ドル買い戻しで総じて軟調
- MRA商品市場レポート
2023年9月26日 第2551号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「ドル買い戻しで総じて軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は、発電燃料やその他農産品が上昇したが、その他の景気循環系商品価格は軒並み水準を切下げた。
エネルギ-はこれまで米景気回復期待(現状においても米国統計の影響が大きい)を受けて「ドル高・原油高」となっていたが、利上げがまだ複数回行われる可能性が残る中、来年の利下げも限定される見通しであることから、金融政策が需給ファンダメンタルズの影響を上回る可能性が出てきた。
いずれにしても、米実質金利がプラスになったことから米景気はこれから減速する見通しであり、他地域もその影響を免れないと考えられる。
コロナ・ショック発生時に大規模で行った財政出動を伴う経済対策と、大規模な金融緩和がインフレをもたらし、それを緩やかに解消するために行ってきた政策が不充分で、昨年から加速度的に金融政策をタイトにしてきたが、それでも不充分だったことが、景気減速のタイミングの遅れをもたらしたと考えられる。
景気循環的には2024年はそもそも景気が底入れして回復する年と位置づけていた(実際、製造業はシクリカルにQ323~Q423に底入れの兆し)が、むしろ調整の年になる可能性が出てきた。
この場合、米与党が大統領選挙で勝利する可能性は低下し、公判が本格化するトランプ前大統領を失脚させることができなければ、2024~2025年は時計の針が逆回転する可能性が出てくる(民主党の政策が良い、共和党の政策が悪い、ではなく善悪の二元論になりがちな米国の場合、政策が180度方向転換することがある)ため、2024年のリスクは小さくなくなっていると考えられる。
【本日の見通し】
本日は、引き続き目立った新規手掛かり材料に乏しく、現状水準でもみ合う(昨日売られた商品が買われ、買われた商品が売られる)展開が予想される。
ただし、米個人消費の指標であるコンファレンスボード消費者信頼感指数は減速見込みであり、米新築住宅販売も金利上昇から減速の見込みであり、予想通りであれば、景気への懸念から金利の下押し圧力となりドル安が進行、広く商品価格を下支えすると予想される。
本日の注目材料は以下の通り。
・9月米コンファレンスボード消費者信頼感 市場予想105.5(前月106.1)
・8月米新築住宅販売 前月比▲2.2%の69.8万戸(+4.4%の71.4万戸)
・7月米主要都市住宅価格指数 前月比+0.7%(+0.92%)
【昨日のトピックス】
昨日の日銀植田総裁は講演で、現在の低金利政策やYCCを継続する方針を再度確認した。その中で
1,為替動向が物価に与える影響を注視している(ただし日銀は、為替相場を直接左右するような金融政策を行わない)
2.物価上昇率2%を「下方向に」達成できない問題の方が大きい
3.賃金上昇率の動きを注視
といった趣旨の発言があった。2%の安定的な物価上昇率が確認できれば、マイナス金利もYCCも解除を検討できるとしており、これまで「デフレです。金融緩和解除は全く考えていません」という黒田発言からは明らかにトーンが異なる。
ただし、当面は日本初で円高が進行する可能性はさほど高くなく、やはり米国動向が為替レートを左右しやすい。
一方、ドル建て商品価格動向は、特にエネルギーは米国の経済動向、非鉄金属は中国の経済動向が左右することになる。10月時点でリリース予定の弊社見通しでは、エネルギーは米景気の減速から、来年末に掛けて調整し同時にドル安進行、逆に非鉄金属は上昇、と考えている。
この場合、円建て商品価格は、エネルギーが年末~年所に強含むが米利下げが意識される来年夏頃からドル建て価格下落+円高で低下が予想される。
非鉄金属は足下は円安が価格を押し上げるが、来年後半はドルベース価格の上昇が、円高進行を相殺して、さほど水準は変わらず、という感じになるのではないか。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇後、下落した。米景気減速にまだ時間が掛かること、OPECプラスの減産遵守を材料に上昇していたが、FRBの高金利維持政策を背景に債券利回りが上昇、それに伴うドル高進行が価格を下押しした。
ロシアが一部石油製品の禁輸対象を縮小したが、ガソリン・ディーゼルの禁輸はほとんど変わらないため、影響は限定された。
弊社は来年前半に掛けて景気が減速・底入れし、その後上昇すると考えていたが、原油価格に影響が大きい米国の景気見通しについて、FRBは2024年後半に底入れし、その後緩やかに回復するとしている。
