米中対立緩和で上昇も統計悪化で景気循環銘柄安い
- MRA商品市場レポート for PRO
2019年7月2日 第1563号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「米中対立緩和で上昇も統計悪化で景気循環銘柄安い」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は、週末のG20での米中会談やサプライズの米朝首脳会談を受けて買いからスタートしたものの、米ISM指数の減速や断続的なドル高進行で、引けにかけては景気循環銘柄が水準を切下げる展開となり、結果、非景気循環銘柄が物色される流れとなった。
ISM製造業指数は51.7(市場予想50.1、前月52.1)と市場予想を下回り、上回ったが前月からは悪化した。
また、週末に発表された中国の製造業PMIは低水準を維持(49.4→49.4)しており、景況感に改善はみられていない。鉄鋼業PMIについては48.2(50.0)と生産の減速で落ち込んでいる。中国を巡る製造業・工業の動きは鈍い。
【本日の価格見通し総括】
本日は予定されているイベントとしてはOPECプラス会合に注目している。OPECは9ヵ月減産期間を延長することで合意、減産規模も▲80万バレルと現状維持。しかし「減産枠を順守」とは言われておらず、結果的に今までと同じ減産スタンスを維持する方針とみられる。
この状況では、イラン問題が顕在化した場合に価格が大きく上昇し、世界経済の重しになる可能性は高い。
商品市場全体では、G20が無難にこなされたため、再びマクロ経済統計に回帰する動きになると考える。本日は昨日の上昇もあって一旦調整売りに押される商品が増えると見る。
【昨日の世界経済・市場動向のトピックス】
週末は大きなイベントが続いたが、結果だけ見ればとりあえず事前の予想通りであった。G20での米中首脳会談では話し合いの再開が合意に至った。
再開にあたり、なぜか中国は米国から「果実」を得ている。1.追加制裁の見送り、2.華為技術への制裁緩和、といった内容だが、これの見返りが米国農産品の輸入拡大では割が合わないように見える。
華為技術への制裁緩和はパブコメをヒアリングの後、米国内からも反発が強かったため一部解除せざるを得なくなったという感じであると思うが、それでもあまり釣り合うようには見えない。
と、考えると翌日の北朝鮮往訪と米朝首脳会談の実施は、実はG20を前に北朝鮮を訪れた習近平国家主席のアレンジによるものである可能性が高い。現に、文在寅大統領は、米朝首脳の面談に参加しようとしたところでシャットアウトされている。
さらに板門店の国境を越えた最初の大統領という肩書も手に入れ、このままいくと北朝鮮の「長距離ミサイル破棄」ぐらいまでは獲得できそうである。トランプ大統領の選挙向けのアピールとしては、失うものがあまりなく、かつ中国もまったく痛みを伴わないものである。
もちろん逆の見方もあり、中国・北朝鮮が近づきすぎることに対する牽制球ともとれる。しかし、そうであれば制裁緩和とは整合性が取れない。
米中問題は北朝鮮問題も複眼的に視野にいれて考える必要があることを、改めて気づかせるイベントだった。
しかし、これらがあったとしても米朝・米中に大きな改善があるとは思えず、当面、これらの問題は景気の下押し要因であり、かつ、東アジアの大きな地政学的リスクであることに変わりはない。
【景気循環銘柄共通の価格変動要因整理】
(マクロ要因)
・各国のPMI・ISMなどのマインド系指標再びの減速(価格下落要因)。
・世界景気の減速観測。IMFは2019年の経済見通しを引き下げ(+3.5%→+3.3%)ており、米中対立の激化があった場合には▲0.5%程度の引き下げリスクも視野に入れている。リスク資産価格に対して下向きのリスク。
・FRBの利下げの可能性が再び高まる(トランプ大統領があからさまに要求を始めており、米中通商戦争の行方次第ではあり得る状況に)。
・景気減速を受けた、各国政府・中銀の財政政策・金融緩和は価格の上昇要因(Q119の中国GDPは前年比+6.4%、前期+6.4%と市場予想の+6.3%を上回りやや減速懸念が後退)。
※中国は地方政府の資金調達規制を実質緩和。
・景気減速下での原油価格高止まりは、消費国から生産国への所得移転を通じて景気の下押し要因に。また、リスク回避のドル高進行も価格上昇を抑制。
・2018年からインドが人口ボーナス期入りしており、構造的な需要の増加が見込めることは中長期的な価格の上昇要因。
(特殊要因)
・米中通商協議が再開で決定したが、通商協議そのものが合意をしたわけではなく、制裁は継続しており世界経済がさらに減速する場合(下落要因)。
