ECB動向を受け景気循環銘柄売られる
- MRA商品市場レポート for PRO
2019年7月26日 第1579号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「ECB動向を受け景気循環銘柄売られる」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は総じて景気循環銘柄が売られ、非景気循環・非インフレ銘柄が物色される流れとなった。
ECB会合では予想通り緩和姿勢が示された形となったが、どん欲な市場は「不十分」と判断、長期金利が上昇したがより米国金利の方が上昇したこともあり、インフレ資産・ドル建て資産価格を下押しする材料となった。
【本日の価格見通し総括】
本日も引き続き企業決算発表を受けた株価動向が、リスク資産価格を左右する展開が予想されるが、最大の注目は米GDP速報値の発表である。
GDPは過去の指標であるが、商品価格に対する説明力が高い。市場予想は前期比年率+1.8%(前期+3.8%)と大幅な減速が予想されている。しかし引き続き個人消費は堅調で、+4.0%(+0.9%)と伸びが加速する見込みだ。この状態で本当に利下げが必要なのか疑問である。
弱い統計は景気循環銘柄の下落要因となるが、金融政策動向が価格に対する影響が強まっているため、むしろ価格の上昇圧力が高まる展開が予想され、結果、現状水準でもみ合うことになるだろう。
【昨日の世界経済・市場動向のトピックス】
ECBは中銀預金金利を現在の▲0.4%からさらに引き下げる可能性があることを示唆、これに加えて、銀行債を含む社債の購入、国債の買い入れ、ETFの購入、TLTRO3(銀行向け長期資金の資金供給オペ)などを組み合わせた金融緩和策を検討していることを表明した。
これを受けてユーロは下落したが、「それほどハト派ではない」として再び上昇。その後、米国の長期金利ほうが欧州よりも上昇したため、ドル高が進行する形となった。
今回のECB会合で印象的なのは、ドラギ総裁が「もはや下期に成長ペースが回復することはない」といった趣旨の発言をしていること。その一方でリセッション入りの可能性は低いとしているが、下期に向けてユーロ圏の経済成長ペースが鈍化する可能性は高い。
ECBのこのスタンスを見ると、今週火曜日に発表されたIMF経済見通しで、2019年のユーロ圏成長ペースが据え置かれ、2020年には回復に転じるというのはやや楽観的過ぎるように見える。
通常、景気が減速局面入りするとIMFの見通しは外れやすい。これは見通しを作成しているのが欧米人中心であるからか、どうしても景気の先行きに関して強気になりすぎる傾向が強いことに起因する。
ただ、リサーチ機関を保有しない投資家や市場参加者の場合、IMF見通しを基に需要予測を策定して取引を行っていることが多いため、下方修正圧力がかかる中では、景気循環系商品価格に下押し圧力が、非景気循環銘柄価格に上昇圧力がかかる展開となりやすい。
しかし、景気後退局面では上述の通り中央銀行の金融緩和が行われるため、景気減速に伴う水準低下圧力は緩和される。別の言葉を使うと、現物の需給が価格に大きな影響を与える実需相場から、金融政策が価格に与える影響が大きい金融相場に移行する可能性がある、ということである。
【景気循環銘柄共通の価格変動要因整理】
(マクロ要因)
・各国のPMI・ISMなどのマインド系指標再びの減速(価格下落要因)。
・世界景気の減速観測。IMFは2019年の経済見通しを引き下げ(+3.3%→+3.2%)ている。2020年は+3.5%に戻る楽観見通しであるが、米中交渉の決裂懸念など、引き続きリスクは下向きとしている。
・FRBの利下げの可能性が再び高まる。米中協議の不透明感を背景にFRBは利下げ方向に舵を切っている。
・景気減速を受けた、各国政府・中銀の財政政策・金融緩和は価格の上昇要因(Q219の中国GDPは前年比+6.2%、前期+6.4%と1992年の統計発表以来の低水準となり、減速懸念が再び意識されている)。
※一方、鉱工業生産や固定資産投資などは政府の対策の影響が徐々に顕在化している形。
・景気減速下での原油価格高止まりは、消費国から生産国への所得移転を通じて景気の下押し要因に。また、リスク回避のドル高進行も価格上昇を抑制。
・2018年からインドが人口ボーナス期入りしており、構造的な需要の増加が見込めることは中長期的な価格の上昇要因。
(特殊要因)
・米中通商協議が再開で決定したが、通商協議そのものが合意をしたわけではなく、制裁は継続しており世界経済がさらに減速する場合(下落要因)。
