イスラエル地上軍侵攻懸念で原油・金暴騰
- MRA商品市場レポート
2023年10月16日 第2565号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「イスラエル地上軍侵攻懸念で原油・金暴騰」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は、原油や貴金属など、中東情勢不安で供給ヘの懸念が強まるもの、安全資産としての需要があるものが物色され、原油価格の上昇が期待インフレ率を押し上げたことから、その他の商品にも上昇圧力が掛かった。
しかし同時に安全資産需要でドル高が進行したため、非鉄金属など、中国が消費主体となっている商品は、中国の貿易統計が底入れはしたものの冴えない内容だったことから、ドル高で水準を切下げる動きとなった。
やや乱暴な整理では有るが、資源価格が上昇しやすい「戦時相場」になったともいえ、今後、イスラエルのガザ地区に対する攻撃が世界中にどのような影響を及ぼすかが重要になってくる。
今のところある意味ハマスの狙い通り、世界は親イスラエル・反イスラエルに分断されつつある。
日本やカナダなどの中東情勢に対して比較的中立な国(言葉を換えると、積極的にどちらも支持する立場にない国)ももちろん存在するが、イスラエルの最大支援国である米国や英国と、日本は対ロシア、対中国で連携していることもあり、同調を求められる可能性も否定はできない。
その可能性はかなり低いとは思うが、そうなるとハマスとイスラエルの対立ではなく、アラブ諸国+イランと西側諸国の対立の構図となってしまい、第3次オイルショックの発生も否定できなくなってしまう。
事態は悪化しているが、更なる悲劇の拡大にならないよう、まさに政治家の能力の真価が問われていると言えるのではないか。
【本日の見通し】
週明け月曜日も、中東情勢不安を受けた原油動向が商品市場動向を左右する展開が予想される。
重要な統計はニューヨーク連銀製造業指数ぐらいであるが、現状を考えると景気動向、金融政策動向以上に、中東情勢を睨んだ各国首脳の発言に注目が集まることになる。
予定されている政治家の会合では、ユーロ圏財務相会合とロシア ラブロフ外相の訪中あたりだろうか。
また、今回、EUのパレスチナに対する対応は割れており、ハマスがイスラエルに対して攻撃を行ったことを受けて、欧州委員の1人、ハンガリーのオリベール・ヴァールヘイ委員(近隣国政策・拡大交渉担当)がパレスチナヘの支援を打ち切る方針を示した。
同氏は9日、「EUはパレスチナ向けの支援6億9,100万ユーロを全面的に見直す」と発言、「全ての支払いは直ちに停止される」とも発言した。
これの「火消し」でフォンデアライエン委員長はこれを撤回、これとは別の人道支援額を当初予定の3倍の7,500万ユーロに増額すると発表している。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
昨日の原油価格は暴騰した。イスラエル軍がガザ地区北部の住民に24時間以内の南部への批難を訴えたことで週末の間に地上戦が開始される、との見方が強まり、その他の産油国に対立が波及した場合のリスクを回避するため、ショート筋の買い戻しが強まったことが背景。
恐らく短期的にはこの状態で積極的に売りを入れたいとする市場参加者は限定されるため、価格は大きく値を飛ばしやすい。
今のところ、ハマスの後ろ盾だったイランが直接関与している可能性は低く、米国もそのような情報を得ていない。また、サウジアラビアも原油市場の安定のために10月10日に市場安定化に向けた努力を支持する、と発言していることを勘案すると、今回の件でイランが制裁され、ホルムズ海峡が脅かされるリスクはそれほど高くないと見ている。
しかし、今の世界はハマスの狙い通り、親イスラエル・嫌イスラエルに分かれる動きが始まっており、ロンドンなどでも大規模なデモが発生している
今後のイスラエルの対応次第だが、ガザ地区の民間人への大規模な虐殺が起きるような場合、「親イスラエル国に対しては原油を供給しない」といった「第3次オイルショック」のような事態も起こりかねない。
現時点でそのシナリオは、産油国にとってもメリットが無いため可能性はかなり低いリスクと考えられるが、無辜の生命がリスクに晒されている状況か、その可能性がゼロとは言えない状況になっている。
週末に発表された9月の中国の原油輸入は前年比+13.7%の4,574万トン(前月+30.9%の5,280万トン)と伸びが前月から鈍化した。
一方、石油製品は輸入が前年比+84.6%の418万6,000トン(前月+86.4%の352万6,000トン)とロックダウンの影響を受けた昨年比で大幅な伸びを維持した。
しかし輸出は▲3.6%の544万トン(前月+23.2%の589万トン)と伸びが減速した。世界的な石油製品(中間留分)不足を受けた輸出の増加があったとみられるが、これがピークアウトした可能性がある。
