ドル安・やや強気の米統計・中東情勢不安を受けて堅調
- MRA商品市場レポート
2023年10月20日 第2570号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「ドル安・やや強気の米統計・中東情勢不安を受けて堅調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は、ドル安の進行もあり、ほとんどの商品が上昇したが、自国通貨建て商品価格は下落した。
欧州時間から調整的にドル安が進行していたが、FRBパウエル議長が「慎重に取り組んでいる」と発言したことが「これまでよりもハト派」と解釈されたことが材料視されたとなっているが、長期金利はむしろ上昇しており株も調整、米景気の先行きを意識したドル安、と解釈した方がすっきりするか。
一方、昨日発表された米経済統計は、週間新規失業保険申請は米国の雇用市場がタイトであることを示唆し、中古住宅販売は長期金利の上昇で減速、住宅価格の中央値も低下するなど金融引締めの効果が一定程度見られ、フィラデルフィア連銀製造業景況感指数は市場予想は下回ったが底入れ巻が出始めているなど、強弱まちまちだが「総じて米国の景気はまだ悪くない」ことを確認する内容であり、現在のFOMCのスタンスを大きく変更する必要がないことも確認する内容だったと言える。
中東情勢不安が引き続き市場の最大関心事の1つとなる中、イスラエル訪問をおえたバイデン大統領の演説を受けて、イスラエルが具体的に地上軍を侵攻させるかどうかに市場参加者は注目している。既にその他の地区で、米軍を対象とする小規模な攻撃が数件発生している状況。
バイデン大統領は演説でパレスチナ側にも一定の配慮を見せているが、中東諸国はそう捉えておらず、反イスラエルの動きが強まっていることもまた事実である。
【本日の見通し】
本日も、中東情勢不安と米金融政策動向を睨んだ動きとなり、神経質な展開が予想される。しかしこれらのリスクを抱えたまま週末を過ごすことは難しいため、恐らくポジション解消の動きが強まり、方向感は出難いと考える。
注目材料は以下の通り。
・米・EU首脳会議(ワシントン)
・フィラデルフィア連銀総裁講演
・クリーブランド連銀総裁講演
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
昨日の原油価格は上昇した。米軍を対象とする小規模攻撃がみられるなど、自体がエスカレートしているため、供給懸念が強まったこと、米雇用関連統計とフィラデルフィア連銀指数が改善したことも、米景気がまだ堅調であることを意識させ、価格を押し上げた。
今の世界はハマスの狙い通り、親イスラエル・嫌イスラエルに分かれる動きが始まっており、中東地区はもちろん、イスラエルに対する支援を表明した国でも大規模なデモが発生している
今後のイスラエルの対応次第だが、ガザ地区の民間人への大規模な虐殺が起きるような場合、「親イスラエル国に対しては原油を供給しない」といった「第3次オイルショック」のような事態も起こりかねない。既にイランはそれを匂わせる発言をし始めている。
そのため、積極的にショート・ポジションを形成する動きは手控えられるため、高値維持となるし、紛争が拡大すれば買いが増えてさらに上値を、という可能性もある。
現時点でそのシナリオは、産油国にとってもメリットが無いため可能性はかなり低いリスクと考えられるが、無辜の生命がリスクに晒されている状況下、その可能性がゼロとは言えない状況になっている。
10月時点の価格見通し変更で、来年前半に掛けて景気が減速・底入れし、その後上昇する」としているが、原油価格に影響が大きい米国の景気見通しについて、FRBは2024年後半に底入れしてその後緩やかに回復するとしており、市場コンセンサスもQ324の景気底入れを想定し始めている。
足下で原油価格動向の材料とされやすい中国の景気も、循環的な回復や財政出動による景気底入れが恐らく来年の春頃にみられると予想されるため、年後半の米景気減速による価格下落を抑制すると考える。
その結果、原油価格はFOMC前後での乱高下はありつつも、Q423~Q124に掛けて高止まりするが、Q324まで水準を切下げた後、Q424から上昇基調に転じるシナリオを10月時点の原油価格見通しのメインシナリオとした。
DOEの直近の需給見通しを元にした回帰分析の結果は、2023年のBrent価格は83.2ドル(前月83.4ドル)、2024年が86.4ドル(82.2ドル)と、OPECの生産下振れが考慮された。
2024年もサウジとロシアの追加減産が継続した場合、価格上昇にもかかわらず需要が減少しなければ、2023年は83.4ドル、2024年は91.0ドルとなる。内訳的には、先月までの見通しとは異なり、H124の平均価格は91.2ドル、H224が90.9ドルが見込まれる。なお、DOEの予想は2024が94.91ドルであり、さらに強気だ。
このシナリオだと、2024年に再びインフレリスクに晒されることが予想されるが、年初の高金利維持で、年後半に掛けてそのリスクは低下することになるのではないか。
なお、11月にも翌年度見通し作成のために再度変更を行うため、直近のデータ(特に景気の先行き見通し)を反映して、シナリオは変更される。
現在想定しているメインシナリオは、引締め加速による景気減速が年明けに発生して価格が下落、Q324頃に底入れして上昇する展開。
