが増加、ショートが減少しやや強気のポジション取りに。

投機筋のLME+CME銅ネット売り越し金額は▲73.4億ドル(前週▲79.4億ドル)と売り越し幅を小幅に縮小。売り越し額の減少率は▲1.2%。

買い越し枚数はトン数換算ベースで▲1,980千トン(前週▲2,073千トン)と売り越し幅を小幅に縮小した。鉛、錫、ニッケルはネット買い越しに復帰した。ネット売り越しの減少率は▲4.5%。

---≪鉄鋼原料≫---

【鉄鋼原料市場動向総括】

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、原料炭スワップ先物は大幅下落、中国鉄鋼製品市場はまちまちとなった。

中国の製造業PMIの悪化を受けて鉄鋼需要の減速観測が強まっていることが材料となっている。

【鉄鋼原料価格見通し】

鉄鉱石価格は中国の需要減速観測が強まる中で下押し圧力がかかりやすい状況が続くと予想。

ただし、バルチック海運指数を見るに一時的ではあるが鉄鋼原料の在庫積み増しの動きが見られること、ただし、河北省、唐山市が鉄鋼生産者への規制緩和を決めたことや冬場の輸入規制などを懸念し鉄鉱石の輸入が再び加速していることから、底堅い推移になるとみる。

【価格変動要因の整理】

(マクロ要因)

・直近の中国鉄鋼業PMIは44.9(前月47.9)と減速。在庫の減少で生産は50.1(48.5)と回復。

しかし新規受注は37.5(48.5)、輸出新規受注 49.5(47.8)と国内向けが急減速しており、完成品在庫は積み上がっている(完成品在庫43.7→46.7)。原材料在庫は▲4.3(0.7)と減少しているため、在庫積み増しの動きが見られる可能性は高い。

ヴァーレの供給減少は継続しているが、需要面で鉄鋼製品・鉄鉱原料の需給が緩和する可能性が出てきた。

・1-7月期の中国工業生産は前年比+5.8%(1-6月期+6.0%)、7月+4.8%(前月+6.3%)と減速(フロー需要の減速=価格下落要因)。

・1-7月期の中国固定資産投資は前年比+5.7%の34兆8,892億元(1-6月期+5.8%の29兆9,100億元)、公的 +7.1%(+6.9%)、民間 +5.4%(+5.7%)とやはり減速。民間セクターの減速の影響は大きい(ストック需要の減速=価格下落要因)

・1-7月期中国不動産開発投資は前年比+10.6%の7兆2,843億元(1-6月期+10.9%の6兆1,609億元)と高い水準を維持してはいるが、やはり減速傾向が強く、特に建材であるアルミや配電に用いられる銅の下落要因に。

・中国の鉄鋼製品在庫水準の高さは価格の下落要因。鉄鋼製品在庫は前週比▲22万トンの1,303.7万トン(過去5年平均1,029.1万トン)と例年を大きく上回っている。

中国の鉄鉱石港湾在庫は前週比+150万トンの1億2,465万トン(過去5年平均1億1,607万トン)、在庫日数は+0.3日の26.3日(過去5年平均 29.7日)と在庫日数ベースでは例年の水準を下回った状態が続いており、ファンダメンタルズ面で鉄鉱石価格を下支えしよう。

・長期的には人口ボーナス期入りしているインドが、すでにインフラ整備のための投資拡大方針を示しており、鉄鋼製品・鉄鉱石価格を押し上げ。

・ヴァーレ、リオ・ティントの生産目標引き下げによる供給減速。

(特殊要因)

・中国政府がシャドーバンキングを含む金融市場の緩和を進めているほか、地方政府にも債券発行枠の拡大を認めるなど、景気テコ入れのため公共投資を進める方針を示したことは価格の上昇要因。

・ヴァーレの尾鉱ダム決壊の影響が拡大し、さらに供給減少が起きた場合(自社・他社ともにあり得る)、価格の上昇要因に。

ヴァーレの尾鉱ダム事故の影響で、今後、低品位鉱石価格にも上昇圧力がかかる公算。

(投機・投資要因)

