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戦争とインフレ~財政悪化、長期金利上昇、リスク回避
  • MRA外国為替レポート

2023年10月23日号

◆先週の市場総括


先週は米長期金利がなお上昇。追加利上げ観測は後退したものの米国の経済指標に強めの数字が続き長期金利を押し上げた。週末には米10年債利回りが一時5%をつけた。一方、中東情勢は緊迫度合いを増し、市場にはリスク回避が広がった。株価には下押し圧力が強まりNYダウは34,000ドル近辺から週末には33,100ドル台に下落。日経平均も31,200円台に下落して引け。ドル円相場は米長期金利上昇に支えられたものの、リスク回避、日本の当局による円安牽制が重石となり、150円手前でもみ合い推移した。

月曜日の東京市場は日経平均が大幅安。中東情勢の緊迫、週末の米ハイテク株安を受け主力株が全面安。リスク回避が広がるなか下げ幅は一時▲700円を超えた。下げ止まっても上値重く引けは前週末比▲656円安の31,659円。

為替市場では欧米市場でリスク回避が一服、やや円安に振れた。ドル円相場は149円50銭で始まり欧州市場にかけて40銭~60銭で上下横ばい。

米国市場朝方に一時80銭手前まで上昇したがすぐに反落して60銭近辺でもみ合い引け。

ユーロ円相場は底固く推移。157円ちょうどで始まり30銭近辺でもみ合い。夕刻から欧州市場にかけては40銭~60銭にやや上昇して上下。米国市場朝方に一時158円ちょうどに上昇したが157円70銭に反落し90銭近辺でもみ合い引けた。

ユーロドル相場は堅調。東京市場では1.0510で始まりじり高。夕刻から欧州市場では1.0530~40でもみ合い。米国市場では1.0560近辺でもみ合い引けた。

米長期金利は上昇。イスラエルが地上侵攻を踏みとどまったことで中東情勢の深刻化懸念が緩和。過度なリスク回避が後退した。米10年債利回りは4.727%へ、2年債は5.101%へ上昇。

米国株は上昇。追加利上げ観測が後退、企業決算への期待も支えとなった。NYダウは前週末比+314ドル高の33,984ドル。ナスダックは+160ドル高の13,567ドル。

発表されたNY連銀製造業景気指数(10月)は前月1.90から▲4.60へ悪化した。

フィラデルフィア連銀総裁は、追加利上げを検討すべきではない、経済に新たな圧力をかけるべきではない、と述べた。

シカゴ連銀総裁は、インフレの鈍化基調は否定できない、インフレ鈍化は続いている、どこまで利上げするかからどれくらい長く維持するかに向かう段階に急速に近づいている、と述べた。

火曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反発。米国株高を受け、半導体関連、ハイテク株が上昇。これを受けて朝方は大幅高となり一時+600円超上昇した。しかし中東懸念が燻り伸び悩み。32,000円の大台からは戻り売りも入り、引けは+381円高の32,040円。

ドル円相場は149円50銭~60銭で小動きもみ合いのあと夕刻には70銭近辺に上昇。ただ欧州市場に入ると日銀に関する報道を受けて一時148円80銭近辺に急落する場面もあった。

報道では、日銀が2023年のインフレ見通しを上方修正する見込み、見通しは3%に近づく、とされた。ただすぐに反転し米国市場では149円70銭~80銭で上下したあと80銭中心にもみ合い引け。

ユーロ円相場は東京市場では157円90銭で始まり夕刻は60銭に下落していたが欧州市場で158円ちょうど近辺に上昇。

しかしドル円相場同様に157円20銭に急落。しかしその後は強い欧州の経済指標を受けて欧州長期金利が上昇するとともに堅調となり158円60銭まで上昇した。米国市場では30銭~50銭で上下し引けは158円40銭近辺。

ユーロドル相場は東京市場では1.0560で始まり夕刻は1.0530。その後は底固く上下しながら米国市場では1.0590台に上昇。引けは1.0570台。

欧州で発表されたZEW企業景況感指数(10月)はドイツが前月▲11.4から▲1.1へ大幅改善、ユーロ圏は▲8.9から2.3のプラスに転じた。

米国では小売売上高(9月)が予想より強め。前月比は前月+0.6%から+0.3%への減速予想に対し+0.7%と高水準を維持。

鉱工業生産(9月)は前月+0.4%から▲0.1%への減少予想に反して+0.4%の増加。

米長期金利は強い経済指標を受けて上昇。10年債は一時4.85%をつけ4.836%。2年債は5.215%。

米国株は上値重く推移。個人消費の堅調が確認されたが高金利長期化見通しが重石。バイデン政権が対中半導体輸出規制を強化したことも嫌気された。NYダウは前日比+13ドル高の33,997ドル。ナスダックは▲34ドル安の13,533ドル。