足下で原油価格動向の材料とされやすい中国の景気も、循環的な回復や財政出動による景気底入れが恐らく来年の春頃にみられると予想されるため、年後半の米景気減速による価格下落を抑制すると考える。
その結果、原油価格はFOMC前後での乱高下はありつつも、Q423~Q124に掛けて高止まりするが、Q324まで水準を切下げた後、Q424から上昇基調に転じるシナリオを10月時点の原油価格見通しのメインシナリオとする見通しである。
DOEの需給見通しを元にすると、2023年のBrent価格は84.0ドル、2024年が85.3ドル程度となる。
2024年もOPECプラスが減産を継続し、価格上昇にもかかわらず需要が減少しなければ、2023年は84.3ドル、2024年は89.9ドルとなる。内訳的には、H124の平均価格は92.3ドル、H224が87.5ドルが見込まれる。
このシナリオだと、2024年に再びインフレリスクに晒されることが予想されるが、年初の高金利維持で、年後半に掛けてそのリスクは低下することになるのではないか。
なお、11月にも翌年度見通し作成のために再度変更を行うため、直近のデータ(特に景気の先行き見通し)を反映して、シナリオは変更されることがある。
ロシア情勢を踏まえた原油価格の「想定されるレンジ」は以下の通り。
現在は 3.のうち、「OPECプラスが減産」した状態。
<シナリオ別原油価格見通し>
1. ロシアの禁輸措置が厳格に守られ、戦闘も継続 産油国(非OPECプラス)が増産/減産する(OPECプラス)する
Brent 75-95ドル/80-110ドル
2.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しない
Brent 65-90ドル
3.2.の状態で産油国(非OPECプラス・OPECプラス)が増産/減産する
Brent 65-80ドル/80-100ドル
4.ロシアがウクライナから撤退・停戦上記見通しが各々▲5ドル程度低下
(ここから先は比較的中・長期のシナリオ)
5. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)
Brent 60-90ドル
6. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)
Brent 40-60ドル
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
Q323 需要の伸び横這い・生産調整継続(→高値維持)グローバル・リセッション、危機顕在化の場合(↓↓)
Q423~Q124 欧米の景気減速による需要鈍化・生産調整継続(→高値維持)
Q224~Q324 実質金利プラス維持による景気の減速(サービス業)製造業の循環的な回復が下支え(↓↓)OPECプラス減産維持の場合(↓)
Q424以降 需要回復・中国の正常化進捗(↑)OPECプラス減産維持の場合(↑↑)
※矢印の向きは価格の方向性。
9月19日時点のWTIの投機筋ポジションは、ロングが+13,490枚、ショートが+11,935枚と、強気ポジションを維持。
Brentはロングが+2,276枚、ショートが▲15,628枚と、こちらも強気ポジションを維持。
本日は、新規手掛かり材料に乏しい中、現状水準でのもみ合い継続を予想。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物価格は上昇。ノルウェーのメンテナンスの影響による新たな供給減少リスクが意識されたため。
弊社の直近のガス在庫動向シミュレーションでは、ロシアの輸出がキャパシティの20%を維持できれば、ガス供給は需要が仮に+5%増加しても足りるとの結果であるが、2025年以降、契約が継続しない場合、最悪20%の稼働がさらに低下し、トルコ向けのパイプラインのみ稼働することが予想される。
また、ロシアのガス供給が全て停止したとしても需要を過去5年平均の水準から▲5%以上削減すれば足りることになる。今のところEUは来年3月まで▲15%の削減を努力目標としているため、達成の可能性は高い。
ただし、上記のリスクシナリオ(在庫減少)が顕在化すれば、TTF価格は上昇し、延いてはJKM価格の上昇要因となる(供給が足りても在庫減少で価格は上がる)。
また、在庫が減少すれば翌年以降の調達に影響が出る(価格が上昇する)ため、脱ロシアの完全完了までは上昇リスクは無視できない。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
