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中東情勢一服でエネルギー・貴金属は調整
  • MRA商品市場レポート

2023年10月17日 第2567号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「中東情勢一服でエネルギー・貴金属は調整」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は、その他農産品や自国通貨建て商品、非鉄金属、工業金属価格が上昇したが、エネルギーは下落した。

中東情勢不安解消に向けて各国首脳がかなり活発にイスラエル・パレスチナ・ハマスと協議を続けており、イスラエル軍の地上部隊の越境攻撃が先延ばしされていることが、市場の楽観を誘った。

イスラエルが関係してくると、政治的にも関係が深い欧米諸国は多く、かつ、パレスチナ問題が関わった場合、アラブ諸国も当然事態の沈静化に動かざるを得なくなる。

イスラエルの同盟国である米国も、民主党はそもそもネタニヤフ首相の強権的な対応を不満に思っていたが、事態の悪化を回避するため積極的に関与し、大戦中のユダヤ人迫害の歴史があるドイツもショルツ首相がイスラエルを訪問するなど、動きが活発化している。

イスラエルには、ソ連崩壊時に多くのロシア系ユダヤ人が流入した。その多くは、ソ連で迫害を受けた人が多い。旧ソ連は反米・反イスラエルであるが、プーチン大統領になってからこの方針を改め、親イスラエルに軌道修正している(2018年にはネタニヤフ首相が、ロシアの軍事パレードに出席している)。

これは、プーチン大統領の支持基盤である(あった)オリガルヒの中に、ユダヤ系の富豪が多いことも影響しているとみられる。結局の所は選挙なのだ。結果、ロシアは今回の件でもイスラエルに批判的ではない。

しかし、対米で協力するイランがハマス支持であること、OPECプラスで連携するアラブ諸国は歴史の経緯上、パレスチナ支持であることから両方支持、というのが公式のスタンスだろう。

結局、ハマスとイスラエルの武力衝突は、負の連鎖を生むだけなので回避をしないと、無辜の命が奪われる(イスラエル・パレスチナともに)可能性があること、戦火が拡大した場合、それに対応するための戦費負担も、これから景気が減速する中では重くない負担となってしまうことが、タイミング的にも各国首脳を動かしている、といえるだろう。

ただ、問題が解決した訳ではないことから、原油価格は高止まり、結果的に景気減速時の物価上昇に繋がりかねず、先々の景気急減速リスクは日に日に高まっていると考えるべきである。

【本日の見通し】

本日も、中東情勢不安がリスク資産価格を左右する状況に変りは無いが、新規の材料に乏しいため、マクロ経済動向、金融政策動向が注目される展開が予想される。今のところ、米国の利上げは打ち止めとの見方が強まっているため、ドル安バイアスが価格を押し上げやすい地合で、エネルギーに関しては需要減少観測から下押し圧力が掛かりやすい。

しかし、リスク回避のドル需要、供給面の途絶リスクが原油価格を高止まりさせるため、多くの商品が結局の所高値維持、ということになるとみている。大きなくくりでは「戦時相場」と言えるだろうか。

本日の注目材料は以下の通り。製造業の景況感、サービス業の動向を見る上で、米小売売上高と米鉱工業生産は注目。

後は企業決算で景気の先行指標となりやすい金融機関決算(BofA、GS)、有事発生の恩恵を受けている可能性があるロッキードなどの決算は注目だろう。

また、中東情勢に関連するEU首脳会合も要注目であり、FOMCのブラックアウト期間を控えた、FOMCメンバーの講演にも注目である。

・ニューヨーク連銀総裁司会

・FRBボウマン理事講演

・リッチモンド連銀総裁講演

・ミネアポリス連銀総裁講演

・米下院本部議長選

・EU首脳オンライン会合(中東情勢)

・EU財務相理事会

・ECB・IMF合同会合

・中国 一帯一路フォーラム

・独2年債入札

・9月米小売売上高 市場予想 前月比+0.3%(前月+0.6%) 除く自動車 +0.2%(+0.6%) 除く自動車・ガソリン +0.1%(+0.2%) 除く自動車・建材 +0.1%(+0.1%)

・9月米鉱工業生産 前月比±0.0%(+0.4%)

・10月米NAHB住宅市場指数 44(前月 45)

