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米中報復関税の応酬とクレジット市場を通じたリスク
  • MRA外国為替レポート

2019年5月20日号

◆先週の市場総括


先週も米中通商交渉をめぐる情報に翻弄される展開となったが、米国が他の国・地域との交渉では前進させる動きをみせたこと、米国の経済指標が良好だったことで、リスク選好が支えられた。ドル円相場は109円70銭近辺で始まり、中国が報復関税の実施を決めると一時109円ちょうど近辺に下落したが、上下動しつつ週末には110円台を回復した。

ユーロ円相場は123円台前半で始まったが、米中交渉に加えイタリア財政に対する懸念から軟調となり一時122円に接近する場面も。週末にはリスク選好に支えられ122円80銭近辺で引け。

米国株は週初の中国の対米報復関税を受けて大きく下落して始まり、その後は持ち直したが、前週末の水準を超えられず。日経平均も一時21,000円を割り込んだが、その後は堅調に推移して前週末とほぼ同水準の21,250円で引けた。

米10年債利回りは米中交渉への警戒感や利下げ観測が再び強まったことから2.4%近辺で低迷したまま。

月曜日の東京市場のドル円相場は109円70銭~80銭で、ユーロ円相場は123円20銭~40銭でともに上下し、夕刻にはやや円高に振れた。

日経平均は21,200円割れで安寄り、200円台に戻したものの後場は上値の重い展開となり、結局21,200円割れで引けた。

海外市場のドル円相場は109円60銭~70銭のもみ合いから109円ちょうど近辺に急落。ユーロ円相場も122円60銭近辺へ。

米国は新たに3,250億ドルの中国製品に追加関税を発動する手続きを開始。中国は対米輸入品600億ドルに対する追加関税を発表した。市場はあらためて米中交渉の難航を嫌気。リスク回避心理が広がった。

米国株は大幅安、急落となり、NYダウは600ドル以上の下げ。米長期金利10年債利回りは2.40%に低下。円は全面高となった。ドル円相場はその後下げ止まったものの109円20銭~30銭、ユーロ円相場は122円60銭~70銭で引けた。

火曜日の東京市場のドル円相場は109円20銭で始まり60銭台に反発。ユーロ円相場は122円60銭から123円台を回復し、さらに夕刻には123円30銭~40銭に上昇した。

日経平均は米国株の急落と円高を嫌気して20,800円割れで大幅安寄り。ただその後、前場には21,000円を回復し21,000円~21,100円でもみ合い引けた。

トランプ大統領が6月末の大阪G20サミットで習主席と首脳会談を行うとしたことで、なお進展期待が回復し株価を支え円高に歯止めがかかった。中国政府も交渉継続で合意していることを確認。

海外市場に入るとユーロが下落。イタリアのサルビーニ副首相が、雇用拡大に必要なら政府はEU財政規制に違反する用意がある、と発言したことでイタリア国債が売られユーロ売りの動きとなった。ユーロは対ドルで1.1230台から1.12ちょうど近辺へ、ユーロ円相場は122円80銭~123円ちょうどで上下。

一方、米中通商交渉をめぐってはやや安心感も。ムニューシン米財務長官が近く訪中する可能性、交渉継続を望んでいる、との報道。トランプ大統領は、適切な時期が来れば中国とディールすると発言した。

米国株は上昇。ドル円相場は109円60銭~70銭を中心にもみ合いとなり引けた。

水曜日の東京市場の為替相場は小動き。ドル円相場は109円60銭~70銭、ユーロ円相場は122円90銭中心に、それぞれ上下動。日経平均は21,100円台で寄り付き一時は割り込んだものの持ち直し、後場には一段高となり21,100円台後半で引けた。

中国で発表された4月の主要経済指標はいずれも弱い数字。都市部固定資産投資は前年同月比+6.1%と前月の+6.3%から減速。鉱工業生産は同+5.4%(前月+8.5%)、小売売上高は同+7.2%(前月+8.7%)。

これらの数字は弱かったが中国政府が何らかの景気対策を講じるとの期待感がむしろ高まって中国株・上海総合指数は上昇。日経平均も堅調となった。

欧州市場に入ると再びユーロが下落。イタリア副首相が、EU財政規律違反をいとわず、と繰り返した。ドイツ国債は質への逃避で買われ10年債利回りはマイナス0.10%と2016年以来の低水準へ低下した。

ユーロドル相場は1.1180へ、ユーロ円相場は122円20銭割れ。ドル円相場も109円20銭近辺に下落した。米国市場に入ると米国株が下落して始まったものの上昇し前日の高値を抜いてプラス圏に。