場合によると国内の需要回復の可能性もあるが、顕在需要は前年比+22.8%の6,233万トン(+21.2%の6,232万トン)で変わっていないため、その可能性は低いか。
10月時点の価格見通し変更で、来年前半に掛けて景気が減速・底入れし、その後上昇する」としているが、原油価格に影響が大きい米国の景気見通しについて、FRBは2024年後半に底入れしてその後緩やかに回復するとしており、市場コンセンサスもQ324の景気底入れを想定し始めている。
足下で原油価格動向の材料とされやすい中国の景気も、循環的な回復や財政出動による景気底入れが恐らく来年の春頃にみられると予想されるため、年後半の米景気減速による価格下落を抑制すると考える。
その結果、原油価格はFOMC前後での乱高下はありつつも、Q423~Q124に掛けて高止まりするが、Q324まで水準を切下げた後、Q424から上昇基調に転じるシナリオを10月時点の原油価格見通しのメインシナリオとした。
DOEの直近の需給見通しを元にした回帰分析の結果は、2023年のBrent価格は83.2ドル(前月83.4ドル)、2024年が86.4ドル(82.2ドル)と、OPECの生産下振れが考慮された。
2024年もサウジとロシアの追加減産が継続した場合、価格上昇にもかかわらず需要が減少しなければ、2023年は83.4ドル、2024年は91.0ドルとなる。内訳的には、先月までの見通しとは異なり、H124の平均価格は91.2ドル、H224が90.9ドルが見込まれる。なお、DOEの予想は2024が94.91ドルであり、さらに強気だ。
このシナリオだと、2024年に再びインフレリスクに晒されることが予想されるが、年初の高金利維持で、年後半に掛けてそのリスクは低下することになるのではないか。
なお、11月にも翌年度見通し作成のために再度変更を行うため、直近のデータ(特に景気の先行き見通し)を反映して、シナリオは変更される。
現在想定しているメインシナリオは、引締め加速による景気減速が年明けに発生して価格が下落、Q324頃に底入れして上昇する展開。
ロシア情勢を踏まえた原油供給状況は大きく変化していないため、中東情勢の影響を考慮した原油価格の「想定されるレンジ」は以下の通り。
現在は 3.の状態。この状況でもOPECからは価格維持に向けた取組みを継続する、といった発言が出ている。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. 中東問題がイランにまで波及し、OPEC諸国も対立国ヘの供給を絞る(オイル・ショック状態)
Brent 120-150ドル
2.中東問題がイランにまで波及するが、OPEC諸国が増産する
Brent 90-120ドル
3.中東問題がイランに波及せず、OPEC諸国が増産しない
Brent 75-95ドル
4.中東問題がイランに波及せず、OPEC諸国が増産する
Brent 70-90ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
Q423 需要の伸び横這い・中東情勢不安による供給制限懸念(→高値維持)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓↓)
Q124 欧米の景気後退局面入りによる需要鈍化・生産調整継続(↓高値維持も下落開始)
Q224~Q324 実質金利プラス維持による景気後退(サービス業)製造業の循環的な回復が下支え(↓↓)OPECプラス減産維持の場合(↓)
Q324以降 需要回復・中国の正常化進捗(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
10月10日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが▲48,383枚、ショートが▲20,797枚と、どちらかの方向にBetしているというよりも、ポジション解消の動きに見える。
Brentはロングが▲52,563枚、ショートが+12,598枚と、こちらも弱気ポジションに。ただ来週のCFTC調査で、中東情勢不安でこのショートが一気に解消されている可能性は高い。
週明け月曜日は、週末の大幅上昇の反動で、まず売りから入る可能性が高い。ただ今後、月曜日までにイスラエルの軍事進行が本格化した場合「その他の地域でのテロ行為」のリスクが高まるため、上昇の可能性はある(テロの発生場所に拠っては下落のリスクも)。
当面、高値圏で非常にボラタイルな推移にならざるを得ない。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は再度上昇。イスラエルのガザ地区への地上部隊侵攻の可能性を受けて、地政学的リスクの高まりによる供給不安が材料となった。また、フィンランドのパイプライン事故(外部の犯行による可能性はあり)、豪生産者のストライキ再開の可能性が高まっていることも価格を押し上げている。