欧州の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。
1.脱ロシアの継続2.LNGターミナル・ガス田・船舶の不慮の停止3.西側消費国に対するロシアの供給削減(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.季節要因・気象状況
1.はロシアのLNGカーゴはまだ取引されており、スポットカーゴ価格の上昇要因にはならなくなってきた。ロジカルには西側諸国が脱ロシアを完全に完了するまでは、気温の変化や政治的なイベントによって季節的に価格が高騰するリスクは残る。
弊社の試算では欧州が完全にロシア産ガスを排除(第三国経由でもロシア産のLNGを購入しない状態になる)できるのは2027年頃。ロシア産のLNGの輸出が阻害されなければ2025年頃。
今のところロシア産ガスの供給は実質的に制限されておらず、LNGの形で欧州諸国も購入を続けている。ガスがLNGに置き換わっただけとも言える。
しかし、脱ロシアが完了した場合、ロシアがこれまで供給してきた西側諸国向けのガスが「浮く」ことになる。2022年、欧州向けにロシアが削減したパイプライン輸出量は708億立方メートルで、総輸出量9,685億立方メートルの7.3%に及ぶ。
これを他地域の需要増加で補うことは恐らく不可能であり、FID済みのプロジェクトも見直しせざるを得なくなる可能性がある。
2.は、異常気象発生時にはインフラに障害が出る可能性が高まる。米海洋大気庁の見通しでは、大西洋でのハリケーンの発生頻度は例年を上回る見通し。
通常、エルニーニョ現象が発生したときは大西洋の海水温が低下してハリケーンの発生・勢力が弱まるが今年は例外的な見通しとなっており、北米→欧州のLNG輸送や輸出ファシリティへの影響は無視できないリスクに。
また、異常気象の影響による干ばつでパナマ運河の水位が低下しており、LNG輸送に障害が発生、スポット価格が上昇する可能性が出てきた。
3.4.は顕在化している。特に3.に関しては恐らく今年がロシア・ウクライナ戦争の山場である可能性が高く、ロシアがなりふり構わない対応をしてくる可能性は否定できない。
5.は2.とも関係するが、夏場の気温が例年よりも欧州は高く、基本は冷夏の傾向が強まる北アジアの気温も上昇しており、スポットのガス調達圧力は強い。
今年の冬はエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、どちらの発生も有り得るが仮に厳冬となった場合の冬場の価格上昇リスクは小さくはない。
米メキシコ湾発のLNGのタンカーレートは日本向け・欧州向けとも上昇している。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
米天然ガス価格は小幅に上昇。天候見通しが交錯する中で。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
JKM先物市場は小幅に上昇。TTFの上昇と冬場に向けた調達が始まったためとみられる。
現在のJLCの水準は12.05ドルであり、現在のスポット価格はこの水準を上回っている。
その他のアジアの国の長期契約ベースの価格は恐らくJLCと大差がないと考えられ、今年の冬場の需要期の価格はほぼJLCの水準で推移している。
今年は回避されているが、豪州は国内供給が充分でない場合、通常7月1日まで、遅くとも10月1日までにガス不足の懸念を通知し、実際に国内供給が不充分と判断された場合、次の1年間は輸出が制限される(ADGSM)。
この条項が発動された場合、スポット価格の上昇リスクとなるため、意識はしておきたい。
また、サハリン2の生産能力の低下、供給の減少はかなり前から指摘されているが、今のところ顕在化していない。多くの必要な部材は中国などを経由してロシアにもたらされている可能性があり、実は長期の供給リスクは懸念ほどではないかもしれない。
8月の中国の天然ガス(パイプラインガス+LNG)輸入は前年比+22.7%の1,086万トン(前月+18.5%の1,031万トン)と先月同様、同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。
まだ統計が発表されていないが、国内天然ガス生産の減少や、気温上昇による発電向けの需要増加が輸入を高水準に維持している可能性がある。
8月のパイプラインベースの輸入は前年比+10.4%の456万トン(前月+12.4%の445万トン)と過去5年の最高水準(413万トン)を大きく上回っている。
8月のLNG輸入は前年比+33.4%の629万8,000トン(前月+23.7%の585万9,000トン)と前月から伸びが加速し、同じ時期の過去5年の最高水準(665万2,000トン)に迫った。