・欧州の政治混乱(伊仏の対立、ポピュリズムの台頭、トルコと欧州の関係悪化、トルコの景気減速など)によるリスク回避の動きの強まり(下落要因)。
・中東情勢の悪化を受けた域内景気の混乱と、それを受けた欧州景気への悪影響拡大(下落要因)
・英国のEU離脱が無秩序なものになるリスク。とりあえず10月末を期限として問題先送りしたが、強硬離脱派のジョンソン首相誕生で、その可能性はさらに高まった(下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(下落要因)。
・日韓対立によるハイテク分野の市場混乱や、極東地区の地政学的リスクの高まり(下落要因)。
(投機・投資要因)
・米利下げ観測の高まりで長短金利逆転状況が解消し、金融株を中心に株が上昇、リスクテイク再開で景気循環系商品価格にプラスの影響を与える場合。
◆昨日の商品市場(個別)の総括
---≪エネルギー≫---
【原油市場動向総括】
原油相場は上昇後下落した。ECBの政策決定とドラギ総裁の発言をこなす中で、実質金利の上昇とドル高が進行したことが価格を下押しした。
【原油価格見通し】
原油価格はもみ合うものと考える。世界の景気は減速方向にあり、これが需要の減速観測を強めて価格を下押しする一方、中東情勢不安が継続し、供給面が価格を押し上げるため。
結果的に金融政策の価格への影響が大きくなっており、今後は欧米の金融政策格差の価格への影響が無視できなくなると予想。
テクニカルには一目均衡表の雲を下抜けしかかっていると指摘したが、昨日の下落でWTI・Brentとも雲を下抜けした。チャート的には来月の中頃まで頭の重い推移になりやすい。
イラン問題の終息は、イラン・米国とも自身から歩み寄って解決するとは考えにくく、第三者の仲介が必要と考えられる。恐らく欧州の仲介によって来年の米大統領選挙開始前までに問題が終息する、というのが「希望的観測を含めた」メインシナリオである。
【石炭市場動向総括】
石炭先物市場は小幅に上昇した。季節的な価格上昇と考えられるが、LNG余剰やエルニーニョ現象の影響でアジア地域の気温が低下していることが背景で軟調な推移が続いている。
【石炭価格見通し】
石炭価格は欧州の気温上昇と、北半球の夏場を控えて上昇するとみているものの、アジア太平洋地区は気温が低下していることや、中国の電力会社の石炭在庫が記録的な高水準となっていること、欧州市場でのよりクリーンなエネルギーへのシフト、景気減速による電力需要の後退、中国の景況感の悪化を受け、上昇余地も限定されると考える。
中国の6大電力会社の石炭在庫は、同じ時期の過去5年レンジを大きく上抜けしており、国内需給は緩和している可能性が高い。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・原油価格の上昇に伴う北米の増産継続は、需給緩和で価格の下落要因。
・景気が減速する中での減産継続は、その効果が限定されはするものの、足元の価格下落を受けてOPECプラスの協調減産は2020年3月まで継続される予定で、一定の下支え効果をもたらす見込み。
・産油国の財政悪化による上流投資部門投資の減速は、インドなどの新興国需要顕在化時の価格上昇要因。
・EV普及による需要の伸び鈍化を、軽量化目的の樹脂向け需要増加が相殺(需要が減少を始めるのは2050年頃からか)。
・世界的な石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。価格上昇要因(石炭)。
・中国の石炭港湾在庫が減少傾向を強めていることは国内需要が季節的に増加していることを示唆(石炭)。
(特殊要因)
・米国とイランの関係はこの20年で最悪の状態。両国の国力を減ずる戦争のリスクは依然低いとみるが、現状では開戦の可能性も完全に否定できない状態。
・米朝首脳会談が電撃的に開催されたが、制裁は継続する見込みであり北朝鮮炭の供給制限も継続されることは、価格の上昇要因(石炭)。
・米中情報戦争をめぐる華為技術排除の決定を受けて中国政府は豪州からの石炭輸入を規制、インドネシア炭にシフトしていることはNEWC価格の下落要因に(石炭CIF価格に対する影響は中立)。
(投機・投資要因)
・WTI・Brentともロングが増加。欧米中央銀行の金融緩和姿勢の強化で景気への楽観的な見方が広がっていることが背景。WTIはショートが増加、Brentはイラン情勢の悪化で減少している。
・直近の投機筋のポジションは、WTIはロングが545,484枚(前週比 +39,788枚)、ショートが121,722枚(+6,175枚)、ネットロングは423,762枚(+33,613枚)、Brentが341,220枚(前週比+22,202枚)、ショートが60,800枚(▲14,075枚)、ネットロングは280,420枚(+36,277枚)
