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強まる米利下げ観測で支えられたリスク選好
  • MRA外国為替レポート

2019年6月10日号

◆先週の市場総括


先週の市場は米中通商協議がさらに難航し長期化するとの見方が広がるなか、週初はトランプ政権による移民抑止を理由とする対メキシコ関税の導入表明がさらに市場の不安を高めた。

景気悪化懸念が深まりリスク回避で株価が下落。利下げ観測の台頭により米長期金利が急速に低下し米10年債利回りは2.1%を割り込んだ。

ドルは全般に軟調に推移。円高というよりドル安によりドル円相場は週央まで軟調で一時107円台に下落した。

週央には対メキシコ関税が回避されるとの期待や利下げ期待から株価が反発。米長期金利が低迷しつつも底打ちするなかドル円相場は108円台半ばでの推移となった。

ユーロも対ドルで堅調。週初1.11台半ばで始まったが週後半には一時1.13をつけた。ユーロ円相場は121円ちょうど近辺で始まり、ユーロ堅調やリスク回避の緩和で122円台を回復した。

ただ週末に発表された雇用統計が弱い数字となり利下げ期待が一段と高まった。米10年債利回りは2.08%に低下して引け。米国株は利下げ期待がさらに高まったことで続伸し、週を通じて堅調な値動きとなった。

そうしたなか日経平均は、週初は景気悪化懸念、米国株の下落、ドル安円高で押し下げられ20,300円台で低迷。しかし週央にかけて米国株の持ち直しとドル円相場の下げ止まりで反発。20,900円近くまで戻して引けた。

月曜日の東京市場のドル円相場は108円20銭~30銭で始まり上値の重い展開。ユーロ円相場も121円ちょうど中心にこのところの安値圏で上下した。

日経平均は大幅安。20,400円を割り込み上下動。引けは20,400円近辺。移民流入の抑止策を迫るためトランプ政権がメキシコに対して段階的に関税を引き上げる計画を発表したことで、一段と通商懸念、景気悪化懸念が強まった。

アジア時間夕方には米10年債利回りが2.1%割れ。海外市場に入るとドルは全面安。貿易摩擦への懸念が広がるなか、発表された米ISM製造業景気指数(5月)は52.1と予想53.0、前月52.8より弱い数字。

またセントルイス連銀総裁が、世界的な貿易を巡る緊張の高まりによる世界経済に対するリスクおよび低調なインフレを踏まえると利下げは近く正当化される、と利下げに対して一歩踏み込んだ発言。

市場の利下げ期待が強まり、米10年債利回りは2.07%に、2年債利回りは1.84%に低下。ドルを押し下げた。ドル円相場は107円90銭、ユーロドル相場は1.1260に上昇。引けはそれぞれ108円ちょうど~10銭、1.1240~50。ユーロ円相場は121円50銭近辺に上昇して引け。

米国株は概ね横ばい。ただしハイテク株はフェイスブック、アマゾン、アップル、グーグルに対する独禁法違反の調査開始で下落した。

火曜日の東京市場のドル円相場は108円割れで底固いものの上値重く108円を挟む値動きとなり夕刻は108円10銭~20銭。ユーロ円相場はリスク選好に支えられ121円30銭に下落した後は上下しながら上昇。

日経平均は20,400円近辺で始まり軟調となり一時300円近辺に下落したが、20,400円近辺でもみ合い引けた。

海外市場のドル円相場は小動き。一時108円30銭に強含んだが結局108円ちょうど~10銭で引けた。ユーロドル相場は1.1250中心に上下。ユーロ円相場は121円70銭中心に上下して引けた。

米国株は大きく反発、堅調な展開。利下げ期待に加えて米国とメキシコの交渉への期待が支え。米10年債利回りは2.12%に反発しドル安に一旦歯止めをかけた。

パウエル議長は、貿易摩擦による影響を注視、景気拡大維持のため適切に行動する、と利下げ検討に道を開いたかたち。シカゴ連銀総裁は、経済ファンダメンタルズは好調、と市場のハト派期待ほどには慎重な発言とならなかった。

水曜日の東京市場のドル円相場は108円ちょうど~10銭で始まったあと底固いながら上値も重く小動き。ユーロドル相場も1.1260~70で推移。ユーロ円相場は121円70銭~80銭。