8月の中国の天然ガス生産は+6.5%の1,330万9,000トン(前月+8.2%の1,360万3,000トン)と同じ時期の過去5年の最高水準を上回っている。
※中国のガス統計は、データ形式(年初来累計を単月に換算したものと、中国政府が発表する月次のデータなど)や単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
9月17日時点の日本の大手発電業者のLNG在庫は162万トン(過去5年平均249万2,700トン、大手発電業者在庫の過去5年平均は206万トン)と、いずれの集計でも過去5年平均を下回った。
速報性のある大手電力以外の在庫も含めた水準と比較すると、過去5年の最低水準(184万7,200トン)も下回っている。
夏が例年よりも暑い猛暑で電力需要が増加したことに加え、大手発電業者のLNG調達は、自社の顧客を対象にした数量しか行われない。これは新電力の顧客の需要データが開示されないため、他社分まで調達することができないため。
仮に冬場が寒くなった場合、再びガスや石炭不足となり価格が上昇する可能性はある。通常過不足はスポット(JKMベース)で行い、電力のスポット価格はJKMの影響を受けるため、再び冬場の電力価格が上昇するリスクは無視できない。
また、今年はエルニーニョ現象の影響で太平洋側は台風の発生頻度・勢力が強まる可能性がある。この場合、輸送に影響が出ることも考えられるため、エルニーニョ現象が発生しているものの在庫水準の低さを考えると、冬場の価格上昇リスクも無視できない。
JEPXベースで調達して大手電力会社の価格で電気を販売している業者、JEPXベースで電気を調達している消費者はこのJKMのリスクを抱えることになる。
本日は、ノルウェーのメンテナンスで新たな稼働停止が見込まれることから、高値を維持すると考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP・東京ガス提示の数値を使用している。 LNG1トン=2.19立方メートル(液体)=1,360立方メートル(気体)= 46MMBtu LNG船1隻 147,000立方メートル=67,000トン 1BCF=28百万立方メートル 1Gwh=10.55百万立方メートル=1,055万立方メートル=7,757トン 1Mwh=10.55千立方メートル
◆石炭
豪州石炭スワップ先物は上昇。ノルウェーのガス生産者のメンテナンス拡大を受けたガス価格の上昇が材料に。
現在のガス価格(JKM)との関係性を元に回帰分析を行うとNEWC価格は139ドル、±1標準偏差で70~210ドル程度までが統計的に説明可能なレベル。
期先の価格は現在の生産コストに近いことを考慮すると、期先の価格が155~165ドル程度まで再び上昇しているため、155~210ドルが説明可能なレンジであり、現在のスポット価格はやや安く、足下の需給が緩和していることを示唆。
2023年~2024年は例年と例年並みの冬だとした場合、記録的な暖冬だった昨冬と比較して今冬は昨冬よりも寒い見通しであることを考えると、年後半に向けての価格上昇リスクは排除できず、実際、冬場の期先の価格は高い。
ロシア問題が継続する以上、欧州が完全に脱ロシアを達成することが期待される2027年(早ければ2025年、現実的には2026年)までは、ピークシーズン中の価格上昇リスクはつきまとう。
今年のアジアの夏は例年よりも暑い夏になる見通しであり、北半球の夏場の冷房需要向けの日中の石炭需要で再び上昇基調に転じるだろう。
※週次(原則金曜日)の更新となります。
8月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+50.5%の4,433万3,000トン(前月+66.9%の3,926万トン)と過去5年レンジを大幅に上回る水準を維持した。
ガスも同様であるが、中国の記録的な気温上昇の影響で、発電燃料需要が引き続き増加しているためと考えられる。2000年以降、エルニーニョ現象が発生しているときは発電燃料の価格は下がる傾向が強いが、異常気象が発生しやすい気象状態であることは意識しなければならない。
国別では7月は豪州からの輸入が増加している。これにより、豪州の輸入シェアは29.5%(前月23.1%)と上昇した。しかし直近12ヵ月の累計シェアはロシアが1位で0.6%、ついでインドネシア(36.2%)、豪州(13.0%)となった。
8月の中国の石炭生産は、前年比+3.0%の3億7,902万トン、1,222万6,000トン/日(前月+0.9%の3億7,128万トン、1,197万7,000トン/日)と伸びが加速した。