ロシア情勢を踏まえた原油供給状況は大きく変化していないため、中東情勢の影響を考慮した原油価格の「想定されるレンジ」は以下の通り。
現在は 3.の状態。この状況でもOPECからは価格維持に向けた取組みを継続する、といった発言が出ている。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. 中東問題がイランにまで波及し、OPEC諸国も対立国ヘの供給を絞る(オイルショック状態)、イランに対する制裁強化など
Brent 120-150ドル
2.中東問題がイランにまで波及するが、OPEC諸国が増産する
Brent 90-120ドル
3.中東問題がイランに波及せず、OPEC諸国が増産しない
Brent 75-95ドル
4.中東問題がイランに波及せず、OPEC諸国が増産する
Brent 70-90ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
Q423 需要の伸び横這い・中東情勢不安による供給制限懸念(→高値維持)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓↓)
Q124 欧米の景気後退局面入りによる需要鈍化・生産調整継続(↓高値維持も下落開始)
Q224~Q324 実質金利プラス維持による景気後退(サービス業)製造業の循環的な回復が下支え(↓↓)OPECプラス減産維持の場合(↓)
Q324以降 需要回復・中国の正常化進捗(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
10月10日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが▲48,383枚、ショートが▲20,797枚と、どちらかの方向にBetしているというよりも、ポジション解消の動きに見える。
Brentはロングが▲52,563枚、ショートが+12,598枚と、こちらも弱気ポジションに。ただ来週のCFTC調査で、中東情勢不安でこのショートが一気に解消されている可能性は高い。
本日も、中東情勢の悪化が続いていること、米国経済がまだ良好であることから高値維持の公算。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は小幅に下落。気温が穏やかな推移となる見込みであることが価格を下押ししたが、地政学的リスクが高まるなかで高値を維持した。
欧州の在庫水準の高さを考えると、今冬に関しては数量ベースで調達が不充分、というリスクはさほど高くないと見ている(ただし供給途絶が発生すれば、価格には上昇圧力が掛かるが、ウクライナ危機発生時のような暴騰にはならないだろう)。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続
2.LNGターミナル・ガス田・船舶の不慮の停止
3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)
4.景気減速(価格下落要因)
5.季節要因・気象状況
1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。
弊社のシミュレーションでは、今冬の欧州のガス調達は、ロシアが仮にガス輸出を完全に停止したとしても凌げる見通し。
ただし、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(数量確保の問題と、価格上昇の問題両面)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。
弊社の試算では欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されておらず、LNGの形で欧州諸国も購入を続けている。ガスがLNGに置き換わっただけとも言える。
しかし、脱ロシアが完了した場合、ロシアがこれまで供給してきた西側諸国向けのガスが「浮く」ことになる。2022年、欧州向けにロシアが削減したパイプライン輸出量は708億立方メートルで、総輸出量9,685億立方メートルの7.3%に及ぶ。
これを他地域の需要増加で補うことは恐らく不可能であり、FID済みのプロジェクトも見直しせざるを得なくなる可能性がある。
2.は、Chevronがイスラエル沖のTamarガス田での生産をイスラエル・ハマスの戦闘による情勢不安を理由に停止している。
今回の戦闘が長期化するのか否か、現在では不透明であり、戦闘行為の中でパイプラインが破壊される可能性も否定できない(恐らく米国の空母打撃群がイスラエル沖に展開しているため、そのリスクは低いと考えられるが)
また、フィンランドとエストニアを結ぶパイプラインが、何らかの工作で破壊されたと報じられていることも、供給懸念を高めている(当然、ロシアは関与を否定)。
この他、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。米海洋大気庁の見通しでは、大西洋でのハリケーンの発生頻度は例年を上回る見通し。
通常、エルニーニョ現象が発生したときは大西洋の海水温が低下してハリケーンの発生・勢力が弱まるが今年は例外的な見通しとなっており、北米→欧州のLNG輸送や輸出ファシリティへの影響は無視できないリスクに。
また、異常気象の影響による干ばつでパナマ運河の水位が低下しており、LNG輸送に障害が発生、スポット価格が上昇する可能性が出てきた。