・8月対米証券投資

・10月独ZEW期待指数 ▲9.0(▲11.4) 現状指数 ▲80.8(▲79.4)

・企業決算:BofA、J&J、ロッキード、ゴールドマン

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

昨日の原油価格は下落した。米国がベネズエラに対する制裁を一部解除する、との報道や、各国首脳が相次いでイスラエル・パレスチナを含む中東諸国首脳とコミュニケーションを取っており、事態悪化に歯止めを掛けていることが材料視された。

また、米国時間に発表されたニューヨーク連銀製造業指数が悪化したことで、需要面の減速観測が強まったことも背景。

小康状態にある中東情勢だが、イラン外相が戦闘拡大の可能性を示唆していることに象徴されるようにまだ解決した訳ではない。そのため、積極的にショート・ポジションを形成する動きは手控えられるため、高値維持となる。

今の世界はハマスの狙い通り、親イスラエル・嫌イスラエルに分かれる動きが始まっており、ロンドンなどでも大規模なデモが発生している

今後のイスラエルの対応次第だが、ガザ地区の民間人への大規模な虐殺が起きるような場合、「親イスラエル国に対しては原油を供給しない」といった「第3次オイルショック」のような事態も起こりかねない。

現時点でそのシナリオは、産油国にとってもメリットが無いため可能性はかなり低いリスクと考えられるが、無辜の生命がリスクに晒されている状況か、その可能性がゼロとは言えない状況になっている。

10月時点の価格見通し変更で、来年前半に掛けて景気が減速・底入れし、その後上昇する」としているが、原油価格に影響が大きい米国の景気見通しについて、FRBは2024年後半に底入れしてその後緩やかに回復するとしており、市場コンセンサスもQ324の景気底入れを想定し始めている。

足下で原油価格動向の材料とされやすい中国の景気も、循環的な回復や財政出動による景気底入れが恐らく来年の春頃にみられると予想されるため、年後半の米景気減速による価格下落を抑制すると考える。

その結果、原油価格はFOMC前後での乱高下はありつつも、Q423~Q124に掛けて高止まりするが、Q324まで水準を切下げた後、Q424から上昇基調に転じるシナリオを10月時点の原油価格見通しのメインシナリオとした。

DOEの直近の需給見通しを元にした回帰分析の結果は、2023年のBrent価格は83.2ドル(前月83.4ドル)、2024年が86.4ドル(82.2ドル)と、OPECの生産下振れが考慮された。

2024年もサウジとロシアの追加減産が継続した場合、価格上昇にもかかわらず需要が減少しなければ、2023年は83.4ドル、2024年は91.0ドルとなる。内訳的には、先月までの見通しとは異なり、H124の平均価格は91.2ドル、H224が90.9ドルが見込まれる。なお、DOEの予想は2024が94.91ドルであり、さらに強気だ。

このシナリオだと、2024年に再びインフレリスクに晒されることが予想されるが、年初の高金利維持で、年後半に掛けてそのリスクは低下することになるのではないか。

なお、11月にも翌年度見通し作成のために再度変更を行うため、直近のデータ(特に景気の先行き見通し)を反映して、シナリオは変更される。

現在想定しているメインシナリオは、引締め加速による景気減速が年明けに発生して価格が下落、Q324頃に底入れして上昇する展開。

ロシア情勢を踏まえた原油供給状況は大きく変化していないため、中東情勢の影響を考慮した原油価格の「想定されるレンジ」は以下の通り。

現在は 3.の状態。この状況でもOPECからは価格維持に向けた取組みを継続する、といった発言が出ている。

<シナリオ別原油価格見通し>

1. 中東問題がイランにまで波及し、OPEC諸国も対立国ヘの供給を絞る(オイルショック状態)
Brent 120-150ドル

2.中東問題がイランにまで波及するが、OPEC諸国が増産する
Brent 90-120ドル

3.中東問題がイランに波及せず、OPEC諸国が増産しない
Brent 75-95ドル

4.中東問題がイランに波及せず、OPEC諸国が増産する
Brent 70-90ドル

(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)