8月の中国の電力消費量は前年比+4.0%の8,861億kwh(前月+6.8%の8,888億kwh)と伸びが鈍化した。気温上昇が一巡したことによる、季節的な減少。
今後、輸入需要の増加があるかは発電需要に依拠するが、夏場が終了に向かっていることから徐々にフェードアウトすると考えられる。
本日は、欧州生産者のメンテナンス終了が遅れるとの見通しの中、高値を維持の公算。
◆LME非鉄金属
LME非鉄金属市場は下落した。米国債利回りが上昇したことによる、ドル高進行が材料となった。中国は不動産市場問題解消に向け、頭金規制の緩和や金利引下げなどの対策を行っているが、予算措置が伴わない対策であり、まだ効果が出ているとは言えない。
足下、原油価格と非鉄金属価格の動きが一致しなくなっている。これまでは中国と米国の景気動向はほぼシンクロしていたが、米中対立によるリカップリングの進捗で米国と中国の景況感が同じではなくなってきたこと、中国の構造的な成長減速を受けて、同じ動きをし難くなってきた。
原油は米景気が恐らく来年前半はまだ好調だが、年後半に掛けて減速するため原油は上昇後下落、2024年後半から再び上昇という展開が軸となるが(見通しのメインシナリオ変更)、非鉄金属は2024年に中国の経済対策の実施や循環的な回復、脱炭素の動き継続で上昇に転じるとみている。
ただし、最大消費国である中国の景気回復ペースが、構造的に以前想定していたよりも緩やかになると予想されるため、上昇ペースはやや緩慢なものになると考えている。
弊社は2024年見通し作成のために11月にも見通しを修正するが、特に各国のマクロ経済見通し如何では、価格パスは変更される可能性がある(FRBと同様、引き続き追加のデータを精査していく必要があるため)。
8月の中国の貿易統計では、ベンチマークである銅地金・製品輸入は前年比▲5.0%の47万3,330トン(前月▲2.7%の45万1,159トン)と過去5年平均を下回る状態が続いた。
一方、銅鉱石・コンセントレートの輸入は前年比+18.8%の269万7,104トン(前月+3.7%の197万トン)と過去5年の最高水準を上回った。精錬銅の取得が困難になっていることに加え、電力供給の回復が影響したとみられる。
8月の中国の精錬銅生産は+18.4%の108万5,000トン(前月+17.7%の102万3,000トン)と過去5年の最高水準を大きく上回っている。海外の在庫水準の低さ、足下の電力供給環境の改善を受けて、鉱石を輸入し、自国内での生産を増加させている状況。
8月の銅スクラップの輸入は前年比+7.3%の15万6,077トン(前月▲3.9%の14万9,170トン)と過去5年平均を維持している。
中国政府は住宅取得頭金の引下げや、既存住宅ローン借り入れ客の金利引下げも容認するなどの対策を実施しており、市場では一定の評価を得た。
財政上のゆとりがないことから当面、政策金利の調整で凌ごうとする可能性が高いが、問題は余剰在庫の解消であるため、金利操作だけでは状況を好転させるのには不充分である。しかし同時に時間を掛けて不良債権や在庫処理を行う必要もある。
数量ベースでの把握が困難だが、金額ベースの中国製造業の在庫循環図は調整局面の初期にあり、まだ在庫の調整が必要な状況。
通常のサイクルであれば、在庫の調整には1年程度掛るが、共産党に支配されている国であり、強制的な在庫調整も有り得るためそこまで時間は掛らないと考えられる。
中国政府が何の対策もしない、ということは考え難いが常識的に考えれば、
・在庫が積み上がっているこのタイミングで経済活動を刺激すれば、さらなる在庫の積増しになってしまう可能性があること
・予算的な問題
を考えるとある程度在庫の調整が進み、かつ、予算措置が終了してからと考えるのが妥当ではないか。
現在、不動産の余剰在庫を解消するため、住宅取得の制限を緩和しているが、その実施も地方政府の裁量に委ねられているため、急速に状況が改善するには至っていない。
この危機を乗り切ることができれば、長期的には脱炭素、脱ロシア、中国・インドのW人口ボーナス期(中国は近代化仕上げの10年)、東西の緩やかな分裂に伴うサプライチェーン再構築のためのインフラ投資継続、といった材料を考えると、鉱物資源需要は増加して価格には構造的な上昇圧力が掛かると考えるのが妥当だろう。
ただし、この危機を乗り切ることに失敗し、中国政府が想定以上にこれまで積み上がった余剰生産能力の解消に手間取った場合、景気は長期低迷、いわゆる「日本化」が10年単位で起きる可能性が高い。
さらに労働人口がピークアウトし、かつ、米国の制裁によって先端分野の発展が阻害され生産性が低下、将来的にはインフレをもたらしソ連型の国家崩壊、というシナリオも長期的には有り得る話だ。