---≪LME非鉄金属≫---
【非鉄金属市場動向総括】
LME非鉄金属価格は上昇後、下落した。欧州統計の悪化を受けたドル高進行や、ECBドラギ総裁の発言を受けて欧米金利差が拡大、結局ドル高となったことが価格を下押しした形。
ニッケルは急落したが、これは2012年の未処理鉱石輸出規制方針発表後の反応と類似している(景気減速に伴う価格下落を受けて規制強化発表→景気の減速は継続して結局下落)。
【非鉄金属価格見通し】
非鉄金属価格は現状水準でもみ合うものと考える。世界の景気が(主に循環的に)下りのエスカレーターに乗る中で需要見通しが減速していることが価格を下押しする一方、景気下支えのための中国の財政出動や金融緩和、欧米の金融緩和が価格を下支えすると考えられることから。
原油などと同様であるが、今後はより、金融政策動向が価格に与える影響が強まることになるだろう。足元の価格上昇は金融相場入りが意識される中で、投機の買戻しが進んでいるためと考えられる。
再び持続的な上昇に転じるのは、中国の公共投資が顕在化する年後半か、インド需要が顕在化すると期待される2020年の春以降と見る。
なお、ニッケルに関してはインドネシアの未処理鉱石輸出制限再開の可能性が高まっており、その政策動向次第だが実行されるのであれば(2022年以降)16,000ドルを目指す動きになるだろう。
足元、2012年の時と同じで、過剰な供給懸念が後退し(まだ規制が始まっていない)たことから下値余地を探る動きになっている。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・最大消費国である中国の製造業PMIは低調で、新規受注/完成品在庫レシオ、新規受注/原材料在庫レシオとも低下、需給環境が緩和していることを示唆。
・環境規制の強化で特殊需要が増加する(軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルトなど)
・中国の環境規制強化に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。
・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。
・亜鉛の精錬キャパシティ不足に伴う需給のタイト化。一方鉱山生産は再開しており、亜鉛精鉱需給は緩和、TCも高止まり。
・環境規制強化・米制裁の影響による石炭価格上昇が、中国の非鉄金属製造コストを高止まりさせる場合。
・インドをはじめとする新興国の構造的な需要増加(中長期的な要因)。
(特殊要因)
・中国政府がシャドーバンキングを含む、違法な資金調達を認めてでも公共投資を進める方針を示したことは、需要面で価格の上昇要因に。
・銅の生産減少観測(環境問題によるインド、露天掘りから地下生産に変更するインドネシア)、ヴァーレの尾鉱ダム事故の影響による供給減少(アルミやニッケルなどに波及する可能性)。
ハイドロのアルノルテ アルミナ精錬所の問題に象徴されるように、広く非鉄金属を含む鉱物セクターは、環境問題への高まりから供給が政府命令で急に停止してしまう可能性は低くない。
インドネシアのニッケル未処理鉱石輸出再開の可能性(実際に行われれば上昇要因に)。
・LME指定倉庫在庫の減少が、LMEの倉庫運営ルール変更に伴う保管場所変更の取引の影響である場合、ルールが見直された際に再度、LME指定倉庫在庫が急増する可能性(下落要因)。
(投機・投資要因)
・7月19日付のLMEポジションは、アルミと錫のロングが減少したがそのほかは経済対策の期待などからロングが増加している。
特筆すべきは以前から指摘してきたショートが大きく減少していること。これにより亜鉛・鉛・錫がネットロングに転じている。
投機筋のLME+CME銅ネット売り越し金額は▲51.5億ドル(前週▲67.1億ドル)と売り越し幅を縮小。売り越し額の減少率は23.2%に。
買い越し枚数はトン数換算ベースで▲1,191千トン(前週▲1,561千トン)と売り越し幅を縮小。亜鉛と鉛、錫以外はトン数ベースでネット売り越しのまま。ネット売り越しの減少率は23.7%。
---≪鉄鋼原料≫---
【鉄鋼原料市場動向総括】
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップ市場は高安まちまち、原料炭スワップ先物は変わらず、中国鉄鋼製品市場は小幅に上昇した。
鉄鋼製品は在庫水準が高いが、今後の経済政策への期待が高まっていること、鉄鉱石は供給不安が継続していることが価格を押し上げている。
