米CPIを受けて軟調
- MRA商品市場レポート
2023年10月13日 第2564号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「米CPIを受けて軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は自国通貨建て商品と穀物、畜産セクターが上昇したが、エネルギーや非鉄金属、貴金属セクターは軟調な推移となった。
注目の米CPIが市場予想に反して前月から上昇したことで、米金融引締め観測が強まり債券利回りが上昇、ドル高が進行したことが広くドル建て資産を押し下げ、自国通貨建て商品価格を押し上げた。
ただ、昨日の統計を見てもこれを受けて「追加で利上げ」を行うというよりは、現在の金利水準を長く維持する可能性が高まった、と考える方が妥当である。
恐らく「どこまで政策金利が引き上げられるか」よりも「どれだけ長い間金利をこの水準で維持するか」の方が議論としては重要と言える。今のところFedWatch部0巣では、来年7月頃からの利下げを織り込んでいる。
また、昨日農産品価格が上昇したが、これは米農務省の需給報告で在庫減少見通しが示された影響が大きく、穀物価格の上昇が飼料価格の上昇を受けて畜産品価格も押し上げたようだ。
なお、件の中東情勢はまだ膠着状態にあるが、サウジアラビアやイランなどが連携するなどの政治的な動きが強まっていることから、今後、進展が期待される。続報を待ちたい。
【本日の見通し】
本日も、中東情勢不安を受けた原油動向が商品市場動向を左右する展開が予想されるが、これとは別に、米国の景気底入れと物価上昇ヘの懸念が再度意識されていることから、やや軟調な推移になる商品が目立つと考えられる。
本日の注目材料は以下の通り。インフレが懸念され始めていることから、米国関連統計ではミシガン大学消費者マインド指数、中国の現状を把握する上で重要で、かつ、データ改ざんがし難い貿易統計に特に注目している。
・米オースチン国防長官イスラエル訪問
・フィラデルフィア連銀総裁講演
・EU委員長とEU議会議長イスラエル訪問
・英中銀総裁講演
・ハンガリー外相ロシア訪問
・G20財務相・中央銀行総裁会議記者会見
・10月米ミシガン大学消費者マインド指数 市場予想 67.0(前月 68.1) 現況指数 70.3(71.4)、先行指数 65.7(66.0) 1年期待インフレ 3.2%(3.2%) 5年後5年期待インフレ 2.8%(2.8%)
・9月中国貿易収支 706億ドルの黒字(前月 682億ドルの黒字) 輸出 前年比▲8.0%(▲8.8%) 輸入 ▲6.3%(▲7.3%)
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
昨日の原油価格は下落した。昨年6月の米利上げ開始以降、原油価格動向に最も影響を与えてきた投機筋の動きを左右しやすい、米金融引締め観測が、価格を下押しした。
昨日発表された米CPIはコア指数が市場予想通りだったものの、総合指数が上振れしたことが金利高・ドル高をもたらした。また、サウジアラビアのムハンマド皇太子と、イランのライシ大統領がイスラエル・ハマス問題の解決に向けて協議をしているとの報道も、地域の不安沈静化ヘの期待を高めた。
今のところ米国も、今回の件にイランが直接関与はしていないと整理しているようであり(なお、イランは長年、ハマスとヒズボラは支援している)、これ以上事態が悪化しない方向で整理をしようとしているとみられる。
また、今後どのような展開になるか全く分らないし、イランの真意は測りかねるが、サウジアラビアと国交正常化を進めているイランが、本件の解決に向けてサウジアラビアと協議していると伝えられていることも、中東和平という意味では好意的に捉えるべきだろう。
ただし、イランが従来通り、「イスラエルを地図上から殲滅するために、アラブ・ペルシャは協力するべきだ」という文脈であれば何も良いことはないのだが、今回の交渉相手にフランスが入っていることである程度、状況の好転があるのではないかと、希望的観測も込めて期待している。
また、世界景気の減速はこれからであり、米国のガソリン出荷が急減速(昨日の統計ではやや増加)していることを考えると、やはり価格の方向性は下向きとみている。
10月時点の価格見通し変更で、来年前半に掛けて景気が減速・底入れし、その後上昇する」としているが、原油価格に影響が大きい米国の景気見通しについて、FRBは2024年後半に底入れしてその後緩やかに回復するとしており、市場コンセンサスもQ324の景気底入れを想定し始めている。
足下で原油価格動向の材料とされやすい中国の景気も、循環的な回復や財政出動による景気底入れが恐らく来年の春頃にみられると予想されるため、年後半の米景気減速による価格下落を抑制すると考える。
その結果、原油価格はFOMC前後での乱高下はありつつも、Q423~Q124に掛けて高止まりするが、Q324まで水準を切下げた後、Q424から上昇基調に転じるシナリオを10月時点の原油価格見通しのメインシナリオとした。
DOEの直近の需給見通しを元にした回帰分析の結果は、2023年のBrent価格は83.2ドル(前月83.4ドル)、2024年が86.4ドル(82.2ドル)と、OPECの生産下振れが考慮された。
2024年もサウジとロシアの追加減産が継続した場合、価格上昇にもかかわらず需要が減少しなければ、2023年は83.4ドル、2024年は91.0ドルとなる。内訳的には、先月までの見通しとは異なり、H124の平均価格は91.2ドル、H224が90.9ドルが見込まれる。なお、DOEの予想は2024が94.91ドルであり、さらに強気だ。