本日は、昨日のドル高進行に伴う下落が大きかったことから、実需筋の安値拾いの買いで上昇に転じると考える。ただし買い戻しの範囲内であり、影響は限定されるとみる。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落 、大連は上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は下落した。
国慶節前の調達圧力ヘの期待はあるものの、鉄鋼製品生産が増加しており鉄鋼製品価格は下落、鉄鉱石・原料炭もそれに押された。
週間の鉄鋼製品港湾在庫統計は、鉄鋼製品在庫は▲31万5,000トンの1,253万3,000トン(過去5年平均 1,292万8,000トン)と過去5年平均を下回っているが、かなり水準は過去5年平均に近づいており、鉄鋼製品価格の下押し要因となっている。
鉄鋼原料は、鉄鉱石在庫が前週比▲295万トンの1億1,065万トン(過去5年平均 1億3,238万トン)、在庫日数は21.8日(▲0.6日、過去5年平均27.7日)。鉄鉱石は在庫は日数ベースでも、数量ベースでも過去5年平均を下回っており、鉄鉱石の需給はタイトで一定の在庫積み増し需要が存在する。
主要原料炭の輸入港である京唐港の原料炭在庫は+12万トンの180万トン(過去5年平均 147万4,000トン)、在庫日数は+0.4日の6.6日(過去5年平均 5.8日)と、原料炭の需給は再び緩和している。
8月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲28.1%の63万9,770トン(▲13.9%の68万トン)と低迷が続き、同じ時期の過去5年の最低水準を下回る状態が続いている。
8月の中国の鉄鋼製品の輸出は前年比+34.7%の828万1,800トン(前月+9.6%の730万8,400トン)と過去5年の最高水準を大きく上回った。同時に鉄鋼製品輸出額は前年比▲30.6%の67.1億ドル(前月▲40.9%の63.4億ドル)と金額は前月から増加している。
しかし、輸出数量の増加によるものであり、トン当り単価は810ドル(前月867ドル)と下落が続いている。引き続き中国が安売りで余剰在庫の解消に努めていることを示唆するもの。
7月の中国粗鋼生産は前年比+11.5%の9,080万トン(前月+0.4%の9,111万トン)と増加し、過去5年平均を上回った。
これまで値引きを行って輸出を促進してきたが、それでも在庫解消に時間が掛っているため生産調整が進むかと思われたが、前年・前月よりも生産は回復している。
中国政府の需要刺激策ヘの期待と、過去5年平均を下回っている鉄鋼製品在庫の水準を受けて、9月・10月の需要期に備えた在庫積増しが行われていると考えられる。
週明け月曜日も、中国政府の対策効果と、国慶節前の駆け込み需要を受けて高値維持の公算。
◆貴金属
昨日の金価格は下落した。米政策金利の引き上げ観測を受けた金利上昇が実質金利を再び押し上げたことが背景。ただし、リスク・プレミアムは上昇しており高値は維持している。
銀・プラチナも同様。パラジウムは株安に押される形となった。
足下、金価格の構成要素のうち、リスク・プレミアムの占める比率が高まっている。金リスク・プレミアムの上昇要因の主なところは、
1.米利上げによる信用不安の高まり(低格付企業・新興国)
2.ロシアに対するドル決済禁止制裁を受けた、準備金におけるドルから金ヘのシフト
3.ロシアのウクライナ侵攻を切っ掛けとする有事発生ヘの備え
あたりだろう。これらと同じ事象は、ニクソン・ショック~プラザ合意~アジア危機収束まで30年近く続き、金価格に占めるリスク・プレミアムのシェアが高止まりした。
2016年基準で算出した現在のリスク・プレミアムのシェアは65%と、ほぼ上記の期間と同様の状況になっており金利水準以上にその他の要因が金価格の形成に影響を与えていることが確認できる。
恐らく、米国が利下げに踏み切ればリスク・プレミアムは逆に低下すると考えられるが、当面は利下げの可能性が低いため、結果、金は高止まりすることになろう。
なお、直近1年間の説明力を相関係数で確認すると、最も金価格に対する説明力が高いのがドル指数で▲0.91、次いでFF金利で0.87、リスク・プレミアム0.82程度、期待インフレ率(▲0.53)、実質金利(▲0.11)と、ほとんど実質金利は現在の価格形成に影響を与えていない。
ドル指数はFF金利の影響が大きいため、今後の金価格を占う上ではやはりFF金利動向が重用になる。
FF金利の水準はリスク・プレミアムに対する説明力が高いため、リスク・プレミアムの変動要因(FF金利の変動を受けた信用リスク要因、有事の金、準備金としてのドルの代替需要動向)が重要になっていると言える。