【鉄鋼原料価格見通し】
鉄鉱石価格は、中国政府の経済対策の効果が顕在化しつつあることや、ヴァーレの生産が完全に回復していないこと、リオの減産見通しといった供給面が意識されて高止まりすると考える。
ただし、米中通商協議は引き続き難航しており、鉄鋼製品在庫も季節性を無視して増加していることから、結果的に鉄鉱石需要の減速につながり価格面の下振れリスクも存在する状況。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・直近の中国鉄鋼業PMIは48.2(前月50.0)と減速。新規受注が国内外とも低迷しており(新規受注 47.9(46.7)、輸出新規受注 40.7(45.9))、生産も49.1(56.0)閾値の50を下回った。
ただし、在庫は完成品が39.3(38.3)、原材料在庫が43.5(45.1)と低水準であることは事実であり、需要顕在化時(中国の公共投資など)に鉄鋼製品価格が急騰する可能性も。
・中国の鉄鋼製品在庫水準の高さは価格の下落要因。鉄鋼製品在庫は前週比+31.5万トンの1,258.9万トン(過去5年平均1,039.9万トン)と例年を大きく上回っている。
中国の鉄鉱石在庫水準の高さは徐々に低下し、価格の下支え要因となる可能性。鉄鉱石在庫は前週比+300万トンの1億1,835万トン(過去5年平均1億1,948.6万トン)、在庫日数は+0.6日の24.5日(過去5年平均 30.2日)と例年の水準を下回った状態が続いている。
・季節的に鉄鋼製品在庫の取り崩し時期であり、価格には下押し圧力がかかりやすい。
・長期的には人口ボーナス期入りしているインドが、すでにインフラ整備のための投資拡大方針を示しており、鉄鋼製品・鉄鉱石価格を押し上げ。
・ヴァーレ、リオ・ティントの生産目標引き下げによる供給減速。
(特殊要因)
・中国政府がシャドーバンキングを含む、違法な資金調達を認めてでも公共投資を進める方針を示したことは価格の上昇要因。
・ヴァーレの尾鉱ダム決壊の影響が拡大し、さらに供給減少が起きた場合(自社・他社ともにあり得る)、価格の上昇要因に。
ヴァーレの尾鉱ダム事故の影響で、今後、低品位鉱石価格にも上昇圧力がかかる公算。
(投機・投資要因)
・供給懸念などを通じて大連取引所は建玉を積み増しながら、価格を切り上げており、先々の下落リスクは高まっている状況。
---≪貴金属≫---
【貴金属市場動向総括】
金銀価格は下落した。注目のECB会合では緩和方針が示されたものの、「それほどハト派ではない」という整理に市場ではなったため、長期金利が上昇、実質金利の上昇が価格を下押しした。
PGMは金銀価格の下落に、株価の下落が重なり、同様に水準を切下げた。
【貴金属価格見通し】
金価格は総じて堅調な推移になると考える。世界的な金融緩和観測に加えて、地政学的リスク・信用リスクを背景に安全資産需要が後退していないことから。
米中通商交渉は再開したものの、安全資産需要を促す材料は多い。
イランと米国の対立が継続していることはもちろんのこと、イタリアの財政問題、英国のEU離脱がハードになる可能性がジョンソン首相誕生で高まったこと、それを受けて再びスコットランドの独立話が持ち上がっていることなど、欧州不安が払しょくされていないことなどがあげられる。
銀価格は金銀在庫レシオ(銀在庫÷金在庫)の上昇が金銀レシオを押し上げているため対金で割安に推移。
銀が通貨としての側面を持っていた頃の金銀レシオに戻る可能性は低下している。ただし、足元金銀在庫レシオが低下しているため、銀は修正的に上昇する可能性が出てきた。
PGM価格は金銀価格が高値圏でもみ合うことから同様にもみ合うと考える。ただし、供給面の影響で需給がタイトなパラジウムは引き続き堅調な推移になると予想する。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・FRB・ECBの金融緩和期待が高まっており、7月のFOMCでの▲25bpの利下げは織り込んだ(金ベースで25ドル程度の上昇要因)。
しかし、逆に利下げ期待が高まりすぎているため、期待と金融当局の判断の乖離から、7月FOMCで下落に転じる可能性も。
・景気の先行きを懸念した株価下落とそれに伴う長期金利・実質金利の低下(金銀価格の上昇要因)。ただし、欧州の政情安定化や米中貿易戦争の合意、各国の金融緩和などを背景とする景況感の改善で株価が上昇した場合には金銀価格の下落要因。
・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。