5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル

6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

Q423 需要の伸び横這い・中東情勢不安による供給制限懸念(→高値維持)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓↓)
Q124 欧米の景気後退局面入りによる需要鈍化・生産調整継続(↓高値維持も下落開始)
Q224~Q324 実質金利プラス維持による景気後退(サービス業)製造業の循環的な回復が下支え(↓↓)OPECプラス減産維持の場合(↓)
Q324以降 需要回復・中国の正常化進捗(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)

※矢印の向きは価格の方向性。

10月10日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが▲48,383枚、ショートが▲20,797枚と、どちらかの方向にBetしているというよりも、ポジション解消の動きに見える。

Brentはロングが▲52,563枚、ショートが+12,598枚と、こちらも弱気ポジションに。ただ来週のCFTC調査で、中東情勢不安でこのショートが一気に解消されている可能性は高い。

本日も、イスラエル・ハマスの戦闘が収束した訳ではないことから高値維持であるが、事態が小康状態となったことから調整売り圧力も強まるとみられ、軟調ながらも高値維持、という形になるだろう。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は調整売りに押された。供給面のリスクは残存しているものの、事態がいったん小康状態になっている中で、一時的に利益確定の動きがみられたためと考えられる。

事態沈静化後に価格は下落に転じると考えるが、今回の一連の紛争でガス供給はリスクに晒されており、冬場の価格上昇リスクは残ることに。

ただ、欧州の在庫水準の高さを考えると、今冬に関しては数量ベースで調達が不充分、というリスクはさほど高くないと見ている(ただし供給途絶が発生すれば、価格には上昇圧力が掛かるが、ウクライナ危機発生時のような暴騰にはならないだろう)。

欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続

2.LNGターミナル・ガス田・船舶の不慮の停止

3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)

4.景気減速(価格下落要因)

5.季節要因・気象状況

1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。

弊社のシミュレーションでは、今冬の欧州のガス調達は、ロシアが仮にガス輸出を完全に停止したとしても凌げる見通し。

ただし、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(数量確保の問題と、価格上昇の問題両面)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。

弊社の試算では欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されておらず、LNGの形で欧州諸国も購入を続けている。ガスがLNGに置き換わっただけとも言える。

しかし、脱ロシアが完了した場合、ロシアがこれまで供給してきた西側諸国向けのガスが「浮く」ことになる。2022年、欧州向けにロシアが削減したパイプライン輸出量は708億立方メートルで、総輸出量9,685億立方メートルの7.3%に及ぶ。

これを他地域の需要増加で補うことは恐らく不可能であり、FID済みのプロジェクトも見直しせざるを得なくなる可能性がある。

2.は、Chevronがイスラエル沖での生産をイスラエル・ハマスの戦闘による情勢不安を理由に停止している。

今回の戦闘が長期化するのか否か、現在では不透明であり、戦闘行為の中でパイプラインが破壊される可能性も否定できない(恐らく米国の空母打撃群がイスラエル沖に展開しているため、そのリスクは低いと考えられるが)

また、フィンランドとエストニアを結ぶパイプラインが、何らかの工作で破壊されたと報じられていることも、供給懸念を高めている(当然、ロシアは関与を否定)。

この他、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。米海洋大気庁の見通しでは、大西洋でのハリケーンの発生頻度は例年を上回る見通し。

通常、エルニーニョ現象が発生したときは大西洋の海水温が低下してハリケーンの発生・勢力が弱まるが今年は例外的な見通しとなっており、北米→欧州のLNG輸送や輸出ファシリティへの影響は無視できないリスクに。

また、異常気象の影響による干ばつでパナマ運河の水位が低下しており、LNG輸送に障害が発生、スポット価格が上昇する可能性が出てきた。

3.4.は顕在化している。しかし3.に関しては、ロシアもこれ以上ガス供給を削減することは難しい。

ロシア・ウクライナ戦争は越冬して来年に持ち越される可能性が高まる中、この冬にロシアがなりふり構わない対応をしてくる可能性は否定できない。

それでもガス在庫の水準は高く、仮にロシアが輸出を完全に止めても今冬の調達には問題がなさそうな状況(ただしこの場合、供給が足りていても価格は上昇する)

5.は2.とも関係するが、今年の冬はエルニーニョ現象が見込まれ、通常であれば暖冬となりやすいため、価格上昇方向のバイアスは強まらないと予想される。

米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも低下した。欧州のガス積み上がりで目先の調達需要が後退しているためと考えられる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米天然ガス価格は下落。生産増加と気温上昇見通しが材料。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物市場は下落。中東情勢の悪化がいったん止まったこと(一時的なものと考えられるが)が材料となり、欧州ガス価格が下落したことが背景。