このシナリオだと、2024年に再びインフレリスクに晒されることが予想されるが、年初の高金利維持で、年後半に掛けてそのリスクは低下することになるのではないか。
なお、11月にも翌年度見通し作成のために再度変更を行うため、直近のデータ(特に景気の先行き見通し)を反映して、シナリオは変更される。
現在想定しているメインシナリオは、引締め加速による景気減速が年明けに発生して価格が下落、Q324頃に底入れして上昇する展開。
ロシア情勢を踏まえた原油供給状況は大きく変化していないため、中東情勢の影響を考慮した原油価格の「想定されるレンジ」は以下の通り。
現在は 3.の状態。この状況でもOPECからは価格維持に向けた取組みを継続する、といった発言が出ている。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. 中東問題がイランにまで波及し、OPEC諸国も対立国ヘの供給を絞る(オイル・ショック状態)
Brent 120-150ドル
2.中東問題がイランにまで波及するが、OPEC諸国が増産する
Brent 90-120ドル
3.中東問題がイランに波及せず、OPEC諸国が増産しない
Brent 75-95ドル
4.中東問題がイランに波及せず、OPEC諸国が増産する
Brent 70-90ドル
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
Q423 需要の伸び横這い・生産調整継続(→高値維持)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓↓)
Q124 欧米の景気後退局面入りによる需要鈍化・生産調整継続(↓高値維持も下落開始)
Q224~Q324 実質金利プラス維持による景気後退(サービス業)製造業の循環的な回復が下支え(↓↓)OPECプラス減産維持の場合(↓)
Q324以降 需要回復・中国の正常化進捗(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
10月3日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが▲7,844枚、ショートが▲7,349枚と、どちらかの方向にBetしているというよりも、ポジション解消の動きに見える。
Brentはロングが▲22,414枚、ショートが+2,793枚と、こちらも弱気ポジションに。ただ、新規に積んだショート・ポジションは今回の中東紛争を受けて買い戻されたと考えられ、価格の押し上げ要因になったと考えられる。
本日は、中東情勢が大きく進展する可能性が低い中で、これまで価格のドライバーだった投機筋が、昨日の米CPIを受けて売り圧力を強めると考えられることから、軟調推移を予想。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は調整。イスラエル沖の生産停止やフィンランドのパイプライン事故(外部の犯行による可能性はあり)、豪生産者のストライキ再開の可能性が高まっていることが価格を押し上げた。
なお、イスラエル沖で生産されるガスはエジプトに送られ、そこでLNGにして欧州に運ばれているが、Chevronがイスラエル沖の生産を停止したため、価格の上昇要因となる。
LNG輸出に影響が出なければ欧州ガス価格は低迷するとみていたが、フィンランドのパイプライン破損と合わせ、地政学的リスクの発生がガス供給に影響を与える形となっている。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続2.LNGターミナル・ガス田・船舶の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況
1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。
弊社のシミュレーションでは、今冬の欧州のガス調達は、ロシアが仮にガス輸出を完全に停止したとしても凌げる見通し。
ただし、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(数量確保の問題と、価格上昇の問題両面)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。
弊社の試算では欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されておらず、LNGの形で欧州諸国も購入を続けている。ガスがLNGに置き換わっただけとも言える。
しかし、脱ロシアが完了した場合、ロシアがこれまで供給してきた西側諸国向けのガスが「浮く」ことになる。2022年、欧州向けにロシアが削減したパイプライン輸出量は708億立方メートルで、総輸出量9,685億立方メートルの7.3%に及ぶ。
これを他地域の需要増加で補うことは恐らく不可能であり、FID済みのプロジェクトも見直しせざるを得なくなる可能性がある。
2.は、Chevronがイスラエル沖での生産をイスラエル・ハマスの戦闘による情勢不安を理由に停止している。
今回の戦闘が長期化するのか否か、現在では不透明であり、戦闘行為の中でパイプラインが破壊される可能性も否定できない(恐らく米国の空母打撃群がイスラエル沖に展開しているため、そのリスクは低いと考えられるが)