・排ガス規制強化に伴うパラジウムへのシフト期待(パラジウムの上昇要因・プラチナの下落要因)。ただし実際にシフトが起きるには相当の時間がかかる見込み。
・パラジウム需要増加に伴うPGMの増産により、結果的にプラチナが供給過剰となり価格の下落要因に(プラチナ)。
(特殊要因)
・米中通商交渉は一旦追加関税引き上げなどが先送りになったが、基本的に難航している。知的財産権や技術の強制移転などの重要なポイントで妥結できておらず、長期化の見込み(価格の下支え要因)。
・米国とイランの緊張は一時的に低下している。しかし、開戦の可能性がなくなったわけではなく、対立が継続する以上は安全資産需要を高める。
・欧州議会選でのポピュリズム政党の躍進。それに伴うEU懐疑論の高まりによる域内の政情不安定化。
・英国のEU離脱がハードになる可能性があること、それに伴いスコットランドの独立話が再燃していること、それがスペインのカタルーニャ地方に波及する懸念があることは安全資産需要を高める。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加。
(投機・投資要因)
・銀価格は金銀在庫レシオが銀在庫の減少、ないしは金在庫の増加、あるいは両要因によって低下した場合、金銀レシオが上昇するリスク(銀価格の上昇要因)。
・金銀はロングが増加、ショートが減少した。利下げ観測の強まりが背景。ただし過剰な利下げ期待が後退したことからこれらのポジションの巻き戻しが予想される。
・プラチナのポジションはロングが増加、ショートが減少。パラジウムはロングが減少、ショートが増加。
・直近の投機筋のポジションは、金はロングが309,535枚(前週比 +3,430枚)、ショートが64,034枚(+2,692枚)、ネットロングは245,501枚(+738枚)、銀が100,449枚(+4,369枚)、ショートが63,024枚(▲7,905枚)、ネットロングは37,425枚(+12,274枚)
・直近の投機筋のポジションは、プラチナはロングが45,373枚(前週比 +207枚)、ショートが29,781枚(▲8,692枚)、ネットロングは15,592枚(+8,899枚)、パラジウムが17,662枚(▲386枚)、ショートが5,227枚(+75枚)、ネットロングは12,435枚(▲461枚)
---≪農産品≫---
【穀物市場動向総括】
シカゴ穀物市場は高安まちまち。生産地の気象状況の改善期待が高まっていることや、ドル高の進行からトウモロコシと大豆は下落。小麦はIGCが2019-2020年の供給見通しを前回見通しから▲0.8%引き下げ7億6,300万トンとしたことが材料となった。
なお、中国は米国に対して「豚肉と綿花は免税とする」としているようだが、豚コレラの影響で在庫が減少しており、綿花の在庫水準も低下していることから「買いたい」のであり、米国への譲歩ではない。
当然、米国もこれを分かっているためこれを以って米国側が満足するとは考え難い。
【穀物価格見通し】
穀物価格は当面、天候状況が価格を左右する展開となり、神経質な推移が続くと予想するが、生産地の状況改善期待で下落しやすい地合い。
しかし、基本的には北米の作付け状況が不良であること(トウモロコシ、大豆とも、生育状況に遅れ、作況も過去5年の最低水準をはるかに下回る)や、欧州の気温上昇による不作への懸念、FRBの利下げ期待の高まりがドル安を進行させることから、総じて下値は堅かろう。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・米国のトウモロコシ・大豆の生産減少観測による需給タイト化観測。
・豪州東部の大干ばつによる小麦生産の減少懸念。
・欧州・ロシアの気温上昇に伴う小麦生産の減少懸念。
・最終確定作付け面積動向(トウモロコシは増加、大豆は減少、小麦は横ばい)トウモロコシ 9,170万エーカー(市場予想8,703万エーカー、前年8,913万エーカー)大豆 8,004万エーカー(8,468万エーカー、8,920万エーカー)小麦 4,561万エーカー(4,561万エーカー、4,780万エーカー)
・7月の米需給報告の生産見通し
トウモロコシ138億7,500万Bu(前月136億8,000万Bu)大豆 38億4,500万Bu(41億5,000万Bu)小麦 19億2,100万Bu(19億300万Bu)
・7月の米需給報告の在庫見通しトウモロコシ20億100万Bu(前月16億7,500万Bu)大豆 7億9,500万Bu(10億4,500万Bu)小麦 10億Bu(10億7,200万Bu)