・欧州の政治混乱(伊仏の対立、ポピュリズムの台頭、トルコと欧州の関係悪化、トルコの景気減速など)によるリスク回避の動きの強まり(下落要因)。
・中東情勢の悪化を受けた域内景気の混乱と、それを受けた欧州景気への悪影響拡大(下落要因)
・英国のEU離脱が無秩序なものになるリスク。とりあえず10月末を期限として問題先送りしたが、メイ首相の後任が強硬派のジョンソン前外相である可能性が高く、ハードブレグジットの可能性が高まっている(下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(下落要因)。
(投機・投資要因)
・米利下げ観測の高まりで長短金利逆転状況が解消し、金融株を中心に株が上昇、リスクテイク再開で景気循環系商品価格にプラスの影響を与える場合。
◆昨日の商品市場(個別)の総括
---≪エネルギー≫---
【原油市場動向総括】
原油相場は上昇後下落。OPECが9ヵ月の減産期間延長で合意したと、報じられたことで需給タイト化懸念が強まったことが価格を押し上げたが、米ISM製造業指数が悪化したことで売られた。
【原油価格見通し】
原油価格は高値圏での推移になると考える。G20での米中首脳会談の結果、通商問題に関して一時的に休戦で合意したことや、中東情勢不安が材料。
イランと米国に関して、両国の国力を削る開戦はない、というのがメインシナリオではあるものの、イランも米国の制裁に反発して低濃縮ウランの生産を再開しており、この状態で米イラン首脳会談が開催されるとは考え難く、その選択肢を排除できない状況。
トランプ大統領はイランに対して攻撃したくない、というのが本音と見られるが、ボルトンを筆頭とする共和党保守強硬派はあまりそう考えていないようだ。引き続き両国動向は、ニュースに一喜一憂とならざるを得ない。
これ以上、中東を材料に価格が上昇するとすれば、さらに具体的に米国とイランが軍事的に衝突すること、ないしはクシュナーの提案などをきっかけにイスラエルとパレスチナの対立が深まり、軍事衝突が起きることであるが、現時点では希望的観測も含めて「ない」と信じたい。
この中東有事の高まりで、OPECプラス会合での方針は急速に従来の見通し、すなわち▲120万バレルの減産水準を順守、という方向に舵が切られるとみられる。
中東情勢が緊迫しているため、OPECの決定はBrentベースで60ドル程度まで価格を押し下げると予想されるが、中東の緊張が緩和されれば、ISM製造業指数の低下もあってBrentベースで55ドル程度までの下落が見込まれる。
なお、この状況においてもOPEC諸国に対する影響を残すことができるため、イランがOPECを脱退する、というのは選択肢になっていないと考えられる。
【石炭市場動向総括】
石炭先物市場は小幅高。季節的に需要の端境期にあることや、欧州ガス価格低下に伴う欧州石炭価格の低迷で低水準での推移を続けている。
【石炭価格見通し】
石炭価格は夏場に向けて上昇するとみているものの、欧州市場の需給緩和(よりクリーンなエネルギーへのシフト、景気減速による電力需要の後退)、中国の景況感の悪化を受け、当面は下値余地を探る動きになると考える。
中国の石炭の輸入量は回復しており、過去5年のレンジを上抜けした。生産に関しては減少傾向となっているが、港湾在庫は増加するなど、需要面の弱さから総じて中国の石炭需給は緩和傾向にある可能性が高く、ファンダメンタルズは強くない。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・原油価格の上昇に伴う北米の増産継続は、需給緩和で価格の下落要因。
・景気が減速する中での減産継続は、その効果が限定されはするものの、足元の価格下落を受けてOPECプラスの協調減産は7月以降も継続(場合によると減産枠拡大)の見込みであり、一定の下支え効果をもたらす見込み。
・産油国の財政悪化による上流投資部門投資の減速は、インドなどの新興国需要顕在化時の価格上昇要因。
・EV普及による需要の伸び鈍化を、軽量化目的の樹脂向け需要増加が相殺(需要が減少を始めるのは2050年頃からか)。
・世界的な石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念。価格上昇要因(石炭)。
・中国の石炭生産鈍化(4月2億9,429万トン)、輸入減少(1,564万7,172トン)にもかかわらず、港湾在庫が増加していることは国内需要の弱さを示唆(石炭)。
(特殊要因)
・米国がイランを攻撃する準備を整えていたことが発覚、両国の緊張はこれまでにないほど高まっていることは、開戦を通じた供給懸念を通じて価格の上昇要因に。