金の価格を構成要素に分解することは、各要素が互いに影響を及ぼし合っているため余り意味がない。
しかし、現状を理解する手助けとなるため、あえて実質金利・信用リスク・その他、に分離した場合、実質金利部分が35%、信用リスク要因が25%、その他の要因が40%と、圧倒的にその他の要因の影響が大きくなってきた。
なお、新興国の金準備は「よほどのこと(戦争や制裁など)」がない限り売却はされない。そのため積まれた金準備による価格押し上げ効果は継続すると考えられる。
この5年間のデータを元にした分析では、FF金利±1%の変化で、実質金利は±0.5%変化、金価格は±50ドル変化し、リスク・プレミアムは±150ドル変化する。
年内利上げは、年内、あったとしてもあと1回と見られているため、金の基準価格は▲13ドル、リスク・プレミアムは+38ドルの上昇圧力となり、差し引き+25ドルの上昇となる。
市場予想では2024年は▲1.5%程度のFF金利引下げが見込まれているため、金の基準価格は+75ドル程度の押し上げ要因となり、リスク・プレミアムは、▲225ドルの低下要因となるため、仕上がりで▲150ドルの価格低下となる。
現在の金価格は1,900ドルまで低下しているため、これを基準とすると1,750ドル程度までの下落があると見ている。
銀価格は、投機的な動きに価格が左右されやすくテクニカル分析が比較的有効に機能する。
月次の金銀レシオはボリンジャーバンドの中心でもみ合っている。足下の米統計の減速を考えると景況悪化の可能性はあり、再び上限を目指す展開になるのではないか。
仮にボリンジャーバンドの下限だと75倍、上限ならば90倍程度が目処になるが、金を1,900ドル程度とすると21.1~25.33ドルが現在取り得る範囲といえる。
本日は、新規手かがり材料に乏しい中、金銀は高止まり、株安を受けてPGMは調整売りに押されると考える。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇。米週間輸出検証高が総じて先週から増加したことが米国内需給のタイト化観測を強めたことが背景。
足下、ハーベスト・プレッシャーと、エルニーニョ現象が発生している時の価格下落、ドルが再び修正高となっていることを織り込む形で下落しているが、価格下落による割安感からの買いに支えられている状況。
ただ、ウクライナ産のトウモロコシ輸出に支障が出ると、米国の生産は過去5年で2番目に水準が低い年になる見通しであり、ブラジル・アルゼンチンなどの南米の生産状況に供給が左右されやすい。そのため、南米の生産・輸出動向は今後重要になってくる。
なお長期的な話だが、今回地中海を襲ったハリケーン(ストーム・ダニエルと命名)の影響で中東北アフリカ地域に降雨がもたらされたことは、先々の穀物供給に影響を及ぼす、サバクトビバッタの越冬を可能にし、来年以降の供給減少のリスクを高めることが懸念される。
尚、Locust Watchでは中東・北アフリカ地域でのバッタの大量発生は確認されていない。
本日は、ハーベスト・プレッシャーと割安感からの買いで現状水準でのもみ合いを予想。
※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国債の格下げリスク(残るMoody'sの格下げリスク)、米国債格下げの動きが連鎖して、金融機関の格下げが加速、信用不安に繋がる場合。
・日本政府の財政規律の欠如、成長期待への失望から円が暴落するリスク。
・景気が想定よりも早く底入れしてインフレが再燃、あるいは景気を刺激する目的で早期の利下げが行われ資源価格が高騰、各国中銀の金融政策が再びタカ派の状態になった場合(リスク資産価格の上昇→下落リスク これは顕在化している可能性)
新興国の財政破綻、先進国も含めた債券の格下げによる金融機関・ファンドの突発的な損失拡大による信用収縮、低格付企業の破綻や、市場変動性の高まりによるファンド破綻などもリスクに(米銀格下げ検討は始まっている)。
・ロシア暴発による核ミサイル使用、それに伴う東西の全面戦争の勃発(可能性は非常に低いリスク)。
・習近平国家主席の独裁体制構築による同国の景気減速リスク。台湾・尖閣を含む有事発生の懸念(リスク資産価格の下落要因となるが、日本にとってはCIF上昇で調達コスト上昇要因に)。
中国による台湾併合(武力行使、対話による併合、どちらでも)半導体覇権を中国が握る場合。
一連の「締め付け強化」に対する中国各地での暴動発生。暴動激化で中国が分裂するリスク(極めて可能性の低いリスク)。