3.4.は顕在化している。しかし3.に関しては、ロシアもこれ以上ガス供給を削減することは難しい。
ロシア・ウクライナ戦争は越冬して来年に持ち越される可能性が高まる中、この冬にロシアがなりふり構わない対応をしてくる可能性は否定できない。
それでもガス在庫の水準は高く、仮にロシアが輸出を完全に止めても今冬の調達には問題がなさそうな状況(ただしこの場合、供給が足りていても価格は上昇する)
5.は2.とも関係するが、今年の冬はエルニーニョ現象が見込まれ、通常であれば暖冬となりやすいため、価格上昇方向のバイアスは強まらないと予想される。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも低下している。欧州は在庫水準の高さが影響しているとみられるが、TTFは高騰している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は下落。米週間天然ガス統計で、在庫が予想以上の増加になったことが材料となった。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物市場は小幅に上昇。中東情勢が悪化していることでTTFが高止まりしていることが引き続き材料になっている。
現在のJLCの水準は11.95ドルであり、現在のスポット価格はこの水準を上回っている。
その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。
今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
また、サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。
9月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比±0.0%の1,015万トン(前月+22.7%の1,086万トン)と急減速した。
まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産の増加や、ピークシーズン終了に伴う発電向けの需要減少が影響した可能性がある。
8月のパイプラインベースの輸入は前年比+10.4%の456万トン(前月+12.4%の445万トン)と過去5年の最高水準(413万トン)を大きく上回っている。
8月のLNG輸入は前年比+33.4%の629万8,000トン(前月+23.7%の585万9,000トン)と前月から伸びが加速し、同じ時期の過去5年の最高水準(665万2,000トン)に迫った。
8月の中国の天然ガス生産は+6.5%の1,330万9,000トン(前月+8.2%の1,360万3,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
10月15日時点の日本の大手発電業者のLNG在庫は216万トン(過去5年平均259万8,600トン、大手発電業者在庫の過去5年平均は201万トン)と、先週から大幅に増加したが、いずれの集計でも過去5年平均を下回った状態が続いている。
速報性がない、大手電力以外のLNG在庫を含めた過去5年の水準と比較すると、過去5年の最低水準(235万2,800トン)も下回っている。
夏が例年よりも暑い猛暑で電力需要が増加したことに加え、原子力発電所の再稼働、大手発電業者のLNG調達は、自社の顧客を対象にした数量しか行われない。これは新電力の顧客の需要データが開示されないため、他社分まで調達することができないため。
仮に冬場が寒くなった場合、再びガスや石炭不足となり価格が上昇する可能性はある。通常過不足はスポット(JKMベース)で行い、電力のスポット価格はJKMの影響を受けるため、再び冬場の電力価格が上昇するリスクは無視できない。
また、今年はエルニーニョ現象の影響で太平洋側は台風の発生頻度・勢力が強まる可能性がある。この場合、輸送に影響が出ることも考えられるため、エルニーニョ現象が発生しているものの在庫水準の低さを考えると、冬場の価格上昇リスクも無視できない。
JEPXベースで調達して大手電力会社の価格で電気を販売している業者、JEPXベースで電気を調達している消費者はこのJKMのリスクを抱えることになる。
本日は、中東情勢不安を受けたガス供給の減少リスクが顕在化していることから高値維持の公算。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は下落した。先日の大幅な上昇の反動とみられる。今回の中東情勢不安は石炭供給に影響を与えていないが、ガス価格の変動が石炭価格を左右していることは事実。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は150ドル、±1標準偏差で80~220ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度まで再び上昇しているため、150~220ドルが説明可能なレンジであり、現在のスポット価格はやや安く、足下の需給が緩和していることを示唆。
2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できず、実際、冬場の期先の価格は高い。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