米国の小売売上高(4月、前月比▲0.2%)や鉱工業生産(同、▲0.5%)は冴えない数字だったが、通商問題をめぐるポジティブなニュースが支えとなった。

トランプ大統領が輸入車に対する追加関税導入判断を最大6か月先送りとの報道。ムニューシン財務長官が、カナダ・メキシコに対する鉄鋼・アルミ関税が撤廃に向け近づいている、と述べたことが好感された。

円は全般的に軟調。ドル円相場は109円60銭に、ユーロ円相場は一時123円台に急騰するなど値動きの荒い展開となり122円70銭~80銭近辺でもみ合い引けた。ユーロドル相場は1.12近辺。米10年債利回りは2.38%に低下。

木曜日の東京市場のドル円相場は109円60銭で始まり40銭~50銭で上下。ユーロ円相場は122円80銭で始まり60銭~70銭で上下。

日経平均は反落、安寄り、早々に21,100円を割り込み、その後は21,000円~21,100円でもみ合い引けた。

米国が中国ファーウェイ社の通信機器の販売を事実上制限する措置を発表したことで、あらためて米中交渉への懸念が広がった。

海外市場に入るとユーロが持ち直し。ユーロ円相場は122円80銭~123円ちょうど、ユーロドル相場は1.1220近辺へ。またドル円相場は米国市場にかけて109円90銭近辺に上昇した。

米国株は続伸し寄り付きから堅調。発表された住宅着工件数(4月)が季節調整済み年率換算で1,235千戸(前月1,139千戸)、フィラデルフィア連銀製造業指数(5月)が16.6(予想10.0、前月8.5)と強い数字だったことや、良好な企業決算が好感された。

そうしたなかユーロは下落。イタリア副首相がEUの財政規律を批判したことが再三嫌気された。ユーロドル相場は1.1170~80、ユーロ円相場は122円70銭に下落。米10年債利回りはやや反発して2.40%。

金曜日の東京市場のドル円相場は109円90銭から一時110円台に。ユーロ円相場も122円70銭から90銭にやや円安が進んだ。日経平均は堅調な米国株やドル高円安を好感して21,200円台半ばで高寄りし、続伸して21,400円に接近した。

しかし中国国営メディアが、米国が中国に脅しをかけている状況では協議を再開させるつもりはない、米国側に誠意が感じられない、真に誠意を示す動きがなければ米当局者が訪中して協議を続ける意味がない、と報じたことで株安・円高に。日経平均は反落して21,250円近辺で引けた。

海外市場にかけてドル円相場は109円60銭、ユーロ円相場は122円30銭近辺に下落した。海外市場に入るとドル円相場、ユーロ円相場ともに持ち直し。

米国は鉄鋼アルミ関税撤廃でカナダ、メキシコ両国と合意。対日・対欧自動車・部品輸入関税発動の180日間延期を決定。

発表されたミシガン大学消費者信頼感指数(5月)は102.4と予想97.7を大きく上回り前月97.2から上昇して2004年以来15年ぶりの高水準となった。

ドル円相場は110円台に乗せて引け。ユーロ円相場は122円90銭台。米国株は安寄りしたのち持ち直し下げ幅を縮小したが、米中通商交渉は不透明感を増したままとなり、前日比マイナスで引け。米10年債利回りは2.39%と低迷したままとなった。

今週の3つの注目ポイント


週末25日土曜日にトランプ大統領が国賓として来日する。ただ貿易交渉や北朝鮮問題で議論が煮詰まっていないことから声明は見送られる見通し。

1.パウエル議長発言

月曜日にFRBパウエル議長の発言が予定されている(日本時間、火曜日朝8時)。前回FOMCでは景気判断が上方修正され、議長は市場の利下げ期待をけん制するような発言を行った。

しかし米中通商交渉が再び不透明感を強めるなか、再び警戒感を強めているか。あるいは市場の見方よりも強気で金融政策の現状維持をなお強調するか。

また今週は他の地区連銀総裁や理事の発言機会も多い。どのようなニュアンスの発言となるか。結果、市場のリスクセンチメントや米長期金利への影響がどうか。

2.米国の経済指標、FOMC議事録

引き続き米中関税引き上げによる米国経済への悪影響を懸念する動きが続く、弱い数字に反応しやすいが、先週は強い数字も散見され、市場の懸念は肩透かしをくった形となった。このまま杞憂で終わるのか。