・北朝鮮のミサイル発射により、制裁が継続される可能性が高まっていることは、北朝鮮からの石炭輸出(密輸)を制限し、価格の上昇要因(石炭)。
・米中情報戦争をめぐる華為技術排除の決定を受けて中国政府は豪州からの石炭輸入を規制、インドネシア炭にシフトしていることはNEWC価格の下落要因に(石炭CIF価格に対する影響は中立)。
(投機・投資要因)
・WTI・Brentともロングの減少が顕著だが、WTIのショートには買戻し、Brentはショートが増加した。中東情勢を巡り市場参加者のスタンスはまちまちだが、とにかく積み上がったロングから解消する動きが強まっているようだ。
・テクニカルには、世界の市場参加者は原油取引において「一目均衡表」を活用するようになっており、「雲のねじれ」がある7月初に、例えば中東情勢不安が顕在化したり、金融緩和が意識されるようになったり、OPECが減産幅を拡大したり、ということがあれば、7月意向、ポジションの巻き戻しで急騰リスクはあり得る。
・直近の投機筋のポジションは、WTIはロングが496,941枚(前週比 ▲5,808枚)、ショートが118,138枚(▲21,524枚)、ネットロングは378,803枚(+15,716枚)、Brentが326,480枚(前週比▲7,003枚)、ショートが71,726枚(+9,749枚)、ネットロングは254,754枚(▲16,752枚)
---≪LME非鉄金属≫---
【非鉄金属市場動向総括】
LME非鉄金属価格は上昇したのち、下落した。G20での米中合意や北朝鮮問題の進捗期待で上昇して始まったものの、断続的にドル高が進行したことや、米ISM製造業指数の悪化を受けて下落した。
【非鉄金属価格見通し】
非鉄金属価格は一旦買戻しが入って上昇すると考える。週末開催のG20ではほぼ予想通りだったが、米中が一旦通商戦争休戦で合意、追加関税が見送られたことで、景気への過剰な懸念が後退したことで、投機筋の買戻しが入ると考えられることから。
ただし、米シカゴ購買部協会指数の悪化や個人消費の伸びが緩やかなものにとどまるなど、マクロ経済環境の悪化もあって上昇余地は限定されると考える。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・最大消費国である中国の製造業PMIは低調で、新規受注/完成品在庫レシオ、新規受注/原材料在庫レシオとも低下、需給環境が緩和していることを示唆。
・環境規制の強化で特殊需要が増加する(軽量化目的のアルミ、EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80キロ/台)、蓄電池としての鉛、コバルトなど)
・中国の環境規制強化に伴うスクラップの調達難による、新塊需要の増加。
・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。
・亜鉛の精錬キャパシティ不足に伴う需給のタイト化。一方鉱山生産は再開しており、亜鉛精鉱需給は緩和、TCも高止まり。
・環境規制強化・米制裁の影響による石炭価格上昇が、中国の非鉄金属製造コストを高止まりさせる場合。
・インドをはじめとする新興国の構造的な需要増加(中長期的な要因)。
(特殊要因)
・中国政府がシャドーバンキングを含む、違法な資金調達を認めてでも公共投資を進める方針を示したことは、需要面で価格の上昇要因に。
・銅の生産減少観測(環境問題によるインド、露天掘りから地下生産に変更するインドネシア、コデルコのストライキ)、ヴァーレの尾鉱ダム事故の影響による供給減少(アルミやニッケルなどに波及する可能性)。
オランダ ニルスター社の豪鉛精錬所(ポート・ピリー)停止による、供給不安(鉛)。
ハイドロのAlunorteアルミナ精錬所の問題に象徴されるように、広く非鉄金属を含む鉱物セクターは、環境問題への高まりから供給が政府命令で急に停止してしまう可能性は低くない。
・LME指定倉庫在庫の減少が、LMEの倉庫運営ルール変更に伴う保管場所変更の取引の影響である場合、ルールが見直された際に再度、LME指定倉庫在庫が急増する可能性(下落要因)。
(投機・投資要因)
・6月21日付のLMEポジションは動きがまちまち。
亜鉛を除くすべての金属で、G20への期待などから積み上がっていたショートの解消が進んだ。銅、鉛、ニッケル、錫のロングが増加した。総じて、G20での米中協議、四半期末を控えたポジション調整の取引が主体だったと考えられる。
投機筋のLME+CME銅ネット売り越し金額は▲57.0億ドル(前週▲67.1億ドル)と売り越し幅を縮小。売り越し額の減少幅は▲15.1%に。
