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定まらない米金利シナリオ
  • MRA外国為替レポート

2023年10月16日号

◆先週の市場総括


先週は週末に緊迫化した中東情勢を受けてリスク回避のなか始まった。月曜日は東京市場が休場だったが欧州市場に入ると為替市場では手仕舞いの円買い戻しが活発化。

ドルも質への逃避で堅調。ドル円相場は148円台半ばに小幅下落。ユーロ円相場は156円台半ばに下落した。

FRB当局者からは最近の長期金利上昇を受けて追加利上げの必要性が低下したとの発言が相次いだ。米長期金利は低下。

中東情勢緊迫化で原油価格は上昇したが、イスラエル・ハマスの紛争は双方産油国ではないことから影響を見極める動きとなり上昇一服。原油価格の反落も長期金利低下を促した。

追加利上げ観測が後退したことで株価は大きく反発。前週に30,500円近辺まで大幅安となっていた日経平均は買い戻され32,500円近辺へ急反発。

注目の米国消費者物価指数(CPI、9月)はやや強めだったが概ね予想通り。ただ低下ペースが鈍いとの見方から米長期金利は上昇。

週末のドル円相場は149円台半ば、ユーロドル相場は1.05ちょうど近辺、ユーロ円相場は157円台前半で引けた。日経平均は32,300円台。

月曜日の東京市場は祝日で休場。週末にパレスチナとイスラエルの紛争が激化。市場ではリスク回避が強まるなかアジア時間の取引が開始。為替市場では円買い戻しがやや優勢。

ドル円相場はアジア時間に前週末から円高に振れた149円ちょうど近辺で始まり、米国時間朝方まで149円10銭~20銭で小動きもみ合い。ユーロドル相場は1.0560で始まりもみ合いののち、欧州時間には1.0520~40でもみ合い。

ユーロ円相場は157円30銭で始まり70銭に上昇したが夕刻にかけて反落し156円90銭~157円20銭で上下した。

米国市場に入るとFRB当局者から追加利上げに慎重な発言が相次ぎ、リスク回避のなか円買い戻しがさらに進んだ。ドル円相場は148円50銭に下落し50銭~80銭で上下したあと引けは50銭近辺。

ユーロ円相場は156円50銭に下落したあと戻して156円80銭~157円ちょうどで上下。ユーロドル相場は1.0570へややユーロ高ドル安に振れた。

米債市場は休場で米長期金利に動きなし。

米国株は中東情勢への不安から朝方は売り先行も、金融引き締め長期化への過度な警戒感が後退したことで上昇。NYダウは前週末比+197ドル高の33,604ドル。ナスダックは+52ドル高の13,484ドル。

原油価格WTI先物は86.38ドルに上昇。

FRBのジェファーソン副議長は、長期金利上昇による引き締め効果を認識、今後の方向性を検討、と述べた。タカ派として知られるダラス連銀ローガン総裁は、長期金利上昇が、経済への強い期待なら一段の措置が必要だが、期間プレミアム上昇によるもので高止まりするなら利上げの必要性は低下、と述べた。

火曜日の東京市場では日経平均が大幅反発。今年最大の上昇幅となった。米国の金融引き締め長期化観測が和らいだことで直近に下げていた割安株に買い戻しが入った。

今回の中東リスクは産油国ではないことから過度な不安視が緩和した。引けは前週末比+751円高の31,746円。

ドル円相場は148円50銭で始まり朝方20銭に下落したもののドル買い優勢。夕刻から欧州市場にかけて149円ちょうど近辺まで上昇した。ユーロ円相場は156円90銭から157円10銭にやや強含んだのち、欧州市場で大きく上昇して158円手前。

ユーロドル相場は1.0570で始まり小動き。夕刻は1.0560近辺も、欧州市場で1.0610へ上昇。

米国市場ではいずれも方向感なく上下動。ドル円相場は148円80銭~149円ちょうど近辺で上下したあと148円60銭~70銭で引け。

ユーロドル相場は1.0580~1.0620で上下し1.06ちょうど近辺で引け。ドルインデックスは105.77に下落。ユーロ円相場は157円60銭~158円ちょうどで上下して引けは157円70銭。