LNG輸出に影響が出なければ欧州ガス価格は低迷するとみていたが、イスラエル沖での生産停止に鍬手、フィンランドのパイプライン破損と合わせ、地政学的リスクの発生がガス供給に影響を与える形となっている。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続
2.LNGターミナル・ガス田・船舶の不慮の停止
3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)
4.景気減速(価格下落要因)
5.季節要因・気象状況
1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。
弊社のシミュレーションでは、今冬の欧州のガス調達は、ロシアが仮にガス輸出を完全に停止したとしても凌げる見通し。
ただし、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(数量確保の問題と、価格上昇の問題両面)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。
弊社の試算では欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されておらず、LNGの形で欧州諸国も購入を続けている。ガスがLNGに置き換わっただけとも言える。
しかし、脱ロシアが完了した場合、ロシアがこれまで供給してきた西側諸国向けのガスが「浮く」ことになる。2022年、欧州向けにロシアが削減したパイプライン輸出量は708億立方メートルで、総輸出量9,685億立方メートルの7.3%に及ぶ。
これを他地域の需要増加で補うことは恐らく不可能であり、FID済みのプロジェクトも見直しせざるを得なくなる可能性がある。
2.は、Chevronがイスラエル沖での生産をイスラエル・ハマスの戦闘による情勢不安を理由に停止している。
今回の戦闘が長期化するのか否か、現在では不透明であり、戦闘行為の中でパイプラインが破壊される可能性も否定できない(恐らく米国の空母打撃群がイスラエル沖に展開しているため、そのリスクは低いと考えられるが)
また、フィンランドとエストニアを結ぶパイプラインが、何らかの工作で破壊されたと報じられていることも、供給懸念を高めている(当然、ロシアは関与を否定)。
この他、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。米海洋大気庁の見通しでは、大西洋でのハリケーンの発生頻度は例年を上回る見通し。
通常、エルニーニョ現象が発生したときは大西洋の海水温が低下してハリケーンの発生・勢力が弱まるが今年は例外的な見通しとなっており、北米→欧州のLNG輸送や輸出ファシリティへの影響は無視できないリスクに。
また、異常気象の影響による干ばつでパナマ運河の水位が低下しており、LNG輸送に障害が発生、スポット価格が上昇する可能性が出てきた。
3.4.は顕在化している。しかし3.に関しては、ロシアもこれ以上ガス供給を削減することは難しい。
ロシア・ウクライナ戦争は越冬して来年に持ち越される可能性が高まる中、この冬にロシアがなりふり構わない対応をしてくる可能性は否定できない。
それでもガス在庫の水準は高く、仮にロシアが輸出を完全に止めても今冬の調達には問題がなさそうな状況(ただしこの場合、供給が足りていても価格は上昇する)
5.は2.とも関係するが、今年の冬はエルニーニョ現象が見込まれ、通常であれば暖冬となりやすいため、価格上昇方向のバイアスは強まらないと予想される。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも低下した。欧州のガス積み上がりで目先の調達需要が後退しているためと考えられる。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は下落。全米の気温上昇見通しが暖房需要の減少観測を強めたため。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物市場は上昇。欧州ガス価格の上昇と、豪LNG生産者のストライキの懸念が価格を押し上げた。
現在のJLCの水準は11.95ドルであり、現在のスポット価格はこの水準を上回っている。
その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。
今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
また、サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。
9月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比±0.0%の1,015万トン(前月+22.7%の1,086万トン)と急減速した。
まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産の増加や、ピークシーズン終了に伴う発電向けの需要減少が影響した可能性がある。
8月のパイプラインベースの輸入は前年比+10.4%の456万トン(前月+12.4%の445万トン)と過去5年の最高水準(413万トン)を大きく上回っている。
8月のLNG輸入は前年比+33.4%の629万8,000トン(前月+23.7%の585万9,000トン)と前月から伸びが加速し、同じ時期の過去5年の最高水準(665万2,000トン)に迫った。
8月の中国の天然ガス生産は+6.5%の1,330万9,000トン(前月+8.2%の1,360万3,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
10月8日時点の日本の大手発電業者のLNG在庫は189万トン(過去5年平均259万8,600トン、大手発電業者在庫の過去5年平均は201万トン)と、先週から大幅に増加したが、いずれの集計でも過去5年平均を下回った状態が続いている。
速報性がない、大手電力以外のLNG在庫を含めた過去5年の水準と比較すると、過去5年の最低水準(235万2,800トン)も下回っている。
夏が例年よりも暑い猛暑で電力需要が増加したことに加え、原子力発電所の再稼働、大手発電業者のLNG調達は、自社の顧客を対象にした数量しか行われない。これは新電力の顧客の需要データが開示されないため、他社分まで調達することができないため。
仮に冬場が寒くなった場合、再びガスや石炭不足となり価格が上昇する可能性はある。通常過不足はスポット(JKMベース)で行い、電力のスポット価格はJKMの影響を受けるため、再び冬場の電力価格が上昇するリスクは無視できない。
また、今年はエルニーニョ現象の影響で太平洋側は台風の発生頻度・勢力が強まる可能性がある。この場合、輸送に影響が出ることも考えられるため、エルニーニョ現象が発生しているものの在庫水準の低さを考えると、冬場の価格上昇リスクも無視できない。
JEPXベースで調達して大手電力会社の価格で電気を販売している業者、JEPXベースで電気を調達している消費者はこのJKMのリスクを抱えることになる。
週明け月曜日は、中東情勢不安を受けたガス供給の減少リスクが顕在化したこと、豪LNGプラント労働者が再びストライキを通告したこと、フィンランドのパイプライン破損による供給減少で供給懸念が強まっていることから高値維持の公算。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は上昇。イスラエルのガザ地区への軍事侵攻の可能性が強まる中でガス価格が高騰しており、在庫の融通が効きやすい石炭が物色される流れとなった。引き続き、ガス市場動向が石炭価格動向を左右している。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は150ドル、±1標準偏差で80~220ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度まで再び上昇しているため、150~220ドルが説明可能なレンジであり、現在のスポット価格はやや安く、足下の需給が緩和していることを示唆。
2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できず、実際、冬場の期先の価格は高い。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる見通しであり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
9月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+50.5%の4,433万3,000トン(前月+66.9%の3,926万トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準を維持した。
ガスも同様であるが、中国の記録的な気温上昇の影響で、発電燃料需要が引き続き増加しているためと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。
国別では7月は豪州からの輸入が増加している。これにより、豪州の輸入シェアは29.5%(前月23.1%)と上昇した。しかし直近12ヵ月の累計シェアはロシアが1位で0.6%、ついでインドネシア(36.2%)、豪州(13.0%)となった。
8月の中国の石炭生産は、前年比+3.0%の3億7,902万トン、1,222万6,000トン/日(前月+0.9%の3億7,128万トン、1,197万7,000トン/日)と伸びが加速した。