・米緩和観測に伴う実質金利の低下に伴うドル安の進行は、シカゴ穀物の輸出競争力を改善し、需給面で価格の上昇要因に。
(特殊要因)
・米中通商交渉は交渉再開で合意したが、覇権争いであり長期化の可能性は高い(価格の下落要因)。
・米政府はブッシェル当たり大豆2ドル、トウモロコシ0.04ドル、小麦0.63ドルの補助金を供給することを検討。生産減少を食い止めるため価格の下落要因に。
・エルニーニョ現象発生による北米の増産は基本的には価格の下落要因だが、今年は洪水が発生しており、夏場の気温上昇や乾燥といった育成環境の悪化の可能性はあり、価格の上昇要因に。
・中国の豚コレラ被害の拡大により、飼料需要が減少した場合は価格の下落要因(逆に終息すれば上昇要因)。
(投機・投資要因)
・トウモロコシはロングが減少、ショートも減少でネット買い越し幅を拡大。大豆はロング増加、ショートはトウモロコシと同様減少している。小麦はロングが減少し、買い越し幅を縮小した。
・直近の投機筋のポジションは、トウモロコシはロングが469,025枚(前週比 ▲532枚)、ショートが150,804枚(▲15,547枚)、ネットロングは318,221枚(+15,015枚)、大豆はロングが140,908枚(+2,230枚)、ショートが135,724枚(▲4,192枚)、ネットロングは5,184枚(+6,422枚)、小麦はロングが120,683枚(▲6,013枚)、ショートが92,714枚(+98枚)、ネットロングは27,969枚(▲6,111枚)
◆本日のMRA's Eye
「イランを巡る中東情勢整理」
今回の一連の問題は米国がイスラエル寄りに過剰にシフトし、オバマ政権時代に悪化していたサウジアラビアとの関係改善で、中東情勢が変化している。米国が加わることで、サウジアラビアとイスラエルが連携し、手を携えてイランを叩こうという機運が高まっているわけだ。
イスラエルは常にイランを警戒している。より具体的には、シリア南部に位置するとされるイランの出店(基地)からイスラエルへの攻撃が本格化する懸念があるため、これを排除したいとの志向が働きやすい。
歴史的にイスラエルはかつてイランと非常に良好な関係だった。イラン革命の前のイランの石油権益はそのほとんどを英国が握っており、それを当時の首相であるモサッデクが取り返し国有化を進め欧米が反発。
その後米国の主導で誕生したのがパフラビー政権でありこの時イランは米国やイスラエルの友好国であった(詳しくは拙著、「原材料の市場分析入門をご参照ください)。
イラン革命以降、イスラエルとイランの関係はよくないわけだが、極めて積極的にイスラエルを支持しているトランプ政権の誕生で我が意を得たネタニヤフ首相は、9月の選挙も控えて強硬な姿勢を取りやすい。
また、オバマ政権時代の恩讐を乗り越えて関係が改善しているサウジアラビアも、イランは同地域で覇権を争う国であり、イスラエルと米国と組んでイランを叩けるのならばこれに乗らない手はない、という感じであろう。
これに、イラン側に助力するロシアが関わってくるが、今回の件に関してロシアが仲介役となって今回の問題を鎮静化できる可能性は低い。
まずそもそも中東への関与を減らしている米国に代わり、ロシアが同地域での紛争を抑え込めるほどの資金力も軍事力も現時点では持ち合わせていないからだ。
すこしロシアの状況を整理してみよう。
まず、ここで難しくなるのがロシアの立ち位置。ロシアはイランとの距離を縮めているが、イラン・イラク戦争時にソ連がイラクを支持して以降関係がよくなかった。その後、ソ連が崩壊してロシアが没落する中で、「反米」ということもあり関係が改善した。
また、ロシアはソ連時代から中東で唯一の軍港となるトアルトスを有するシリアとは距離が近く、アサド政権には支持の立場である。シリアの内戦をアサド政権側に有利に進めるには地上軍の派遣が必須だが、ロシアにはそのための軍事力も資力もない。
そのため、関係が改善しているイランに革命防衛隊などの地上軍を派遣してもらい、イランと同じシーア派政権であるアサド政権をサポートしてもらっているのだ。
次に、イスラエルとロシアの関係だが、イスラエルにはロシア系のユダヤ人が多数居住しており、ロシアの選挙にも影響を及ぼすようでプーチン政権も一定の配慮をしなければならない(そもそもドイツをソ連が打ち破ったため、イスラエルは感情的にロシアとは親密)。そのため、イラン革命防衛隊によるイスラエルへの攻撃は抑制的な対応を取らざるを得ません。
また、OPECプラスで連携しているサウジアラビアに対しても配慮しなければならず、あまり過剰にイランに偏るわけに行かない状況である。