買い越し枚数はトン数換算ベースで▲1,411千トン(前週▲1,631千トン)と売り越し幅を縮小。亜鉛と錫以外はトン数ベースでネット売り越しのまま。ネット売り越しの減少率は▲13.5%。
---≪鉄鋼原料≫---
【鉄鋼原料市場動向総括】
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップ市場は大幅な上昇、原料炭スワップ先物は限月交代もあり大幅な下落、中国鉄鋼製品市場は上昇した。G20での米中首脳会談の結果を受けたリスク資産買いの動きに連れる形。
週末に発表された中国の鉄鋼業PMIは、48.2(前月50.0)と減速。新規受注の回復(47.9→46.7)はあったが、輸出向け新規受注の落ち込みが大きく(45.9→40.7)国内の需要が一定の下支え効果をもたらしたようだ。
しかし、生産は減速(56.0→49.1)しているにも関わらず、在庫は完成品(38.3→39.3)、原材料(45.1→43.5)と、一部の原材料在庫を取り崩して製品生産にあてたと考えられる。国内生産者は慎重な姿勢を崩していない。
【鉄鋼原料価格見通し】
鉄鉱石価格は、中国政府の公共投資促進策と豪州からの供給不安、ヴァーレの生産が完全に回復していないこと、リオの減産見通しといった供給面、米中首脳会談実施期待を受けた鉄鋼製品の投機的な買戻しを背景に、高値圏での推移になると予想。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・直近の鉄鋼業PMIは48.2(前月50.0)と減速。新規受注の回復(47.9→46.7)はあったが、輸出向け新規受注の落ち込みが大きく(45.9→40.7)国内の需要が一定の下支え効果をもたらしたようだ。
しかし、生産は減速(56.0→49.1)しているにも関わらず、在庫は完成品(38.3→39.3)、原材料(45.1→43.5)と、一部の原材料在庫を取り崩して製品生産にあてたと考えられる。国内生産者は慎重な姿勢を崩していない。
・中国の鉄鋼製品在庫水準の高さは価格の下落要因。鉄鋼製品在庫は前週比▲0.3万トンの1,178万トン(過去5年平均1,077.7万トン)と例年を上回っている。
中国の鉄鉱石在庫水準の高さは徐々に低下し、価格の下支え要因となる可能性。鉄鉱石在庫は前週比▲150万トンの1億1,525万トン(過去5年平均1億1,827.6万トン)、在庫日数は▲0.3日の23.5日(過去5年平均 28.5日)と例年の水準を下回った状態が続いている。
・季節的に鉄鋼製品在庫の取り崩し時期であり、価格には下押し圧力がかかりやすい。
・長期的には人口ボーナス期入りしているインドが、すでにインフラ整備のための投資拡大方針を示しており、鉄鋼製品・鉄鉱石価格を押し上げ。
・ヴァーレ、リオ・ティントの生産目標引き下げによる供給減速。
(特殊要因)
・中国政府がシャドーバンキングを含む、違法な資金調達を認めてでも公共投資を進める方針を示したことは価格の上昇要因。
・ヴァーレの尾鉱ダム決壊の影響が拡大し、さらに供給減少が起きた場合(自社・他社ともにあり得る)、価格の上昇要因に。
ヴァーレの尾鉱ダム事故の影響で、今後、低品位鉱石価格にも上昇圧力がかかる公算。
(投機・投資要因)
・供給懸念などを通じて大連取引所は建玉を積み増しながら、価格を切り上げており、先々の下落リスクは高まっている状況。
---≪貴金属≫---
【貴金属市場動向総括】
金価格は下落した。米中合意、北朝鮮と米国の緊張緩和、といった材料を受けて安全資産需要が減少したことが背景。
PGMは金銀価格に連れ安となったが、パラジウムは株価の上昇もあってこれを相殺した。
【貴金属価格見通し】
金価格は、ほぼ予想通りではあるが、米中が一時停戦で合意したことで安全資産需要が後退するため、一旦下値余地を探る動きになると考える。
ただし、FRBが緩和方向に舵を切ったこと、中東情勢の悪化やイタリアなどの情勢不安を材料に下値余地も限定されるとみる。
銀価格は金銀在庫レシオ(銀在庫÷金在庫)の上昇が金銀レシオを押し上げているため対金で割安に推移。
PGM価格は金銀価格が底堅い推移になるため堅調だが、株価動向に左右され神経質な推移を継続。供給不安で基本的にパラジウムは堅調な推移が続こう。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・FRB・ECBの金融緩和期待が市場で再び高まっていること、原油価格の高止まりは実質金利の低下を通じて金銀価格の上昇要因に(逆に利下げ期待が高まりすぎているため、期待と金融当局の判断の乖離から、7月FOMCで下落に転じる可能性も)。