8月の中国の電力消費量は前年比+4.0%の8,861億kwh(前月+6.8%の8,888億kwh)と伸びが減速した。景気回復の遅れ(減速)を示唆している。
今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、夏場が終了に向かっていること、景気回復の足取りが重いことから徐々に減速すると予想される。
週明け月曜日も、中東情勢不安、豪州のストライキ再開懸念、フィンランドのパイプライン破損を背景に高値維持の公算。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は下落した。中国の貿易統計が循環的な底入れを示唆する内容だったものの、ゼロコロナ時よりも水準が低いことに加え、中東情勢不安を受けた有事のドル買いがドル高を誘発したことが価格を下押しした。
今のところ中国から目立った買い材料は出てきておらず、政策期待で景気が下支えされている状況であり、需給ファンダメンタルズの価格への影響は中立。その一方で、米金融政策動向を受けた為替動向が価格を左右している状況。
中東情勢の緊迫化が有事のドル買いを誘う一方、米利上げ終了観測を受けた金利低下圧力がドル安バイアスを強めるため、ドル指数は日替わりで非鉄金属価格の強弱材料となり、方向性が出難い。
一方、需給ファンダメンタルズ面では、2024年に中国の経済対策の実施や循環的な回復、脱炭素の動き継続を材料に、再び上昇に転じるとみている。
とはいえ、最大消費国である中国の景気回復ペースが、構造的に以前想定していたよりも緩やかになると予想されるため、価格の上昇ペースもこれまで想定していたよりも緩慢なものになると考えている。
弊社は2024年見通し作成のために11月にも見通しを修正するが、特に各国のマクロ経済見通し如何では、価格パスは変更される可能性がある(FRBと同様、引き続き追加のデータを精査していく必要があるため)。
中国政府は住宅取得頭金の引下げや、既存住宅ローン借り入れ客の金利引下げも容認するなどの対策を実施しており、市場では一定の評価を得た。
財政上のゆとりがないことから当面、政策金利の調整で凌ごうとする可能性が高いが、問題は余剰在庫の解消であるため、金利操作だけでは状況を好転させるのには不充分である。しかし同時に時間を掛けて不良債権や在庫処理を行う必要もある。
数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。
通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛るが、共産党に支配されている国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないと考えられる。
中国政府が何の対策もしない、ということは考え難いが常識的に考えれば、
・在庫が積み上がっているこのタイミングで経済活動を刺激すれば、さらなる在庫の積増しになってしまう可能性があること
・予算的な問題
を考えるとある程度在庫の調整が進み、かつ、予算措置が終了してからと考えるのが妥当だろう。
現在、不動産の余剰在庫を解消するため、住宅取得の制限を緩和しているが、その実施も地方政府の裁量に委ねられているため、急速に状況が改善するには至っていない。
この危機を乗り切ることができれば、長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドのW人口ボーナス期(中国は近代化仕上げの10年)、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
ただし、この危機を乗り切ることに失敗し、中国政府が想定以上にこれまで積み上がった余剰生産能力の解消に手間取った場合、景気は長期低迷、いわゆる「日本化」が10年単位で起きる可能性が高い。
さらに労働人口がピークアウトし、かつ、米国の制裁によって先端分野の発展が阻害され生産性が低下、将来的にはインフレをもたらしソ連型の国家崩壊、というシナリオも長期的には有り得る話だ。
9月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲5.8%の48万426トン(前月▲5.0%の47万3,330トン)と過去5年平均を下回る状態が続いている。
9月の銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比▲1.3%の224万1,135トン(前月+18.8%の269万7,104トン)と過去5年の最高水準を下回った。
8月の中国の精錬銅生産は+18.4%の108万5,000トン(前月+17.7%の102万3,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。
8月の銅スクラップの輸入は前年比+0.9%の15万6,077トン(前月▲3.9%の14万9,170トン)と過去5年平均を維持している。