結果、ロシアがイラン問題の解決に向けて調整しようとしてもどちら側にも着くことができない、ということだ。よってイラン問題は当初予想していたように、欧州の仲介で米国とイランが交渉し、イランは核開発の廃棄を、米国は制裁解除を、ということになるだろう。28日に米国抜きでイランと欧州諸国の会合が予定されているが、ここでどれだけイランと欧州がパイプを維持できるかが目先の焦点となる。
これが「希望的観測も含めた」メインシナリオである。これ以外のシナリオになった場合には、トランプ大統領が言うように世界にとって悲惨な結果が待っていることになる。
しかし現時点で制裁を解除しても、原油価格が高騰していない以上、米国側(トランプ政権側)にメリットがない。恐らく最速では11月・12月のOPEC総会前後、ないしは来年の2~3月の大統領選が始まることから支持率上昇につなげるため、来年の春頃が目処となるのではないか。
◆主要ニュース
・7月独IFO企業景況感指数 95.7(前月97.5)
期待指数 92.2(94.0)
現状指数 99.4(101.1)
・6月米製造業耐久財受注速報 前月比+2.0%(前月改定▲2.3%)
除く輸送機器+1.2%(+0.5%)
製造業新規受注資本財非国防除く航空+1.9%(+0.3%)
・6月米前渡商品貿易収支 ▲742億ドルの赤字(▲750億ドルの赤字)
・6月米卸売在庫 前月比+0.2%(前月+0.4%)、小売在庫 ▲0.1%(+0.3%)
・米週間新規失業保険申請件数 206件(前週216千件)、失業保険継続受給者数 1,676千人(1,689千人)
・7月カンザスシティ連銀製造業活動 ▲1(前月0)
・ECB政策金利を±0.00%に据え置き。上限政策金利も0.
・ECBスタッフ、新たな資産買い入れの可能性で選択肢を検討。
・ECBドラギ総裁、「大規模な金融緩和が必要。
・米国軍艦、台湾海峡を航行、中国は台湾に対する武力行使も辞さない姿勢。
・韓国、
・米トランプ大統領、サウジアラビアへの武器輸出阻止する議会決議に拒否権発動。
◆エネルギー・メタル関連ニュース
【エネルギー】
・DOE天然ガス稼働在庫
2,568BCF(前週比+36BCF)
東部 575BCF(+14BCF)
中西部 650BCF(+23BCF)
山間部 151BCF(+4BCF)
太平洋地区271BCF(+3BCF)
南中央 921BCF(▲8BCF)
・ヒズボラ指導者ナスララ師、「米・イランが戦争ならば最初にイスラエルを攻撃する。」
【メタル】
・Q219 Teck
原料炭生産 640万トン(前期610万トン、前年630万トン)、生産コスト(含む輸送コスト)78ドル(77ドル、73ドル)
銅生産 77千トン(70千トン、75千トン)、マージン考慮前キャッシュコスト 3,789ドル(4,076ドル、3,900ドル)
亜鉛精鉱 184(135千トン、188千トン)、マージン考慮前キャッシュコスト 1,124ドル(1,035ドル、1,212ドル)
精錬亜鉛 75千トン(74千トン、75千トン)
◆主要商品騰落率
【上昇率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.ビットコイン ( その他 )/ +2.09%/ +168.74%
2.MDEパーム油 ( その他農産品 )/ +1.95%/ ▲0.95%
3.SHF天然ゴム ( その他農産品 )/ +1.71%/ ▲2.36%
4.DME Oman ( エネルギー )/ +1.62%/ +19.42%
5.NYM RBOB ( エネルギー )/ +1.36%/ +42.05%
【下落率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
70.LMEニッケル 3M ( ベースメタル )/ ▲3.44%/ +31.80%
69.ブラジル・ボベスパ ( 株式 )/ ▲1.41%/ +16.80%
68.CBTトウモロコシ ( 穀物 )/ ▲1.30%/ +11.60%
67.プラチナ ( 貴金属 )/ ▲1.19%/ +8.97%
66.ICEココア ( その他農産品 )/ ▲1.18%/ +0.75%
※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
◆主要指標
【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :27,140.98(▲128.99)
S&P500 :3,003.67(▲15.89)
日経平均株価 :21,756.55(+46.98)
ドル円 :108.63(+0.44)
ユーロ円 :121.09(+0.57)
米10年債利回り :2.08(+0.04)