現在のJLCの水準は11.95ドルであり、現在のスポット価格はこの水準を上回っている。

その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。

今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。

この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。

また、サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。

9月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比±0.0%の1,015万トン(前月+22.7%の1,086万トン)と急減速した。

まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産の増加や、ピークシーズン終了に伴う発電向けの需要減少が影響した可能性がある。

8月のパイプラインベースの輸入は前年比+10.4%の456万トン(前月+12.4%の445万トン)と過去5年の最高水準(413万トン)を大きく上回っている。

8月のLNG輸入は前年比+33.4%の629万8,000トン(前月+23.7%の585万9,000トン)と前月から伸びが加速し、同じ時期の過去5年の最高水準(665万2,000トン)に迫った。

8月の中国の天然ガス生産は+6.5%の1,330万9,000トン(前月+8.2%の1,360万3,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。

※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。

10月8日時点の日本の大手発電業者のLNG在庫は189万トン(過去5年平均259万8,600トン、大手発電業者在庫の過去5年平均は201万トン)と、先週から大幅に増加したが、いずれの集計でも過去5年平均を下回った状態が続いている。

速報性がない、大手電力以外のLNG在庫を含めた過去5年の水準と比較すると、過去5年の最低水準(235万2,800トン)も下回っている。

夏が例年よりも暑い猛暑で電力需要が増加したことに加え、原子力発電所の再稼働、大手発電業者のLNG調達は、自社の顧客を対象にした数量しか行われない。これは新電力の顧客の需要データが開示されないため、他社分まで調達することができないため。

仮に冬場が寒くなった場合、再びガスや石炭不足となり価格が上昇する可能性はある。通常過不足はスポット(JKMベース)で行い、電力のスポット価格はJKMの影響を受けるため、再び冬場の電力価格が上昇するリスクは無視できない。

また、今年はエルニーニョ現象の影響で太平洋側は台風の発生頻度・勢力が強まる可能性がある。この場合、輸送に影響が出ることも考えられるため、エルニーニョ現象が発生しているものの在庫水準の低さを考えると、冬場の価格上昇リスクも無視できない。

JEPXベースで調達して大手電力会社の価格で電気を販売している業者、JEPXベースで電気を調達している消費者はこのJKMのリスクを抱えることになる。

本日は、中東情勢不安を受けたガス供給の減少リスクが顕在化したこと、豪LNGプラント労働者が再びストライキを通告したこと、フィンランドのパイプライン破損による供給減少で供給懸念が強まっていることが、価格を高値に維持すると考える。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル

◆石炭

豪州石炭スワップ先物は小幅に上昇した。ガス価格の下落はあったが、アジアの冬場に向けた調達需要と、そもそもガス側の問題が解消していないことから高値を維持する中での調整的な上昇と考えられる。

現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は150ドル、±1標準偏差で80~220ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。

期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度まで再び上昇しているため、150~220ドルが説明可能なレンジであり、現在のスポット価格はやや安く、足下の需給が緩和していることを示唆。

2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できず、実際、冬場の期先の価格は高い。

ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

9月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+50.5%の4,433万3,000トン(前月+66.9%の3,926万トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準を維持した。

ガスも同様であるが、中国の記録的な気温上昇の影響で、発電燃料需要が引き続き増加しているためと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。

国別では7月は豪州からの輸入が増加している。これにより、豪州の輸入シェアは29.5%(前月23.1%)と上昇した。しかし直近12ヵ月の累計シェアはロシアが1位で0.6%、ついでインドネシア(36.2%)、豪州(13.0%)となった。

8月の中国の石炭生産は、前年比+3.0%の3億7,902万トン、1,222万6,000トン/日(前月+0.9%の3億7,128万トン、1,197万7,000トン/日)と伸びが加速した。

8月の中国の電力消費量は前年比+4.0%の8,861億kwh(前月+6.8%の8,888億kwh)と伸びが減速した。景気回復の遅れ(減速)を示唆している。

今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、夏場が終了に向かっていること、景気回復の足取りが重いことから徐々に減速すると予想される。