また、フィンランドとエストニアを結ぶパイプラインが、何らかの工作で破壊されたと報じられていることも、供給懸念を高めている。
この他、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。米海洋大気庁の見通しでは、大西洋でのハリケーンの発生頻度は例年を上回る見通し。
通常、エルニーニョ現象が発生したときは大西洋の海水温が低下してハリケーンの発生・勢力が弱まるが今年は例外的な見通しとなっており、北米→欧州のLNG輸送や輸出ファシリティへの影響は無視できないリスクに。
また、異常気象の影響による干ばつでパナマ運河の水位が低下しており、LNG輸送に障害が発生、スポット価格が上昇する可能性が出てきた。
3.4.は顕在化している。しかし3.に関しては、ロシアもこれ以上ガス供給を削減することは難しい。
ロシア・ウクライナ戦争は越冬して来年に持ち越される可能性が高まる中、この冬にロシアがなりふり構わない対応をしてくる可能性は否定できない。
それでもガス在庫の水準は高く、仮にロシアが輸出を完全に止めても今冬の調達には問題がなさそうな状況(ただしこの場合、供給が足りていても価格は上昇する)
5.は2.とも関係するが、今年の冬はエルニーニョ現象が見込まれ、通常であれば暖冬となりやすいため、価格上昇方向のバイアスは強まらないと予想される。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも上昇している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格はほぼ変わらず。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物市場は上昇。欧州ガス価格の上昇と、豪LNG生産者のストライキの懸念が価格を押し上げた。
現在のJLCの水準は11.95ドルであり、現在のスポット価格はこの水準を上回っている。
その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。
今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
また、サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。
8月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+22.7%の1,086万トン(前月+18.5%の1,031万トン)と先月同様、同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。
まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産の減少や、気温上昇による発電向けの需要増加が輸入を高水準に維持している可能性がある。
8月のパイプラインベースの輸入は前年比+10.4%の456万トン(前月+12.4%の445万トン)と過去5年の最高水準(413万トン)を大きく上回っている。
8月のLNG輸入は前年比+33.4%の629万8,000トン(前月+23.7%の585万9,000トン)と前月から伸びが加速し、同じ時期の過去5年の最高水準(665万2,000トン)に迫った。
8月の中国の天然ガス生産は+6.5%の1,330万9,000トン(前月+8.2%の1,360万3,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
10月8日時点の日本の大手発電業者のLNG在庫は189万トン(過去5年平均259万8,600トン、大手発電業者在庫の過去5年平均は201万トン)と、先週から大幅に増加したが、いずれの集計でも過去5年平均を下回った状態が続いている。
速報性がない、大手電力以外のLNG在庫を含めた過去5年の水準と比較すると、過去5年の最低水準(235万2,800トン)も下回っている。
夏が例年よりも暑い猛暑で電力需要が増加したことに加え、原子力発電所の再稼働、大手発電業者のLNG調達は、自社の顧客を対象にした数量しか行われない。これは新電力の顧客の需要データが開示されないため、他社分まで調達することができないため。
仮に冬場が寒くなった場合、再びガスや石炭不足となり価格が上昇する可能性はある。通常過不足はスポット(JKMベース)で行い、電力のスポット価格はJKMの影響を受けるため、再び冬場の電力価格が上昇するリスクは無視できない。
また、今年はエルニーニョ現象の影響で太平洋側は台風の発生頻度・勢力が強まる可能性がある。この場合、輸送に影響が出ることも考えられるため、エルニーニョ現象が発生しているものの在庫水準の低さを考えると、冬場の価格上昇リスクも無視できない。
JEPXベースで調達して大手電力会社の価格で電気を販売している業者、JEPXベースで電気を調達している消費者はこのJKMのリスクを抱えることになる。
本日は、中東情勢不安を受けたガス供給の減少リスクが顕在化したこと、豪LNGプラント労働者が再びストライキを通告したこと、フィンランドのパイプライン破損による供給減少で供給懸念が強まっていることから高値維持の公算。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は期先を中心に大幅に上昇。欧州・豪州・中東のガス供給懸念を材料にガス価格が高騰しており、在庫の融通が効きやすい石炭が物色される流れとなった。引き続き、ガス市場動向が石炭価格動向を左右している。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は150ドル、±1標準偏差で80~220ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が150~160ドル程度まで再び上昇しているため、150~220ドルが説明可能なレンジであり、現在のスポット価格はやや安く、足下の需給が緩和していることを示唆。