・景気の先行きを懸念した株価下落とそれに伴う長期金利・実質金利の低下(金銀価格の上昇要因)。ただし、欧州の政情安定化や米中貿易戦争の合意、景況感の改善で株価が上昇した場合には金銀価格の下落要因。
・世界的な自動車販売の減速(米欧中)による、自動車向け排ガス触媒需要の減少(PGM)。
・排ガス規制強化に伴うパラジウムへのシフト期待(パラジウムの上昇要因・プラチナの下落要因)。ただし実際にシフトが起きるには相当の時間がかかる見込み。
・パラジウム需要増加に伴うPGMの増産により、結果的にプラチナが供給過剰となり価格の下落要因に(プラチナ)。
(特殊要因)
・米中通商交渉は一旦追加関税引き上げなどが先送りになったが、企保的に難航している。知的財産権や技術の強制移転などの重要なポイントで妥結できておらず、長期化の見込み(価格の下支え要因)。
・米国とイランの開戦リスクが高まっている。共和党議会側はイランに対する戦闘の準備を終えており、それをトランプ大統領が止めた、という状況。
・米国の債務上限問題の顕在化(8月~9月にデフォルトするリスク)。
・欧州議会選でのポピュリズム政党の躍進。それに伴うEU懐疑論の高まりによる域内の政情不安定化。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加。
(投機・投資要因)
・銀価格は金銀在庫レシオが銀在庫の減少、ないしは金在庫の増加、あるいは両要因によって低下した場合、金銀レシオが上昇するリスク(銀価格の上昇要因)。
・金銀はロングが増加、ショートが減少しており、利下げ期待を織り込みながら強気のポジション取りに。
・プラチナはロングが増加、ショートも増加しネットポジションはほぼ変わらず。パラジウムはロング・ショートとも増加しているが、ロングの増加のほうが大きい。
パラジウムは基本的に供給不足であり、積み上がったショートの買戻しでさらに上昇する可能性も。
・直近の投機筋のポジションは、金はロングが298,108枚(前週比 +23,475枚)、ショートが61,554枚(▲8,756枚)、ネットロングは236,554枚(+32,231枚)、銀が97,573枚(+4,298枚)、ショートが67,008枚(▲11,751枚)、ネットロングは30,565枚(+16,049枚)
・直近の投機筋のポジションは、プラチナはロングが48,631枚(前週比 +1,834枚)、ショートが46,645枚(+1,818枚)、ネットロングは1,986枚(+16枚)、パラジウムが15,181枚(+1,638枚)、ショートが4,332枚(+994枚)、ネットロングは10,849枚(+644枚)
---≪農産品≫---
【穀物市場動向総括】
シカゴ穀物価格は下落。米国の天候状況の改善観測と、ドル高進行が重石となった。また、米中対立の一部緩和を受けた非景気循環系商品から景気循環系商品へのシフトも重石となった。
【穀物価格見通し】
穀物価格は当面、天候状況が価格を左右する展開となり、神経質な推移が続くと考える。
しかし、基本的には北米の作付けの遅れから、ショートの買戻しが入り上昇すると考える。米中首脳会談で、米中交渉再開が確認されたこと、米農務省の需給報告で、トウモロコシの生産見通しが引き下げられたこと、欧州の気温も上昇しており、収穫への懸念が強まっていることも材料。
【価格変動要因の整理】
(マクロ要因)
・米国のトウモロコシ・大豆の生産減少観測による需給タイト化観測。
・豪州東部の大干ばつによる小麦生産の減少懸念。
・欧州・ロシアの気温上昇に伴う小麦生産の減少懸念。
・最終確定作付け面積動向(トウモロコシは増加、大豆は減少、小麦は横ばい)トウモロコシ 9,170万エーカー(市場予想8,703万エーカー、前年8,913万エーカー)大豆 8,004万エーカー(8,468万エーカー、8,920万エーカー)小麦 4,561万エーカー(4,561万エーカー、4,780万エーカー)
・6月の米需給報告の生産見通し
トウモロコシ136億8,000万ブッシェル(前月150億3,000万Bu)大豆 41億5,000万Bu(41億5,000万Bu)小麦 19億300万Bu(18億9,700万Bu)
・6月の米需給報告の在庫見通しトウモロコシ16億7,500万ブッシェル(前月24億8,500万Bu)大豆 10億4,500万Bu(9億7,000万Bu)小麦 10億7,200万Bu(11億4,100万Bu)
・米緩和観測に伴う実質金利の低下に伴うドル安の進行は、シカゴ穀物の輸出競争力を改善し、需給面で価格の上昇要因に。
(特殊要因)
・米中通商交渉は交渉再開で合意したが、覇権争いであり長期化の可能性は高い(価格の下落要因)。