本日も、中東情勢不安、豪州のストライキ再開懸念、フィンランドのパイプライン破損などのガス供給面の問題で発電燃料価格が上昇しやすい中、石炭価格も高値維持の公算。

◆LME非鉄金属

LME非鉄金属市場は小幅に上昇した。中東情勢不安はあるが、リスク回避のドル高が一服、米ニューヨーク連銀指数の悪化を受けてドル安が進行したことが、ドル建て資産価格である非鉄金属価格を押し上げた。

今のところ中国から目立った買い材料は出てきておらず、政策期待で景気が下支えされている状況であり、需給ファンダメンタルズの価格への影響は中立。その一方で、米金融政策動向を受けた為替動向が価格を左右している状況。

中東情勢の緊迫化が有事のドル買いを誘う一方、米利上げ終了観測を受けた金利低下圧力がドル安バイアスを強めるため、ドル指数は日替わりで非鉄金属価格の強弱材料となり、方向性が出難い。

一方、需給ファンダメンタルズ面では、2024年に中国の経済対策の実施や循環的な回復、脱炭素の動き継続を材料に、再び上昇に転じるとみている。

とはいえ、最大消費国である中国の景気回復ペースが、構造的に以前想定していたよりも緩やかになると予想されるため、価格の上昇ペースもこれまで想定していたよりも緩慢なものになると考えている。

弊社は2024年見通し作成のために11月にも見通しを修正するが、特に各国のマクロ経済見通し如何では、価格パスは変更される可能性がある(FRBと同様、引き続き追加のデータを精査していく必要があるため)。

中国政府は住宅取得頭金の引下げや、既存住宅ローン借り入れ客の金利引下げも容認するなどの対策を実施しており、市場では一定の評価を得た。

財政上のゆとりがないことから当面、政策金利の調整で凌ごうとする可能性が高いが、問題は余剰在庫の解消であるため、金利操作だけでは状況を好転させるのには不充分である。しかし同時に時間を掛けて不良債権や在庫処理を行う必要もある。

数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。

通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛るが、共産党に支配されている国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないと考えられる。

中国政府が何の対策もしない、ということは考え難いが常識的に考えれば、

・在庫が積み上がっているこのタイミングで経済活動を刺激すれば、さらなる在庫の積増しになってしまう可能性があること

・予算的な問題

を考えるとある程度在庫の調整が進み、かつ、予算措置が終了してからと考えるのが妥当だろう。

現在、不動産の余剰在庫を解消するため、住宅取得の制限を緩和しているが、その実施も地方政府の裁量に委ねられているため、急速に状況が改善するには至っていない。

この危機を乗り切ることができれば、長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドのW人口ボーナス期(中国は近代化仕上げの10年)、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。

ただし、この危機を乗り切ることに失敗し、中国政府が想定以上にこれまで積み上がった余剰生産能力の解消に手間取った場合、景気は長期低迷、いわゆる「日本化」が10年単位で起きる可能性が高い。

さらに労働人口がピークアウトし、かつ、米国の制裁によって先端分野の発展が阻害され生産性が低下、将来的にはインフレをもたらしソ連型の国家崩壊、というシナリオも長期的には有り得る話だ。

9月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲5.8%の48万426トン(前月▲5.0%の47万3,330トン)と過去5年平均を下回る状態が続いている。

9月の銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比▲1.3%の224万1,135トン(前月+18.8%の269万7,104トン)と過去5年の最高水準を下回った。

8月の中国の精錬銅生産は+18.4%の108万5,000トン(前月+17.7%の102万3,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。

8月の銅スクラップの輸入は前年比+0.9%の15万6,077トン(前月▲3.9%の14万9,170トン)と過去5年平均を維持している。

精錬銅輸入の減少はまだLME価格の方が上海価格よりも高いことが影響しているとみられるが、電力供給に問題がない中での鉱石輸入の減少は、国内の精錬品需要が減少している可能性があることを示唆している。遅れて発表される中国の9月の精錬銅生産には注目したい。

本日も、ドル指数動向に左右される展開となるが、米金利の下押し圧力が強まっていることから、ドルが調整しやすく堅調な推移を予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇 、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は上昇した。