米長期金利は低下。10年債は4.661%へ、2年債は4.971%へ。原油価格WTI先物は反落し85.97ドル。

アトランタ連銀総裁は、これ以上の利上げは必要ないと考えている、と述べた。ミネアポリス連銀総裁は、長期金利上昇はFRBの仕事の一部を担ってくれる可能性がある、と述べた。

米国株は上昇。相次ぐ利上げ打ち止め発言による長期金利低下が支え。一方、中東情勢悪化は心理的な重石となっているものの影響を見極めようという段階に。NYダウは前日比+134ドル高の33,739ドル。ナスダックは+78ドル高の13,562ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が続伸。米長期金利低下を好感。一時32,000円の大台を回復した。ただ戻り売りも強く上値を抑制。引けは前日比+189円高の31,936円。

ドル円相場は148円70銭で始まり朝方40銭台に下落。その後は持ち直して東証引け後から夕刻にかけて148円90銭~149円ちょうど近辺でもみ合い。

ユーロ円相場は157円70銭から50銭に下落したあと反発して夕刻には158円ちょうど近辺まで上昇した。ユーロドル相場は1.06ちょうど近辺でもみ合い横ばい小動き。

欧米市場ではやや円高に振れて高下。ドル円相場は148円60銭~80銭。ユーロ円相場は157円60銭~80銭で上下。ユーロドル相場は1.06を挟んで上下もみ合い。その後、米国市場では全般に円安。中東情勢に対する過度な懸念が後退。円が売り戻された。

ユーロ円相場は158円50銭まで上昇し158円台前半で上下して引けは40銭。ドル円相場は149円20銭台に上昇し引けは10銭近辺。ユーロドル相場は終始1.06を挟んで上下し引けは1.0620。

米長期金利は低下。発表された米国の生産者物価指数(PPI、9月)は総合指数が前年同月比+1.6%から+2.2%に上昇したものの前月比が+0.7%から+0.5%に上昇鈍化。

コア指数は前年同月比が+2.5%から+2.7%に上昇。ただガソリン、エネルギーの押し上げ要因が大きいとされ政策判断に影響を与えないとの見方が強まった。

原油価格WTI先物は83.49ドルに下落。米10年債利回りは4.558%へ、2年債は4.986%へ低下した。

公表された9月に開催されたFOMCの議事録では、大多数が今後の会合でもう1回の利上げが適切とみている、としたが、数人が利上げしないことが正当化される、と発言していた。大半のメンバーは景気の先行きは極めて不透明とした。

米国株は長期金利の低下を受けて底固く推移。金利敏感のハイテク株がしっかり。NYダウは前日比+65ドル高の33,804ドル、ナスダックは+96ドル高の13,659ドルで引け。

FRBボウマン理事はインフレ抑制のためさらなる引き締めが必要となる可能性がある、と述べた。一方、ウォラー理事は、金融環境の引き締まりが当局による引き締めの役割を肩代わりしている、として利上げ見送りを示唆した。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅に3営業日続伸。前日の米国市場で米長期金利低下を好感しハイテク株が堅調。日本株も大型株、値がさ半導体株が上昇。海外短期筋が先物中心に買い。売り方の買い戻しが続いた。引けは前日比+558円高の32,494円。

ドル円相場は149円10銭で始まり149円ちょうど~20銭で小動きもみ合い横ばい。米国のCPI発表待ち。ユーロ円相場は158円40銭で始まり夕刻は50銭~60銭にややしっかりも、CPI発表前には40銭近辺で東京朝方と変わらず。

ユーロドル相場は1.0620で始まり夕刻は40近辺も米国市場朝方には1.0620に戻した。

注目の米国消費者物価指数(CPI、9月)は、前月比が+0.6%から+0.4%に上昇鈍化したが予想+0.3%よりやや強め。前年同月比も前月+3.7%で変わらず予想+3.6%よりやや強めだった。

一方、コア指数は前月比は予想通り前月と変わらず+0.3%、前年同月比は+4.3%から予想通り+4.1%に上昇が鈍化した。

やや強い数字だったこと、インフレ鈍化が捗々しくないとの見方から、金利高止まりが長期化するとの見方が強まり長期金利は上昇。10年債は4.7%をつけ引けは4.699%。2年債は5%に乗せ5.072%。ドルを押し上げた。

