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米中摩擦によるリスクは緩和するのか ~楽観論と悲観論
  • MRA外国為替レポート

2018年11月5日号

◆先週の市場総括


先週は週末にかけてリスク回避が緩和、株価が持ち直すなか、円は軟調となり、ドルはしっかり。ユーロが上昇。ドル円相場は週初こそ112円割れで始まったがその後はドル高円安基調で週央には113円台を回復した。

リスク回避をもたらした米中貿易摩擦やイタリア財政やイギリス離脱を巡る欧州の不透明要因などには追加的な悪材料は生じず。米中摩擦を巡ってはトランプ大統領が交渉に楽観的な見方を示した。

またイギリスの離脱交渉が進展するとの報道にポンド、ユーロは対ドル、対円で上昇した。

ドルは弱めの経済指標や欧州通貨の持ち直しの影響で売られ、ドル円相場は112円台に押し戻される場面もあったが、週末の強い雇用統計を受けて上昇。ドル円相場は113円台を回復。週末NYは113円20銭で引けた。

米中貿易摩擦に対する懸念を主要因として調整していた米国株はひとまず下げ止まりようやく持ち直し。米10年債利回りはリスク選好の回復、株価が持ち直すなか上昇。週末の雇用統計がしっかりした数字だったことでさらに3.2%台に上昇しドルを支えた。

月曜日の東京市場のドル円相場は111円90銭近辺で始まり、111円80銭~112円ちょうど上下動、横ばい。ユーロも動意なく対ドルでは1.14近辺でもみ合い、ユーロ円相場は127円50銭中心に上下動。

日経平均は21,400円近辺で始まり21,200円割れに下落。後場は22,200円~22,300円で推移したが引けにかけて下落し21,100円台で引け。米国株になお確たる底入れ感がなく不安定な展開となった。

海外市場に入るとドル円相場は112円50銭近辺に上昇して上下動。ユーロ円相場も128円を中心に上下動。全体的にやや円安となった。その後ドル円相場は反落して112円30銭台で引け。

イタリア財政問題を巡っては、前週末にS&Pによるイタリア国債の格下げが回避されたことで買われ10年債利回りが3.45%から3.30%に低下。欧州にとってプラス材料となった。

一方でドイツ・メルケル首相が2021年の再選を目指さないことを表明。こちらは欧州の求心力低下を懸念させるマイナス材料となった。

ユーロは対ドルで1.13台後半~1.14台で乱高下する荒れ相場。米国株は上昇してスタートしたものの引けにかけて大幅安。

米国が、米中首脳会談が不調なら追加の対中関税を計画と報じられたことが嫌気された。ただ引けにかけてはやや反発した。

米債利回りも上下に振れる展開。10年債利回りは3.08%で始まり3.06%~3.11%を上下。引けは3.07~3.08%。

発表された米国の個人所得・消費支出(9月)は所得がやや弱めだったものの支出は予想通り(前月比+0.4%)。ダラス連銀製造業活動指数(10月)は29.4と予想および前月の数字を上回った。

火曜日の東京市場のドル円相場は112円30銭台で始まり夕方にかけて一貫してドル高円安基調。112円80銭まで上昇した。ユーロ円相場も127円80銭から128円20銭~30銭に上昇してもみ合い。

日経平均は21,100円割れで寄り付いたが21,300円に上昇。後場に一段高となり引けは21,450円。不安の広がっていた米中貿易摩擦に関し、トランプ大統領が、米中交渉に素晴らしい取引を見込んでいる、と楽観的な発言をしたことが好感され、リスク回避が緩和した。

アジア株は全面高。米10年債利回りもアジア時間に3.11%に上昇した。海外市場のドル円相場は東京市場の勢いのまま113円に迫ったが、その後は押されて112円80銭中心に上下動。

欧州ではユーロ圏GDP(7-9月期速報)が発表され前期比+0.2%と前期の+0.4%から減速、予想を下回る弱い数字だった。

またイタリアはゼロ成長。EUからの予算案修正に応じない可能性が高まったとされた。イギリスについては、S&Pが、合意なき離脱の可能性は同国の信用格付けに影響するほど十分に高まった、とした。