鉄鋼製品需要は回復していないが、在庫水準が低い鉄鉱石には在庫積増しで上昇圧力が、原料炭は在庫水準の高さから水準を切り下げた。

貿易統計や週次の鉄鋼製品在庫を見ると必ずしも中国の状況が改善しているとは言い難い。

8月の中国粗鋼生産は前年比+3.0%の8,641万トン(前月+11.5%の9,080万トン)と減速し、過去5年平均に迫っている。

一方、9月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲28.0%の64万470トン(前月▲28.1%の64万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。

9月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+61.9%の806万3,100トン(前月+34.6%の828万トン)と過去5年の最高水準を大きく上回る状態が続いている。同時に鉄鋼製品輸出額は前年比▲6.0%の65.6億ドル(前月▲30.6%の67.1億ドル)と金額は前月から減速したが、前年比下落率は上昇した。

輸出額を数量で割ったトン当り単価は814ドル(前月810ドル)と下落に歯止めが掛かった感がある。これは、中国の国内在庫の解消が進んだ可能性があることを示唆している。

中国不動産問題は先送りし、「それがいつどのタイミングで噴出するかは分らないものの、それに目をつぶれば」最悪期は脱し、循環的な回復局面に入ったと言える。

しかし、週次の鉄鋼製品在庫を見ると過去5年平均に迫っており、在庫の積み上がり傾向が確認できる。このことは、まだ中国の在庫調整には時間が掛かる可能性があることを示唆している。引き続き、輸出単価には注目する必要があるだろう。

週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲28万トンの1,268万3,000トン(過去5年平均 1,299万9,000トン)と過去5年平均を下回っているが、かなり水準は過去5年平均に近づいており、鉄鋼製品価格の下押し要因となっている。

鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲330万トンの1億520万トン(過去5年平均 1億3,233万トン)、在庫日数は22.5日(±0.0日、過去5年平均29.5日)。

鉄鉱石は在庫は日数ベースでも、数量ベースでも過去5年平均を下回っており、鉄鉱石の需給はタイトで一定の在庫積み増し需要が存在する。

主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+2万トンの184万トン(過去5年平均 148万2,000トン)、在庫日数は+0.3日の7.1日(過去5年平均 6.0日)と、原料炭の需給は再び緩和している。

週明け月曜日も、最大の買い手である中国勢の買い意欲はそれほど強くはないものの、需要期ということもあり一定の鉄鋼原料在庫積増しの需要は認められるため、現状維持の公算。

◆貴金属

昨日の金価格は下落した。前日の上昇幅が大きかったことを受けた、調整売りと考えられる。また、米金利が昨日は上昇したことが金の基準価格を押し下げた。

金価格の下落を受けて銀価格も下落、PGMは株の上昇が支えとなった。

金価格の上昇率、という観点では先週末の上昇は「金価格の日次データが取得可能」だった1975年1月2日以降のデータを元にすると、実は全体で108位の上昇率とそれほど大きくない。

上昇率上位は、イラン革命後の米・イランの対立が激化し、第二次オイルショックが発生、アフガン軍事侵攻にまで拡大した「地政学リスク」「インフレ懸念」が高まっている1970年代~1980年代に集中している。

この頃も、ニクソン・ショック以降、ドルの価値に疑問符が付いていた時期で有るため、安全資産・安全通貨・インフレヘッジ目的で用いることが可能だった商品は、金ぐらいだったことが影響したと考えられる。

2000年以降のデータに限定すると、上昇率トップはリーマン・ショック発生時とそれに伴う米金融緩和で2008年~2009年頃の上昇率が高い。そのほかギリシャの金取引規制解除が報じられた2000年2月や、9.11テロ発生時などが挙げられる。

なお、価格上昇「幅」は最も上昇したのがやはりリーマン・ショック発生時で、ついでコロナショック発生時、米シリコンバレー銀行破綻時と続き、今回の上昇はそれに続く。

1975年代の過去の例に学ぶのであれば、当たり前と言えば当たり前であるが、戦闘が続く間は金は物色され、その後の展開で更なる上昇となるのか、下落になるのかが決まる。更なる拡大は「紛争地域や対象が、50年前と同様に拡大する場合」だろう。

一方、まだ市場は信用リスク発生時の方の金需要の方が大きいことを示唆している。

足下、金価格の構成要素のうち、リスク・プレミアムの占める比率が高まっている。金リスク・プレミアムの上昇要因の主なところは、

1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)