火曜日 中古住宅販売(4月、季節調整済み年率換算、予想534万戸、前月521万戸)

水曜日(日本時間木曜日未明3時) FOMC議事録(4月30日・5月1日開催分)景気認識、米中通商交渉に対する評価に注目。

木曜日 PMI企業景況感指数(5月、製造業、予想53.0、前月52.6)、新築住宅販売(4月、季節調整済み年率換算、予想677千戸、前月692千戸)

金曜日 耐久財受注(4月、コア、前月比、予想+0.2%、前月+0.4%)

3.ドラギ総裁発言

水曜日にECBドラギ総裁の発言が予定されている。欧州景気には底打ちの兆しがみられるとの見方もあるが、なお弱い数字も散見される。

またイタリアの財政政策も不透明感を増し、金融市場への悪影響が懸念される。こうした状況についてどのような認識、評価をしているか。また金融政策スタンスへの影響がみられるのか。米中交渉が難航する気配にあることへの警戒感はどうか。

◆今週のMRA's Eye


米中報復関税の応酬とクレジット市場を通じたリスク 

先週初に中国は600億ドルの対米輸入品について、5%ないし10%としている現状から5%~25%への引き上げ、報復関税の実施を決定した。

米国は、先日の2,000億ドルに対する追加関税に加え、さらに3,250億ドルに対する追加関税実施の準備を開始。またファーウェイ製品の事実上の販売制限を発動した。

こうした米国側の動きに対して、中国政府は、あくまでも国営メディアのコメントによるが、憤りを感じているようだ。米国が脅しをかけている状況では協議を再開するつもりはない、(ファーウェイ問題もしかりで)米国側に誠意が感じられない、真に誠意を示す動きがなければ米当局者が訪中して協議を続ける意味はない、としている。

先週末には関税引き上げに対する懸念はありながらも交渉継続への安心感がリスク回避の急拡大を抑制した。しかし米中の動きや発言を額面通りに受け止めれば、交渉そのものが暗礁に乗り上げつつあるとの見方もできる。

これらが交渉継続、交渉を優位に進めようという、テクニカルなまさに脅しに過ぎないのか。

チキンゲームの様相を呈していることから、相手の出方の読みを誤れば、互いに想定外の事態、交渉決裂に陥る可能性もある。

過去の歴史を振り返れば、とくに戦争においては、相手の読み違いや誤解、面子や国内世論から抜き差しならない状況に陥って、やむなく開戦に至るということが散見される。

市場のメインシナリオは、米中通商交渉そのものは継続される、ただし長期化する可能性がある、傍らで6月のG20サミットで米中首脳会談が行われ何らかの前進がみられる可能性がある、米中ともに自国経済が深刻な景気後退に陥ることは望んでいないため合意に至り関税は引き下げられるだろう、との見方が前提になっているとみられる。

企業業績はそれほど悪化せずに済むだろう、関税の影響は軽微で米国経済は堅調で足元が揺らぐことはない、リスク回避が蔓延して株式市場が長期低迷・調整局面入りすることはない、というのが前提ではないか。

あるいは、そうした事態に至ればFRBが利下げに動くので結果的に米国景気は問題ない、トランプ大統領は大統領選挙を控えており景気がここから悪化することは望んでいない、農業や製造業の票田にダメージが加わることはしないはずだ、という認識があろう。

こうしたシナリオでは株価の大幅下落や長期調整局面入りは想定されない。米国景気も結果的に堅調に推移することになる。FRBの利下げは通商交渉が進展するようなら見込めない。米長期金利の低下も限界。ドル円相場が大きくドル安円高に振れることはなく、せいぜい107円台程度まで。110円台前半での推移がメインシナリオとなる。

しかしトランプ大統領が考えているほど、「ディール」は単純ではないかもしれない。中国の国内事情や政治情勢まで読み切れ、あるいは計算し切れているか。感情的な側面が双方ともに入ってくるようなら、さらにリスクが高まる。

関税報復合戦、あるいは企業活動への制約、などが双方の経済に対して想定以上のダメージ、広がりをみせる可能性がある。

米国サイドの警戒すべき状況はクレジット市場の緩み。グローバルな低金利の長期化による運用難から、利回りつぶし、の動きとなり、信用スプレッドが大きく縮小している。

低格付け社債の発行増加、投機的格付け企業(債務レバレッジの高い企業)に対するローン(レバレッジド・ローン)の増加、それを担保としてCLO(ローン担保証券)の発行増加、などは気がかりだ。