・供給懸念などを通じて大連取引所は建玉を積み増しながら、価格を切り上げており、先々の下落リスクは高まっている状況。

---≪貴金属≫---

【貴金属市場動向総括】

金価格は上昇した。英国のEU離脱を巡る混乱、米中対立の激化懸念に加え、米ISM製造業指数が悪化したことを受けた金融緩和観測が価格を押し上げた。

銀は金銀在庫レシオの低下を受けて金銀レシオの下方修正が起きており、大幅な上昇となった。

PGMは金銀が底堅い推移となったため、投機商品としての色彩が強まっているプラチナが大きな上昇、パラジウムは株安に押されて小幅高となった。

【貴金属価格見通し】

金価格は高値圏での推移になると考える。世界景気の先行き懸念の強まりから長期金利が低い水準で推移し、期待インフレ率を上回る低下となっているため実質金利に低下圧力がかかることが背景。

また、北東アジアの地政学的リスクの高まり、英国のハードブレグジット懸念といった欧州のリスク、米中対立の継続、香港デモの拡大を受けたリスク回避の動きは継続するとみられるため。

銀価格は金銀在庫レシオ(銀在庫÷金在庫)が低下しており、金銀レシオの低下(銀は対金で割高に)を肯定する状況になっていることから、対金でさらに上昇すると予想される。

ただし、銀が通貨としての価値を有していたころの、過去の水準に金銀レシオが戻ることは難しいと考える。

PGM価格は金銀価格が高値圏でもみ合うことが基準価格を高止まりさせるが、景気の先行き懸念とそれを受けた経済対策期待で株価が乱高下するとみられるため、神経質な推移になると予想する。

また、中国政府が自動車購入にかかわる規制を一部緩和する、と報じられていることもPGM価格の上昇に寄与しよう(ただし影響は限定)。

【価格変動要因の整理】

(マクロ要因)

・FRB・ECBの金融緩和期待が高まっているが、FRBは7月のFOMCで▲25bpの利下げを実施。今後は9月の会合での利下げ有無とその規模(▲50bpの可能性も?)。

・景気の先行きを懸念した株価下落とそれに伴う長期金利・実質金利の低下(金銀価格の上昇要因)。ただし、欧州の政情安定化や米中貿易戦争の合意、各国の金融緩和などを背景とする景況感の改善で株価が上昇した場合には金銀価格の下落要因。

・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。

・排ガス規制強化に伴うパラジウムへのシフト期待(パラジウムの上昇要因・プラチナの下落要因)。ただし実際にシフトが起きるには相当の時間がかかる見込み。

・パラジウム需要増加に伴うPGMの増産により、結果的にプラチナが供給過剰となり価格の下落要因に(プラチナ)。

(特殊要因)

・米中通商交渉は難航しており、米中は相互に追加制裁発動を決定、目先の買い材料となっている。この交渉自体は中国の知的財産権侵害や技術の強制移転などの解決が最終目標であり、長期化の見込み(価格の下支え要因)。

・米国とイランの緊張は若干の緩和が見られている。そもそもトランプ大統領が戦争には後ろ向きであり、議会が休会であることもあって融和姿勢が強まっている。

ただし米議会はイランに対しては強硬姿勢を維持しており、収束するのは来年の大統領・議会選挙年にずれ込むと予想される。

・イタリアの政局・財政不安。

・英国のEU離脱がハードになる可能性があること、それに伴いスコットランドの独立話が再燃していること、それがスペインのカタルーニャ地方に波及する懸念があることは安全資産需要を高める。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加。

(投機・投資要因)

・銀価格は金銀在庫レシオが銀在庫の減少、ないしは金在庫の増加、あるいは両要因によって低下した場合、金銀レシオが上昇するリスク(銀価格の上昇要因)。

・金はロングが増加、ショートも増加、リスク回避に伴うポジションテイクが加速している一方、割高感からショートを取る市場参加者も増えてきた。銀はロングが増加、ショートが減少、ネットロングは増加している。

・プラチナはロングが増加、ショートが減少、パラジウムはロング・ショートとも減少している。

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが362,609枚(前週比 +10,315枚)、ショートが65,771枚(+13,470枚)、ネットロングは296,838枚(▲3,155枚)、銀が103,488枚(+7,501枚)、ショートが43,636枚(▲5,637枚)、ネットロングは59,852枚(+13,138枚)

・直近の投機筋のポジションは、プラチナはロングが46,983枚(前週比 +1,329枚)、ショートが23,996枚(▲2,043枚)、ネットロングは22,987枚(+3,372枚)、パラジウムが13,216枚(▲516枚)、ショートが3,411枚(▲497枚)、ネットロングは9,805枚(▲19枚)