2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できず、実際、冬場の期先の価格は高い。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる見通しであり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+50.5%の4,433万3,000トン(前月+66.9%の3,926万トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準を維持した。
ガスも同様であるが、中国の記録的な気温上昇の影響で、発電燃料需要が引き続き増加しているためと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。
国別では7月は豪州からの輸入が増加している。これにより、豪州の輸入シェアは29.5%(前月23.1%)と上昇した。しかし直近12ヵ月の累計シェアはロシアが1位で0.6%、ついでインドネシア(36.2%)、豪州(13.0%)となった。
8月の中国の石炭生産は、前年比+3.0%の3億7,902万トン、1,222万6,000トン/日(前月+0.9%の3億7,128万トン、1,197万7,000トン/日)と伸びが加速した。
8月の中国の電力消費量は前年比+4.0%の8,861億kwh(前月+6.8%の8,888億kwh)と伸びが鈍化した。気温上昇が一巡したことによる、季節的な減少。
今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、夏場が終了に向かっていることから徐々にフェードアウトすると考えられる。
本日も、中東情勢不安、豪州のストライキ再開懸念、フィンランドのパイプライン破損を背景に高値維持の公算。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は軟調な推移となった。米CPIが想定よりも強い内容だったことを受けて、ドル高が進行したことが材料となった。
繰り返し指摘しているが、今のところ中国から目立った買い材料は出てきておらず、政策期待で景気が下支えされている状況であり、需給ファンダメンタルズの価格への影響は中立。その一方で、米金融政策動向を受けた為替動向が価格を左右している状況。
しかし2024年に中国の経済対策の実施や循環的な回復、脱炭素の動き継続を材料に、再び上昇に転じるとみている。
とはいえ、最大消費国である中国の景気回復ペースが、構造的に以前想定していたよりも緩やかになると予想されるため、価格の上昇ペースもこれまで想定していたよりも緩慢なものになると考えている。
弊社は2024年見通し作成のために11月にも見通しを修正するが、特に各国のマクロ経済見通し如何では、価格パスは変更される可能性がある(FRBと同様、引き続き追加のデータを精査していく必要があるため)。
中国政府は住宅取得頭金の引下げや、既存住宅ローン借り入れ客の金利引下げも容認するなどの対策を実施しており、市場では一定の評価を得た。
財政上のゆとりがないことから当面、政策金利の調整で凌ごうとする可能性が高いが、問題は余剰在庫の解消であるため、金利操作だけでは状況を好転させるのには不充分である。しかし同時に時間を掛けて不良債権や在庫処理を行う必要もある。
数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。
通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛るが、共産党に支配されている国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないと考えられる。
中国政府が何の対策もしない、ということは考え難いが常識的に考えれば、
・在庫が積み上がっているこのタイミングで経済活動を刺激すれば、さらなる在庫の積増しになってしまう可能性があること
・予算的な問題
を考えるとある程度在庫の調整が進み、かつ、予算措置が終了してからと考えるのが妥当だろう。
現在、不動産の余剰在庫を解消するため、住宅取得の制限を緩和しているが、その実施も地方政府の裁量に委ねられているため、急速に状況が改善するには至っていない。
この危機を乗り切ることができれば、長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドのW人口ボーナス期(中国は近代化仕上げの10年)、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
ただし、この危機を乗り切ることに失敗し、中国政府が想定以上にこれまで積み上がった余剰生産能力の解消に手間取った場合、景気は長期低迷、いわゆる「日本化」が10年単位で起きる可能性が高い。
さらに労働人口がピークアウトし、かつ、米国の制裁によって先端分野の発展が阻害され生産性が低下、将来的にはインフレをもたらしソ連型の国家崩壊、というシナリオも長期的には有り得る話だ。