9月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+50.5%の4,433万3,000トン(前月+66.9%の3,926万トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準を維持した。
ガスも同様であるが、中国の記録的な気温上昇の影響で、発電燃料需要が引き続き増加しているためと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。
国別では7月は豪州からの輸入が増加している。これにより、豪州の輸入シェアは29.5%(前月23.1%)と上昇した。しかし直近12ヵ月の累計シェアはロシアが1位で0.6%、ついでインドネシア(36.2%)、豪州(13.0%)となった。
9月の中国の石炭生産は、前年比+1.3%の3億9,131万トン、1,304万トン/日(前月+3.0%の3億7,902万トン、1,222万6,000トン/日)と伸びが鈍化したが、過去最高水準は上回っている。
8月の中国の電力消費量は前年比+4.0%の8,861億kwh(前月+6.8%の8,888億kwh)と伸びが減速した。景気回復の遅れ(減速)を示唆している。
今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、夏場が終了に向かっていること、景気回復の足取りが重いことから徐々に減速すると予想される。
本日も、中東情勢不安の広がりをうけたガス価格の上昇が、石炭価格を高値に維持すると考える。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は小動き。固有の材料に乏しいが、パウエル議長の発言が「ハト派」と解釈されていったんドルが売られたこと、中国の重要統計の改善が需給ファンダメンタルズの改善期待を高めたことなどが買い材料となったが、中国の不動産問題は解決しておらず、不動産セクターの悪化は続いていることや、中東情勢の悪化の影響が拡大するのでは、との見方がリスク資産売り圧力を強めていることも事実であり、上値を抑えた。
最大消費国の中国もシクリカルな回復を確認する統計が出始めたが、不動産問題は解消しておらず、「フローは価格を押し上げ、ストックは価格を押し下げ、合わせて中立」という状態と整理できる。
この状況下で、中東情勢の緊迫化が有事のドル買いを誘う一方、米利上げ終了観測を受けた金利低下圧力がドル安バイアスを強めるため、ドル指数は日替わりで非鉄金属価格の強弱材料となり、方向性が出難い。
中国政府は2024年以降も中国の経済対策(住宅セクターのテコ入れ、というよりは必要な、近代化に向けたインフラ投資)の実施が見込まれること、脱炭素の動きにともなう投資は継続することから、再び上昇に転じるとみている。
しかし、中国の不動産セクター問題がことのほか重荷になっており、そして恐らく即時に解決をすると言うよりも、時間を掛けて処理する方向(損失を確定させない方向)に舵を切ったと考えられることから、需要増加による価格押し上げペースは、ゼロコロナ終了後に予想していたよりも(年初想定よりも)鈍化するとみている。
この危機を乗り切ることができれば、長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドのW人口ボーナス期(中国は近代化仕上げの10年)、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると見る。
ただし、この危機を乗り切ることに失敗し、中国政府が想定以上にこれまで積み上がった余剰生産能力の解消に手間取った場合、景気は長期低迷、いわゆる「日本化」が10年単位で起きる可能性が高い。
さらに労働人口がピークアウトし、かつ、西側諸国の制裁によって先端分野の発展が阻害され生産性が低下、将来的にはインフレをもたらしソ連型の国家崩壊、というシナリオも長期的には有り得る話だ。
9月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲5.8%の48万426トン(前月▲5.0%の47万3,330トン)と過去5年平均を下回る状態が続いている。
9月の銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比▲1.3%の224万1,135トン(前月+18.8%の269万7,104トン)と過去5年の最高水準を下回った。
8月の中国の精錬銅生産は+18.4%の108万5,000トン(前月+17.7%の102万3,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。
8月の銅スクラップの輸入は前年比+0.9%の15万6,077トン(前月▲3.9%の14万9,170トン)と過去5年平均を維持している。
精錬銅輸入の減少はまだLME価格の方が上海価格よりも高いことが影響しているとみられるが、電力供給に問題がない中での鉱石輸入の減少は、国内の精錬品需要が減少している可能性があることを示唆している。遅れて発表される中国の9月の精錬銅生産には注目したい。
本日は、中国経済の循環的な回復を受けた需要増加が価格を押し上げるが、米国の経済状況が悪くないことに伴うドル高進行が、価格上昇を抑制の公算。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇 、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は下落。