とくにこれらローンに対するコベナンツ(財務制限条項)の緩和がみられるという。こうした状況のもとでは、景気悪化や企業業績の悪化が引き金となって、信用市場の混乱が生じる可能性がある。

CLO証券はかつてリーマンショックの際に問題となったサブプライムローンとは違うので問題ない、との見方もある。

サブプライムローンを資産として複層的にレバレッジがかかった証券が組成されていたが、今回はそうした証券は少ないという。

またローンそのものが企業向けであり、返済能力の疑わしい低所得個人に対して不動産の値上がりを前提としてローンを実施していたのとは異なるという。

しかし低格付け企業、とくに債務が過大な企業の業績や財務状況は、景気の悪化や金融市場の悪化に敏感だ。投資適格のぎりぎりBBBの社債発行が増えているようだが、これらが大量に投機的社債に格下げされる恐れがある。

また投機的格付け企業に対するローンに関しては、コベナンツが緩和されている場合にはぎりぎりまで延命され、デフォルト時の回収率が極端に低下する可能性もある。

ちょっとした景気の悪化、企業業績の悪化が、格下げや投資家の資金引き上げ、デフォルトの増加や金融機関の貸し出し態度の悪化を通じて、景気悪化を増幅させるリスクがある。米中関税合戦は双方企業の業績悪化、クレジット悪化、などを通じて、本格的な景気減速、後退局面を招くリスクもあろう。

こうした事態は今の市場には想定されていないリスクシナリオだ。この場合、FRBは数次にわたる金融緩和を余儀なくされ、ドル円相場は景気後退トレンド、利下げサイクル入りを認識して105円割れから100円へと下落するリスクがある。

◆主要指標


【対円レート】
ドル :110.08(+0.23)
ユーロ :122.8(+0.05)
英ポンド :140.055(▲0.52)
豪ドル :75.598(▲0.12)
カナダドル :81.813(+0.20)
スイスフラン :108.881(+0.13)
ブラジルレアル :26.862(▲0.29)
中国人民元 :15.892(▲0.08)
韓国ウォン(日本円=100) :9.213(±0.0)

【対ドルレート】
ユーロ :1.1158(▲0.002)
英ポンド :1.2724(▲0.007)
豪ドル :0.6868(▲0.002)
カナダドル :1.3458(▲0.000)
スイスフラン :1.011(+0.001)
ブラジルレアル :4.0987(+0.053)
中国人民元 :6.9179(+0.034)
韓国ウォン :1195.55(+4.42)

【主要国政策金利】
米国 :2.50
ユーロ :0.00
日本 :0.00

【主要国長期金利】
米10年債 :2.39(▲0.00)
米2年債 :2.20(+0.01)
日本10年債利回り :▲0.05(+0.01)
日本2年債利回り :▲0.05(+0.00)
独10年債利回り :▲0.10(▲0.01)
独2年債利回り :▲0.65(▲0.00)

【主要株価指数・ビットコイン】
NY ダウ :25,764.00(▲98.68)
NASDAQ  :7,816.29(▲81.76)
S&P500 :2,859.53(▲16.79)
日経平均株価 :21,250.09(+187.11)
ドイツ DAX :12,238.94(▲71.43)
インド センセックス :37,930.77(+537.29)
中国上海総合 :2,882.30(▲73.42)
ブラジル ボベスパ :89,992.73(▲31.74)
英国FT250 :19,498.61(▲32.04)
ビットコイン :7106.31(▲570.20)

【主要商品価格】
WTI :62.76(▲0.11)
Brent :72.21(▲0.41)
米ガソリン :204.73(▲1.45)
米灯油 :209.55(▲2.77)

金 :1277.53(▲9.19)
銀 :14.40(▲0.16)
プラチナ :818.89(▲15.43)
パラジウム :1315.10(▲20.65)
銅 :6044.00(▲69:19C)
アルミニウム :1835.00(▲27:30C)
※貴金属はニューヨーククローズ。ベースメタルは3ヵ月公式セトル価格。
※C=Cash-3M コンタンゴ、B=Cash-3M バック

シカゴ大豆 :821.75(▲18.00)
シカゴ とうもろこし :383.25(+4.25)
シカゴ小麦 :465.00(▲2.00)

※全ての価格は注記が無い限り、取引所で取引される通貨建。
※限月交代に伴う価格の不連続性は考慮されていません。予めご容赦ください。
※ 「休場」となっているものは、取引所が休場ないしはデータ更新時点で最新データを取得できなかった場合を指します。

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