ユーロとポンドは対ドルで下落。ユーロ円相場も上昇力を削がれ128円ちょうどに下落。ドルは全般的に堅調となった。

米国株はもみ合いの後、アジア時間の材料・動きをあらためて好感して引けにかけて上昇。リスク選好が回復傾向となるなか、米10年債利回りは3.12%に上昇。ドル円相場は113円台を回復し113円10銭近辺で引けた。

この日発表された米消費者信頼感指数(10月)は137.9と前月138.4を下回ったものの予想136.0を上回った。

水曜日の東京市場のドル円相場は113円10銭近辺で始まり、日経平均が上昇して始まるとつれて113円30銭台に上昇した。

全般的にリスク選好は回復基調。円は軟調でユーロ円相場も128円50銭にユーロ高円安が進んだ。その後は113円20銭中心に上下動。

日経平均は21,600円で高寄りした後、21,900円台に上昇。米国株の上昇やドル円相場が113円台を回復したことを好感して一貫した右肩上がり相場となった。

この日、日銀は金融政策決定会合を開催。黒田総裁が定例会見。景気物価見通しについては下振れリスクを従来以上に警戒するトーンとなった。

中国ではPMI企業景況感指数(10月)が発表され、製造業、非製造業ともに前月より低下した。製造業は50.2(前月50.6)、非製造業は53.9(同54.9)。中国経済には貿易摩擦の影響を受けて景気減速傾向がみられる。

海外市場に入るとドル円相場はやや押され112円80銭~113円ちょうどで上下動。引けは112円90銭近辺。ユーロはさらに軟調で対ドルでは1.13目前に下落、ユーロ円相場は127円80銭を中心に上下した。

米国株は続伸。ハイテク中心に上昇し高寄りしてもみ合い。米長期金利は小幅上昇して米10年債利回りは3.12%から3.15%へ。

発表されたADP雇用報告(10月)は前月比雇用者数が+227千人と予想+187千人を上回る強い数字。一方、シカゴ購買部協会景気指数(10月)は58.4と予想(60.0)を下回った。

木曜日の東京市場のドル円相場は112円80銭~90銭でもみ合い。日経平均は21,900円で寄り付いたが上値重く21,700円に押され、その後21,800円近辺でもみ合ったものの後場はじり安。21,600円台後半で引けた。

アジア時間に、イギリス・メイ首相とEUが離脱交渉の金融サービス分野で合意、との報道が流れポンドとユーロが大きく上昇。ユーロは対円で127円台後半から夕方遅くには128円50銭に上昇した。ただその反動でドルが売られたためドル円相場の上昇は鈍く113円止まり。

海外市場では米国株が続伸、小幅高でもみ合い。トランプ大統領が、習近平主席と電話で会談し、貿易について協議、話し合いは順調、と述べたことで、米中関係の悪化懸念が後退した。

しかし発表されたISM製造業景気指数(10月)は57.7と予想59.0、前月59.8を下回り2ヶ月連続で低下。輸出低迷や通商問題の影響が出ているとの見方も広がった。

米10年債利回りは3.16%から3.13%に低下し、ドルは軟調。ドル円相場は112円60銭で引け。ユーロドル相場も1.14台までユーロ高ドル安が進んだ。

金曜日の東京市場のドル円相場は112円60銭で始まり昼過ぎには113円台に上昇。トランプ大統領が、想定される中国との貿易合意草案の作成を指示した、との報道が好感された。

リスク選好の回復で円は軟調。ユーロ円相場も129円台に上昇した。

日経平均は21,800円台で高寄りしすぐに22,000円の大台に上昇。その後じり安となったがトランプ大統領による指示に関する報道で後場に一段高。22,200円台に乗せ大幅高で引けた。その後の海外市場では雇用統計の発表を前に様子見。

ドル円相場は112円80銭台で発表待ち。

結果は、非農業部門雇用者数前月比が+250千人と予想+193千人を上回る強い数字。失業率は3.7%で前月と変わらなかったが、労働参加率が62.9%と0.2%ポイント上昇するなかで強めと解釈された。