特段新規の材料はないが、鉄鉱石は在庫水準の低さからの買いが継続しており、原料炭に関しては逆で在庫水準の高さが輸入炭価格の重荷となった。
9月の中国粗鋼生産は前年比▲5.6%の8,211万トン(前月+3.0%の8,641万トン)と減速し、過去5年平均を下回った。
一方、9月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲28.0%の64万470トン(前月▲28.1%の64万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
9月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+61.9%の806万3,100トン(前月+34.6%の828万トン)と過去5年の最高水準を大きく上回る状態が続いている。同時に鉄鋼製品輸出額は前年比▲6.0%の65.6億ドル(前月▲30.6%の67.1億ドル)と金額は前月から減速したが、前年比下落率は上昇した。
輸出額を数量で割ったトン当り単価は814ドル(前月810ドル)と下落に歯止めが掛かった感がある。これは、中国の国内在庫の解消が進んだ可能性があることを示唆している。
中国不動産問題は先送りし、「それがいつどのタイミングで噴出するかは分らないものの、それに目をつぶれば」最悪期は脱し、循環的な回復局面に入ったと言える。
しかし、週次の鉄鋼製品在庫を見ると過去5年平均に迫っており、在庫の積み上がり傾向が確認できる。このことは、まだ中国の在庫調整には時間が掛かる可能性があることを示唆している。引き続き、輸出単価には注目する必要があるだろう。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲28万トンの1,268万3,000トン(過去5年平均 1,299万9,000トン)と過去5年平均を下回っているが、かなり水準は過去5年平均に近づいており、鉄鋼製品価格の下押し要因となっている。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲330万トンの1億520万トン(過去5年平均 1億3,233万トン)、在庫日数は22.5日(±0.0日、過去5年平均29.5日)。
鉄鉱石は在庫は日数ベースでも、数量ベースでも過去5年平均を下回っており、鉄鉱石の需給はタイトで一定の在庫積み増し需要が存在する。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+2万トンの184万トン(過去5年平均 148万2,000トン)、在庫日数は+0.3日の7.1日(過去5年平均 6.0日)と、原料炭の需給は再び緩和している。
本日も新規材料に乏しく、現状維持の公算。
◆貴金属
昨日の金銀価格は上昇した。長期金利上昇に伴い金の基準価格が下落したが、中東情勢不安を背景とするリスク・プレミアムの高まりが価格を押し上げた。銀も同様でプラチナも連れ高。パラジウムは株価の調整を受けて水準を切り下げた。
金価格の上昇率、という観点では先週末の上昇は「金価格の日次データが取得可能」だった1975年1月2日以降のデータを元にすると、実は全体で108位の上昇率とそれほど大きくない。
上昇率上位は、イラン革命後の米・イランの対立が激化し、第二次オイルショックが発生、アフガン軍事侵攻にまで拡大した「地政学リスク」「インフレ懸念」が高まっている1970年代~1980年代に集中している。
この頃も、ニクソン・ショック以降、ドルの価値に疑問符が付いていた時期で有るため、安全資産・安全通貨・インフレヘッジ目的で用いることが可能だった商品は、金ぐらいだったことが影響したと考えられる。
2000年以降のデータに限定すると、上昇率トップはリーマン・ショック発生時とそれに伴う米金融緩和で2008年~2009年頃の上昇率が高い。そのほかギリシャの金取引規制解除が報じられた2000年2月や、9.11テロ発生時などが挙げられる。
なお、価格上昇「幅」は最も上昇したのがやはりリーマン・ショック発生時で、ついでコロナショック発生時、米シリコンバレー銀行破綻時と続き、今回の上昇はそれに続く。
1975年代の過去の例に学ぶのであれば、当たり前と言えば当たり前であるが、戦闘が続く間は金は物色され、その後の展開で更なる上昇となるのか、下落になるのかが決まる。更なる拡大は「紛争地域や対象が、50年前と同様に拡大する場合」だろう。
一方、まだ市場は信用リスク発生時の方の金需要の方が大きいことを示唆している。
足下、金価格の構成要素のうち、リスク・プレミアムの占める比率が高まっている。金リスク・プレミアムの上昇要因の主なところは、
1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)
2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト
3.ロシアのウクライナ侵攻
4.イスラエルとパレスチナの戦争開始による中東情勢不安並びに、テロ組織の大規模攻撃であるため、各地にテロが拡散するリスク
あたりだろう。これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。