・米政府はブッシェル当たり大豆2ドル、トウモロコシ0.04ドル、小麦0.63ドルの補助金を供給することを検討。生産減少を食い止めるため価格の下落要因に。
・エルニーニョ現象発生による北米の増産は基本的には価格の下落要因だが、今年は洪水が発生しており、夏場の気温上昇や乾燥といった育成環境の悪化の可能性はあり、価格の上昇要因に。
・中国の豚コレラ被害の拡大により、飼料需要が減少した場合は価格の下落要因(逆に終息すれば上昇要因)。
(投機・投資要因)
・すべての穀物で、ロング・ショートとも減少。G20や需給報告、四半期末を控えたポジション解消の動きが強まったため。いずれもネットロングが減少している。
・直近の投機筋のポジションは、トウモロコシはロングが462,115枚(前週比 ▲11,528枚)、ショートが154,914枚(▲48,383枚)、ネットロングは307,201枚(+36,855枚)、大豆はロングが127,643枚(▲29,590枚)、ショートが129,511枚(▲30,456枚)、ネットロングは▲1,868枚(+866枚)、小麦はロングが129,662枚(▲9,684枚)、ショートが99,458枚(▲10,585枚)、ネットロングは30,204枚(+901枚)
◆本日のMRA's Eye
「暴動発生となる可能性がある食品価格水準」
北米の不作の影響で、穀物価格が上昇するリスクが意識されている。足元は天候状況の改善で下落しているため、国連食料品価格指数を見てみると、まだそれほど顕著な上昇にはなっていないが、2010年と類似した上昇の仕方をしており、影響の拡大を意識する必要がある。
この指数は食品を穀類、日用品(バター、乳製品など)、肉類、油脂、砂糖の5セクターに分け、貿易量で価格を加重平均したものである。同指数は、高付加価値品である肉類のウェイトが34.8%と高く次いで穀類の27.2%、日用品17.3%となっている。
穀類は肉類の生産に必要な飼料として用いられるため実質的に食品価格指数の6割は穀物価格で決定されるといっても良い。言葉を変えると穀類の価格が食品価格動向を決定づけているともいえるだろう。
食品価格は、需要面が食の嗜好の変化がなければ人口動態の変化にしたがって緩やかにしか変化しないが、食の西欧化(肉食化)は、その国の経済成長に依拠する傾向が強いため、労働者人口が要扶養人口の2倍を超える人口ボーナス期入りしたときに、1人当たり可処分所得の増加を通じて進むことが多い。
現在、中国の人口動態がピークアウトしているが2032年頃まで、インドが2018年から人口ボーナス期入りした(国連データに基づく)こと、世界の人口の内、合計で30億人に迫る国民を抱える2国の需要が増加することを考えると、今後、食品価格には徐々に構造的な上昇圧力がかかりやすい局面に入っていると考えられる。
また、バイオ燃料の普及などにより、景気動向にも穀物需要が左右されやすくなっており、今まで以上に需要面が穀物価格に影響を与えやすい状況になっていることは無視できない。
この状態であっても供給能力が限られる(新たに作付けできる土地がもう、アマゾンぐらいしか残っていない)ため、引き続き天候要因が穀物を含む食品価格の上昇リスクであることには変わりがない。
食品価格が上昇すると貧困国では食品の取得が困難になり、さらにより多くのカロリーを必要とする若年層の比率が高いほど、暴動につながりやすい。2010年からチュニジアで始まったアラブの春は穀類・肉類・日用品すべての価格が上昇したことによって食品価格が高騰し、若年貧困層が現行政権への不満を爆発させたものだ
しかし、中東の産油国は原油価格の低迷で財政状況が悪化し、貧困層への補助金を十分に出せない状態が続いていることは無視できない。
現在OPEC総会での減産合意で価格を押し上げようと協議が続いているが、イランとの緊張の高まりや、増産をしたいと考えているロシアの意向を受けて実質増産となる可能性は低くない。その場合、さらに原油価格が下落する可能性が出てくる。
仮に、アラブの春発生時の食品価格を基準とすると、現在の水準から30%は価格が上昇する必要がある。各々の食品価格が均等に上昇するとするならば、トウモロコシで575セント、大豆で1,200セント、小麦で675セントがその「目安」となる。
ただし、産油国の財政状況はアラブの春発生時よりも悪化していることは事実であり、これよりも低い水準での暴動発生リスクは、以前よりも高いと考えるべきだろう。
◆主要ニュース
・6月日銀短観業況判断DI(3ヵ月後見通し/現状/前回)
大企業製造業 7/7/12
中堅企業製造業 0/5/7
中小企業製造業 ▲5/▲1/6