中国の構造的成長が終了、過剰債務や不動産問題を抱え、中国が「日本化」するリスク(この場合長期低迷で工業金属やエネルギーなどの景気循環系商品価格の下押し要因となる可能性)
・渇水、猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給停止(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でインフレとなるリスク。
また、再生可能エネルギーのコスト上昇で化石燃料回帰が起きる場合。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、モディ支持率の低下による近代化投資の遅れ、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023年後半~2024年頃。
・西アフリカ・北アフリカで、フランスが旧宗主国である国の反仏感情が高まり、武力衝突が発生して域内治安が悪化する場合。
欧州に難民が流入するほか、地域によっては(リビア、アルジェリア、ナイジェリアなど)原油・ガス供給に影響が及ぶ恐れ。
◆本日のMRA's Eye
「原油 投機主導の上昇はいつまで」
2023年7月以降、原油価格は顕著に上昇している。2023年後半に底入れの可能性があるとみていた米製造業の景況感が今年の夏頃に底入れした可能性があることが大きい。
製造業PMIとISM製造業指数だと結果が異なるが、ISM製造業指数を基準にすると、米国の景気は2021年春頃がピークであり、過去50年の「ピークから底入れまでの期間」を調べると21ヵ月~27ヵ月程度であることから、仮に27ヵ月掛かったとしても、7月か8月頃に米製造業の景況感が樹幹的に底入れしてもおかしくはない。
そしてサービス業の景況感は減速しているもののまだ好不況の閾値である50を上回っており、総じてエネルギーの最大消費国である米国の景気はまだ後退局面には入っていない。
この状態で、サウジアラビアとロシアが年末までの原油供給削減継続方針を発表、これにより今年の年末時点で世界の原油需給バランスは、10年振りの供給不足に陥るとみられている。2013年の原油価格はBrent・WTIとも100ドルを超えていた。
ただ、このときは
1.リビアの情勢不安(その後、内戦状態となり生産量が▲100万バレル超減少した)2.シリア危機3.イラン核開発を巡る西側諸国の圧力強化4.QEの影響
といった材料が重なり、さらには世界景気が回復局面にあったことが価格を押し上げていた。現在はまだ景気がまだ後退してはいないが、年末に掛けて減速するという見方がコンセンサスであるため、原油価格も下落するとの見方が妥当だろう。
WTIの実需・投機筋の動向を見ると、実需の売りに対して投機が買い向かうことで売買が成立しており、この構図はもう何年も変わっていない。
そして、過去5年の推移を見ると投機・実需の売買動向はWTIに積極的に影響を与えていなかったが、コロナ以降の価格上昇は実需の買い戻しの影響が大きかったことがわかる。
その後、2022年3月から米国の金融引締めが始まるが、そのペースが加速した2022年6月以降、実需の買い戻しよりも、投機の売り圧力の影響が大きく、投機のネット買越しポジションの解消と共に原油価格は水準を切下げる展開となった。
2023年7月以降、WTIは上昇を始めるが、2023年2月前後から「FRBは3月に利上げを打ち止めするのでは」との期待から長期金利が低下したタイミングで、投機筋のロングは増加した(ただしこのタイミングでは景気減速観測の強まりからむしろ投機の売り圧力が強まったため、ネット買越し幅は縮小、WTIは下落)。
その後、7月以降は投機筋の買い戻しが加速、さらに、米景気が「ソフトランディング」ないしは「ノーランディング」になるとの期待から新規のロングも増えたため、大幅な上昇となっている。
現在の原油価格は実需以上に投機の動きが左右していると言えるが、米景気はリセッションが回避できたとしても減速が予想されることから、四半期末や大手ファンドの決算期末である11月、12月に掛けては主にロングの解消が進むとみられ、原油価格はテクニカルに調整すると予想される。
また、9月FOMCで年内の追加利上げの可能性が示唆されたことは、投機筋のリスク・オフの姿勢を高める可能性がある。
しかし、サウジアラビアやロシアの追加減産ないしは減産期間延長の可能性がある中では、自身が保有する売りポジションに対して現物を受け渡すことができない投機筋は、新規にショートを積増しし難いため、このことが価格の下落余地を限定することになるだろう。
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