2019年基準で算出した現在のリスク・プレミアムのシェアは55%と、ほぼ上記の期間と同様の状況になっており金利水準以上にその他の要因が金価格の形成に影響を与えていることが確認できる。
現状を理解する手助けとなるため、あえて実質金利・信用リスク・その他、に分離した場合、実質金利部分が45%、信用リスク要因が20%、その他の要因が35%となった(2019年データを元にした分析結果に変更)。
直近1年間の説明力を相関係数で確認すると、最も金価格に対する説明力が高いのがドル指数で▲0.87、次いでFF金利で0.80、リスク・プレミアムが0.69程度、期待インフレ率(▲0.59)、実質金利(▲0.18)と、実質金利は現在の価格形成に大きな影響を与えていない。
ドル指数はFF金利の影響が大きいため、今後の金価格を占う上ではやはりFF金利動向が重用になる。
この5年間のデータを元にした分析では、FF金利±1%の変化で、実質金利は±0.5%変化、金価格は±50ドル変化し、リスク・プレミアムは±150ドル変化する。
年内利上げの可能性は後退しているが、11月にあったとして金の基準価格は▲13ドル、リスク・プレミアムは+38ドルの上昇圧力となり、差し引き+25ドルの上昇となる。
市場予想では2024年は▲0.5%程度のFF金利引下げが見込まれているため、金の基準価格は+25ドル程度の押し上げ要因となり、リスク・プレミアムは、▲75ドルの低下要因となるため、仕上がりで▲50ドルの価格低下となる。
現在の金価格は1,900ドルまで低下しているため、これを基準とすると1,850ドル程度までの下落があると見ている。ただし現在の金価格は有事のプレミアムを含むため、その状況次第ではより大きな下落となろう。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次のボリンジャーバンドの分析は有効に機能しているが、仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,900ドル程度とすると21.1~25.33ドルが現在取り得る範囲といえる。
また、中国の鉱工業生産を元にすると、現在の金銀レシオは90倍程度が上限とみられる。
本日は、引き続き中東情勢が材料となる。イスラエル・パレスチナの緊張は継続し、米軍を対象とする小規模攻撃がその他の地区でも発生していることから、安全資産需要の高まりで価格は高値を維持の公算。
PGMは上記の状況を受けて株価が下落する可能性が高く、水準を切下げへ。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇した。中東情勢不安が拡大する中、大規模な戦闘行為が行われ、周辺地域にも広がるのでは、との懸念が「戦時相場」を想起させ、穀物価格も押し上げた。
原油ほど明確ではないが、穀物も1970年代の中東情勢不安時には、インフレ進行も相まって大幅な上昇になっている。図らずも、今回も同じ相場展開になっている。
当面は、ハーベスト・プレッシャーによる季節的な売りと、戦争を意識した食品物色の流れが相殺しあう形が予想される。
長期的な話だが、今年地中海を襲ったハリケーン(ストーム・ダニエルと命名)の影響で中東北アフリカ地域に降雨がもたらされたことは、先々の穀物供給に影響を及ぼす、サバクトビバッタの越冬を可能にし、来年以降の供給減少のリスクを高めることが懸念される。
尚、Locust Watchでは中東・北アフリカ地域でのバッタの大量発生は確認されていない。
本日は、原油価格の上昇によるインフレ資産物色と、ハーベスト・プレッシャーでもみ合うとみる。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
◆信用リスク・マクロ経済のリスク
・米国債の格下げリスク(残るMoody'sの格下げリスク)、米国債格下げの動きが連鎖して、金融機関の格下げが加速、信用不安に繋がる場合。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは顕在化している可能性)
新興国の財政破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに(米銀格下げ検討は始まっている)。
・中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
◆地政学的リスク
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
・中東情勢不安が拡大し、先進国でテロが発生(景気の下振れリスク)、産油国でテロが発生して原油価格が高騰(インフレ発生で景気下振れリスク)するリスク。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
・西アフリカ・北アフリカで、フランスが旧宗主国である国の反仏感情が高まり、武力衝突が発生して域内治安が悪化する場合。
欧州に難民が流入するほか、地域によっては(リビア、アルジェリア、ナイジェリアなど)原油・ガス供給に影響が及ぶ恐れ。
◆その他のリスク
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
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