本日は、ドル指数が米CPIを受けて高値で推移することが予想されるため、軟調推移を予想。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇 、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は直近限月が下落した。
中国不動産セクターの回復が遅れる中、需要期であるにも関わらず鉄鋼製品需要は鈍く価格は軟調。一方で、在庫水準が低下している鉄鉱石は在庫積増しの動きが見られ、原料炭は様子見、という感じである。
9月の中国鉄鋼業PMIは総合指数が45.8(前月45.2)と回復した。新規受注が44.5(42.9)と政府の不動産セクターテコ入れ策で回復したことが影響したが、輸出受注は48.1(60.1)と急減速、生産も45.0(46.1)と低下しており、決して鉄鋼業を巡る環境が改善したとは言い難い。
10月は鉄鋼需要の最盛期であり、中国政府の対策を受けて需要の上振れ余地はある。中国政府の対策で不動産セクターに動きがみられ、建設業PMIも56.2(53.8)と回復がみられる。
しかし、中堅企業以下の回復状況は製造業PMIをみるに緩慢であり、回復は緩慢な物になると予想される。
ただ、今年の太平洋地域はエルニーニョ現象の影響で台風の発生頻度が高く、勢力も強いとされること、不動産の不良在庫・余剰在庫の解消が進まなければ本格的に回復するのは難しいことから、やはり回復には時間が掛かるだろう。
結局。バランスシート不況にあると考えられる中国がどの程度財政出動を行い、民需の不足をカバーできるかが景気回復のタイミングを図る上で重要になるが、恐らく年末の中央経済工作会議まで待つ必要があると考えられる
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲24万3,000トンの1,229万トン(過去5年平均 1,278万1,000トン)と過去5年平均を下回っているが、かなり水準は過去5年平均に近づいており、鉄鋼製品価格の下押し要因となっている。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲215万トンの1億850万トン(過去5年平均 1億3,187万トン)、在庫日数は22.4日(▲0.4日、過去5年平均27.6日)。鉄鉱石は在庫は日数ベースでも、数量ベースでも過去5年平均を下回っており、鉄鉱石の需給はタイトで一定の在庫積み増し需要が存在する。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+9万トンの185万トン(過去5年平均 157万6,000トン)、在庫日数は+0.3日の7.1日(過去5年平均 6.2日)と、原料炭の需給は再び緩和している。
8月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲28.1%の63万9,770トン(▲13.9%の68万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
8月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+34.7%の828万1,800トン(前月+9.6%の730万8,400トン)と過去5年の最高水準を大きく上回った。同時に鉄鋼製品輸出額は前年比▲30.6%の67.1億ドル(前月▲40.9%の63.4億ドル)と金額は前月から増加している。
しかし、輸出数量の増加によるものであり、トン当り単価は810ドル(前月867ドル)と下落が続いている。引き続き中国が安売りで余剰在庫の解消に努めていることを示唆するもの。
8月の中国粗鋼生産は前年比+3.0%の8,641万トン(前月+11.5%の9,080万トン)と減速したが、過去5年平均を上回った。ただし、前年比ベースでの伸びは減速しており、やはり中国国内の景気回復が想定通りでないことを示唆している。
本日も、最大の買い手である中国勢の買い意欲はそれほど強くはないものの、需要期ということもあり一定の鉄鋼原料在庫積増しの需要は認められるため、現状維持の公算。
◆貴金属
昨日の金価格は下落した。米CPIを受けた長期金利の上昇で実質金利が切り上がったことが価格を押し下げた。
また米金融引締め観測が再燃したことで、信用リスクを意識した買いが入り、リスク・プレミアムを押し上げたことから価格の下落余地を削った。
銀は下落、PGMは株価下落を受けて大幅な下落となった。
足下、金価格の構成要素のうち、リスク・プレミアムの占める比率が高まっている。金リスク・プレミアムの上昇要因の主なところは、
1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)
2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト
3.ロシアのウクライナ侵攻
4.イスラエルとパレスチナの戦争開始による中東情勢不安並びに、テロ組織の大規模攻撃であるため、各地にテロが拡散するリスク
あたりだろう。これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。
2019年基準で算出した現在のリスク・プレミアムのシェアは55%と、ほぼ上記の期間と同様の状況になっており金利水準以上にその他の要因が金価格の形成に影響を与えていることが確認できる。