2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト

3.ロシアのウクライナ侵攻

4.イスラエルとパレスチナの戦争開始による中東情勢不安並びに、テロ組織の大規模攻撃であるため、各地にテロが拡散するリスク

あたりだろう。これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。

2019年基準で算出した現在のリスク・プレミアムのシェアは55%と、ほぼ上記の期間と同様の状況になっており金利水準以上にその他の要因が金価格の形成に影響を与えていることが確認できる。

現状を理解する手助けとなるため、あえて実質金利・信用リスク・その他、に分離した場合、実質金利部分が45%、信用リスク要因が20%、その他の要因が35%となった(2019年データを元にした分析結果に変更)。

直近1年間の説明力を相関係数で確認すると、最も金価格に対する説明力が高いのがドル指数で▲0.87、次いでFF金利で0.80、リスク・プレミアムが0.69程度、期待インフレ率(▲0.59)、実質金利(▲0.18)と、実質金利は現在の価格形成に大きな影響を与えていない。

ドル指数はFF金利の影響が大きいため、今後の金価格を占う上ではやはりFF金利動向が重用になる。

この5年間のデータを元にした分析では、FF金利±1%の変化で、実質金利は±0.5%変化、金価格は±50ドル変化し、リスク・プレミアムは±150ドル変化する。

年内利上げの可能性は後退しているが、11月にあったとして金の基準価格は▲13ドル、リスク・プレミアムは+38ドルの上昇圧力となり、差し引き+25ドルの上昇となる。

市場予想では2024年は▲0.5%程度のFF金利引下げが見込まれているため、金の基準価格は+25ドル程度の押し上げ要因となり、リスク・プレミアムは、▲75ドルの低下要因となるため、仕上がりで▲50ドルの価格低下となる。

現在の金価格は1,900ドルまで低下しているため、これを基準とすると1,850ドル程度までの下落があると見ている。ただし現在の金価格は有事のプレミアムを含むため、その状況次第ではより大きな下落となろう。

銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。

月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの中心でもみ合っている。足下の米統計の減速を考えると景況悪化の可能性はあり、再び上限を目指す展開になるのではないか。

仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,900ドル程度とすると21.1~25.33ドルが現在取り得る範囲といえる。

本日は、引き続き中東情勢が材料となるが、急速に事態が沈静化する可能性は低く、高値での推移になると見る。

PGMは株価次第の面は否めないが、短期的に楽観的な見方が出ていることから株価が上昇しやすく、同様に価格は高値を維持すると見る。

◆穀物

シカゴ穀物市場は小動きでまちまち。トウモロコシは下落。収穫期のハーベスト・プレッシャーと中東情勢不安を受けたポジション調整で。

大豆は習慣輸出検証高が大幅に増加したことが買い材料となった。

足下、ハーベスト・プレッシャーと、エルニーニョ現象が発生している時の価格下落、ドルが再び修正高となっていることを織り込む形で下落しているが、価格下落による割安感からの買いに支えられている状況。

長期的な話だが、今年地中海を襲ったハリケーン(ストーム・ダニエルと命名)の影響で中東北アフリカ地域に降雨がもたらされたことは、先々の穀物供給に影響を及ぼす、サバクトビバッタの越冬を可能にし、来年以降の供給減少のリスクを高めることが懸念される。

尚、Locust Watchでは中東・北アフリカ地域でのバッタの大量発生は確認されていない。

本日は、米金利低下を受けたドル安進行が価格を下支えるものの、ハーベスト・プレッシャーが上昇余地を限定するため、結局、現状水準でのもみ合いになると考える。

スク回避のドル高が価格を押し下げるモノの、原油価格上昇や戦闘拡大ヘの懸念がインフレ資産価格を押し上げる(戦時相場)と見ており、現状維持の公算。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

◆信用リスク・マクロ経済のリスク

・米国債の格下げリスク(残るMoody'sの格下げリスク)、米国債格下げの動きが連鎖して、金融機関の格下げが加速、信用不安に繋がる場合。

・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。

・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは顕在化している可能性)