ドル円相場は149円80銭に上昇してもみ合い引け。ユーロドル相場は1.0530に下落。ユーロ円相場はユーロ安の勢いに押されて157円70銭に下落したあと158円を回復する場面もあったが引けは157円70銭。

米国株は金利上昇を受けて下落。NYダウは▲173ドル安の33,631ドル。ナスダックは▲85ドル安の13,574ドル。原油価格WTI先物は82.91ドルに下落した。週次の失業保険新規申請件数は前週207千件とほぼ変わらず209千件。

金曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反落。米長期金利の上昇を嫌気。一時▲240円安。前日までに1,500円ほど上昇していたことから利益確定売りも出やすかった。引けは▲178円安の32,315円。

為替市場は総じて小動き。米国市場ではリスク回避からクロス円相場、ユーロ円相場が円高に振れた。

東京市場のドル円相場は149円80円で始まりもみ合い横ばい夕刻にかけて60銭~80銭。欧米市場では40銭~70銭で横ばい上下し引けは149円60銭。

ユーロドル相場は1.0530で始まり小動き。夕刻にかけて30銭~60銭。欧米市場ではやや軟化して1.05ちょうど近辺に下落して引けは1.0510。

ユーロ円相場は157円70銭で始まり70銭~158円ちょうどで上下。欧州市場から米国市場にかけては上下しながら下落して157円10銭。米国市場では157円20銭で引けた。

米国株はまちまち。決算を受け金融株は堅調。一方、イスラエルとハマスの軍事衝突が激化し地政学的リスクが意識され、投資家のリスク回避が強まった。

落ち着いていた原油価格が反発したことも重石。NYダウは前日比+39ドル高の33,670ドル。ナスダックは▲166ドル安の13,407ドル。VIX指数(通称「恐怖指数」)は上昇し19.32。

原油価格WTI先物は前日の82ドル台から87.72ドルに上昇。

質への逃避で米国債に資金が流入し、金利が低下。10年債利回りは4.613%。2年債は5.058%。

発表された輸入物価(9月)は前月比+0.1%と前月+0.5%から上昇鈍化、前年同月比は▲1.7%と前月▲3.0%から下落率は縮小したがなおマイナス。

ミシガン大学消費者信頼感(10月速報)は前月68.1から63.0に予想67を下回り想定以上に悪化。期待インフレ率は1年が前月3.2%から3.8%へ、5年が2.8%から3.0%へ上昇した。

◆今週の3つの注目ポイント


1.ベージュブック(米地区連銀経済報告)、パウエル議長発言

水曜日にベージュブックが公表される。10月31日・11月1日の2日間にわたり開催されるFOMCでの議論の景気物価情勢の判断根拠となる報告。

すでにこの会合での利上げは見送られるとの見方が多いが、なお年内あと1回の利上げの可能性は残る。同報告書でインフレ鈍化の進展がどの程度確認され利上げの必要性が低下したとの根拠となるか。

またこのところ製造業の景況感指数が持ち直し、雇用関連指標に強い数字も散見されるが、総合的にみて景気減速の度合い、あるいは底固さが、どう判断されているか。

木曜日にはパウエル議長の発言機会がある。このところタカ派からも利上げの必要性が低下したとの発言が散見されるが、これまでどちらかというと利上げに慎重なスタンスを示してきた議長の見解がさらにハト派に傾いているかどうか。

2.米国の経済指標

今週の経済指標では主に景気の底固さ度合いが判断されよう。

月曜日 NY連銀製造業景気指数(10月、予想▲5.0、前月1.9)

火曜日 小売売上高(9月、前月比、予想+0.3%、前月+0.6%) 鉱工業生産(同、予想▲0.1%、前月+0.4%) 設備稼働率(同、予想79.5%、前月79.7%) NAHB住宅市場指数(10月、予想45、前月45)

水曜日 住宅着工件数(9月、季節調整済み年率換算、予想1,410千戸、前月1,283千戸) 着工許可件数(同、予想1,450千戸、前月1,543千戸)

木曜日 米週間新規失業保険申請件数 フィラデルフィア連銀景気指数(10月、予想▲6.4、前月▲13.5) 中古住宅販売(9月、季節調整済み年率換算、予想390万戸、前月404万戸) 景気先行指数(9月、前月比、予想▲0.4%、前月▲0.4%)