現状を理解する手助けとなるため、あえて実質金利・信用リスク・その他、に分離した場合、実質金利部分が45%、信用リスク要因が20%、その他の要因が35%となった(2019年データを元にした分析結果に変更)。
直近1年間の説明力を相関係数で確認すると、最も金価格に対する説明力が高いのがドル指数で▲0.89、次いでFF金利で0.84、リスク・プレミアムが0.77程度、期待インフレ率(▲0.49)、実質金利(▲0.18)と、実質金利は現在の価格形成に影響を与えていない。
ドル指数はFF金利の影響が大きいため、今後の金価格を占う上ではやはりFF金利動向が重用になる。
この5年間のデータを元にした分析では、FF金利±1%の変化で、実質金利は±0.5%変化、金価格は±50ドル変化し、リスク・プレミアムは±150ドル変化する。
年内利上げは、年内、あったとしてもあと1回と見られているため、金の基準価格は▲13ドル、リスク・プレミアムは+38ドルの上昇圧力となり、差し引き+25ドルの上昇となる。
市場予想では2024年は▲0.5%程度のFF金利引下げが見込まれているため、金の基準価格は+25ドル程度の押し上げ要因となり、リスク・プレミアムは、▲75ドルの低下要因となるため、仕上がりで▲50ドルの価格低下となる。
現在の金価格は1,820ドルまで低下しているため、これを基準とすると1,775ドル程度までの下落があると見ている。
しかし、直近3ヵ月にデータ期間を限ると、最も説明力が高いのが実質金利で▲0.84、次いでドル指数で▲0.76、FF金利▲0.55、期待インフレ率▲0.25となり、従来の実質金利が金価格を決定する状態に戻っていることがわかる。
当面、実質金利動向は注視する必要があろう。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの中心でもみ合っている。足下の米統計の減速を考えると景況悪化の可能性はあり、再び上限を目指す展開になるのではないか。
仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,900ドル程度とすると21.1~25.33ドルが現在取り得る範囲といえる。
本日は、米国の利上げ観測が再び強まっていることが実質金利を押し上げているため、軟調な推移を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は軒並み水準を切り上げた。米需給報告が生産見通しの下方修正と在庫減少を示唆する内容だったことが材料。
・10月米単収見通し 実績(市場予想、前月)トウモロコシ 173.0Bu/エーカー(173.7Bu/エーカー、173.8Bu/エーカー)大豆 49.6Bu/エーカー(50.0Bu/エーカー、50.1Bu/エーカー)小麦 48.6Bu/エーカー(NA、45.8Bu/エーカー)
・10月米生産見通し 実績(市場予想、前月)トウモロコシ 150億6,400万Bu(151億1,308万Bu、151億3,400万Bu)大豆 41億400万Bu(41億3,523万Bu、41億4,600万Bu)小麦 17億3,400万Bu(NA、17億3,400万Bu)
・10月米輸出見通し 実績(市場予想、前月)トウモロコシ 20億2,500万Bu(NA、20億5,000万Bu)大豆 17億5,500万Bu(NA、17億9,000万Bu)小麦 7億Bu(NA、7億Bu)
・10月米在庫見通し 実績(市場予想/前月)トウモロコシ 21億1,100万Bu(21億4,785万Bu、22億2,100万Bu)大豆 2億2,000万Bu(2億3,296万Bu、2億2,000万Bu)小麦 6億7,000万Bu(6億4,869万Bu、6億1,500万Bu)
足下、ハーベスト・プレッシャーと、エルニーニョ現象が発生している時の価格下落、ドルが再び修正高となっていることを織り込む形で下落しているが、価格下落による割安感からの買いに支えられている状況。
長期的な話だが、今回地中海を襲ったハリケーン(ストーム・ダニエルと命名)の影響で中東北アフリカ地域に降雨がもたらされたことは、先々の穀物供給に影響を及ぼす、サバクトビバッタの越冬を可能にし、来年以降の供給減少のリスクを高めることが懸念される。
尚、Locust Watchでは中東・北アフリカ地域でのバッタの大量発生は確認されていない。
本日は、需給報告を受けた買い戻しが入るが、ドル高が進行しているため上値も重く、現状水準維持とみる。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国債の格下げリスク(残るMoody'sの格下げリスク)、米国債格下げの動きが連鎖して、金融機関の格下げが加速、信用不安に繋がる場合。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは顕在化している可能性)
新興国の財政破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに(米銀格下げ検討は始まっている)。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
・西アフリカ・北アフリカで、フランスが旧宗主国である国の反仏感情が高まり、武力衝突が発生して域内治安が悪化する場合。
欧州に難民が流入するほか、地域によっては(リビア、アルジェリア、ナイジェリアなど)原油・ガス供給に影響が及ぶ恐れ。
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