精錬銅輸入の減少はまだLME価格の方が上海価格よりも高いことが影響しているとみられるが、電力供給に問題がない中での鉱石輸入の減少は、国内の精錬品需要が減少している可能性があることを示唆している。遅れて発表される中国の9月の精錬銅生産には注目したい。
週明け月曜日は、ドル指数が米CPIを受けて高値で推移することが予想されるため、軟調推移を予想。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落 、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格はほぼ変わらず、上海鉄筋先物は直近限月が下落、中心限月が上昇した。
中国の貿易統計で鉄鋼製品輸出が増加したが、単価が上昇しており国内の需給環境がややタイト化したとの観測が強まったことが価格を押し上げた。
しかし、貿易統計や週次の鉄鋼製品在庫を見ると必ずしも中国の状況が改善しているとは言い難く、影響は限定された。
8月の中国粗鋼生産は前年比+3.0%の8,641万トン(前月+11.5%の9,080万トン)と減速し、過去5年平均に迫っている。
一方、9月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲28.0%の64万470トン(前月▲28.1%の64万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
9月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+61.9%の806万3,100トン(前月+34.6%の828万トン)と過去5年の最高水準を大きく上回る状態が続いている。同時に鉄鋼製品輸出額は前年比▲6.0%の65.6億ドル(前月▲30.6%の67.1億ドル)と金額は前月から減速したが、前年比下落率は上昇した。
輸出額を数量で割ったトン当り単価は814ドル(前月810ドル)と下落に歯止めが掛かった感がある。これは、中国の国内在庫の解消が進んだ可能性があることを示唆している。
中国不動産問題は先送りし、「それがいつどのタイミングで噴出するかは分らないものの、それに目をつぶれば」最悪期は脱し、循環的な回復局面に入ったと言える。
しかし、週次の鉄鋼製品在庫を見ると過去5年平均に迫っており、在庫の積み上がり傾向が確認できる。このことは、まだ中国の在庫調整には時間が掛かる可能性があることを示唆している。引き続き、輸出単価には注目する必要があるだろう。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲28万トンの1,268万3,000トン(過去5年平均 1,299万9,000トン)と過去5年平均を下回っているが、かなり水準は過去5年平均に近づいており、鉄鋼製品価格の下押し要因となっている。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲330万トンの1億520万トン(過去5年平均 1億3,233万トン)、在庫日数は22.5日(±0.0日、過去5年平均29.5日)。
鉄鉱石は在庫は日数ベースでも、数量ベースでも過去5年平均を下回っており、鉄鉱石の需給はタイトで一定の在庫積み増し需要が存在する。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+2万トンの184万トン(過去5年平均 148万2,000トン)、在庫日数は+0.3日の7.1日(過去5年平均 6.0日)と、原料炭の需給は再び緩和している。
週明け月曜日も、最大の買い手である中国勢の買い意欲はそれほど強くはないものの、需要期ということもあり一定の鉄鋼原料在庫積増しの需要は認められるため、現状維持の公算。
◆貴金属
昨日の金価格は暴騰した。イスラエル軍がパレスチナのガザ地区に、地上部隊を展開する可能性が高まったことで紛争の拡大懸念が意識され、安全資産需要が高まったこと、同時に、リスク回避の米国債買いで実質金利が低下したことが材料となった。
金価格の上昇を受けて銀・PGMとも上昇している。
金価格の上昇率、という観点では週末の上昇は「金価格の日次データが取得可能」だった1975年1月2日以降のデータを元にすると、実は全体で108位の上昇率である。
上昇率上位は圧倒的に、イラン革命後の米・イランの対立が激化し、オイルショックも発生、アフガン軍事侵攻があった「地政学リスク」「インフレ懸念」が高まっている時期に集中している。
この頃も、ニクソン・ショック以降、ドルの価値に疑問符が付いていた時期で有るため、安全資産・安全通貨・インフレヘッジ目的で用いることが可能だった商品は、金ぐらいだったことが影響している。
2000年以降のデータに限定すると、上昇率トップはリーマン・ショック発生時とそれに伴う米金融緩和で2008年~2009年頃の上昇率が高い。そのほかギリシャの金取引規制解除が報じられた2000年2月や、9.11テロ発生時などが挙げられる。