平均時給の上昇率は予想通り、前年同月比は+3.1%だった。発表を受けて米長期金利は上昇。10年債利回りは3.13%から3.21%に上昇してドルを支えた。

ドルは対円、対ユーロともに上昇。ドル円相場は113円台に乗せ、113円20銭で週末NYの取引を終えた。

米国株は上昇して始まったものの、長期金利の上昇を受けて反落。ただ週を通じてはリスク回避の緩和、リスク選好の持ち直しで、下げ止まり反発となった。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国中間選挙

今週火曜日に米国で中間選挙が行われる。トランプ大統領の支持率がやや低下するなか、上院は共和党が過半数を維持するが、下院は民主党が過半数を得て、ねじれ状態となることが予想されている。

下院での共和党の「負け具合」がどうか。その結果、トランプ政権の出方がどうなるか。このところ株安を受けて中国との対話路線に修正しつつあるようにもみえるが、そうした融和路線への「転換」は続くのか。

また今後の経済政策に具体的にどのような影響が生じてくるか。不透明感の解消という意味ではリスク選好にはプラス要因ではある。

2.FOMC

今週水曜日・木曜日の両日にわたりFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。今回金融政策の変更は予想されていない。このところの大幅な株安や貿易摩擦の影響などについて、出席メンバーがどのような議論をするかが注目点。

ファンダメンタルズは著変なしとみてこれまでの利上げスタンスが維持されるか、声明文に微妙な変化、慎重スタンスがうかがえるか。

3.中国の経済指標

中国経済に対する警戒感は引き続き根強い。先週のPMI景況感指数は前月から低下して景気減速基調を示した。

今週は月曜日に財新PMI非製造業景気指数(10月)、木曜日に貿易収支(10月)、金曜日に消費者物価・生産者物価(10月)が発表される。

とくに貿易収支は中国の景気動向、外需・内需を反映するだけに注目される。回復しつつあるリスク選好に水を差すことにならないか。

◆今週のMRA's Eye


米中摩擦によるリスクは緩和するのか ~楽観論と悲観論

市場はなおトランプ政権の政策あるいはトランプ大統領の発言に振れいまわされる展開が続いている。最大の関心事は米中貿易摩擦の行方、企業業績さらには米国経済そのものへの悪影響がどれほどか。

関税の悪影響が企業業績にみられれば不安となり、米中交渉を巡る前向きな発言に安堵する、と敏感に反応している。市場は大きく悲観に傾き米国株は大幅調整したが、市場心理の悪化がピークとなったところで、それに歯止めをかける材料が散見されるようになった。

トランプ政権のスタンスは、中間選挙の見通し、世論調査に左右されている。下院での劣勢、大統領の支持率低下は、政策スタンスに様々な影響を与える。

国内での支持率低下は対外的には強硬姿勢につながりやすいが、外交ではなく通商問題を通じて経済への悪影響が強まるとなると、そうとばかりも言ってはいられない。

政権にとって株価動向はどこの国にあっても気になるところ。ここにきてトランプ政権が米中交渉に前向きとなってきたのには、そうした影響もあるだろう。

中国側は、米中交渉は中間選挙が終わるまで進展しない、と述べてきた。中国は相次ぐ制裁関税によって景気減速が明確になりつつある。

先週発表された中国のPMI企業景況感指数は製造業・非製造業ともに悪化。製造業は50.2と景況感の分かれ目である50すれすれまで低下した。

共産党政治局は、国内の経済状況が変化しており下押し圧力が強まっている、事業面で多くの問題を抱える企業もある、と認めている。中国では企業のデフォルト増加リスクが高まっているようだ。政府は景気下支えに注力しつつある。

米中が痛みを伴う持久戦を続けてきたが、中国は景気減速が明確になり、米国では株価が大幅安となり、そろそろ手打ちとなるのか。

中間選挙の結果そのものは、下院が民主党多数となり共和党が敗北するとの予想。市場にとって重要なのは選挙結果そのものではなく、その結果、政策がどのように動くのか、という点。

2016年の大統領選挙を巡っては、トランプ大統領が当選すれば急速にドル安円高が進むとされていた。しかし蓋を開けてみれば株価は急騰、ドルも大幅高。打ち出した減税・歳出拡大策に反応した。