---≪農産品≫---

【穀物市場動向総括】

シカゴ穀物市場は総じて軟調な推移となった。ハリケーンの影響で米国からの輸出が減速するとみられたことが、域内需給の緩和観測を高めたためと見られる。

また、米国や欧州の収穫が想定よりも悪くない、と見られていることも価格を下押ししている。

【穀物価格見通し】

シカゴ穀物価格は現状水準でもみ合い推移すると考える。米国の作柄は全く良くないものの、当初見通しよりも生産見通しが上方修正されていることや、中国の米国に対する農産品禁輸措置によって需給緩和観測が強まるため。

米国の不作の影響は期末在庫の水準低下を促し、来年以降に起きる可能性が指摘されているラニーニャ発生時にその水準の低さが意識されることになるとみている(長期的には上昇の入り口か)。

小麦は例年通りだが必ず収穫時期には「足りる」ことになりそうだ。欧州の供給増加で下押し圧力が強まっている。

【価格変動要因の整理】

(マクロ要因)

・米国のトウモロコシ・大豆の生産見通し上方修正による需給緩和観測。

・豪州東部の大干ばつによる小麦生産の減少懸念。

・欧州・ロシアの気温上昇に伴う小麦生産の減少懸念。

・最終確定作付け面積動向(トウモロコシは増加、大豆は減少、小麦は横ばい)トウモロコシ 9,170万エーカー(市場予想8,703万エーカー、前年8,913万エーカー)大豆 8,004万エーカー(8,468万エーカー、8,920万エーカー)小麦 4,561万エーカー(4,561万エーカー、4,780万エーカー)

・8月の米需給報告の生産見通し

トウモロコシ139億100万Bu(前月138億7,500万Bu)大豆 36億8,000万Bu(38億4,500万Bu)小麦 19億8,000万Bu(19億2,100万Bu)

・8月の米需給報告の在庫見通しトウモロコシ21億8,100万Bu(20億100万Bu)大豆 7億5,500万Bu(7億9,500万Bu)小麦 10億1,400万Bu(10億Bu)

(特殊要因)

・米中通商交渉は再び難航しており相互制裁強化となっている。この問題は覇権争いが根幹にあり長期化の可能性は高い(価格の下落要因)。

・エルニーニョ現象は収束したとみられるが、より北米の穀物生産に影響を与えるラニーニャ現象の発生の懸念は排除できず、特に来年以降にかけて価格が上昇する可能性があり、価格の上昇要因に。

・中国の豚コレラ被害の拡大により、飼料需要が減少した場合は価格の下落要因(逆に終息すれば上昇要因)。

(投機・投資要因)

・トウモロコシはロング・ショートとも減少、ネットロングは減少した。大豆はロングが減少、ショートが増加し、明確に弱気なポジション取りに。小麦はロングが増加、ショートが減少した。

・直近の投機筋のポジションは、トウモロコシはロングが359,257枚(前週比 ▲56,456枚)、ショートが320,313枚(▲1,316枚)、ネットロングは38,944枚(▲55,140枚)、大豆はロングが145,788枚(▲7,259枚)、ショートが175,755枚(+968枚)、ネットロングは▲29,967枚(▲8,227枚)、小麦はロングが118,051枚(+5,094枚)、ショートが101,297枚(▲3,903枚)、ネットロングは16,754枚(+8,997枚)

◆本日のMRA's Eye


「銅価格は年内は低迷か」

銅価格は昨年の春ごろに6,600ドルを上回ったが、5月のGW以降に顕著に水準を切り下げる動きとなり、現在も5,000ドル台での推移が続いている。

ICSGのデータを元にすると2019年の1-5月の需給バランスは需要が996万4,000トン、供給がプライマリ・セカンダリ合計で977万4,000トンと、▲19万トンの供給不足となっており、MBの予想でも2019年は▲22万4,000トンの供給不足になると予想されている。チリやインドの環境問題に起因する減産の影響が大きかったようだ。

しかし、減少を継続していたLMEの銅在庫は、今年の3月以降から増加に転じており、上海の銅在庫も季節性を無視しで増加を始めている。中国の構造的な景気減速に米中の対立が加わり、実体経済が減速を始めた可能性が高いことを示唆している。この次期からLME指定倉庫在庫と銅価格の逆相関性も回復しており、在庫の価格に対する説明力は高い。

ただし、中国工業セクター利益の伸び率と、銅の前年比上昇率との間には高い相関性が確認されているが、工業セクター利益の伸びは一昨年夏以降減速が鮮明になっている。

これは習近平政権が長期政権を確実にし、不採算の公共投資案件の実施を見直したり、バブルの温床の1つであったシャドーバンキング規制の強化に踏み切った頃と時期が重なる。