新興国の財政破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに(米銀格下げ検討は始まっている)。

・中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。

◆地政学的リスク

・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。

・中東情勢不安が拡大し、先進国でテロが発生(景気の下振れリスク)、産油国でテロが発生して原油価格が高騰(インフレ発生で景気下振れリスク)するリスク。

・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。

中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。

一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。

・西アフリカ・北アフリカで、フランスが旧宗主国である国の反仏感情が高まり、武力衝突が発生して域内治安が悪化する場合。

欧州に難民が流入するほか、地域によっては(リビア、アルジェリア、ナイジェリアなど)原油・ガス供給に影響が及ぶ恐れ。

◆その他のリスク

・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。

また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。

◆本日のMRA's Eye


「中東紛争の影響でゴム急騰 収束後は下落へ」

コロナ禍発生時に天然ゴム価格は、労働者の不足や、医療機関で使用するゴム手袋需要の増加で大きく上昇したが、その後水準を切りさげた。

しかし、中国のリオープンが強く意識された2023年以降、多くのコモディティと同様、シンガポール天然ゴム価格も上昇して2023年1月26日には177.8セント/キログラムを付けた。

その後、中国のリオープンによる需要は2023年第1四半期で終了した、との見方が強まったことで今年8月中旬頃まで水準を切下げてきたが、8月以降、再び水準を切り上げる動きとなった。

中国の自動車販売は過去データを元にすると、住宅販売動向に左右されることが確認されている。これは家を保有することで車庫の確保ができることに起因すると考えられる。

しかし、広く知られているように現在の中国の不動産市況は良いとは言えず、住宅販売は前年比マイナスの状態が続いている。

それにもかかわらず昨年6月以降、中国の自動車販売は前年比で増加ペースを加速させている。これは景気刺激目的で北京市商務局などが2022年6月1日から2022年12月31日まで条件を満たす新エネルギー車の買い換えにあたり、最大で1万元の補助金を支給する政策を実施していたことによる。

また、2023年のゼロコロナ解除後の景気回復を加速させる目的で、今年3月、一度終了した補助金を4月1日から9月末まで延長することを決定、これも自動車販売を押し上げた。

しかし、中国不動産販売最大手の碧桂園(カントリーガーデン)は、既に一部の債務の支払いを履行できず、実質デフォルトしている状態にあるなど、同国の不動産セクターの問題解消には普通に考えて時間が掛かると予想され、自動車販売にも影響が出ると考えるのが妥当だろう。

補助金は既に9月末で終了していることから、今後、自動車販売が減速し、それに伴いタイヤ生産本数も減少して天然ゴム価格に下押し圧力が掛かる可能性が高い。

また、欧米もこれまで行ってきた金融引締めの影響で、今後、サービス業の景況感が悪化する可能性が高く、同様に自動車販売の減速を通じてゴム価格を下押ししよう。

需給ファンダメンタルズの軟化が意識されていたが、10月に入って天然ゴム価格は大幅に上昇した。これは2023年10月7日、ユダヤ教最大の安息日である「ヨム・キプル」明けのイスラエルに対して、ガザ地区を実効支配する武装組織ハマス(パレスチナでは政党の1つ)がイスラエルに対して大規模な攻撃を実施、それに対するイスラエルの反撃が大きく、その影響が周辺の産油国にも影響が出るのではとの懸念が強まって原油価格が高騰したことが影響したものだ。

特にハマスはイスラエルと対立するイランが支援している事もあり、イランが関与しているのではないかとの懸念も原油価格高騰に寄与している。

過去のデータを見ると、1973年10月6日に勃発した第四次中東戦争の際は、OPEC諸国はイスラエル支援国に対して原油販売を停止・制限することを決定、原油価格が高騰する中で同様に天然ゴム価格も高騰している。

今回、アラブ諸国は比較的冷静に対応しており、サウジアラビアも市場安定に向けて尽力する旨、声明を発表している。しかし仮に今回の戦闘が50年前のような「反イスラエル・親イスラエル」の対立となってしまった場合、原油価格が高騰するリスクも無視できない。

ただし、上述の通りゴムの需要を巡る環境は景気減速の中でむしろ悪化の方向出あるため、戦争終結後、価格は下落すると考えるのが妥当だろう。とはいえ、歴史的・宗教的対立が背景にあるため今回の問題の解決が容易でないこともまた事実である。


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