独10年債利回り :▲0.36(+0.02)
日10年債利回り :▲0.15(▲0.00)
中国10年債利回り :3.16(▲0.00)
ビットコイン :9,874.05(+202.34)
【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :26.16(▲0.39)
エネルギー :30.10(▲0.91)
ベースメタル :20.47(▲0.08)
貴金属 :18.88(+0.17)
穀物 :22.56(▲0.16)
その他農畜産品 :30.54(▲0.55)
【主要商品ボラティリティ】
WTI :31.74(▲1.67)
Brent :30.96(▲0.02)
米天然ガス :41.62(+0.99)
米ガソリン :28.05(▲5.01)
ICEガスオイル :23.35(+0.26)
LME銅 :15.11(▲0.24)
LMEアルミニウム :10.96(▲0.81)
金 :18.07(▲0.05)
プラチナ :20.79(+0.63)
トウモロコシ :32.52(+0.12)
大豆 :18.07(▲0.05)
【エネルギー】
WTI :56.02(+0.14)
Brent :63.39(+0.21)
Oman :63.90(+1.02)
米ガソリン :188.03(+2.52)
米灯油 :191.43(+0.56)
ICEガスオイル :588.25(▲4.25)
米天然ガス :2.24(+0.02)
英天然ガス :27.67(+0.03)
【石油製品(直近限月のスワップ)】
Brent :63.39(+0.21)
SPO380cst :394.80(+3.86)
SPOケロシン :77.87(+0.31)
SPOガスオイル :77.77(+0.28)
ICE ガスオイル :78.96(▲0.57)
NYMEX灯油 :192.27(+0.23)
【貴金属】
金 :1414.58(▲11.28)
銀 :16.41(▲0.19)
プラチナ :867.04(▲10.40)
パラジウム :1531.39(▲9.19)
※ニューヨーククローズ。
【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :6,035(+34:25C)
亜鉛 :2,444(▲14:8C)
鉛 :2,111(+49:12.5B)
アルミニウム :1,825(▲2:29.5C)
ニッケル :14,040(▲440:45C)
錫 :17,760(+135:5C)
コバルト :27,691(▲4)
(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :5985.50(▲13.50)
亜鉛 :2427.00(▲27.50)
鉛 :2097.00(+21.00)
アルミニウム :1826.50(+2.00)
ニッケル :14030.00(▲500.00)
錫 :17800.00(▲135.00)
バルチック海運指数 :2,014.00(▲151.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック
【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR青島) :休場( - )
SGX鉄鉱石 :119.68(+0.10)
NYMEX鉄鉱石 :120.09(▲0.16)
NYMEX原料炭スワップ先物 :183.5(+0.50)
上海鉄筋直近限月 :4,063(+32)
上海鉄筋中心限月 :3,918(+17)
米鉄スクラップ :292(±0.0)
【農産物】
大豆 :882.50(▲8.50)
シカゴ大豆ミール :303.90(▲2.40)
シカゴ大豆油 :28.27(▲0.03)
マレーシア パーム油 :1985.00(+38.00)
シカゴ とうもろこし :418.50(▲5.50)
シカゴ小麦 :499.50(+1.75)
シンガポールゴム :172.60(▲0.40)
上海ゴム :10735.00(+180.00)
砂糖 :12.00(▲0.06)
アラビカ :100.65(▲0.35)
ロブスタ :1326.00(±0.0)
綿花 :63.81(▲0.08)
【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :85.95(▲0.60)
シカゴ生牛 :108.65(▲0.25)
シカゴ飼育牛 :142.80(▲0.03)
※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。