3.日本の経済指標

木曜日に通関統計(9月)が発表される。前月の貿易収支は▲9,300億円の赤字。輸出は前年同月比▲0.8%の減少、輸入は同▲17.8%の大幅減少となった。

足元で原油価格が上昇しているがまだ反映しきれていないとみられるが、どの程度収支悪化の気配がみえるか。あるいはさほど悪化していないか。海外景気は減速基調にあるが輸出はダメージを受けていないか。

また金曜日には9月の消費者物価指数が発表される。総合指数は前年同月比で前月の+3.2%から+3.0%に上昇率が鈍化するとみられる。生鮮食品とエネルギーを除くベースでは+4.3%から+4.2%へわずかに低下する予想。低下しているものの2%を超えた状況は続いており日銀の政策変更への議論が進展するか。

ほか、水曜日には中国で重要経済指標(9月の小売売上高、鉱工業生産、7-9月期GDP)が発表される。景気懸念を緩和するか、深める数字となるか。

◆今週のMRA's Eye


定まらない米金利シナリオ

このところFRB当局者から追加利上げは必要ないとの発言が相次いでいる。9月のFOMCでは、メンバーの数人が利上げしないことが正当化されるとの見方を示したが、大半のメンバーは今後の会合でもう1回の利上げが適切とみていた。

また、同時に示された政策金利予想では、来年の利下げ幅が1.00%から0.50%に縮小された。

市場が追加利上げや高金利長期化を織り込んだことで米長期金利が急激に上昇。様々な市場でリスクポジションの圧縮、リスク資産価格の下落が生じた。

こうした動きにより金融環境が引き締まったことで、FRBの仕事を市場が代わりにしてくれている、長期金利の上昇は利上げ1回分に相当する、との見方がFRB内でも強まった。タカ派からも追加利上げに慎重な発言がみられるに至った。

市場ではこうした発言を受けて今週に入り追加利上げ観測が後退。長期金利は上昇一服し低下。さらに中東情勢の緊迫化によるリスク回避、質への逃避で、米国債市場には資金が流入して米長期金利を押し下げた。

米10年債利回りはなお4.6%台にとどまるが、さらに低下するようなら、逆に追加利上げの必要性を主張するメンバーが増える可能性もあるのでやっかいだ。

追加利上げの可能性と長期金利動向は相互に影響し合い、「いたちごっこ」、あるいは「卵とにわとり」のような関係になりつつある。落ち着きどころが当面みえず米長期金利は不安定に上下しそうだ。

ベースとなる米景気見通しも、FRBの大半メンバーが極めて不透明としており、当局の判断は今後もブレそうだ。インフレは鈍化傾向にあるが足元の低下ペースは緩慢。

週末に公表されたミシガン大学の調査でも期待インフレ率が前月から上昇した。インフレ抑止を最大の命題としている当局者が金融引き締めの手綱を緩める材料に乏しい。雇用統計が想定より強めだったことも、タカ派の見方を支えそうだ。

ただ米国景気の減速基調は続き、また景気後退に陥る可能性はなお高いとみられる。足元で製造業の景況感悪化には歯止めがかかり循環的に回復するかにもみえる。

ただ足元で金融引き締めは続き、景気回復、加速する要因はみあたらない。サービス業の景況感は緩やかに悪化基調。雇用情勢は底固いとされるが、緩やかな緩和基調にある。貯蓄の取り崩しは続き、ローンの返済が始まるなど、個人消費への減速圧力が強まると想定される。ここからは景気減速・悪化が明確になるタイミングやそのペースが焦点となる。

米金利シナリオは定まらないが、方向としては利上げ打ち止めから、金利先安観がどの程度強まるか、という不安定さになりそうだ。

ドル円相場が米金利との相関がたかいままだとすれば、ドル安円高のペース、下落幅がどの程度か、という不安定さと置き換えられる。

リスクシナリオとしては、やはり追加利上げが実施され、さらに景気の強さ、インフレのしつこさから利上げが強化されるケースもありうる。ただその可能性は低いだろう。

仮にそのリスクシナリオの場合は、ドル円相場は150円台に上昇。ただ引き締め強化によるその後の急激な景気悪化からドル円相場も急落という展開が想定される。


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