なお、価格上昇「幅」は最も上昇したのがやはりリーマン・ショック発生時で、ついでコロナショック発生時、米シリコンバレー銀行破綻時と続き、今回の上昇はそれに続く。
1975年代の過去の例に学ぶのであれば、当たり前と言えば当たり前であるが、戦闘が続く間は金は物色され、その後の展開で更なる上昇となるのか、下落になるのかが決まる。
一方、まだ市場は信用リスク発生時の方の金需要の方が大きいことを示唆している。
足下、金価格の構成要素のうち、リスク・プレミアムの占める比率が高まっている。金リスク・プレミアムの上昇要因の主なところは、
1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)
2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト
3.ロシアのウクライナ侵攻
4.イスラエルとパレスチナの戦争開始による中東情勢不安並びに、テロ組織の大規模攻撃であるため、各地にテロが拡散するリスク
あたりだろう。これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。
2019年基準で算出した現在のリスク・プレミアムのシェアは55%と、ほぼ上記の期間と同様の状況になっており金利水準以上にその他の要因が金価格の形成に影響を与えていることが確認できる。
現状を理解する手助けとなるため、あえて実質金利・信用リスク・その他、に分離した場合、実質金利部分が45%、信用リスク要因が20%、その他の要因が35%となった(2019年データを元にした分析結果に変更)。
直近1年間の説明力を相関係数で確認すると、最も金価格に対する説明力が高いのがドル指数で▲0.89、次いでFF金利で0.84、リスク・プレミアムが0.77程度、期待インフレ率(▲0.49)、実質金利(▲0.18)と、実質金利は現在の価格形成に影響を与えていない。
ドル指数はFF金利の影響が大きいため、今後の金価格を占う上ではやはりFF金利動向が重用になる。
この5年間のデータを元にした分析では、FF金利±1%の変化で、実質金利は±0.5%変化、金価格は±50ドル変化し、リスク・プレミアムは±150ドル変化する。
年内利上げは、年内、あったとしてもあと1回と見られているため、金の基準価格は▲13ドル、リスク・プレミアムは+38ドルの上昇圧力となり、差し引き+25ドルの上昇となる。
市場予想では2024年は▲0.5%程度のFF金利引下げが見込まれているため、金の基準価格は+25ドル程度の押し上げ要因となり、リスク・プレミアムは、▲75ドルの低下要因となるため、仕上がりで▲50ドルの価格低下となる。
現在の金価格は1,820ドルまで低下しているため、これを基準とすると1,775ドル程度までの下落があると見ている。
しかし、直近3ヵ月にデータ期間を限ると、最も説明力が高いのが実質金利で▲0.84、次いでドル指数で▲0.76、FF金利▲0.55、期待インフレ率▲0.25となり、従来の実質金利が金価格を決定する状態に戻っていることがわかる。
当面、実質金利動向は注視する必要があろう。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの中心でもみ合っている。足下の米統計の減速を考えると景況悪化の可能性はあり、再び上限を目指す展開になるのではないか。
仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,900ドル程度とすると21.1~25.33ドルが現在取り得る範囲といえる。
週明け月曜日は、引き続き中東情勢が材料となるが、急速に事態が沈静化する可能性は低く、高値での推移になるのではないか。
PGMは株価次第の面は否めないが、現在株価は米利上げ打ち止め期待が価格を押し上げ、地政学的リスクが価格を押し下げているため現状維持が予想され、金価格の上昇が価格を押し上げるのではないか。
◆穀物
シカゴ穀物市場はトウモロコシ・大豆が下落、小麦が上昇した。前日の米需給報告の反動と見られる。
足下、ハーベスト・プレッシャーと、エルニーニョ現象が発生している時の価格下落、ドルが再び修正高となっていることを織り込む形で下落しているが、価格下落による割安感からの買いに支えられている状況。
長期的な話だが、今回地中海を襲ったハリケーン(ストーム・ダニエルと命名)の影響で中東北アフリカ地域に降雨がもたらされたことは、先々の穀物供給に影響を及ぼす、サバクトビバッタの越冬を可能にし、来年以降の供給減少のリスクを高めることが懸念される。
尚、Locust Watchでは中東・北アフリカ地域でのバッタの大量発生は確認されていない。