水曜日の東京市場では日経平均はほぼ前日同水準で引け。前日の米ハイテク株安での売り一巡後、押し目買いが優勢。一方、米長期金利上昇や中東地政学リスクへの警戒で上値重く、引けは前日比+2円高の32,042円。

中国の経済指標は想定より強め。9月の小売売上高は前年同月比+5.5%と前月+4.6%から伸びが加速。鉱工業生産は+4.5%で前月と変わらず。

GDP(7-9月期)は前期比が前期+0.8%から+1.3%へ加速。前年同期比は+6.3%から予想+4.5%を上回る+4.9%となったが成長鈍化。

ドル円相場は149円80銭で始まり、東京市場では上値重く一時50銭に下落する場面もありつつ70銭近辺でもみ合い、欧米市場では底固く80銭台に上昇したあと、90銭近辺を中心に推移した。

日銀元審議委員が年内にもマイナス金利解除の可能性も、と発言したことがやや材料視された。総じて米長期金利がしっかりで支えとなるなか、150円近辺で当局の円安牽制発言が重石となった。

ユーロ円相場は158円40銭で始まり20銭に下落したあと反発して50銭に上昇し30銭~50銭で推移。欧米市場に入ると一時158円割れに下落。157円70銭まで下げたあと反発して157円90銭近辺で引けた。

ユーロドル相場は1.0570~80で始まり小動き。欧米市場に入るとユーロ安ドル高に振れて1.0520へ下落。下げ止まりのあとは1.0530~40で推移した。

米国株は下落。住宅関連指標がしっかりで長期金利が上昇。景気悪化懸念が強まった。10年債利回りは一時4.92%台をつけて4.914%。2年債は5.222%。

ハイテク中心に売られた。中東情勢の緊張感が高まったことも嫌気された。NYダウは前日比▲332ドル安の33,665ドル。ナスダックは▲219ドル安の13,314ドル。

公表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)では、経済はおよそ安定ないしやや弱い成長が続く、とされた。NY連銀、フィラデルフィア連銀など4地区は経済活動が縮小と報告した。労働市場の逼迫は全米全体で和らいだとされた。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅安。米長期金利が上昇、米国株安を受けて半導体関連中心に売りが広がった。アジア株の下落も投資家心理を悪化。海外短期筋が先物中心に売り。引けは前日比▲611円安の31,430円。

ドル円相場は東京市場から欧米市場にかけて動意薄。極めて狭いレンジでもみ合い横ばい。149円80銭~90銭で推移。米国市場で150円目前に迫る場面もあったが70銭に反落し引けは149円80銭。ユーロは欧米市場で堅調。

ユーロドル相場は東京市場では1.0530~40でもみ合い横ばい。欧州市場に入ると上昇して1.0570~80でもみ合い。その後は1.0610に上昇し1.0560~1.0610で上下動。引けは1.0580。

ユーロ円相場は157円90銭から緩やかに下落して157円70銭。欧州市場に入ると上昇して158円50銭。米国市場では158円30銭~90銭で上下して引けは158円50銭。

注目のパウエルFRB議長発言では、米経済はこれまでの引き締めを難なく乗りこなしている、引き締め過ぎではない、さらなる引き締めが至当かされる可能性もある、と述べた。

一方、市場金利の上昇は利上げの必要性低下を意味するとも述べ、今後はデータ次第、慎重に政策判断すると述べた。米10年債利回りは一段と上昇。日本時間早朝には一時5.00%をつけた。引けは4.992%。2年債は低下し5.165%。

NYダウは2日続落で▲250ドル安の33,414ドル。ナスダックは3日続落で▲128ドル安の13,186ドル。VIX指数は21.40に上昇した。

原油価格WTI先物は中東情勢緊迫化で上昇し89.37ドル。

フィラデルフィア連銀景気指数(10月)は前月▲13.5から▲9.0に改善したが予想▲6.4より低水準。中古住宅販売(9月)は季節調整済み年率換算で396万戸と4か月連続で減少し13年振りの低水準。

金曜日の東京市場では日経平均が続落。下げ幅は一時▲300円を超えた。前日の米国株安で売り選好。パウエル議長の発言がタカ派と受け止められ米10年債利回りが日本時間朝方に一時5%をつけたことが嫌気された。