日経平均は米国株の上昇、ドル円相場の下げ止まりを好感して20,700円で高寄りし、700円台後半でもみ合い引けた。

海外市場に入るとイタリア問題を巡ってユーロが上下動。ユーロは対円で122円20銭、対ドルで1.1280~90に上昇していたが、EUがイタリアに対し過剰財政赤字の懲戒手続きを開始、との報道で下落。ユーロ円相場は121円60銭に、ユーロドル相場は1.1250台に押し戻された。その後米国市場に入るとドル安が進んだ。

発表されたADP雇用報告(5月)で雇用者数前月比が+27千人と予想+190千人、前月+275千人から大きく鈍化。米10年債利回りは2.08%に低下。ドル円相場は107円80銭台に下落し、ユーロドル相場も1.13台にユーロ高ドル安。

FRB理事や総裁らからハト派的な発言が相次いだことも金利を押し下げドル安を促した。

しかしその後メキシコに対する関税導入が回避されるとの見方から米国株が続伸しドルは反発した。ナバロ国家通商会議委員長が、対メキシコ関税適用はないかもしれない、と発言。

グラスリー米上院議員も、メキシコへの関税発動はないだろう、と述べた。

米10年債利回りは2.13%に反発。ドル円相場は108円50銭に上昇して引け。ユーロドル相場は1.1220から30でもみ合い引けた。ユーロ円相場は121円70銭近辺。

木曜日の東京市場のドル円相場は108円40銭台で始まり早朝に20銭に下落。ユーロ円相場も121円70銭から50銭へ。その後も上値の重い展開。

ドル円相場は40銭に戻したもののじり安となり108円10銭~20銭でもみ合い。ユーロ円相場も121円50銭中心に上下した。

日経平均は20,700円台後半で始まり800円台に乗せてもみ合いとなったが引けにかけて800円割れに押し戻された。

海外市場に入るとユーロが上下動。ECB理事会では来年6月まで利上げなし、とフォワードガイダンスが変更となった。ただ利下げまで織り込み始めている市場の予想には届かず。9月に開始される長期資金供給オペの金利が発表となり、0.1%~▲0.3%とされたが、これはややタカ派的と判断された。ユーロは対ドルで1.13に上昇。

しかしドラギ総裁は定例記者会見で、金融正常化には程遠い、景気不透明感が増している、数人が利下げを提案、とされ、ユーロドル相場は1.1250割れに反落した。

米国株は続伸。米国とメキシコの交渉が続き関税回避との思惑も台頭。リスク選好が回復した。ドル円相場は108円50銭台に上昇し引けは40銭。ユーロ円相場は122円20銭から30銭に上昇して引け。米10年債利回りは2.12%でほぼ変わらず。

金曜日の東京市場の為替相場は米国の雇用統計発表を控え小動き。ドル円相場は108円40銭~50銭近辺でもみ合い。ユーロ円相場は122円20銭を中心に上下。ユーロドル相場は1.1260~70でもみ合い。

日経平均は20,800円台で高寄りし、底固くもみ合い小幅上昇し20,900円手前で引けた。

注目の米雇用統計(5月)は、非農業部門雇用者数・前月比が+75千人と予想+185千人を大幅に下回り、前月の+225千人から大きく減速。平均時給の上昇率も前月比が+0.2%と予想+0.3%より弱めで前月と変わらず、前年同月比は+3.1%と前月および予想+3.2%に届かなかった。

これら弱い数字に再び利下げ期待が強まり米長期金利は低下。10年債利回りは2.08%、2年債利回りは1.85%。為替市場ではドルが全面安。ドル円相場は一時107円90銭に、ユーロドル相場は1.1320に、ドル安が進んだ。

一方、米国株は利下げ期待が強まり長期金利が低下したことを好感して上昇。堅調なまま週の高値引け。リスク選好が回復するなか円は軟調となり、ドル円相場は108円20銭で引け。ユーロ円相場は122円60銭~70銭に上昇して引け。ユーロドル相場は1.1330~40でユーロ高ドル安のままNYの取引を終えた。