現在、景気刺激のために一部シャドーバンキング規制を緩和したり、公共投資の積み増しなどが行われているようだが政府の政策余地が以前に比して限定されることからこの効果も持続的ではないと考えられる。

恐らく、中国の企業の事業環境は厳しい状態が続き、しばらくは銅をはじめとする非鉄金属価格には下押し圧力がかかる展開になるだろう。

ただし、投機筋の売りポジションが積み上がっているため、9月のFOMCや米中の一時的な合意で買戻しが入って上昇する可能性はあるが、上記の通り持続的な価格上昇が起きるには景況観と企業業績の改善が必要であるため時間がかかるため、上昇があったとしても一時的な上昇に留まるのではないか。

来年は米大統領選挙であること、中国のOECD景気先行指数が底入れしていることから、価格の上昇があるとすれば来年の春頃からになると予想される。

銅価格が持続的に上昇するのは、中国に次ぐ需要のけん引役として期待されるインドの構造的な需要の増加が必要になると考える。また、次世代自動車の中核として期待されているEVの普及も、時間経過とともに銅の需要を押し上げよう。

インドはすでに構造敵に需要が増加する人口ボーナス期入りしており、モディ政権もこれから5年で160兆円に及ぶインフラ投資の実施を公約としている(公共投資の場合圧倒的に鉄鋼製品の使用量の方が大きいが)。

しかし、インドの需要増加が価格に顕著に影響を与えるようになるには、人口ボーナス期入りから4~5年の時間を要すると考えられ、2022~2023年頃からインド動向が強く意識されることになるだろう。

◆主要ニュース


・8月日本マネタリーベース 前年比+2.8%の515.9兆円(前月+3.7%の518.1兆円)

・7月ユーロ圏生産者物価指数 前月比+0.2%(前月▲0.6%)、前年比 +0.2%(+0.7%)

・8月米ISM製造業景況指数 49.1(前月51.2)
 仕入れ価格 46.0(45.1)
 生産 49.5(50.8)
 新規受注 47.2(50.8)
 受注残 46.3(43.1)
 在庫 49.9(49.5)
 顧客在庫 44.9(45.7)
 輸出 43.3(48.1)
 輸入 46.0(47.0)

・7月米建設支出 前月比 +0.1%(前月改定▲0.7%)

・イタリア 五つ星運動党内投票で民主党との連立支持を確認。

・英国、与党議員が離反し野党に合流、保守党は過半数を割り込む。

・英下院、EU離脱期限の延期の申請をジョンソン首相に強制する法案の審議入りに向け、議会の運営を掌握するための動議が賛成多数で可決。これを受けて首相は総選挙実施の動議を提案すると表明。

・中国 習近平国家主席、「闘争の精神を示すことが必要。われわれが直面している闘争は短期的なものではなく長期間続き、少なくとも中華人民共和国建国100周年を迎える2049年まで続く。中国共産党は10月に党の重要会議である第19期中央委員会第4回総会(4中総会)を開催する。」

・米中両国の通商交渉担当者、「今月行う予定の会合の日程を設定できていない」(Bloomberg)。

◆エネルギー・メタル関連ニュース


【エネルギー】
・ハリケーン「ドリアン」、カテゴリー4のハリケーンとなり、フロリダ半島に上陸の可能性。

・サウジアラムコ会長に、政府系ファンド総裁のヤセル・ルマイヤン氏が就任。

・イラン カマルバンディ報道官、「2日以内でウランの濃縮度を20%に引き上げることが可能。」

・イラン ロウハニ大統領、「イランが米国との2国間協議に臨むことは絶対にないが、米国が対イラン制裁をすべて解除すれば、2015年のイラン核合意の参加国とイランの間で行う多国間協議に米国が参加することは可能。」

【メタル】
・XinfaのJiaokouアルミナ精錬所、9月中旬から再稼働の見込み。

・8月のブラジルの鉄鉱石輸出、前年比▲15.48%の3,562万トンに減少

◆主要商品騰落率


【上昇率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.SHFニッケル ( ベースメタル )/ +5.99%/ +58.59%
2.CME豚赤身肉 ( 畜産品 )/ +4.72%/ +9.10%
3.銀 ( 貴金属 )/ +4.30%/ +24.32%
4.NYM米天然ガス ( エネルギー )/ +3.19%/ ▲19.80%
5.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +3.17%/ ▲48.35%