一方で4-9月期決算への期待が下支え。引けは前日比▲171円安の31,259円。

ドル円相場は149円80銭で始まりじり高。夕刻には150円ちょうどをつけた。直後に149円70銭に下落するなど高値警戒感も根強く、欧州市場では149円90銭~150円ちょうどで推移。

日銀植田総裁が金融緩和を根強く継続すると発言したことで円が軟調。一方、米国市場では米長期金利が上昇一服、やや低下したことで149円80銭~90銭で推移して引けた。

ユーロドル相場は東京市場では1.0580で始まり夕刻は1.0570。欧州市場では1.0590に常総したあと1.0570~90で上下。米国市場は1.0590~1.06ちょうどでもみ合い引けた。

ユーロ円相場は158円40銭~50銭でもみ合いのあと欧州市場では158円90銭に上昇。その欧米市場では158円60銭~90銭で上下して引けは90銭近辺。

米国株は続落。長期金利上昇は一服したがなお高水準。中東情勢の緊迫化が引き続き重石となった。NYダウは▲286ドル安の33,127ドル。ナスダックは▲202ドル安の12,983ドル。VIX指数は21.71と高止まり。

米10年債利回りは4.917%へ、2年債は5.071%へ低下した。アトランタ連銀総裁は、利下げは2024年後半以降になる、と発言。クリーブランド連銀総裁は、年内の追加利上げが適切との考えに傾いたまま、政策金利はピークかその周辺にある、と述べた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

先週公表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)では経済はおよそ安定ないしやや弱い成長が続くと総括された。一方経済指標には強めの数字もみられたが、市場の景況感が強弱いずれに傾くか。

火曜日 リッチモンド連銀製造業指数(10月、前月5)

水曜日 新築住宅販売(9月、季節調整済み年率換算、予想684千戸、前月675千戸)

木曜日 7-9月期GDP速報(前期比年率、予想+4.3%、前期+2.1%、個人消費、予想+3.6%、前期+0.8%) コア消費支出価格指数(同、前期+3.7%) 耐久財受注(9月、前月比、予想+1.1%、前期+0.2%) 米週間新規失業保険申請件数

金曜日 個人所得・消費支出(9月、前月比、予想+0.4%・+0.4%、前月+0.4%・+0.4%) 消費支出価格指数(前年同月比、予想+3.4%、前月+3.5%、コア指数、予想+3.7%、前月+3.9%) ミシガン大学消費者信頼感指数(10月確報)

2.PMI景況感指数

火曜日に欧米でPMI景況感指数が発表される。製造業・サービス業の景況感動向、両者の違いや方向感はどうか。また欧米間での格差はどうか。

ユーロ圏製造業は予想43.7、前月43.4からやや改善予想、サービス業は予想48.6、前月48.7からやや悪化予想。いずれも景況感の分かれ目である50を下回ったまま。

一方、米国は製造業が予想49.5、前月49.8から小幅悪化予想。サービス業は予想49.4、前月50.1から悪化し50割れと予想されている。米国とくにサービス業の景況感悪化が明確となりドルの重石となるか。

3.ECB理事会、ラガルド総裁会見

木曜日にECB理事会が開催され終了後にラガルド総裁が定例会見を行う。今回、政策金利は4.50%で据え置きとみられる。

前回9月の会合で声明文や当局者発言で利上げ打ち止めが一段と明確に示唆された。利上げ継続による景気悪化懸念が意識されており、さらに中東情勢緊迫化、原油価格上昇も加わって景気先行き懸念が強まる。

インフレリスクも燻るが、どれほど利上げ打ち止めを明確にするか。一方、なおも引き締めを支持する声も一部にはあるが、そうした意見が後退しているか。

このところユーロは対ドルで下げ止まり、やや持ち直しているが、あらたにユーロ安に振れる材料となるか。

◆今週のMRA's Eye


戦争とインフレ~財政悪化、長期金利上昇、リスク回避

一般的に、また過去の教訓からすれば、戦争はインフレ要因となる。軍備拡張など財政支出拡大が需要面から、あるいは戦争によって生産が滞り供給に支障を来せば供給面から、物価を押し上げることになる。

また戦争が実際に生じているエリア・当事国は疲弊し、遠く離れて生産・供給拠点となった国は恩恵を受ける。

かつて第一次大戦では、欧州が主戦場となり、1915年から1920年まで日本と米国が特需に沸いた。

日本は大正時代、「貿易バブル」ともいえる活況を呈し「戦争成金」が生まれた。ただ日本では1923年に関東大震災が発生。米国は1920年代に好景気が続き株価急騰するなどバブルが発生。ついに1929年に米国株価暴落に端を発する米国発の世界恐慌が発生する。