なお、週末にはトランプ大統領がメキシコとの合意で関税賦課を見送ることを発表している。

◆今週の3つの注目ポイント


1.G20財務相・中央銀行総裁会議、米・メキシコ合意による市場動向

週末にG20財務相・中央銀行総裁会議が福岡で開催された。ダウンサイドリスクが高まっているとしながらも、なお年後半の景気持ち直しをメインシナリオと表明したが、週明けの市場がポジティブに反応できるか。

週末にトランプ政権が10日に第1弾を実施としていた対メキシコ関税賦課の見送りを決定したことが追い風となり、このところのリスク回避ムードを反転させることができるか。

2.米国の経済指標

市場は年内数次の利下げを織り込んでいるが、それを後押しする材料がみられるか。企業の景況感に加えて雇用統計が弱かったことで市場の利下げ観測は強まっている。これに物価統計が加わるか。

火曜日 生産者物価指数(5月、前年同月比、予想+2.0%、前月+2.2%)

水曜日 消費者物価指数(同、予想+1.9%、前月+2.0%)

木曜日 輸入物価指数(同)、週次の新規失業保険申請件数

金曜日 小売売上高(5月、除く自動車、前月比、予想+0.5%、前月+0.1%)、鉱工業生産(同、予想+0.2%、前月▲0.5%)、ミシガン大学消費者信頼感指数(6月、予想97.0、前月100.0)

3.中国の経済指標

世界経済の先行きに懸念が広がるなか、中国の景気動向に対する警戒感も強まっている。今週は重要な指標の発表が多い。

月曜日 貿易収支(5月

水曜日 消費者物価指数(5月、前年同月比、予想+2.7%、前月+2.5%)、生産者物価指数(同、予想+0.6%、前月+0.9%)

金曜日 小売売上高(5月、前年同月比、予想+8.2%、前月+7.2%)、工業生産(同、予想+5.5%、前月+5.4%)、都市部固定資産投資(同、予想+6.1%、前月+6.1%)、失業率(同、前月5.0%)

◆今週のMRA's Eye


強まる米利下げ観測で支えられたリスク選好

先週は市場のメインシナリオである景気悪化が懸念から現実に近づいたとの認識が広がった。米中通商交渉の長期化に加えて、トランプ政権が移民問題への対処を理由に対メキシコ関税導入を打ち出したことが市場にショックを与えた。

急速にFRBによる利下げ観測が強まり、債券利回りなどからみて年内2回~3回の利下げを織り込んだ状況となった。

週初は景気悪化懸念、企業業績への悪影響を懸念して、株価は大幅に下落。リスク回避が米国景気悪化を主要因に強まるなか、ドル金利先安感とあいまってドル全面安を促し、ドル円相場は108円割れに下落した。

企業の景況感はすでに悪化傾向が続いており、これが設備投資の減退、雇用情勢の悪化につながり、景気後退をもたらすのが最悪のシナリオ。

企業業績の悪化や株安が、クレジット市場の悪化を招き、企業金融情勢の悪化とともにスパイラル的に景気悪化をもたらす、市場と実体経済の悪循環が懸念されている。

そうしたなか、市場は利下げを期待して早くもリスク回避スタンスを緩め、リスク選好がやや持ち直しつつある。FRB関係者からは、相次いで柔軟な姿勢、場合によっては利下げを検討するとの道筋が示され、一定の安心感、期待感が高まっている。

市場の動きをみても、当初は、景気悪化・株安・金利低下、だったが、利下げ・金利低下・景気持ち直し期待・株高、と変化した。

為替市場においては、リスク回避による円全面高・ドル安、から、リスク回避の後退による円高一服・ドルは引き続き軟調、という組み合わせとなった。

リスク選好が持ち直すなかドル安が進んだわけだが、米国経済にとっては、利下げ・ドル安、はプラスであり株価押し上げ要因。ドル安は金融緩和とともにプラス材料との見方にもなる。

当面は、この週末に対メキシコ関税の導入が見送られたことで状況がどう変化するか。最悪のシナリオを織り込んだ市場にとって、貿易摩擦の改善期待の高まりは良い意味でメインシナリオから外れるリスクシナリオだ。