大企業非製造業 17/23/21
中堅企業非製造業 11/18/18
中小企業非製造業 3/10/12
雇用人員判断DI(過剰-不足)
大企業全産業 ▲22/▲21/▲23
中堅企業全産業 ▲36/▲34/▲35
中小企業全産業 ▲41/▲36/▲39
需給判断DI(需要超-供給超)
大企業製商品サービス ▲7/▲8/▲6
中小企業製商品サービス ▲21/▲20/▲16
大企業海外向け ▲6/▲7/▲5
中小企業海外向け ▲13/▲12/▲9
在庫判断DI(過大-不足、現状/前回/前々回)
大企業製商品在庫 11/8/6
中小企業在庫 15/13/10
大企業流通在庫 10/8/2
中小企業流通在庫 17/12/9
価格判断DI(上昇-下落)
大企業販売価格 ▲4/▲2/1
中小企業販売価格 0/1/3
大企業仕入 13/11/17
中小企業仕入 35/32/37
生産・営業設備判断DI(過剰-不足)
大企業製造業 ▲1/▲1/▲2
中堅企業製造業 ▲1/±0.0/▲2
中小企業製造業 ▲4/▲2/▲4
設備投資計画前年比(前年度)
大企業製造業 +12.9%(+7.0%)
中堅企業製造業 +0.3%(+6.4%)
中小企業製造業 ▲3.0%(+17.2%)
大企業非製造業 +4.2%(+7.4%)
中堅企業非製造業 ▲7.3%(+9.5%)
中小企業非製造業 ▲3.0%(+17.2%)
・6月日本国内自動車販売 前年比▲0.9%(前月+4.8%)
・6月日本消費者態度指数 38.7(前月 39.4)
・6月中国製造業PMI 49.4(前月49.4)
生産 51.3(51.7)
新規受注 49.6(49.8)
輸出新規受注 46.3(46.5)
受注残 44.5(44.3)
輸入 46.8(47.1)
完成品在庫 48.1(48.1)
原材料在庫 48.2(47.4)
雇用 46.9(47.0)
・6月中国鉄鋼業PMI 48.2(前月50.0)
生産 49.1(56.0)
新規受注 47.9(46.7)
輸出新規受注 40.7(45.9)
完成品在庫 39.3(38.3)
原材料在庫 43.5(45.1)
・6月中国非製造業PMI 54.2(前月54.3)
新規受注 51.5(50.3)
新規輸出 48.5(47.9)
受注残 44.4(44.4)
在庫 46.0(46.6)
雇用 48.2(48.3)
・6月中国財新製造業PMI 49.4(前月50.2)
・6月日経インド製造業PMI 52.1(前月52.7)
・6月ユーロ圏製造業PMI改定 47.6(速報比▲0.2、前月改定 47.7)、独製造業PMI改定 45.0(▲0.4、前月改定 44.3)
・6月独失業者数 前月比▲1千人(前月▲60千人)、失業保険申請率 5.0%(5.0%)
・6月米ISM製造業景況指数 51.7(前月52.1)
仕入れ価格 47.9(53.2)
生産 54.1(51.3)
新規受注 50.0(52.7)
受注残 47.4(47.2)
在庫 49.1(50.9)
顧客在庫 44.6(43.7)
輸出 50.5(51.0)
輸入 50.0(49.4)
・6月米製造業PMI改定 51.0(速報比+0.5、前月改定 50.5)
◆エネルギー・メタル関連ニュース
【エネルギー】
・イラン、低濃縮ウランの貯蔵量、核合意の上限を超える。
・OPEC、9ヵ月の減産合意を発表。減産幅はこれまでの▲
【メタル】
・特になし。
◆主要商品騰落率
【上昇率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
1.SGX鉄鉱石 ( 鉄鋼原料 )/ +9.16%/ +67.58%
2.CME木材 ( その他農産品 )/ +6.78%/ +21.68%
3.TCM原油 ( エネルギー )/ +5.07%/ +9.04%
4.ICE欧州天然ガス ( エネルギー )/ +3.24%/ ▲56.64%
5.ICEココア ( その他農産品 )/ +3.10%/ +4.55%
【下落率上位5商品】
商品名(カテゴリー)/前日比上昇率/年初来上昇率
70.ビットコイン ( その他 )/ ▲14.17%/ +185.28%
69.CME生牛 ( 畜産品 )/ ▲5.79%/ ▲16.59%
68.原料炭スポット ( 鉄鋼原料 )/ ▲4.73%/ ▲17.30%
67.SGX天然ゴム ( その他農産品 )/ ▲4.54%/ +30.37%
66.ニューキャッスル炭 ( エネルギー )/ ▲4.09%/ ▲33.37%
※弊社が重要と考える主要商品の前日比騰落率上位・下位5品目です。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