日本は1940年代に第二次大戦で荒廃したが、その後1950年代の朝鮮戦争による特需で潤い戦後不況から脱した。一方、欧州ではふたつの大戦のいずれも主戦場となり荒廃が続いた。

現在は1つの大きな「戦争」を経て、2つ目の戦争の渦中、さらに3つ目の戦争にも陥るのかという局面にある。

1つ目の戦争は「コロナとの戦い」。2つ目はロシア・ウクライナ戦争。3つ目はまだ局地紛争の域にあるイスラエル・パレスチナ問題で、これが地域的に拡大して戦争といえる状況に陥ってしまうのかが気がかりだ。

一連の「戦争」では過去と違って生産設備に大きな影響は生じていない。むしろ流通面や資源や農産物など供給面での支障が問題となりインフレ圧力となった。

需要面では「特需」といわれる状況は生じていない。ウクライナ紛争はなお局地戦にとどまる。ただ「コロナとの戦争」においてはむしろ過剰な財政金融政策対応によって「特需」ともいえる状況を招き、強いインフレ圧力を生じたといえそうだ。

グローバルに「戦地が拡大」しインパクトが大きかった「コロナとの戦い」は概ね終結したといえる。

ただその戦いのなかで行われた強烈な財政拡大、金融緩和による「特需」と「インフレ」の後始末に追われている。コロナ対応は本来、保健的な政策の強化が中心となるべきもの。

経済の強制停止は生産設備が破壊されたわけではなく、また人流やサービス支出が強制停止しただけで、ものへの需要が滞ったわけではなかった。さらに収束すればすぐに経済が正常化しうる性質の「戦争」だ。

過剰な財政金融政策は需要を刺激し急激なインフレをもたらした。インフレの収束のためには、本来は財政金融両面で引き締め策がとられるべきだが、財政緊縮、増税などによる政策修正はなされていない。

政治的に引き締め策をとるのが難しい状況だ。勢い、後始末は金融引き締め頼みとならざるを得ない。

FRBや日本を除くその他先進国の中央銀行が財政緊縮の肩代わりをも引き受けるような、強力な金融引き締めを実施してきた。その結果、ようやくインフレは鎮静化しつつある。

ただ実施した財政支出拡大の後始末は未済なままだ。FRBの金融引き締め、政策金利高止まりが長期化するのはやむを得ない。

足元で米国の長期金利が急騰している。背景にはインフレや金融引き締めの強化、政策金利の急騰と高金利長期化観測がある。

ただ、強力な財政支出拡大による財政悪化、国債供給の拡大も一因となっている可能性がある。好景気・インフレによる金利先高観や利上げなど、ファンダメンタルズ、経済の強さを反映した長期金利上昇なら「良い金利上昇」といえる。

しかし財政のリスクプレミアムを反映していれば「悪い金利上昇」でありファンダメンタルズに相応した以上の上昇となり景気に足かせとなる。リスク選好による長期金利上昇ではなく、長期金利上昇がリスク回避をもたらす可能性があるので注意が必要だ。

こうしたなか、「第2の戦争」の行方はなお結末が見えず長期化している。そこに「第3の戦争」が加わるのか。むしろ後者の行方が気になる。

戦域が中東全域に拡大した場合、あるいはテロが欧米先進各国に生じた場合だ。

「中東戦争」ともいえる状況となれば、原油の生産・輸送など供給に支障を来し世界経済への悪影響は避けられない。

良好な景気動向を背景とする需要面からの原油価格上昇ではなく、供給制約による価格上昇。それがインフレにつながるなら、これも「悪い物価上昇」ということになる。

世界経済全体がスタグフレーション(インフレと景気悪化の共存)に陥る。足元では良い方向に向かっておらず、リスクを警戒すべき状況になりつつある。

長期金利が急騰したなか、弱い経済指標が続けば、金融市場が急激なリスク回避に傾くリスクがある。日本経済への悪影響も不可避であり、また円資産がリスク回避で積極的な資金逃避先になることは難しそうだ。

しかし、投機的な円売りが嵩んだ状況、あるいは日本の投資家の外貨資産投資が嵩んだ状況では、ポジション調整やさらに場合によってはリパトリエーション(資金の母国回帰)も生じる可能性がある。そうしたリスクシナリオも留意する必要がやや高まっているようだ。


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