週明け月曜日は、リスク回避のドル高が価格を押し下げるモノの、原油価格上昇や戦闘拡大ヘの懸念がインフレ資産価格を押し上げる(戦時相場)と見ており、現状維持の公算。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国債の格下げリスク(残るMoody'sの格下げリスク)、米国債格下げの動きが連鎖して、金融機関の格下げが加速、信用不安に繋がる場合。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは顕在化している可能性)
新興国の財政破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに(米銀格下げ検討は始まっている)。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
・西アフリカ・北アフリカで、フランスが旧宗主国である国の反仏感情が高まり、武力衝突が発生して域内治安が悪化する場合。
欧州に難民が流入するほか、地域によっては(リビア、アルジェリア、ナイジェリアなど)原油・ガス供給に影響が及ぶ恐れ。
◆本日のMRA's Eye
「2024年は信用リスクそれに伴う地政学リスクを警戒」
今年は長らく続いたラニーニャ現象が終了し、エルニーニョ現象が発生した。エルニーニョ現象もラニーニャ現象と同様、異常気象をもたらすが、過去の例を見るとそれほど大きなイベントリスクは顕在化していない。
異常気象は商品価格に対して様々な影響を及ぼすことは、直感的にも理解できるが、需要や供給動向を通じて商品価格にどのように影響しているかを、2000年以降直近まで(2000年からデータが存在していないものは、データが取得可能な期間から直近まで)の、海洋ニーニョ指数と商品価格のデータを用いて相関分析してみた結果、ほとんどの商品が、海洋ニーニョ指数と逆相関の関係にあることがわかった。
つまり、海洋ニーニョ指数が上昇する(エルニーニョ現象が発生する)タイミングでは天候要因は商品価格にマイナスに、逆に低下するときには商品価格にプラスに作用する、ということになる。
今のところ来年の1~2月頃までエルニーニョ現象が継続する見込みであることから、天候要因はリスク資産価格に下向きに作用することが予想される。
とはいえ、これは過去20年程度の傾向値であり、そのときそのときで市場の反応は当然同じではない。
エルニーニョ現象発生時は、大西洋の水温は低下していることが多いため、一般に台風の勢力が弱まり、発生も減るケースが多い(過去、米国で大きな被害をもたらしたハリケーンはラニーニャ現象発生時が多い)。
しかし今年に関しては発生個数も例年を上回る見通しであり、米国のLNG輸出ファシリティに被害が出て供給に問題が生じるリスクも想定される。
逆に太平洋側はエルニーニョ現象発生時は台風の勢力も強く、発生数も増加する傾向が強く、今年は概ねそのような結果になっている。この場合、悪天候が日本沿岸部のLNG・原油輸送に影響(陸揚げができないなど)が出る恐れも想定される。
異常気象発生時は多くの場合、地政学的リスクを伴うリスクに転じることが多いため、注意が必要だ。
株式市場のリスクを測る上で参考にされているVIX指数も、リスクを占う上では参考になるが、過去の例を見ると、ボラティリティが低下している局面の「後に発生するリスク」は信用リスク系のショックが顕在化していることが多い。
過去の例を見ると、「ボラティリティが低下している局面の後」は信用リスク系のショックが顕在化していることが多く、地政学的リスクは小麦価格を含む食品価格の上昇の後(あるいは同時に)、景気後退に伴う金融緩和の際に発生しているケースが多い。
そしてボラティリティの上昇は「長期にわたるボラティリティ低下の後に」発生することが多い。
結局、金融引締めによる景気後退や、ラニーニャ現象が発生して穀物価格が上昇し、国民の食料不足に対する不満が高まった時に起きやすいということだろう。現在、イスラエルとパレスチナの対立が激化している。
また、旧宗主国のフランスの軍撤退・それに伴う治安悪化に対する不満を持ち続けてきた北アフリカ西部の国々(マリやニジェール、ガボンなど)がフランスに反旗を翻し、ロシアの傭兵部隊であるワグネルとの連携を強化する動きもみられている。
今回の問題は、ハマスの戦略通り世界的な反イスラエル・嫌イスラエル、の様相を呈し始めており世界中が混乱する恐れが出てきた。
信用リスクの発生の多くは、金融引締めを緩やかに行う中(まだ景気が悪くなっていない)で緩やかに株価が上昇し、その後、「利上げの最後の1押し」がトリガーとなり、「ある程度の時間差を以て」景気が減速、危機が顕在化しているケースが多い。
以上を考慮すると、穀物価格上昇後に発生する地政学的リスクはある意味既に顕在化しているが、今後、金融引締め→景気減速時に発生する信用リスク、並びに信用リスクに誘発される新たな地政学的リスクの顕在化を警戒する必要があるのではないか。
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