◆主要指標
【為替・株・金利・ビットコイン】
NY ダウ :26,717.43(+117.47)
S&P500 :2,964.33(+22.57)
日経平均株価 :21,729.97(+454.05)
ドル円 :108.45(+0.60)
ユーロ円 :122.40(▲0.26)
米10年債利回り :2.02(+0.02)
独10年債利回り :▲0.36(▲0.03)
日10年債利回り :▲0.15(+0.01)
中国10年債利回り :3.23(▲0.01)
ビットコイン :10,481.86(▲1730.84)
【MRAコモディティ恐怖指数】
総合 :24.63(▲0.27)
エネルギー :29.51(▲4.73)
ベースメタル :21.98(+0.06)
貴金属 :15.26(▲0.66)
穀物 :22.07(+0.27)
その他農畜産品 :27.44(+1.38)
【主要商品ボラティリティ】
WTI :35.66(▲0.11)
Brent :31.13(▲4.42)
米天然ガス :30.19(▲3.52)
米ガソリン :33.84(▲2.62)
ICEガスオイル :23.85(▲2.1)
LME銅 :13.79(+0.03)
LMEアルミニウム :18.08(+0.01)
金 :18.58(+1.03)
プラチナ :15.50(▲4.32)
トウモロコシ :30.67(+0.7)
大豆 :18.58(+1.03)
【エネルギー】
WTI :59.09(+0.62)
Brent :65.06(▲1.49)
Oman :63.79(▲0.84)
米ガソリン :193.05(▲1.20)
米灯油 :195.38(+0.92)
ICEガスオイル :590.50(▲4.50)
米天然ガス :2.27(▲0.04)
英天然ガス :26.48(+0.83)
【石油製品(直近限月のスワップ)】
Brent :65.06(▲1.49)
SPO380cst :385.10(▲14.59)
SPOケロシン :78.57(+0.65)
SPOガスオイル :78.43(+1.08)
ICE ガスオイル :79.26(▲0.60)
NYMEX灯油 :196.10(+1.13)
【貴金属】
金 :1384.19(▲25.36)
銀 :15.15(▲0.17)
プラチナ :832.34(▲2.41)
パラジウム :1547.89(+10.23)
※ニューヨーククローズ。
【LME非鉄金属】
(3ヵ月公式セトル)
銅 :6,012(+31:13C)
亜鉛 :2,483(▲13:63B)
鉛 :1,935(+8:12C)
アルミニウム :1,804(+10:25.5C)
ニッケル :12,420(▲290:80C)
錫 :18,860(+10:40B)
コバルト :28,645(▲5)
(3ヵ月ロンドンクローズ)
銅 :5941.00(▲60.00)
亜鉛 :2462.00(▲31.00)
鉛 :1916.50(▲16.50)
アルミニウム :1791.50(▲2.50)
ニッケル :12325.00(▲350.00)
錫 :18890.00(+90.00)
バルチック海運指数 :1,354.00(+14.00)
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック
【鉄鋼原料】
62%鉄鉱石スポット(CFR青島) :休場( - )
SGX鉄鉱石 :119.18(+10.00)
NYMEX鉄鉱石 :119.45(+10.27)
NYMEX原料炭スワップ先物 :188(▲9.33)
上海鉄筋直近限月 :3,835(+55)
上海鉄筋中心限月 :4,108(+64)
米鉄スクラップ :267(±0.0)
【農産物】
大豆 :885.50(▲14.25)
シカゴ大豆ミール :304.80(▲8.30)
シカゴ大豆油 :27.98(▲0.26)
マレーシア パーム油 :1890.00(+25.00)
シカゴ とうもろこし :412.00(▲8.25)
シカゴ小麦 :514.00(▲14.00)
シンガポールゴム :193.60(▲9.20)
上海ゴム :11240.00(±0.0)
砂糖 :12.57(+0.25)
アラビカ :110.15(+1.90)
ロブスタ :1439.00(+18.00)
綿花 :63.17(+0.02)
【畜産物】
シカゴ豚赤身肉 :72.58(+0.48)
シカゴ生牛 :104.10(▲6.40)
シカゴ飼育牛 :137.03(+0.18)
※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。