【下落率上位5商品】

商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
70.NYM RBOB ( エネルギー )/ ▲8.86%/ +11.09%
69.CME生牛 ( 畜産品 )/ ▲5.45%/ ▲20.45%
68.原料炭スポット ( 鉄鋼原料 )/ ▲5.21%/ ▲34.89%
67.DME Oman ( エネルギー )/ ▲4.55%/ +7.42%
66.MDEパーム油 ( その他農産品 )/ ▲2.86%/ +5.09%

※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。

◆主要指標


【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :26,118.02(▲285.26)
S&P500 :2,906.27(▲20.19)
日経平均株価 :20,625.16(+4.97)
ドル円 :105.94(▲0.30)
ユーロ円 :116.26(▲0.29)
米10年債利回り :1.46(▲0.04)
独10年債利回り :▲0.71(▲0.00)
日10年債利回り :▲0.28(▲0.02)
中国10年債利回り :3.07(▲0.01)
ビットコイン :10,712.47(+303.60)

【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :25.83(+0.57)
エネルギー :31.41(+1.48)
ベースメタル :23.30(+0.55)
貴金属 :20.41(+1.3)
穀物 :22.10(▲0.61)
その他農畜産品 :27.66(+0.49)

【主要商品ボラティリティ】
WTI :38.98(+0.25)
Brent :34.05(▲0.28)
米天然ガス :25.08(▲5.17)
米ガソリン :47.75(+10.15)
ICEガスオイル :30.56(▲0.17)
LME銅 :11.06(▲1.48)
LMEアルミニウム :8.27(▲0.17)
金 :16.02(+0)
プラチナ :20.48(+1.8)
トウモロコシ :33.45(▲0.28)
大豆 :16.02(+0)

【エネルギー】
WTI :53.94(▲1.16)
Brent :58.26(▲0.40)
Oman :57.48(▲2.74)
米ガソリン :147.05(▲14.29)
米灯油 :180.33(▲2.49)
ICEガスオイル :551.00(▲4.50)
米天然ガス :2.36(+0.07)
英天然ガス :31.54(+0.97)

【石油製品(直近限月のスワップ)】
Brent :58.26(▲0.40)
SPO380cst :276.33(+14.24)
SPOケロシン :72.37(▲0.57)
SPOガスオイル :72.09(▲0.56)
ICE ガスオイル :73.96(▲0.60)
NYMEX灯油 :180.59(▲0.45)

【貴金属】
金 :1547.10(+17.81)
銀 :19.26(+0.79)
プラチナ :958.46(+27.91)
パラジウム :1543.24(+6.46)
※ニューヨーククローズ。

【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :5,562(▲75:25C)
亜鉛 :2,204(▲19:7.5B)
鉛 :1,998(▲23:2C)
アルミニウム :1,744(▲2:29C)
ニッケル :17,950(▲525:25C)
錫 :16,580(▲600:25C)
コバルト :33,584(▲6)

(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :5610.00(▲7.00)
亜鉛 :2210.00(▲30.50)
鉛 :1995.50(▲28.00)
アルミニウム :1755.00(+6.00)
ニッケル :17900.00(▲60.00)
錫 :16720.00(+135.00)
バルチック海運指数 :2,442.00(+64.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR青島) :休場( - )
SGX鉄鉱石 :89.28(▲1.17)
NYMEX鉄鉱石 :89.55(▲1.36)
NYMEX原料炭スワップ先物 :148(▲8.13)
上海鉄筋直近限月 :3,696(▲4)
上海鉄筋中心限月 :3,398(+29)
米鉄スクラップ :274(±0.0)

【農産物】
大豆 :856.50(▲0.50)
シカゴ大豆ミール :288.00(▲1.30)
シカゴ大豆油 :28.87(+0.23)
マレーシア パーム油 :2106.00(▲62.00)
シカゴ とうもろこし :349.75(▲8.25)
シカゴ小麦 :447.25(▲4.00)
シンガポールゴム :149.90(+2.00)
上海ゴム :10735.00(+60.00)
砂糖 :11.19(+0.05)
アラビカ :92.35(▲1.25)
ロブスタ :1282.00(▲23.00)
綿花 :58.31(▲0.74)

【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :66.53(+3.00)
シカゴ生牛 :99.28(▲5.73)
シカゴ飼育牛 :134.15(+1.75)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。