先週末にかけてメキシコへの関税導入見送りは期待され始めていたが、現実に見送りとなれば市場はポジティブに反応する可能性もある。

米国経済はなお足元で堅調、ただしダウンサイドリスクが強まっている、というところまでが当局の見方だった。米中通商交渉の長期化まで事態が戻ったことで、先週台頭した極端な利下げ期待がやや後退する可能性がある。

しばらくは、景気悪化懸念のなか米利下げによる景気下支えを期待して、ドル金利先安感・米長期金利低迷・ドル安・米株高・リスク選好の回復、が併存する状況となりそうだ。

ユーロ円相場などクロス円相場は先週円高に振れたが、週末にかけてリスク選好とともに持ち直した。

そうした流れが続くようなら、ドル軟調のなか円もこのところの円独歩高の修正で弱含みとなりそうだ。結果としてドル円相場は108円台で方向感のない展開となる可能性がある。

リスクとしては、米国の経済指標にはまだ米中貿易摩擦・関税報復応酬の影響が出ておらず、今後本格的に顕在化するという点。

利下げ期待で市場はリスク選好に傾いているが、期待先行の動きに、追って現実の景気悪化に接した場合は、再度リスク回避に傾く可能性がある。

利下げ織り込みで米長期金利は低下しているが、そのなかで景気悪化となれば不安は強まる可能性がある。この場合はあらためてドル全面安・円独歩高が強まり、依然として107円~105円を試すリスクがある。

逆にアップサイドのリスクシナリオは、メインシナリオが米中通商交渉長期化懸念・景気悪化・リスク回避に傾くなか、逆に景気が堅調に推移し、あるいは企業業績や雇用情勢、個人消費などが通商摩擦に耐性を示すケース。さらに米中が何らかの交渉の糸口をつかむケース。

足元でリスク選好が早くも回復するなか、その流れの背中を押すかたちとなって、市場のメインシナリオが崩れるケース。米長期金利の反発とともにドル円相場が110円台を回復する可能性もある。

現時点ではダウンサイドのリスクシナリオがやや後退。アップサイドのリスクシナリオとのバランスは均衡しているようにみえる。現時点でのメインシナリオは108円台を中心とした値動きで110円台の上値が重い、というところだろう。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :108.19(▲0.21)
ユーロ :122.62(+0.39)
英ポンド :137.804(+0.19)
豪ドル :75.743(+0.11)
カナダドル :81.526(+0.39)
スイスフラン :109.517(+0.15)
ブラジルレアル :27.8772(▲0.05)
中国人民元 :15.638(▲0.02)
韓国ウォン(日本円=100) :9.154(▲0.04)

【対ドルレート】
ユーロ :1.1334(+0.006)
英ポンド :1.2737(+0.004)
豪ドル :0.7001(+0.002)
カナダドル :1.3267(▲0.010)
スイスフラン :0.9877(▲0.004)
ブラジルレアル :3.881(+0.000)
中国人民元 :6.9098(+0.000)
韓国ウォン :1181.38(+0.12)

【主要国政策金利】
米国 :2.50
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :2.08(▲0.04)
米2年債 :1.85(▲0.03)
日本10年債利回り :▲0.12(±0.0)
日本2年債利回り :▲0.12(+0.01)
独10年債利回り :▲0.26(▲0.02)
独2年債利回り :▲0.67(▲0.02)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :25,983.94(+263.28)
NASDAQ  :7,742.10(+126.55)
S&P500 :2,873.34(+29.85)
日経平均株価 :20,884.71(+110.67)
ドイツ DAX :12,045.38(+92.24)
インド センセックス :39,615.90(+86.18)
中国上海総合 :休場( - )
ブラジル ボベスパ :97,821.26(+616.41)
英国FT250 :19,232.39(+166.87)
ビットコイン :7898.63(+208.02)

【主要商品価格】
WTI :53.99(+1.40)
Brent :63.29(+1.62)
米ガソリン :173.89(+3.13)
米灯油 :182.48(+3.65)

金 :1340.86(+5.53)
銀 :15.02(+0.13)
プラチナ :807.05(+2.29)
パラジウム :1360.23(+6.83)
銅 :5785.50(▲38:15.5C)
アルミニウム :1765.50(▲9:32.5C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :856.25(▲12.50)
シカゴ とうもろこし :415.75(▲4.75)
シカゴ小麦 :504.50(▲5.50)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。