中間選挙が終わることそのものは、不透明要因がひとつ解消する、という点において、リスク回避の緩和要因ではある。そのうえで、景気重視に政策が再度シフトするかどうか。

大統領選とは異なり選挙直後にはすぐに「結果」は出ないが、トランプ政権の出方、そして下院との経済政策を巡る調整がどうなるか、はやはり重要。

政策がスタックすればマイナス、景気重視にシフトすればプラス。

財政拡張政策そのものは本来民主党の政策であり、むしろ共和党内の調整がどうなるか。共和党保守派およびFRBは現在の財政拡張政策、減税・歳出拡大は継続不能としているため容易ではない。

結果として、不透明な状況は続こう。そうしたなかでは確かに米中通商交渉での手打ちは、政権としてすぐに動ける材料。中国も景気減速・経済調整を前にやや「ギブアップ気味」であり、トランプ政権としては「ディール」のチャンスということかもしれない。

これがなれば、市場全体、景気全体のダウンサイドリスクは緩和されることとなるが、実際にどうなるか。また中国景気の減速に歯止めがかかるのか。

ただこれはやや短期的な着眼点かもしれない。国内政治情勢による米国の対中政策の変化や、逆に中国の対米政策の変化はみられるだろう。

しかし、米国のとくに共和党を中心とする保守派政治家の考え方の底流に対中脅威論があり、そこに変化がないとすれば、帰結はグローバル経済にとって好ましくない結果に向かっていることになる

アジア地域さらには一帯一路で東南アジアや西方へと支配権を広げようという中国の動き、さらには経済的にグローバルに覇権を確立しようという中国の動きに対し、早期に決定的なダメージを加えなければならない、ということになる。

中国経済が減速し疲弊することこそ、対中脅威論者にとっては望むところだろう。そのためには米国経済の多少の犠牲は払っても構わないという考え方になる。

中間選挙や政権の支持率を維持するための短期的な動きは、中国に対する強硬な姿勢を緩和する方向に働くものの、それが中長期的に続くかどうかはわからないということだ。

その結果は米中経済の想定外の減速ということになる。国内の経済界やそうした考え方と意見を異にする政治家からすれば容認できない帰結であり、悲観的なシナリオは避けられる可能性も大きい。しかしこうしたリスクシナリオにも引き続き留意が必要だ。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :113.2(+0.48)
ユーロ :128.92(+0.33)
英ポンド :146.816(+0.15)
豪ドル :81.425(+0.20)
カナダドル :86.342(+0.21)
スイスフラン :112.809(+0.33)
ブラジルレアル :30.5848(+0.14)
中国人民元 :16.396(+0.12)
韓国ウォン(日本円=100) :10.124(+0.10)

【対ドルレート】
ユーロ :1.1388(▲0.002)
英ポンド :1.297(▲0.004)
豪ドル :0.7193(▲0.001)
カナダドル :1.311(+0.002)
スイスフラン :1.0035(+0.001)
ブラジルレアル :休場( - )
中国人民元 :6.8907(▲0.033)
韓国ウォン :1121.97(▲16.31)

【主要国政策金利】
米国 :2.25
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :3.21(+0.08)
米2年債 :2.90(+0.06)
日本10年債利回り :0.13(+0.01)
日本2年債利回り :0.13(+0.01)
独10年債利回り :0.43(+0.03)
独2年債利回り :▲0.62(+0.00)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :25,270.83(▲109.91)
NASDAQ  :7,356.99(▲77.06)
S&P500 :2,723.06(▲17.31)
日経平均株価 :22,243.66(+556.01)
ドイツ DAX :11,518.99(+50.45)
インド センセックス :35,011.65(+579.68)
中国上海総合 :2,676.48(+70.24)
ブラジル ボベスパ :休場( - )
英国FT250 :19,325.73(+153.80)
ビットコイン :6351.1(+15.74)

【主要商品価格】
WTI :63.14(▲0.55)
Brent :72.83(▲0.06)
米ガソリン :170.83(▲0.82)
米灯油 :217.28(▲2.80)

金 :1232.89(▲0.54)
銀 :14.71(▲0.03)
プラチナ :868.21(+8.89)
パラジウム :1118.82(+24.11)
銅 :6232.50(+185:22.5B)
アルミニウム :1985.00(+7:18C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セト
ル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :875.25(+6.25)
シカゴ とうもろこし :371.25(+4.50)
シカゴ小麦 :508.75(+0.75)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。

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